ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第五話

ラミエルの閃光、使徒の反撃!

presented by 蜜柑ブタ様


 地球防衛軍の管理下にある病院に、一人の少女が入院していた。
 青い髪の毛に、赤い瞳。それだけで普通じゃないことが分かる外見の美少女である。
 彼女は、まだ包帯が取れていない体を起こして、病室の窓の外を眺めていた。
 彼女の名は、綾波レイ。
 ネルフの最終兵器エヴァンゲリオンのパイロットであるファーストチルドレンである。
 彼女は最初はネルフの病院にいた。
 しかしネルフが大半の経費も維持費も失う有様になったことで、ネルフが管理していた病院などの一部が地球防衛軍の管轄下になった。
 病院が徴収されたことで患者も地球防衛軍の管理下にある病院に移されることになり、レイもその中に入っていた。
 レイは、ただ無表情のまま窓を眺めている。
 地球防衛軍の管理下にある病院に移る時、レイがファーストチルドレンであることを国連の人間が言ったため、レイには、ネルフの現状と、ゴジラのことと、地球防衛軍のことなどをすべて説明した。
 表情の変化も乏しく、感情も薄い彼女が大きな反応を見せたのが、エヴァンゲリオンがゴジラに破壊される対象なっているため、地球防衛軍としては今すぐに破棄してしまいたいという意見が出ているという言葉が説明をしていた職員の口から出た時だ。
 人形のような印象の少女がはっきりとした意思を示したことに、説明した職員が尋ねた。なぜエヴァンゲリオンが無くなるのを恐れているのかを。
「…絆だから。」
 レイは、小さな声でそう答えただけだった。
 詳しい事情を聞きだそうとしても、レイは、黙秘しますと淡々と答えるだけで何も語ろうとはしなかった。
 レイの経歴が抹消されていることについては、すでに地球防衛軍側に知られている。
 彼女の治療にあたった医師は、念のため彼女の血液と細胞の一部を研究機関に送り検査を依頼した。
 そして提出された結果は、99.89%までは、人間の遺伝子と合致するという奇妙な結果だった。
 残り0.11%の差はなんだ?っという疑問が湧くのは当然である。
 使徒についてに研究していないが、最初の地球防衛軍が結成されてから、弱体化までに培われた怪獣の研究とその技術が僅か時間でレイがただの人間ではないことを解明させた。
 レイの青い髪がその僅かな人間の遺伝子のと差異である未知の部分によるものだとしたら、レイは、ネルフが何かしらの人体実験によって弄られたか、一から作られた人造人間である可能性がある。もしそういうことなら、経歴が白紙なのも説明がつく。
 レイが黙秘を貫くのもマインドコントロールによるものか、あるいは自分のことを他人に教えたくないという自己防衛なのかは、分からない。
 レイの件についてネルフに問いただすべきではないかと、医療機関と研究機関が上層部に報告し、ネルフへの聴取を頼んだ。
 上層部は、レイについての報告書を見て、ネルフが隠している使徒との関連を疑い、極秘でレイの細胞と、第三新東京でゴジラに瞬殺、熱線で燃やし尽くされた使徒の残りカスのサンプルとの照合と調査・研究を行うよう、医療・研究機関に命じた。
 レイのことを突き出したとしてもネルフが固く閉ざした口を開くとは到底考えられなかったというのが上層部の答えだった。
 病室にいるレイは、自分の置かれた立場を知ってか知らずか、それとももう諦めてしまっているのか、ただそこにいるだけだった。脱走をするわけでも、自殺に走るわけでもなく、ただ生きているだけだった。
 レイの体から包帯が取れる頃になって、三体目の使徒が第三新東京に現れた。





***





 変。
 変だ。
 とにかく変だ。

 もうその言葉しか出てこないヘンテコぶりのその使徒。

 夏の日の光を浴び、ガラスのような光沢を持つツヤツヤの表面。
 美しい完璧な線で象られた形。
 目もないし、口もない。手足もない。
 これが生物に見えるかと聞かれたらほぼ全員が否と答える見た目だった。
 巨大な青い正八面体が無重力で宙を舞い、第三新東京を目指してゆっくりと飛行する様は、前回の使徒とは違う意味で不気味だ。そして怖い。

 使徒ラミエルは、ある地点で止まった。宙に浮いたまま。

 巨大な美しい青い正八面体という形状が、ただそこに浮かんでいる。何をするわけでもなく浮かんでいる。
「まるで何かを持っているようだ…。」
「まさか…?」
 何かを待っている。ふと発せられた地球防衛軍指揮官の言葉にイヤな予感が過ぎる。




 その一方その頃。

『メカゴジラによる偵察ですって!?』
「敵の攻撃手段、及び射程距離を測るため、強度から見て機龍フィアが適切だ。」
『使徒との戦いは、コチラが担当する手はずだったはずでは!? これは規約違反よ!』
「そのようなことは、そちらに提出した共同戦線の書類には記していないはずだが?」
『ですが、使徒はエヴァでなければ…。』
「そのエヴァンゲリオンだが、前の戦闘映像から見ても、偵察には向かないのだ。良くて使い捨てにする気かね? これまでと違って金を湯水のごとく使えない状況で? 貴女はネルフを潰したいのかね?」
『くっ…。』
『自由にするがいい。』
『碇司令!』
『だが、何かあろうとも、コチラは関与しない。』
「それはコチラの台詞でもありますがね。」
『……。』
 ゲンドウは、冷静にしているが、きっと内心では腸が煮えくりかえっているだろうにっと、地球防衛軍司令部は、内心で笑っていた。
 結局、ミサトの思い通りにはならず、弐号機は発射準備状態で待機し、第三新東京の端から機龍フィアが少しずつラミエルに接近するという作戦が取られた。

『ゴジラさんはー?』
『太平洋側より接近中との報告はある。あと十数分程度で東京湾に入るだろう。』
『はいはーい、了解。このまま接近していけばいいんでしょ?』
『ああ、頼むぞ。』
 そんなやりとりをしつつ、機龍フィアは、少しずつラミエルに近づいた。
 しかし、接近していっていてもラミエルが何かしてくる様子が無い。
 あと、数十メートルとなったところで、ツムグは機龍フィアを止めた。
『どうした?』
『このままだと目と鼻の先に来ても何もしてこないだろうからさぁ。こう。』
 機龍フィアの手を使って前の戦闘で出来た瓦礫を拾い上げた。
『おい、なにを…。』
『そーれ。』
 機龍フィアが手にしていた瓦礫をラミエルに投げつけた。
 するとガキーンっと分厚いATフィールドが発生して瓦礫を防ぎ、その瞬間に、ラミエルの角部分がカッと光った。
 角部分から発射されたのは、強力な荷電粒子砲だった。その光りはまっすぐに機龍フィアの腹部と胸部の間に命中した。
『粒子砲エネルギー、吸収・飛散! 機龍フィアの表面温度上昇!』
『椎堂ツムグ! 退却だ!』
『へいへ〜い、りょーかーい。』
 機龍フィアがジェットを吹かして空へと飛んだ。機龍フィアがいなくなるとラミエルは、粒子砲を止めた。
 ラミエルの攻撃手段と、ATフィールドの強度の計算は、すぐに算出された。
『弐号機出さないでいてよかったね〜。』
 っと、ツムグがコメントし、メカゴジラが偵察に行くことに歯がみしていたミサトは、悔しがった。
 一旦弐号機から降ろされたアスカは、なにもできなかったことにぷりぷり怒っていたが、リツコから、あのまま出撃していたら的になって死んでいた可能性があると聞いて、弐号機に執着する彼女からしたら弐号機が無事で済んでよかったとホッとしていた。

 そうこうしていると、第三新東京にゴジラの咆吼が響いた。

「来た!」
 リツコが素早く自分のパソコンを開いて、状況の見物を始めた。
 普段の彼女からは想像も出来ない喜々とした様子に、ミサトすら引いたほどだ。
 ゴジラが第三新東京に入り、ラミエルと進撃する。しかしラミエルは動かない。そして目と鼻の先ほどにゴジラが接近したとき。ラミエルが変形した。
 それは、より強い荷電粒子砲を撃つための形態だったようだ。グニャグニャというか、メキメキというか、音も無く変形したラミエルが中心から極太の荷電粒子砲を発射した。
 そしてゴジラの胴体に着弾した。
 予想外の大火力の攻撃に、発射された直後ゴジラは驚いて目を見開き、接近し過ぎていたこともあり避けることもできず荷電粒子砲を胸と腹の間にもろに喰らうことになった。
 ゴジラの巨体が、超重量の体が、ゴジラの苦痛を訴える雄叫びを残しながら荷電粒子砲で一気に後ろへ飛んでいった。
 そしてラミエルが豆粒に見えるぐらいの距離までゴジラが荷電粒子砲で飛ばされていったところで、やっとラミエルは、極太で大火力の荷電粒子砲を発射するのを止めた。
「なんてこと…、あの威力…、もし弐号機を出してたら上半身が消し飛んでるわ!」
 リツコが口を手で押さえる。さすがのミサトもそれを聞いて青ざめた。
 一方で地球防衛軍側も、ゴジラになすすべもなく殺されるしかないと思われていた、ゴジラに劣る奇妙な生命体の使徒が、まさかゴジラを痛めつけるほどの攻撃力を発揮してゴジラを攻撃したことに言葉を失っていた。
 それも地球防衛軍のどの兵器でも実現できないような100メートル級の怪獣を一撃で遥か遠くに飛ばすほどの荷電粒子砲で…。
 過去見た目からは想像できない攻撃力を見せつけてきた様々な怪獣と戦い続けていたはずの地球防衛軍のベテラン勢は、敵を見た目で判断してはいけないのだという初歩中の初歩のミスを猛反省した。
 やがてゴジラが、むくりと起き上がると、ラミエルの荷電粒子砲の発射口が光った。
 次の瞬間には、再び荷電粒子砲がゴジラの、それも頭に着弾し、ゴジラの体が地面に転がされた。これによってまた距離が離れた。
 その後、ラミエルは、ゴジラが起き上がろうとするたびに、荷電粒子砲を発射し、ゴジラを転がすという作業を延々と続けた。
 ラミエルのしつこい攻撃の仕方を見た地球防衛軍の前線指揮官は。
「今まで虫けらのように殺された仲間のための復讐か?」
 ラミエルは、前の来た二体の使徒の無念を晴らすかのように容赦なく自慢の荷電粒子砲でゴジラに反撃の機会を与えずに攻撃を続けている。
 まるでゴジラしか眼中にないような…、いやゴジラを放っておいたら自分が何かする前に容赦なくゴジラに殺されるからゴジラに集中するしかないのかもしれない。
 それにしてもあれだけの大火力の粒子ビームを発射し続けているのに、ラミエルに変化はない。攻撃力も落ちない。
 これは、ネルフから言わせれば使徒が持つS2機関という永久機関によるものなのだが、地球防衛軍はそれを知らないため、ゴジラを攻撃し続けるラミエルを固唾をのんで見守ることしかできない。
 戦闘に介入しないのは、ゴジラが使徒を殺してからゴジラを追い返すなり、あわよくば倒すためである。地球防衛軍にとって、使徒は人類の敵という見方よりも、ゴジラを地上へ上陸させてしまう原因の一つとしてしか見ていない。
 だからラミエルが、まさかここまでゴジラを追い詰めるほどの武器を持っていたとは考えていなかった。
 ネルフが実権を握っていた頃、彼らがなぜ使徒を危険視していたかという理由を今になって彼らは理解した。
 もしかしたら使徒は、怪獣以上の敵になりうるかもしれない。怪獣と戦ってきたベテラン勢は、その最悪の展開が起こる可能性に嫌な汗をかいた。


 しかし、しかしだ。
 ラミエルが相手をしているのは、ゴジラだ。


 地球防衛軍を、人類を長年苦しめ、敵対したたくさんの怪獣達を葬り、南極に封印するまで終わりが見えない戦いを繰り広げてきたゴジラだ。
 強力な荷電粒子砲でゴロゴロ転がされているだけですみはずがないのだ。今まで地球防衛軍だけじゃなく、様々な怪獣を相手に時に苦戦を強いられながら勝ち抜いてきた(たまに怪獣がタッグ組んだり、未来人が介入したりしてゴジラを海に封印したりしたのはノーカウント)。その怪獣王が黙ってやられたままでいるはずがないに。
 ゴジラが、再び上体を起こした。するとまた荷電粒子砲が飛んできた。
 しかしゴジラは、荷電粒子砲が頭に着弾しても怯まず、転がることもなく、ゆっくりと立ち上がった。
 ゴジラを転がすために発射された荷電粒子砲は、すぐに止まる。
 ゴジラは、ただでさえ鋭い目を、さらに鋭く、目を怒りの炎を宿したようにぎらつかせ、ラミエルの方をぎろりと睨んだ。はるか遠くにいるラミエルは、豆粒より小さく見えるぐらいの距離が離れているがゴジラの目は真っ直ぐラミエルを睨みつけていた。
 立ち上がったゴジラは、今日一番の大きな雄叫びをあげ、ラミエルに凄まじい勢いで進撃していった。
 ゴジラが荷電粒子砲を浴びても怯まず、起き上がったことに驚いて固まっていたのか、ラミエルは、ゴジラが自分のところへ向かってきたからやっと現実に戻ってきたらしくエネルギーを集中させた。
「使徒のエネルギーが更に上昇! 最初の粒子砲以上です!」
「使徒に限界はないのか?」
 前線指揮官は、報告を受けて、そう呟いた。
 ラミエルが、ゴジラを最初に吹き飛ばした以上の荷電粒子砲を発射した。
 ゴジラは、それを真っ向から受けた。しかし吹き飛ばされることなく、歩みは止まらない。凄まじいエネルギーの熱がゴジラの体を焼き尽くさんと手加減なしに浴びせられているのにゴジラは怒りのままに進撃を続けるだけだ。
 ゴジラがラミエルの攻撃にまったく怯まなくなったことに状況を見ていた地球防衛軍は、怪訝に思ったが、ゴジラのある特性を思い出すことであっちらこちらから大変なことを忘れていたことを思いだしたという叫び声があがったという。

 ゴジラの特性。それは、あらゆるエネルギーを取り込み、自分の物とする能力である。

 ゴジラは、自分の力の源である放射能を摂取する以外に、この能力で一時的なパワーアップや回復を行い、様々な怪獣に勝利してきた。
 地球防衛軍の兵器の攻撃を受けても吸収はされないので、ゴジラがその気にならなければできないことなのだろう。もしくは、緊急時の一か八かの賭けという部分が強いのかもしれない。
 ラミエルは、外見から見て分かるが荷電粒子砲以外に攻撃手段がない。唯一のその攻撃を逆利用される状況に陥ってしまったら、もう……打つ手はない。
 しかしそれでもラミエルは、荷電粒子砲を発射し続ける。
 他の二体のように逃げようともせず、ゴジラに挑み続ける。
 ゴジラへの反撃は、終わった。終わってしまったのだ。
「…っ、これは、使徒のエネルギーが下がっていきます! この状態だと、あと一、二分ほどで粒子砲は止まると思われます!」
「そうか…。根競べでも使徒は、ゴジラに勝てなかったか…。あのゴジラを少しだけでも反撃させる暇も与えず転がし続けられたのは、驚嘆に値するぞ。使徒よ…。」
 機械に表示された使徒のエネルギーの量が急激に下がり始めているという報告を受け、指揮官は、どんどん細く弱くなっていく荷電粒子砲を発射し続けるラミエルと、ラミエルのエネルギーを喰らいながら背びれを凄まじく発光させつつラミエルに近づいて行くゴジラの光景を眺めながらそう言った。
 そして、ゴジラが目と鼻の先まで近づいた時、ラミエルの粒子砲は発射口から消え失せた。発射を止めたのではなく、力尽きて。
 途端に宙に制止していたラミエルが正八面体に戻り、グラリと傾き地上に落ちそうになった。それをゴジラが掴み、熱線を溜めた口を開けて噛みついた。
 そしてラミエルの中に、ラミエルから吸収した荷電粒子砲の分を倍にして返すぜと言わんばかりの熱線が注ぎ込まれ、ものすごい速度でラミエルの表面に白く光るひび割れが走り、正八面体が粉々に砕け散る直後、ゴジラを巻き込んだ凄まじい爆発が起こった。
 やがて光は収まり、爆発による煙の中、立っていたのは、黒い巨体。ゴジラだけだった。ラミエルの残骸は残っていない。恐らく燃えカスすら残らず死んだのだろう。
 呆然とする人間達を正気に戻したのは、ゴジラの雄叫びだった。


「すごい…!」
 戦況を見ていたリツコが驚嘆の声を漏らした。
「くうぅ…っ。」
 ミサトは、歯がみした。結局自分達の出る幕が無かったことに。

『地上部隊、メーサータンクでゴジラを攻撃し、機龍フィアを援護せよ!』

 前線指揮官の命令により、地球防衛軍とゴジラの戦いが始まった。
「ちょっ、待ちなさい! 私達だってまだ…。」
『ここからは、我々の戦いだ! ゴジラに手も足も出なかったエヴァンゲリオンを出して、潰されたいのなら話は別だがな! もちろん修理費は出さん!』
「なっ!? それじゃあ、共同戦線の意味が…!」
「黙れ、葛城一尉。」
「しかし、碇司令!」
「黙れと言っている。命令を聞け。聞けぬのなら、貴様を作戦本部長から外す。」
「!?」
 衝撃を受けるミサトに、さっきまで興奮していたリツコは、あら?っと、何か感心したようにゲンドウの方を見た。
 あの男が喰われると分かっていて共同戦線に同意したのだろうかと。
 妻のユイに執着するあまりに世界を引き換えにでも取り戻そうと考えているのだ、おそらくネルフそのものを使い捨ててでも自分の目的を達成しようという腹かもしれない。
 そうなると、彼の目的のために絶対必要なのが、息子である碇シンジである。彼は現在地球防衛軍の保護下にある。
 それと、あとは、綾波レイだ。リリスの魂を持つ彼女がゲンドウの求める計画の要となるのだから、シンジとレイ、この両者をなんとしてでも取り戻したいだろう。
 リツコの予想だと、すでにレイがただの人間ではないことは地球防衛軍側に知られているはずだ。そうなれば簡単に返すはずもないだろう。ならば暗殺なりして魂だけでも奪還するという強硬手段をするに違いない。もっとも、暗殺者を送り込めるだけの穴が地球防衛軍にあればの話ではあるが。
 何をするにしてもゲンドウの目的を達成するのは困難に違いない。
 リツコは、顔に出さないようこっそりとほくそ笑んだ。恨みある男が足掻く様を見られることに、密かに地球防衛軍やゴジラに感謝したのだった。





***





 ところで、ゲンドウの横にいつもいる冬月がいなかったのであるが、誰もツッコまなかった。

「はあ……、あと12体の使徒が来るのか。その都度、ゴジラが来る…。気が滅入る…。」
 本部の中庭で、冬月が黄昏ながら独り言を呟いていた。
「はあ……、こんなことになるなら、ゲンドウに協力などしなかったのだがな…。生きているうちにまたあの悪夢(ゴジラ)に遭遇する羽目になるとは、フッ…、これが人類最大の大罪を犯した者達への罰なのだろうな。ゴジラは、核爆弾という罪から生まれた。セカンドインパクトで消滅した南極に眠っていたはずのゴジラは、死なず、15年ぶりの使徒の出現に呼応するかのように第三新東京に現れ、使徒を殺し、エヴァを破壊しようとした。ゴジラは、セカンドインパクトの真実を知っているというのか? 南極のLCLを取り込みその記憶を垣間見たとしたら……。そういうことならば、ゴジラの行動も説明が付く。ゲンドウの奴はまだユイ君のことを諦めていないようだが、最強最悪の怪獣王を相手に何ができる? いい加減、現実を見るべきなのに、奴ときたら…。ゴジラが生きているともっと早く分かっていたらユイ君もE計画を発案せず、地球防衛軍の科学者として活躍していたかもしれんな。はあ…、すべては後の祭り。ユイ君…、君は初号機の中で見ているか? 君らが幼い時に暴れていた怪獣王が更に強く、更に怒りを増して人類補完計画を阻止しようとし、人類を断罪しようとしているのを……。」
 冬月は、サキエル襲来時にゴジラが第三新東京に出て以来、ずっとこんな感じだ。
 ゲンドウと違いゴジラがもたらした恐怖を骨の髄まで染みつけているため、冬月は、ずっとゴジラの悪夢に苦しめられていた。それは、ゴジラが封印されても、セカンドインパクトで死んだのではと世間に噂が広まった時も変わらない。
 セカンドインパクトで南極もろともゴジラも消滅したと、冬月は信じていた。信じたかった。
 しかし現実は非情である。
 よりにもよって自分が協力したゼーレとネルフ、ユイが考えた人類補完計画がゴジラの標的になってしまったのだ。
 もう年老いた自分は、先は長くない。しかし生きている間にセカンドインパクトを生き延びて強くなったゴジラの悪夢から脱することはできないと思った。
 絶望を通り越して、もうすべてを諦め、何もせず傍観しているだけである。
「あの老人達がいかなる手を尽くしても、ゴジラを止められるはずがない。罪の象徴に勝てるはずがない。」
 冬月は、ブツブツと独り言を呟きながらネルフ本部にある自室に帰って行った。



To be continued...
(2020.08.23 初版)


(ながちゃん@管理人のコメント)

リメイク版の本作、まだ序盤ですが如何でしたか?ヱヴァVS使徒のストーリーにゴジラをぶっ込んだことでネルフもゼーレも思惑が外れまくって早くもピンチ。いやいや大満足です。謎の男、椎堂ツムグ君が本作のキーパーソンになるのかな。保護されたシンジ君がこれからどうなるのか(どう変容するのか)も楽しみです。踏み台ネルフも挫けず頑張れ。特にミサトさんの大活躍(笑)を期待します。




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