―確かに俺は人殺しだよ。どっちかって言やぁ悪人だろうさ。
―でもよお、あの店の娘達は皆、借金とか家族の為に一所懸命なんだぜ?
―あの子なんて弟さんの教育費の為に身を削って働いてたんだ。
―生活補助?ああ、なんか申請をたらいまわしにされたらしいや。腐ってるよなぁ。
―優先してやるから脱げ、なんてやつもいたってよ。お役人様ってのはたち悪いやなぁ。
―そんな子がなんでこんな目に遭わにゃあならんのよ。
―訴えても意味ねえんだよ。水商売の女の子はこういうときは扱いが軽いんだ。
―それにな刑事さん、あのガキども知ってるか?官僚の子弟なんだぜ。だから訴えても負けるのさ。
―婦女暴行の常連だってな。ただのクズどもじゃねえか。死んだほうが世のため人のためだ。
―だからよ、人間止めてる鬼畜どもだろ?ゴミ掃除して何が悪い?

                                        正義の味方の悪党 竜崎・真吾のレイプサークルメンバー惨殺に関する取調べでの台詞



僕は『]V』

第五劇 『狩人たちの軽やかなステップ(前半)』

presented by Bonze様




―北海道


「カニがおいしいねぇ」

ところ変わって北海道、サーティはカニを食べていた。

「ああ、うまいな。この微妙に半生ぐらいに焼いたのがいい」
「しっかり食べなよ。栄養取らないとね」
「ああ、わかってるよ」

サーティはいつもと変わらぬ白のスーツ姿、ノーラは落ち着いた布地の多めの服装をしている。

「ところでサーティ、御前によると明後日ぐらいに四番目が来るらしいけどいいのか?」
「なにが?」
「いや何がってお前、負けたらどうするんだ?」
「負けないよ。今回は戦自とUNが参加してる」
使徒は通常兵器では倒せない、ってのがNERVの通説だったよな?」
「ははは!それ間違いだよ。使徒じゃない、AT-Fieldが、だよ。そのAT-Fieldも大質量でならなんとかなるしね」
「なんだ、結局何のためにエヴァは作られたわけ?あんなもんに金かけるより局所N2とか開発したほうが良かったんじゃない?」
「一つはSEELEのアルツハイマーさんたちの計画のためかな。もう一つは、ひとえにNERVが馬鹿だから
「馬鹿?赤木リツコとかはかなり優秀だと聞いてるけど」
「彼女の場合は才能の無駄遣いかなぁ。MAGIやらエヴァやらなんかにかまってないで別のことをやれば、たぶんもっと成果を上げられるだろうに」
「他はどうなんだ?」

サーティはお茶を飲み、ふうっ、と息を吐く。

「てんでダメだな。彼らは自分たちの技術は世界一だと思ってるみたいだけど。はっきり言ってしょぼいんだよ彼らは。赤木リツコとその弟子の伊吹マヤで持ってるようなもんだ」
「そんなにダメなのか?」
「科学ってのは広く様々なことに目を向けなきゃならないんだよ?あんな鎖国状態で進歩するわけないよ」
「そんなもんなのか・・・あたしにゃわからないねぇ」
「NERVがTOPなのは単に、NERV以外の科学者をSEELEとかが圧力かけてつぶしてるだけだもの」
「うわあ、自分で技術力下げてるわけ?」
「そ。大体さ、部分クローンの技術とかサイバネティックテクノロジー、ああ、機械義肢とかのことね、そういうのなら碇財団のほうが上だよ?公開してないだけで」
「取り込もうとは考えないのかね?」
「逆らったら文字通り始末されるんだよ?誰がそんなとこに薄給で働くよ?優秀でしっかりしたのはうちで保護とかしてるしね」
「自爆かよ」

馬鹿だよね〜と二人で笑いを上げる。

「大体さ、わざわざ人型にする必要なんかないんだ。おお、カニ味噌たっぷり
「どゆこと?エヴァでしかAT-Fieldの中和は出来ないんだろ?あたしにも頂戴よ
「いやだからね、わざわざエヴァにナイフを振らせる意味が無いんだ。正確さなら機械のほうが上に決まってるし。はい、あ〜ん
「んああ、確かにそれはそうだな。あ〜ん
「だからシンクロ機構だけ残してさ、AT-Field発生装置にしちゃえばいいんだ。発生装置の起動にパイロットが必要なだけだし。指についたのまでなめないで
「ああ、なるほど。だっ ておいしんだよ
「AT-Fieldさえ中和できたら後はミサイルでも何でも打ち込めば簡単でしょ?はい、もっかいあ〜ん
「あららら〜。あ〜ん
「ま、確かにエヴァの筋力は大きいけど、それならマスドライバーでも作ったほうがお得だ」
「あらかさまに変だよなぁ」

現NERVの存在を否定するような意見にノーラはあきれた声を上げる。

「案外何とかなるんだよ、ちゃんと考えれば。なのにわざわざ人型にして子供に戦争をさせる。貸して、割ったげる
「確かに異常だなぁ。あ、サンキュ
「つまりNERVとその上層部には子供を戦場に送る必要があるってことさ。あれ?ハサミどこ行った?
「うわちゃ〜。あれ、そういや無いな
「これらの事実からNERVの人間が如何に阿呆かがわかるの。あ、向こうにすっ飛んでる
「確かになぁ。このぐらいのこと軍人あたりと相談すればわかりそうなもんじゃん。ほんとだ。何であんなとこに?
「この異常さにまるで気づかないんだ。NERVの人間がいかに馬鹿ぞろいか良く分かるだろ?あんなとこまで投げたっけ?
「てか真面目に戦争する気あるのかしらん?学者風情がさ。お姉さ〜ん、ハサミ頂戴!
「まあ、そういうやつだけを集めてるんだろうけどね。あれ?初めから切れ込み入ってる
「たち悪いなぁ。お姉さ〜ん、ハサミいりませ〜ん

突然、サーティの右目が音を立てる。
カニを皿に置き、サーティは右手を懐に入れ、ノーラは両手を腰の後ろに回す。

「NERVじゃないな、この装備は・・・げっ!」
「どしたの?」
「アメリカの機械化小隊マシンナーズ・プラトゥーンだ」
「うっわ、最低〜」
「なんでここにくるんだ?僕はあっちには手を出してないぞ?」
「あたしだって関係ないよ?」
「変だな・・・ん?これは・・・おお!」
「何なの?」

サーティは懐から右手を抜き、カニに手を伸ばした。

「狙いは僕じゃないや。お姉さ〜ん、カニもう二杯!」
「あんたじゃないって?ならなんでこんなとこに?」
この辺は古代遺跡が多いからね
「??」
「まあ、そのうち分かるよ。いや〜しかし運がいい!」

なにやら謎めいた台詞に首を傾げつつ、ノーラもカニに手を伸ばす。
縦に割って銜えようとした瞬間、盲目ゆえに高い機能を持つ鼻と耳がそれを拾う。

「っ!剣戟の音!?それにこれ血とオイルの臭い!」
「マシンナーズ・プラトゥーンが完全停止。終了だね」
「ありえん速さだな・・・おい!こっち来るぞ!」
「心配ないって」

と、ノーラが注意を向けていたまったく反対側から椅子に腰をかける音。見るとダウンジャケットのようなものを着込んだ、サーティより少し年上の少年が居た。

「よう、久しぶり!」
「ああ、久しぶりだね、優」

そのまま断りも無くカニに手を伸ばす。
サーティも気にした様子も無く、カニを口に運ぶ。

「忙しそうだねぇ。出席日数大丈夫かい?」
「学校行ってねえお前にゃ言われたか無いよ。・・・ぶっちゃけやばいけど
「・・・なあサーティ、こいつ誰?」

まったく知らない男の登場にノーラは少し不機嫌になった。

「ああ、ごめんごめん。こいつは御神苗・優。ちょっと前に一緒に仕事したの。優、彼女はノーラ、ノーラ・アンカー。『No Light』って行った方が分かりやすいかな?」
「『No Light』だぁ?ちょっと前に死んだって聞いてたけど・・・お前が囲ってたのかよ。かー!金持ちはいいねえ!金があって!
「優だってお金ならあるだろ?人生5回は送れるだけの財産はあるんじゃないか?」
「・・・姉さんに止められてんだよ。成人になるまではって」
「ははは、頭上がらないねぇ」
「うっせーや」

カニにかぶりつく優。ところでカニを食べてると人って無口になりません?

「ふい〜。食った食った」
「やっぱり本場は違うよねぇ」
「サーティ、何杯か包んでもらっていいか?」
「OK、OK」

席を立つノーラ。彼女が視界から消えた瞬間、真面目な顔になる二人。

「で、用件は?サーティ」
「例の『魂』について、ティアの姉さんはどこまでつかんでる?」
「!まあお前なら知ってても不思議じゃないか。実際は良く分かってないんだ」
「は?姉さんがあの程度の相手にてこずるとは思えないんだけど」
「まーな。問題は老人会じゃないんだわ」
「と、いうと?」
「セカンドインパクトからこっち、地脈が異常に狂っててさ、姉さんでなきゃ調節できねんだわ。代わりにが何か調べてるけど、俺にせよあいつにせよ、もちろんジャンもだけど、調査作戦にゃ向いてねえ」
「なるほどねえ。なら詳しくは知らないんだ」
「ああ、下部組織はいくつか潰してんだけどな」

話に相槌を返しながらサーティは鞄を机の上にあげ、中から厳重な封をされたディスクを取り出す。

「優、これをティアの姉さんへ。僕から正式に解析を依頼する」
「内容は?」
「トップシークレット。ただクムランの洞窟で見つかった古めかしい本の隠匿された分の写し、かも知れない」
「隠匿したのは?」
「老人会」
「了解した。確かに届ける」
「姉さんが欲しがってるのとたぶん同じだ。まあ、所詮は写本、オリジナルじゃない。オリジナルは失われてる可能性がある」
「そんなにやばい代物か」
「ああ、たぶん前人類の頃か神の時代に書かれてる。それも本人たちの手でね。もしオリジナルなら、歴史的価値もさることながら呪術的価値はノアの箱舟と同等かもしくは上
「写本だけでも相当やばそうだな」
「ああ、もしかしたら何かの設計図とか計画書の類が含まれているかもね」
「じい様がたに解読できんのか?」
「もちろんノンだ。だがやつらには東洋の三賢者が付いていた
「・・・おい、しゃれになんねーぞ、それ」

後頭部にマンガ汗を流す優。それににっこりと笑いかけながらサーティは続ける。

「とにかく急いだほうがいい。うちでも碇ユイの資料を整理させてるけど、ろくなものが出てこない」
「ああ、何か分かり次第連絡を入れる」
「優、これをもっていってくれ。僕のアドレスだ」
「・・・おい、何でオリハルコン通信機の識別信号があるんだよ」
「碇財団は優秀なんだよ♪盗聴の心配もないだろ?」
「・・・ほんとに謎だらけだな。OK、サーティ、いや十三の楔サーティーン・ウェッジ、確かに依頼は引き受けた、じゃあな」
「ああ、待った待った!」
「何だ?まだあるのか?」

店の奥に紐で縛られたカニをぶら下げて戻ってくるノーラが見える。
それを親指でさしてにやりと笑った。

「お土産はいるかい?優」

お土産はカニ三杯。




―NERV本部総司令室


「赤木君、その後サード・チルドレンと連絡は取れたかね?」
「いえ、どうしても会うことが出来ません」

リツコと冬月が話し合っている。

「一応碇家の方へも問い合わせたのですが・・・」

とても言いにくそうにリツコが言いよどむ。

「何と返事が?」
「その・・・『NERVに恨みなど無いが、あの性犯罪者がTOPに居るような組織に大切な御曹司を預ける気はない』と」
「・・・」
「碇家が国連のほうにも圧力をかけたらしく、強制徴兵は認められませんでした」
「本当かね?」
「はい。それにその、サーティ君ですが日本以外の国籍を正式に所持しているんです」
「・・・なんてことだ」
「12の国籍のうち8が国連に所属する反SEELEの国家です。残りの4はそもそも国連に所属していない君主国家ばかりなんです」
「それはすごいな」
「そのすべての国において、彼はV.I.Pでした。跡継ぎに望まれるほどの

とんでもない事実に冬月はあきれ、ゲンドウは歯を噛み締める。

「・・・どうあっても、つれてくることは無理か?」
「司令、その方法を思いつくのならぜひお教えください」
「六分儀、碇家とことを構える気か?いま碇家に牙を向くのはアジアを敵に回すのと大差ないぞ?」
「というよりそもそも彼の居場所すら分からないのですがね」

ヴィー!ヴィー!ヴィー!

愚痴といやみのキャッチボールに励んでいた三人の耳に警報が入った。

「使徒!?」




―発令所前通路


ミサトは駆け足で発令所へ向かっていた。
別に寝坊しなかったわけじゃない。単に徹夜で仕事をしていて帰っていないだけである。
ネコ印の怪しい薬で眠気を消し、ミサトは発令所へ走る。
ジャワーを浴びたばかりの上気した肌、濡れた髪。副官のメガネ君が見たら鼻血を噴きそうな画があった。

「ぷはー!これ効くわね〜。何が入ってるか知るのが怖いけど・・・」

資料を脇に抱えて友人謹製の薬のビンをゴミ箱に投げ込み、ミサトは発令所のドアをくぐった。

「失礼します!」




―発令所


発令所には彼女以外のメンバーが全員そろっていた。
その中に戦自時代に訓練を受けた男を見つけ、彼女は声を荒げた。

「教官!?なぜここに?」
「何故だぁ?てめえが呼んだんだろが、違うんか?」

彼、釣鐘・シンゴはミサトの戦自時代の教育教官であった。軍では嫌われ者の跳ねっ返りもの。能力は高いが上官には嫌われる男であった。
今回のNERVからの要請に、本来この男の名前は乗るはずは無かった。NERVに恩を売るため、上層部は自分たちの腹心を送り込もうとしたのだ。
だがうまくはいかなかった。リツコの情報収集とミサトの判断で、前線で指揮を取れないものははねられたのである。
この男は、原隊への復帰を条件にNERVの実情を調べる、という名目で送り込まれていた。

もちろん、シンゴにはその命令を聞く気がまったく無いのだが。

「葛城特務一尉、今はそっちが上だ。緊急だし自己紹介の時間もねえや。とっとと指示を出しな」
「はっ!・・・よし。日向君!レイとアスカは!?」
「セカンド・チルドレンはケージで待機中、ファースト・チルドレンは・・・赤木博士のところです!」
「よし、アスカを二号機へ搭乗させて待機、リツコに通信つないで!」

ミサトの指示が動き、技術部へ通信がつながる。

「リツコ、零号機の起動実験を今すぐ始めて」
『ミサト!?何言ってるの!上の許可もなしに・・・』
アスカの生還率を下げる気?さっさとやって!日向君!アスカに通信を!」

ミサトの使徒殲滅戦が始まる。

「これより対象を“紫イカ”と呼称します!」

ネーミングセンスは無かった。




―司令室


「許可できん」

零号機を動かす。その上申に対するゲンドウの返事は簡潔だった。
普通ならこのまま通っただろう。だがここには戦自とUNから派遣された軍人が居ることを、彼は忘れていた。

「理由をお願いできますかね?六分儀総司令殿。零号機を動かさない理由を」

ミサトの元上司、釣鐘が意見した。

「零号機はまだ調節中だ。暴走の危険があるため許可できん」
「前回の起動実験ですか?いやー資料拝見させていただきましたよ。ああ、これはちゃんと技術部を通してますんでご安心を」
「・・・何だ」
「前回は準備の不備が多いですね〜燃料が抜かれてなかったり射出装置が止まってなかったり医療班が何故かこぞって休みを取ってたり
「ぬ・・・」
前々から予定にしてたのに一人も残ってないとはねぇどなたが責任を取られたんで?現場指揮はあなたですよね、六分儀総司令殿?
「そ、それは・・・」
「総司令殿、私の立場が派遣された別組織のものであることを忘れてませんか?あなたの命令に従う義務は無いんですよ?
「いや、あのだな・・・」

ゲンドウが珍しく焦っているところに釣鐘は畳み掛ける。

「前回の責任問題は後ほど国連から連絡をやらせますんで。何せ貴重なチルドレンの一人を殺しかけたんですからねぇ
「ぐぅぅぅ・・・」
「零号機を起動してはダメだと?まともな駆動も危ぶまれた初号機に貴重で重症 なチルドレンを乗せて戦場に放り出してるのにねぇ」
「ぬぅ・・・ぅぅ・・・」
「零号機、使いますね?」

ゲンドウは頭をたれた。



―発令所


「みっちゃ〜ん」

いきなり妙な呼び名で呼ばれ、準備を整えていたミサトは思わずこけそうになった。

「教官!」
「だはは、すまんすまん。一尉、零号機の起動許可書だ。技術部に回すから判くれ」
「あ、ありがとうございます!」

ミサトは釣鐘の持ってきた書類にサインを書き、技術部へ通信をつなぐ。
その間釣鐘は敵の情報を見ていた。

「リツコ、聞こえる!?」
『何ミサト?今弐号機の設定と零号機の再調整で目の前の人に殴りかかりそうになるくらい忙しいんだけど?』

とげのある、いや、とげだらけのリツコの言葉。だがそれにもかまわずミサトは続けた。

「零号機の利用許可取れたわ。準備始めて」
『・・・よく降りたわね』
「教官がもぎ取ってきたのよ、急いでね。終わったら連絡入れて」
『OK。全速で取り掛かるわ』

リツコとの通信が途絶える。ミサトはそのまま通信を更衣室につなぐと、“Sound Only”で指示を出した。

「二人とも聞こえるわね。着替えが終わったらブリーフィングルームへ。上着を着ていいわ」

そのまま返事を待たずに通信をカット。日向や部下たちに指示を出す。

「日向君、ダミーバルーンにパレットガンを持たせて射出して」
「パレットガンですか?あれは威力と構造の問題で開発中止になりましたが・・・」
「撃つ必要はないわ。銃を構える動きさえ出来ればいいの。試作で作ってたのでいいから」
「はあ、了解」

人類の足掻きが始まる。




―ブリーフィングルーム


「以上が観測から得られた情報です。今回の使徒は両の肩らしき部分から鞭状のものを出して攻撃を行うようです。遠距離攻撃手段は確認されていません。鞭は推測ですがAT-Fieldを利用しており、その先端最高速度は音速を超えます。なお空中に浮遊している手段は不明、現在下になっている場所に弱点となるコアらしきもののエネルギー反応があります」
「音速か・・・人間では対応のしようが無いな。赤木博士、エヴァは搭乗者の身体能力を上げると聞いたが動体視力や反射神経も上がるのか?」
「おそらく、としか言いようが無いわね。まあ、上がったところでこの大気の中であんな抵抗の大きなものが音速で動くのは無理よ」
「接近戦は無理か・・・飛び道具は未完成だったな?」
「ええ、まだ起動には至らないわ」
「まったく、何に予算を使ってるのやら・・・」

行き詰る作戦立案行動。
その突破口を開いたのはやはり彼女だった。

「一応手はあるのよ、いい?これは・・・」

MAGIによる成功率は78.5%。作戦が決定した。




―発令所


モニターに映る使徒とエヴァ。そして二人のチルドレンのモニタ。

「・・・ということ。厳しいけどこれが一番成功率が高くて被害が小さいわ。わかった?」
『OK!OK!アタシは大丈夫よ!』
『・・・はい、了解しました』

対照的な反応を返す二人のチルドレン。だがその内容は共に諾であった。

「おっけ〜。じゃあ二人とも、シンクロスタートして。リツコ、いける?」
「ちょっと待って・・・ん、いけるわ」
「お〜し、そんじゃまあ・・・」

ミサトが自分の中の気持ちのスイッチを戦争へ向ける。そして使徒を視界に納めた。

コロセ!

声がミサトの頭の中に響く。

コロセ!シトヲコロセ!テキヲ、カタキヲ、コロセ!

目が少しうつろになり、ふらっと体前へ出る。右手がゆっくりとコンソールへ・・・

「葛城!!」

釣鐘の声が、ミサトを現実に引き戻した。

「あ、あら?」
「あら?じゃねえこの馬鹿!疲れてんのはわかるがシャキッとしろ!」

釣鐘に怒鳴られてわたわたとミサトがマイクを握りなおす。

「ごめんごめん、寝不足みたい♪んじゃあ改めて、作戦開始!!」

零号機が射出口へ向かい、弐号機にオプションが付けられ始める。
ミサトが各所に指示を出し、準備が進められていく。


そんななか、釣鐘は手元の資料をぱらぱらとめくり、ため息をついた。

「これ、どうやらマジみたいだなぁ・・・」

そういって手に持った資料を別のファイルに挟む。
手元が滑ったのか資料が床に落ちる。

「おっとっと」

資料には『葛城ミサトの失語症治療に関する報告書』と書かれていた。




―ところ変わってシェルター内


原作道理に馬鹿なことを考えた馬鹿なめがねが原作道理に外へ出て行く。
普段は貧弱なくせにこういうときだけ元気という不思議を発揮しつつ、カメラと共に外へ飛び出す馬鹿なメガネこと“相田ケンスケ”

「うおお〜スクープだ〜!」

叫んで姿が見えなくなるケンスケ。

「あいつは、何で、こんなときだけ、早いん、や」

ヒイヒイと息を荒げつつエスカレーターを上ってゆく黒ジャージの少年。
いまいちお頭の足りないジャージマニアこと万年校則違反男、ジャージメン“鈴原トウジ”

「ふい〜あいつどこまで行きよったんやろ「おや?」かは・・・誰や?」

声のするほうを振り向くと、同じぐらいの年頃の白いスーツの少年、サーティ。

「君はこのシェルターから出てきたのかい?閉めておかないと危ないよ」
「あ?どういう意味や?」
「どうって、シェルターは密閉しないと意味が無いんだ。開けておいてもし入り口付近で爆発でも起こってみなよ、その衝撃が中で暴れて皆ミンチだ」
「な、それほんまか!?ほな早よ閉めな!」
「ああ待って、僕も手伝うよ」

慌てて中へ入るトウジを追いかけ、サーティも中へ。二人して力を入れ、シェルターの戸を閉める。

「ふう、これで一安心だね」
「ほんまや〜おおきにな。しっかしあぶなか・・・ああああああ!!」
「何だい?いきなり耳元で?」
「ケンスケ、ケンスケ外にほったらかしやあ!!」
「・・・誰かが外に出たのかい?」

サーティは目を見開く。

「そや、クラスメートが!助けに行かんと!」
「・・・止めたほうがいいよ」
「何やと!」
「よく考えるんだ、ジャージ君」

ふうっ、と息を吐き答える。

「君が出て行くとして、僕はどうすると思う?当然ここは閉める。それから君はどうするんだ?どこに逃げる」
「うっ!せ、せやけど!」
「命を数で数えるのは良くないんだろうけど、今出て行っても運が悪ければ彼と君の両方が死ぬだけだ」
「そ、それは・・・」
「君が出て行ったら、僕は必ずここを閉める。僕だけならまだしも他にも君のクラスメートが居るんだろ?」
「・・・」
「こういう言い方はあれかもしれないけどね、もし彼が死んだとしてもそれは自業自得だ」
「んな・・・」
「上では戦争をしてるんだ。戦争だよ?分かる?人が死ぬんだ。ましてや化け物同士の戦争。遊び半分で関わっていいことじゃない」
「ワ、ワイは・・・」
「奥へ行こう。運がよければ生き残るさ」

サーティはケンスケを見限った。



To be continued...

(2006.08.27 初版)
(2006.09.09 改訂一版)
(2006.09.23 改訂二版)


(後書く)

ほんと難しい。うまいことやろうとするとどうしても数人オリキャラっぽくなっちゃう。
ここまでダメ人間ばかり集めるNERVは正直すごいと思う。
ダメなのばっか集めて補完計画前に使徒に負けると思わなかったのかしら、SEELEは。
やっぱりぼけてたんじゃないでしょか?


キャラクターを考えてみる

葛城博士(葛城ミサトの父)
    夢のために家庭を捨てた人。ていうか家庭を捨てた人多すぎ。
    いつも疑問に思うのが、なぜこの人はミサトを南極に連れて行ったのか?
    個人的な意見で言えば、たぶんアダムを起こすための鍵、つまりゼロ・チルドレンではないかと。
    そうなると必然的にミサトの母親はアダムに食わせられた、ということになる。
    ここまで考えて非常にこの考えが理にかなっていると気づいた。
    まあ、当『ながちゃんが好き』の『伸』さんの『新世紀エヴァンゲリオンアストレイア』で述べられてますけどね。
    実際、研究施設にあるはずの無い脱出ポットが実はエントリープラグだったなら理にかなっているし。
    あの胸の傷がアダムとシンクロしたときのロンギヌスの槍を突き立てた痕、ってのならおお!とか思える。
    極めつけは当時ミサトは『14歳』。これってマッチしすぎでは?
    じゃああのミサトを逃がしたのは誰だろう?
    まじで父親の場合、理由はたぶんアダムの細胞を保存するため。
    じゃあ、父親じゃないなら誰か?いろんな説があるけど、個人的に有力かな、と思うのは『加持さんの兄』。
    どうよこれ?どこで見たものだったかは忘れたけど。ああ、とりもちさんだったかな?
    ミサトが本編で言ってる「父親を重ねていた」ってのもなるほど、と思われ。
    加持の名前も『リョウジ』だし。『リョウイチ』が居てもおかしくないはず。
    なんかあたりっぽくない?


まあそれとは違うけど、エヴァの大人ってダメすぎ。誰か助けて。オリキャラ作るか碇のじいさま復活させないとマジでいい協力者いないよ。

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