ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第三話

ネルフの愚行と、機龍フィア停止

presented by 蜜柑ブタ様


 尾崎がシンジの傷ついた精神を治すために過度の精神感応能力を使いすぎてぶっ倒れた後日。
 第三新東京に、次の使徒が出現した。

 使徒が現れる…、それすなわち。

『東京湾にゴジラ出現! まっすぐ第三新東京を目指し進撃しています!』

 ゴジラが使徒をぶっ殺しすために上陸してくることである。

 第三新東京は、地球防衛軍の出した厳戒令によりゴジラ迎撃エリアに指定されたため、そこに住む住民達は、地球防衛軍の保証のもと、他県へ移住を強制されることとなった。
 サキエル襲撃時にゴジラが来て、機龍フィアとネオGフォースの激戦は、すでに都民に知れ渡っており、その被害も凄まじかったため地球防衛軍の令で強制移住となってもすんなりそれを受け入れた。
 避難しつつ、移住の真っ最中の住民達の中に、ゴジラの襲来の放送を聞いて顔を怒りに染める少年が一人いた。
 鈴原トウジ。サキエル襲来時にシェルターに妹と共に避難したのだが、ゴジラの襲撃によってシェルターがもたず負傷者が出てしまったのだ。その負傷者の中に彼の妹がいたのである。
 だからトウジは、大事な妹に怪我を負わせた原因を作ったゴジラに憎しみと怒りを抱くようなったのである。
 だが相手は、授業や教科書でも耳にタコになるほど聞かされてきた伝説の怪獣王ゴジラである。なんの力もない民間人が相手になるわけがない。
 再び第三新東京に来たゴジラに、トウジはただただ悔しさに拳を握り、歯を食いしばって耐えることしかできなかった。
 そんな彼に悪魔の囁きがかかることとなる。
「なあ、トウジ…。ちょっと話があるんだけど。」
 クラスメイトで友人の相田ケンスケである。
 大人達の目を掻い潜り、物陰で二人はヒソヒソと話し合った。
「なんやケンスケ、こんな時に?」
「俺らもうすぐ他県に移住するだろ? それも地球防衛軍の命令で。」
「せやな。第三新東京がゴジラと戦うための戦場になるさかい…。」
「それなんだよ! ゴジラってさ、別に東京じゃなくったって世界中あちこちの都市や街を襲ってるのに、なんで第三新東京なのかって疑問湧かないか!?」
「んー、確かニュースじゃ、使徒がゴジラを呼び寄せて、第三新東京に使徒が必ず来るからそいでゴジラが来るからとかやったような…。」
「そこ、そこなんだよ! なんでゴジラは使徒を狙うのかって詳しい情報がまだ開示されてないんだって! ネルフのサイトも閉鎖されちゃってさ、パパのIDでも全然情報が得られないし、それになにより! 機龍ってあのゴジラそっくりのロボットだ! そうメカゴジラ!」
 ケンスケはオタクである。しかも悪い方向での。
 ついでに学校では女子の写真を勝手に盗撮して、売りさばいているとか…?
 しかも父親がネルフの職員なのを利用して勝手にIDを使い、ネルフのホームページに勝手にログインして軍事機密を引き出して、それを自作のホームページに掲載するという重大な違反を犯しているとか…。
 そんな彼が地球防衛軍の復活と対怪獣兵器の戦いに興味を持たぬはずがない。
「これはチャンスなんだよ! メカゴジラを生で! ゴジラと戦うメーサータンクとか戦闘機も見たいんだよ! そして映像に収めたいんだ! なあトウジ! ゴジラが倒されるとこ見てみたくないか!?」
「ゴジラが…、倒されるとこやて?」
 ケンスケの言葉の最後の方にトウジが反応した。
 ゴジラは憎いが子供である自分は戦うことはできない。
 だがゴジラが痛めつけられ倒される姿はこの目で見たい。
 しかし、戦場に勝手に侵入すればどんな罰が与えられか分かったものじゃない。
 しかし、しかしである。若さゆえに、トウジは、自分の感情に負けてしまった。
「ええで…。」
「さっすがトウジ! ありがとう!」
 ケンスケは、トウジがゴジラを憎んでいる理由を知っていながらこの危険なことに巻き込んだのだ。死ぬかもしれないというのに、己の欲望のためだけに親友を巻き込み、最悪戦闘の妨害になるかもしれないのに。自分本位の欲を優先した。
 それが、二人の分岐となることを、二人は知らない。


「安心してね。ちゃんとケンスケには、罰が当たるので……。」
 二人から完全に死角になっている場所に、背をもたれさせて二人の会話を聞いていた椎堂ツムグが、シーッと口の前に人差し指を持って行って、クスクス笑いながら誰か(?)に向ってそう言った。そして音もなくそこから姿を消した。
 機龍フィアに乗るために。





***





 一気に解散されず、ジワジワと弱らされるという悪質な手段で弱らされてきた地球防衛軍がすぐに復帰できたかと言ったら嘘になる。
 潜伏させていたネオGフォースにより、軍事的戦力は整えられたし、波川達のように窓際に追いやられながらも諦めなかった者達により迅速に立て直されていったが、使徒は待ってくれない。ゴジラはもっと待ってくれない。
 人員不足もあるが、全盛期当時の体勢を整えるのは難航していた。
 しかし、使徒もゴジラも待ってはくれない。
 守るためには、言い訳などできないのだ。それは、怪獣達が全盛期だった頃から変わりはしない。あの頃は毎日がギリギリだった時期だって少なくなかった。ゴジラを南極に封印するまで、その後も…気の休まるという時期は無かったかもしれない。
 時代は変わり、セカンドインパクトで世界が傷つき、使徒という謎の生命体の出現があれど、ゴジラは蘇り、今は第三新東京に現れる使徒とエヴァンゲリオンを目指して第三新東京を目指して出現するが、やがて使徒がいなくなればその破壊の矛先を人類へと変えるだろう。
 ゴジラは決して許しはしないだろう。
 時代が変わろうとも、生きるために戦うしかないのだ。

 使徒シャムシエルは、紙飛行機のようにフーワフーワと空を舞っていて降りてこない。
 サキエルとはまた違った奇妙な形状をしている。手足らしき部位も羽もないのに浮いているのが変であるが、これまで地球防衛軍が戦ってきた怪獣を思い起こせば、変な形状でも空を飛ぶことも可能なのかもっという考えが出てきてしまう。

「使徒を怪獣と区分してもいいような気がしますな。」
「しらさき、第三新東京上空にて待機中! 機龍フィア、いつでも投下できます!」
「ゴジラは?」
「東京湾より上陸を開始! まもなく第三新東京圏内に入ります!」
「波川司令! 緊急報告あり!」
「なんです?」
「上空権より伝令! ネルフの配送機が第三新東京圏内に潜入! エヴァンゲリオンと思しき赤い人型兵器を確認!」
「赤ですって?」
「情報が正しければ、おそらくはエヴァンゲリオン弐号機かと!」
「この状況でなにを考えているんだ、ネルフは!?」
「ああ! エヴァンゲリオン弐号機! 搬送機状態から使徒に射撃!」
「使徒が地上へ降下!」

 使徒シャムシエルは、エヴァンゲリオン弐号機からの攻撃をスイスイ避けてからフワリッと地上へ降下した。
 降り立ったシャムシエルは、足の無い胴体の先端だけで立つ。
 ネルフの配送機から切り離された弐号機がクルクルと体勢を整えながら、シャムシエルに向かって落下の力を利用した飛び蹴りを食らわそうと体勢を作った。
 するとシャムシエルは、頭の下にある出っ張りから光るムチのような物を伸ばし、迫ってきた弐号機の足に絡みつけ、そのまま弐号機を地面へと叩き付けた。もうもうと土煙が上がる中、ガガガガガ!っと弐号機が持っている兵器から弾を撃ち出す。シャムシエルは、落ち着いた様子でそれを体の受けるが、ダメージになっていないようだ。弾丸が砕けて視界が悪くなる。

「解析完了! エヴァンゲリオン弐号機が使用しているのは、劣化ウラン弾と判明!」
「なにーーーーー!?」
「アホなのか、馬鹿なのか!? ウランだと!?」
「水爆大怪獣の近くで放射能物質をばらまいたら……。」

 そうこうしていると山を越えてきたゴジラが風に乗ってきたウラン弾の煙を鼻で吸って、クンクンとさせギロリっと弐号機の方を見た。

「ああ! いわんこっちゃない!」
 地球防衛軍指令室では、ほれ見たことか!っと頭を抱える事態になっていた。
 これで弐号機はゴジラの標的になった。ウラン(放射能物質)を持っているから。
 それに気づいてか、使徒が弐号機からササササっと後ろへと離れていく。足も無いのに速い。
「ど、どうなさいますか? 波川司令?」
「捨て置きなさい。エヴァンゲリオンは、弐号機だけではありませんから。」
「はい。」
 弐号機、そしてその搭乗者であるアスカ・ラングレーが見捨てられた瞬間だった。
 ゴジラがズンズンと弐号機に迫っていく、気づいた弐号機が劣化ウラン弾を使う兵器でゴジラを撃つがダメージになるわけも無い。放射能を好む、水爆大怪獣にウランを撃ち込んでいるのだ。ダメージどころかエサやっているようなものなのだが、弐号機の搭乗者は知らないのか。
 すると。
『こちら、椎堂ツムグ。オートー願いまーす。』
「なんだこんな時に!?」
『すぐそこの山が見えるでしょ? あそこに子供が二人いるよ。こっちからデータ送るよ。』
「機龍フィアより送信されたデータと、スーパーコンピュータと照合! 生体反応二つ確認!」
「M機関に保護するようすぐに指示を!」
 避難していた住民の中から、二人の少年が二人いないことがすぐに分かり、住民達の避難、警護に当たっていたミュータント部隊が一部、山へと向かうこととなった。





***





『全然効かないじゃないの!? もっと他に武器はないの!?』
『くっ…、さすがは怪獣王ってあだ名がつくだけのことはあるってことね!』
『違うわよ…。あんた達、ウラン弾の成分がなんなのか分かってる? 相手は水爆大怪獣よ? 撒き餌してどうするのよ?』
『どういうこと?』
『はあ…、ホント無様ね…。ゴジラは、放射能物質を好むのよ。原発があった時代、そして原子力潜水艦や放射能物質を移送していた船をゴジラは積極的にそれらを襲ってきたわ。理由は簡単。ゴジラが放射能物質を好むのは、ゴジラが誕生した経緯に問題あるわね。そのことは色んな教材や授業で習っていたはずよ? 忘れた?』
『ええ〜と…。』
『あっきれたわね…。ビールで脳みそ膿んだんじゃないのかしら? あのね…、ゴジラは、水爆実験で誕生したのよ。そんな放射能兵器から生まれた怪獣に、同じ放射能物質のウラン弾が効くわけがないわ!』
『マジで!? アスカ! 逃げて!』
『けど、まだ使徒が健在よ! 逃げるわけには…、っ、キャアアアアア!?』
『アスカ!』
 ネルフ側がギャーギャーとアレコレしている間に、接近したゴジラに弐号機が捕まった。
 エヴァンゲリオンは、80メートル。ゴジラは、100メートル。すごい身重差のある両者である。
 ゴジラは、掴んだ弐号機の手に握られていたウラン弾の兵器を口に運び、強靱な顎で銃身もろともウラン弾を噛み砕いた。
 その間にも弐号機は暴れてゴジラの手から逃げようとするが、まるで歯が立たない。
『この!』
 アスカが弐号機の方の出っ張りにあるニードルのような兵器を発射し、ゴジラの下顎を狙った。だが、当たった瞬間、ゴジラの鱗に阻まれカンカンっと空しい音を立ててニードルが落ちていった。
『ウソ…。』
 アスカは、青ざめる。自分が相手をしているモノの圧倒的さにようやく気づいたのだ。
 銃身の残骸をペッと吐き出したゴジラは、ジロリッと弐号機を見おろした。そして掴んだ腕を引っ張り、弐号機の体を引きちぎろうとする。ゴジラの怪力により、ミシ、ベキ、ブチっと、弐号機の機体が悲鳴を上げるようにイヤな音が鳴り、体液が零れ、装甲が壊れ、装甲の下の生体素体部位が千切れていく。
『ギャアアアアアアア!』
 シンクロによって伝わるダメージにアスカは悲鳴を上げた。
 リツコが急いでシンクロを切るよう命令を出そうとした時。
 弐号機の後ろの方に着地した機龍フィアが、カパッと口を開け、弐号機の後ろから100式メーサー砲をゴジラに向かって撃った。
 ゴジラの顔に命中し、ゴジラはたまらず弐号機から手を離し、弐号機が地に落ちた。
「邪魔。」
 ツムグは、弐号機の頭を掴み、ぺっと横へ放り投げて遠ざけた。投げられた弐号機は何度もバウンドしながら転がって、止まった。
 なんのつもりだ?っと言いたげに、ゴジラが唸る。
「彼女に死なれるわけにはいかないんだ。“まだ”ね……。」
 ツムグは、ヘルメットの下でニヤリと笑った。
「それより、横取りしちゃっていいの?」
 機龍フィアの指で、高みの見物をしていた使徒シャムシエルを示す。シャムシエルは、それに気づいてビクッとなっていた。
 ゴジラが忌々しげに眉間を寄せた。そして背びれが光る。
 シャムシエルがハッとして逃げようとしたが、それより早く放たれた熱線。そして機龍フィアは、サッと避けて熱線はそのままシャムシエルに命中し、大爆発が起こった。





***





 一方その頃、近くの山では。
「すっげー! あの使徒って化け物を一撃で! ゴジラ半端ねーー!!」
「なんちゅう奴や……。」
 爆風にもめげずカメラを回し続けるケンスケと、青ざめぼう然とするトウジ。
 トウジは、機龍フィアを見つめた。
 先ほどエヴァンゲリオンという兵器がまったく歯が立たなかった相手と睨み合う姿に、少しだが希望が湧く。
「なんでもいい!! ゴジラをぶん殴ってくれーーーーー!!」
 トウジは、願いを込めてそう叫んだ。
 その叫び声に反応してか、ゴジラがギロッとトウジ達の方を見たため、二人は青ざめるのを通り越して真っ白くなり、失禁した。
『ゴジラさーん。こっちと遊ぼうよ。』
 機龍フィアがジェットを吹かし、ゴジラに体当たりをした。
『リミッター解除! ワン&ツー!!』
 禁止されていたリミッター解除を、同時に二つ起こったな。
 ビービーとうるさく警報が鳴るが構うこと無く、解除した。
 リミッター解除による活性化に伴い、血管のようにエネルギーが機龍フィアの表面を駆け巡る。
 ツムグの目の色が、黒から、金色に光った。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
 ツムグの絶叫と共に、機龍フィアは、ゴジラの顎にアッパーカットをかまし、更に胴体を回転させて尻尾攻撃をした。ゴジラの横っ腹にもろに入った尻尾攻撃により、ゴジラは、横へ吹っ飛び倒れた。
 倒れたゴジラに追撃しようと機龍フィアが凄まじい速度で接近し、ゴジラの尻尾を掴むと、ゴジラがギッと機龍フィアを睨み上げ、赤い熱線を吐いた。熱線をもろに受けた機龍フィアは、装甲で吸収し、掴んだ尻尾を持ち上げ、ゴジラを遠くへ投げた。ゴジラは体勢を整え着地し、機龍フィアに突進すると機龍フィアも突進し、両者がぶつかり合った。
 直後、ブツンッと音を立てて、機龍フィアが突如機能停止に陥った。
 現在の耐久力の限界による強制停止装置が働いたのだった。
 ゴジラが訝しむが、ゴジラが少し離れると、機龍フィアは、手と首をダラリとさせ、機体の関節から黒煙を漏らしながら動かない。
 機龍フィアが動かなくなったことで、このままトドメを刺されると思った地球防衛軍側は覚悟したが、ゴジラは、やる気をそがれたとばかりに、フンッと鼻息を漏らし、背中を向けて海へと帰っていった。





***





『……助かったってところかしら。』
『くっ……。』
『ミサト。あんたの思い通りになるほど世の中甘くはないわ。』
 自分の作戦指示で使徒を倒せなかったことに歯がみするミサトに、辛うじて助かった弐号機にヤレヤレと胸をなで下ろしているリツコが言った。


 その後、勝手なことをやったなと、地球防衛軍側から抗議を受け、ネルフの更なる資金縮小がなされたので、ゲンドウは、うまく事を運べなかった責任をアスカやミサトらにぶつけようとしたが、それより前にツムグがゲンドウの指示だったことをチクったためゲンドウは、地球防衛軍とゼーレの板挟みでメッチャ怒られたのだった。





***





 機龍フィアの回収が迅速に行われ、ゴジラによる被害報告、そして避難場所から勝手に抜け出し、危険な戦場に忍び込んだ二人の少年にきつい罰が与えられた。もちろんケンスケが戦場を撮影したデータが詰まった撮影機器は、没収された。
 だがケンスケがかなり機械に強いことがトウジの口から洩れたたため、撮影映像を他の方法で残しているかもしれないと疑われ、他県への移住のために積み込まれていた積み荷からケンスケの大量の荷物が運び出されることになった。
 ケンスケは、人権侵害だとか、パパがネルフの職員だから訴えてもらうとか叫んでいたが、ネルフはすでに実権を失っており、ケンスケの父親はネルフを辞めて地球防衛軍の特に一般人の対応をする部署、つまり普通の公務員と変わらない仕事をしているところに転職していたのだが、片親で子供を養うためほとんど家に帰らないことや普段父親と顔を合わせず部屋に籠って盗撮した映像の編集や掲示板などに参加しているケンスケはそのことを全く知らなかった。ケンスケの父親に確認したところ、留守録とメールにネルフを辞めたことや転職したことを送っておいたらしいのだが、ケンスケは、父親のいつもの自分の趣味(盗撮含む。父親は盗撮のことは知らない)を良く思わないお叱りの言葉が入っていると思い込み留守録を聞くことなく、メールも差出人を見ただけですぐに削除してしまっていたらしい。
 ケンスケは、父親の転職のことを警察組織の取調室で知らされ、愕然としたという。ネルフが実権を完全に失っていることも同時に伝えられたが、今度は地球防衛軍がネルフを切り捨てたことについて立場も弁えず勝手に職員に質問攻めし、ネルフが保有するエヴァンゲリオンがゴジラを呼び寄せる要因になっているというネットでの書き込みの事実確認を行おうとしたため、その情報の入手先について調べるたところケンスケが父親のIDで不正ログインやハッキングをして軍事機密をネットに流していた、あるいは別のハッカーの存在が発覚しネット住民達の一斉捜査が行われ国内、外国問わず逮捕者が何人も出る騒ぎになった(中には指名手配されていた大物のネット犯罪者もいた)。あとケンスケが情報や盗撮した写真を買っていた業者も見つかり逮捕されるという事件まで起こった。
 その間にケンスケの荷物を調べていた監査官が、ケンスケが盗撮の常習犯であることがカメラ専用の記憶媒体やパソコンのデータから知ってしまい、実質廃校になった第三新東京市立第壱中学校を調べたところ女子更衣室、女子トイレなどに卓越した技術を持つ犯罪者顔負けの巧妙な隠しカメラが仕掛けられており調査しに行った人間達を驚かせると同時にケンスケをもはや未成年という免罪符で罪を軽くできないとしてケンスケへの罰はますます重たい物になっていった。
 盗撮の罪の重さや、国家機密への不正アクセス、そして勝手に安全圏から出て(しかもクラスメイトを巻き込んで)危険な怪獣の出現エリアに入ったことがどれだけ沢山の人の迷惑をかけたかを丁寧に小さい子供でも分かるように説明したのだが、ケンスケは、盗撮は自分はジャーナリストを目指す自分を鍛えるための経験値稼ぎと御小遣い稼ぎを兼ねたものだと盗撮された少女達への罪の意識や盗撮映像を売りさばくことがどのような結果を生むのかを全く考慮しておらず、さらには人には知る義務があると主張したり、地球防衛軍の規制を知る義務の侵害だと酷い自己中心的な言い訳を言うばかりで一切反省しなかった。
 このまま少年院に入れても更生はできないと判断した大人達は、彼の父親にケンスケの罪を知らせ、承諾を得てケンスケを特別厚生施設に送ることが決まった。更生施設行きが決まった時と、護送される時、ケンスケは、大変見苦しい姿を晒したという。ケンスケの悪行のことは、どこから漏れたのかあっという間にクラスメイト達の間に広まり、ケンスケへの印象は最悪、評価も落ちるところまで落ちたそうだ。
 ケンスケの父親は、子供をまともに育てられなかった責任を取って仕事を辞め、ケンスケがやった犯罪の被害者達に謝罪し、遠く離れた田舎で隠居した。ケンスケの父親の誠意ある対応に、被害者達や被害者の保護者達も本当に彼がケンスケの父親なのかと本気で思ったぐらい驚き、その誠意を受け入れて逆にケンスケの父親を憐れに思った。子は親を選べないが、親もまた子を選べないのだ。
 あと彼が務めていた職場人間達も事情を聞いたが辞めることになった彼にお別れの花束を渡すなどしてせっかくできた新しい職場の仲間がいなくなることを惜しんだそうだ。そのためか犯罪を犯すような子供を育てた父親として世間から白い目で見られることも、心無い罵声も悪口が書かれた張り紙などもなかったそうだ。中には遊び半分に批判するのを楽しんでいるタイプの人間が様々な角度からケンスケの父親を貶そうとしたが、ケンスケの父親の人柄と誠意を知る者達によって妨害されたため被害はほとんどなくケンスケの話題はやがて忘れられていった。

 そんなケンスケとは対照的に、ケンスケの言葉に乗せられてゴジラが地球防衛軍に撃退される姿を目に焼き付けてゴジラへの怨みの感情を発散したかったトウジは、自分達がゴジラ出現エリアにいたために避難所の警護にあたっていた戦力の一部を二人の救出のために裂かなければならなくなって、応援していた地球防衛軍に多大な迷惑をかけてしまったことを深く反省し、取調室で説明を行った職員に向って床で頭を打ち付けて、泣きながら謝罪の言葉を叫びながら何度も何度も土下座を繰り返した。
 職員や警察官達に宥められて落ち着きを取り戻したトウジは、前回のゴジラ襲撃で妹が負傷したことばかりに目が行っていたため全く他のことが頭に入らない状態だったが、あの時シェルターが壊れた時の犠牲者は彼の妹だけじゃなく、彼の妹よりも重傷で中にはいまだ意識不明、あるいは社会復帰が難しい障害を負ってしまった者や、死亡した者も何人もいたことを初めて知った。ゴジラを憎み、ゴジラと戦う地球防衛軍に期待を寄せているのは自分だけじゃないのだと理解し、自分とケンスケがやったことはそんな人達の希望や想いを完全に踏みにじってしまった愚かな行いだったとまた深く深く反省した。
 面会に来た家族と車椅子に乗った怪我がまだ癒えていない妹に、トウジは、自分がやったことを職員の説明も交えて家族にすべて伝えた。すると車椅子に乗った彼の妹が兄のトウジをビンタした。
 そして彼女は、言ったのだ。自分の兄は本当の漢になるっていつも豪語してる、憎しみや恨みに捉われない真っ直ぐな馬鹿だと。
 叩かれた頬を押さえて妹が涙ぐみながらそう叫んだことで、トウジは、罪の意識から解放されることになる。もちろん自分がやったことを忘れたわけじゃない。
 ただ自分が真にやるべきことが何なのかを妹の言葉で悟ったのだ。
 ゴジラをただ恨むのではなく、友人の言葉に惑わされて命がけで戦う地球防衛軍に迷惑をかけてしまったことに対する罪の意識に捉われるのではなく、ゴジラとはいわずとも大きな脅威から自分や家族のように被害者になってしまった者達がこの先でないように、今度は自分が守る番だという考えに行き着いたのだ。
 将来は、人を守る職業に…、地球防衛軍に入隊する。トウジは、その場で家族と地球防衛軍の職員に向って宣言した。
 家族は、一瞬呆気に取られたら、トウジが自分が犯した罪を反省し、それにとらわれることなく未来を見据えて元気を取り戻したことを喜び、妹はそれでこそトウジだと明るく笑った。
 彼に付き添っていた職員や、面会室の出入口にいた地球防衛軍の軍人や警察関係者達は、少年の決意に涙ぐみ、だが同時にゴジラとの戦いは、子供達の平和な未来は、自分達大人が築かなきゃならないと語り合い、できることならトウジが命の危険にさらされる地球防衛軍に入隊する前にゴジラを倒して将来の選択の幅を広めてやらなきゃなと、現在進行形で人々の平和のために命がけで戦っている者達は自分達が背負う使命と戦いへの決意を新たにしたという。
 こうして、ケンスケとトウジは、それぞれまったく違う道を歩むこととなるが、この物語には関係の無いことである。



To be continued...
(2020.08.23 初版)


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