ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第二話

壊れた子供の心と、初号機の幼き意識

presented by 蜜柑ブタ様


 地球防衛軍が復活したとメディアが発した、数日後。

「精神感応による治療?」
 地球防衛軍の医療機関に集められたミュータント達。その中に尾崎や風間もいた。
 医療機関の医者の一人が説明を始めた。
「保護した碇シンジ君は、ゴジラに殺されかけたショックで精神に大きなダメージ受けています。肉体的には健康ですが心の治療までは我々の技術をもってしてもできません。そこでミュータントの特殊能力の一つである精神感応で碇シンジ君の精神を正常に、そして正気に戻るよう働きかけ、彼の心を治療することを考えました。」
「皆さんが忙しいのは、分かっていますが…、ミュータントの皆様はセカンドインパクト後の復興の際にその能力で心神にダメージを受けた被災者の心を癒すこともあると聞いていますので、どうかお力を貸して抱けませんか? どうかお願いします!」
 看護師の一人が悲痛な顔をして頭を下げた。
 わざわざM機関に直接依頼して頼み込んできたのだ。よっぽどシンジの容態は危険な状態ということらしい。
 動けない初号機の中でゴジラに襲われる体験をしたのだ、14歳足らずの子供が耐えられない方がおかしいぐらいの恐怖であっただろう。怪獣と戦うのがあの第三新東京でのゴジラとの戦いが初陣だったミュータント部隊の尾崎達ですら、ゴジラの迫力と圧倒的な力に恐怖で押し潰されそうであったぐらいだ。だがゴジラを倒すなり(これはほぼ不可能に近いが)追い返すなりしなければそれ以上の犠牲が出てしまうという正義感と使命感が彼らを動かし、ゴジラを追い返した後も次の戦いに備えいつでも動けるようになっているのである。
「俺は構いませんよ。なあ、風間?」
 尾崎が風間に話を振ると、風間は、何か考えるように腕組をしていた。
 それを見て、尾崎は、風間はこの手のことは不得意な方だということを思い出した。だが風間は負けず嫌いだし、数値化したデータから見た能力面から見ればやろうと思えばできる奴だ。現に被災地で心に傷を負った被災者を不器用ながら励ましながら救助し、その被災者の回復を早めたことだってたくさんある。なのだがそのことを風間は知らないし、教えても照れ臭くて心にもないことを口走ってしまうだけだろう。
「命令なら…、従います。」
 風間は単調な口調でそう言った。口ではこう言っているが、戦闘狂気味の風間からしたら苦手分野だろうに。それでも負けず嫌いだから挑むのだ。
 尾崎、風間と同期のミュータント達は、風間のその不器用さを知ってるため心配そうに風間を見ていた。
 そんなこんなで、手が空いてるミュータント達が交代で医療機関に保護されている碇シンジの治療にあたることになった。
 尾崎に番が回る前、先にシンジの治療にあたった仲間が、それは酷い状態だったと悲しそうな顔をしたり、本気で泣いたり、同調のために顔を青くして疲れ切った様子でシンジの病状を語っていた。
 風間は、残念ながらあまり成果を出せなかったらしく、そのことが悔しいのか、終わった後、悔しさを発散するためか訓練でやたら暴れていた。
 やがて尾崎が治療にあたる日になり、シンジがいる病室にノックして入った。
 シンジは、上体を起こせるベットに背を預けたままどこを見ているのか分からない目をして動く気配を感じさせない。死体かと一瞬間違えそうなるほど生気が感じられなかった。
 わずか14年しか生きていない少年がこんな有様になっているのを見てしまっては、正義感が強く他人を守ることを優先する尾崎なら見過ごしてはおけない。
 尾崎は、シンジが寝かされているベッドの横にある椅子に腰かけ、シンジの細い手を握って目をつむった。
「うぅっ!」
 途端に流れ込んでくる壊れてしまったメチャクチャな感情の波が尾崎の脳髄に叩きつけられ、尾崎は思わず呻いた。
 感情の放流はすぐに消え、後には、シンジの心の残骸と思われるものが散らばる暗い暗い精神が視えた。
 これはもはや肉体は生きていても心が死んでしまっているいっても過言ではない状態である。
 しかしそれでも治してやりたい。未来ある子供がこんな惨い最後を迎えていいはずがない。
 尾崎は、シンジの心の中を探索した。シンジの生きようとする意志が少しでもあればそれをすくい上げて壊れた心を繋ぎ合わせて治すことができるはずだと信じて。
 ちなみに、ここまで人の心の中に深く入り込めるのは、尾崎だけである。

 それは、尾崎がミュータントに数百万分の一の確率で生まれる、“カイザー”と呼ばれる超越者であるからだ。

 その気になれば世界を支配、あるいは滅ぼせるほどの力を持つのだが、尾崎はそんな特別な存在である自分に慢心することなく、いたって正義感の強い心優しい青年であることを選んでミュータント部隊の一員として人類のために戦い、守ることを誇りとしている。
 だからこそシンジという一人の少年のために全力を尽くすのだ。
 たった一人を救えなくて、その他大勢の者達を救うことなどできない。尾崎はそう考えている。
 心の欠片が散らばる暗い世界を走っていた尾崎や、やがて小さな、本当に小さな光の粒を見つけた。
 尾崎はこれがシンジの生きようとする意思だと確信し、ソッと優しく、それに手を伸ばした。
 光に手が触れた途端、世界が白く染まった。
 尾崎が目を開くと、そこは知らない施設の中だった。
 白衣を着た、女性がいる。
 髪色は違うが、顔立ちが、シンジに似ているような気がした。
 言葉は聞こえないが、傍にいる同じく白衣を着た男と話し合っている。尾崎の目から見て、二人の仲はとても良く、恐らく恋人か夫婦という関係のようだ。
 更に場面が変わる、なんか視点が低い。
 そして尾崎は目を見開いた。
 そこにあったのは、エヴァンゲリオン・初号機だったのだ。
 外見は第三新東京で見たものと違うが、外装を付ければちょうど初号機になるだろう。たぶん尾崎が見ているのはエヴァの中身だと思われる。
 なぜこれが初号機だと尾崎が分かったかと言うと、尾崎がシンジを救出するときに初号機に登った時に特殊能力で初号機から無意識に波長というかなんというか、個体を識別する何かを覚えてしまっていたからだ。
 なんか初号機(素体)(断定)の周りで人が大騒ぎしている。
 何があったんだ?っと尾崎が首を傾げていると、景色が消えた。
 次に見た光景は、どこかの駅だろうか、最低限の荷物が入ってそうなそれほど大きくない鞄を隣に置いて大声を上げて泣いている幼い子供と、その子供に背を向けて去っていく男の姿だった。
 子供の顔は、シンジの顔立ちに似ていたので、これは、シンジの幼い時の記憶だと分かった。
 そしてまた景色が変わった。
 夕日に照らされた電車の中に尾崎がいる。
 向かい側の席には、小さい子供が座っている。顔は、陰になって見えない。
「君は…。」
『お母さんがね…。消えちゃったの。』
 小さい子供が尾崎に言った。今にも泣きそうな声で。
『お母さんがカイブツの中で溶けて消えちゃったの。でも生きてるんだって。父さん達が言ってた。』
「お母さん…、カイブツ…、怪物って、なんだい?」
『お母さんと父さんも、毎日イーケイカクで忙しくって、ボクは、いつも一人だったんだ。』
「いーけいかく?」
『ジンルイは、このままじゃダメになるからって、お母さんが一生懸命考えたことなんだって。』
「お母さんは、一体何をしようとしたんだい?」
『ジンルイ……、ホ…カン……。』
 景色が急にテレビのノイズのようにザラザラとかすみ始めた。
「待ってくれ!」
 尾崎が少年に向って手を伸ばした。
 そして世界は、ガラスが砕けるように砕け散った。




「尾崎…、尾崎!」
 尾崎は、ベットの端に顔を押し付けた状態で突っ伏した状態で揺さぶられていた。
「うっ……。シンジ…く…ん。」
 のろのろと顔を上げた尾崎は、彼を心配する医者達の声を無視して、彼がいまだ手を握っているシンジの方を見た。
 シンジは、随分と安らかな顔で静かに眠っている。最初に見た、死体と間違えそうな様子とはまるで別物だ。
「大丈夫かい? あれからもう3時間以上もダイブしていたんだ。次の人に交代して、君は休みなさい。」
「いいえ。もう一度、もう一度! この子の心に入らせてください!」
 がばっと起き上がった尾崎が医者にそう訴えた。
「どういうことだ? いくら君でもこれ以上は…。」
 尾崎がかなり消耗していることを医者は見抜いている。これ以上精神感応させれば危険なことは目に見えている。
「お願いします! あと少し…、あと少しで、シンジ君を…、それと重大な何かに近づけるはずなんだ。」
「重大ななにか? 君は何を見たんだい?」
「それはあとで…。では、もう一度やります。」
 尾崎は、両手でシンジの手を握り意識を集中させた。
「ぐっ!」
 途端、ビクンッと体を跳ねさせた尾崎がシンジの手を握ったまま横に倒れていった。それを傍にいた医者が支えたので床に体が落下することはなかったが、尾崎はシンジの手を握ったまま意識を失っていた。
「あああ! いわんこっちゃない! 誰か! 誰か、M機関に連絡を!」

「その必要はないよ。」

 どこからともなく現れた、赤と金色の髪の若い男。
 その声と顔を、地球防衛軍のあらゆる研究機関の関係者の人間に知らぬ者はいない。
「お、おまえは、G細胞完全適応者! なぜここに!?」
「お気に入り君が大変そうだから、手伝ってやろうと思って〜。ちょっとどいて。」
 ツムグは、尾崎を支えている医者を押しのけて尾崎を抱きしめた。
「“カイザー”だからって限界はあるよ。尾崎シンイチ。驕らないのと、その力を他人のために全部使おうとするのは、おまえの良いところだけど、限度ってものがあるんだよ。きゅ〜しゅつ開始。」
 ツムグの赤と金色の髪が、ほんのりとした青白い光を放ちながらふわっと逆立った。


 再びシンジの心の中に入った尾崎は、自分の意識が凄まじい速度で落下していくのを感じた。
 精神と肉体が離れ離れになる非常事態が起こったかもしれない。
 尾崎は顔を青くしたが、生還を果たすため、そしてシンジの心の中で見て聞いたことを現実に持ち帰るために己を奮い立たせた。
 体制を整え、いつ着地地点に来てもいいように備えた。
 どれくらい落ちていたか分からない。だが着地した。あの夕日の中の電車の中で。
「やあ…、また会ったね?」
 尾崎は流れる汗を拭いながら、席に座っている子ど身に向って笑いかけた。
『お兄ちゃんって、ムチャするんだね。』
 最初に出会った時と違う、泣きそうな声じゃなく、同じ声だがはっきりとした声で子供が喋った。顔は、陰になっていて見えないが、おかしそうに笑っているような気がした。
「君は…、違う…、誰だ、誰なんだ? さっきの子じゃないだろ。」
『分かる? やっぱりお兄ちゃんは特別だから分かる? そうだよ、ボクは、シンジの声と姿を借りてるんだ。』
 シンジではない何者かが、シンジの声と姿を借りて尾崎に語りかける。
「何者だ? おまえはどうしてシンジ君の中にいるんだ?」
『シンジは、心を壊す直前までどこにいたのか、覚えてるでしょ?』
「どこって…、エヴァンゲリオン? まさか、おまえは、エヴァンゲリオンだって言うのか?」
『うん。人間は、ボクのことをエヴァンゲリオンとか初号機って呼んでるよね。ボクには、名前なんてないよ。ボクは、生まれた時からボクだし。勝手に好きな名前で呼べばいいよ。ボクは名前なんてどうでもいい。』
 シンジあらため、シンジの声と姿を借りた初号機が衝撃の事実を尾崎に明かした。
「初号機は、…いや、エヴァンゲリオンは、ただのロボットじゃないのか?」
『人造人間って言われてるよ。本当は、人間が使徒って呼んでるモノからボクは生まれたんだ。ううん、違う。ボクは、造られたんだ。好きで生まれてきたんじゃないよ。』
「エヴァンゲリオンが使徒だって!? だから使徒と戦えるのはエヴァンゲリオンだけって理論があったのか…。使徒は昔からいたってことなのか?」
『そうだよ。お兄ちゃんが見たことがあるのは、三番目の使徒だよ。一番目は、アダム。二番目は、リリスっていうの。それでね、驚かないでね。人間は、18番目の使徒、リリンなんだよ。』
「なっ…」
 尾崎は言葉を失った。全く異なる生物だと思っていた使徒が、人間と同類だったなどと考えもしなかったからだ。
『それだけじゃないよ。他の生物も全部、使徒から生まれたんだよ。だから使徒は、みんなのお父さんでお母さんなの。』
「嘘だって…、思いたいけど、本当なんだろうな。」
 尾崎はこめかみを抑えてここがシンジの心の中であるから、相手が幼いシンジの姿を借りた初号機でも嘘は言っていないのを理解している。だが使徒がすべての生命の起源だという話は受け入れがたい衝撃的な事実だった。
『お兄ちゃん、疲れてるでしょ? 座ったら?』
「ああ…。」
 尾崎は、初号機の向かいの席に座り込んだ。
『ねーねー、お話し、続けていい?』
「…ああ。」
 無邪気に話しかけてくる初号機(?)に尾崎はそう返事をした。
『でね、使徒には、アダムから生まれた命と、リリスから生まれた命がいるの。リリンと他の生き物はね、リリスから生まれたんだよ。使徒は、アダムから生まれたの。ゴジラに殺されちゃった使徒はね、サキエルって言うんだよ。あと使徒はアダムとリリスを入れて全部で17いるの。リリンは別だよ。だってコア退化しちゃってて使徒とは違っちゃったんだもん。』
「それってつまり…、あと14体も使徒が現れるってことだよな?」
『そうだよ。使徒はね。アダムに還りたがってるの。だからアダムを探してるの。でもね、アダムは、南極でバラバラにされちゃったんだ…。でも失敗しちゃったの。だから南極も世界中も壊れちゃったんだ。』
「はあ!? どういうことなんだ!」
 尾崎はそれを聞いて身を乗り出して叫んだ。
「アダムが南極でバラバラになって、それが失敗で南極と世界が壊れたって…、まさかセカンドインパクトのことを言ってるのか!? 隕石の落下が原因っていうのは嘘だったっていうのか!?」
『うん。嘘だよ。アダムをバラバラにした人間達がね、アダムのこと、隠すために嘘ついたんだよ。』
「…南極で一体何が起こったんだ? なぜアダムが南極にいたんだ?」
『アダムとリリスはね、月と一緒に来たんだよ。本当はひとつの星に、月が一つなんだけど、この星には二つ月が来ちゃったんだ。その月に、アダムとリリスがいたの。アダムの白い月は南極に落ちて、黒い月は…、どこだったっけ? 忘れちゃった。あの人達はね、アダムを卵にしたかったの。だからわざとあんなことしたんだよ。でもちょっとだけうまくいかなくって、そのせいで南極はなくなっちゃって…。』
「それでセカンドインパクトが起こった…。自然災害じゃなく、人為的災害だってことなのか。なぜそのことを隠したんだ? 誰が、何の目的で?」
『ジンルイホカンケイカクのためだよ。あのね、あの人達のこと、シンジのお父さん達は、老人達って言ってたけど、どういう意味?』
「老人達? さあ、俺には、ちょっと分からないな。それよりジンルイホカンケイカクっていったい何のことだ? それを教えてくれないか?」
『あのね…。裏死海文書っていう預言書にね書かれてたんだって。人間が…、リリンがもうこれ以上進化できないから、自分達の力で進化しようって、シンジのお母さんが考えたんだよ。』
「シンジ君のお母さんが!? それに人類を進化させるって…、そんなことが可能なのか!?」
『サードインパクトを起こして、みんなを1つにするの。南極がね、真っ赤になったでしょ? あれはね、南極の生き物がみーんな溶けちゃった後なんだよ。みんな、ああなるの。それでみんなが1つになった後に、真っ赤になった海から進化したリリンと他の生命が復活するの。それがジンルイホカンケイカク。』
「そんな…、そんなのは進化じゃない! ただの滅亡だ!」
『どうして? 進化できるんだよ? みんながお兄ちゃんみたいに特別になるんだよ? お兄ちゃん、ひとりだけ特別だから、寂しいでしょ?』
「寂しくなんかない。俺には、仲間がいる。愛する人がいる。守るべき人達がいる。そんなまがい物の進化なんてさせない! 教えてくれ、一体誰がそんなことをやろうとしているだ!」
 尾崎は立ち上がって初号機に詰め寄ろうとしたができなかった。立ち上がることすらできなかった。
「なっ!?」
 慌てて背中を見ると、ベッタリと血管のようなミミズのような物が座席から生えていて背中に張り付いていた。
『お兄ちゃん…、嘘ついちゃダメだよ。お兄ちゃんは、この世界で一人しかいない、特別なんだよ? だから、みんな一緒になればもう寂しくないよ? 嬉しいでしょ?』
「違う! 俺はそんなこと思ってない! おまえは、俺に何をしたんだ! うっ!?」
 尾崎が首を振って初号機の言葉を否定し叫ぶと、いつの間にか向かいの席に座っていた初号機が尾崎の目と鼻の先に立っていた。
 幼いシンジの姿をした初号機の両手が尾崎の胸に添えられた。
 途端、尾崎が座っている席から、血管のような触手が伸びてきて尾崎の体に絡みつき始めた。
 体に絡みついてきた血管のような触手から流れ込んでくるモノに尾崎は目を大きく見開いた。
「やめろ! 俺は、シンジ君の心を治して現実に帰らなきゃならないんだ!」
『お兄ちゃん、一つになろうよ。そしたらきっととてもとても気持ちいいよ? 一緒に行こうよ、シンジのお母さんみたいに。使徒も怪獣も、みんなみんな一つになった世界に行こう。』
「離せ! 俺はいかない! 俺はまだやらなきゃいけなことがあるんだ! やめろ、離せ、離せぇぇ!」
 初号機の小さな手に押され、尾崎の体が電車の席にズブズブと沈んでいく、尾崎は抵抗できず叫ぶことしかできない。


 一方、ネルフでは。
「初号機に異常発生!」
「電力供給無しで起動しました!」
「コアに高エネルギー反応! これは…、一体……。エントリープラグも刺さってないのに…。」
「何が起きたの!?」
 駆けつけたリツコがモニターを確認した。
「これは…、どういうこと? 誰も乗っていないのに、シンクロ率が急上昇している。しかもこの数値は…。」
「シンクロ率上昇中! 間もなく400%に達します!」
 初号機が収まっているドッグでは、初号機が顎のジョイントを引きちぎり、身をよじって凄まじい雄叫びをあげていた。
 その叫びは、まるで喜んでいるかのように…。


「碇、初号機が突然起動して謎のシンクロ率上昇を始めたらしいぞ。…400%だそうだ。」
「どういうことだ? ユイ……、何をしようとしているんだ?」
 冬月が通信機を片手に今起こっている異常をゲンドウに伝えると、ゲンドウは、眉間に皺を寄せて初号機の中にいまだ眠り続ける妻・ユイに問いかけるのだった。
 彼らは、この異常事体がユイではなく、初号機が自身が起こしていることだということを全く知らない。知る方法がない。



 そしてシンジの心の世界で、尾崎は、初号機に精神(魂)を取り込まれる真っ最中だった。
「ぐぅうう…、やめ…ろ…。」
『ボク、お兄ちゃんのこと気に入ったんだ。だから、一緒に行こうよ。一緒にいよう。一つになってずっと、ずっと一緒に…。』
 尾崎の体はもう、電車の席に半分以上飲み込まれ、唯一の抵抗だった声をもほとんど出せなくなっていた。
 もうだめだと、抵抗する力も使い果たした尾崎が目を閉じかけた時だった。

「はいはいはいはいはい〜、そこまでにしろー。」

 緊張感のない声が聞こえ、白い熱線が、尾崎と初号機の間に炸裂し、初号機は向かいの席の方に吹き飛ばされ、尾崎は電車の席と血管のような触手から解放されて床に倒れこんだ。
「尾崎く〜ん、相手が見た目子供だからって油断し過ぎだって。」
「ツムグ…?」
 よろよろと顔を上げた尾崎が見上げた先には、椎堂ツムグが仁王立ちしていた。
「相手は、使徒のコピーとはいえ、一応使徒なんだから普通に接しちゃダメ。特に尾崎みたいなお人好しは付け込まれるよ? あと少しで初号機本体の方に魂が取り込まれて、病室にいる尾崎の体がLCLって生命のスープになってたとこだよ? サードインパクトも起こってないのに真っ先にスープになっちゃダメでしょうが。」
 ツムグは、床に倒れている尾崎の傍に腰を落として、その頭に軽く空手チョップを何度もお見舞いした。
 そして尾崎の耳に口を寄せて。
「ミユキちゃんが泣くよ?」
 そう囁かれた途端、尾崎は、ガバッと物凄い速さで起き上がった。
「そうそう、まだ尾崎は死んじゃダメ。かといって使徒に取り込まれちゃうのもダメだから。」
 ツムグは、じろりと初号機の方を見た。
 シンジの姿を借りてる初号機は、向かいの席の傍らで両手両膝をついて蹲っていた。
『どうして?』
 初号機が悲しそうに寂しそう言った。
『どうして一つになってくれないの? お兄ちゃん、ボクのこと嫌い? ボク、お兄ちゃんと一緒にいたいだけなのに…。』
「方法がダメ。あかん。嫌がってる相手を無理やり連れて行こうとしたら嫌われるのは当たり前だって。」
 ツムグは、ズバズバと初号機にダメ出しをする。
『だって…、お兄ちゃんは、特別だから、きっと寂しいって思ったから。』
「あのな…。尾崎は、全然そんなこと思ってないから。勝手に自分の思い込みを押し付けるんじゃないって。」
『嘘だ…。』
「いい加減、おまえは本体の方へ帰れ。シンジを媒介にして尾崎に会いに来たまではいいが、このままじゃシンジが起きれない。だから、か・え・れ!」
 ツムグが初号機の頭を掴みそのまま持ち上げ、電車の窓に向って放り投げた。
『わあああ!』
 初号機の悲鳴と共に世界が壊れた。




 そして現実。
「う…。」
「あ、起きた。」
「尾崎! 大丈夫か!?」
「早くベットで寝かせてやってよ。命に別条はないよ。…たぶん。」
「たぶんって…、不安になるようなことを言うな、G細胞完全適応者! 誰か搬送用ストレッチャーを持ってきてくれ!」
 ぐったりしている尾崎は、治療室に搬送されていった。
 残された椎堂ツムグは、尾崎が運ばれていったのを見届けた後、スヤスヤと安らかな寝顔で眠るシンジの方を見た。
 そっと手を伸ばし、柔らかい黒髪を撫で、ツムグは柔らかい笑みを浮かべた。
「もうあんな粗悪なオモチャに乗らなくったっていいんだぞ? おまえのこと捨てた父親にこだわることはもう必要ない。ここにいれば、みんな優しくしてくれるさ。君は、一人じゃない。目が覚めたらたっぷりそのことを教えてもらえる。それまでゆっくりお休み。」
 そう言って、ツムグは、病室から出て行った。






 その頃、ネルフでは。
「…初号機、沈黙。」
「シンクロ率がゼロになりました。」
「一体なんだってんでしょうか? 先輩…。」
「ごめんなさい、私にも分からないわ…。あとで初号機を調べてみましょう。」
 結局、初号機は停止し、謎の暴走は謎のままになるのだった。
 ドッグにある初号機は、拘束具を無理やり外して身を動かしたため、首をだらりと垂らした状態になっていた。
 光のないその目から、一筋の液体が零れたが、外装が破損しただけだろうということで処理され、深い意味があることを知られることはなかった。



 そして後日。
 第三新東京に第四使徒シャムシエルが現れる。
 そして東京湾にゴジラが再び現れる。



To be continued...
(2020.08.23 初版)


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