ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第七話

逃亡戦!

presented by 蜜柑ブタ様


「うぉおおおおおおお! 轟天号メッチャカッけぇぇぇぇ!!」

 眼鏡の少年、相田ケンスケが、ネルフ・アメリカ支部に停泊している轟天号を間近で見てうるさく叫ぶ。
 エヴァンゲリオン四号機の搬入のため、忙しく働いていた地球防衛軍の作業班は、なんでこんなところに子供がいるんだ?っと不思議がった。
「ああ、カメラカメラ! あっ、そうか、さっき没取されたんだった! もう僕のカメラ返せよ! 天下のネルフのチルドレンだぞ!」
 そう言っているので、ああ、なるほどっと納得する。
 話に聞いていたフォースチルドレンなのだ、彼は。しかし、疑問が再び浮かび上がる。なぜアメリカ支部に、日本にいるはずのチルドレンである彼がいるのかと。
「相田君、ここには軍事機密があるの。だからカメラは持ち込めないって出発前に説明したわよね?」
「で、でもミサトさん! こんな絶好の機会なんて一生無いんだし…。」
「機密は機密なのよ。チルドレンから外されたくなかったら、言うことを聞くことを覚えなさいね。」
「…はーい。」
 ケンスケは心底不服そうに返事をした。
 なんで、ネルフの作戦室の人間がここにいるの?っと更なる疑問が湧いてくる。
 なので作業の手が遅くなっていると。

「おまえら! 仕事はどうした! さっさと終わらせねぇと日が暮れちまうぞ!」
「ハッ! 申し訳ありません、ゴードン大佐!」

 轟天号に乗る地球防衛軍の者達が一斉に声がした方を向いてビシッと背筋を伸ばして敬礼した。
 迫力のある男の怒声に、ケンスケはビックーっとなり、そちらを見ると、大股でブーツの靴底を鳴らしながら歩いてきたのは、大柄なガッシリ体系の50代ぐらいの超強面の軍人だった。腰には業物らしき日本刀がベルトに刺さっている。
 焦げ茶色のコートの襟に付けられたバッチから階級が大佐であることははっきりとしている。
 見た目もさることながら纏うオーラの次元が違う。そのため彼の登場にアメリカ支部のネルフ職員達も思わず彼に向って敬礼していた。なおミサトはしていない。
「なら、とっとと仕事に戻れ!」
「イエッサー!」
 地球防衛軍の者達は一斉に仕事に戻って行った。
「四号機の搬入お疲れ様です。ゴードン大佐。」
「…誰だ?」
「ネルフ本部、作戦本部長、葛城ミサトです。」
「……聞いてねぇな。」
「はっ?」
「俺達は、四号機とネルフの人間を一人。運ぶよう言われただけだ。お前のことは聞いていないぞ。」
「連絡の行き違いがあったのでしょう。私と相田ケンスケ君を乗員させていただきます。」
「ダメだ。」
 速攻で断られた。
「なぜ…?」
「てめぇらは信用ならねぇんだよ。」
「っ…。」
「た、たたた、大佐だかなんだか分かんないけど! ミサトさんになんてこと言うんだよ! こんだけデカけりゃ乗せてくれたっていいじゃないかよ!」
「やめて相田君!」
「あいだ…。ああ、チルドレンとかいうエヴァンゲリオンのパイロットのことか。なんだってこんな所にいるんだ?」
「四号機は、彼が乗る予定になっていて、機体の説明や微調整を…。」
「そんなもん日本でやればいいだろう。なぜアメリカまで来てやる必要がある?」
「少しでも使徒との戦いに備えられる準備を…。」
「それこそ日本でやるべきだと思うがな。」
「これは、ネルフの総司令部からの指示です。」
「…まるで示し合わせだな。」
「えっ?」
「まるでこれから使徒が襲ってくるから四号機で迎え撃つためってようにも思えるぜ。」
「えっ!?」
 今度はケンスケが驚いて、ミサトを見た。ミサトは、たらりと汗を一筋垂らした。
 険悪なムードとなる中。
 そこへ、ひとりの男がやってきた。

「お疲れ様です、ゴードン大佐。」

「えっ!? な、なんであんたがここにいんのよ!?」
「…知り合いか?」
「ええ、旧知の仲です。自分は、加持リョウジ。四号機共々、よろしくお願いします。」
「ああ、お前が運ぶ予定のネルフの人間か。」
「申し訳ありませんけど、ネルフからの追加連絡で、彼女らを乗せてやってはくれませんか?」
「はあ?」
「これが書状です。」
 加持が恭しく書類をゴードンに渡した。
 ゴードンは、書類を受け取りそれに目を通すと、面倒くさそうな顔をした。
「チッ。面倒なこったな。」
「ありがとうございます。」
「加持君…どういうつもり?」
 ミサトが加持を睨む。だが加持はどこ吹く風といった様子で肩をすくめた。
「別に何も? 俺は新しい追加命令を伝えただけだぜ?」
「もしかして轟天号に乗れるんですか!?」
「ああ、そうだとも。君と葛城が乗ってもいいって決まったんだ。」
「やったーーーー!」
 ケンスケは飛び上がって喜んだ。
 すると、遠くから四号機の搬入が終わったという声が聞こえた。
「ちょ、ちょっと待って! まだ調整もなにもしてないわ!」
「行こうぜ。早くしないと防衛軍側の機嫌が悪くなるぜ?」
「あ! 四号機見てない! あとで見たい!」
「おらぁ! お前らトロトロしてんなら置いてくぞ!」
「早く乗ろう。」
 なんやかんやあったが、ミサト達も乗船することとなった。
 色々と設備を見て回りたがるケンスケを連行する形で引きずって行き、轟天号内の一室に放り込まれた。
「なんだよー! 乱暴な奴ら! 地球防衛軍って乱暴だ!」
「まあ、彼らもピリピリしてるんだ。乗せて貰えるだけ有り難いんだから文句言っちゃいけないよ。」
「くっそ〜! 狭いし、窓も無いし、外が見えねーよー! うるさかったけど見学だけでもしてやる! って、鍵かかってる!? これじゃあまるで牢屋じゃないか!」
「徹底して轟天号内を見せない気ね。」
「そりゃそうだろうな。地球防衛軍や社会からのネルフの評価も好感度も落ちるところまで落ちているんだから。」
「なんで!?」
 扉を開こうと躍起になっていたケンスケが加持の言葉に反応した。
「いや〜、アメリカ国内でのネルフへの風当たりがすごかった…。今まで好き勝手したツケが回ってきたんだ。小さい罪からデッカい罪まで、特権を利用されて泣き寝入りしていた連中が多いからな。」
「ね…ネルフって、そんな悪いことばっかしてたんですか?」
 恐る恐る聞くケンスケに、ミサトは口を閉ざした。
 それを肯定と取ったケンスケは、ウソだろ…っと口元をひくつかせた。
「ケンスケ君。世の中にはヒーローなんてものはいないんだ。君がなにを理想としてチルドレンになったかは分からないが、エヴァンゲリオンに乗るって事は決して英雄(ヒーロー)になれることじゃないんだ。むしろネルフが社会的に悪者扱いされている今、エヴァンゲリオンのパイロットなんて口に出せばどんな批判や暴力が来るか…。」
 加持がそう語ると、ケンスケは、そんなぁ…っと青ざめた。
「更生施設から無理矢理出して徴兵したとは聞いてたが……、何も話してなかったんだな、葛城。」
「チルドレンには無関係の事よ。世間一般からのクレームを受けるのは。」
「ネルフの一般職員でさえ、今まで顔なじみだった店に顔を出せない有様だってのにか?」
「防衛軍も防衛軍よ。共同戦線って言いながら、全然コッチのフォローしないし。」
「そりゃ、お前…、コッチが喰われる側だからさ。」
「くわれる? なによ、コッチはシマウマみたいな扱いなわけ?」
「文字通りさ。地球防衛軍は、こっちが抱えている情報を入手したいんだ。サードインパクトを防ぎたいのは共通の目的ではあるが、地球防衛軍は必要情報さえ入手すれば、あとは自分達でやっていけるだけの力があるし、自信もある。長い年月ゴジラや怪獣と戦ってきた経験値は35年経った今でも生き続けてるんだ。必要な情報さえ食い終われば、ネルフはすぐにでも捨てられるだろうし、最悪これまでの横暴を盾に潰されるのがオチだろうしな。」
「ーーーっ! アイツらぁ!」
「この轟天号の中での俺達の扱いが、今の地球防衛軍とネルフの立場だ。」
 そんな会話をしていると、警報音が鳴った。


『緊急事態! 巨大な未確認生物が轟天号の真下を潜航中! 総員緊急配置につけ!』


 轟天号艦内にそんなアナウンスが流れた。
「どうやら…、来たようだな。」
「なにが? …まさか?」
「使徒だ。」
「え…、ええ!?」
 青ざめぼう然としていたケンスケがそれを聞いてやっと現実に戻って来たのだった。





***





 一方、轟天号の中枢。つまり管制室では。
「解析完了! パターンブルー! 使徒で間違いありません!」
 コンピュータで解析していたオペレーターが中央の席に堂々と座っているゴードンに報告した。
「…使徒は第三新東京に現れるんじゃなかったのか?」
 ゴードンは、思わぬ場所に使徒が現れたことにそう呟いた。
「現在、使徒は轟天号の真下にぴったりついてきています。今のところそれ以外の変化は見られません。」
「まさか、このまま一緒に第三新東京に行くつもりなんでしょうか?」
 副艦長が冗談交じりにそんなことを言った。
 使徒は、なぜわざわざ轟天号の真下にぴったり合わせて泳いでついてきているのか。そしてついてきていること以外に何もしてこないのが不気味だ。
「飛行高度と速度を上げてまきますか?」
「このまま様子を見ろ。」
「了解。飛行高度、速度をこのまま維持せよ。」
「風間。たぶん、奴が来るはずだ。頼むぞ。」
「Roger(ラジャー)。」
 轟天号の操舵手である風間が、鋭い目つきでモニターを睨みながら淡々とすごい良い発音でゴードンに返事を返した。
 このまま膠着状態が続くと思われたが、僅か数分後に新たな警報を知らせる表示が出た。
「艦長! 轟天号の後方から使徒以上の巨大な物体が接近中!」
「これは…、ゴジラです! ゴジラが海中から追ってきています!」
「なんだと!?」
 それを聞いた副艦長が驚きで目を見開いて叫んだ。
「艦長! この事態は、一体…。」
「ハッ…、そうきたか。」
「艦長?」
 副艦長がゴードンを見て指示を仰ごうとしたら、ゴードンはすでに何かを見抜いたかのように鼻で笑い、艦長の席の腕かけのところに頬杖をついて口元を釣り上げて笑っていた。
「真下にいやがる使徒は、これが狙いだった。自分を餌にゴジラをおびき寄せて轟天号とゴジラを戦わせて、漁夫の利を得ようって算段だな。」
「…そ、そんなことが……。あ、だからさっきからついてくるだけで何もしてこなかったということですか!? 艦長、指示を! このままでは、ゴジラは、使徒とエヴァンゲリオンを運んでいる我々を狙ってきます!」
「そいつも計算の内だろう。使徒にしてみりゃ俺達もエヴァンゲリオンも共倒れしてくれりゃこれ以上ない喜ばしい状況になるだろうからな。」
「熱源感知! ゴジラの熱線が来ます!」
「風間!」
「フッ!」
 ゴジラが海中を泳ぎながら背びれを光らせ熱線を海の上を飛行する轟天号に吐いたのを、風間が紙一重で回避した。
 熱線の余波が轟天号に伝わり船体が揺れた。
「ハハ…、マジでセカンドインパクト前より強くなったんだな、ゴジラよ…。」
 ゴードンは、慌てることなく、むしろ喜んでいるように口元を緩めながらそう呟いた。
 ゴジラの攻撃から逃げるため飛行速度が上がる。使徒もついてくる。
 ゴジラは、使徒より轟天号の方を先に撃墜しようとしているらしく連続で海の中から上空へ向かって熱線を吐き続ける。
 それを風間が眉間に皺を寄せて、時々唸りながら回避していく。風間は、尾崎に次ぐミュータント部隊のエースだ。それゆえに明らかに異常なまでの操縦テクニックを発揮する。ちなみに尾崎は、轟天号に兵器管制を担当しているのだが、今は尾崎が入院中なため別の者が担当している。兵器管制を任されるほどなので実力はあるのだが、この非常事態に汗をダラダラ垂らして兵器を発射するための幹を握る手が震えている。
 なお、ゴジラに撃墜される危機に瀕してる状況だというのに、風間は懸命に操縦桿を操作しながら兵器管制につかされた者を観察して、シンジを治療するために危うく死にかけて入院沙汰になってしまった尾崎に向って心の中で文句を垂れていた。基地に帰ったら真っ先に尾崎に入院沙汰になるようなムチャをしたことについて怒ってやると決めた。
 念のために、風間は今兵器管制を担当している仲間に不満があるわけじゃない、彼にとってライバル的な位置にいる尾崎が何日も入院してて訓練やそれ以外の仕事の時も張り合いがなく本人は無自覚にストレスを溜めているだけだ。
 日本まではまだ遠い。風間の操縦テクのおかげで直撃は免れているが、強化されたゴジラの熱線の余波は防ぎきれない。ゴジラの熱線を回避するごとに船が揺らされるため、船内にいる人間達に負荷がかかる。それに風間だって長くはもたない。このままでは消耗する一方だ。
 尾崎がいたらなら、ゴードンは、この状況を好転させるために上層部から怒られるのを承知でムチャクチャな作戦で攻撃をしていたに違いない。しかし残念ながら尾崎はいない。尾崎の代わりの兵器管制を担当している兵士を軽んじているわけじゃないのだが、いかんせん緊張のあまりガチガチになっているので、今後のためにも経験を積ませてやりたいところだが一歩間違えれば全滅は免れない。ゴジラがゴードンが知るゴジラ以上に強くなっていることも問題だ。そこは轟天号の最高責任者である自分の判断にすべてがかかっている。
 そしてゴードンは、決断した。
「全速力で海へ潜れ! 海底付近までだ。」
「艦長!? 何をするつもりですか? まさか使徒とゴジラを相手に…。」
「少し違うな。」
「はい?」
「エンジン全開! 潜水モードへ移行!」
「海へ突入します! 総員、衝撃に備えよ!」
 ゴードンと副艦長のやり取りが行われている間に、テキパキと優秀な船員達が轟天号を操作し、轟天号はエンジンをフル稼働させて全速力で船首のドリル部分から斜めに海へ突入した。
 轟天号が海中を潜航し、海底付近まで潜っていく間に使徒ガキエルは、轟天号に追いつき、海底すれすれで轟天号の下に潜り込むと、轟天号の腹のあたりの外装の一部にその大きな口を開けて噛みついた。
「使徒が轟天号の下部に噛みついてきました! 使徒は外装に噛みついたままです! 泳いでいません! どうやらコバンザメみたいに張り付いているようです!」
「自分もろともこの轟天号と心中するつもりか!? 艦長! このままでは、使徒もろともゴジラに撃墜されてしまいます! どうするおつもりですか!?」
「海底火山がこの海域にあったはずだ、そこまでお連れしな。」
「えっ?」
 それを聞いた船員達全員がいや〜な予感がした。特に副艦長などはゴードンと轟天号で怪獣と戦った経験の持ち主であるため、ある怪獣との戦いの記憶が蘇って真っ青になりダラダラ汗をかき始めた。
「か、艦長…、それは…、それだけは…! 船員達はまだ怪獣との戦いの経験のない者達ばかりなのですよ! それに使徒にその戦法が通じるか…。」
「うるせぇ。今回は、戦って勝つんじゃない。逃げ切るのが目的だ。」
「…了解!」
 腹をくくった副艦長は敬礼し、察した船員達も覚悟を決めた。
「間もなく、海底火山のエリアに入ります!」
「よし、海底火山に向ってミサイルを撃て。」
「えっ? …ら、ラジャー。」
 兵器管制を担当しているミュータント兵士がゴードンの命令に一回後ろの方にいるゴードンの方を見ようとしたが、なんとかこらえて、数発のミサイルを海底火山に向って発射した。
 ミサイルが着弾したことで海の底で赤々と燃え盛るマグマを噴出し続ける海底に亀裂が入り、海の底に灼熱のエリアが広がった。そこに使徒が引っ付いた轟天号が突入した。
 轟天号の真下は灼熱のマグマ。轟天号の下には、使徒。轟天号よりガキエルの方が熱で炙られている。
 ゴジラは、マグマなどものともせず追跡してくる。ゴジラは、その性質上熱に強いのでマグマなど屁でもないのだ。大体熱線の温度は90万度もあるのだからそれをバンバン吐きだしまくるゴジラが熱に弱いわけがない。ゴジラ撃退用の武器に冷却兵器がよく使われるのもこのためだ。
「船内温度60度突破! 冷却機器がオーバーヒート! 船内温度の上昇が止まりません!」
 オペレーターが血を吐きそうな勢いで叫ぶ。
「まだだ、進め!」
 慌てる船員(風間以外)達に、ゴードンが命令する。
 マグマの熱で炙られまくるガキエルが、身をよじり始めていた。白い体は炙られて所々黒ずみ、焼け焦げはじめていた。
「船内温度90度!」
「かんちょー!」
 普通の人間でもミュータントでもやばい温度に突入して、轟天号のシステム全体が悲鳴を上げるように火花があちこちで散り、蒸気が漏れたり、船員の中に熱にやられて席から倒れる者が出始めた。風間は汗を垂らしながら操縦桿を握りモニターを睨みつけて耐えている。
 マグマの熱で轟天号の船体が熱で赤く染まり始めた頃、ガキエルは轟天号の外装に噛みついてはいるがジタバタ暴れ始めていた。焼け具合ももはや表面だけ黒こげで中身は生焼け状態寸前の焼き魚状態だ。
 そしてついにガキエルが海の中で悲痛な鳴き声をあげて轟天号の外装から口を離した。そして一目散にマグマの熱から離れようと温度の低い方へ泳いで行った。
 追跡していたゴジラが、轟天号から離れて移動していく使徒の方へ針路を変えた。
「今だ、離脱しろ!」
 ゴードンの合図と共に風間が操縦桿を操って海底火山エリアから脱出するよう進路変えた。
 轟天号は、マグマの熱から逃れたことで海水で冷却されながら潜航を続ける。
 ゴジラと使徒ガキエルとは、まったく違う方向へ…。
「ゴジラよ…。戦いは次に持ち越しだ。次は正々堂々戦おうぜ。」
 轟天号からは、もう遥か遠くの方で、ガキエルに襲い掛かっているゴジラに向けて、ゴードンはそう呟いた。
「艦内より報告! ネルフ職員、及びチルドレン、熱中症にて倒れているとのこと。医療班の報告によると命に別状はありません。」
「艦内の冷却装置がダメになったんだ…、そりゃ倒れに決まってる。ああ…、それにしても今回の逃亡戦で負った轟天号の損害についてなんて報告したら…。使徒とゴジラから逃げるためということで、少しは目を瞑って貰えるだろうか?」
 事が終わったあとのことを考え、副艦長は頭を抱えたのだった。
 そして轟天号は、飛行モードに移行し、無事に第三新東京に到着するのだった。
 四号機と共に、ミサト、ケンスケ、加持は、ネルフに降ろされた。
 基地に帰った轟天号は、すぐさまドッグで修理され、乗っていた船員達の中に出た負傷者は医療機関に行き、ゴードンと副艦長は、司令部へ呼び出された。
 ゴードンは堂々とした態度を崩さないが、副艦長は汗をダラダラかいて上層部から下されであろう処罰に暗くなっていた。
 しかし上層部から言い渡されたのは、緊張でガチガチになってた副艦長を拍子抜けさせるほど軽い罰だった。

 そんなこんなで、セカンドインパクト後、轟天号の初仕事となったエヴァンゲリオン四号機と、加持達の移送任務は終わったのだった。





***





 轟天号を破損させた罰で、独房で数日過ごすことになったゴードンは、簡素な格好でベットの上で刀を磨いていた。独房行きやら始末書などは、上層部を怒らせることが多い彼には慣れっこだった。
「お疲れ様ぁ〜、ゴードン大佐。」
「なんだ…、おまえか。」
 独房の檻越しに椎堂ツムグがゴードンに話しかけてきた。ちなみに足音はしていなかった。
 ゴードンは、椎堂ツムグとの付き合いが長いので別に驚きはしない。
「聞いたよ。大変だったんだんだね? 折角のゴジラさんとの再会だったのにねぇ。」
「なーに、奴と戦う機会はこれからまだまだ沢山ある。焦るこたないさ。」
 ゴードンは、ニヤリと笑って楽しそうにそう言った。
「それでこそゴードン大佐だね。ゴジラさんも轟天号と戦えなくて、残念がってたからそう言ってくれると俺も嬉しいよ。」
「ゴジラが? あの野郎、昔の戦いの続きをしてるつもりか。」
「たぶんそうだと思うよ。轟天号は、ゴジラさんが封印された時に最後に見た人類の武器だし。特に印象に残ってるんだ。」
「そうか。おい、ツムグ。ゴジラに言っておけ。あの時、テメーを氷の中に封印したのは、この俺だってな。」
「大丈夫だよ。言わなくたって、戦ってればゴジラさんがゴードン大佐のこと知るからさ。それに、ゴジラさんは、他のことで忙しいからたぶん地球防衛軍との戦いはしばらくそっちのけになると思うよ。」
「使徒か…。」
「あとエヴァンゲリオンもね。…ま、それだけじゃないんだけどさ。」
「どういうことだ?」
 ゴードンが立ち上がり、檻を間に挟んでツムグと向かい合った。
「そのことは、尾崎から聞くと良いよ。人間のことは、人間で解決した方がいいと、俺は、思うから。」
「尾崎が? あいつが何を知ってるってんだ?」
「ちょっとね。色々あって無理やりそうなっちゃっただけだよ。独房から出たら、尾崎と風間とミユキちゃんが内密な話をしたいって来ると思うから、周りに気を付けてね。」
「ほう? そりゃよっぽどのことなんだな?」
「当り前じゃん。だってゴードン大佐は、尾崎達に信頼されてるんだよ。ねえ、ゴードン大佐、俺ね、どっちでもいいんだよ。人類がどうなろうと。でも、ちょっと気に入らないんだ。ゴジラさんの怒りはもっとものことだ。」
 ツムグは、そう言うと背を向けて立ち去って行った。
 残されたゴードンは、独房のベットに再び腰かけ。
「『人間のことは、人間で解決した方がいい』か…。誰だ? 誰が何を企んでやがる? 俺達を無視するほどゴジラを怒らせることをやったのは、誰だ?」
 ゴードンは、そう独り言を呟いた。
 そして彼は、静かに、静かに独房の中で時が来るのを待つ。



To be continued...
(2020.08.29 初版)


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