第十四話 ヒカリの長い一日
presented by ながちゃん
よいこのみんなへ
ぱそこんのがめんをみるときは、へやをあかるくして、はなれてみてね♪
ここは第三新東京市、その中心街…。
そこは先刻までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。
周りを見渡せば、人っ子一人いない。
夜の帳が下り始めた頃になっても、大通りにはクルマのヘッドライトの明かり一つさえ見えなかった。
何故か?
──未だ避難勧告は解除されてはいなかったからである。
第五の使徒、雷の天使とも称されるラミエルはラミエルで、例のドリルでボーリング作業をするでもなく、まだそこに居座り続けていた。
その威容を誇示するが如く…。
〜ネルフ本部・地上入館ゲート〜
地上でラミエルの姿を確認した銀髪の少年は、急ぎネルフ本部へと急行していた。
まさかこんな早く第五の使徒が現れるとは、さすがの少年も思ってはおらず、心ばかりが焦る。
自分には、もう乗れるエヴァはない。
だが自分はチルドレンなのだ(補欠だけど)。
使徒と真に戦えるのは自分だけなのだ。
その自負と矜持が、今の少年を突き動かしていた。
ようやくゲートに辿り着くと、無人のハズのその場所から、何故か人の声が聞こえてきた。
気になって少年が立ち止まると、一番端のブロックにある大型ゲートのほうから、数人のネルフ職員が出てきた。
何やら大きめの荷物を搬出しているらしく、数人が幌付きのトラックをエレベーターの中へと誘導していた。
使徒侵攻中に何を…と思わなくもなかったが、そのときは別段気にするでもなく、そのまま少年は横を通り過ぎようとした。
だが、
「──しかしまぁ、とうとうあの作戦部長も、年貢の納め時というわけだな…」
「まぁ、あれだけのことをしでかしたんだ。 寧ろ、遅きに失したと言うべきだね」
「…自業自得か。 だがこの断頭台に、再び出番がやって来るとはな……正直、複雑な気分だよ」
突然、職員たちのおどろおどろしい内容の会話が、その耳に飛び込んできたのだ。
(!? 何だってぇ!?)
少年は…ダッシュは、我が耳を疑った。
慌てて男たちを呼び止める。
「あの、スミマセン! ──その、今の話って、どういうことなんですか!?」
〜ネルフ本部・司令室〜
「どういうことかね、それは?」
冬月がその怪訝そうな顔をリツコに向けていた。
「はい。 実にコアの98パーセント余りが失われましたが、徐々に再生を始めています。 これは上半身についても同様です。 生きています、初号機は」
「再生、かね……まるで肝臓だな」
「……では、元通りになるのだな?」
この降って湧いた一筋の希望に、ゲンドウは逸る気持ちを必死に抑え、だが強く念を押して確認する。
その態度にリツコは唇を噛むが、……一嘆息して、事実のみを答える。正直に。
「精査してみませんと、ハッキリとしたことは申せませんが、──現時点で、再生したコアの波形パターンには、かなりの異常が見受けられます」
「「!!!」」
「な、中身が、魂が変質しているというのかねっ?」
冬月も慌てていた。
初号機のコアには、大切な女性が眠っているのだ。
少なくとも彼らはそう信じていた。
「変質というよりは……劣化でしょうか。 かなり再生に…組織の複製に負担が掛かったものと推測されますので…」
「ぬぅ…」
まさにぬか喜び、天国から地獄への急転直下。
ゲンドウは、今さらながらに葛城ミサトという女への憎悪をひどく募らせていた。
………
………
しかし使徒侵攻中だというのに、こんなことをしていて大丈夫なのだろうか?
彼らの頭上には、未だ第五使徒がふんぞり返っているのだ。
〜第三新東京市・郊外〜
『…いいの? 勝手に帰ったりして?』
肩の上の白猫が心配する。
未だ使徒侵攻中であり、当然、避難勧告も解除されてはいなかった。
薄暗い街中には、当たり前だが人の気配は全くない。
なのにこの少年──碇シンジ──は、家路につこうとしている。というか、もう家は目の前だ。
「だって、居たってやることないし」
『……』
使徒の殲滅は?
と言いそうになるが、グッと言葉を飲み込む白猫であった…。
その30分ほど前──
ネルフ本部にあるエヴァのケイジはというと、収容された初号機の愕然たる惨状から、蜂の巣を突付いたような騒ぎとなっていた。
激しく飛び交う指示と報告、怒号と罵声…。
シンジは、初号機から自力で降りると、そのまま誰にも気付かれることなくケイジを出る。
誰一人として、今のシンジに意識を向けてくれる者はいなかった。
…いや、少し語弊があるか。
少年がケイジ横のロッカールーム(兼シャワー室)から出ると、ドアの前には、レイという名の少女がいたのだから。
見れば、息を切らせて、肩を上下させている。
恐らく、発令所からここままで走ってきたのだろう。
幾分、頬も赤い。
そして、「コレ…」と言葉少なげに、少年にタオルを手渡した。ひどく恥ずかしそうに、その視線を落としたままに。
自分の感情に戸惑っていた。
「うん、ありがとう」
少年は、屈託のない笑顔を返した。
………
………
「えーと、僕って、帰っていいのかな?」
「──貴方は、あくまで避難を目的に初号機に搭乗させられただけ。 ……だから、大丈夫だと思う」
無論、少女もそれがネルフの詭弁であることはわかってはいた。
だが、それがネルフの公式な見解である以上、少年が勝手に帰宅したとしても、表立って異議を唱えることは出来ないのだ。
唱えた瞬間、大人の面目が丸潰れとなるのだから…。
「どう? 一緒に帰る?」
と、少年。
だが、ふるふる、と少女は首を振った。
自分は、チルドレンだからと…。
〜ネルフ本部・某会議室〜
「定例の報告にしては、いつもより早いお呼び出しですな、キール議長」
真っ暗な室内、その中に浮かぶ五つのホログラフィーに対し、ゲンドウは皮肉の言葉をぶつける。
ここはネルフ本部、本館ビルの中にある会議室の一つ。
男が相対するは、人類補完委員会の常任メンバー、いつもの面々である。
「…碇よ、なにゆえ日本政府とあのような契約を交わした?」
「左様。 これは由々しい問題だよ」
「越権行為も甚だしい。 一体どう責任をとる気かね?」
口火を切ったキールに、他の委員たちも同調する。
それは質問というよりは、糾弾。
「ご心配なく。 あれはかの国の力を削ぐための策です。 我々にとってアレは目の上のタンコブ。 これは前々より練っていた計略なのですよ」
そうゲンドウは嘯く。無論、嘘八百、後から考えたこじつけ。
「ほう、…ものは言いようだな」
「単に他人の財布を当てにしただけではないのかね?」
「訊くまでもないことだよ」
委員たちの冷めた反応。
今回はヒートアップしない。どこか達観していた。それは男に対する猜疑心の表れでもあった。
「何と仰られようと、それが真実ですので」
嘘も譲らなければ真実となる。それがゲンドウという男の経験則。
「フン……だが万一の場合はどうするのだ?」
万一とは、一年後にジオ・フロントを強制収用されるような事態になったときのことである。
「これは異なことを…。 そもそもサード・インパクトが起きなければ、我々ネルフを云々する以前に、皆々様方のお立場も危ういのではないでしょうか? 色々とご無茶なことを続けてきたと聞き及んでおりますが?」
「……」
委員たちは一様に沈黙する。
だがこれは、論理のすり替えにすぎない。
それに、将来的にサード・インパクトが発生しなければ、勿論、委員会やゼーレはその存在自体を瓦解せざるを得ないが、一年後という期限付きで差し迫ったものではないのだ。
予言されたスケジュールに固執しなければ、世界経済の破綻も、老人たちの延命にも、あと数年の猶予はあるのだから。
猶予がないのは、──ネルフ、つまりゲンドウだけである。
「あの女は…葛城ミサトはどうした?」
「参号機に続き、初号機までも大破させた彼女の責任は重大です」
質問には答えず、代わりに自らの主張を述べるゲンドウであった。
「…殺すことはまかりならん」
バイザーの男が重厚な口調で釘をさすが、その言葉を予期していた男は口の端を歪める。
そう…もう遅いのだ。
そんなこともあろうかと、ゲンドウはミサトの処刑を急がせたのだ。
今頃は、あの女の首と胴体は、永遠におさらばしているハズである。
処刑の時刻はとうに過ぎていたのだから。
それに、万が一の事態を考え、子飼いの黒服たち数十名に女の身辺を固めさせてある。
処刑は、戒厳令下の地上、誰一人として観客のいない真夜中に執り行われる運びとなっていた。
無論、急ぐというのなら、ドグマ内での銃殺、これに勝るものはない。警備上の問題もある。
だがこれでは、ゲンドウの気が済まなかった。許せなかったのだ。
あの女は、最愛の妻を公然と侮辱し、あまつさえ彼女が眠る初号機のコアに大穴を開けたのだから。
下手をすれば、妻は、碇ユイはこのまま──
…考えたくもなかった。
出来得るなら、ゲンドウ自らミサトの処刑を執行したかったのではあるが、急な老人たちの呼び出しのため、断念せざるを得なかったのだ。残念。
その代わり、綿密なビデオ撮影を指示していた。後で楽しむためにである…。
刑後の遺体についても、埋葬などは許す気もなかった。
取りあえずはホルマリン漬けにしておき、後日、徹底的に甚振る。
男は、そんなことを考えていたようである。…悪趣味。
「残念ですが、──少し遅かったようです」
ゲンドウは、そのゲンちゃんポーズを崩さないまま、不遜の態度で事実のみを伝える。
これには委員たちが気色ばむ。
「…まさか、殺したというのかね?」
「…勝手なことを……我らを裏切る気か?」
「これは心外ですな。 私は貴方がたに絶対の忠誠を尽くしてきました。 無論、今も昔もです。 叛意などもってのほかですよ」
ゲンドウは平然と嘯いた。
だが忠誠を尽くしている割には、えらく態度が不遜ではあるが…。
「…あれは我々の計画に必要なキャストだ。 この修正、容易ではない」
そうバイザーの男が苦言を呈すれば、
「お言葉ですが、あの女を放置すれば、計画そのものが瓦解しておりました。 それでは本末転倒です。 あの女は獅子身中の虫なのです。 そもそも貴方がたの計画には、あの女があれほどの無能、有害であることは織り込み済みだったのですか? …そうではないでしょう? それこそが、シナリオにない事態であり、破綻の始まりであったのですよ」
と、鬚面の男は一歩も引かない。ここが踏ん張りどころなのだ。
「……」
男の恣意的な持論はなおも続く。
「計画の一端を任されている身として、予言が間違いだったとは申しません。 ですが、あの女の実態はあまりにもお粗末です。 そもそもこれは、ミスキャストではなかったのですか?」
「…それはどういう意味かね?」
委員の一人が怪訝そうに噛み付く。
「15年前、南極の地でゼロ・チルドレンに選ばれるべき存在は、本来、別にいた──ということですよ」
「……」
「そもそも予言には、『葛城ミサト』個人を指し示した具体的な記述は、何一つありませんでした。 つまり、まったくの別人をお鉢に据えたという可能性──それを、私は申し上げているのです」
「…あれは故・葛城博士の人選だ。 それは予言にも合致する」
キールが反論するが、間髪入れずに、ゲンドウが畳み掛ける。
「ですがそれも直前に変更されたことです。 そもそもゼロ・チルドレン候補の少女は別におりました。 それを故・葛城博士のゴリ押しで、調査隊の出航の前日に、すり替えられたのですよ」
「……」
「何故か? ──私の見立では、彼の家庭の事情が多分に絡んでいたと睨んでいます。 調べたところ、当時の彼の家庭は、夫婦不仲で崩壊寸前、離婚の危機にあったということです。 恐らくは、実の娘にだけは父親の仕事をわかってもらいたかった、家族の絆を繋ぎ止めておきたかった、そんな思惑があったのでしょう。 ──どうです? これも貴方がたのシナリオのうちですか?」
「……」
ホログラフィーの男たちは、苦々しく沈黙を続けるのみであった。
まるで、嫌なことを思い出させてくれたと、そんな顔で…。
「もし今回の措置で、私めの責任を問われるというのなら…それもいいでしょう。 叛意ありと仰るなら、甘んじてその汚名も受けましょう。 ですが今回のことは、計画を遂行する上で、そして組織を守る上で、避けては通れぬ判断だったのです。 度重なる使徒戦での敗退、ジオ・フロントの全壊、数千名に及ぶ本部職員の殉職…、そのすべてがあの女がしでかしたことなのです。 勿論、どれもシナリオにない事態であることは、言うに及びません。 今やネルフ中に、あの女の無能さ加減、そして非人間性が知れ渡ってしまいました。 無論、組織の長としては慙愧の念に堪えぬことではあります。 ですがこの期に及んでは、組織の…ネルフの責任者として、信賞必罰、泣く泣く馬謖(ばしょく)を斬るほかなかったのです」
ゲンドウの、声を詰まらせての熱演、…とても詭弁とは思えなかった。
「…フン、先程からえらく神妙で、お為ごかしなことを言っているが、──単にユイ君を殺された腹癒せではないのかね?」
それは身も蓋もない言葉、だが図星でもあった。
ゲンドウは表情を変えずに平然と反論する。
「…事実無根です。 僭越ながら、自分は公私混同をするような人間ではないと自負しております。 ──それに現状、初号機は修復可能な状態にあります。 第五の使徒についても、急遽、対策を練っておる最中です。 どうかご安心を」
だがこの言葉に、委員たちはギョッと目を瞠る。
「初号機が無事だと!? コアを失ってもかね!?」
「馬鹿な……ありえんよ!」
「他のエヴァシリーズなら、とっくに死んでおる損傷なのだよ!?」
場は騒然となる。
ここにきて、委員たちは動揺らしい動揺を見せていた。
「あれはリリスのデッドコピーです。 他のエヴァとは由来もオリジナル度も異なります。 その違いでしょう。 問題ありません」
「ほう…初耳だな? たとえオリジナルの使徒…リリスと雖も、コアを失ったら死ぬほかないと思っていたがな?」
「……」
途端にゲンドウは口おとなしくなる。
キールに正論を突かれ、単に言い返せなかっただけなのだが、──沈黙は金なのだ。
それは男の最大の武器。
所詮、人の心は読めない。それが男にとっての強味であり、醍醐味。
そうすることで、相手は慄き自分に都合が良いように勝手に想像を膨らませてくれる…。
黙して表情を読ませさえしなければ、勝手に行間を深読みしてくれる…。
それこそが、この男の最大の処世術…。
だが裏を返せば、ただの棚ボタ。他力本願。行き当たりばったり。
しかし男の思惑どおり、追及は途切れ、話題は転じられた。
「しかし……何も起こらなかったとは……我らの杞憂だったのか」
「アレのあるドイツからは、未だ何の報告も上がってはきておらんよ」
「未だ胎児のままということかね」
委員たちは皆が皆、神妙な顔で首を傾げていた。
アダムと物理的接触を果たしたミサトが死ねば、何らかの現象が起きると危惧していたのだ。
有害とわかっていても、安易にミサトを更迭できない、そして何より殺せない理由がここにあった。
ビービービー
暗闇の中、突然、電話の呼び出し音が鳴り響いた。
「どうした冬月? 今は審議中だぞ?」
受話器に向かって窘めるゲンドウ…。
だが次の瞬間、
ガタンっ!
血相を変えて席から飛び上がった。そして周りを忘れての大絶叫。
「葛城一尉が逃げ出したぁ!?」
「「「「「!!!」」」」」
「馬鹿な……警備の人間は何をやっていたっ!? ──クッ、直ちに全館に非常線を張るのだっ!! 地上への全ゲートを封鎖しろっ!! 蟻の子一匹ここから逃がすなっ!! 見つけ次第、即刻処分だっ!! 生かしてこのジオ・フロントから──」
だがそこでキールの声が遮る。
「待て碇!」
「っ!?」
「そもそもアレが死んでいないのであれば、話は別だ。 ──殺すことは勿論、ネルフからの放逐も許さん!」
と、考え得る最悪の横槍。
だがこれには、さすがのゲンドウも収まりがつかない。
「クッ、ではあの女の罪を不問にしろと、どの面下げて今さら元の鞘に収めろと、そう仰るのですかっ!? お気は確かですか!? ネルフそのものが無くなってしまいますぞっ!? それこそ本末転倒、愚の骨頂ではありませんかっ!!」
男はあくまでミサトの処刑に拘っていた。
同時に、あのとき発令所で撃ち殺しておくべきだったと、今さらながらに猛烈に後悔していた。
「少し言葉が過ぎるようだな……キミは何様のつもりかね?」
「我らの飼い犬の分際で、いい気になるなよ、碇」
委員たちは口々に、男の僭越で非礼な態度を責め立てた。
そしてキールが締め括る。
「これは委員会の決定だ。 異議は認めん。 ──だが、アレの処遇についてはキミに任せよう」
「処遇を…任せるですと!? …先ほどの殺すなと仰られた言葉とは、だいぶ食い違うように思われますが!?」
ゲンドウは目を細めて不審がる。
「──無論、殺すことは罷り成らん。 だがアレの当面の去就については一任しよう。 これは我々の譲歩と思ってもらっても構わん。 が、常に監視だけは怠るな。 そして決して第三から外には出すでない。 特に、生命への危機、そして他組織との接触、これは厳として避けよ。 以上だ」
キールは心なしか憮然とした表情で吐き捨てた。
(グッ…)
ゲンドウは歯噛みするほかなかった。
これで、ミサトを公式に処刑することも、事故やテロに見せかけて暗殺することも、事実上、不可能になったのだ。
それどころか、逆に女の身辺警護まで言い渡されてしまった。
尤も、キールの指示はその解釈によっては、やろうと思えば、女をネルフ内で飼い殺しにしておくことも不可能ではなかった。
だがこれも、委員会で正式な方針が決まるまでの、当面の、あくまで暫定的措置であるのだ。
ほとぼりが冷めたら、どうなるのかさえもわからない。
想像できるのは、女にとっての復権、そして満開の笑顔……男にとっては、どれも嫌な未来ばかりであったのだから。堪らない。
ゲンドウは、今さらながらに老人たちがシナリオの改変に消極的であることを思い知らされていた。
そして、我が身を呪った。
激しく後悔した。
あのとき直ぐにでも射殺しておくべきだったと。
甘かったと。
「…碇よ、我らを失望させるなよ」
その言葉を最後に、キールたちは姿を消した。
〜第三新東京市・郊外、コンフォート17マンション〜
「はぁはぁ、ホントありがとねー、ダッちゃん♪」
ここはミサトのマンション。
部屋の主はというと、今まさにリビングのテーブルに突っ伏して、息を切らしていた。
まるで100メートルを数本ダッシュしてきたかのような草臥れようである。
「でも、貴方って、見掛けによらず強いのねぇー♪ もう、お姉さん驚いちゃったー♪」
まだ息が整わない女が、隣の少年に屈託のない笑顔を向ける。
「いえ、そんなことは──でも僕、黒服のヒトを……たくさん、殺しちゃいました…」
そう力なく答えるダッシュの表情は硬かった。
実はこの少年、ミサトの急を聞き、ドグマにある独房へと駆け付けていた。
無論、上司でありそして大切な家族でもあるミサトその人を救い出すためにである。
だがそこには、当然のことながら武装した黒服たちが待ち構えていた。
ダッシュは一応説得(警告)したが、彼らは無視して発砲してきたので、(さすがにミサトの前ではATフィールドを張ることも出来ず)やむを得ず応戦したのだ。
そして……その場に目撃者を残すわけにはいかなかった。
だから、その場にいた全員(当然、ミサトは除く)を殺した。
その数、実に25名に上っていた。
「いーのいーの、あんなの♪ ていうかアイツら、このアタシを殺そうとしたのよ!? まったくぅ、アタシが死ねば、世界そのものが終わりだっていうのに! アイツらはもう人類の敵、使徒と同類よ! てなわけで、このアタシが許すわ。 それに貴方は、正しいことを、人(アタシ)に褒められるようなことをしたのよ? 胸を張りなさい♪」
そう言って、パンと少年の背中を叩いた。
「正しいこと……そう……なんでしょうか?」
慰められても、まだ少年の顔色は悪かった。
未だダッシュの手には、生きている人間を、骨を、内臓を砕き、引き裂いた嫌な感触が残っていたのだ。
初めての人殺し。それも一方的な殺戮。──その拳は少し震えていた。
だがそのとき、
ギュッ
「!!!」
突然の感触に少年が我に返ると、ミサトが震える自分の体を抱きしめていたのだ。
それはとても温かく、柔らかく、そして幾分甘い香りのする抱擁であった。
そう…まるで母親のような…。
………
………
「…どう? 少しは落ち着いた?」
「…はい(////)」
不思議なことに、何時しか少年の震えは止んでいた。
「安心して。 ダッちゃんはアタシの家族だから……きっと守ってあげるから」
ミサトは少年をさらにギュッと抱きしめ、その耳元で優しく囁く。
(……家族……)
それは少年にとって、何よりも心安らぐ言葉であった。
「……はい(////)」
少年は身も心も蕩けさせながら、コクンと頷いた。
しかしそのとき、
(ニヤリ)
少年の耳横で女の口の端が大きく吊り上ったことを、当たり前だが少年は見逃した…。
「でも、大丈夫なんでしょうか? 何も考えずに、この部屋に戻って来ちゃいましたけど?」
ダッシュは周囲をキョロキョロと窺いながら、その不安を口にした。
なんせアレだけのことをしでかしたのだ。
普通なら、この自宅はいの一番にマークされているハズである。
もしかしたら既に周りを包囲されているのかも知れない。
ダッシュは神経を研ぎ澄ました。そしてマンションの周囲の気配を探る。
「んーそうね、さすがにいずれは出て行かないとマズイわよねぇ…。 でもまぁ、暫くは大丈夫だと思うわ。 この部屋には、監視カメラの類はないし(ダッちゃんの部屋には、このアタシ自ら沢山仕掛けてあるけどね♪)、外にも部屋の明かりは漏れないし、何より今は使徒侵攻中だしね。 大丈夫…まだバレてないわ」
と、あくまで楽天的なミサト。
だがそれは、今しがた少年が調べた周りの気配とも一致していた。無論、それはただの偶然。
でも少年はこれに、「さすがミサトさんだな」と感心してしまう。ああ、勘違い系(笑)。
「…これからどうなるんでしょうか?」
少年の不安はまだ消えない。
「言うまでもなく、使徒はアタシの指揮でないと倒せないわ。 絶対にね。 まぁ、そのうち誤解が解けて、ネルフのほうからアタシに泣きついてくるとは思うんだけど…」
腕を組んで、自信満々にそう主張するが、最後のほうだけは言葉を濁す。
「誤解…ですか」
「そ、大人になると色々あるのよ。 覚えておくといいわ」
ミサトはそう嘯く。
「…でも、このままネルフから何の連絡もなかったら、どうなるんでしょうか?」
ダッシュはついつい最悪のことを考えてしまう。
根が楽天家のミサトとは、対極にある性格のようだ。
「そのときは、考えがあるわ♪」
ミサトはキッパリと答えた。
「でも父さ…いえ、碇司令は、何故こんなことを…」
ダッシュはその視線を落としたまま、信じられないとばかりに小さく呟く。
こんなとは無論、まさにミサトを処刑しようとした、そのことである。
「それこそ誤解、濡れ衣ってもんだわ!」
ミサトは目の色を変えて、ピシャリと断じた。そして休まず続ける。
「あのガキが、サード・チルドレンが裏で手を回したに違いないわ! ったく、アイツったらアタシのことばっか目の敵にしてぇ! このアタシが一体何したってのよっ!?」
その謂れのない仕打ち(?)に、激しく憤慨しているミサト。
無論、勝手な妄想ではあるのだが…。
「!!!」
だが少年にはそれで十分だった。
(そんな……またアイツ、なのか…!?)
そして眉間に縦皺を寄せる。
「それに発令所の雰囲気もどこか変だったっていうか……なんか皆、アイツに懐柔されちゃってるっぽいのよねぇ…。 妙によそよそしいっていうか…。 うーん、もしかしてうまく嵌められちゃったのかなぁ、アタシ…。 出る杭は打たれるっていうし、やっぱ人の持ってないものを持ってると、色々と妬まれちゃうのよねぇ…。 ま、それも天才ゆえの宿命みたいなもんでしょうけど…。 でもこの非常時に、いい大人が情けないわよね!」
と、またしても一人憤慨する始末。
しかしよくもまあ、ぬけぬけと…。
「でも…これからどうしましょう? それに、さすがに何時までもこの部屋にってのはマズイんですよね?」
「…ダッちゃん、お金いくら持ってる?」
それは露骨な無心。
「うっ…す、済みません! その、今は持ち合わせがなくて──本当にゴメンなさいっ!」
心底申し訳なさそうに、何度も頭を下げるダッシュであった。
「う〜〜、僕にチルドレンとしての給料が幾らかでもあれば良かったんですけど……この通りまだ子供の身ですから…」
あったが、某女が着服済み(笑)。
しかもすでに連結赤字(爆)。
「貯金とかも? お年玉とか貯めてないの? 本当の本当に? お姉さんに嘘言ってない?」
ミサトはしつこく少年を疑う。まさかおカネ惜しさに嘘を言っているのではないのかと。
それは、自分がそうだから他人もきっとそうだという、無意識下の腐った性根。
しかし、この上まだ少年から貪ろうというのか?
ていうか、お前自身の貯金はどうなのだ?
「ぅ……ゴメンなさい」
少年は力なくうな垂れる。
「うーん、仕方ないわねぇ…。 となると……やっぱバイトするしかないわよねぇ」
「バイト…ですか?」
「そ、バイト。 働かざるもの食うべからず、でしょ? あ、心配しなくても大丈夫。 その辺はアタシが何とかするからさ。 まぁ、ダッちゃんはホンの少し手伝ってくれればいいわ。 だってまだ中学生なんだしね」
と殊勝な気遣いをみせる。
…心では何を考えているのかわからないが。
「あ、はい」
「ほら! そんな暗い顔しない! 笑ってなきゃ、幸せは逃げていくわよ? 大丈夫、大丈夫! こう見えても、お姉さんは逞しいのよん♪」
と、笑顔で力こぶを見せるミサト。見た目は頼れるお姉さん。
「…はい。 クス、クスクス…」
「ん? あによ?」
突然のダッシュの思い出し笑いに、ミサトは面食らう。
「ハハ、いえ……さっきから僕、ミサトさんに励まされてばっかりだなーって、そう思って…」
そう弁明すると、少し恥ずかしそうに、はにかむ少年であった。
「フフフ、そういえばそうね」
そしてミサトも同調して微笑んだ。
それは仮初めの家族団らん…。
「…ありがとうございます、ミサトさん」
「ううん、そんなこと気にしなくていいわ。 だってアタシたち、かけがえのない家族でしょ?(ニィ) だ・か・ら〜……貴方もアタシのこと……絶対に裏切っちゃだめよ?」
ミサトは少年の頬に両手を添えると、至近距離、目と鼻の先で甘い言葉で念を押した。
「!! も、勿論ですよ!! ミサトさんを裏切るだなんて、そんなことするわけないじゃないですかっ!!」
「ウフフ、ありがと♪ じゃあ、ご褒美をあげちゃおうかな」
そして、ミサトの目が異様に細まる。その表情には妖しい色気が纏わり付いていた。
「え、褒美? 何ですか?」
「…目を閉じて」
「目を? あ、はい」
何だろう、まさかキスじゃないよな、なーんて考えながらも、ダッシュは言われた通りに素直に目を瞑ると──
ぶちゅ〜
「!!!」
それはいきなりのディープキスであった。しかも過激。
女の生温かい舌が、少年の口の中へと割り入ってきたのだ。
ウネウネ、レロレロ……それはまるで別の生き物のように艶かしく動き回る。
瞬時にして少年の舌は絡め取られ、そして激しく吸引される。
そして駆使される様々なテクニック…。
「!?!?」
まさしくパニック状態のダッシュであった。もう何が何だか…。
そして暫くの間、少年の口腔は蹂躙されにされ捲くっていた。
ぷはぁ!
ツウとヨダレが唇と唇の間にアーチを描く。
「はぁはぁ、ふぅ……どう? これが大人のキスの味よ」
「これが…ご褒美…」
人生三度目のキスに、その余韻に、ダッシュはボーッとなっていた。
少しだけビールの味がしたらしいが…。
「(クスッ) ううん、続きは、こ・れ・か・ら・よ」
「!?!?」
そして突然、ミサトは少年の股間にスルリと手をやったのだ。
「!!! ミ、ミミミ、ミサトさんっ!?」
少年は激しく狼狽する。そして反射的に腰を引いた。
さもあらん。まだウブな中学生なのだ。
「逃げないで!」
ミサトが叱咤した。
「!?」
「ウフフフ、ふ・で・お・ろ・し──それはとても気持ちのいいことなのよ
」
そして少年のあそこをギュッと鷲掴み。
さらに少年の左手をつかみ上げ、自分の豊満な乳房へとグニュと押し付けた。
「!!!!(////)」
少年は驚くも、だが一切の抵抗を見せなかった。いや出来なかった。それに興味もあったから。
次第に目が血走り、はぁはぁと呼吸が荒くなるダッシュ…。
しまいには、女の胸を躊躇いがちに揉み始める始末……その行為は欲望の赴くまま段々と大胆になっていく。
(ニヤリ)
ミサトは、少年のその露骨な反応に、むっつり助平ぶりに、内心ほくそ笑むと、
「く…あ…はぁ〜ん」
と、鼻の抜けるような甘い声で応えた。
久しぶりの行為に、この女も少なからず興奮していたようである。
そして徐に少年の肩に手を回し、自分の部屋の中へと、巣穴へと誘う。
少年はもう抵抗しない。
そして女は、器用に足の指でパチンと襖を閉めた…。
──それは、手駒を自分に縛り付けるための罠。
──それは、女郎蜘蛛の巣に捕らえられた蝶々の憐れな末路。
その夜、奥の部屋からは女の嬌声が絶えず響き続けていたという。
〜ネルフ本部・総司令官公務室〜
一夜明けて、ここは悪の総本山、その中枢。
狸と狢と狐が集うネルフの司令室である。
そこでは、手に持つレポートに目を落としながら、リツコが報告を始めていた。
「先刻、第五の使徒の能力を測定するために、実物大のエヴァのバルーン・ダミー及び、臼砲型のレーザー列車砲を使って、偵察・実験を執り行いました」
「先ず初めにやっておくべきだったな……ま、今さら後悔しても詮なきことだが」
と、横から冬月が愚痴をこぼす。
目を閉じ、某作戦部長の不手際と、その結果たる初号機の惨状を思い出しながら…。
「使徒は一定距離内の外敵を自動的に排除する性質を持っているものと推測されます。 ATフィールドも肉眼で確認できるほど強力なものです」
「まさに要塞だな」
「複数方向からの敵性体への同時攻撃についても、数パターンを試しましたが、そのどれもが瞬時に複数のATフィールドをピンポイントに展開され、なおかつその状態のまま、こちらの自走臼砲全台が殲滅されました。 その間、ほとんどタイムラグはありません。 まさに驚異的です」
「ATフィールドを張ったまま、加粒子砲をかね?」
使徒の持つそのデタラメな能力に、冬月は驚いている。
「はい。 使徒の加粒子砲は、何故か自身が張るATフィールドをそのまま透過しておりました。 これでは攻撃の際の隙を窺うことも不可能です。 まさに最強の矛と盾、攻守ともに完璧、難攻不落の要塞と言っても過言ではないでしょう」
「ううむ……何か手はないのかね?」
「つい先ほど、国連軍籍のキラー衛星を借用し、地上の固定砲台と衛星軌道上からのリンク攻撃を試みましたが──」
「ふむ、真上と真下か……なるほど、確かに意外と脆そうだな」
「いえ、残念ながらこれも失敗に終わりました。 どうやら使徒のATフィールドは、全方向に、しかも複数同時に展開可能なようで、こちら側の攻撃のすべてが跳ね返されました。 上下に死角はありません。 また加粒子砲の発射口ですが、その体躯表面の至る処に存在しており、結果、直上のキラー衛星は瞬時にして沈黙、──そして真下ですが、レーザー砲台ごと、被害はジオ・フロント奥深くまで及びました」
「…何と、先ほど襲った振動はそれだったのかね。 しかしよくここや発令所を直撃しなかったものだ」
冬月は冷や汗を掻く。まかり間違えば、自分は死んでいたのだから。
「僥倖と言えます。 因みにその一撃はメインシャフトを突き抜け、ターミナルドグマを貫通しました。 死傷者数も数百人単位で出ています。 一応、目視での確認を試みましたが、穴の底は思いのほか深く、視認出来ないほどです」
「……」
余りのことに、老人はア然とするしかなかった。
「さて、前もって司令から伺っておりました作戦ですが──」
その日珍しく掛けていた伊達メガネに指を添え、リツコはそこで一旦区切る。というか、言いよどんだ。
「…MAGIはどう言っている?」
鋭い眼光のまま、そこでゲンドウが催促した。無論、ゲンちゃんポーズは崩さない。
「スーパーコンピューターMAGIによる回答は、全会一致で賛成ゼロ。 成功確率は、その…マイナス400パーセントです」
「うむ、反対する理由はない。 存分にやりたま──ん、ちょっと待て!? 今、何と言った!?」
ゲンドウが、ポーカーフェイスを崩して、その身を乗り出した。
「──賛成0、反対3、成功確率は……マイナス400パーセントです」
ゼロではなく、あえてマイナス400とは……MAGIも中々、お茶目である(笑)。
「一体どういうことかね? その数字の意味するところは?」
冬月も訝しがる。
「正直、MAGIの真意はわかりかねます、が──」
一息おいて、リツコは意を決したように言葉を続ける。
「日本中の、いえ世界中の電力を集めたとしても、あの使徒のATフィールドを貫くことは、100パーセント不可能ということだけは確かです」
「「100パーセントだと!?」」
男二人が見事にハモる。少しキモい。
「はい。 それほどの強固な壁であることが判明しました。 使徒のATフィールドを貫くためのエネルギー算出量は、最低でも100億キロワット、日本の発電能力の50倍以上です。 たとえ世界中から電力を集めたとしても、計算上まったく足りません。 故にこの作戦は、まったくの無意味、敵性体には毛ほどの傷も付けられません。 …と言うより、それだけの大出力、ネルフのポジトロンライフルでは、いえ、たとえ例の戦自研が保有する試作自走陽電子砲を徴発・改造したとしても、とても耐えられるものではありません。 いわばクリスマスツリーの豆電球に、いきなりの高圧電流を流すようなものですから」
「「……」」
呆然とする男二人を尻目に、リツコはなおも続ける。
「それに使徒が放つ加粒子砲ですが、予想以上に強力なものです。 先刻の実験の際、地上の自走臼砲を狙って放たれた加粒子砲、そのうちの一つが、ニューヨークの中心街を直撃しました。 これについては、先ほどアメリカ政府から厳重な抗議が届きました」
「ニュ、ニューヨーク!? 一体何故そんなところに被害が!?」
冬月は訳がわからない。
第五の使徒は日本にいるのだ。
何故そこでアメリカが出てくるのかと…。
だが彼の疑問はすぐに氷解する。
「つまり、第五の使徒が放った加粒子砲の一撃が、先ず地表に突き刺さり、その後プレート、マントルを貫き、外核を掠(かす)め、地球の裏側へと達した、というわけです」
「「何だとっ!?」」
再びハモった。
片やリツコは気にせず自らの職分を継続する。淡々と。
「そのような攻撃を防ぐ盾など、ネルフの技術力をもってしても作り出せません。 ──故に、司令から提示された、目標のレンジ外、超長距離からの一点突破射撃ですが、…まったくもって現実的ではありません。 つまり、成功云々以前に、端から実現不可能ということです」
「クッ、馬鹿なっ!!」
ゲンドウは両の握りこぶしで机を叩き付けた。
(…どういうことだっ!? そんなデタラメな戦闘力があるなど聞いておらんぞっ!? それに預言書によれば国中の電力を集めればアレは倒せるとあった! だから少々成功率が低くとも、他に確率が高い作戦があろうとも、ゴーサインを出すつもりだったのだ! それが何だ、この体たらくは!? ──何のために、あのとき旧東京で新型N2を爆発させたと思っておるのだっ!!」
ゲンドウは心の中(?)で、とんでもないことを絶叫していた。
しかし何故この男は旧東京を壊滅させたのか?
──それは、当時の50ヘルツの電力の一大消費地、それが旧東京であったからである。
そこが消え去れば、全国の60ヘルツ化へ向けた大きな障害がなくなるのだ。
全国60ヘルツ化、それは将来(2015年)のラミエル戦における電力徴発のためのインフラ整備、その一里塚であった。
…乱暴にも程がある。
だからゲンドウはN2を炸裂させたのだ。
旧東京、そのド真ん中で。
短絡的に。
未来の第五の使徒対策のために。
ゼーレへのゴマすりのために。
ぶっちゃけ、己が出世、栄達のために。
旧態勢力や政敵の一掃なんて二の次。それはあくまでおまけ。副産物。
東京都民の生命など端から興味なし。
そんなカラクリ。頭悪すぎ。
ゲンドウ、もはや地獄行き決定。
無論、この世(あの世)に地獄があればの話ではあるが…。
「「……」」
冬月とリツコは何故か沈黙していた。
心なしか、ジト目で鬚男を睨んでいるようにも見える。
「ん? どうしたのだ、二人とも?」
ゲンドウがそれに気付いて不審がる。
「…碇、声が出てたぞ?」
「何っ!?」
「……」
「……」
「…フッ、どこらへんからだ?(汗)」
冷や汗を掻きながらも、男はゲンちゃんポーズを崩さない。
「…何のために、あのとき旧東京で新型N2を爆発させたと思っておるのだ! ──の辺りからだが?」
老人が冷ややかな横目を向ける。
「…フッ、気のせいだ。 キレイさっぱり忘れろ」
「「……」」
冬月とリツコは半ば呆れ返った。
(…碇のヤツ、よもやそんな大それたことをしておったとは…)
(…そう…あの惨劇は司令がやったことだったのね……フフフ……)
冬月は目を閉じ、天を仰ぐ。
「攻撃すれば、反撃される……か」
そして誰に言うでもなく、一人そう呟いた。
「はい」
「だが裏を返せば、こちらから攻撃しなければ、余計な反撃は食わないということだな」
「使徒の目的は今もって不明です。 どういう訳か、今回はドグマのアダムに接触しようとする動きさえありません。 現在も、セントラルブロックの直上に静かに浮遊したままです」
「わからんな。 アレは一体何を考えておるのだ? アダムに向かうのがアレの本能ではなかったのかね?」
老人は一人思考の淵に嵌る。
無論、アダムに向かうのがアダム由来の使徒たちの本能であることは間違いないのだが、このジオ・フロントに隠されているのはアダムではなくリリスなのだ。
既にそれに気付いている彼らが、今さらドグマを目指す理由はなく、またネルフの茶番に付き合う義理もない。
今回、第五使徒ラミエルが第三新東京市に現れたのは、あくまで初号機へのお礼参りのためである。
その目的を達した今、恐らくドイツにあるオリジナルのアダムの気配を察知するまで、彼はこの地に鎮座したままであろう。
尤も、暇潰しにリリスとリリン、或いは偽アダムを甚振る可能性も無きにしも非ずではあるが…(笑)。
「だがいつまでもこのままにはしておけんよ。 老人たちも注視している。 早急にケリをつけねばならん」
鬚面の男は、その専売特許のポーズのまま、苦々しく呟いた。
ビービービー
突然、内線電話のコール音が鳴った。
「…どうした?」
《司令、葛城一尉から連絡が入っておりますが?》
「何だと!? ──フン、よくも抜け抜けと。 しかし一体どこから……いや、さすがに逆探は無理か。 追われる身で、あの女もそこまで無能ではあるまいて」
一人納得するゲンドウ。
だが、
《あ、いえ……その……葛城一尉の自宅からですが…》
電話を取り次いだオペレーターらしき女性が、何とも申し訳なさそうに答える。
「……」
まさに買い被りすぎ。
沈黙しきりの相方を見かねて、冬月が口を挟む。
「コホン、どうやら何も考えていなかったようだな……で、どうする碇? すぐにでも拘束するかね? あの女は逃亡の際、25人もの警備の人間を殺しているのだ。 容疑は十分だぞ?」
実際は、ダッシュという少年が一人でやったことではあるが、ネルフはそれを知らない。
そのために少年は、生き証人を一人も残さなかったのだから…。
「…ダメだ」
「ほう、何故だね?」
「今は使徒侵攻中だ。 下手にあの女をジオ・フロントに招き入れるのは危険すぎる。 まかり間違えば、発令所に突入してくる恐れもある。 最悪、そのタイミングで老人どもから横槍が入るとも限らん。 杞憂かも知れんが、その事態だけは何としても避けねばならん。 せっかく向こうから出て行ってくれたのだ。 わざわざ藪を突付くマネなどしなくてもいい。 今は放っておけ」
「ふむ、一理あるな」
冬月は腑に落ちた様子で顎を撫でた(心の手で)。
そのとき、話の腰を折る声が入ってきた。
《あ、あの、司令……葛城一尉が今回の作戦の提案があるとのことで、頑なに通信を要求しておりますが……その……如何致しましょうか?》
電話口の女性が、恐る恐る訊ねてきた。
どうやら場の雰囲気に、中々言い出せなかったらしい。
「…作戦だと? フン、何を今さら……いや、まあいい。 後生だ。 試しに聞いてやる。 繋げ」
馬鹿と天才は紙一重とも言う。
もしかしたら、万人が考えもつかない意外性のある作戦を用意してきたのかもしれない。
今のネルフは、藁(わら)をも掴みたい危急の状況なのだから。
暫くして、司令席のホログラフ・ディスプレイに、意気揚々としたミサトの顔の、どアップが映し出された。
汚名返上、起死回生の晴れ舞台。心なしか鼻息も荒い。
だがその口から出たのは、
《目標のレンジ外、超長距離からの一点突破射撃! もうこれっきゃありません!》
であった(笑)。
「も、目標のレンジ外……ちょ、超長距離からの直接射撃かね!?」
どこかで聞いたようなフレーズに、冬月は頭を押さえる(心の手で)。
《そうです! 目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー集束帯による、一点突破しか方法はありません!》
そう、自信満々で断言するミサト。
「……」
彼女にしては、よく考えた作戦であろう。そのIQの割には。
だがこれは、ゲンドウのシナリオによって、予め用意周到に誘導された結果でしかなかった。
事前に、必要十分な情報が、彼女の周囲に意図的に鏤(ちりば)められていたのである。
さり気なく…。
本人の記憶に刷り込まれるまで、何度も繰り返し反復して…。
オウムや九官鳥の類に教え込むが如く…。
ゲンドウのシナリオどおりの作戦立案をするように…。
ただし、あくまで本人に気付かれないように…。
──ご苦労なことである。
だがそれは、言うまでもなく、今さっき可能性ゼロで却下されたばかりの、ほっかほかの作戦であった(笑)。
何ともまあ、タイミングの悪い。いや、ある意味ドンピシャのタイミングか(笑)。
さて、女はというと、なおも得意気に話を進めていた。…この勘違い女を誰か止めてくれ。
《狙撃地点は二子山山頂、作戦開始時刻は明朝0時、以後本作戦をヤシマ作戦と呼称し──》
「…切れ」
期待して損した。
さすがに男もイヤになったらしい。
《んあ!? ちょ、ちょっと待って下さいっ!! だってこのアタシじゃなきゃ使徒は倒せ──》
プツン──
無情にも通信は切れた(笑)。
〜同時刻、第三新東京市・郊外、コンフォート17マンション〜
「ったく、何なのよ〜〜っ!?」
ミサトは受話器に向かって悪態を吐き捲くっていた。
フーフーと鼻息も荒い。
しかもどこか酒臭いと思ったら、女の右手にはエビチュの缶が握られていた。
そのとき、どこかゲッソリ気味の、しかし艶々とした顔の少年──ダッシュ──が、奥のミサトの部屋から出てきた。
見ればその姿は、上半身裸で、体中にキスマークらしき痣で埋め尽くされていた。
因みに奥の部屋からは、所謂、情事の後の臭いが、プ〜ンと立ち込めていたという(汗)。
「お、お早うございます(////)」
少年は、何とも恥ずかしそうに挨拶をする。
まるで、初夜の後の新妻のような初心な反応…。
しかし──
「ぁあ? いつまで寝てんのよアンタはっ!?」
と、こちらは何やらすこぶる機嫌が悪かった。昨晩は何度も何度も愛し合った仲だというのに…。
「う…す、すみません(汗)」
その剣幕に、思わず条件反射で謝ってしまう内罰少年。恐縮しまくり。
………
………
「あの、ミサトさん……その……今夜も……ごにょごにょ……(////)」
早くもミサトの肉体の虜になった憐れな少年が、恥ずかしそうに科(しな)を作っておねだりする。
まぁ若いんだから、しょうがない面もあるのだが…。
喩えるなら、自慰を覚えたばかりのサカリのついたチンパンジー君(♂)。
「っ! むけてもないガキが、いつまでも甘えてんじゃないのっ!!」
ビクッ!
少年は、のび太クンのママな声で酷く一喝されて身を硬くする。
「フッ……そうね……また気持ちいいことしたかったら……アンタ、おカネを稼いできなさい!!」
と、のたまう女。
おーい、昨晩と言っていることが違うぞー?
いきなりの豹変。
まさか釣り上げた魚には、もうエサなんてやらないとか?
「お、おカネ…ですか?」
「そう! いい? 甲斐性のないオスは、メスに見向きもされないのよ!」
ミサトは勝手な持論を展開した。
「う…わ、わかりました」
そして、そそくさと部屋を出て行く少年。その背中に哀愁が漂う。
何はともあれ、働きバチ化決定♪
「ふぅ、さてと、──私のほうも、何とかしなきゃね。 アイツ一人の稼ぎなんて、高が知れてるだろうしね」
ミサトは嘆息する。
「…まぁネルフは、一度アタシ抜きで痛い目を見るといいわ♪ まぁ、何人死ぬかわかんないけど……必要な犠牲ってヤツよね(ニヤリ)。 それにしても腹立つわねー。 ったく、アタシじゃないと使徒は絶対に倒せないってのに! 何やってんだか!」
憤慨しきりのミサトであった。
そしてまた缶ビールを呷る。
………
………
「ぷはぁー、ま、そのうちそれに気付いて、アタシんとこまで頭を下げに来るでしょうけどぉ〜♪ ──フッ、しかしまー、アタシも寛大な女よねぇー。 こんな謂れのない目に遭っても、キレイさっぱり赦そうとするなんて♪ ま、これも世界のためですものねぇー。 フフ、さっすがアタシ〜♪ ──ゲプッ……あ、エビチュが切れたわ。 買いに行かなくっちゃ♪」
自画自賛。自分本位。自分を中心に世界は回る……おめでたい。
そしてミサトは、ルンルン気分で部屋を後にした。
〜同じくコンフォート17マンション〜
少し経って、ここは相変わらずのコンフォート17マンション、11−A−2号室。
別名、ミサトとダッシュの愛の巣(笑)、その玄関前である。
そこに佇む一人の少年の姿があった。ダッシュである。
一度は部屋を出た彼ではあったが……何故か、違和感があった。
そしてようやく今の自分の格好がブリーフ一枚であることに気付き(おい)、少年は慌てて舞い戻って来たのだ。
「ミサトさん……留守か」
ドアには、すでに鍵が掛かっていた。
だが少年は少しも慌てることもなく、ドア横の隠し場所から合鍵を取り出す。
勝手知ったる他人の家。まあ、前史で一年近く住んでいた部屋ではあるし。
「…あれが、女の人のカラダなんだ……ウネウネ動いて、締め付けがすごいというか、何か搾乳されてるって感じ?……アスカや綾波もあんな感じなのかな?……うぅ、また膨張しちゃった(////)」
ダッシュは、未だ部屋に残っているアレの臭いから、昨夜の童貞喪失の一部始終を如実に思い出し、なおかつ不埒な妄想にまで及んでいた。
鼻の下を伸ばして、だらしなく惚けて……何とまぁ無様。
着替えが済むと、ダッシュは玄関先から街の中心の方向を睨み付ける。
そこには、未だ悠々と鎮座する第五使徒の姿があった。
「ラミエル…」
目を細め、小さく、そして苦々しく呟く少年。
「…ミサトさんは自分で倒すって言ってたけど……今ここで倒しちゃダメなのかな?」
それは、ふと湧き起こった疑問、そして誘惑…。
だって自分は正統なるアダムの後継者。
たとえエヴァがなくとも、我が身の分霊たる使徒ごとき、簡単に倒せる自信があるから。
そんな少年の思惑──無論、勘違いもいいところだが。
「…このまま放っておくと、さすがにどんな被害が出るとも限らないし……うん、決めた。 やっぱりラミエル、キミにはここで退場してもらうよ」
そう言うと、少年の目つきが鋭くなる。不遜な微笑みと共に。
「さて、この前は効かなかったけど、もう一度やってみるかな」
無論、負けるつもりはサラサラないが、力ずくで倒そうとすると、さすがに周りへの被害も出かねない。──少年は、そんな勿体振った理由を付けて、自分自身に嘯いていた。
いや、もしかしたら、下手に近づいて前回のように手痛い反撃を食らうのを、無意識的に避けていただけ(つまり、臆病者?)なのかも知れなかったが……それは誰にもわからない。
まぁ真実はさておき、ダッシュは心の中で強く念じ始めていた。
《…我が分身、第五の使徒ラミエルよ、アダムの名において命ずる。 ──滅すべし!》
しかし、当たり前だがラミエルは滅びず、代わりにピカドンがやって来た。つまりは加粒子砲。
当のラミエルにしてみれば、いきなり赤の他人に主人面された挙句、しかも死ねと言われたのだ。
それを許せるほど、彼の人間(?)は出来ていなかった。
「う、うわっ!?」
ダッシュは咄嗟にATフィールドを張った。フルパワーで。それは本能というべきもの。
バチィーーン!
「ふんぎゃ〜〜〜!!」
何ともはや無様な悲鳴であった。
加粒子砲の直撃こそ免れられたものの、少年は物の見事に弾き飛ばされてしまっていた。
後に、数百メートル離れた民家の屋根に頭から突っ込んで気絶していたところを、家人によって発見・保護されることになるが、無論、壊した屋根の修理費はキッチリ請求されることになる。
世の中、そんなに甘くはないのだ(笑)。
あと、これも余談ではあるが、このときネルフはというと、一瞬だがアダム警報の再来に際し、蜂の巣を突付いたような騒ぎとなっていたらしい。…ま、これも他人事ではあるが。
かくして渦中のマンション、そのドテッパラには、大穴が開いた次第。
少なくとも、元・ミサトの部屋は、跡形もなく蒸発していた。一切の家財道具もろともに。
しかし絶景である。穴の向こうには、美しい夏富士が良く見えていた。
日当たりも良くなって、余程こちらのほうが、近隣住民のウケは良いかも知れない(笑)。
「ちょ、あああ、あンの馬鹿使徒ぉ〜〜っ!! アタシの家にぬぅあんてことすんのよぉ〜〜っ!!」
こちらはミサト。マンションから少し離れたところでの大絶叫。それはムンクの叫び。
見れば、その両手にはエビチュ満載、はちきれんばかりのコンビニの袋が、幾つも握られていた。
よくもそんなカネがあったものだ…と思ったら、──無人のコンビニから、これ幸いとばかりにくすねてきたものらしい(汗)。…それを人は「泥棒」と呼ぶ。
…話を戻そう。
こうして某少年の余計なお節介により、ミサトは一瞬にして帰る家を失ったのである(爆)。
ついでに言うと、彼女の愛車二台もトバッチリを食らったようだ。つまりは瓦礫でペシャンコ。
サイフの中身も小銭のみ。ああ無情〜。
尤も、今後の展開が中々楽しみなシチュエーションではあるが♪
因みにラミエルのこの一撃であるが、ミサトのマンションを抉った後、地面(つまり地球)に突き刺さり、地中を貫通し、今度は中国、その内陸部にある地方都市の一つを真下から襲っていた。エネルギーを拡散して。
順序を追って説明すると、──ラミエル→ミサトのマンション→地上(日本:斜め上から地面に突き刺さる)→地殻→上部マントル→地殻→再び地上(中国:斜め下から地面を突き抜ける)、という感じで。
その死傷者数は、実に5千人を超えたという。
後にネルフは、中国政府からも猛烈な抗議を受ける破目になるのだ。
しかし、このダッシュという少年、──被害予防のつもりが、自分で被害を招いた上、ネルフを窮地に陥れるとは、…ホント、世話ないと思うぞ?(汗)
〜第壱中学校、校門前〜
「…来て損した」
この日の朝、いつものように登校して来たシンジではあったが、校門の前に着くと、そんな愚痴をポツリとこぼしていた。
グルリと周囲を見渡せば、彼以外には人っ子一人さえいない。
今日は平日、花の金曜日の朝だというのに、である。
ていうか、校門は閉鎖されたままだ。学校の中にも人の気配は一切ない。
そりゃそうだ。未だ昨日の避難勧告は解除されていないのだから。
今もって第五使徒は健在。街のド真ん中に踏ん反り返っている。
肝心の第壱中学の生徒・教職員を含めた第三新東京市の住民はというと、今もなお穴倉の中で缶詰状態にあり、お泊りセットなしのお泊りを余儀なくされていた。だから学校の連絡網も機能することはなかった。
つまりは公休。本日は学校もお休みなわけである。無論、否応なしに。
『…まだ使徒がいるからねぇ』
シロが肩上──というか、へたれパンダのように少年の頭の上にもたれ掛かっていた──から、冷ややかな眼差しを向ける。
そしてもう一匹の片割れ、クロはというと、──物珍しそうに目を輝かせて、校門の鉄格子にへばり付き、中の校舎をマジマジと眺めていた。
恐らく、自分の青春時代をオーバーラップしているのだろう。…年甲斐もなく。
ていうか、そもそも何故、猫たちを学校に連れてくるのだ?(笑)
「ラミたん、もーダメダメじゃないか! ちょっと芸がなさすぎ! 無作為にも程があるよ!」
と、シンジは何故か憤慨していた。
ラミたんとは、言わずもがな、第五使徒ラミエルのことである。
『…どういう展開を期待してたの?』
シロは一応訊いてみる。あくまでも一応。
「そりゃ、何かこーもっと、街を完膚なきまでに破壊するとか、ネルフ本部に攻め入って職員を殺し捲くるとか、ドイツに渡ってヨーロッパ全土を灰燼に帰すとか、あるっしょ? あるっしょ? それが男の浪漫みたいな?」
と、鼻息を荒げてぶちまける。
ないない(汗)。
シロは後頭部にデッカイ冷や汗を掻きながら、ブンブンとかぶりを振った。
『しかしよくそんな低い成功率で、父さ…あの男はGOサインを出したよね』
帰路というか下校の途中、シンジからヤシマ作戦の詳細を聞き、シロは呆れていた。
ハッキリ言って玉砕戦法である。
前回勝てたのは奇跡といっても過言ではない。
今さらながら、よく死ななかったものだとシロは身震いした。
だがシンジは心外そうな顔をして返す。
「はあ? 石橋を叩いて渡るようなあの臆病者に、ンな度胸があるわけないじゃん! …知ってたんだよ、全部」
『え? え? 知ってたって、何を?』
「勝てるっていうことをさ。 だから成功率が低くても安心してGOサインを出せたんだ。 今回の使徒の倒し方は、裏・死海文書に明記されていたんだよ。 ま、すべての使徒がってわけじゃないけどね。 当然、クロなら知っているよね?」
『……』
クロは思考の淵に沈んでおり、黙して語らず。
「言い方はもっと抽象的なんだけどさ、──日本中から電力を集めて、戦自研の所有兵器を使って、超長距離狙撃で倒すってね。 ま、さすがに最初のポカ(無能女のせいで初号機が敗退したこと)までは、記載されちゃいなかったんだけどねぇ〜」
少年はそのまま続ける。
「そもそも自前(ネルフ)の武装の仕様も知らないようなあの作戦部長が、余所様の組織が極秘開発した兵器のことを知っていること自体、極めて不自然なんだよ。 IQ55だしね。 ──あれはね、事前にそれとなく鬚が臭わせていたんだよ。 アソコにはこんな魅力的な武器がありますよ〜ってね。 そもそもその武器だって、本(もと)はと言えば、ネルフに敵愾心を燃やす余所様の組織をうまく煽って、鬚が造らせたようなもんだからね……図々しくも他人のカネと技術を使わせてさ」
シンジの弁はなおも続く。
「電力確保の準備だってそうさ。 何年も前から、各電力会社には必要なインフラ投資をさせていたんだよ。 いくら何でも、使徒が来て半日やそこらでいきなりの迎撃準備なんて不可能だからね。 シロも憶えていると思うけど、数年前に日本全土の電源周波数が強引に60ヘルツに統一されたのって、実はこのせいなのさ」
この少年の言うとおり、この一大変革は、ネルフのゴリ押しで、多くの国民の声や日本政府の意向を無視して、それは断行されていた。
余談ではあるが、何故、東日本の50ヘルツではなく西日本の60ヘルツのほうに統一したかといえば、その当時、既に誰かさんのせいで旧東京は壊滅しており、政治・経済・文化の中心は、否応なしに西日本へと移行しつつあったからである。
勿論、目的のためなら手段を選ばなかった某鬚面の男の思惑通りにではあるが…。
『あ〜〜あれってそういう事情だったんだ! 結構、当時は社会問題になったよね。 関東や東北、北海道とかで、蛍光灯や洗濯機、電子レンジなんかが使えなくなったって、大騒ぎだったもんねぇー』
そう言うと、感慨深そうに回想を巡らすシロであった。
家政婦経験のあるシロは、別の面からその手のことに敏感であったらしい(笑)。
実際、シロの言うとおり、当時ヘルツフリーでない家電製品は、殆どが粗大ゴミとなっていたのだ。
無論、まさかその裏で、実の父親が非人道的な悪行を働いていたとは、さすがのシロも夢にも思わなかったことではあるが。
「結果、電力や家電を始めとする業界では、セカンド・インパクト後の復興景気と相まって、巨大特需が湧き起こったんだよ。 当然、予め株を買い占めていた鬚の野郎は濡れ手に粟、ボロ儲けだったというわけさ。 まあそのカネも、この間しっかり没収してやったけどね♪」
そこまで説明すると、シンジは満足そうにニヤついた。
『そっかぁ……そんな裏事情があったんだ。 ──じゃあ、今回の使徒は、その予言どおりの方法で倒せるんだよね?』
「無理」
即答も即答だった。
『は?』
「今度の第五使徒ってのは、前史の105倍は強いよ? 1億8000万kW程度のポジトロン・ライフルの出力じゃ、たとえATフィールドなしでも、毛ほどの傷もつかないんだよねぇ〜♪ 第一、裏・死海文書は、預言書なんかじゃないし」
そう、シンジは妙に楽しそうに答えた。
『そ、そんな…』
「盾だって17秒も持たないよ。 一瞬で貫通さ。 ──だから今回、綾波を出撃させるわけにはいかなかった」
『あ、だから零号機を?』
「ん〜まぁ、それだけの理由じゃないんだけどね…」
『…やっぱり近くで見ると大きいものね』
『…うん、よくこんなのに勝てたよね、僕』
黒猫と白猫が上空を見上げながら感想を漏らす。
シンジとその愉快な仲間たちは、ラミエルの鎮座する場所のすぐ近くまでやって来ていた。
実は帰宅ルートから大分離れているという以前に方角的に正反対ではあったのだが、別に危険でもなさそうなので使徒を見物したいと先ず黒猫がおねだりし、白猫がこれに同調した結果、まぁ暇潰しにもなるだろうと少年が付き合った次第であったらしい。
「……」
少年はというと、ラミエルを眺めながら、何やらシリアス顔で考え込んでいた。
そんな様子に猫二匹は「きっとこの使徒の倒し方を思案しているのだ」と感心していたが、それは買い被りであることをすぐに思い知らされる。
「ん〜〜、しっかしこのままじゃマズイよなー。 夕食の買い物だって出来やしないし、夕方の水戸黄門の再放送だって見れないかも!? ってそりゃマズイっ!!」
少年は腕を組んで唸った。悩み所はそこですか!?
猫二匹もズッコケる。
(もし街が破壊されちゃってたら、買い物やテレビどころじゃなかったと思うけど…)
白猫はそう思ったが、口には出さなかった。なかなか学習したようである。
だが猫たちの驚きはまさにここからだった。
「うーむ、ネルフに据え膳食わせるのは癪に障るけど、このままじゃ埒が明かないしなぁ……そろそろ退場願おうかなー」
そう少年が呟いた瞬間──
グルル、ウオォーーーン!
突如、見上げる第五使徒ラミエルが、何とも悲しげな断末魔の声を上げると、その巨躯は、サラサラとまるで風化するように崩れ始めたのだ。
『ええっ!? な、何をしたのっ!?』
『シンジっ!? コレは一体っ!?』
その信じられない光景に、猫二匹は目を大きく見開き、驚愕するしかなかった。
気がつけば、目の前には巨大な塩の山が出来ていたのだから。
それはラミエルの成れの果て…。
別にシンジは何もしていない。ただ、ラミエルの生存を許可しなかっただけ…。
そう、たったそれだけ…。
シンジにしてみれば、使徒殲滅などは、まさに赤子の手を捻るようなもの、いやそれ以下であったらしい。
では、何故初めからそうしなかったかと言えば、──至極単純明快。それ(使徒殲滅)が、少年がこの世界に舞い戻ってきた目的ではないからである(笑)。
話を戻そう。
──少年は、使徒シリーズを含め、少なくとも地球上の全生命体の生殺与奪のカギを握っていた。
それは驚愕の事実であった。
あらゆる生命体の【魂魄】の奥底に埋め込まれている自滅プログラムというべきもの。それがその正体であった。
無論、【魂魄】と共にLCLに還るという代物などではなく、それは単純な原子レベルでの自己崩壊。
肉体の崩壊と同時に、切り離された【魂魄】は、次なる輪廻転生等のステージへと昇華される。
それは、〈ユグドラシル〉管理人だけに許されたカギ。専売特許。
端から解除されているのは、高位の神格保持者とその眷属のみ。
地球限定では、──レイ、ゲンドウ、ミサト、リツコ、アスカ、冬月、加持、日本政府と戦自の要人、そしてゼーレ最高幹部など、合わせて50に満たない数という。
因みに後者は、シンジが故意に外したものであるらしい。
大半というか殆ど全部が、甚振りの最中に直ぐに死なれちゃ困る、等という不謹慎な理由からであったが(汗)。
あと、高度に文明が進んだ星では、そのカラクリに気づき、自ら解除する術も見出せたかもしれないが、地球の科学技術の現状では、それでもまだ数億年ほど早い。
尤も、それを究明・解除に成功した文明も、いずれは管理人による「力の」粛清の対象となるのだが……まぁ、これはまた別の話である。
こうして、前半戦最強を誇った第五使徒ラミエルは、その最期を迎えたのである。そう、えらくまぁアッサリと(汗)。
〜ネルフ本部・第二発令所〜
「一体どういうことっ!?」
別室で仮眠をとっていたリツコが、急を聞いて、血相を変えて発令所へと駆け付けた。
未だ第一種戦闘配置の解除はなされてはいなかったが、肝心の使徒が攻め込む気配を見せなかったため、ネルフ首脳陣の姿はどこにもなかった。ある意味、職務怠慢。
「そ、その、使徒が突然消えたんです! パターン青も完全に消滅しています!」
「モニターに映して!」
リツコは苛立ちを抑えながら、席の背後からマヤに指示を出す。
聡明な彼女の頭脳をもってしても、こんな事態など予想外であるのだ。
そしてモニターの先には、無残な塩の山と化した第五使徒の姿が映し出される。
放心状態の発令所の面々…。
「!? カメラを右隅にズームアップして!」
そのとき目敏く画面の端に何かを見つけたのか、リツコが叫んだ。
「な、何でこんなところにいるの!?」
そこには、発令所の誰もがよく知る少年、碇シンジ(+α)がいたのだ。
そして、
「!?」
不意にモニターの中の少年がカメラのほうに振り向き、リツコと目が合った。
正確には発令所の全員とだが…。
そして少年は、その父親譲りのニヤリとした微笑みを、発令所に向かって投げ掛ける。
「まさか…こちらに気づいているんでしょうか?」
マヤも驚いている。
「ありえないわ、この距離なのよ?」
惚けつつも、リツコはそれを否定する。
監視カメラと少年までの距離は、およそ200メートル。
少年がそれを視認できるハズがなかったのだ。無論、それはネルフの理屈。
そして、彼らの驚きはこれで終わりではなかった。
モニター越しに、何やら不敵な面構えで暫く考え込んでいた少年だったが、次の瞬間、いきなり謎の行動に打って出たのだ。それは悪戯を思い付いたような悪ガキの笑顔で。
「「「「「!?」」」」」
シンジは鼻をピスピスさせて、後ろを振り向くなり、ズボッとズボンを膝上までズリ下げたのだ。
勿論、パンツも一緒にである。
つまりは、お尻丸出し。
「な、何を…」
その少年のあまりに突飛すぎる行動に、発令所のリツコは息を呑む。ついていけない。
次に少年はというと、お尻をカメラに突き出して、前屈姿勢。そしてピヨピヨと左右反復してお尻を振る。振り捲くったよ、おい(笑)。
もし音声が拾えたら「ケツだけ星人ぶりぶり〜♪」と聞こえたに違いない(笑)。
画面の隅、傍らにいた猫たちも、この少年のいきなりの豹変についていけないようだ。
腰を抜かしてギコ猫状態。金魚のように口をパクパクさせていた。
シンちゃんはシンちゃんでも、そりゃキャラが違うっての!(爆)
そう。ネルフをおちょくるためなら、お笑いのためなら、汚れも辞さないシンジであった。
そのうち「ぞうさん」のお披露目も近いのかもしれない(笑)。
モニターの前の女性オペレーター二人は赤くなっていた。
尤も、恥ずかしそうにその両手で顔を覆ってはいたが、実は指の隙間からしっかりと見ていたらしい(汗)。
リツコに至っては、理解不可能とばかりに苦々しい表情でコメカミを手で押さえていた。
だが少年にとっては、これはまさにしてやったりの反応、会心の一撃であった。
しかしながら誤算もあった。
現在は使徒侵攻中につき、発令所にはレイも詰めていたのだ。
「……」
少なくともその反応は「碇クン…(ポッ)」ではなかったらしい。
突然、モニターに映る少年が、踵を返すと画面から消え去った。その十分に満足した表情を残して。
慌てたのはリツコである。
「っ!! マヤ、直ぐにシンジ君を追いかけて!! そして本部まで連れて来てちょうだい!!」
「へ!? わ、私がですかぁ〜!?」
いきなりの上司の言葉に、マヤは目を丸くして驚く。何で私が〜という顔で。
「そう! 貴女が一番適任だわ!」
あの少年は怪しい。怪しすぎるのだ。
さっきの事で確信した。
自分の勘が間違いないとそう言っていた。
故に何としても彼の身柄を確保しなくてはならない。
そして目くるめく生体解剖、もとい尋問の始まり〜♪
リツコは今、久方ぶりの興奮を抑え切れなかった。
「で、でも〜〜」
「クッ、では阿賀野二尉、貴女も同行しなさい!!」
このままでは埒が明かないとばかりに、おまけを付与してみる。
今はこの優柔不断な娘を説得する時間さえ惜しいのだ。
「ええっ!?」
と、こちらも素っ頓狂な声を上げるカエデ。
「これは命令です!! ホラッ、二人ともさっさと行きなさいっ!!」
「「は、はい〜〜っ!!」」
二人の童顔少女は、その上司に尻を叩かれるや、慌てて発令所を飛び出した。
〜第三新東京市・郊外、某マンションの廃墟址(あと)〜
「何なのよ何なのよっ!? 何で使徒がいなくなっちゃうのよっ!? ほわぁ〜い!?」
某マンションの廃墟址、瓦礫の前の地べたの上に胡坐(あぐら)を組み、コンビニからクスネてきた自棄酒を呷るミサトが、ネチネチと嘆いていた。
まだ陽も高いというに、見れば、もう幾つものエビチュの空き缶がアスファルトの上へと転がっている。
発令されていた避難勧告も、つい先刻解除され、街の通りには人の姿も次第に見え始めていた。
そんな人々の目に、今のこの女の醜態はどう映っただろうか?
そう。皆が皆、関わり合いになりたくないとばかりに、眉を顰めてその場を素通りしていたのだ。
朝っぱらから酒に溺れているからではない。勿論、それもあるが…。
実はこの女は、超が付くほどの有名人なのだ。この街で、いやこの惑星でだ。
──先日の裏ビデオに出ていた、ふしだらな女。淫売。それが人々に共通した見方であったのだ。
それはまるで穢れを見るような冷たい眼差し…。
無論、そんな視線を当の本人は知る由もない。蛙の面に小便。いい気なモンである。
「マズイわマズイわ〜〜! これじゃアタシの存在価値が〜〜! ネルフに戻る理由が〜〜! 部屋もなくなっちゃうし、ホントに今日は厄日だってーの! …ゲプッ」
グビとエビチュを呷ると、再び一人愚痴り始める。
「ったく、このアタシが何したってのよ〜〜!?」
どんなときも自らに非があるという思考はしない。それが葛城ミサトのポリシー。
…考え中…
…考え中…
…考え中…
「ハッ!? ──ま、まさかあの子ってば、さげチンだったワケぇ〜〜!?」
どうやらそこに帰結したらしい(笑)。
憐れすぎるぞ、ダッシュ。
童貞喪失早々に、さげチンの称号まで着せられるとは…(笑)。
「ン!?」
そのとき彼女の視界の端に、どこかで見覚えのある少年の姿が横切った。
普通なら見逃すところだが、その姿は不倶戴天の敵として、彼女の鶏並みの脳にも確りとすり込まれていたのだ。
「あ、アイツは……サード・チルドレン、碇シンジっ!! 何だってこんな所に!? いや待って! ──そ、そうだわ! アイツを捕まえて行けば、ネルフも……ムフ、ムフフフフ〜〜、クケケケケケェ〜〜♪」
何やら悪巧みを思いつき、女はニンマリ顔を隠そうとしない。
そしてその不気味な甲高い笑い声は、半径100メートル四方に、いつまでも木霊していた。
因みに、それを聞いた多くの子供がひきつけを起こしたらしいが、それは全くの余談である。
〜第三新東京市・郊外、住宅街〜
市の北東、とある住宅密集地。ここはその内の一軒のお宅である。
その家の台所では、エプロン姿の一人の少女が、包丁の小気味良い音を奏でていた。
フライパンの上の玉子焼きが、ジューと焼ける音とその匂いが食欲をそそる。
この少女、名を洞木ヒカリという。
2月18日生まれの14歳。
第壱中学校二年A組のクラス委員。
おさげとそばかすがチャームポイントの、気立ての良い女の子。
そして……ジャージ・ブラックに恋していた(唯一のマイナスポイント)。
少女は、自宅のキッチンでお弁当を作っていた。
フンフンとハミングしながら、何やら楽しそうである。
「うん、これでよし♪ …鈴原、喜んでくれるかな?」
目の前には小さなお弁当箱。
その出来栄えを見て、少女はニッコリと微笑む。
「いけない! もうこんな時間!」
少女はパタパタと小走りで玄関に向かうと、
「お姉ちゃん、ちょっと出掛けて来るね〜」
そう言うなり、ドア向こうへと消えた。
「あ、カンナさん」
「あら、ヒカリ」
道を歩いていたら、隣のクラスの月野カンナさんにバッタリと出合った。
彼女は2−Bのクラス委員で、それが縁で仲良くなった人だ。
今では親友と言ってもいいのかな。
でも妙に大人っぽくて、今でも「さん」付けで呼んでいるのよね。
本人からは、呼び捨てで構わないって言われているけど……どうも気後れしちゃうのよね。
整った顔立ち、長い髪は艶があってすごく綺麗。
学校の成績も良く、何よりそのプロポーションは、私とは比較にならない。比較するのもおこがましい。
同性の私から見ても、とても可愛らしい女の子だもの。少し妬けてくる。
ん〜、ホントに私と同い年かしら?(汗)
「どうしたの? 買い物?」
カンナさんは私の手さげ袋に目を落としてそう訊いてきた。
「ううん、…ちょっと友達のお見舞いに」
少し考えたが、別に隠すことでもないので、正直に言う。
「お見舞い? あぁ、あのときの男子ね。 具合はどうなのかしら?」
彼女はやはり鋭いと思う。
頭の回転が速い。
「うん──お医者様の話では、鉄砲のタマは小腸を殆ど傷つけずに貫通したんだって……奇跡だって言ってた。 今日から、少しだけなら食事も出来るって…」
「へぇー、ふーん……あ、なるほどネェ」
私の顔とお弁当箱に交互に視線を落として、カンナさんはニマ〜と意味深な微笑みを見せた。
う…こういう所も、妙に鋭いのよね、彼女って(汗)。
思わず赤面してしまった。
「そうだ! 私もついていってあげる! ね? いいでしょう?」
いきなり彼女は嬉々として提案してきた。
「う……それは……別にいいけど」
私は不承不承ながらも承知した。承知するしかなかった。…だって断る理由がないもの。
でもきっと、事の顛末を確かめたいだけなんだわ、彼女。
だって、終始ニヤニヤしてるんだもん。
何とかは馬に蹴られて死んでしまえって言葉、知らないのかしら?
…でも、憎めないのよね。はぁ…。
う〜恥ずかしいよ〜(泣)。
少し進んで商店街に入ると、また目の前に見知った少年がいた。
見ると、何やら大道芸を披露していた。少なくとも私にはそう見えた。
「シロ、お手♪」
『うにゃ』
少年がそう言うと、差し出された手の上にポンと肉きゅうを乗せる純白の仔猫。
何だか仔犬みたい。
でもコレ、猫好きには堪らないんだろうなー。
妹のノゾミが見たら、はにゃ〜んってなるわね、きっと…(汗)。
「「「「「きゃああ〜〜!! かわいい〜〜」」」」」
『ニャ!? にゃああああ〜〜!?』
ああ、やっぱり…。
あの仔猫、周りの女の子たちに揉みくちゃにされちゃった…。
大丈夫かなぁ?(汗)
「あら、碇君じゃない? どうしたのこんなところで?」
「こ、こんにちは」
カンナさんに続いて、私も軽く会釈した。
この男子は、最近、隣のクラスに転入してきた人だった。
確か、碇シンジって名前の。うちの女子が結構騒いでいたし。既に色んな意味で有名人。
対人関係は最初が肝心だもの。だから勇気を振り絞って挨拶してみたけど、変じゃ…なかったわよね?
でも彼って、うちのクラスの転入生にそっくりなのよねぇ……もしかして親戚とか?
そういえば彼、ダッシュ君って言ったっけ? ここ最近見てないのよね……どうしたのかしら?
そんな取り留めもないことを考えていたら、目の前の少年が振り向いた。
「ん? ああ、こんにちは。 カンナさんに……えーと、確か隣のクラスの──」
「ほ、洞木って言います(////)」
私はペコと頭を下げた。ちょっと気恥ずかしい。
「ああ、ども。 いや、ちょっと暇潰しにねぇ…。 それより、今日は二人してどうしたの? あ、折角の休校日だから、二人してこれから遊びにでも行くのかなー?」
「え? わ、私はこれから鈴……クラスの男子のお見舞いに行こうと思って…」
「ふーん、あっそ……あ、僕もついていっていいかな?(ニコニコ)」
「え? えーと、別に構わないけど…」
うー、また増えちゃったよー。どうしよー。私の馬鹿馬鹿〜(泣)。
でも、大丈夫なのかな?
聞いた話だと、鈴原が一方的に絡んで、挙句に殴ったのよね……確かこの人を。
妹さんを傷つけた関係者だからだとか、確かそんな理由で…。
…まさか仕返し!?──ううん、そんな風には見えないわね。
だってこの人、ニコニコして、とても温厚そうだもの。
大丈夫…よね?
〜市立病院・一般外科病棟〜
ここは鈴原が入院している病院、その病室の前。
狭いけど、例の加害者側の厚意で個室を用意してもらったらしい。
コンコン──
私はノックすると、ゆっくりとドアノブを回した。
「お、お邪魔します(////)」
「お邪魔するわね」
「オイーッス!」
上から私、カンナさん、そして碇君。
…碇君って、やっぱり少し変かも?(汗)
あれ?
入るなり違和感を感じた。
病室が妙にシーンとしていたから。
まさか鈴原の容態が急変したんじゃ!?
…と思ったら、鈴原はわりと元気そうだった。良かったぁ…。
「一昨日より顔色良さそうじゃない、鈴原」
「ん? ああ、イインチョか。 また来てくれたんか……おおきにな」
「ううん……クラス委員として、当然の務めだから……気にしないで(////)」
うぅ…私って何でこうも素直じゃないんだろう。折角のチャンスなのに〜。
少しだけ自己嫌悪。
「でも、案外元気そうで安心したわ」
後ろから、カンナさんが顔を出した。
「お? 確か隣のクラスの…。 ほうか、あんさんも見舞いに来てくれたんか。 サンキューな」
「まぁ、私はついでだけどね」
そう言って、私のほうに意味深な視線を向けるカンナさん。
「???」
鈴原は、訳がわからないといった顔だ。
うん、それはわからなくてもいいから!
カンナさんも、お願いよ〜〜(泣)。
そのとき、
「どれどれ? お〜確かに元気そうだ♪」
今度は碇君が、私の肩越しに、ひょいと顔を突っ込んできた。
「んなっ!? おのれはっ!? 一体何しに来よったぁ〜!?」
碇君の顔を見るなり、鈴原がいきなり豹変、毒づいた。
身を乗り出して、ベッドから転がり落ちそうな勢いだ。
「ちょ、す、鈴原──」
諌めようとしたら、
「ああっ! 貴方はぁ〜!!」
奥から別の黄色い声が飛んできた。
あ、ナツミちゃん、いたんだ。
全然気づかなかったわ。
コホン。彼女は鈴原の妹さんで、ナツミちゃん。とても明るい女の子。
うちの妹とは同い年で仲が良く、度々家にも遊びに来ている。
彼女のいるところ、いつも笑いが絶えない。
そんなお日様のような女の子。
私が呆気にとられていると、
「うちを助けてくれたお兄さんじゃないですかー!」
「な、な、何やてぇ〜〜!?」
鈴原が、これ以上はないってくらい驚いてる。
え?え?一体どういうこと?
私には、皆目サッパリまるで訳がわからなかった。
数分後──
えーと、ナツミちゃんの話を要約すると、こうだ。
先日、悪い人たちに捕まっていたところを助け出したのが、どうやら碇君らしかった。
それで、彼の背中で、オンブされている途中で目覚めたらしいんだけど、碇君の横顔を覗き見たら、何だか急に恥ずかしくなって、そのまま寝たふりをしてしまったとのこと…。
結果、お礼もいえず、後ですごく後悔したらしい。
………
………
あ、あれ?
ちょっと待って。
碇君がナツミちゃんを……助けた?
じゃあ、鈴原が碇君にしたことって、まさか──
ただの言い掛かり!?
恩を仇で返した!?
す、鈴原……アンタどうするのよぉ〜?(汗)
私は青くなった。
あ、ナツミちゃんも、それに気づいた見たい。顔がみるみる青くなっていった。
「うちの宿六がそんなことを……うう〜、ゴメンなさいです! ホンットに申し訳ないです! どうか堪忍して下さい!」
ナツミちゃんは、ただただペコペコと平謝りするばかり。
でも、ナツミちゃん……宿六って言葉は、違うと思うな(汗)。
「あ、いや……もう気にしてないからさ……それに、そんな風にされたら、反ってこっちが恐縮しちゃうよ」
そう言って、碇君は少し照れ笑いをしていた。
「そ、そう言って頂けるとホンマに助かります。 ──ほら! お兄ぃも、ちゃんと謝って!」
ナツミちゃんは、鈴原の頭に手を添えて、強引に下げさせようとする。グイッグイッと。
これじゃどっちが年上かわからないわね(汗)。
──だけど鈴原の態度は、俄(にわ)かには信じられないものだった。
ナツミちゃんの手をバッと払い、
「煩いわ! 大の男がそう簡単に頭を下げられるかい! そもそもワシは、おどれのせいで大怪我したんやぞ? それでチャラや!」
そっぽ向いて悪態を吐いたのだ。
我が耳を疑った。
今の私は、果たしてどんな顔をしているのだろうか。
あのとき碇君が鉄砲のタマを避けたから、自分は怪我をしたと言うの?
それはあんまりだよ、鈴原…。
少し悲しくなった。
「んがー!! こンの馬鹿兄貴がー!! ええ加減にしぃや!!」
案の定、ナツミちゃんが激怒した。烈火の如き形相だ。
この子は興奮すると、お国言葉口調になる。
初めて聞いたときは、ひどく驚いたものだ。
「ば、馬鹿ぁ!? 誰が馬鹿やて!? もっぺんぬかしてみぃ!!」
「おのれがじゃ!! こンどあほがっ!! 兄貴や思て辛抱しとったら、あほ言いくさって!! 何が大の男や!? 何がチャラや!? あぁ!? いっぺんいてこましたろか!? ええ歳こいて、ええ加減にさらせや、ワレっ!!」
売り言葉に買い言葉。
あぁ、とうとう兄妹喧嘩が始まってしまった。
ど、どうしよう…。
私はあたふたするばかり。
「まぁまぁ、少し落ち着いてよ二人とも! 僕は全然気にしてないからさ!」
碇君が間に入ってくれた。キランと白い歯が光る。
やはり心の広い、本当に良い人のようだ。
その言葉にナツミちゃんは、どうにかこうにかその怒りを鞘に収めてくれたみたい。
だけどその目には薄っすらと涙が溜まっていたのを、私は見逃さなかった。
よっぽど情けなかったんだね……でも、えらいわ、ナツミちゃん。
まったく〜、こんないい妹さんを泣かせるなんて!──わかってるの?鈴原!
私は憤慨しきりだった。
暫くの無言──
あれほど仲が良かった兄妹だったのに、今日はどうしたんだろうか?
少なくとも、一昨日の夕方に見舞いに来たときは、こんな雰囲気じゃなかったのに。
二人の笑い声が、廊下まで聞こえていたもの…。
そんなことを考えてると、突然、ナツミちゃんが何かに堪えるようにポツリと呟いた。
「今日という今日は……ホンマに愛想が尽きたわ!」
彼女は俯き、その表情は見えないが、その両手は微かに震えていた。
「え? どういうこと?」
私は訊いてみた。それは何気ない好奇心だった。
でも訊いてみて後悔した。ものすごく後悔した。
ナツミちゃんは、何かものすごく言いにくそうだったけど、意を決したように喋りだした。
「…お兄ぃのパソコンに…………変なゲームが入ってたんです」
「「「はぁ?」」」
私たちは見事にハモってしまった。
だけど、ナツミちゃんから詳しい事情を聞いて、愕然とした。
………
………
うひゃひゃひゃひゃ〜〜!
ひ〜〜、は、腹が〜〜、腹が捻じ切れるぅ〜〜!
ぐ、ぐるじい〜〜、死ぬぅ〜〜!(抱腹絶倒)
はぁはぁ……いやー、ホント驚いたよ。まさかあのトウジが、そんなことをしていたなんてさぁ〜。
洞木さん、かわいそうに。──茫然自失で、真っ白に燃え尽きちゃってるよ。
まぁ、内容が内容だからねぇ〜。
ここは一つ、この僕、碇シンジが一肌脱いで、その経緯を説明しましょうか♪
最近、ナツミちゃんの学年でも、パソコンを使った授業が始まったらしいんだよね。
でも、自分専用のパソコンは、まだ家にはなかったと。
そうするとナツミちゃんは、トウジの部屋にあったノートパソコン(以下、PC)──これはケンスケのお古みたい──に興味を持ったワケ。
で、ナツミちゃんは、いけないことだとは知りつつも、つい誘惑に負けて、内緒でトウジのPCを使ってみたらしいんだ。
それが一昨日の晩のことみたい。
まぁ…ここまでならよくある話だよね。
問題なのはここからで、──トウジのPCは、パワーオンの後、何かの起動ランチャーを自動的に立ち上げたらしいんだ。
そしてナツミちゃんが、何気なくその中の一つのアイコンをWクリックしたら…、
──まったく予想もしていなかった、ナツミちゃんが一瞬にして顔を真っ赤にするような、そんな怪しいゲームが始まったというワケ!(笑)
どうやらトウジって、所謂18禁ゲームに嵌ってたみたいなんだ。
それも「妹ゲー大全2015」に載ってそうなマニアックなヤツばかり。
クククク、トウジって、妹萌えな属性だったんだね…(笑)。
まさか、あの度を越したシスコンの裏に、こんな秘密があったなんて…(笑)。
んで、驚いたナツミちゃんは、よせばいいものを、恐る恐るセーブデータをロードしてみたらしいんだ。
まぁ、一種の怖いもの見たさってやつなのかな?
そしたらPCの画面に、ショートカットの、アニメ絵だけど、どこか自分に似た風貌の、活発そうな女の子が現われて、──いきなり裸に、全裸に、スッポンポンになったらしいんだよ(笑)。
そして知らない男の人と抱き合っちゃったと…(笑)。
トドメは、
「ナツミ……いくよ?」
「うん、トウジお兄ぃ……初めてだから、痛くしないでね」
と、画面のキャラたちが、フルボイスで呼び合っていたことである(爆)。
そしてシッポリと始まる18禁ワールド…。
ククク、面白すぎる。面白すぎるよぉ♪(笑)
そりゃ驚いただろうね、ナツミちゃん。もはやお気の毒としか言いようがないよ。
どうやらトウジのヤツって、ゲームの主人公に自分の、そして登場する妹萌えキャラにナツミちゃんの名前を付けて、プレイしてたみたい。
しかも、テキストだけでなく、音声データも弄る、という懲りようである。
まあ、この手のプログラムの改ざんなんて、トウジには無理だろうから、やったのはきっとケンスケあたりだろうね。いや間違いなく。
話を戻そうか。
そのときのナツミちゃんのショックといったら、それはもう想像を絶するものだったらしいよ。
そりゃそうだろうね。察して余りあるもの。
実の、血を分けた兄が、いかがわしい18禁ゲームをコッソリやっているのは、まぁそれはそれで確かにショックなのかも知れないけど、……それだけならまだしも、登場するHキャラに実の妹の名前を付けて遊んでいたのだ。
さすがにこれは堪らない。
冗談では済まされない。
キモイ。
虚構の世界の話だから許されるという問題ではない。
知らなければ良かったのだが、──偶然とはいえ、もはや知ってしまった。
一つ同じ屋根の下で暮らす家族としては、由々しき事態。緊急事態。
いつ現実に間違いが起こるとも限らない。そんな恐怖心…。
兄に対して不信感が募るのは当然だろう。
ナツミちゃんは、この一件で、マジで身の危険を感じたらしい。
そういえば、最近、トウジのナツミちゃんを見る目がえらく怪しかったそうだ(笑)。
視線が合うと、さっと気まずそうに目を逸らしたらしい。
今思えば無性に気持ち悪かった、という。
ナツミちゃんの疑念はなおも尽きない。
こんなことは、本当にゲームの中だけの話なのか?──という思い、不信感である。
つまり、
自分の知らないところで、盗聴・盗撮をされているのでは?
自分の部屋に覗き穴を開けられているのでは?
お風呂やトイレを覗かれているのでは?
脱衣カゴの下着が密かに抜き取られているのでは?
冷蔵庫のジュースに変なものが混入されているのでは?
といったふうに、考えれば考えるほど、ナツミちゃんは疑心暗鬼の淵に陥っていったのだ。
さすがにそれは少し考えすぎだ、突飛すぎだ、被害妄想のしすぎだ、等という声もあるかも知れないが、──なんせその兄の大の親友が、悪名高きあの性犯罪少年「相田ケンスケ」なのだ。
それだけで説得力は十分だった(笑)。
故に疑惑は晴れない。
あと、聞くところによると、その数日前だかの夜、ナツミちゃんが「晩ご飯ができた」と伝えに、兄の部屋のドアをいきなり開けたら──
その兄は、PCの前に座り、何故かパンツを下ろしていたと(爆)。
お、面白すぎだぞ、トウジ♪
ナツミちゃんはというと、慌ててドアを閉めたらしいが、後で「ノックくらいしろ」と、トウジからひどく怒鳴られたらしい。ドモリ捲くりながら。
だがね、部屋にカギをしてなかったお前のほうが悪いと思うぞ、トウジ♪(笑)
しかし、ホントにご愁傷様です、ナツミちゃん。
こんな馬鹿兄貴に挫けずに、幸せになって下さいね。
ナツミちゃんの暴露話を横で聞きながら、疑惑の当事者はそりゃ見事に取り乱していたよ。
見たら、ダラダラと脂汗を流すことしきりだ。
顔色も、赤から黄、そして青へと変わっていた。まるで信号機だね。
よもや秘中の秘、墓場まで持っていくハズだった隠しごとがバレていたのだから。
その動揺たるや計り知れなかった。
兄妹・身内の縁はなかなか切れないが故に、この爆弾発言は寧ろ家庭崩壊級の火種とも言えるんだよね。
「おまおま、お前、何で知ってん〜〜!?」
見事にドモリ捲くるトウジであった。しかもうっかり自爆(笑)。
自業自得とはいえ、人生最大の緊急事態である。
下手をしなくても、家族会議モノである。
父や祖父も、怒るどころか、あまりの情けなさに泣くこと必死である。
「はぁ……お兄ぃの留守中、部屋の掃除してるん、うちやで?」
「うっ、そ、そやった〜〜!」
トウジは思わず頭を抱えた。
せめてBIOSにパスワードを掛けとくべきだったと(反省ゼロ)。
だが後悔先に立たず。
果たして彼に未来はあるのだろうか?(笑)
あー面白かった♪
以上、説明終わり〜。
私の中で、何かがガラガラと崩れた。
鈴原が……私の憧れの人が……性犯罪者?
変態さん?
ご近所の笑い者?
私は頭が真っ白になった。
気がつけば、
「ふ、ふふふ、不潔よぉ〜〜〜〜!!」
と自ら絶叫して、ドアの外へと駆け出していた。自分でも、何が何やらわからなかった。
「ああっ! ちゃうんやっ! イインチョ! これは誤解やねん! あれはケンスケの奴が勝手に! 待っとくれ! ワイは、ワイは〜〜! ──をわ!? あだ、あだだだだだ〜〜!!」
いきなり大声を上げたために、傷口に障ったのだろう。
腹部を押さえて蹲(うずくま)る鈴原。
だがその声が今の私に届くことはなかった。
それに何が誤解だというの?
ゲームとはいえ、実の妹さんに対して邪(よこしま)な感情をぶつけていたというのに。
最悪の日だった…。
裏切られちゃった…。
短くも儚(はかな)い恋だった…。
今はもう何も考えたくないよぉ…。
コダマお姉ちゃん、ノゾミぃ……わたし、わたしぃ…(泣)。
私はあふれる涙を抑えつつ、病棟の廊下を走り抜けた。
「ちゃうんやっ! ワイは、ワイは、ちゃうんやぁ〜〜〜〜!!」
最後に、そんな誰かの苦悶の叫びが、どこか遠くで聞こえたような気がした。
「…えーと、僕らもそろそろ帰ろうか……何だか修羅場みたいだし」
「そ、そうね(汗)」
オブザーバー二人も、逃げるようにそこから退散した。
〜高台にある病院から商店街へと降りる道すがら…〜
「ねぇ…貴方、一体何者なの?」
帰り道、いきなりだけど、ストレートに訊いてみた。
回りくどいのは好きじゃない。
それに今は絶好の機会だから。
私は隣を歩く少年を見詰める。
彼の名前は碇シンジ。
先日、私のクラスに転入してきた男子だ。
その肩に二匹の猫を載せて、しかもハミングしながら……どこか飄々とした感じさえ受ける。
思うにこの少年、──ただのペコポン人じゃないと思う。いえ、それはもう確信に近い。
先日の学校での一件、あの立ち回りを見る限り、その戦闘力はかなり突出していたわ。
無論、あくまでペコポン人としてはだけど…。
それでも、私の興味・疑問は尽きない。
一体何者なのだろうか?
極めつけは、途中から現れたあの猛禽だ。
微弱ではあったけど、あれは間違いなく「心の壁」と呼ばれるものだったわ。
その鳥も、この少年と何らかの関わりがあることは、もはや間違いない。
…碇シンジ、彼は危険な存在なのかも知れない。
私はそこで少し別な角度から考えてみる。
この少年、性格的には、頗(すこぶ)る温厚な部類だと思う。
級友たち(尤も、すべて女子だけど)の評判もいい。
私も何度か会話をしてみたけど、別に嫌な感じはしなかったわね。むしろ好感が持てたくらい。
それが全部演技だとは到底思えないし、……だとすれば無害?
………
どちらにせよ、私たちの目的遂行の障害となるそのときは、──元より、容赦するつもりはない。
それは覚悟の上。
悲しいことだけど……私には、やらなくてはならないことがあるのだから。
………
……
ホンの数秒の間だったけど、私がそんなことを考えていたら、横の少年がようやく口を開いた。
「──まあ、そのうちわかると思うよ。 カンナさんこそ……リリスの卵に何の用だい?」
「リリス? 卵?」
何のことかしら?
うまくはぐらかされた形だけど、いえそれでも、自分が普通ではないことを、彼は遠回りに認めたわね。
先ずは収穫と言えるかしら。
それにしても、リリスの卵とは一体何のこと?
気になるわね。
何かの固有名詞か?それとも暗号か何かなのか?
リリス──以前、中学校の図書室で読んだペコポン人の宗教典の一つに、そんな名前があったような気がするわね。
たしか夜の魔女…だったかしら?
でも所詮は宗教成立期の空想上の存在……これに関係あるのかしら?
そして卵──メスの生殖細胞。ニワトリの卵……うーん、さすがにこれは違うわよねぇ?(汗)
そんなとりとめのない思考に囚われていると、
「復活の祭壇の片割れ、とでも言ったほうがいいかな?」
「!!!」
やはりこのペコポン人、危険だ!
いっそ今ここで処分するか?
私はその目を細めた。緊張で心臓の鼓動が高鳴り始める。
だけどそのとき、
『ねぇ、シンジぃ……さっきから気になっていたんだけど、──私たち、後を付けられているわよ?』
突然、少年の肩上の黒いほうの猫がヒトの言葉を喋ったのだ。
「ね、猫が喋った!? 嘘!? まさか……これは……念話っ!?」
あ、ありえない!
爺やに貰った事前の調査データには、ペコポンの生命体にそんな能力などなかったハズ。
後天的に獲得するにしても、そこまでこの星の文明が進んでいるとは、正直思えない。
でもこの感じは……確かに念話だわ。
一体どういうこと!?
『!? キミ、もしかして僕たちの言葉がわかるのっ!?』
反対側の白猫が何やら目を輝かせて私の顔を覗き込んでいるみたいだけど、生憎その声は私には届かなかった。
「…そんな……こんなことって……まさか!」
何らかの外的介入があった!?
…いえ、それこそまさかだわ。ありえない。
内心、かぶりを振っていると、
「まあ、その話はさておき……確かに小一時間ほど前からずっと尾行されてるよね。 バレバレだけどさ」
そう言うと、少年はどこか面倒臭そうに肩を竦めた。
『…誰なの?』
私が思考の淵に浸っている間も、彼らは勝手に話を進める…。
「年中、ビール臭い女だよ」
『…ああ、なるほどね』×2
その一言で何やら納得する猫二匹。
だけど蚊帳の外にいる私にしてみれば、チンプンカンプンだ。
さっぱりわけがわからない。状況が呑み込めない。
それに尾行ですって?
確かに先程から怪しい気配はしていたけど、そもそも何故、一般人である彼が尾行を受けなければいけないというの?
何か後ろめたいことでも……まさかこの歳で犯罪者!?
クッ……あまりにも情報が足りなすぎるわね。
ここ最近、イレギュラーなことが多すぎる。
こんなとき、父様のような、他人の心の中を見通せるチカラがあればいいのだけれど…。
私は内心、愚痴る。
約束の刻(とき)も近い。
爺やたちに言われるまでもなく、この計画に失敗は許されないのだから…。
…見つけた。
私の視線の先、ヒカリは商店街の入り口あたりで、一人ボーッと佇んでいた。
その目はどこかまだ虚ろだ。
まだショックから抜け出せてないみたい。
まぁ…当たり前よね。
ほのかに想いを寄せていた男の子の正体が、あれじゃねぇ…(汗)。
私は同情の念を禁じえなかった。
「ヒカリ、大丈夫?」
私はそっと慰めの言葉を掛けた。
下手な同情はかえってヒカリを傷つけると思いつつも……それでも慰めずにはいられなかった。
彼女はペコポンで初めての私の大事な親友だもの。
振り返ったヒカリは……泣いていたわ。その両の瞳にいっぱいの涙を湛えて…。
ショックだった。そんな彼女を見るのはとても辛かった。
「…カンナ……さん…」
私の名前を力なく呟くと、ヒカリはポフと私に身を預けてきた。
その体はとても軽かった。
私は黙ってヒカリの髪を撫でる。
ヒカリはとてもいい子…。
純朴な彼女を見る限り、ペコポン人もそう捨てたものではないと思うときがある。
少し生真面目で融通がきかないところもあるけど、優しくて、思いやりがあって、明るくて、健気で、皆から愛されて、そして何より私とは違って、裏表のない、素敵な女の子…。
そんな子が、どうしてあんな目に遭うのよ?
不条理だわ。
私はここにはいないジャージ馬鹿にすごく憤っていた。
ヒカリは私の胸の中で、ただただ静かに嗚咽を漏らしていた。
ふと気づくと、同行の少年が、少し距離をおいて、こちらに背を向けて佇んでいた。
そっか、彼にも色々と気を遣わせちゃったみたいね…。
『青春よねぇ〜』
傍らでは、何やら黒猫がウルウルしていたけど……気にしないでおこう。
〜第三新東京市・郊外、とある商店街〜
「「シンジ君!」」
突然、前方から駆け寄ってきた女性二人が、シンジへと声を掛けた。
どうやら走ってきたのか、ハァハァとかなり息を切らしている。
「あれ? マヤさん……それにカエデさんじゃないですか。 こんにちは。 えーと、今日は非番ですか?」
「ち、違うのよ……はぁはぁ……実はその、折り入ってお話が──」
そんな様子を、少し離れた電柱の陰からコッソリと窺う怪しい女の姿があった。
言わずもがな、葛城ミサトである。
アルコールの過剰摂取によるフラフラとした千鳥足で、小一時間ほど前から、ずっと少年を尾行してきていたのだ。
当初のその嬉々とした表情も、マヤとカエデの出現に、途端に焦り始めていた。
「クッ、何なのよあの子たち! ま、マズイわマズイわ〜〜! このままだと、また手柄を横取りされちゃうじゃないっ!!」
これまた、随分と被害妄想過多なことを考えていたようである。
「うぅ……でもどうすればいいってのよぉ〜? 捕まえるたって、今のアタシには兵隊はいないし、それにアイツってば、妙に強いし〜。 ん、待てよ──そ、そうだわ!」
ミサトは少年の傍のある一点を見詰めると、ニヤリと不気味に微笑んだ。
何やら良からぬことを思いついたのだろう。
「ママ〜、あのオバチャン、何か変〜〜」
「しっ! 指をさしちゃいけません!」
頭隠して尻隠さず。すでに街の注目を集めていたミサトであった。
「どぉ〜もぉ〜。 こんちまた、いい天気でげすな。 エヘ♪」
どこの言葉だそれはどこの?
ミサトはニコニコしながら、シンジたちの前に出て来た。
胸の前でニギニギと揉み手をしながら、まるでタイコ持ちのような腰の低さだ。
「「か、葛城一尉!?」」
ネルフ職員であるマヤとカエデの二人が驚くのも無理はない。
だってミサトは今やお尋ね者なのだ。
大量殺人と脱走を犯した、まさに凶悪犯。ま、前者は濡れ衣だが。
「今まで本当にゴメンなさいねぇ〜。 アタシってば、ふかーく反省しちゃってるのぉ〜♪」
顔の前で手を合わせ、科(しな)を作り、改心したふりをしてシンジに近づくミサトであった。
クネクネしているのがちょっとキモい。
勿論、三文芝居である。
尤も、芝居とはいえ、憎くて堪らない少年に媚び諂(へつら)うことには、内心穏やかではなかったらしいが。
(反省ですって? フフ、バッカじゃないの? 今に見てなさい! 反省すんのはアンタのほうなんだからっ!)
そう、これが偽らざる彼女の本心。
「…反省って、どういうことですか?」
「だからー、少しやりすぎちゃったなーって。 でもわかって欲しいの。 仕事だったの。 命令だったの。 アタシ、本心では、貴方と仲良くなりたかったのよん♪」
「……」
あまりの胡散臭さに、ジト目になるシンジ。
そしてミサトは、言葉では謝罪を続けつつも、その体はどこか不自然な動きを見せていた。
摺り足で、シンジの視界の端に回り込もうとしていた。
さり気なく、ゆっくりと、あくまでフレンドリーな笑顔で、気づかれないように。
そして──
ガシッ!
「「「「「!!!」」」」」
「サード・チルドレン!! この娘の命が惜しかったら、大人しくしなさいっ!!」
先程までのしおらしい態度が一変し、突然、勝ち誇ったようなミサトの怒号が上がった。
あろうことかこの女は、ヒカリという少女の体を背後から羽交い絞めにし、彼女の下顎に銃口を突き付けていたのだ。
「ひっ!」
当のヒカリは恐怖に竦み上がる。
いきなりのことで、何が何だかわからない。
「ヒ、ヒカリぃ!?」
すぐ隣にいたカンナは慌てる。
咄嗟にその手を伸ばそうとするが、
「動かないでっ! フフ、それ以上近づいたら、ズドンよ?(ニヤニヤ)」
「クッ…」
カンナは悔しそうに唇を噛んだ。
そうなのだ。──初めこそシンジたちを油断させるため、ニコニコしながら、人の良いお姉さん風に世間話をしながら、仲直りしたいのよーとか、反省してるのーとか、本当にゴメンなさいねーとか、アタシが悪かったわーとか、心にもないことを言いつつ、この女は、ジリジリとヒカリの背後へと回っていたのだ。
何という卑劣。何という下衆。これが人間のすることなのだろうか?
しかし何故ヒカリなのか?
簡単である。ミサトにとって、彼女が一番小柄で、一番ひ弱そうに見えたからである。
この女、弱った獲物を見分ける嗅覚に秀でていた。
まるでハイエナ。
それに、マヤやカエデでは、人質に取っても意味がなかった。
取るなら一般人。それも少年の関係者。そんな思惑。
因みに、ミサトが手にしているのは、イスラエル製の某大型ハンドガンである。しかもマグナム弾仕様。
当然、その破壊力はハンパではなく、この至近距離、銃口の向き、そして密着したこの体勢では、人質の頭部が吹き飛ぶだけでは治まらず、引き金を引いたミサト本人にさえ被害が及ぶことは、素人目にも明らかなのだが、当の本人はまったく気づいていない。
「か、葛城一尉! 貴女、一般人に何てことをしてるんですか!」
「そうです! こんなことは直ぐに止めてください!」
マヤとカエデが真っ青になって叫ぶ。
ネルフの制服を着用した人物が、白昼堂々、天下の往来で、しかも何の関係もない一般人に危害を加えようとしているのだ。
「何だ何だ?」
「どうしたどうした?」
「ちょっと何の騒ぎなの?」
ざわざわ、ざわざわ──
ガヤガヤ、ガヤガヤ──
見渡せば、彼らの周囲には、すでに多くのやじ馬たちが集まって来ていた。
ただでさえネルフの評判は悪いというのに、この事態はもう最悪と言えた。
だが当のミサトは気づかない。
「お黙んなさい! ──フフフ、悪いわねぇ〜、でも早い者勝ちなのよねぇ〜♪」
「は、早い者勝ち!? 一体何を言ってるんですか!?」
マヤは怪訝そうな顔を向ける。わけがわからない。
端から会話が噛み合っていなかった。
自分がそうだからといって、相手もそうだとは限らない。──そう、これはまさにその典型。
そもそもマヤとカエデの二人は、手柄を立てようとここまで来たのではない。
だがミサトは違う。
頭にあるのは、私利私欲、身勝手な論理のみ。
所詮、下衆の考えなど、二人には通じなかったのだ。
ヒカリはというと、かわいそうに、その間もあまりの恐怖に顔を引き攣らせていた。
顔はもはや真っ青で、その細い足をガクガクと震えさせていた。
そして──
「う…」
どうやら失禁してしまったようである。無理もない。それだけの恐怖なのだから。
黄色い透明な液体が、少女の太腿から膝下へと滴り落ちる。
「うぅ…」
大勢の人間に見られ、耐え難い恥ずかしさと屈辱からか、ヒカリは恐怖以外の涙を見せ始めていた。
「ん? あれ? あれあれぇ〜!? あ〜〜!! 何よこの子〜〜!! お漏らしなんかしちゃってぇ〜〜!! うっわ、はっずかしい〜〜♪」
「!!!!!(真っ赤)」(ヒカリ)
「「「「「!!!!!」」」」」(周りの観衆)
ミサトは、羽交い絞めにしていた少女の異変に気づき、本人や周囲への気配りも一切なく、止せばいいものを、大声で揶揄し、面白おかしくはやし立てたのだ。
お前、人としてそれはないだろう!
同じ女として、思いやりってものがないのか!?
この女、まさかそこまで腐っていようとは…。
(もうやだ……私、死にたい……死んじゃいたい……)
ヒカリは……恥ずかしくて、悔しくて、情けなくて、真っ赤な顔をさらに真っ赤にして俯き、ポロポロと大粒の涙を流していた。
「さあ、サード・チルドレン! 黙ってアタシについて来なさい! 拒否は許さないわ! これは命令よ!」
「やだ」
シンジはかったるそうに即答した。
そもそも、人質をとって、命令もクソもないと思うのだが?
だがその返事に、ミサトの目がこれ以上なく冷たく細まる。
「…そう、わかったわ。 ──じゃあアンタなんか、もういらない! 今ここで死になさいっ! 使えない駒に用なんてないのよっ!!」
そう一喝すると、女はそこで周囲を眺める。
「…フフン、そうね、──アンタ、そこの魚屋の出刃包丁使って、自分で自分の心臓を突きなさい! ズバッと一思いにっ♪」
えーと、かなりムチャクチャなこと言ってますよ、この女?(汗)
自殺しろ?
はぁ?
相も変わらずの身勝手な言い分である。
そもそも、シンジを捕獲するつもりで尾行したのではなかったのか?
まさか死体をネルフに持って行くとでも?
それで自分の復職が叶うとでも?
勿論、周囲は呆れていた。
葛城ミサト──三度目の伝説へと突入した瞬間であった。
「何グズグズしてんの! 早くしなさい! じゃないとホラッ! この娘を殺すわよ!」
ミサトは、その無粋な銃口をさらに強く少女の喉へと押し付けた。
もう完全な悪役である。
この瞬間、周りの見物客も、ミサト=悪玉という認識を不動のものとしていた。
「ひっ」
銃口のヒンヤリとした感触、そして痛みと恐怖で、思わず悲鳴を上げてしまうヒカリ。
唇の色は既に紫へと変わり、ガチガチと歯を鳴らして震えていた。
…これでは、もし助かったとしても、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の恐れもあるかも知れない。
「ヒカリぃ!」
カンナが青ざめて叫ぶも、手出しできない。
「ほらサッサと──」
なおも催促しようとする馬鹿女のセリフを遮って、突然、少年の口が開いた。
ふぅ〜と一息吐いて、ヤレヤレとばかりに、
「寝言は寝て言え。 スポンジ脳みそタレ乳ビール三段腹やり捲くって真っ黒ガバガバ生ゴミ臭せえ ピー くり抜いて同居人の口に突っ込んでケツの穴からウンコ捻り出せこの腐れビッチ俺のケツ舐めろ──以下、自主規制(爆)」
いい加減、いい子にしてるのも疲れたのか、一気に暴言噴出のシンジであった(笑)。
(((((……)))))
因みに周囲は、そのスラングにア然…(汗)。
ニコニコ微笑む少年の容姿とは、ギャップがあり過ぎなのだ。
「な、なななな、何ですってぇ〜〜!? こ、ここここ、こんのクソガキゃ〜〜!!」
クソ女はキレて引き金に掛けた指に力を込める。
見せしめに人質を殺す気のようだ。
怒りに任せた咄嗟の行動とはいえ、それはあまりにも直情的で、愚か過ぎた。頭悪すぎ。
何より、人質を失えばどうなるか、まったく考えていない。
ウルトラの馬鹿。
しかし──
スカッ!
「あれ、あれあれ!?」
スカ、スカスカスカッ!
何度も引き金を引いてみるが、彼女の右手人差し指には、何の感触もなかった。
慌てて視線を落とすと、その右手には、さっきまであったハズの愛用の拳銃がなかったのだ。
「どうなってるのよこれぇ〜〜!?」
目の前の事態がまったく呑み込めないミサトが叫ぶ。
「お捜しの物はこれですか?」
ニヤリと笑うシンジの右手には、その手に余るほどの大型拳銃が握られていた。
「んあ!? アンタいつの間にっ!?」
ミサトは驚く。
(速い!? 彼の動きが見えなかった!?)
カンナも驚愕していた。
そして次の瞬間──
メキョ!
「「「「「!!!」」」」」
少年がその手で無骨な拳銃を握り潰したのだ。
周囲は吃驚するが、
バサバサバサ〜!
時を置かず、白い鳩が一羽、少年の手の中から飛び立った。
(((((……)))))
どうやら周りは、うまい具合に手品か何かだと思ってくれたようで、皆惚けている。
尤も、全員が全員というわけではなかったが…。
だが虎の子である拳銃をシンジによって無効化されてしまったミサトは呆然しきりだ。
「あ〜、無駄な抵抗は止めなさい〜。 貴女は完全に包囲されている〜」
一度言ってみたかったんだよね、とばかりに少年が言い放つ。
「クッ、こ、このぉ〜〜!!」
だが少年のその言葉で我に返ったミサトは、その一瞬で再沸騰、それでも諦めずに、逆に今度はヒカリの横顔に己が全力の右拳を叩き込もうとした。
そうしないと、少年に一矢でも報いないと、どうしても気が済まなかったらしい。
後悔する少年の顔を見てみたかったらしい。
下衆の中の下衆。キング(クイーン)オブ下衆。まったくもって頭悪すぎ。
それに普通、一矢報いるのなら、少年本人にではないのか?
俗物の思考回路は永遠の謎である。
この凶暴女の暴挙に、ヒカリは恐怖で咄嗟に身を竦ませるが──
ガッ!
「あだっ!? あだだだ〜〜!?」
だがしかし、ミサトの右拳がヒカリの顔面に到達することはなかった。
シンジが背後からミサトの右腕を掴み、後ろ手に捻り上げていたのだ(ナイス)。
これで形勢は逆転である。
逆にミサトは、風前の灯火、人生最大のピンチを迎えていた。
助けを叫ぼうにも、今さらながらに周りを見渡せば、皆が皆、自分に白眼を向けていたのだ。
味方など誰一人としていない。
全てが敵。敵だらけ。
下手をしなくても、寄って集(たか)って袋叩きに遭いそうな超危険な雰囲気が漂っていた。
「えーと……もしかしてピンチ?(滝汗)」
今さらであるが、ようやく状況を理解したのか、ミサトは脂汗をダラダラと流し始める。
孤立無援。
四面楚歌。
絶体絶命。
どこをどう見ても、極めてマズイ状況にあることは疑いなかった。
普通なら、もはや年貢の納め時である。観念するほかないだろう。
だがこの女──普通じゃなかった。
「テ、テヘッ♪ な、何てね〜♪ もー、ウソよウソ、冗談よぉ〜♪ あ、もしかして本気にした? エヘッ、ゴメンゴメン〜♪ お姉さん、ちょっちやりすぎちゃったかも〜♪ でも、こんなのホンのお茶目な悪戯じゃない〜♪ もー、皆してそんな怖い顔しちゃイヤン♪ ほら、このとおり、ゴメンチャイ♪ ね? これでいいでしょ? モチロン、笑って許してくれるわよね〜? ね? ね? ね?」
目をパチクリさせて、ブリブリの演技力で、クネクネと科(しな)を作り、手を合わせて懇願する。
あくまで軽いノリで、サラリと、ヘラヘラ笑って。
まったくもって、反省の色なし。
コイツ……本気で冗談で済まそうとしていた。
笑って誤魔化して、ゴメンチャイの一言で、この場を乗り切ろうとしていた。
これには誰もが吐き気を覚えた。
見苦しく、面の皮が厚すぎるにも程があった。
人質を取り、拳銃を突き付け、言うことを聞かなければ殺すと脅し、最後には引き金を引いた。
そしてそれが失敗するや──
冗談でした?
悪戯でした?
ゴメンチャイ?
………
舐めてんのかゴラァ!?
ンな無茶苦茶な屁理屈が通るわきゃねーだろうが!
無論、こんな女の戯言を真に受ける者など、その場には誰一人としていなかったが。
いるわけがない。
「…馬鹿には、お仕置きが必要だね♪」
シンジは冷たくそう言うと、
めき、めきめきめき……ポキッ♪
実に心地よい音が、商店街に響いたよ(笑)。
「〜〜〜〜!!!」
ミサト、声なき声で大絶叫♪
ゴロゴロと地面の上を七転八倒しながら、苦しみ、のた打ち回った。
どうやら息ができないほどに痛いらしい。
ふむ、実にいい気味である。
見れば、ぷらんぷらんと見事に折れ曲がっている女の右手首がそこにあった。
例えるなら、空気が抜けたダッチワイフの手首のような…?(おい)
「痛い、痛い痛い痛い、いだい〜〜!! コココ、コンチクショ〜〜!! アンタッ!! このアタシにこんなマネしてタダで、タダで済むと思ってんのぉっ!?」
折れた右手首を手で押さえ、必死に激痛を堪えつつ、ミサトは少年を睨み付けた。半ベソ掻いて(笑)。
だが当の少年は、至って平然としていた。
「勿論、思ってますよ? さて、今トドメを刺してあげますからね〜♪」
ニンマリと笑うシンジ。すごく楽しそうだ。
無論、今ここでこの女を殺すつもりはない。
苺ショートの苺は最後まで取っておく。それがシンジのポリシーだからだ。
それに今は人目もある。
それでも首の骨以外はとりあえず全部折っておこうかなと、そんなことを考えていたようではあるが(笑)。
「!!! もしかしてアタシに何かする気ぃ!? アンタ、正気なのっ!?」
「ええ、正気も正気ですよ」
ポキポキと指を鳴らしながら、不敵な面構えで、ミサトへと近づくシンジ。
それを見て、本能的に後退(あとずさ)るミサト。
ライオンとウサギ。
ヘビとカエル。
まさに風前の灯火。無論ミサトが(笑)。
「クッ──こ、このアタシに何かあれば、使徒は倒せないのよっ!? 世界は終わりなのよっ!? 人類は、数十億の命は、それこそ確実に消えちゃうのよっ!? アンタ、それでもいいってーのっ!? 責任取れるのっ!?」
何かといえば、またこの三段論法、口上である。
思い上がりにも程があるし、もういい加減、さすがに聞き飽きた。
そもそも当の使徒戦において、全戦全敗にも関わらず、どの口がほざくのだ?
少年も呆れる。
「数十億の命ねぇ……でも僕の命はどうでもいいんだ?」
「はぁ? そんなの当たり前じゃない!! アンタが死んでも代わりがいるもの!!」
女は心外とばかりに即答した。
何気にどっかで聞いたようなフレーズだが、全然意味が違う(笑)。
「へぇ……では一応訊きますがね、貴女にはその代わりがいないと、貴女の命だけは特別だと、そう仰るんですね?」
「そうよ!! 当然じゃない!! アタシは人類の至宝なのよっ!? 最後の希望なのよっ!? 端からそこいらのクズ共とは違う存在なのよっ!? アタシの命は、地球よりも、人類すべての命よりも重いんだからっ!!」
今、自分が何を言ったか、わかっているのだろうか?
さり気なく「自分の命」>「人類すべての命」と言い切ったのだ。
矛盾である。
本末転倒である。
人類のためとか世界のためとか、いつもご大層なことをほざきながら、その実これが本音なのだ。
それがついポロリと出た。
アルコールの影響もあったと思う。
シンジの誘導も、少なからずあったかも知れない。
だがそれでも、これが女の隠していた本音であることは、疑いようがないことである。
本人は意識していないのかも知れない。
どうやらこの女、根っこの部分は、某外道鬚と同じらしい。
それに周りを見てみろ。皆が皆、ドン引き状態だぞ?
無理もないが。
「…つまり、僕ら下々の者は、抵抗しないで黙って貴女に殺されろと?」
「決まってるじゃないっ!! それが生きとし生けるモノの義務ってモンよっ!!」
断言しちゃいましたよ、この人。しかも天下の往来で(笑)。
「「「「「……」」」」」
まー、やはりというか、街の人々は言葉を失っていた。
皆が皆、プルプルと震えていた。
別に寒いからというわけではない。今は夏だし。言うまでもなく。
つまりは、暴動勃発の一歩手前の状態であったのだ(笑)。
「あの、それよりヒカリを!」
突然、二人のどつき合い漫才に割って入る形で、カンナが切り出した。
彼女にとっては、親友の保護、それこそが目下の最優先事項であるのだ。
「へ? …あ(汗)」
言われてシンジは冷や汗を掻く。
少しばかりゲームに夢中になっていたようだ。いつもの悪い癖である。
視線を落とすと、ヒカリは地面にペタンと座り込み、未だ呆然としていた。
そのとき、
「「「「「あっ!」」」」」
突然、シムラ後ろっ!とばかりに、周りの観客から声が上がった。
「はい?」
その外野の声に、再び視線を戻すと、
…いなかったよ(汗)。
いつの間にかミサトは、ピュ〜〜ッと逃げていた(笑)。
気づいたときには、女の後姿は、もう遥か彼方であったのだ。
相変わらず、逃げ足だけは速かった。
「…逃げたか」
まあいいや。どのみち後で殺すから。
ポリポリと頭を掻きながら、少年はそんなことを考えていた…。
誰かが膝を折って、私に目線を合わせてきた。
かなりボーッとしていたので、よくわからない。
「ゴメンね……かなり怖い思いをさせちゃったよね……でも、もう大丈夫だからさ、安心して」
そう優しく微笑み、その人はそっと片手を差し出した。
「…い、いかり…く、ん…?」
「そうだよ」
そこでようやく目の焦点が合ってきた。
目の前には、碇君の穏やかな笑顔があった。
恐る恐る周りに視線を泳がせると、もうあの怖い女の人の姿は、どこにもなかった。
「たすかったの?……わたし……たすかったの?」
「うん。 だからもう大丈夫……大丈夫だから」
そして碇君は柔らかく微笑む。
「いかりくんが……いかりくんが……たすけてくれた…の?」
「…うん」
「もう……こわくないの?……いたくないの?」
「…うん」
じわっ…ぽろぽろ…。
安心した途端、止まっていた感情が堰を切ったようにどっと込み上げてきた。
「うっ、うえっ…」
駄目……涙が……声が……。
「う、うわ〜〜〜ん!!」
「ほ、洞木さん!?」
「こわかった!! こわかったよぉ〜〜〜!!」
もう駄目。
止まらなかった。
私は碇君の胸の中で号泣していた。
「…ひっく、ひっく……すん……すん……」
どれくらい泣いていたんだろう?
一分?十分?…それとも三十分?
気がつけば、幾分落ち着いたのか、少しは頭も回るようになってきた。
あ…でも、碇君にはものすごく迷惑を掛けちゃったかも…。
………
そうだった。
今も彼の腕の中にいるんだ、私。
うぅ……殆ど初対面なのに……何てことをしてるんだろう……。
今になって、カーッと恥ずかしさが込み上げてきた。
変な子だって、思われちゃったかも…。
でも、最初こそ私からイキナリ抱き付かれて驚いていたみたいだったけど、碇君はその間もずっと私を抱きしめて、髪を優しく撫で続けていてくれたのよね。
耳元で、大丈夫…大丈夫だからと、ずっと励ましてくれて…。
だから、…本当に嬉しかったの。
すごく勇気づけられたと思う。
出来れば、このままもう少しだけ甘えていたかった。
…わがままなのかな、私って…(汗)。
そう思いつつも、顔を碇君の胸へと強く押し付けている私…。
碇君は…抵抗しなかった。
いいよね……いいんだよね……甘えても?
今日はいっぱい辛いことがあったから、これはきっとその埋め合わせ……神様が私にくれたご褒美……だよね?
………
……
「──えーと、カンナさん? 幸いというか、ここから僕の家も近いし、洞木さんをウチまで連れて行こうと思うんだけど……どうかな?」
少し経ってから、少年は隣の少女へと伺いを立てた。
カンナはというと、ずっと二人の傍にいた。
親友を…ヒカリのことを心配していたのである。
「そうね……そうしてもらえると、ありがたいわね」
親友の今の状況を見て、そして少し考えてから、カンナは答えた。
今も少年の腕の中、たぶん幸せ気分に浸っているヒカリの邪魔をしたくはないという思いもあったが、如何せんこのままでは、晒し者になりかねなかった。
ヒカリ本人にとっても、それは本意ではないだろう。
それに今は、少しでも早く彼女を休ませてあげたかったのである。
「で、申し訳ないんだけど、彼女の着替えを…ね、その、買ってきてもらえないかな?」
少し言い難そうにシンジが切り出す。
「え? ええ、それは構わないけど……私、碇君の家の住所、知らないわよ?」
「あ…そういえばそうだったね。 えーと、じゃあウチの猫を一匹つけるよ。 道順はソイツに訊けばいいから」
「…突っ込み所は色々とあるけど……わかったわ。任せて」
カンナはポンと胸を叩いて快く了承した。
「ありがとう。 じゃあハイ、コレ」
シンジは、黒いほうの仔猫の首の後ろの皮をむんずと掴むと(汗)、自分の財布と一緒にカンナに差し出す。
「…また随分と分厚い札入れねぇ(汗)」
「足りるでしょ? あ、もしも足りないときは、そこのカードを使って──」
「百人分買ったってお釣りがくるわよ!」
思わず突っ込んだ。
少年の財布には、少なく見積もっても、諭吉さんが百人は入っていたのだから。
カンナは呆れつつも、それを受け取ると、小走り気味に商店街への奥へと消えた。
「立てるかい?」
「???」
抱きついていた私の体をそっと離し、碇君が何やら言ってきた。
私がまだトロンと惚けていると、
「ここからだと僕の家も近いし、シャワーや着替えのこともあるから、移動しようと思うんだ」
その言葉で私は、自分が失禁していた事実を思い出した。
急速に頭の中が冷却される。
何で忘れていたんだろう?
そのとき私は、ペタンと地べたに腰を下ろしていたけど、慌ててスカートの裾を押さえた。
やだ…濡れてる!?
悲しくなった。
足下には、アスファルトの上には、水たまりが出来ていたから。
勿論これは、私の……アレだ。
見渡せば、腰だけでなく、足までもがビッショリと濡れていた。
〜〜〜〜っ!
またまた悲しくなった。
それに私って、こんな状態で碇君に抱き付いてたっていうの!?
恐る恐る碇君のほうを見てみると……うっ……彼の太股の辺りが薄っすらと湿っていた。
こ、これってやっぱり…。
私は、申し訳なさと恥ずかしさとで、どうしようもなかった。
多分、今の私って、顔を真っ赤にしていたんだと思う。
穴があったら、無性に入りたかった。
でも、そのとき──
「これさ、よかったら使って?」
碇君はポケットから薄いブルーの清潔そうなハンカチを取り出して、私にそっと差し出した。
「え? あ、でも……汚しちゃうと悪いから……」
そのあまりにも綺麗なハンカチを見て、私は恐縮してしまった。
その無垢なモノを穢してしまうのは、あまりにも忍びなかったから…。
だけど、
「ううん、そんなの気にしないで使ってもらって構わないから」
彼はそう言ってくれた。
その言葉に、何故だか頬が熱くなった。
「…うん……ありがとう……(////)」
結局は、碇君の厚意をありがたく受けることにした。
後でお礼をしなくちゃ…。
さすがにそのまま洗って返すのは失礼だから、後日新しいのを買って返そうかなと思う。
「あの、ヒカリさん……っていうのよね? その……私共の身内が、とんでもないことをしでかしてしまって、本当にゴメンなさい! 無論、謝って済むような話じゃないんだけど、その、──本当に、本当にゴメンなさいっ!」
「ホント、ゴメンなさいですっ!」
ネルフの制服を着た、見た目17、8歳くらいの女の人二人が、私に頭を下げてきたのだ。
何度も何度も、しかも深々と。
「!!!」
反ってこちらのほうが恐縮してしまうほどの謝罪だった。
私は無言のまま、慌てて大きくかぶりを振る。別に気にしてないからと。
無論、本当のことを言うと、まだ心の整理はついてなかったけど、別に彼女たちが悪いことをしたわけじゃないもの。
それはわかっていたから。
それにこの二人、私のことを本当に心配してくれているのがわかる…。
とても誠実そうな人たちみたい…。
同じネルフの人でも、──あの怖い女の人とは違うみたい。
「グスッ……そう言ってもらえると、本当にありがたいわ。 でも安心して! ──あのヒトは、葛城一尉はネルフが必ず捕まえて、きっと処罰してもらうから!」
その女の人は、涙を拭いながらも微笑み、任せてとばかりにポンと胸を叩いた。
「あのシンジ君? その、私たちもついていって構わないかしら? きっと何かお手伝い出来ることがあると思うから…」
「…そうですね。 そうして頂けると助かります。 何分うちは男所帯なもので…(汗)。 それに洞木さんも、女の方がいたほうが、何かと心強いでしょうしね」
皆が色々と気遣ってくれている。
ホント、いい人たちばかり…。
少し涙が溢れてきちゃった…。
「立てる?」
「あ、うん…………あ、あれ!?」
言われて立ち上がろうとしたけど、肝心の足が言うことを利かなかった。
どうやら腰が抜けてたみたい。下半身にうまく力が入らなかった。
それにまだ体が小刻みに震えていた。
私は俯いたまま、無言で首を大きく横に振った。立てないと。そして迷惑掛けてゴメンなさいと。
私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
情けなさで、再び鬱な気持ちになる。
だけど突然、碇君がクルリと背中を向け、その場にしゃがんだ。
「???」
私がポカンとしていたら、
「僕の背中に乗るといいよ。 負ぶっていくから」
「!!! あ、でも碇君の服を……汚しちゃう。 今の私、その……すごく汚いから(////)」
私は彼の背中を汚してしまうことに、すごく抵抗を感じていた。
内股をモジモジさせて、恐縮することしきり。
自分で言って、死ぬほど恥ずかしかった。
「ん? そんなこと気にしなくていいよ。 それにさ、イイン…洞木さんに汚いとこなんて、何一つないよ? だからさ、遠慮することなんてないんだよ。 ね?」
碇君はそう言って優しく微笑んだ。
「うっ…(////)」
その笑顔を見たら、何故だか私は拒むことが出来なくなっていた。
ただ、顔がとても熱かったことだけは確かだった。
「…はい(////)」
そして私は言われるまま、そっと碇君の背中に負ぶさった。
………
………
男の人の背中って……こんなにも広くて、温かいんだ…。
余韻に浸っていると、ネルフの女の人の一人が、慌てて着ていた上着を脱いで、そっと私の背中へと掛けてくれた。
「???」
…あ、そうか。
今の私って、お尻……濡れてるんだった。きっとその……透けていたんだと思う(////)。
女の人の、その心遣いがとても温かかった。
そういえば、まだ名前を聞いていなかったな…。後で訊いて、キチンとお礼を言わなきゃ…。
………
………
碇君は私を背負ったまま、道を歩いている。
重くないかな?と訊いてみたら、
全然軽いよと、彼は笑ってくれた。
心遣いがうれしかった。
結構、周りの視線を集めているハズだけど……不思議と気にならなかった。
どうしちゃったんだろう、私?
さっきから顔が熱っぽいし、動悸も激しい。
それに体が火照っている。
とりわけ腰の真ん中あたりがすごく熱いの……私、おかしくなったのかな?
碇君にギュッとしがみ付く。
心地よい感触と振動……そして碇君の匂い…。
こうしてると……とても気持ち良い……すごく安心するの。
あれ? 瞼が…重い。
少し…眠たく…なってきた。
そういえば、シェルターの中では……あんまり寝れなか…ったから……。
そこで私の意識はプツンと途絶えてしまった。
………
……
…
〜ネルフ本部・セントラルドグマ〜
「何をしていた?」
レイはエヴァのケイジを出てきた所で、ゲンドウと出くわしていた。
尤も、男がケイジの入り口で少女を待ち伏せしていた、といったほうが、より正しい表現ではあったが。
「──初号機を……見ていました」
理由は特にない。
気がつけば、ケイジへとその足が向いていたのだ。
「そうか」
少し置いて、
「レイ、少し話がある……ついて来い」
「──はい」
何やら神妙な面持ちのゲンドウの命令に、レイはただ頷くことしか出来なかった。
呪縛は……未だ解けてはいなかった。
To be continued...
(あとがき)
ミサト、死にませんでした。期待されていた方、申し訳ありません。
いえ、だって殺しても生き返らせるつもりでしたし。
それとなく伏線もありましたからね…(見苦しい言い訳)。
しかし、とうとうネルフを追い出されました。
実は、これからが彼女の真骨頂なんです。楽しみにしていて下さいね(ニヤリ)。
使徒戦&MAGIの乱を期待しておられた方、すみません。手を抜きました(汗)。
ヤシマ作戦も、端からやる気ありませんでしたので。
さて、ヒカリ嬢……陥落しましたね。
少し(いやかなり?)コソバユイ流れでしたが、どうかご容赦下さい。ある意味、電波です。
あと、これは前回の反省点なんですが、シリアス部分を先に持ってくると、後のミサトの活躍(?)で、折角のシリアスが死んじゃうんですよね…(笑)。
故に今回は、シリアス部分をケツのほうに持ってきました。
多少は、心に残ったでしょうか?
さてさて、この日の物語は、まだまだ続きますよ。
無駄にサイズだけは大きいので、3〜4つに分割してアップする予定です。
今回は、その小出し第一弾です。
小出しと言っても、今回100KBを優に超えていますけどね…(汗)。
さて、次のお話は、一転(?)してシリアスです。LRSです。お楽しみに〜。
次回もサービスサービスぅ〜♪
作者(ながちゃん@管理人)へのご意見、ご感想は、または
まで