ストレーガ Scarlet Strega

第九回 Israphel

presented by ぶるー・べる様


(1) 

『使徒活動を停止しましたが、依然パターン青は健在です。』
『使徒、強力なバリアを展開し自己修復中のようです。』
「弐号機パイロット、意識消失しましたがバイタル安定、外傷も認められません。それに弐号機のN2による損傷も軽いものだけです。」
マヤの報告に指揮車にほっとした空気が流れた。日向の指示で弐号機の引き揚げ準備と使徒に対する監視態勢が構築されつつある。気づいたミサトは不満だ。
「ちょっと、使徒も気絶してるんでしょう。残りのエヴァを呼んで殲滅すればいいじゃない。」
「でも葛城さん。せっかく集めたデータの分析をしないと。」
「もういいわ。」
ミサトは、通信機に向かった。
「副司令! この場で、エヴァ2機による攻撃を進言します。」
『しかし、葛城君。作戦と違うではないか。』
「無視するわけでは、ありません。使徒は停止しています。もう少し攻撃して見てもいいでしょう。時間はあるので、弐号機が帰還した後でいいです。え〜と、使徒はこのままでは7日間ほど修復にかかる計算です。」
『なるほど、少し検討しよう。アスカ君は?』
「惣流二佐は、まだ目覚めません。」

 本部では、さっそくミサトの提案の検討に入った。副司令が判断に当たって各部門の意見調整を望んだのだ。技術開発部、ミサトと日向のいない作戦部それにエヴァ部隊とも得られたデータの分析が出るまでは、作戦を遵守すべきと言う点では一致していた。
「葛城一尉の提案で、使徒が動けないうちに攻撃するというのは、あながち無謀では無いと思うが?」
冬月は、リツコに意見を求めた。
「自己修復は、第三使徒でも認められましたが、回復後使徒は進化を示しました。この点だけ見ると停止している間に攻撃する案は良さそうです。しかしながら、使徒を完璧な単独兵器と考えるなら、今の停止した状態で使徒は要塞化していると見てよいのでは無いでしょうか。」
「と言うことは、飛行こそしないが第五使徒のようなものか?」
「はい。今使徒が使用しているATFは第五使徒を凌ぎますし、第三使徒が進化後、遠隔攻撃の手段を獲得したことを御想起ください。」
冬月は作戦部の担当官に許可を取って、エヴァ部隊所属の千代田三尉に意見を聞いた。軍人としての経歴はハルナが長いからだ。
「はい。赤木博士のご指摘に同意します。それに使徒も沈黙していますが、こちらのエース惣流二佐も意識がありません。実際、先鋒として危険を冒して戦った、データでは分からない意見もあるかと思います。」
「なるほど、わかった。分析を待とう。弐号機と入れ替えにエヴァ2機を使徒近くにおく案はどうかな?」
「はい。引き返す時はVTOLで1機ずつですが、本部からの輸送は2機で行けます。必要時間から考えて、結果が出てからでも間に合うと思われます。」
「うん。明快な答えだ。葛城君には私から言おう。」

 ミサトは、エヴァを有しながら傍観しているのは不満であったが、はっきりと現在総責任者の冬月に命令を受けてしまっては仕方が無い。監視体制だけ確認して、他のメンバーと本部へ引き返した。使徒はまだまだ動かないのだ、先制攻撃の機会はあるだろう。

(2)

 アスカは本部医学部の病室で目を覚ました。ベッドの側にはカエデがおリ、部屋の隅の椅子にレイとシンジが居た。
「あ! 司令車や弐号機は大丈夫だった?」
「アスカちゃん、もちろん無事だったわよ。」
カエデはそう言うと、駆け寄ってきたレイとシンジに席を譲り少し後ろで控えることにした。3人は仲良く話をしている。使徒の話題が多いのは仕方が無いが、そばで見ていても三人の仲が良いのが手に取るようにわかる。
 しばらくすると、レイとシンジにハルナから呼び出しがかかり、2人は引き上げていった。アスカは医師の許可がでる明日まで病院泊まりの予定だ。
「あれ? カエデさんは行かなくていいの?」
「ええ、レンさんがアスカちゃんに付いてるようにって。」
嘘じゃないもの、私の希望を叶えてもらったんだけどね。カエデは心の中でいいわけをした。
「そうなの?」
「え? ああ、えーと。それに使徒戦のこととか聞きたいでしょう?」
「司令車の様子とか、聞きたいな。」
カエデは使徒戦の様子を自分が落ち着いて対処できたことを少し強調しながら説明した。
「そうそう、ヘリのミサイル、助かったよ。」
「えへへ、とっさにね。」
「そういえば、分析結果はもう出たのかな。」
「数値の処理が終わったので、リツコさんやマヤさんがまとめて明日午後の会議に出す予定です。退院後ですから、アスカちゃんも間に合いますよ。」
「うん。じゃあ、使徒戦後は? 私が気を失ってからはどうなったの?」
ミサトの悪口にならないよう気をつけて、カエデは説明した。二、三質問をしたアスカは考え込んでしまう。
 ミサトがアスカをはじめとするパイロットやエヴァ部隊に反感を持つのは止むを得ない。子供相手に対等にしてくれる方が例外なのだ。しかし、その作戦立案に妙な意志の存在を感じる。使徒との戦いにミサトは何かの思い入れがあるのだろうか。セカンドインパクトの生存者としての復讐で説明が付くのか? 一度リョウジ…… いや、日本語なら加持さんに確認をして。まてよ、加持さんか……。ああ、偶然とは考え難いよなぁ。聞いてみるかぁ。
 最初は、邪魔せずに居ようと思って黙っていたカエデだが、アスカの表情がだんだん暗くなってきたのに気づき心配になってきた。しかも、だんだん顔色も悪くなってきた。
「アスカちゃん! ちょっと? 大丈夫ですか!」
「……」
「惣流二佐!!」
「え?」
「お医者、呼びましょうか? お加減が悪いのですか?」
「ごめん。大丈夫、元気だよ。ちょっと考え事してた。」
よほど悪いことを考えていたに違いない。カエデは何か話題を変えようと思った。
「アスカちゃんの携帯端末に着信がたくさんあったわ。メール見てみたら。」
そう言って、端末をアスカに渡した。
「そう?」
受け取った、アスカが確認すると東ミチコからの通信でメモリは一杯だった。

 本部では、各部門で分析したデータを持ち寄った合同会議を終え、明日の作戦本会議の準備を各部で開始している。2体に分離した使徒を同時攻撃するのでは一致したので、その同時攻撃方法の案出が明日までの課題になる。もちろんセクト主義にならないよう冬月から厳命がきており、合同での攻撃案も作成している。
 リツコが考えたのは、インダクションモードで成績のよい零号機と弐号機をポジトロンライフルの射手にして初号機で使徒2体を抑える方法だ。第五使徒のように杭で体が固定されているわけでは無いので、自走砲タイプでは追跡できず逆に敵の標的になるので、エヴァでの射撃が必要なのだ。戦場は兵装ビル地帯を想定している。MAGIで射撃をコントロールするにも都合がよい。
 作戦部の案は、使徒が自己修復中の間に、エヴァ3機のATFの壁で使徒を囲い、その中でN2爆弾を炸裂させるもの。
 エヴァ部隊は、エヴァ2機による格闘戦での同時攻撃と、残り1機と航空戦力で支援あるいは2機が失敗した場合の同時攻撃を狙うものであった。
 リツコは、作戦部との合同案はさすがに無理と思った。それにこの案では、エヴァに危険が及ぶ可能性もある。
 エヴァ部隊の案には、支援機にポジトロンライフルを持たせる案を加えて提出した。
 逆にエヴァ部隊からは、リツコの案の押さえ係を2機にして、1機でライフル2門を扱えないか問い合わせがきた。リツコは照準の微調整とトリガータイミングはMAGIで扱えるが、ある程度まではエヴァで照準する必要があると返事をした。
 
(3)

 翌朝、退院許可が出るとアスカは連絡が取ってあった加持の車で地上の部屋により着替えてそのまま出かけた。会議は午後のため先に加持と相談したいことがあったのだ。加持は少し早いが食事に行くことにした。
「助かるわ、加持さん。病院の朝食ではちょっとね。」
「美味いピザの店を見つけたんだ。パスタも基本的なのはあるぞ。」
「うん。」
「それだけじゃないんだろう?」
「ええ。加持さん怒らずに答えてね。」
「また、ややこしそうだな。」
アスカは伝聞であることを断って、昨日のミサトの様子を説明した。
「うーん。確かに頭に血がのぼってたんだろうけど、葛城は切れやすいからな。アスカだって知らないわけじゃないだろう。」
「ドイツで知ってたからよけいに気になるのよ。」
「というと?」
「ミサトさんは、大学出てからすぐゲヒルン入ってドイツ第三支部に配属されたでしょう。」
「ああ。」
「本部に転属して数週で第3使徒出現したのは偶然としても、加持さんとはどうなの?」
「俺と?」
「え〜と、個人的なことじゃなくて。怒らないでよ。あのさ、大学でミサトさんやリツコさんと知り合ったのって全く偶然なのかなって、ちょっと思ったわけ。」
「んー。」
「単刀直入に言うと、加持さん言うセカンドインパクトの原因追究は、いつから始めたのか? 」
「隠す気は無いけど、アスカに必要な情報なのか?」
「ミサトさんも自分自身で何かを追及していて変った戦術をとるのか、あるいは何かの、誰かの影響下にあるのかってこと。」
「おいおい、それってどういうことだ。」
「ほら、ミサトさんは話せないのに国連というかゲヒルンの南極調査にも参加してるじゃない。そのあと言語を取り戻して3年後の2005年に大学に入って、リツコさんと加持さんに遭遇……そして、3年後、4年後にみんな偶然ゲヒルンに入りましたとさ。……を私に信じろと?」
「わかった。でも俺の知っていることは僅かだぞ。」
「加持さんがプライムムーバーとは思ってない。」
「へいへい、どうせ俺は下っ端ですよ。」
「エヘッ。」
「まあ、いままでアスカにはっきりと返事してなかったかなあ? 俺はゼーレと言う組織に通じてる。別に金目的ではないぜ。奴らはそう思ってると思うがな。アスカ、俺を何歳だと思っている?」
「さあ、記録は無いけど、リツコさんより4つくらい上かな。」
「どうして?」
「個人差もあるだろうけど、同年齢の男がリツコさんと対等に話せるとは思えないわ。女性のほうが大人だからね。」
「まあ、それは想像に任せる。最初に言っておくが、俺は葛城が好きだ。今も昔もな。」
「あのさ、個人的なことは横に置いておいて。大人の恋は14才の乙女には刺激が強すぎそう。」
「実の所、最初は指示を受けて近づいたんだ。赤木は、まあ本人が拒否すれば別だが、ゲヒルンに必要な人材としてマークされていたし、赤木ナオコ博士も娘の身辺は気にしていたのさ。その時俺がもらった葛城のデータは直前三年間のものと葛城調査隊の唯一の生き残りというものだった。俺は個人的にもセカンドインパクトの秘密に近づけるかと期待してた。まあ、結果ははずれだ。」
「その三年間の記録って?」
「ああ、病気で遅れたけど優秀な成績で高校を卒業していた。」
「入所してすぐにドイツ勤務になったのは?」
「それは知らない。当時の碇所長の裁可は受けているが、誰の推薦かは書類では分からない。」
「ゼーレの関与は?」
「俺を通じては、ない。」
「んー。」
「なあアスカ。俺から質問だが、ドイツ支部で葛城やその訓練に怪しい点でもあったのか?」
「無い。今にして思えば、誰かがミサトさんにエヴァの指揮をとらせようとしたなら、もう少しエヴァのことを学ばせても良かったんじゃないかって事くらい。」
「結論はでず…… かな。」
「碇所長が優秀な指揮官に育てようとしてミサトさんをドイツで訓練させたなら、大成功とは言い難い。でも、ゼーレも使徒に勝ちたいんでしょう?」
「ああ、使徒戦の妨害工作があれば止めるように言われている。」
「もとの性格は知らないけど、精神に工作を受けたならセカンドインパクトからの2年間の間ね。南極調査船では船内の隔離施設に入れられていたから、それまでもどこかで隔離されていたんでしょう。何も聞いてない?」
「さすがの俺も葛城に聞いたことは無い。それほどの組織が、ゼーレに感知されないとは思えないな。」
「そうかぁー。でも、例えば使徒なら?」
「なんとまた突飛な。」
「だってセカンドインパクトの時も、ドイツにいる時もアダムはいたんでしょう。」
「あの固まったやつか?」
「うーん。たとえば一度南極で接触したからミサトさんには影響を与えやすいとかさ。」
「使徒に操られた葛城が使徒をどんどん攻撃させるのか?」
「進化には必要なんじゃない。」
「うーん。」

(3)

 早目の昼食を終えたアスカは、加持に本部まで送ってもらいエヴァ部隊に顔を出した。
 ハルナの説明を聞いたアスカは、特に質問することもなく作戦に賛成した。
「好いのですか?」
「えっ、どうして? ハルナさん。」
「だって、アスカちゃん抜きで決めちゃったんだよ。」
「私が出す案より、好いと思うなあ。」
「えぇー! そんなことは無いでしょう。」

 でもアスカには分かっていた。自分なら弐号機を危険な所に持っていくことを。あ〜あ、指揮官失格だね。臆病なのも困るけどさ。

「それで同時攻撃のエヴァ2体と支援の1体の割り当ては、これが最終決定なの?」
「はい。理由も付記した通りです。この案なら、組み合わせはこれが最善と考えます。」
ハルナは、零号機と初号機での接近戦と、弐号機と航空戦力による支援を立案した。(アスカなら、技術部の使徒拘束係を弐号機にした案を考えただろう。)個々の近接戦の戦闘力では、弐号機、初号機、零号機の順である。しかし2体ペアで立ち向かう時、何れの組み合わせにも差が無いことにハルナは気づいていた。(シンジとレイの相性が良すぎるのだ。)
「万一の時、残るエヴァは弐号機であるべきです。」
「ハルナさん、それは買かぶりすぎです。」
「私もハルナに賛成ね。」
レンが口を挟んで、付け加えた。
「アスカちゃんなら、残りの手札で何か役を作ってくれそうだもの。」
「そう簡単には、いかないでしょう?」
アスカは技術部の案とポジトロンライフルの性能諸元を見ながらこたえた。
「だって、今もそれ見て何か思いついたんでしょう?」
ハルナが、目立つ所に技術部の企画書を置いたのだ。
「え? なになに?」
レンに返事をせずアスカが考え込んでいるを見てハルナが指示を出した。
「レン、みんなを集めて!」
「え、ええ。」

 バルダザールに最小限の人数だけ残して、エヴァ部隊が専用の小さな会議室に集合した。計ったようにアスカは顔を上げ話し始める。
「えーっと、うちの案と作戦部の案、それに作戦部の案へのうちの問い合わせの内容は、知ってるかな?」
全員がうなずいた。みなアスカのがんばりを知っているので、そういう手抜きをするものはいない。
「技術部案のよいところは、同時攻撃が文字通り同時な点ね。MAGIの同時射撃より正確な『同時』は、地球上に存在しないでしょう。弱点はエヴァ1体では、別にシンジが悪いわけじゃないよ、あの使徒2体を止めるのはちょっとね。
 エヴァ部隊の案は、素晴らしい。さっきも言ったんだけど、私が中心で立てたら出来なかった発想だね。素晴らしい。」
ハルナが代表していった。
「遠慮なく、弱点を言ってください。」
「最大の問題は同時性ね。1週間練習しても、例え相性が良い零号機と初号機でさえ精度は1/100秒が限界じゃないかな。前回のデータ収集では、これで良いかどうかわからないと思うんだけど……?」
「すいません。同時攻撃が必要とは、聞きましたけど。」
「作戦部から出向のハルナの責任では、ありません。」
「レンも関係ないわよ!」
「いや、あの〜。二人とも責任は無いよ。私に話をさせて。
 それで、作戦部と技術部の共同作戦を検討するわね。……」
多少の質疑応答の後、全員が納得した。
「それで決まりだわ!」
レンが叫んだ。
「いけそうね。赤木博士と再度調整します。」
「ちょっと待って! 二つだけ。」
「なに、アスカちゃん。」
「その一、この案なら射手を零号機にして欲しい。」
「アスカ、どうして?」
「ごめんレイ。シンジと並んで戦いだろうけど、使徒を固定するなら純粋な力が問題になる点と攻撃の同時性が……」
「わかった。問題ない。」
それにアスカは弐号機の手柄になることで、ドイツ支部長を喜ばせるのも嫌だった。
「その二、作戦部の案を完全に潰さないと、エヴァが三体そろわない危険がある。案を潰す方策と万一の手段を考えないとね。」
ハルナが理由を質した。その返事を聞いて全員が暗然としてしまった。
「ねえ、アスカちゃん。指摘すれば、副司令は採用しないわよ。」
「でも、レン。成功すれば劇的だからね。」
「ねえ、赤木博士に正確に計算してもらえば?」
「リツコさんが、この時期にしてくれるかなあ、ハルナ。MAGIでも会議開始ぎりぎりまでかかるまも。」
「アスカちゃんの名は、出すわよ。」
「それは良いけど……。」

 幸い、リツコはハルナに真意を質すと、他の仕事を全て止めて計算を始めた。

(4)

 リツコはMAGIオペレーターを総動員して計算を続行している。予想よりも時間がかかるのはエヴァ各機のATFの強度が単純な定数として扱えないためだ。
 作戦本会議では、マヤが技術部の案にエヴァ部隊の提案を加えたものとして作戦を発表した。細かい資料や成功確率の詳細な計算結果もついている。
「伊吹君、問題ないようだな。特に反対がなければ、採用しよう。それにしても赤木博士は、まだこれに付け加えることがあるのか?」
「はい。別の方向から検討中です。」
「そうか一応採用として、では先に作戦部の案の検討に移ろう。」
ミサトは勢いよく立ち上がって、説明を始めた。
「マヤちゃんの説明は、よく分かったけど、私たちの作戦が決まれば使徒はいちころよん
「あー、葛城一尉。自信があるのは分かったから、説明を始めなさい。」
「はい、はぁ〜い。
 では、まずこの案は昨日のアスカちゃんの大活躍を見て思いついたので、お礼を言っとくね。」
向けられた笑顔にアスカは、どうにか笑みを返せた。
「あはは。」
「さて作戦部が立てたのは、3機のエヴァで作ったATFの壁の中に使徒を入れてN2爆弾で完全燃焼さてしまうっての。上方を空けて爆圧の逃げ場を作っておけばエヴァも無事でしょう? いかがでしょう副司令?」
「なるほど。」
エヴァ部隊のバルダザールオペレーターはリツコを手伝っているので出席はパイロット3人とハルナだけだ。アスカを制してハルナが質問に立った。
「何かな、千代田三尉。」
「はい、昨日の赤木博士のご発言では、自己修復中の使徒のAFTが強化されていること、それに遠隔攻撃手段の獲得の可能性が指摘されていますが、対策はどうなのでしょう?」
「もっともな指摘だ。葛城一尉?」
「使徒の修復には、あと6日かかると予想されています。第五使徒に使用した盾を3機分用意するには充分でしょう。使徒ATFの強度は手を出してみないと正確にはわかりません。必要なら攻撃の際に確認すればよい。N2は複数使用すれば良いんじゃないかな。エヴァのATFで周辺への被害も少ないでしょう?」
「うん。技術部の案を実施する前に、実行可能かな?」
アスカが反論しようと立ち上がりかけた時、ドアが開きリツコが入ってきた。マヤから経過を連絡受けていたらしく、すぐ発言を求めた。
「残念ながら、アイデアとしては面白いけど、ミサトの案は採用できない。」
「どういうことよ! リツコ。」
「既に使徒のATFは、N2兵器じゃ突破できないと推察されます。」
「だぁかぁらぁ、エヴァのATFで囲ってぇ……」
「エヴァがもちません。」
「なに言ってんのよ。そりゃ、弐号機はすごいかもしれないけど、零号機だって初号機だってさあ。」
「確かに昨日と同じ条件なら、耐えるわ。でも、囲うのが問題なのよ。ATFを、三機のエヴァのATFを同じ強さに同調させるのは無理、と言うか練習もしていないし、エヴァとパイロットの相性や精神状態の影響を受けるので事実上不可能です。
 その際、自己修復中の使徒のATFの強度が、予想される第五使徒と同等以上なら、いずれかのエヴァに損傷が出るのは必至です。今までのデータでは、零号機がその対象になると予想されますが、レイを守ろうとするシンジ君、二人を守ろうとするアスカが被害を受ける可能性も高いのです。計算データを提出します。」
冬月はデータを確認してから告げた。
「作戦部にこれを覆すデータが無いなら、N2兵器を使った案は保留だ。技術部の案でいく。」
「副司令! 作戦部にもMAGIの使用許可を!」
「葛城君。赤木博士のこの計算は技術部の案を計算したものだぞ。」
「ちっ!」
「なにか?」
「何でもありません。」

(5)

 出だしのトラブルを越え6日間の練習期間を終えたエヴァ部隊は、動き始めた使徒を待ち構えていた。
「アスカ?」
「あら、私の心配より自分はどうなの、シンジ?」
「だ、大丈夫さ。」
「そう? レイ?」
「問題ありません。」
技術部案による作戦遂行と言うことになったため、戦闘開始の合図はリツコがする予定である。
「みなさ〜ん、お静かに。いいかな? 副司令の許可を得たので、私が合図するわよ。」
「OK、リツコ!」
「よろしく、リツコさん。」
「はい、赤木博士。」
「ん〜〜、ちょっと固い人もいるけど、まあ良いわ。攻撃の第一波で方をつけてよ! 近接攻撃だと町をかなり壊すからね。あと1分。」
ポジトロンライフルでの殲滅に失敗した場合は、元のエヴァ部隊の案に変更の予定である。

 襲来した使徒を二分割して、初号機と弐号機は使徒に襲いかかった。シンジはレイと肩を並べたときのような一体感は無いものの、アスカの技術を信頼していたので、ゆっくりと着実に使徒甲を予定のポイントへ追い詰めていく。アスカはシンジの動きを確認しながら余裕を持って使徒に攻撃を仕掛けている。リツコの言う第一波が一番成功率が高い。
「リツコさん!」
「OK、アスカ、シンジ君。モニターに最適の防御壁の場所を出すわ。レイも良いかな。場所はそこで良いけど、北西方向よ。」
「了解」
アスカは勝利を確信した。
「シンジ行くわよ。リツコさん、カウントを!」
「いいかな? 5 4 3 2 1 GO!」
初号機と弐号機は、地面から飛び出した防御壁に印されたマークに使徒のコアを合わせて押し付けた。あらかじめ照準を合わせていた零号機の持つ2丁のポジトロンライフルの攻撃はMAGIからの信号により同時にコアに着弾した。

「パターンブルー諸滅! 使徒は殲滅されました。」



To be continued...


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