ストレーガ Scarlet Strega

第五回 Der Freischütz

presented by ぶるー・べる様


(1)


 リョウジは暇そうな様子で技術部に顔を出した。リツコはミサトと使徒の調査現場へ行っているのを知った上の行動だ。主のいないリツコの部屋のとなりの区画で、アスカとマヤが端末に額を寄せ合ってデータの確認をしている。何となく微笑ましいその姿をしばらく観賞してから声をかけた。
「おや、アスカ。他のお2人さんは?」
「加持さん! レイとシンジは使徒見物に行ったわ。」
「加持さん、先輩も現場ですよ?」
「で、なにしてるんだい?」
「私はマヤさんのお手伝い。零号機と初号機の起動実験が近いからよ。」
「アスカちゃんに手伝ってもらって、とても助かってるんですよ。」
「さすがだね。ところでマヤちゃん、今日はこの後フリーだろう。食事でもどう?」
「加持さんって、葛城さんの……。フケツです。」
「葛城か? もうなんでもない、ふられちゃってるよ。」
「ねえねえ、マヤさん。」
「なになに、アスカちゃん?」
「あのね……。それに……」
アスカの内緒話をマヤは熱心に聴いている。
「あら、そうなの?」
「そうそう、だからね?! 私はもう少しデータみてますから。」
「じゃあ、加持さん。ご馳走になります。着替えてきますね。」
「あ、ああ。ここでまってる。」
嬉しそうに、部屋を跳びだして行ったマヤをリョウジは少しあっけに取られてみている。
「アスカァ?」
「え? 協力したのに!」
「それは、ありがたいんだが。なんていったんだ。」
「リッちゃん、リョーちゃんの仲だったから、昔のリツコさんのことがいろいろ聞ける。」
「そりゃまあな。」
「新横須賀のレストランは美味しい。」
「まあ、そのくらいの出費は覚悟してるが。それだけか?」
「えへへ、特殊監査部では服が経費で落ちるって。」
「あちゃ〜、おいおい。」
「だって、まだ買ってもらってないけど、私の服、最初経費で落とす気だったでしょう。」
「まあな。仕方ないか。アスカ、サンクス。」
「ねえ、加持さん。」
「え?」
「マヤさん落しちゃだめよ。」
「うへ。」

 着替えてきたマヤを見たリョウジは口説かないとアスカに約束したことを後悔した。口説いたら、きっとすぐアスカにばれる。まあ、マヤちゃんには品行方正でいくしかないか、赤木もおっかないしなあ。
 車内で最初緊張していたマヤも大学時代のリツコの逸話を聞いてだんだん気分もほぐれ、ネルフでのリツコの様子なども話してくれるようになった。しっさい海の見える頃にはリョウジは必要な情報のほとんどを聞き出してしまっていた。あとはアスカとの約束を守ってる限り無理だな。食事と服ではこれ以上突っ込めまい。リョウジは清く正しいデートをそれなりに楽しむことにした。


(2)


 アスカは技術部に残ってデータチェックを続けていた。作業中、端末に作戦部の日向からのメッセージが来て会うことになる。
「アスカちゃん、今いいのかな?」
「ええ、切りのいいところですから、ここでよければ。珈琲入れますね。」
慣れた手つきでアスカは2人分の珈琲の用意をした。
「ありがとう。エヴァ部隊からの提案や要求の件なんだけどね。」
「ええ、どうでしょう?」
「うちと技術部それにエヴァ部隊で構成する委員会を作って検討して、予算請求になるからまだまだ日数かかるんだ。」
「ドイツから弐号機が引き継いだ予算、大破でもしなければ余裕があると思うんですけど?」
「規定上、流用は難しいね。」
「そうですか。」
「うん。でもね、アスカちゃんが第一にあげていたエヴァ部隊直属の支援軍だけど、この資料のものならつかえるよ。」
「え?」
「ネルフでは使用していない古い機体で、希望のVTOLではなく回転翼機だけど。」
「見せてください。」
「セカンドインパクト後の混乱期に東南アジアやアフリカ戦線で使われていた無人偵察ヘリと攻撃ヘリなんだ。とりあえず20機まわせる。」
「無人機ですか。整備の人員や交換部品、それに補充の機は?」
「このタイプは数年前に開発された地対空ミサイルに無力なので安いから、エヴァ部隊の今の予算内で数は確保できる。整備人員もある程度まわせる。問題はこれが役に立つかどうかなんだ。どうかな?」
「MAGIをつかわさせてもらうとして、1度に何機扱えるのでしょう。」
「発令所に任せれば何機でも良いけど、現場で使いたいとなるとよく判らない。搭乗中のエヴァパイロットにどれだけ余裕があるによるね。」
「模擬戦で確かめるしかありませんね。日向さんぜひ採用してください。助かります。」
「役に立てば良いね。あとね、提案してくれた強襲偵察なんだけど、次回は無理かもしれない。」
「どうしてでしょう。理由も付記しましたが?」
「国連軍は、やはり前回使徒に損傷を与えられなかったのが大きい理由だろうね。」
「進化をさせる暇を与えないため、強襲偵察に続いて攻撃するのが良いと思うのですが。ネルフでは?」
「前回、弐号機で偵察して攻撃で成功したからねぇ。」
「ああ、そうですね。でも私は1体しか経験していませんが、今までの2体も違ったんですから次はまた違うのが来るんでしょう?」
「僕に権限はない。提案や指摘点は全て記録に残すから、作戦に弱点があれば次期使徒戦後には変えられるよ、きっと。」
「ありがとうございます、日向さん。」
「いいんだよ。少しでも手伝いたかっただけさ。ところで何をしていたの?」
「来週の初号機と零号機の起動実験のデータチェックです。」
「へー、でもマヤちゃんたちがやってくれただろう?」
「ええ、もちろん完璧に。でも戦闘になったら、微妙なフィードバックの調整でパイロットの受けるイメージはすっかり違うものになるんです。だからなるべく各機の特性を知っておかないと。私は弐号機での経験があるから、出来る範囲で調べているんです。多少はエントリープラグ内でも調整できるんですけどね。」
「なるほど。」
日向はしばらく雑談をした後、仕事に戻っていった。


(3)


 起動実験は先に初号機が行われ成功し、その翌日に零号機の再起動実験が行われた。前回原因不明の暴走を起こした零号機の実験準備には細心の注意が払われている。発令所には司令以下のスタッフがそろい、万一に備え弐号機が最寄りのケイジに待機していた。零号機が起動に成功し、機体連動試験に移ろうというところで、使徒が出現しネルフに警戒態勢がひかれた。
『アスカ、出撃予定だからそのまま待機して。』
「了解。事前の偵察を提案します。」
『少し待って。』
一緒にいれば主張を通しやすいんだけど、アスカは使徒出現の間の悪さを呪ってしまう。まずいなあ、司令以下の幹部勢ぞろいだから、作戦部が提案出す前に勢いで出撃になったりして。急いで手元で見ることの出来るデータをチェックしてみる。8面体で飛行タイプ、飛び道具とか注意ね。うわっ、敵の攻撃方法は不明か。
『アスカ、使徒の侵攻が早いの。直接エヴァで応戦してもらうわ。初号機の準備も7分ほどで出来るけど、弐号機先に出すわよ。』
アスカは少し考えたが、情報なしで初号機を使徒の前に出すのはまだ危険と判断した。万一暴走しては無意味だものね。
「わかりました。先に弐号機で偵察して見ます。相手の攻撃方法わかってから、初号機を応援に出してください。」
『OK。5秒後に出すわ。』
アスカは指示を聞き逃さぬよう発令所の様子に注意したまま弐号機内で身構えている。
「了解しました。」
『発進!』
モニタで発令所の様子を見るとゲンドウがミサトに指示を出したようだ。やれやれ何もないといいけど、アスカは地上の様子に視線を戻す。
『内部に高エネルギー反応!』
情報分析担当の青葉の声だ。
『円周部を加速、収束していきます。』
『なんですってぇー。アスカ避けて!』
アスカも事態を把握しているので必死だ。言われなくても逃げます。って、拘束が……、ちっ! 弐号機は身を捻って固定を引きちぎり左方向に逃げたが、右手首から先を失った。
『弐号機被弾、パイロットに外傷在りません。』
「ミサトさん、撤退を要請します。退避スポットの指示を!」
『北西に引いて、退避路を開放するわ。』
「了解。」
アスカは素早い動きで使徒の第2射前に撤退に成功した。

 作戦会議に先立ち行われた使徒に対する調査攻撃は作戦部が立案し実行した。作戦会議の出席者は全員立ち会っている。エヴァパイロット、作戦部、技術部から集まった各々3名計9名の顔ぶれを見てリツコは少し憂鬱になる。アスカたちは別にしても作戦部はミサトに日向君それにNo3の千代田ハルナ三尉、うちはマヤとMAGIオペレーターの阿賀野レン三尉だ。私が最年長か、いくら若い組織といってもねえ。それにしてもアスカは上手い。作戦会議に技術部で二佐待遇のリツコをいれ、先任扱いにして会議の代表に推薦したのだ。司令と副司令の同意も得やすいし、何よりミサトとの衝突を避けるのに一番良い選択だろう。熱心に攻撃を見つめている幼さの残るアスカの顔を見つめる。その外見から軽々しく判断を下すのは危険だ。それにしてもミサトの攻撃意図はなに? 
 一通り攻撃が終わり、観測データをマヤが各自に渡す。各部門3人で簡単に協議してから会議が始まった。リツコが切り出す。
「会議の前に今の状況は、日向君?」
「はい。使徒は本部直上に停止しており直径17.5mの巨大ドリルで掘削中です。本部到達は約10時間後と思われます。」
「ありがとう。では作戦提案は、……ミサト。」
「使徒は一定距離内の外敵を自動的に排除する性質を持っていると思われます。しかもその加粒子砲もATFも超強力よ。エヴァによる近接戦闘は無理と判断し、長距離からの狙撃を提案します。」
「ATF中和しない場合に必要なエネルギーは資料に載せたけど?」
「大丈夫、武器の当てはある。」
「アスカ、あの加粒子砲をエヴァのATFで防御できる可能性は?」
「今のところATFのみで完全に防ぐのは3機とも不可能と思います。」
現時点では無理か。アスカの予測は正しいだろう。でも後続の使徒は強くなるだろうから、がんばってもらわないとね。
「なにレン?」
バルタザール主任オペレーターの阿賀野レン三尉は栗色のショートカット、マヤの妹のような可愛い娘だ。
「使徒の砲門があのスリットなら、真上か下方の地下層くらいからなら敵の攻撃を受けずに作戦実行できないでしょうか?」 
どうなのだろう、試したほうが良いのか? アスカをそっと見ると首をかすかに横に振っている。やはりそうか、ここはアスカに言わせないほうが良さそうね。
「どうかな? 試しても良いけど、飛行してきた要塞タイプの使徒の上下に死角があるとは考えにくいわね。それに上下からATFを直接射抜くとなるとN2兵器くらいしか無いわ。でもエヴァを出してATF中和するなら実戦時に下方に砲を配備しても良いかな。
 では、エヴァ部隊の案は?」
「ちょっと待って、リツコ。」
ミサトが発言を求めた。
「いま作戦の概略を各自の端末に送ったけど、私たちの案ではエヴァ2機に参加してもらって陽電子砲の射手と防御をしてもらうつもりなのよ。だからこの作戦を採用するなら、右手に損傷のある弐号機だけしか余らない。」
「わかった。それは最後に考慮調整するわ。ではアスカ?」
「エヴァ部隊は、やはり単純な近接戦闘を中心に計画しました。」
「アスカ、危険すぎるわよ。」
「ええ、ミサトさん危険はあります。でも作戦の比較はリツコさんが言われたようにあとですることにしましょう。
 ミサトさんの言われるとおり使徒は一定範囲の敵を攻撃するようです。では敵と判定する基準は? 先ほどの作戦部の調査攻撃、弐号機が射出された時のデータから見ると、攻撃をしかけた自走レーザー臼砲、攻撃姿勢をとったバルーンダミー、それに起動していた弐号機が打たれました。攻撃したものや高エネルギー反応を示すものを敵とみなすのではないでしょうか。エヴァは特に探知されやすいのかもしれません。ですから無線操縦の地上車を使えば使徒の直下にN2地雷を設置するのは可能でしょう。また使徒の近くにエヴァで出るのは危険ですが私は生還できましたし、何らかの防御方法を持てば危険は減ります。それに今のところ使徒の砲は1門だけですからエヴァ3機で出ればますます成功率は上がると思います。」
リツコは話を聞きながら、マヤとレンにミサトの作戦に必要な機材作成の工程表作成を指示した。
「ありがとうアスカ。ミサト、もう少し待って。技術部の考えも言わせてね。」
口を開きかけたミサトを制し、リツコは続ける。
「私たちの案は2案の中間と行ったところね。ミサトの作戦に使う機材の一覧が手元に行ったと思うけど、その中の盾は時間があれば2つ用意できる。エヴァ2機に盾を持たせて防御とATF中和、残る1機がネルフの陽電子砲で攻撃役になる。では、マヤ。3案の成功率を計算してきて、レンはアスカと私の案に必要な機材をそれぜれリストアップして。」
「はい」
「はい、わかりました。」

 リツコはマヤの計算が終わるまで休会を宣言した。そして部屋を出ようとしたところをミサトに呼び止められ作戦の補足説明の洗礼を受ける。ミサトは自分の作戦に固執しすぎだ。エヴァを使用した使徒と同じ攻撃方法に……。それでも、きちんと話を聞き細部の指摘を2−3行い、どの作戦にも使用する盾の改造を始めることを伝えた。
「ええ、お願いするわ、リツコ。戦自研の陽電子砲は作戦が司令に承認されないと挑発できないから。」
 ミサトと分かれたリツコは自室が近いので珈琲を飲みに戻ることにした。部屋の外にはアスカの姿があった。やれやれ『会議は踊る』か、されど会議は進むと行きたいわね。アスカと少し話したリツコは休憩を諦め、マヤのもとへ向かった。

 30分後ネルフ総司令官公務室には、リツコを伴ったミサトが作戦進言をしていた。司令、副司令は傾聴している。
「エヴァ2機による使徒ATFの中和と近接戦闘、1機のバックアップ、それに長距離からの自走陽電子砲での攻撃を同時に行います。」
「なるほど三段構えというわけだね。勝算は39%か。」
「はい。もっとも高い数値です。ただ、エヴァの少なくとも1機に中破以上の損害が出るとMAGIの計算結果が……」
ミサトが要らぬ事を……リツコは自分で報告しなかったことに臍をかむ思いをする。ミサトの作戦は勝算が低いため単独では採用されなかったが、上手く行けば一撃で片がつき味方に損害はでないので捨てがたいのだろう。
「かまわん、使徒に勝つためにエヴァとパイロットは存在するのだ。勝を優先したまえ。」
「はい、司令!」
「ところで、これは赤木君に聞いたほうがいいのかな。その危険なポジションにつくエヴァは?」
冬月が何気なさそうに質問した。
「はい、弐号機の惣流二佐が志願しました。MAGIの計算でも彼女がもっとも良い数字ですので、採用するつもりです。」
「碇?」
「反対する理由はない。」
初号機なら止めるくせに……。リツコは自分の心にどす黒いしみが拡がるのを感じた。


 戦自から挑発した陽電子砲は、作戦部案のエヴァの携帯兵器に改装するより小規模な改造で済んだので比較的早く準備ができ、二子山山頂に設置された。そのため生じた時間的余裕で技術部は2個目の盾を作成した。右手首より先を失った弐号機のため直接右前腕に固定する予定だ。
 二子山からの攻撃を重視する作戦部、いやミサトにマヤが連れ去られたため多忙な時間を過ごしたリツコだったが、どうにか予定時刻に準備を終了することができた。さて、ミサトは二子山の臨時コントロールへ行っちゃったから、最後の打ち合わせは少し話しづらいけどアスカと2人ね。アスカは第7ゲージを見下ろす部屋に照明を落したままいた。
「どうしたのアスカ?」
「リツコさんですか。何でもありません。もう少し待とうと思って。」
横に並んでケイジを見ると、レイとシンジが並んで座っていた。
「あら、キューピット役ってわけ?」
「さあ、どうなんでしょう。でも、レイとシンジは2人で居ると落ち着くらしいから。」
「なるほど、作戦実行上、有利というわけね。」
「いやだなあ。ただ、邪魔をしたくないだけですよ。何かご用ですか?」
「作戦名は『ナガシノ』になったわ。」
「『モウリ』じゃないんですね。」
「エヴァ部隊提案の3者同時攻撃は第2波に使う。でも陽電子砲で攻撃を仕掛けるのには利点もあるわ。率が低いとはいえ勝てばネルフの被害は最小限なのよ。」
「そうですか、ネルフは無人兵器での使徒殲滅は避けるかと思いました。」
「それがね……」
「弐号機は出るんですね。」
さすがわかっちゃうか。
「ええ。悪いわね。」
「大丈夫ですよ。覚悟はあります。」
「死ぬ気じゃないでしょうね。」
「もちろん。ではパイロットの集合時間なので失礼します。」
「がんばって。」
死地へ子供を送り出すのになんて陳腐な言葉なのだろう。アスカを加え3人になったパイロットの真剣な様子を見ながらリツコの気は重かった。


 ケイジで待っていた2人はアスカの説明をうけている。
「損傷受けている弐号機が、囮と無人の自走砲の守りなの? 僕が変わろうか?」
シンジは決定に少し不満があるようだ。3者同時攻撃の提案者としては当然の反応だろう。もっとも理論的にというより各提案者の意見を均等に取り入れた結果だったのだが。
「まあ最後まで聞いて。自走砲の射撃準備が整った時、弐号機は盾とソニック・グレイブを装備して使徒近傍の地上に出ます。さっき言った囮役ね。本当はこれで決まって欲しいけど勝率は10%を切るらしい。失敗したら、第2射の準備に約20秒かかるので、その間にエヴァの残り2機が地上に出て準備をするの。
 まず弐号機が助かって居る場合。零号機が盾、初号機がエヴァ用のポジトロンライフルをもってその後方にでて作戦開始よ。
 万一弐号機がだめな場合。初号機が盾で零号機がライフルに代わって。これは弐号機がいなければ、盾係が使徒のATFを中和しなければいけないから理の当然よ。」
「ねえアスカ、弐号機沈黙にでもなったら指揮系統が乱れるでしょう。初号機が最初に出たほうがいいよ。」
弐号機が倒れた場合、勝率が著しく下がるのでシンジはきがきではない。表情もこわばっている。
「弐号機は右手首無いから射手は無理よ。」
「ああ、そうか。」
「私は?」
「レイ。零号機は今回起動には成功しているけど、未調整のためシンクロが不安定になるからどうしても2機のバックアップなの。」
「それは、良い。私の役目は、初号機を守るのね。」
「そうよ。作戦としては準備する必要があるけど、私は2人が出てくるまで倒れたりしない。レイの影でシンジは時間を待って。レイは中和作業に参加せず前方にATF展開するのよ。」
「了解。」
「ところでさあ、2人とも……」
アスカの提案に、シンジの肩の力は抜けた。


(4)


 作戦決行の時間が近づいているが発令所は比較的静かで落ち着いている。攻撃の第一段階は二子山のミサトが指揮を取り第二段階は前線のアスカが取る予定だ。二子山からの中継でミサトの元気な姿を見ながらリツコはオペレーターの仕事をチェックする。マヤと日向をミサトが連れて行ったので、次席のレンとハルナがオペレーターを勤めていた。2人の緊張感はひしひしとリツコに伝わってくる。
「落ち着いて、レン、ハルナ。今回、発令所は連絡係といった役目なんだから。」
「は、はい。」
「り、了解。」
やれやれ、普段からもう少し慣れさせておくべきね。
 攻撃5分前になると二子山のマヤからリツコにデータチェックの依頼が来た。マヤったら、このくらい問題なくできるでしょうに、仕方ないわね。素早く手近なキーボードでMAGIに指示を入力する。
「早い! 赤木博士。」
その呼び名、母さんを思い出させる。
「リツコでいいのよ、レン。」
心配していたプロトタイプの陽電子砲だが上手く改造できたようだ。電力供給も上手く行ってる。
「さあ、みんな。しっかりモニターしててよ!」

 第1射4秒前に弐号機は地上に出る計画だ。
「予定10秒前になりました。 8 7 6 目標内部に高エネルギー反応!」
「よし、かかったか!」
「4、弐号機地上でました。2 1 0!」
使徒は弐号機を無視して二子山方向を狙い陽電子砲とほぼ同時に撃った。湖上で両者のビームは干渉し大きくそれ着弾する。
「外れた。ミサト、第2射準備急いで。アスカあとよろしく。」
『二子山臨時基地了解。』
『弐号機了解。』
少し深い位置で止めてあったリフトビルを上げ、エヴァ2機を地上へ出す。
「レイ、シンジ君、出て!」
『『了解』』

「零号機・初号機到着。第2射、15秒前。目標に再び高エネルギー反応!!」
「レン、エヴァは?」
「はい。零号機、初号機は弐号機の影からやや西へ移動。弐号機は前進しATF中和開始しました。……弐号機、自走陽電子砲と目標の間に入りましす。」
「アスカ!?」
『使徒が撃ったら、自走砲を少しずらせて!』
「ミサト!」
『わかった。』
「使徒、2門照射! 零号機、弐号機に着弾。」」
「なんてこと。レン威力は?」
「やや落ちますが、第1射の8割程度はあるようです。」
『リツコさん、盾の耐久は?』
「アスカ、第2射でギリギリよ。」
『了解、みんな落ち着いて! レンさん、カウントよろしく!』
「あ、はい。5秒前 3 2 1 GO!!」
全てが同時だった。ATF中和に成功した弐号機は盾と右腕を失ったが、ソニック・グレイブで使徒を深々と突き刺した。そして零号機の盾の影から出た初号機と二子山の自走砲は目標に的中させた。
「目標完全に沈黙! 敵掘削ブレードも停止しました。」
大歓声があがる。リツコも撤収作業の指示を出すようハルナに告げてからその輪に加わった。


 発令所ではハルナが撤収の指揮を続けており、レンは使徒の調査部隊をだして指示をしている。慣れない2人のためリツコはしばらくついているつもりだ。小1時間もたったころドアが開き、子供達が賑やかに入ってきた。
「あなた達、着替えもせずにどうしたの?」
プラグスーツのままのアスカが答えた。
「リツコさん、忙しいところすみません。さっきの使徒戦、誰の攻撃が最初でした?」
「あら一番槍競争なの? レンどうだった?」
「コア着弾時刻で良いですか?」
「ええ、いいわね?」
「はい。」
「0.05秒ほどの差で初号機のビームが一番槍です。」
「げ」
「やったー」
「良かったわね。」



To be continued...


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