新世紀エヴァンゲリオン 〜Storm of Sophistry〜

第二話(A−PART)

presented by 地球中心!様


 夜闇の包む第三新東京、正にコンクリートジャングルと呼ぶに相応しい高層ビル群の真っ只中、それらは居た。
 それらは生物なのだろう・・・多分。
 生態学・物理学・考古学・・・ありとあらゆる学問がそれらの存在を否定しようとも、それらが非常識という言葉が陳腐に聞こえるほど に非常識な存在であろうとも、そこに生命という確かな感覚を、存在を感じ取れるのならば、やはりそれは生物なのだ。
 そしてそれらは、「それら」で括ることの出来る同種の存在ではあったが、各々役割も目的も存在価値すら異なる存在――否、異なるよ うに仕向けられた存在だった。

 片や使徒と呼ばれる正体不明の巨大生物、人類を破滅に導くと他称される異形の存在。

 もう一方はエヴァンゲリオンと呼称された生物兵器。人類最後の切り札に祭り上げられた、人類によって異形を異形にされた存在。

 そんなそれらが、唐突に、必然的に、埒外に、運命的な出会いを果たした。
 いや、正確には、それらを利用価値でしか判断しない、第三者の意図と望みによって、計画的に果たされたのだ。
 これが後に世の歴史に記載されるであろう、使徒とエヴァの初の対決――

――『第一次直上会戦』――

――その始まりであった。



「さて、どうするか・・・N2に耐える防御力。手からは槍状の突出兵器。光線も出せる。つまりは短中長全ての間合いでの攻撃が可能・・・反面こちらの攻撃力・防御力・特殊能力・搭載武器一切不明。それ以前に、動く兆候も見られなければ動かせる目処も立たないっと。」
 意識的に、ちょっと呟いてみた。
 窮まった状況に陥ったときは、声に出して現状を確認してみる・・・シンジがよくやる精神安定法の一つだ――つまり、今それだけヤバい状況に置かれているわけで、本来ならここで一旦心を落ち着かせてから打開策を練るのが、彼の常套だったのだが・・・
「・・・どうしようもないな。」
 しばらく考えた挙句、出した結論は、結論の放棄だった。さしものシンジも険しい表情を浮かべている。
 まあ、致し方ないことではある。こちらは問答無用に狼の真ん前へ放り出された、羊に等しい状態だ。これでは打開策もクソも無いだろう。
 それでも物は試しと、レバーを押したり引いたり、精神を集中させて、「動け!」と念じてもみたが、当然エヴァは動く気配すら見せない。それはもう、一縷の望みに縋るのが馬鹿らしいほどに、欠片ほども動くことは無かったのだ。
(いっそ逃げてやろうか?)
 シンジがちょっと後ろ向きな思考へ走りかけた矢先――
『大丈夫? シンジ君。』
 発令所から、やっと通信が入った。



「大丈夫? シンジ君。」
 ミサトが心配げに、だがあまり意味の無い声をかける。そういうセリフは発進させる前に聞くべき筈なのだが・・・
「・・・曖昧な質問ですね。とりあえず僕の身体の方は大丈夫です。ですが、戦場に出る者としては全然大丈夫じゃありませんが・・・赤木さん?」
「なにかしら?」
「そちらで確認できるかどうか分かりませんが、このエヴァとやらは全く動きません。」
「・・・そうでしょうね、シンクロ率0ですもの。動かないと思うわ。」
「つまり動かすコツとか聞く以前の問題だと?」
「そう・・・ね、そうなるわ。」
「では敵の目の前に放り出した理由は? 正直、生贄にされたと想像しても、何ら違和感が無いのですが・・・」
「・・・・・・」
 当たらずとも遠からず・・・大まかな計画を把握しているリツコは、咄嗟な返答が出来なかった。
「何故黙るんです? 勝算も無しに出したとでも? 本当に僕は生贄ですか? 葛城さんは、どうお考えで?」
 突然の質問にギョッとするミサト。エヴァが動かないのだから自分の出る幕は無いとでも思っていたのだろうか?
「あ〜〜、いや、そのぉ・・・指令・・・がねっ。」
 しどろもどろになりながら追及の矛先をかわそうとする。泳いでいる目が実にみっともない。
 そんなミサトに、ゲンドウは黒いプレッシャーを、リツコは白い目線を浴びせた。
 それを敏感に察知したミサトは、ゲンドウの視線に背を縮こまらせ、リツコに「なによ?」と言いたげな顔を向ける・・・どうやら自分の立場というものを、分かってないらしい。
 確かに指令からの厳令だったのは事実だが、それは言い訳になりえない。
 彼女は作戦部長なのだ。
 作戦部長とは、文字通り使徒から勝利をもぎ取る作戦を打ち立てる部門、その長であると言う事なのだ。相手が指令とはいえ、その命令をそのまま横流ししては作戦部長たる役職の意味が無い。
 つまりシンジの質問は、そのままミサトがゲンドウにするべき質問だったのだが、ミサト本人は気付く気配も見せない。リツコも今更教えようとも思わなかった。
 その様子を見て、早々とミサトへ見切りをつけたシンジは、
「その辺、どうお考えです? 碇指令?」
 ゲンドウに矛先を向けた。
 だが、そう聞かれても当然ゲンドウは答えられない。まさか本当の理由、『エヴァが勝手に動いて倒す』などと言うわけには行かない。故に――
「くだらん、子供の駄々に付き合ってる暇は無い。」
 誤魔化すほか無かった。
「はっはっはっ、人類滅亡の危機は子供の駄々と変わりませんか? さすがは総司令。肝が太う御座いますなぁ。」
 一笑にふすシンジ。外人並みのオーバーリアクションが嫌味ったらしい。
 だが、その目には一切の油断も微塵の嘲りも見られない。
 シンジはここでゲンドウの出方で見極めるつもりなのだ。この男にどういう勝算があるのか、それは勝算足りえるのかを・・・ヤバイようなら早々に逃げ出す算段をつけなければならない。
(さあ、どうでる? どう算段をつけている?)
「何をしている! 最終安全装置解除だ!」
(おいおい!)
「無理です! 指令、今の初号機は脱力した状態です。倒れるだけです!」
 リツコの反論を最後に、スピーカーからは一切の声も物音も聞こえなくなった。だが、向こうの緊迫感だけは十二分に伝わってきている。かなり拙そうな感じだ。
(どういうことだ? 本当に何も無いのか? いや、待て・・・ネルフにすれば僕は戦闘に長けた人物じゃ無かったはずだ。ならばそれでも使徒に勝てる算段が有る・・・はずだ。裕也さんは『ガン○ムとザ○くらいエヴァと使徒の性能が違うんだ、きっと』とか言ってたけど・・・いや、違う! 僕はシンクロも出来てないんだ。戦う以前の問題だ・・・これも本当に奴らの予定通りなのか? 動かせなければ倒すも何も・・・いや、そうじゃない! こいつ一人でも動いた! そうだよ! こいつ勝手に動くんだよ!)

――ドガッ――

「うわぁっ!」
 頭を揺さぶられるかの様な衝撃! 慌てて目を向けたシンジの前には――
「くそ、考え中に来るなよ!」
 ヘリで見たときと同じ、異形の巨人・・・使徒の姿があった。



 使徒とやらは、しばらく此方の様子を伺っていたようだが、思うところがあったのか、本能で敵を選り分けたのか、初号機の頭と左腕を無造作に掴みかかってきた。無論シンジには避けようが無い。
 プラグ内のメインモニター一杯に、使徒の手の平が映し出され、他の様子が覗えない。何処か遠くでミリミリという軋む音が聞こえるが、まあ音の原因を知る必要も無いだろう。想像は付くし、知ったところでどうにかなるわけでもない。
『エヴァの防御システムは?』
『シグナル作動しません。』
『フィールド無展開!』
 本部の様子が漏れ聞こえるが、状況はあまり芳しくないようだ。
『駄目か!』
 ケイジで会った金髪博士の失望の声が響く。
(事実でもハッキリとそんなこと言うなっ!)
 そんなシンジの心の叫びを打ち消すかのように――

――ゴキン!――

 耳障りな音が響きまくった。昔、幾度と無く聞いてきた音だ。その時の事を思い出し、シンジも僅かに眉を顰める。
『左腕損傷!』
『回路断線!』
 見れば分かるような情報が入ってくる。発令所もかなりの混乱を見せているようだ。およそ状況を好転させそうな材料は見出せない。
 動けない事を良い事に、使徒は更なる追い討ちをかける。

――キィィィーン・・・

 周波の高い音と共に、画面中心が強烈な光を放つ!
『シンジ君避けて!』
(どうやって?)
 シンジの心のツッコミは、恐らく発令所全員のツッコミだったであろう。言っている事が野次と何ら変わらない。
 無論、ミサトの命令・・・というか、願望は聞き届けられるはずが無いわけで――

――ガゥーンッ!――

 固い物に硬い物がぶつかり合う音と共に、プラグ内に衝撃が走った! さすがに操縦席から投げ出されはしなかったが、結構な衝撃だ。思わずシンジも、見えもしないエヴァの頭部分に視線を投げる。

「頭蓋前部に亀裂発生!」
「装甲がもう・・・もたない!」

――ガゥーンッ!――
――ガゥーンッ!――
――ガゥーンッ!――

 立て続けに衝撃が走る! 破壊音が徐々に大きく聞こえてくるのは、恐らく気のせいでは無いだろう。そして――

――ドグァァァッ!――

 串刺しにされたまま後ろへ吹っ飛ぶ初号機!
 シンジ当人にも今までに無い衝撃が全身を襲う。水の中にも関わらず、かなりのGがかかったようだ。少し眩暈を感じる。
『頭部破損、損害不明。』
『活動維持に問題発生!』
(かなり・・・マズそうだな。)
 先ほどの衝撃で機器に障害が生じたのか、音が遠くノイズ混じりだが、先ほどに輪をかけて恐慌といっても過言ではない喧騒に包まれているのは十分に理解できる。
 画面を確認するも、赤い画面に文字が羅列するだけで、シンジには詳しい情報が把握できない。耳障りなアラーム音も相俟って、絶望的な雰囲気を醸し出している。
「・・・ここまでか?」
 シンジも最後の手段に訴えざるを得なくなってきた。



 一方、発令所の方はかなり詳しい情報を把握できていたが、それでも結論を言えばシンジと同じで絶望的だった。
 いや、それは使徒の前に放り出した時点で、少なからず確信していた事だ。
 大方予想されていたことが、予想通りに起きた。言ってしまえばそれだけのこと。それが望まぬ事であろうと、認めたくない結果であろうと、現実という悪夢は、皆の目の前にその醜態を晒している。
 故に職員たちはパニックに陥りながらも、心のどこかで「ああ、やっぱりこうなるよな・・・」という、諦めに近い感情を抱いていた。ただ一つの気がかりといえば――
「・・・シンジ君は?」
「モニター反応無し、生死不明!」
「初号機、完全に沈黙。」
 そう、シンジの存在だ。殺人犯とはいえ、言動が生意気とはいえ、僅か14歳の少年を、死地へ追い遣ってしまった。その事実が、今になって、皆の心の奥底に重く沈殿し始めている。
「ミサト!」
「ここまでね・・・作戦中止、パイロットの保護を最優先。プラグを強制射出して!」
「駄目です! 完全に制御不能です!」
「なんですってっ!」
 これにはミサトも悲痛な声を漏らした。
 他の職員も似たような心境だ。皆、面だっては何も言わないが、その視線は総司令に非難を浴びせかけている。
 その視線を知ってか知らずか、ゲンドウは微動だにすることなく、モニターに映る初号機を凝視していた。その目に多大な期待感を募らせて・・・



 シンジは最終決断を迫られていた。
 しばらく様子を伺うも、エヴァが動き出す気配も無いし、ネルフとも連絡が取れない。
 どうしようもない状況だ。
 思案すること数瞬――
「仕方ない、脱出するか。」
 シンジはそう呟きながら、プラグ最後方部に手を当て精神を集中させる。
 無論、破壊する為だ。
 人間の力で出来るわけが無いと、普通思うだろうが、シンジにすればそうでもない。
 いかに頑丈に作られていようと、人工物は脆い。自然の調和から外れた物体は、どうあっても構造自体の流れに淀みが生じる。存在自体 が歪なのだ。
 故に、シンジにすれば、これがいかに頑丈な超合金であろうと関係無い。むしろ、川原に転がっている石を叩き割る方が難しいだろう。
 シンジは呼吸を整え、手の平に気を蓄える。外の気配を探るが、使徒からの追撃は無さそうだ。
「よしっ!」
 今の内とばかりに、全神経を目の前のハッチに集中させる。
 目を閉じたシンジは軽い瞑想状態に入る。外部情報をシャットアウトして、目の前のハッチを破壊する事だけに専念する。まどろっこしいが、現時点でのシンジの力量では、これが限界だ。
 よってこの時、シンジの頭からはネルフのことも使徒のことも一時頭から追いやられていた。あの女の事も・・・
 十分に練りこんだ気を発しようと気合を込めた、その瞬間――

――グンッ――

 醜悪な気配が辺り一面に広がる。
「なっ?! しまっ!」
 拘束を解かれたユイが動いたのだ。
 シンジはその存在を完全に失念していた。忘れていたい存在とはいえ、やってはいけない失敗だ。
 まるで、ゴミ溜めに放り込まれたかのような、吐き気を催す悪臭に辺りを包まれる・・・そして――
『ウォォォォォォーン!』
 初号機が吠えた!



「エヴァ、再起動。」
「そんな・・・動けるはずありません!」
 思いがけぬ急展開に泡食う職員たち。せっかくエヴァが動いたというのに、そこに喜びの表情は無い・・・有るわけ無いだろう。
 彼らはこれと良く似た状況を一度経験している。それがどれほど恐怖を伴う現象で、それはどんな事をしても忌避すべきプロセスであることを知っているのだ。
 皆一様に凍りつく。
 喉元まで込み上げた言葉を必死で押し込もうとしている。言ってしまえば、それが発言する引き金になりそうで、だが、目の前の圧倒的で絶対的な現実から目を背ける事など出来るわけも無く――
「・・・まさかっ!」
「暴走?!」
――そう、叫ばずにはいられなかった。

(目覚めたかっ!)
 ゲンドウの口端が、にぃっと上った。



「ぐうっ!」
 シンジはこれ以上無い精神的苦痛を受けていた。
 ユイの意識が広がるにつれ、シンジへのプレッシャーはうなぎ登りに募っていく。正直、かなりヤバイ。
 これは、シンジが人の気配や意識を敏感に正確に読めるところから来ている。
 常人なら、こうはならない。意識など読めるわけも無し、それ以前に、ここまで個人を特定できるわけでもない。
 シンジだからこそ、碇ユイと言う人と也を正確に把握し、その精神の醜悪さを鋭敏に感じ取れるからこそ、今の状況は耐えられない。生理的に受けつけない。
「ぐぬぅっ!」
 気合一閃、シンジは辺りに広がる気配を叩き伏せる。
 先ほどはこれで、大人しくさせる事が出来たが、今回は相当にしぶとい。なかなか大人しくしてくれない。
「こ、こいつかぁ!」
 さしものシンジも気付いた。エヴァを動かす者の正体に、何故シンクロしなかったかということに・・・あまりといえばあまりな結論。彼の顔色が悪いのも、けして気のせいでは無いだろう。その表情は、絶望的の一言に尽きる。
 無論シンジも、エヴァとシンクロする為の中継に、親族の魂のデーターが使われるという情報は仕入れていた。
 だが、それは所詮シンクロする為のデーターだ。デジタルが自己主張するなど、考えてもいなかった。そのような存在が自然の中から生まれたのならともかく、人工的に可能だとは思いもよらなかったのだ。
 この辺りはシンジも思い違いをしていた。自然の力の偉大さに触れ、その力の凄まじさに傾倒していったシンジは、知らず知らずの内に科学力・人工物というものを軽視していたのだろう。悪い言い方をすれば舐めていたのだ。科学に対する無知ゆえの、思い上がりゆえの、過ちであった。
 だが今更ながら、気付かざるをえない。全く持って埒外な事だ。正直、シンジの頭の片隅にも無かった。というより、この女のことなど考えたくも無かった。
 が、気付いたところでどうするというのか、この状況ではエヴァは動かないというのに・・・
(どうする?)
 シンジは悩んだ。いや、結論は出ている。ただ踏ん切りがつかない。ハッキリ言ってやりたくない。気が進まない。
 ありとあらゆる表現で、己の結論を否定する。
 が、この状況で他に方法が無いのも事実だ。
 無理矢理脱出する方法は、ユイが邪魔するので使えなくなった。
 ネルフの助けは当てに出来ない。
 使徒にエヴァを完膚なきまで破壊してもらってから脱出するというのも有りと言えば有りだが、さすがにそこまでされて、自分が生き残 れるかどうか自信が無い。
 「・・・仕方が無い。」
 苦渋に満ち満ちた表情で、泣く泣く決断する。
 「死んだ方がましって言うの、こう言う気持ちなのかなあ・・・」
 目を潤ませながら、シミジミ語る。先程までの凛々しさの欠片も無い。
 ここ3年、生き残る事を第一に教え込まれたシンジとしては実に珍しい感情であった。余程嫌らしい。
 「さて・・・」
 シンジは静かに目を閉じた・・・



「し、初号機再起動! シンクロ率上昇していきます・・・あ、と、止まりました。10.3%で固定、初号機起動しました。」
「どういうこと?」
「そんな、ここへ来てシンクロするなんて!」
 一様に驚く、ネルフの各面。だが、事態はそれだけでは終わらなかった。
「え? そんなっ!」
「どうしたの? マヤ! 正確に報告なさい!」
「す、すいません・・・パイロット、精神汚染を受けています。あ、生命危険域に突入しました!」
「なっ! 使徒の攻撃なの?」
「いえ、使徒からの攻撃は認められません。これは・・・初号機?!」
「初号機っ!? マヤ、それ間違いないの!?」
「は、はいっ! 間違いありません。汚染源は初号機です。」
「ちょっと、リツコ! どういうことよ?」
「分からないわ! こんな事例見たことも聞いたことも無い・・・マヤ、データは取れてる?」
「はい、大丈夫です。」
 リツコはミサトを横目で見ながら、そっと呟く。
「・・・後で調べるしかないわね。シンジ君にも聞いてみないと・・・」
「・・・シンジ君が何か知っているというの?」
「そうは言わないわ。でも彼の精神に介入されてるわけだから、今彼の感じているものは間違いなく手がかりになる。」
(彼が生き残れば・・・だけどね。)
 心の中でそう付け加えながら、モニターに映し出された初号機の姿に見入った。

 その様子を高みから見遣りながら、冬月とゲンドウも焦りの色を見せ始めていた。
「碇・・・これはシナリオ通りなのか?」
「多少予定と違うが、シンクロはした。問題無い。」
「そうは言えんだろう? シンクロしたとて、想定していたよりもずっと低い。しかも精神汚染など過去に例がないぞ。それに元々、彼に倒せると思ってたわけではあるまい。彼女が目覚めれば勝てるといったが、俺にはエヴァが暴走を起こしかけて留まったように見えたぞ?」
「・・・・・・」
 ゲンドウは何も答えない。
 彼自身にもそう見えたのだ。冬月の疑問は言われるまでも無い。痛い所を突かれた彼には黙るほか無かった。



「ぐっ・・・」
 シンジは蒼白な顔で歯を食いしばりながら、操縦桿を握った。
 なんとか起動は出来たようだが、かなり一杯一杯だ。正直、この状態で何時まで精神を保てるか分からない。
 覚悟はしていたが、やはり、ユイを受け入れるのは想像以上にキツイ。過去のトラウマも重なって、生理的に受けつけないのだ。気持ち悪い事この上ない。
「急がないと・・・ヤバイな。」
 シンジは、目の前の巨人を睨みつけた。

 シンジはまず、エヴァの動きを確かめた。
 思うだけで動くとはいえ、感覚として、どれほどの動きが可能なのか、伝達速度に見劣りは無いのか、必要最低限のことくらいは把握し ておかないとお話にもならない。
(動きは・・・問題無いか。左上腕部骨折・・・動かせなくは無いけど、戦力としては使えないな。伝達速度は・・・くそ、かなり遅い 。)
 それはそうだろう。10%を少し超えるシンクロ値では起動ギリギリだ。本来、立ちあがる事すら至難なはずなのだが、そこはやはり裕 也の弟子と言うところか、身体掌握にはさほど苦労しなかったようだ。
 ある程度、状況を把握したところで、シンジは少し思案した。
 どう戦うべきか・・・
 本来、シンジを含め裕也や勝石も、相手の動きをや気配を察知し、先読みして後の先をとる戦い方を使う。
 それが、あらゆる万物の流れを読みとれる彼等のアドバンテージを最も活かせる戦い方だからだ。だが――
(さすがにここまで反応速度に差が出ると、向こうの出方は待っていられないか・・・ならば、)
 シンジは無け無しの意識を集中させ、使徒へと突っ込む!
(向こうが手を出す前に手数で押さえ込んでやる!)
「ブルファイトだっ!」

 シンジはエヴァを真正面から突っ込ませる。最早、下手な小細工はいらない。というより、やる時間も余裕も無い。
「おおおおおおおおおおっ!」
 気合の雄叫びと共に、渾身の力を篭めた右拳を突き出す!
 己の身体では無いとは言え、幾度と無く修練を積み重ねた動きだ。一切の無駄を省いた流麗な動作を以って、エヴァの右拳は、使徒の胸 へと吸い込まれていく。
((当たる!))
 シンジも、ネルフ職員の多くも、そう確信した・・・その刹那!

――キィィィン――

 耳障りに硬質な異音と共に現れた、まるでCGの様な赤い波紋模様にエヴァの右拳が弾かれた。
「なっ?!」
 さすがにこれはシンジも驚きの声をあげる。
 何の脈絡も、微塵の兆候も、欠片ほどの気配も無く突如現れた壁。この3年間でシンジもかなりの修羅場を体験したし、この世の層の深さというものも経験していたが、この様な能力は見るのも聞くのも初めてだ。



「ATフィールド!」
「ATフィールドがある限り・・・」
「使徒には勝てない!」
「リツコ、シンジ君には繋がらないの?」
「駄目ね、完全に断絶してるわ。復旧にはまだ時間がかかるわね。」
「くっ。」
 ミサトは、苦々しく舌打ちしつつ爪を噛み始めた。
 苛ついている時の、彼女の癖だ。相当おかんむりらしい。
 まあ、そうだろう。やっとチルドレンがシンクロを果たしたというのに、肝心な時に指揮が取れないのだ。
・・・自分は傍観者になる為に、ここの居るのでは無い筈なのに・・・
 彼女はそう思っている。
 そして、エヴァを射出するよう命じた指令に、この非常時に連絡手段を途絶えさせているリツコに、何よりも今更シンクロして勝手に使徒と戦っているシンジに・・・心の中で恨み言を呟いているのだろう。己のすべき事を放棄しておいて実に勝手だ。
 そんなミサトの様子を横目で見ながら、リツコもまた思考の海にダイブしていた。
(あれを本当にシンジ君が動かしているの?)
 リツコは目の前に見上げたモニターには、使徒と対峙する初号機の姿が映し出されていた。



 「何だ? この・・・壁?」
 シンジは使徒の前に広がる、半透明な赤い壁を半ば呆然と見詰めた。
 使徒にこんな能力があるなんて聞いていなかった。いや、それを言うなら、使徒の攻撃方法、防御法、強度等も、(呆れた事に)全く教え られていなかったのだが、それはシンジ自身がヘリからある程度確認していたので、さして気に留めていなかったのだ。
 「使徒の隠された能力ってことか・・・? たくっ、厄介な。」
 そう吐き捨てながら、少々顔を歪める。
 本当はエヴァでも同じことが出来るのだが、シンジは知らない。無論裕也も。
 それは当然だ。何しろ、赤木リツコ博士自身、ATフィールドの解析、実現に成功していないのだから。
 それでもまだ、本部の仕官クラスならATフィールドを知っていた。だが、裕也が入手したのは、ドイツ支部、エヴァ弐号機のデータだ 。
 彼等はATフィールドの存在すら知らされていなかった。同じネルフ、同じくエヴァを建造しているというのに、まったくおかしな話だ 。
 無論これは、意図的に隠蔽されていた為である。
 何故か? 一つはドイツ支部にあまり力を持たせたくないという、単純な理由だ。
 なにしろ昨日までエヴァ専属のパイロットは2名。ファーストチルドレン綾波レイと、セカンドチルドレン蒼流アスカ・ラングレーだけだったのだ。
 しかも、本部所属のファーストチルドレンは、選抜こそセカンドより早かったものの、実際にチルドレンとして実験に参加したのは、一年前のことだ。そしてエヴァに乗り込み、シンクロに至るまでに7ヶ月の時を要している。
 一方、ドイツ支部所属のセカンドチルドレンは、幼少時に選抜されるやいなや、すぐにチルドレン専用のスタッフチームを設け、幾度となく繰り返されるシンクロテストで改良・調整を加え、現在では70%を超えるシンクロ率を叩き出している。
 つまり、つい最近までは、戦力と成りえるチルドレンは、セカンドしかいなかったのだ。
 当然ながら、ドイツ支部はこの時、我が物顔だった。唯一無二の戦えるチルドレンがエヴァとセットで己の手元にいるのだから無理もな い。
 これ以上の支部の増長を防ぐためにもATフィールドの存在は教えられなかった。これが理由の一つだ。

 そして、もう一つの最も大きい理由が、人払いである。
 いずれは二号機は本部へ送られることになる。その時に、最も避けたいのが二号機専属技術者もセットで送られてくる事だ。
 これだけは絶対に避けたい。それはそうだろう、ゲンドウは己の計画の露呈を防ぐために、人員雇用には厳選に厳選を極めた。己の駒になり得る、有能では無いが忠実な部下だけをとり揃えたのだ。
 そんなゲンドウにドイツからのスタッフなど受け入れられるはずが無い。こちらの命令を聞くとも思えないし、まず間違いなく探りを入れられるだろう。
 故に、これまで幾度となく有ったドイツからの申し入れを、ゲンドウは全て断ってきた。あれこれ言い訳を付けて、何とか断ってきたのだ。
 それが出来たのも、ひとえにネルフ本部が、ことエヴァの開発に置いては一日の長が有り、一歩先を進んでいたからに他ならない。こちらからドイツに教える事は有っても、ドイツから教わる事が無かったゆえの強気だった。
 だが、もしATフィールドの存在を彼らに教えてしまったら、そして万が一ATフィールドの研究が、本部より一も二も先に進んでしまったらどうなるだろうか?
 そうなれば間違いなく今までのアドバンテージを覆され、ドイツにエヴァの能力向上のための技術提供をすると持ち掛けられれば、さしものゲンドウにも断る口実が無くなってしまう。
 そうならないためにも、本部はATフィールドでも、他支部の先を進んでおかねばならない。二号機引渡し時点で、戦力としては兎も角、技術だけは支部のそれを上回っていなければいけないのだ。

 ゲンドウはそう考えた。決戦に備えた軍備増強よりも、最終的な計画の障害を、排除する方を真っ先に選んだのだ。
 これに関しては、冬月は難色を示した。使徒の力も未知数な状況で、わざわざ戦力の向上を妨げようというのだから、まあ当然の反応と 言えよう。
 だが、ゲンドウは冬月の申し入れを頑として受け入れなかった。そんな案を提示する冬月に不快感すら示した。何故か?
 それは、初号機がユイの監修の元で製作された物だからである。
 彼にとって、碇ユイとは、愛すべき妻であると同時に、一科学者として自分など遠く及ばぬ領域に到達した偉人でもある。
 そんな彼女に対してのゲンドウの想いは、既に信仰のそれとなんら変わらない。
 その彼女が、エヴァ初号機を、使徒を遥かに越えるハイスペック兵器と位置づけたのだ。ゲンドウにとってこれ以上の保証はなかった。  そう、彼とっては零号機も二号機も、極論を言えばこの後何機エヴァが増えたとしても意味は無い。

――初号機――

 これだけなのだ。シンジやレイなど関係無い。彼が頼るのは、頼るに値する存在は、文字通り『唯一』なのだ。



――閑話休題――



 シンジは、いったん使徒からエヴァを離すと、直ぐに右へ飛び退り、そのまま旋回し始めた。
 右へ、時には左へ急旋回。忙しく小刻みに移動し続ける。
 敵の攻撃を察知してから、躱せるだけの反射能力が見込めない以上、とにかく敵の的になるのだけは避けねばならない。
(これが人間相手なら、焦れて向こうから仕掛けてくれたりするんだけど・・・)
 この使徒にそんな感情が、いや感情そのものがあるのかどうかすら判らない。
 そもそもカウンター勝負に持ち込んでも、あの赤い壁に阻まれれば状況がより悪化するだけだ。
 N2の爆撃で多少のダメージは負っていたようだから、無敵の盾というわけでは無さそうだが、それをジックリ検証する余裕は無い。
 そう、持久戦には持ち込めない。今はなんとか持ち堪えているが、シンジはシンクロと共に精神汚染は今もシンジの精神を蝕んでいる。こんな状態をずっと保ち続けることなど出来はしない。結局――
(こっちから攻めるほか手は無さそうだ・・・)
 シンジはそう結論付けた。付けるしか無かった。



「初号機、現状維持を放棄、後退し始めました。」
 オペレーターが律儀に報告を入れる。
 ミサト達が見遣るメインモニターには、後方のビルの陰へと退避する初号機の姿があった。
「逃げるつもり?」
 それならそれでも良い。ここは一度仕切り直して、あの少年に作戦と注意事項を言い渡してから再戦に挑むべきだ。
 その方が、勝つ為にも私の復讐の為にもベターな選択だ。ミサトはそう考えた。後半の意図は意識していなかったが・・・
「そう? そんな風には見えないけど・・・?」
 対してリツコは、初号機の動きに、ミサトとは逆の見解を見出していた。
 そう、逃げるにしては怯えが無い。脱兎の如く逃げるのではなく、ビルの陰に移動するところ、違和感を感じる。あれではまるで――
(誘い込んでる?)
 唐突にそう感じた。だが、誘ってどうするのか? ATフィールドを見て尚、なにか手段があるというのか?
(勝算も無しに仕掛けるような子には見えなかったけど・・・?)
 そこまで考えて、リツコは予想するのを止めた。どうせ、今は見ていることしか出来ないのだ。
(お手並み拝見といきましょうか。)
 あの子はきっと何か仕出かす。それはもはやリツコにとって、確信だった。



 すぅぅぅ〜〜〜、ふぅぅぅ〜〜〜、すぅぅぅ〜〜〜、ふぅぅぅ〜〜〜・・・
 シンジは目を閉じ腹式呼吸を繰り返す。LCLの中なので呼吸の意味は無いが、精神統一にはうってつけだ。
(チャンスは一回だ! 自分の持てる全ての力で奴を粉砕するんだ!)
 シンジが使わんとするのは、つい最近会得した、気の伝達だ。自分の状態も万全ではない。このエヴァとやらに乗っかったままで使える かどうかも不明だが、これが裕也の説明どおりなら、シンジの思っているとおりなら、あの赤い壁も関係なく使徒にダメージを与えられる はずだ。

 ズゥゥン、ズゥゥン、ズゥゥン、ズゥゥン・・・

 使徒が近づいて来ている。誘いを看破するだけの知恵が無いのか、誘いを判っていて近づくのか・・・まあ、どちらにせよ、シンジには 好都合だ。これで使徒が来ないようなら、本当に逃げるしか手は無かった。

(来た!)
 ビルの端から使徒が顔を覗かせる。
(まだ・・・だ、まだっ! 奴が全身を見せるまで待てっ!)
 そう自分に言い聞かせる。外内から迫るプレッシャーに押しつぶされそうだ。心臓が早鐘のような鼓動を繰り返している。
 使徒は何の迷いも、微塵の躊躇いも無く初号機へと歩みを進める。急ぐでもなく警戒するでもなく・・・悠然と歩みを進める。
(勝った気でいやがるのかな? コイツ・・・)
 使徒に感情があるのかどうかわからないが、シンジは何となくそう思えた。
(まあいい。慢心してくれてた方が・・・)
 シンジは初号機を前傾姿勢にさせ・・・
「好都合だっ!」
 真っ向から使徒へ突っ込んだ!



「何やってんのよ! アイツは!」
「さあ・・・?」
 モニターに映るのは、何の芸も無く特攻を仕掛ける初号機の姿。初手の攻撃となんら変わりは無い。
 そして、リプレイの様に、右の拳を繰り出す。

――キィィィン――

 またも初号機の拳はATフィールドに阻まれる。
「まったく! そんなものは聞かないってのにっ!」
ミサトは憤慨する。が――

――ッキィィィッ!――

「し、使徒のコアに亀裂発生っ!」
「なんですってぇ! どういうことよ?!」
「分かりません。原因不明!」
「リツコ?」
「聞いてのとおり原因不明よ。でも・・・」
「でも? 何よ?」
「いえ、さっきの件と同じよ。シンジ君に聞くしかないわ。」
 そう、恐らくはあの少年の仕業だ。偶然とは思えない。なんらかの確信あっての所業と見て間違いないだろう。
 そう思いつつ、後ろを振り返る。
 ゲンドウは相変わらずポーカーフェイスを貫いているが、副指令はかなり焦っているようだ。
 どうやらトップ二人にとってもこの展開は予想外のようだ。



「くそ! 仕留めきれなかった!」
 掛け値なし、全力を注いだつもりだが、使徒を倒すには至らなかった。己の技の未熟さを痛感するシンジ。
(だが、手ごたえは有った。ならばっ!)
 その場でもう一度構えをとる。駄目押しの一撃、これでケリをつけるつもりだ。
 敵の真正面で、溜めの大きい技はリスクもでかいが、もう一度待ち伏せを仕掛けても、掛かってくれるか分からないし、何よりシンジ自身動く余力が無い。
「ふうううぅぅぅぅっ!」
 大きく息を吐き出しながら右拳に気を込める。日ごろの修行の成果か、火事場のくそ力か、この土壇場で短期集中で気を固めたのはさすがだ。
 だが、いくら最善の選択で最高の力を発揮したとしても、それが最良の結果に結びつくとは限らない。
――ィィィィン――
 使徒の仮面が光った!
(・・・? 光線!)
「しまっ!」
シンジにはそう叫ぶしか出来ない。回避は・・・不可能だ。
――バシュゥゥッ――
 正に光の速さ! 仮面から放出された光線がエヴァに、シンジ自身の方へと飛んでくる。何故だかシンジにはそれがスローモーションの様に細部まで事細かに認識する事が出来た。
(・・・終わった。)
 シンジもさすがに諦めた・・・が、
――ヒィィィン・・・ズゥゥゥゥゥン・・・
 光はF1カーの様な高音と共に通り過ぎ、刹那の後、後ろからは雪崩のような倒壊の音が響いた。
 それは後方のビルが崩れ落ちた音だった。
「は、外した?」
 呆然とつぶやく。この距離で外すなど・・・何故? いや・・・
(考えるのは後だっ!)
 右の拳を握りなおす。
「おおおおおぉぉぉっ!」
 気合一閃!
 シンジの初号機の繰り出した一撃は、狙い違わず使徒のコアを粉砕する。粉々に砕け散ったコアが、まるでダイヤモンドダストの様に、光り輝き・・・ビルの谷間へと降り注いでいった・・・



「パターン青、消滅! 使徒、活動を停止しました!」
 オペレーターの宣言が、発令所内に虚しく響く。
 呆然とする職員たち。歓声は無い。喜びなど無い。彼らにとってみれば自分達が成し得た成果ではない。己の常識内で扱おうとしたものが常識外の行動を示し、幸運に幸運が重なって、最悪の状況を脱した。ただ翻弄されただけだ。
 故に彼らは、只々気が抜けたように画面を見詰めるだけだった。多大な安堵感と、一抹の不安感を心に抱えて・・・



――プシュッ、ウィィィン――

 自動ドアが閉まるのを横目で見ながら、リツコは一つ盛大な溜息を付いた。
(ミサト・・・指揮を取れなかった事がさぞ悔しいんでしょうけど、事後処理の指揮ぐらい執りなさいよ・・・)
 そう愚痴を零しつつ、ミサトの副官である眼鏡の青年に指揮を執るよう伝える。
 彼は慌てる事も無く、リツコの言を当然のように請けたまうと、次々と各部へ処理伝達をし始めた。
 トップが不在でも、職務は滞りなく・・・これを良しとするか悪しとするかは判断に苦しむところだ。
(適材適所とはいえ・・・あまりこういうこと繰り返していると、本当に居場所を失うわよ・・・ミサト。)
 そんな忠言を心の中で暗唱してみる。本人には言わない。もう何度も繰り返し伝えてきた事だ。
(そんな事より・・・あの爆発はいったい・・・何?)
 そう、カメラにもしっかと映っていた。使徒が光線を放つ瞬間、その足元で大きな爆発が起こったのを。
 使徒の光線が狙いを逸れたのも、そのおかげであろう。
 だが何故、あんな場所で、あんな爆発が、あんなタイミングで起こったのか?
 間違いなく偶然では無い筈だ。シンジの仕業なのか、はたまた別の要因か・・・
(原因は・・・不明ね。実地調査をしてみないと。)
 そう結論付けて、本日何度目になるか分からない、盛大な溜息を付いた。ウンザリするほどに問題は山積みだ。

――ピルルルッ、ピルルルッ、ピッ――

「はい、赤木です。」
『初号機のコアの状態を確認、その後サードチルドレンの検査と尋問を行え。最優先だ。』
「・・・分かりました。」
 どうやら山積み問題の取っ掛かりは、あの少年からに決まったようだ。
 携帯の電源を切りつつ後ろを見れば、冬月にも忙しく指示を出している。
 いつも何を考えているのか中々に読み取れない男ではあるが、今回に関しては、リツコにもその内容が想像ついた。
(シンジ君の過去を洗いなおすのでしょうね・・・)
 それはリツコも興味がある。ここで見せた彼の態度は、およそ気が強いでは片付けられない。
(何かあったとすれば、間違いなく受刑中での事でしょうけど・・・)
 果たして、そう簡単に原因が掴めるだろうか? いや、掴めるのならそれに越した事は無い。だが、もし掴めなかったなら、彼に何らかの組織の介入が有ったのだとしたら・・・
 リツコは何となく、これからの前途多難さを予感し・・・

――ふぅ・・・

 また溜息をついた。



「何とかなったな・・・」
 シンジは呟きつつ、肩の力が抜けるほどに盛大な溜息をついた。かろうじて保っていた意識も緊張感と共に抜けていった感じだ。もう起きてはいられない。
 混濁する意識の中、彼が思ったのは師への感謝の念だ。生き残る力を付けてくれた事と、助太刀してくれた事に・・・今、こうして落ち着いて考えれば分かる。
 使徒の光線が外れたのは、師のおかげだ。
 今ならハッキリと確信できる。使徒の足元が爆発した力の正体を。誰が、何処から、どのような手段を以って成し得たのか・・・
「指向性の気の伝達操作・・・か。僕は目の前の相手にやっと当たる程度なのに・・・あれって、何十キロ離れてたんだろう?」
 そう、原理はシンジの使徒への攻撃と同じだ。己を基点とした気を放出し、大気と同調させ、任意の空間を操作、湾曲・炸裂・圧縮等の干渉を持って破壊を起こす。
 シンジも勝石も方法は同じだった。ただ、その破壊力、広域範囲に雲泥の差が出ただけだ。
「まだまだ・・・修練が足りないか・・・」
 その言葉を最後に、シンジは口元に微苦笑を浮かべながら目を閉じた。



To be continued...


(あとがき)

 今月末に第二話を、と予告しておりましたが、一週早くのフライング公開と相成りました。遅ばせながら『あけおめ』――地球中心! です。
 ただ、読んで貰えれば分かるとおり、これはTV版第二話の戦闘シーンしか描かれていない訳で・・・内容としては本来の半分くらいといったところでしょうか? いや、1/3かな? 1/4って事は無いと思ふ・・・(汗)
 で、こうなった理由ですが・・・まあ、幾つか有りますが、ちょうど区切りが良かった事と、あまり文章が長いと只でさえ練りこみが無い私の文章がさらに薄っぺらくなるから・・・でしょうか?
 これ位の文量なら、多少余裕を持って手直しや付け足しも出来るかなっと思ったもので・・・それに読む方もこれ位なら我慢して読んでくれるかなあ? という、ちょっと情けない打算もあったり・・・orz
 まあ続きは来月、ということで・・・中旬でしょうか? 宣言しとかないと怠けそうですからね。
 では、頑張ってBパート書きます。あでゅぅ。

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