ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第六話

シンジの起床と、エヴァンゲリオンの実態

presented by 蜜柑ブタ様


 ラミエルとの戦いの後、ゴジラを追い返した。

 その後の地球防衛軍の病室の一室で。
「って、感じで、今回はこんなに早くゴジラを海へ追い返せたわ。」
 折り畳み椅子に座った音無がノートパソコンの画面を操作しながら説明した。
「機龍フィアの改良がここまで進んだんだな。」
 病室のベットで上体を起こしているのは、尾崎。
 シンジの心を治すために無理な精神感応をしてから、意識を失い、数日ほど寝たきりになるほど疲労してしまったのだ。
 ミュータントは、生命力が常人のそれを遥かに上回り、特に稀に生まれるとされる“カイザー”という超越者の尾崎もだが、肉体的ダメージは、治りが早いが、精神に負ったダメージはさすがに治しようがない。特に尾崎は、シンジの心の中でひと悶着あったのでダメージが大きかった。並みのミュータントなら精神崩壊して廃人になっていたか、最悪脳死していたと、ミュータントの医療を担当する医師から怒られた。
 目を覚まして意識がはっきりしてからは、風間を含めた同僚や音無らから面会を受け、怒られたり、心配されたり、回復したのを喜ばれたりした。
 今、尾崎は、自分が戦線から離脱している間に何が起こっていたのかを音無から教えてもらっている真っ最中だった。

 実は、尾崎シンイチと、音無ミユキは、恋仲である。

 きっかけは、音無の護衛をした時だったらしいが、最初は二人はツンツンな関係だったのだが、お互いに相手を見ているうちに相手を見直し、そして恋人関係になるまでに仲を深めていた。
 二人は、立場上このことは隠している。……つもりだが、二人とも恋愛関連のことには経験がほとんどないので隠しているつもりでも態度や行動に出ているため、二人がそういう関係なことは周知の知になっていたりする。周囲にばれているのを知らないのは、尾崎と音無だけである。
 それなりに付き合いが長いので、そろそろプロポーズしてもいいんじゃないかと周りは思っているのだが、臆手な尾崎は、中々プロポーズとまではいかない。そのことに一番イライラしているのは、風間だったりする。尾崎に直接言わないが、イチャイチャしてる二人を見かけては、いい加減くっつけと言わんばかりに殺気立ってると同僚のミュータント兵士が怖がっていた。
 話は、現実に戻り、音無に見せてもらった映像を見終わった尾崎は、音無に聞いた。
「あの子は…、シンジ君はどうしてるんだい?」
 尾崎がここまで弱るほど頑張って助けようとした少年が今どうしているのか気になった。人を守ることを優先する尾崎らしい。
「まだ意識が戻っていないわ。でも、血色はとてもいいし、いつ目覚めてもおかしくないのに…、どうしてかしら?」
「……“あいつ”のせいか?」
「なに?」
「んっ、何でもない。シンジ君の様子を見に行きたいな。」
「またムチャするんじゃないでしょうね?」
 音無がジーッと疑り深い目で尾崎を見つめる。
 音無にそう言われ、その視線に、尾崎は、視線を彷徨わせた。尾崎の性格上、自分より他人を優先するのでやらないという保証がない。
 やったら絶対怒られるのは目に見えているし、今までムチャをして音無から雷を落とされたこと数知れず…。
 尾崎は、やらないと返事が出せず、無意識にダラダラと汗をかいた。音無はそんな尾崎を見てため息を吐いた。自分がどれだけやめるよう言っても聞かないのはもう分かりきっているのだが、愛する人の身を案じるのは当然である。
「私も行くから、行くなら早く行きましょ。ダメって言ってもついていくからね。」
「…分かった。」
 音無の監視のもと、尾崎は、シンジがいる病室に向った。
 病室に入ると、最初の頃と違い、沢山あった医療機器がなくなり、最低限の機器がシンジの体に繋がっていた。
 近づいて見ると、死体と見間違えそうなほどゲッソリと酷い状態だったシンジは、すっかり顔色がよくなっており、静かな寝息を立てて眠っている。音無の言う通り、もう目を覚ましても不思議ではない状態だ。
「よかった…。ずいぶん元気になったんだな。」
「そうね。ここに運ばれてきた時に比べたら雲泥の差ね。」
 尾崎の安心した言葉に、音無も同意してそう言った。
 尾崎が、シンジの瞼にかかっていた髪の毛をそっとどけようと手を伸ばし、指先が触れた時だった。
 シンジの瞼がピクピクと反応したのだ。
 目覚めの予兆に尾崎と音無は、顔を見合わせた。
 そして二人の目の前で、シンジは、微かなうめき声を上げながら、ゆっくりと瞼を開けた。
 何日も眠り続けたためか、ほとんど光を認識しきれていないらしく、目の焦点があっていない。
 しかし徐々に目の機能が回復を始め、眩しそうに目を細め、やがてベットの横に立っている尾崎と音無の存在に気付いて、そちらを見た。
「………誰…、ですか?」
 掠れた声でそう言った。
「よかった。目を覚ましたんだな。」
「気分はどう?」
 二人が優しく聞くと、シンジは、困惑した表情をした。
「ここ…どこ? 僕は…、確か………。ヒッ!」
 シンジがあの時のことを思い出したらしく、恐怖で顔を歪めて頭を抱えた。
「大丈夫! 大丈夫だ! ここにはゴジラはいない! 君はもう、エヴァンゲリオンに乗らなくてもいいんだ!」
 恐怖でガタガタと震えるシンジの体を、尾崎が包み込むように抱きしめた。
「い、いやだ…、やだ、やだ…、やだ、やだやだやだやだ! 怖い怖い怖い!」
 尾崎を振りほどこうとシンジが暴れた。
「大丈夫だ! 本当に、もう…、大丈夫だから。君はもう、お父さんに怯える必要はない。怖いのを我慢して戦わなくたっていいんだ。君のことを責めたりなんかしない。君は、ここにいていいんだ!」
 尾崎の最後の方の言葉に、シンジがびくりと体を跳ねさせ、硬直した。
 尾崎は、初号機からシンジを救出するとき、そしてシンジの壊れた心を治療するために精神感応で精神をダイブさせた時、シンジが何に怯え、どういう経緯でエヴァンゲリオンに乗らなくてはならなくなったのか、そして何を渇望しているのかを感じ取っていた。
 尾崎に抱きしめられたまま固まっていたシンジは、やがて、嗚咽を漏らしてボロボロと涙を流し始めた。
 尾崎には(というかミュータント全般)、相手の気持ちを感じ取る能力の他に、相手に自分の気持ちを伝える能力もあった。だからシンジは、尾崎の言葉が、気持ちが本物であることを直に感じている。
 孤独な幼少期を送ったシンジが求めていた本気で自分のことを想ってくれる情がものすごい勢いでシンジの中に流れ込んでいた。
「ううぇええ……、ぼぐ…、ごごにいて…いいの?」
「ああ。もちろんだ。」
「う…う、うわあああああああ…。」
 シンジは、尾崎の胸に顔を押し当てて大声を上げて泣いた。
 音無は、二人の様子を温かい目で見守っていた。
 やがてシンジは泣きつかれてまた眠ってしまった。壊れた心が治ったばかりで数日も眠っていて体力が長続きしなかったのだろう。
 シンジの意識が回復し、精神状態も良好であることなどをナースコールで呼んだ担当医にちゃんと伝え、尾崎と音無は、寝ているシンジに挨拶をしてから病室を後にした。
 なお担当医に尾崎は、シンジが目を覚ました時に言ったことも全部伝えている。なのでシンジのためにもしばらくは地球防衛軍で保護することが決まった。地球防衛軍側の諜報部がシンジの経歴を調べたところ、あまりにも巧妙にシンジの精神を他人を渇望するようにされたとしか思えない環境で育ったことが分かり、それが8年前に彼の父親であるゲンドウが赤の他人を金で雇って親戚と偽りシンジを預け、ただの金づるとしてしか扱われない環境で育てさせ、そんな環境だから学校の方でも他人と関わって傷つくのを恐れ、表面上は受け応えはするものの他人との壁を作るため親しい友人もおらず、本心では自分以外の相手を求め続けているという悪循環を作ってしまった。そして彼が14歳になった時、シンジを捨てたゲンドウがエヴァンゲリオン・初号機に乗せるパイロットの“予備”として、手紙とも言えない手紙で呼び出し、エヴァに乗らないのなら帰れと、誰にも必要とされないことを何よりも恐れる彼の心を抉り、重体の綾波レイを脅迫材料にしてついに初号機に乗らなければ存在価値がないと彼に思いこませる条項にに追い込んで乗るのを承諾させていたことが判明した。
 ゴジラの乱入がなければ、何の訓練もしていない普通の中学生のシンジに初号機で使徒サキエルを倒させた後、彼をサードチルドレンとして徴兵させる予定になっていたことも分かり、子を持つ諜報部の者は怒りで顔を真っ赤にしていたという。
 最初は、シンジが回復して日常生活に問題なしと判断されたら地球防衛軍の保護が解除され、彼を普通の中学生に戻す手筈になっていたが、シンジの経歴と保護されるまでに至った経緯が判明した今、いまだに腹の底で何を考えているか分かっていないネルフの総司令のゲンドウを警戒して、シンジを地球防衛軍の保護下に置くことが決定された。
 あと綾波レイの方もである。ただの人間でないということもあるが、チルドレンというエヴァンゲリオン専門のパイロットというものに得体のしれない不信が高まった今、チルドレンとして登録されている者をネルフに帰すのは得策ではないという判断だ。
 これについてネルフ側からファーストとサードの返還をしてほしいと連絡が入ったが、『誰のことだ?』と聞き返し、綾波レイと碇シンジとのことだとやっと言われ、理由を問いただすと、零号機と初号機のパイロットだからだと返答が帰ってきたので丁重の断った。
 当然だが猛抗議が返ってきたが、共同戦線の約束を白紙にすることとを盾にして無理矢理黙らした。
 これは、何かしら手を打ってくるだろうと踏んで、シンジとレイの保護と警護に力を入れることが決定された。
 シンジをM機関の奥の方に保護し、レイの方も要人用の病棟に移してネルフの手が及ばないよう手を尽くした。





***





 地球防衛軍のネルフへの不信が高まった頃、地球防衛軍の上層部から地球防衛軍の艦隊にある命令が下された。

「エヴァンゲリオンをネルフ日本支部に輸送?」
 鼻の下のヒゲと、どう見ても堅気じゃない風貌に、茶色の軍服コートの上からでも分かるごつい鍛え抜かれた肉体を持つ50代過ぎくらいの男が、片眉をあげてモニターに映る波川の言葉に対してそう言った。
『そうです。ゴジラが使徒とエヴァンゲリオンを狙って第三新東京に現れるようなったことはすでに知っていることでしょうが、ネルフは、各国にある支部に開発途中のエヴァンゲリオンとすでに完成しているエヴァンゲリオンを保有しています。ゴジラがそちらに向かってしまい、その国に甚大な被害をもたらす前にすべてのエヴァンゲリオンをネルフ日本支部に集めるのです。ですが、輸送途中でゴジラに襲われては元も子もありません。そこで轟天号での輸送をすることが決まりました。』
「ハッ、俺たちゃ宅配便じゃねぇ。ごつい箱に詰めて他の連中に頼むんだな。」
『ゴードン大佐! これは、地球防衛軍の総意の命令なのです。ゴジラをおびき寄せる餌を失うわけにはいきません。ゴジラを引き寄せる要因が一か所になれば、これまでのゴジラとの戦いと違い民間への被害も損害も少なくて済み、また我々も作戦を立てやすいのです。』
「それくらい分かってる。だがな、久しぶりの轟天号の初仕事が荷物の輸送だってのが気にくわないだけだ。」
『大佐…、あなたのお気持ちは察します。ですが、輸送途中でゴジラが海中から襲って来る可能性がある以上、逃げ切れるのは現段階で轟天号だけなのです。そしてあなたの艦長としての腕がなければセカンドインパクトを耐え抜き復活してより強くなったゴジラから無事にエヴァンゲリオン四号機を運ぶことはできない。我々は、あなたに期待しているのです。』
「フン。まあ、いいぜ。やってやろうじゃねぇか。」
『言質は取りましたよ。それとですが、エヴァンゲリオンの輸送と同時にネルフ関係者を一人、一緒に乗せてネルフ日本支部へ移送させてもらいます。』
「ちょっと、待て。人間まで運ぶのか? タクシーじゃないんだぞ。」
『四号機の“おまけ”です。適当に客人として部屋に閉じ込めて置くなりしてくれてかまいません。何かしらの問題行動を起こしたならば捕虜として扱ってもいいです。それは、大佐に任せます。ただし、殺さないようにしてください。』
「仕方ねぇ、その仕事引き受けた。」
『感謝します。ダグラス=ゴードン大佐。』




 こうしてアメリカ支部にある、エヴァンゲリオン四号機を轟天号が移送することとなった。

 轟天号。これは、対怪獣戦のために開発された先端がドリルとなっている万能戦艦である。空水両用で、宇宙での活動も可能な技術の粋を結集した最強の戦艦と言われている。
 ゴジラが封印された南極での戦いで初代轟天号が出撃し、たまたま起こった地震でできた地割れにはまったゴジラに向って氷山をミサイルで撃って破壊し、崩れ落ちてきた雪と氷でゴジラを封じ込めた、歴史の教科書にも載っている伝説の戦艦である。
 その新型機が、ゴジラ封印後に開発され、その間に暴れていた他の怪獣との戦いで頭角を現したが、セカンドインパクトの発生でゴジラの行方が不明となり怪獣が消えたことで地球防衛軍が解体され、対怪獣兵器はその破壊力から危険だということで解体されることになった。轟天号もそうである。
 ……表向きはそうだった。
 しかし実際は、地下に潜伏していたネオGフォースが対怪獣兵器と轟天号を管理しており、いつでも使えるよう整備をして、そして第三新東京でゴジラの復活が確認され、地球防衛軍が再結成された時、地下に隠されてきた轟天号と対怪獣兵器は、再び日の光を浴びることができたのだった。


 アメリカへと出発した轟天号の機体が太陽の日を浴びて濃い銀色に輝くさまは、歴戦の勇者を彷彿させるほど神々しかった。
 轟天号がアメリカに向けて海の上を飛行している最中、その下の海中に白い巨体を持つクジラとも魚ともつかない姿をした使徒が轟天号を追跡していた。しかもレーダーに引っかからないように絶妙な距離を保ちながら海底近くを泳いでいたため轟天号側は使徒に追跡されていることに気付いていない。
 そして轟天号がネルフ・アメリカ支部に到着し、せっせとエヴァ四号機を搬入する頃、太平洋の海底で眠っていたゴジラが、ゆっくりと目を開け、太くて長い尾をくねらせてその体系からは想像もできない速度で海中を泳ぎ、アメリカへ向かって行った。


「ゴジラさんの次の戦いは、海で行われるのか…。まあ、あの使徒(ガキエル)があの形だし仕方ないか。で、35年ぶりの轟天号との再会か…、うーん初代じゃないから若干違うけどゴジラさんにとっては記憶に残る好敵手だったんだよね? ゴジラさんきっと喜ぶだろうな。ゴードン艦長も。ゴードン艦長なら機龍フィアがなくてもやれるはずさ。」
 日本の地球防衛軍の施設の高台からドイツのある方角を眺めながら椎堂ツムグが、実に楽しそうに笑いながら独り言を言っていた。
「ツムグさ〜ん、ツムグさ〜ん。」
「な〜に〜?」
 そこへひとりの看護師の女性がやってきたてツムグに馴れ馴れしい感じで名前を呼ぶと、ツムグも慣れた様子で返事をして振り返った。
「波川司令から連絡で〜す。」
「はいはい〜。」
 ツムグは、高台から飛び降りてスキップしながら自室へ戻っていった。
 そして自室の通信モニターを起動させる。するとモニターの画面にすぐに波川と他の指揮官達の顔が映った。
「話って?」
『あなたならすでに察していると思っていましたが?』
「やーん。俺そんな万能じゃ無いよぉん?」
『ええーい! キモい反応をするな! その反応はすでに分かっているんだろうが!』
「フォースチルドレンのことでしょ?」
『話が早くて助かります。』
 そう波川達が言いたいことは、ネルフ側が新しいチルドレン…つまりエヴァンゲリオンのパイロット候補を見繕い、フォースチルドレンとして登録したことだ。
『やはりというか…、まず間違いなく、エヴァンゲリオン四号機に乗せるためなのだろうが…。』
「なーんだ、そこまで分かってるなら俺に話振らなくてもいいじゃん。」
『我々だってお前なんぞに頼りたくはない!! だがな、お前の予言の的中率の高さがどうしても必要なのだ!』
 波川以外が心底イヤそうにしているので、ツムグは、ヤレヤレっと肩をすくめた。
「例えそれが悪い予言でも?」
『構いませんよ、ツムグ。』
「……フォースチルドレンに選定されたのは、相田ケンスケ。14歳。第三新東京市立第壱中学校の2−Aクラスの元生徒。つい最近、大事故になりうる重大トラブルと、盗撮、盗聴、及び国家機密ハッキング、その情報漏洩をした罪で、特別更生施設送りになったはずだった。ところがネルフの特権徴兵により檻から出された。…でしょ?」
 すると、モニターの向こうにいる波川以外の者達が、やっぱり知ってやがった…っと頭を抱えていた。
 ツムグは、笑みを消し、ベットの上であぐらをかき、頬杖をついて続けた。
「相田ケンスケは、母親がいない。ケンスケが幼いときに、母親の浮気で離婚してる。けど、その母親の再婚先で、ケンスケがフォースチルドレンになったとほぼ同時期に行方不明になってるんだ。これについておかしいってことでしょ?」
『ええ、その通りよ。第三新東京私立第壱中学校の、2−Aクラスは、片親が多いことが分かっているわ。……このご時世だから仕方ないと言ったらそこまでだけれど、明らかに不自然なのよ。』
「離婚、病死、事故死、入院……、いずれも片親が何かしら理由で幼いときに離れているかしているね。身も心が育つ時期に育ててくれる親を失うのは相当な衝撃を記憶に残す、忘れていても潜在している。そういうのはその後の成長で精神構成に大きくな影響を与えるんだから。そもそも、第三新東京私立第壱中学校自体がネルフの管轄下にあった中学校だって事は、一部教師だけが知っていて、ほとんどの教師達も親御さん達も知らないことだしね。」
『…それは初耳ですが?』
「自分の子供や、伴侶や親類が、実は人造兵器のパイロットと材料だなんて知られるわけにはいかないじゃ〜ん。…おっと、口が滑っちゃった。」
 わざとらしくツムグがとぼけるが、モニターに映っている波川達は絶句していた。
 そりゃそうだ、エヴァンゲリオンのパイロットが14歳の子供に限定されているという謎の法則だけじゃなく、実はその材料に身内の人間が利用されているという新事実を知ってしまったのだから。
『エヴァンゲリオンは…、ロボットじゃ無いのか!?』
「あれは、人造兵器。つまり、生体兵器なんだよ。弐号機がゴジラに壊されかけた時、生っぽい部分なかった? 中身は人間に近いよ。」
『すぐにネルフに事実確認を…。』
「放っておいてもいずれはバレることだよ。」
『しかし! 相田ケンスケの母親が…。』
「もう手遅れだよ。」
『!?』
「四号機が輸送完了したらすぐに調整するために、もう“材料”化させられてる。」
『なんてことだ……。』
『すぐにネルフに抗議文を送るべきだ!』
「証拠は?」
『落ち着きなさい。ここでの会話を証拠としても、何も出ないでしょう。』
『ですが、波川司令!』
「ネルフは、あれでも証拠隠滅にかけては相当な力があるからね〜。ましてやまだ本部の内部構造に関しては、謎が多すぎるでしょ? 隠すことにかけては、向こうの方が上手だよ。現時点ではね。」
 ツムグがそう言うと、波川以外の指揮官達が悔しさに顔を歪める。
 一般人の死をみすみす見逃してしまったのだ。しかも、共同戦線の約束を交わした相手にだ。
 ましてやいきなり14歳の子供を徴兵するというか、子供でないと動かせないエヴァンゲリオンの兵器としての有用性もどうかと思うが、その実態が実は人間を使っていた生体兵器で、なおかつ自分達はその非人道的な兵器を運用している相手と共同戦線を結んでいるのだ。一般社会にエヴァンゲリオンの実態が知れれば非難囂々だろうし、その実態に気づけなかったとして地球防衛軍への飛び火も考えられる。
 すると指揮官の一人がツムグを睨んだ。
『お前…知っててこの事態を?』
「何度でも言うけど、俺はそこまで万能じゃ無いんだよ? 回避しようのない絶対的な死はどうしようもないしね。ケンスケの母親はどうしようもなかった。材料になって死ぬか、別の方向で死ぬかの違いでしかないよ。さて、どうするの? 知った上で食べきるまで共同戦線を続けるか、まだ有用な情報を食べきっていないうえで放り捨てるか。」
 地球防衛軍とて、まったく手を汚したことがないと言ったら、全くのウソだ。地球防衛軍だって一枚岩じゃなかった。当然人間同士のトラブルだってあったし、非人道的な実験に手を出したことだってある。なので一般人をエヴァンゲリオンの材料にしたとしてネルフを責めるのはお門違いなのである。
 ハッキリ言って地球防衛軍の運営状況は、縮小からいきなり復活したため、まだ脆い状態だ(人手不足も祟っている)。それゆえに要らぬトラブルは避けたかったのだ。そんな中で発覚したのが、エヴァンゲリオンの実態だ。無視して放っておいても、世間に公表しても痛手は避けられない。
「使徒が派手に、デカいことをやってくれれば世間の目をそっちにズラして、シラを切ることぐらいはできるんじゃない? だいたいここでの話だって、波川ちゃん達しか知らないし。」
『あっ。』
 その声を誰が漏らしたかは分からない。少なくとも波川ではない。
『いずれにせよ…、ネルフとの共同戦線は、継続します。……相手の中枢にまだ牙を立ててないので。』

 こうして、波川を始めとした一部指揮官がツムグからエヴァンゲリオンの実態を知った上で共同戦線の継続を行うと決定した。



To be continued...
(2020.08.29 初版)


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