重い機械音と共に蒼いACが体を起こす。
かくして、少年の過酷な運命は高らかに始まりを告げた。






ARMORED CORE NINE BREAKER 〜Raven's Sky〜

第四話 FORTH WING 九の魂を持つ者

presented by 与吉様







アスカ・ラングレーことレイヴンネーム『Cアイズ』は焦っていた。
次々と現れるMTの数はとうとう十を超した。
更には左手に装備している大型マシンガンの残弾数は後二十一発。
マシンガンとしては元々心許ない装弾数なのだが、ここに来てそれが仇となった。
無論、この大型マシンガンの威力に助けられた事も数多い。
ライフル弾クラスの威力と発熱量を持つそれを高速で連射するそれは瞬く間に装甲を蹂躙する。
それがMTであれ、ACであれど。

「……ったく、数ばっか集めりゃ良いってもんじゃないわよ」

しかし兵法の一つに数攻めと言うものがある。
物量が多いと言う事はそのまま戦力に、戦局に影響を与えるものだ。
質は悪いが、数が多い。相手にする側に取っては嫌な状況である。

「レイの奴、遅いわね」

『しかたないわ。郊外からここまで約十キロ。まだ二分しか経ってないわよ』

「五月蠅いわね、分かってるわよ」

専属オペレータのミサトの声に苛立ちながらアスカは、Cアイズは考える。
まず、これだけの数を用意していると言う事はリーダー機がいるはずである。
一見適当に攻撃している様に思えるが、何かを探している様な動きをしているのだ。
それだけのものを統率するには必ずリーダーが必要だ。
レイヴンの様に単機で活動するのならともかく、複数機で編隊を組んで来る以上、リーダーは存在する。

「……考えるよりも攻撃した方が早い、か」

操縦桿を握る手に汗が滲む。
ついでに言えばヘルメットの中が蒸れて来た。さっさと終わらせてシャワーを浴びたい。

「さて、ランカーを相手にする事の意味を教えてあげるわっ!」

アクセルを思い切り踏み込み、ACスルトは街の道路を駆け抜けた。
路地の向こう、真正面にいるのはMTが二機。
路地を出て右手に一機、左手に三機。
Cアイズの思考は全て戦闘行為に向けられた。
ただひたすら敵を破壊し、炎を撒き散らす。

「邪魔なのよ、あんたらはー!」

右手の速射マシンガンが火を噴いた。
一マガジンに入っている弾丸は十発。
それら全てを正面の右の方にいるMTに向けて浴びせる。
MTの装甲に黒い弾痕が刻まれ、機能を停止したMTは後ろに倒れる。
更に左手の大型マシンガンを密着した状態で、今度は無傷のもう一体に至近距離で三連射した。
どどどん、と鈍い音と共にライフル弾並の威力のそれはMTを貫く。

「もうちょい芸を見せなさいよ、ねぇっ!」

EO、イクシード・オービットがコアから分離し、右手のMTを自動攻撃した。
下手なマシンガン以上の威力を持つそれによって更に右手の一体、MTはただの鉄屑と化す。
左からMTの攻撃、パルスライフルが放たれる。
が、それを敢えて装甲で受けながらスルトは疾走しながら両手のマシンガンを掃射した。
一体、また一体、最後の一体がその場に崩れるまで弾丸を吐き出し続けたマシンガン。
今の掃射でとうとう左手のマシンガンの弾が尽きた。
特攻した際のダメージは比較的軽微だったのは幸いだった。
ACの装甲は複数の階層をもって構築されている。
余程強力な兵器でなければ一撃でACの装甲に穴を開ける事は難しいとまで言われているのだ。

「オペレータ、B-7Aに左手用マシンガンCR-WH79M2を出しといて!
すぐに取りに行くわ」

『了解。ただ敵の数が多いからちゃんとレーダー見ながら行きなさい』

「分かってるわよ」







Unkown Side

どくん、と心臓が鼓動した。
血液が体内に送り込まれ、体温が上昇して行く。
……一体何年経ったのだろう。
あの時、『大破壊』による審判の時神託を受けた私は一体何年間眠っていた?

『気分はどうかね、■■■■・■■』

再びどくん、と心臓が大きく鼓動した。
私の中の別の私が動き始めている。
そう、唐突に理解した。

『機体の中で眠ってしまったから死んでしまったかと思ったよ。喋れるかね?』

「ああ、問題ない」

その言葉に応えたのは私であって私でない。
そうか、私と言う意識は眠っていたのだ。あの時、あの瞬間から今まで。
そして、私の体を別の私が動かしていた、と言う訳か。

『分かっているとは思うが今回の任務の目的は"サード"の捕獲だ』

「了解している。私とあろう者がしくじるとでも?」

『……いや、要らぬ心配だろうて。ただ今現在何をしているのかは知らん。自ら見つけ出し、捕獲してくれ』

「了解した。ACナインボール、出撃する」

別の私がモニタの向こうにいる男と話し終わると、突然私の意識が遠のき始めた。
タイムアップ、まだ体の主導権はもう一人の私が握っていると言う訳か。
だが、いつか近い内に私は目覚め、体の主導権を取り返す。
そう、信じながら私は再び長い眠りについた。







Asuka Side

「あぁ、もぅ」

邪魔なMTに蹴りを入れて武器コンテナまでの道を突き進む。
ACとMTでは作りが違うので一対一でACが負ける事はほとんどない。
それこそACがよっぽどのポンコツかパイロットが初心者か相手のMTがアホみたいな大型の奴じゃない限り。
が、多勢に無勢。
はっきり言ってMT部隊の基本戦術は数攻めだ。
性能が低いならばそれを数で補えば良い。
ACは基本的に買おうとすればかなりの高額で、レイヴンを雇ってもそんなに多く雇えない。
そう言った点、ACとMTは正反対な存在だ。
元は作業用機械だったMTと元から戦闘の為に造られたACではそこに在る理由が違う。
でもやっぱり数攻めは嫌。大嫌い。
特に小さくてワサワサ湧いて来るタイプは一番嫌なタイプだ。
何と言うか、あれだ。虫の様で非常に嫌悪感を誘われる。
こいつ等はまだカンガルーみたいな形をしているから良いが、これが芋虫みたいのだったら最悪だ。

「……あった」

オールレンジスクリーンの前方に『Item』の表示。
コンテナに入った大型マシンガンはACの武装中、かなり高い破壊力を持つ兵器だ。

「良し、反撃開始するわよ!」

『ほとんどやられてないでしょうが』

「逃げ回ってりゃ同じなのよ。……ん?」

レーダーに映るのはMT十一体ともう一つ……これはAC!?
あたしは瞬時に思考を切り替える。
MTとACでは対応が違って来る。
MTでは固有の機種があるからデータバンクに登録されているものと照合する事で機種も武装も大体分かる。
が、ACに限っては脚部タイプのみで判別される上、アークに登録されているAC以外はその判別すら出来ない。
レーダーに映っている機影のデータの照合をする。
けれども、アークに登録されているランカーACではない。
つまり、テロリストやそう言ったものの可能性が高い。

「ったく、今日はツイてないわね」

『七時の方向からMT一体来るわよ』

対AC戦の構想を練りながら斜め後ろのMTにマシンガンの洗礼を入れる。
……しかたない、ここで倒してしまおう。
レイを待っていてはこちらが不利になる。
いくらOB全開でカッ飛んで来ていると言っても街の郊外からだ。
少なくとも十分近くかかるはず。

「オペレータ、対AC戦用疑似プログラム展開。ここでやるわよ」

『了解。あっ、脚部タイプの判別が出来たわ。中量二脚型のバランスタイプみたいね。
駆動音からすると……十年以上前のものね』

十年以上前……想像したのは大破壊だ。
その頃はまだ幼児だったあたし達。
今じゃ歴史の教科書にだって載っている。
とあるレイヴンが古代兵器をたった一人で迎え撃った結果、滅んでしまった地上。
たった五年でここまで復興出来ているのが奇跡的だ。

「さて、と……料理してやるわよ邪魔者君」







Shinji Side

「二時の方向、MTが来るよ!」

マナさんの声とほぼ同時に、僕はMTに狙いを定めていた。
―――不思議だ、体が勝手に動くなんて。
どん、と右手のリニアライフルが弾丸を発射した。
そして、次の瞬間にはMTの装甲を穿ち、破壊していた。

『ACの反応、来ます』

「ACって……アスカさん?」

もしくは新しい敵か。

『六時方向、ロックされました』

コックピット内に警報が鳴り響いた。
そして、反射的にACを動かす。
右回りにぐるん、と旋回してそのままライフルを連射する。
目の前にいる紅いACは両手のマシンガンで攻撃して来るものの、互いにダメージは与えられていない。

「やっぱり、アスカさん!」

通信回線を開いて目の前のAC……スルトに対話を試みた。
ざ、ざ、と数度のノイズの後、通信が繋がった。

『シンジ!? あんたそんなのに乗って何やってんのよ!!』

「逃げられそうにもないから、偶然見つけたこれに乗ったんだよ!」

『あぁん、もぅ! あんた、さっさと戦闘領域外に退避しなさい。
それでアークに通信して保護して貰いなさい。
ここじゃあんたみたいのがいると邪魔だから、さっさと消えなさい!』

ぶつん、と通信が切られた。

「今の人って……もしかしてレイヴン"Cアイズ"!?」

「誰? "Cアイズ"って?」

「ほら、今の人だよ! 蒼い目で綺麗な女の人!
うわぁ、凄い。シンジくんってあんな人と知り合いだったんだ!」

「あー……知り合いって言うか、なんて言うか……」

まさか『砂漠でくたばっていた所を拾ってくれた人の友人(姉?)』なんて言えない。

『敵性AC接近。数1』

「え……」

コンピュータの声と共にコクピット内に影が掛かった。
が、それも一瞬であり、再び光が射し込む。

『機体照合開始……』

無機質なコンピュータの声が響く。
が、すでに僕の意識はそこにはなかった。
高い高いビルの上。
そこには一体のACが立っていた。
黒と赤のカラーリングが施されたそれは、まるで『死』を司っている様にも見えた。

『機体照合完了。AC名……』

再びコンピュータの声が響く。
それと共に何故か僕も口を開いていた。
何故だ。
何故僕はあれを知っている?
初めて見たはずのあの機体を、何故こうも懐かしく感じる?
そして、僕の声とコンピュータの声は同じ言葉を、同じ発音をする言葉を吐き出していた。

『ナインボール』

「ナインボール……」

数瞬の沈黙。
まるで時が止まったかの様に僕とナインボールの視線は交差していた。
そして、通信機から声が聞こえた。
舌に氷を乗せた様な、と言う表現があるがそんな生やさしいものではない。
それは死刑宣告。
絶対不可避の、預言とも取れるその一言が僕の鼓膜に響いた。

『目標を確認。これより排除する』

刹那、ナインボールは右手のライフルを連射した。
反射的に左に避ける。
目標を外した弾丸はビルの外壁をえぐり、粉砕した。

『……』

今度は右肩に装備した大型グレネードランチャーを発射した。
これもまた機体を屈ませて回避。
大型のグレネードは後方のビルに直撃し、それをたった一撃で倒壊させた。
あんなものを受けたら一溜まりもない。

『あれが"サード"、か』

その声と共にナインボールが視界から消えた。
次の瞬間、ずん、と言う音と共に右に現れるナインボール。
早い。しかも右側は近接戦闘用装備が施されていない部分だ。
ナインボールの左腕に装備されたレーザーブレードが迫る。
当然、こちらも左のブレードでそれを受け止める。
ばぢ、と閃光と共に弾ける粒子。
どう見てもこちらが劣勢だ。
アスカさんは気付いてくれるだろうか?
―――余計な期待はしない方が良いか。
そう思いながらブレードを弾き、後退する。
僕の勘が―と言うか記憶が―正しければ今のこの状態では勝てない。
怪我したマナさんが乗っているし、何より相手が相手だ。
ここは逃げるのが得策だ。

『逃げられるとでも思っているのか?』

振り向けばそこにはナインボール。
駄目だ、逃げ切れない―――!

『死ね』

そしてグレネードランチャーが再び巨大な火球を吐き出した。







Ai Side

「大丈夫か、アイ」

「うぅ、うっさい! 取りあえず足どけなさい、足!」

「無理だ、私がどけば君が潰れる」

「だからってこんな格好、生き恥よーーーーーっ!!!」

「あまり大声を出すな。振動で崩れて来る」

確かに大声を出すのは不味い。けど、それを鵜呑みに出来る状態じゃない。
私と彼の体は縺れ合っており、私が上にいる。
彼の足が私の顔の横にあり、私の足が彼の頭の横にある。
とてもじゃないが人に見せられるものではない。
ついでに言えば足が瓦礫と瓦礫の間に挟まっている。
骨は折れていないが、ちょっと出血が多い。

「……言っておくけどパンツ見ないでよ」

「残念だが、そんな余裕はない」

私達二人で上の瓦礫を支えているのだが、どちらかが手を離せば崩れて来るだろう。
それでもこんな余裕があるのには理由がある。
まず、彼を信用している事だ。
そして、自分はこんな所で死なないと言う絶対の自信。
まぁ、『あいつ』を一度でも跪かせないと死ねない訳でもあるのだが。

「……ねぇ、誰も見てない?」

「私達以外がここにいて助けてくれないのなら余程の人でなしだ」

取りあえずは私たち以外は無人。
じゃ、やろう。
私は頭の中でイメージを造り出す。
この重たい瓦礫を押し飛ばす自分の姿を想像する。
そして、その想像をより強固に、ある意味の固定概念に纏め上げる。
更に、それを肉体にトレースする―――!!!

「でりゃあぁーーーーっ!!!!!」

瓦礫を押し上げ、そのまま投げ飛ばす。
腕が悲鳴を上げている。
頭の中で組み上げた想像が硝子の様に崩壊し、そのまま倒れ込む。
瓦礫を投げ飛ばした時に舞い上がった粉塵が私の上に降りかかる。

「大丈夫か?」

「……腕壊れたかも」

「……」

呆れたように彼はふぅ、と溜息を吐くと私をいわゆる『お姫様抱っこ』と言うので持ち上げた。

「さて、どうなっているか外に行こう」

「頼むからこのまま外出ないで、一生の恥だわっ……!」

「我が侭だな、なら背中だ。我慢しろ」

ひょい、と背中に乗せられて外に出る。
外にも煙が立ち込め、死臭が鼻を突く。
未だにどこかで戦闘しているのだろう、爆音が響いている。

「……この感じ……」

後ろ髪がぴりぴりする、この感覚。
以前にもこんな、まるで鋭利な刃物を突き付けられているようなプレッシャーを感じた事がある。
間違いない、これは―――

「ガレージに行って、出撃するわ」

「正気か? 今の君は足を怪我している。無謀だ」

「でも、億に一つのチャンスが来たわ。……あいつがいる」

「……! 本当か?」

「えぇ、この気を抜くと裂かれそうな殺気、押し潰されそうなプレッシャー。奴だわ」

そう、七年間。
たかが七年間されど七年間、私はひたすら待ち続けた。
奴を越えるために、様々な内容の任務、ACと一騎打ちをするアリーナでひたすら腕を磨き続けた。
だから絶対に逃がさない。

「ハスラー・ワン……っ!!!」






To be continued...


(あとがき)

かなり遅れました、しかも短いです、第四話です。
書いてる本人が言うのも何ですが第四話でラスボスクラスの敵が出て来るってどうなんだろう。
それでもラスボスじゃない所がミソ。
それにしてもレイは今回出番なし。台詞すらなし。
次回も戦闘です。
アスカにレイにシンジ、ハスラーにアイ。
完璧な混戦になります。

それはそうと……発表されちゃったPS2でのAC最終作『ARMORED CORE LAST RAVEN』。
ふぇ? AC NEXUSの続きですと? AC NBが続きじゃなかったの?
……OK、OK、全てパラレルワールドか。なるほど。
それでもプロット変える訳にはいかんのよ。
次回こそレイに出番を。
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