第七話
presented by えっくん様
ゲンドウは十二個のモノリスと向かい合っていた。初号機のシンクロ試験の結果報告の為であった。
『魔術師が無事に初号機とシンクロしたのだな』
「そうです。シンクロ率は報告書にある通り99.89%です」
ゲンドウはサングラスを掛け、何時ものポーズのまま答えた。
『シンクロ率が高すぎるな。十年乗っているセカンドが、現在60%台だ。直接シンクロをしていると言うのか?』
『その可能性は高い。まさか魔術師が適格者だとはな。今となっては、シンクロ率が高いだけのメリットだ。
だが、使徒戦には有効だろう。こちらは本命のセカンドを抑えておけば良い。問題は無かろう』
『六分儀。我らは参号機の手配を急がせておる。フォースの選抜はどうなっておる?』
「それは、セカンドが日本に来てからだと。セカンドが日本に来てからの状況を見て決定します」
ゲンドウはシンジに影響を与える人間をフォースを選びたかった。だが、この場でそれは言える訳が無い。
『北欧連合と国連軍が一週間以内に来るそうだな。次の使徒には間に合うな』
「建前では指揮権分離ですから、奴等には第二発令所を使わせます。
奴等はコンピュータも持ち込むと言っていますが、設置作業は間に合わないでしょう。
MAGIを使用させて、奴らの情報を取り込みます」
『うむ。北欧連合の情報を取り込むのは良い。それと隙は見せるな。ある意味、技術レベルは我らを超えている部分がある。
油断してMAGIの情報流出が無いようにな。第三使徒の時の映像流出のルートは、まだ確定していないのだろう?』
「……分かりました」
『指揮権を分離した以上、第五使徒までは奴等の好きにさせろ。それで戦闘被害が大きければ、奴等に譲歩を迫る事も出来る。
第六使徒よりセカンドを中心にして、使徒迎撃を行うのだ』
「葛城三尉は使徒戦の指揮を取る事に拘っています。作戦立案だけでは納得しない場合があります」
ゲンドウはミサトがゼーレの洗脳を受けている事を知っていた。
その洗脳が使徒戦に拘るように仕向けられている事も知っている。万が一を想定し、ゼーレの責任になるように誘導しようとした。
『納得させるのが君の仕事だろう。何の為に将官の地位を与えていると思っているのだ。
葛城の娘は預言書通りに使徒戦に関わらなければならないが、最初から最後まで関わる必要は無い。
セカンドの赴任後に本格的に関わらせればよかろう』
『六分儀よ。国連軍ならともかく、北欧連合に余計な手は出すな。これは命令だ。良いな』
「……分かりました」
ゲンドウは表面上はゼーレの命令に従う素振りを見せたが、内心ではシンジの不利になるよう仕掛けるつもりでいた。
何とかしてシンジに揺さぶりをかけて弱点を見つけ、初号機が負けるようにさせないとユイが覚醒しない。
『そうだ。忘れておったが、ファーストのダミープラグの実験に関するものは全て破棄したのだろうな?』
「……もちろんです」
嘘である。まだレイを諦めていないゲンドウは、揺さぶる材料として水槽のクローンは処分していない。
レイを諦めれば、ゲンドウの計画が実施出来ない。
だが、シンジに見つかったら、ゲンドウはネルフ司令を免職処分になる。即ち、死が待っている。
北欧連合に引き渡され、ゲンドウの持つ情報を知られるよりは、ゼーレはゲンドウを消す方を選ぶだろう。
それは承知していた。
『答えるまでの間が気になるな。六分儀、よもや我らにも虚偽の報告をしているのではあるまいな』
ゲンドウの一部突出した才能を補完計画に使う為には、ある程度の自由を与える必要がある。
ダミープラグの実験資料はまだ良い。誤魔化せれば問題は無い。
だが、北欧連合に不用意に干渉して休戦協定の破棄など言われては、ゼーレを巻き込んだ騒ぎになる。
ここはしっかりと釘を刺すべきだと、ゼーレの詰問は二時間に及んでいた。
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二時間に及ぶ詰問を終えてゲンドウが回線を切った後、十二個のモノリスは再び話し始めた。
『魔眼使いのレポートに関してだが、まずは魔眼使いをネルフに派遣せねばなるまい』
『まさか、北欧連合にも魔眼使いがいるとはな。ようやく使える目処がついて、これから本格的に使う予定だったものを』
『予定が狂ったが仕方あるまい。北欧連合の魔眼使いに六分儀が落とされたら、それこそ致命傷になる』
『そうだな。今まで使われなかった事を幸いと思わねばな』
『しかし、忌々しい! どこまで、我らの邪魔をすれば気がすむのだ!』
『奴等の魔眼使いは魔術師と親しい。奴等の魔眼使いを排除すれば、魔術師にも精神的ダメージは与えられよう。
その上で、こちらの魔眼使いを使えば形勢は逆転する』
『うむ。それこそ実行すべき内容だな。早急に手配させるべきだ』
『待て。確かに小娘だが北欧連合の所属だ。迂闊に動けば、やつらは協定違反を言い出すかもしれぬ』
『第三者を装って、排除すれば良い』
『だから待て。我らの手の者が、彼らに容易に狩られたのを忘れたのか? 迂闊な行動は奴等の報復を招くぞ。
レポートにはアラブ人の小娘にその力があると書かれているが、力を相殺される前には魔術師にも力が通じなかったとある。
奴等の魔眼使いが一人であるという保証は無い』
『……確かに一理ある。奴等を侮り攻撃をかけて、手痛い反撃を受けては、北欧侵攻の二の舞になる』
『そういう事だ。当面は様子見がいい。そして我らの魔眼使いを送り込み、奴等の魔眼使いを無効化させるのだ。
その間に情報収集と能力向上も同時に行い、奴等の魔眼使いを超えた時に行動を起こせば問題無かろう』
『楽観過ぎぬか。魔眼使いが、奴等の魔眼使いを超えられると保証出来る訳ではなかろう』
『当然だ。だが力が拮抗していれば、奴等の魔眼使いを排除する事は容易だろう。
奴等の魔眼使いの人数の確認を含め、しばらくは状況推移を見守る事を提案する』
『……消極案だが、今はそれがベターなのかも知れぬな』
『良かろう。我も同意する』
『反対意見が無いゆえ、魔眼使いをネルフに派遣する事とする。今まで以上に、北欧連合の動向に注意せねばなるまい。
僅かなミスが、致命傷になる可能性もある。注意を怠らぬようにな』
『次は、魔術師に関しての報告だ』
『今までのネルフの失態の根本原因は、全てあの魔術師の私怨だと言うのか!?』
『レポートには、そう書かれている。六分儀の魔術師への暴行が原因だな。
レポートが全面的に信用出来るかは別にして、信用した場合は今までの北欧連合の準備の良さにも納得がいく』
『ネルフを設立する時に、上層部の性格と能力審査をさせろとか、北欧連合と中東連合に手を出すなとか言っていたな。
当時は、何故そこまで北欧連合が警戒するのか判らなかったが、魔術師の進言という事なら理解出来る』
『それと、ネルフの会計監査を執拗に要求していたな。あれも魔術師の手配だったという訳か』
『何故、魔術師ともあろう者が六分儀の手紙だけで呼び出しに応じたか疑問だったが、報復する相手の確認だったとはな』
『使徒戦の中継もだ。拉致された時の緊急連絡用とレポートにある。左の義眼にカメラを仕込んであるのだろう。
いきなりネルフに呼ばれて中継が出来たのも納得がいく。魔女が手伝ったのなら、国連総会にも中継出来るだろう。
それにしても、ネルフにダメージを与える適当なところに国連総会が選ばれるとはな。確かに大ダメージになったな』
『そして天武が何故日本に居たのかもな。ネルフの面子を潰そうとして開発か……その程度の理由で、あれを開発したのか』
『まったくだ。我々は膨大な時間と費用をかけてEVAを開発したが、魔術師は私怨だけで対使徒兵器を開発したというのか』
『だが、あの報告書だけでは全部の説明はつかない。全面的に信用するのは危険だ』
『それは分かっている。すでに裏付け調査は命令してある』
『それと、六分儀の処分だ』
『報復の対象の六分儀だけを罷免して処分すれば、魔術師の対応も変わるのでは無いか?』
『無理だろう。罷免だけなら良いが、身柄を魔術師に渡す訳にはいかない。
六分儀の身柄を魔術師に渡せば、嬉々として尋問を行うだろう。いくら六分儀が口を閉ざそうとも、抵抗は出来まい。
それに六分儀を処分するとなると、誰が処分したかを調査される。リスクがかなり高い』
『魔術師は私怨より使徒戦を優先すると言っている。これは信用して良いだろう。
秘密を守りきれれば、魔術師を全面的に使徒戦に協力させられる』
『楽観的では無いか? あの魔術師相手に秘密を守りきれるか?』
『今のネルフのメンバーだけでは無理だろうな。魔眼使いも、それには期待出来まい』
『では、追加派遣の人選を行うとしよう。それと、六分儀には出来るだけ魔術師との接触を抑えろと指示を出す』
『派遣要員は防諜能力が高い者を優先とするか』
『取り合えずは、第五使徒までは奴等の行動を黙認する。ネルフが能動的に動くのは第六使徒からだ。
それまでには体制を整えておく必要がある』
『そうだな。情報収集体制の強化と同時に、第三新東京の監視体制も強化するとしよう』
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第二東京:核融合開発機構(NFDO):理事長室
一人の青年が車椅子に座り、静かに何かを待っていた。突然、青年のポケットから、携帯電話の着信音が流れ出した。
ちなみに今の着信音は、ただ一人の為の専用の着信音だ。携帯の画面を見る事も無く、誰がかけてきたのか分かっていた。
「はい、冬宮です」
『ボクです。EVAの起動が出来ました。プラン『F』を発動します。第三新東京の人員の受入れ態勢は、大丈夫ですよね?』
携帯電話からは、十代中頃と思われる少年の声が流れてきた。二年前に会ってから、頻繁に話し合いとしている間柄だ。
「二年前から準備してきました。第三新東京の中心部からちょっと外れたところに、マンション五棟を用意してあります。
まだ未完成と言う事にしてありますが、実際には完成して何時でも入居は可能です。
周囲の土地も購入してありますので、不審者が近寄る事は出来ないでしょう。警護の面も大丈夫です」
『ありがとうございます。既に派遣する人選を始めています。二〜三日中には終わるでしょう。
早ければ五日以内には入居を開始しますから、受入れ準備を御願いします』
「分かりました。現在のマンションの所有者は、大和会のメンバーになっていますが、宮内庁に貸し出す形式を取ります。
マンションの警備には、皇宮警察から人員を出させます。
そうすれば、第三新東京の警察やネルフは手出しが出来ないでしょう。早速、手配します」
二年前までは皇室の宮家だったので、冬宮は宮内庁にも太いパイプがある。この程度の手配は問題無かった。
『資金の方は足りてますか?』
「あなたが回してくれた資金には、まだ余裕があります。大丈夫ですよ。我々独自の資金源もありますしね。
それより、いよいよ始まるのですね」
『そういう事です』
「あなたから見せられた映像に、紫の機体がありました。それをネルフの使徒戦の中継で見た時、身体が震えましたよ。
あの映像を見て、覚悟を決めました。我々はあなたに付いて行きます」
『期待しています』
「あなたの協力が無ければ、日本はエネルギー危機に見舞われていたでしょう。今の日本の成長は、あなたの協力もあって出来た事です。
それに、我々は集団自殺するつもりはありません。私自身は元より、私の協力者もあなたに協力しますよ」
『二年前、あなたが組織した”大和会”と言いましたね。ゼーレとネルフに目を付けられるでしょう。
十分に注意して下さい。冷たいようですが、こちらも余裕がありません。手助け出来る事は限られてきます』
「御心配無く。二年しか準備期間がありませんでしたが、それなりの準備はしてあります。
表面に被害は受けても、根には影響が出ないようにしてあります」
『分かりました。では』
冬宮は通話を切った。二年間の準備期間があったので、相応の体制は準備出来た。
協力者は、政治家、官僚、財界の多岐に渡っている。相手が強大であっても、十分な抵抗は出来る。
協力者であるマンションの所有者と宮内庁に電話をかけようと、冬宮は携帯電話のボタンを押した。
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北欧連合:ロックフォード家
財団総帥であるナルセスの書斎の応接セットに、四人が腰掛けていた。
財団総帥である、ナルセス・ロックフォード。
ナルセスの実子で、副総帥である、ハンス・ロックフォード。
ナルセスの養子で、北欧の三賢者の騎士の二つ名を持つ、ミハイル・ロックフォード。
ナルセスの養子で、北欧の三賢者の魔女の二つ名を持つ、クリス・ロックフォード。
ある意味、財団の中枢メンバーだ。四人ともスーツでは無く、ラフな室内着を着ている。
通常、ロックフォード財団に関係する重要会議は財団の本社ビルで行われるが、
裏のプロジェクトに関する会議は、ナルセスの書斎で行われるのが通例になっている。
今回は、壁の大型モニタにはシンジの上半身が映っていた。
かなり重要な話しになるので、シンジが直接四人に説明する事になった。もちろん、通信傍受対策は十二分に行っている。
ちなみに時差が八時間あり、北欧では朝でも日本では昼間だ。
『義父さん。おはようございます。しばらくの間、連絡もせずに、済みませんでした』
「いや、良い。計画の進捗はミハイルから聞いている。使徒戦のビデオも見たしな。元気そうで何よりだ」
ナルセスの渋い声が響いた。財団総帥は伊達では無い。人を惹きつけるカリスマと呼べるものを漂わせている。
「久しぶりだな。ヒルダが寂しがっているぞ。帰ってくるのは難しいだろうが、たまには電話をしてやれ」
ナルセスには及ばないが、副総帥だけあって、ハンスもそれなりの雰囲気を漂わせている。
『義兄さん。お久しぶりです。一段落しましたからね。ヒルダには、後で電話しますよ』
「ネルフのEVAの起動がうまくいったらしいな。御苦労だったな」
ミハイルとは頻繁に連絡を取り合っている。だが、ミハイルにも連絡をしていない内容がある。聞いた時に驚く様子が楽しみだ。
『兄さん。裏の調整で大変だね。お疲れ様』
「シン。元気そうだけど、たまには連絡を寄越しなさい! 心配するでしょ」
クリスには、振り回されているので少し苦手意識がある。だが、大事な姉である事は間違い無い。
『姉さん。心配かけてごめんね。でも第一段階がやっとクリアしたんだよ』
ナルセス、ハンス、ミハイル、クリスの順に次々と挨拶を交わした。
挨拶が終わると、本題に入った。
『ミハイル兄さんには一報は入れてあるけど、正式に報告します。ネルフのEVA初号機は無事に起動しました。
それに関してだけど、ネルフのEVAは、あの使徒と同じ存在みたいだね。
最初の使徒のサンプルと、初号機に使用しているLCLと言う液体のDNA比較を行ったら、100%一致しました』
シンジは【ウル】とユイの存在を故意に隠した。家族とはいえ、100%隠し事をしない訳にはいかない。
戦いが終わった時の事を考えて、あえて隠していた。だが、初号機の存在がどういうものかは、隠す訳にはいかない。
天武の槍の先端に付いていた使徒の細胞と、初号機搭乗試験の時にこっそり採取したLCLのDNA比較分析を行った。
【ウル】から聞いていた初号機が使徒と同類と言う事が、具体的証拠で示された事になる。
「何だと! あの使徒とネルフのEVAのDNAが100%一致しただと!?」
「やはり、セカンドインパクトの時に使徒のサンプルを得ていたのか」
「油断出来ない相手ね」 「まったくだな」
『使徒と同じDNAを持って、同じ存在という事は、使徒に十分対抗出来ると思います。
隙をついて倒すのならともかく、正面からやり合うには天武では出力が不足しています。
EVAはネルフが造ったから、かなり欠陥があるけど、改造すれば大丈夫でしょう。
それと、欠陥品という事を突付いて所有権の移動を認めさせました。EVA二機の所有権は北欧連合になります』
「プラン『K』の前に、所有権を移動したのか? まあ、前倒しだから構わんが」
「まだ、基地の準備が出来ていないわよね」
『当面はプラン『F』のままだよ。ネルフ本部でEVAを運用します。いきなりプラン『K』は無理だからね。
と言う事で、ネルフの施設を使って使徒迎撃を行います。
ついては、技術、整備、保安、総務、戦闘指揮の要員の派遣を正式に求めます。三日前に事前準備を御願いしたけど、状況は?』
派遣要員の人選は、三日前にシンジからミハイルに要請済みだ。
当初、予定されていたプラン『F』には、派遣に必要な最低限のメンバーはリストアップされていた。
だが、当初は国連軍を想定していなかったので、三日前から派遣メンバーの再検討が行われていた。
裏のプロジェクトリーダーのミハイルが説明を始めた。
「シンが前に言った通り、ゼーレに隙を見せる訳にはいかないから、あまり本国からは派遣したくは無い。
幸いにも、国連軍が協力してくれる事になったから、国連軍を全面に出して我が国は控えに回る。
日本の国連軍から、指揮官として将官レベルを出して貰える事になった。随員も含めてな。ルーテル参謀総長は了承済みだ。
我が軍からは補佐として、アスール中佐とベールイ中尉を派遣する。グレバート総司令と本人の了承は得ている。
保安と総務関係は、地の利がある日本の国連軍から要員を出す事になった。これもルーテル参謀総長は了承済みだ。
技術関係は当初の予定通りに、我が財団から第三技術部のアーシュライト課長以下の十名を派遣する。
元々、シンの部下だから使いやすいだろう。
整備部は我が財団から五名ほど派遣するが、国連軍からも派遣する事になった。整備部は約四十名を予定している。
それと機材関係だが、シンのリクエスト通りに天武の試作室にある予備部材と測定機材は全部梱包して空輸する」
ミハイルは、クリスに目配せした。クリスは頷いて、説明を引き継いだ。
「知っての通り、EVAがどの程度のものか分からなかったから、プラン『F』は概略しか検討していなかったわよね。
人員と活動拠点のみで、その先の検討は進めていなかったのよね。
ましてや、ネルフ施設を使った稼動なんて考えていなかったわよね。それは、シンも知っての通りよね」
『姉さんにしては、歯切れが悪いね。……ユグドラシルUが用意出来ないの!? ユグドラシルJrで済まそうか?』
北欧連合でコンピュータの最高位に位置しているのが、ユグドラシルと呼ばれている生体コンピュータだ。
開発者はクリス・ロックフォード。性能的にはMAGIを遥かに上回っている。
そのユグドラシルの下位バージョンに位置するのが、ユグドラシルUだ。ユグドラシルの廉価版だ。
同じく生体コンピュータだが、処理能力はユグドラシルに及ばない。(MAGIより若干劣る程度という設定)
ユグドラシルJrは、さらに機能を縮小しサイズを抑えた小型版で、人工衛星や艦船に搭載されているタイプだった。
今回、ネルフ内の施設を使う事になったが、MAGIを使う訳にはいかない。情報がただ洩れになるからだ。
従って、ネルフ内でMAGIに属しないコンピュータが必要になった。シンジが要望したのは、ユグドラシルUだった。
「ユグドラシルUを造るのに、どれくらい時間がかかるか知らない訳じゃあ無いでしょう。
……面倒だから、MAGIを落としちゃう?」
『出来るだろうけど、それをやったらネルフにばれるでしょう。さすがに、ネルフに気づかせずにMAGIは落とせないよ。
そうなれば、ゼーレと泥沼の戦いだよ』
「確かにな」 「今はまだ時期が早いな」
「……ユグドラシルJrなら予備はあるけどね。でもMAGI相手では、ユグドラシルJrじゃあ荷が重いわ。
……今、実験室で評価中のユグドラシルUの改造品があるから、それを出すわ!」
『評価中……改造品って大丈夫?』
「あたしが行って、セットアップしてあげるわよ。それなら文句は無いでしょう」
『……確かに姉さんが来てくれれば助かるけど、良いの?』
「持って行く前に、ネルフで運用出来るように調整しておくわ。ネルフでの設置は一週間あれば何とかなるでしょう。
それくらい大丈夫よ」
「三賢者の二名が日本に行ったのでは、何かあった場合は困るぞ。代理では無理なのか? 第二技術部から出せないのか?」
ハンスは万が一を考慮して、代理で済ませる事を提案した。副総帥の立場では当然の配慮だ。
「短期間でもあるし、構わないのでは? 護衛も付けますし、日本への入国の際にクリスと分からないようにすれば、
ネルフも拉致の準備は出来ないでしょう。クリスが行けば、シンの負担も軽くなるでしょうし」
ミハイルはクリスの日本出張に賛成した。最近、苛々としている事が多いクリスを見ている。息抜きが必要だと考えていた。
最悪、とばっちりがミハイルに向けられる可能性もある。それに、シンジの負担が軽くなるのは確かだ。
「そうだな。クリスが入国時に三賢者と分からなければ問題無いだろう。通常の技術者として、偽名を使えばいい」
ナルセスもクリスの日本出張に賛成した。これでクリスの日本への派遣は正式に決定した。
「ふう。仕方ないな。気をつけて行ってきなさい」
ハンスも最後には同意した。内心では、副総帥の権限内で、クリスの安全を確保する為に手を打とうと考えている。
「ありがとうございます」
『じゃあ、姉さんの支援を期待してるよ。受け入れ準備もしておくよ』
「ミーナとミーシャに、あたしが行くからって言っておいてね」
『了解』
クリスが来た時にどんな状況になるかを、シンジはある程度は推測していた。
だが、自分の負担が軽くなる事は間違い無い。不平は言えない立場だった。
「ネルフの方はどうなっている」
『EVAの起動確認を行ったのは今日だから、特に動きは無いですよ。それと、ネルフには偽情報を流しました。
以前に、ボクがネルフ司令を怨んで、色々な準備をして画策したという設定を検討しましたよね。
あれを使いました。ボクが三歳の時から才能を発現させていて、十年前からネルフ司令を怨んでいる。
そして、六年前にネルフに制限をつけたのも、今回の使徒戦の中継も、天武を用意したのも、ネルフ司令に
復讐する為に準備した事にしておきましたからね。話しを合わせて下さい。
特に、国連総会に中継したところは、姉さんに適当に頼んだ事にしたからね』
「ああ、昔に話した、あの話しか。それでゼーレの目を逸らす事が出来れば、良いんだがな」
「少し無理がありそうな気もするがな」
「ゼーレが確認している間だけでも、気を逸らせれば良いでしょう」
「そうね。分かったわ。話しがすれ違わないように注意するわ」
「第三新東京での活動拠点は、大丈夫なのか? この前の報告では、問題無いとあったが?」
『はい。二年前に準備した日本の組織に、マンションを用意して貰いました。
宮内庁に貸し出す形をとって、ネルフの手が出せないようにする手筈になっています』
「なら、住居は大丈夫か」
「生活拠点の準備が大丈夫なら、後はネルフでの体制か」
『前もって、ネルフから引渡しエリアの詳細を貰いますから、そちらには後で転送します。
ボクが草案を練っておきますけど、国連軍の派遣メンバーとの打ち合わせは必要でしょう。それはボクが行います』
「うむ。分かった」
「これからが本番だな。気をつけろよ」
「国連軍はまだ人選を終えていないだろうが、こちらは三日後には、機材と一緒にメンバーを派遣する」
「その時は、あたしも行くからね。待ってなさい」
『ありがとうございます。姉さん、来るときはお土産を期待してるよ。じゃあね』
そう言って、シンジとの回線は切られた。方針は決まった。
残された四人は自分の責務を果たそうと、元気良く席を立ち上がった。
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国連軍:参謀総長室
ルーテル参謀総長は執務室で、部下二人の報告を受けていた。
「では、第三新東京での拠点は確保出来たのだな」
「はい。日本から連絡が入りました。少々不便なところですが、警備には都合が良いマンションを借り上げたと連絡がありました。
我々全員が入居出来て、宮内庁の皇宮警察もマンションに入居して、護衛の任に付くと言っています」
「北欧連合からも連絡が入りました。要員の選抜は終了しており、三日後には日本へ派遣出来ると言っています」
ルーテルは、二人の報告を受けて少し考えた。国連軍としても人員を出すのだ。
宮内庁と北欧連合の動きに同期させる必要がある。人員派遣が遅れるとまずい。
「そうか。我が方の選抜状況はどうなっている?」
「基本的には日本の部隊から選抜しています。何せ場所が日本ですから、日本人の方がやり易いでしょう。
戦闘指揮関係と総務関係、保安関係です。日本の部隊は戦自と比較すると戦力は低めですが、それでも指揮官を送り込む関係で
サポートは期待出来るでしょう。現在、急ピッチで日本の部隊の戦力強化を進めています。
北欧連合も最新鋭機を優先配備してくれると、確約が取れました。
幸い委員会は戦自を重要視しており、日本の我が軍へは委員会の勢力はほとんど浸透していません」
セカンドインパクト直後は、どこの国も荒廃していた。資源と食料を奪い合う紛争が多発した。
そんな状況下で自国軍を国連軍とし、軍の維持費を削減する事、周辺国との余計な摩擦を避ける事が世界の流れになった。
日本は財政的余裕があったが、その流れに逆らう訳には行かなかった。その為に、元の自衛隊を国連軍としていた。
だが、日本政府は自衛隊を国連軍とした後に、戦略自衛隊(戦自)を発足させた。
旧自衛隊の方は国連軍なので、当然維持費は国連から捻出される。予算不足もあり、所有兵器は旧式の物が多い。
だが、戦略自衛隊は日本固有の武力だ。
日本政府が戦略自衛隊の戦力整備に努めた事もあり、最新兵器は戦略自衛隊に多く配備されている。
委員会が日本の国連軍(旧自衛隊)より戦略自衛隊(戦自)を重要視しているのも当然だろう。
だが、ここに来て日本の国連軍(旧自衛隊)の予算が付き、戦力整備が急ピッチで進められていた。
「うむ。最高責任者として不知火を派遣する。これは、私が本人と面談して決めた事だ。本人も同意している」
「不知火准将ですか、日本の我が軍のNo.3ですね」
「そうだ、彼なら十分に期待に答えてくれると期待している」
不知火マモル。階級は准将。元は陸上自衛隊に配属されていた。
セカンドインパクトで混乱する日本国内、及び周辺国の治安維持に努めた実績を持っていた。
その実績により、戦略自衛隊から移籍の勧誘があったのだが、本人は断って日本の国連軍に勤めている。
補完委員会とネルフの機密を含む説明を、ルーテル参謀総長と実家の兄から受けていた。
その結果、不知火は第三新東京に行く事を了解した。
不知火はまだシンジとは会っていない。だが、経歴を確認していくと、ある縁がある事が分かった。
不知火とシンジは両人とも縁がある事に驚き、会える日を楽しみにしていた。
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ネルフ:司令室
ゲンドウ、冬月、リツコは、明日に迫った国連軍と北欧連合の受け入れの最終確認を行っていた。
「赤木君。明日の午後には、国連軍と北欧連合の派遣メンバーがネルフに来る。受け入れ態勢は大丈夫かね」
「はい。第二発令所の引渡し準備は出来ています。初号機と零号機の格納庫も同じです。
それと彼らの執務エリアとして、第34〜37ブロックまでの四ブロックを明け渡します。
もちろん、監視カメラと盗聴器は準備してあります。
それと、彼らに使用出来るようにMAGIの作業エリアを開放してありますが、我々は何時でもそれらを閲覧可能です。
逆に、彼らからはこちらの機密情報をアクセス出来ないように、プロテクト強度を従来の十倍以上にしてあります。
そして、各部署にも彼らの立場は通達済みです。小さなトラブルは避けられないでしょうが、まずは大丈夫かと思います」
国連軍と北欧連合のメンバーにネルフの設備を使わせる事により、彼らから情報を得ようとリツコは準備していた。
今まで北欧連合の実体が分からなかったが、彼らの情報を得る良い機会である。そしてその機会を有効に活用しようと思っていた。
「そうか。彼らが到着次第、主要メンバーで会議を行う予定だ。各部署への通知は私がする。赤木君は受け入れ準備を頼む」
「分かりました。ですが主要メンバーの基準ですが、佐官以上で宜しいですか、葛城三尉は含めなくても良いでしょうか?」
リツコの脳裏にあるのは、幹部を集めてくれと言った席にミサトを出席させた事だった。
その時はシンジを怒らせて、尉官は強制退席させられた。二の舞は避けたいと考えていた。
「……佐官以上にする」
「待て。オブザーバー資格で出席させろ」
ゲンドウが口を挿んだ。ゲンドウの思惑があるのだろう。
「……分かりました。そのように準備します」
「大きなトラブルが無いと良いがな。独立した指揮権を持つ部隊が、ネルフ本部に来るとは思ってもいなかった事だ」
「彼らに開放するのは第二発令所とその周囲の34〜37ブロック。零号機と初号機の格納庫周辺。それと慰安関連施設です。
保安関係の人間が来るそうですが、保安関係のシステムは一切明け渡しません。
それ以外の場所では、ネルフのIDカードを持たない彼らは侵入出来ないようにしています」
「彼らへの警戒は怠らないようにな。彼らはネルフの機密を欲しているだろう。
彼らだけで使徒戦が戦えると判断されては、どうなるか分かったものでは無いからな」
冬月はそう言って身を震わせた。シンジが”ネルフの利用価値が無くなれば”と言った時の悪寒が忘れられない。
ネルフの機密をシンジに知られれば、糾弾どころか犯罪者として手配されるのは分かっている。
それで無くても、シンジの要求で二階級降格され財産の80%が奪われたのだ。冬月に緊張感が漂っていた。
「分かっています。ですが電子監視に限定した方が良いかと。保安部を彼らの監視に付けると、彼らとの衝突が予想されます。
事実、彼らの入居するマンションに監視システムを設置しようとした諜報部が、妨害工作を受けています。
相手が宮内庁なので、ネルフの権限は及びません」
彼らの住居が分かったのは二日前だ。郊外のマンションだと分かった時、そのマンションに監視システムを設置しようとした。
だが、そのマンションは宮内庁が借上げて、皇宮警察を配備させていた。当然、諜報部は監視システムの設置は出来なかった。
ネルフの権限は縮小されているので、宮内庁への命令は出来ない。
政府なら裏ルートは存在するが、宮内庁への裏ルートは持っていない。
「ああ、報告は受けている」
「問題無い」
「ほう? ネルフが北欧連合に干渉したと言われても問題無いと言えるのか?」
「…………」
「既に、保安部、諜報部、特殊監査部には通知してあるが、問題はなるべく起こさないようにな。六分儀、お前もだぞ」
「分かっている」
ゲンドウは初号機の覚醒をさせる為に、戦闘時にシンジが不利になるように工作するつもりでいた。
だが、初号機の所有権は北欧連合に移管されている。
コアに大切な人がいるゲンドウとしては、初号機の所有権を移管するなど断腸ものの事だった。
ネルフに所有権があれば初号機への工作は可能だったが、所有権が無いこれからは工作の機会は減るだろう。
だからパイロットであるシンジに揺さぶりをかけ弱点を見つけ、戦闘中に不利なように持って行くつもりだった。
ゲンドウの行動をある程度は監視しないと、巻き添えを食らうと感じた冬月が、もう一つの懸念材料を口にした。
「地下のレイのクローンはそのままで良いのか? 委員会からの命令では破棄のはずだが?」
「構わん。レイとうまく接触すれば、レイに対する交渉材料になる」
「シンジ君に見つかったら、おまえと赤木君は懲戒免職になるのだがな。委員会に懲戒免職される意味を知らぬ訳でもあるまい」
ゲンドウの肩が一瞬震えたが、何も言わない。リツコは黙ってゲンドウを見つめている。
「それと、この前に委員会から派遣された女性が、特別監査官として来るのだぞ。あの議長の係累らしい。
彼女が何をしたか分かっていないが、不用意に会うのは危険だ」
あの時、セレナの力に落ちそうになったが、彼女がどんな事をしたのか未だに分かっていない。
彼女の力に侵食されそうになった時、冬月は鳥肌が立った。
確かに絶世の美女と言える容貌だが、またあんな思いをするぐらいなら近づこうという気は無かった。
「分かっている。会うにしても少人数ではまずかろう。相応の準備はする」
「あの時、彼女から異質な力を感じました。私が言うのも何ですが、科学的な力とは思えません。
彼女に対しては、別の監視をつけた方が良いと思いますが」
「そうだな。諜報部に言って監視をつけよう。委員会の代理だから面会を断る訳にはいかないが、注意をせんとな」
「分かっている」
ゲンドウも、あの時の事は忘れていない。最初は小娘一人だと思っていたが、二度と油断はしないと決意していた。
「そう言えば以前の報告で、MAGIが北欧連合のネットワークに侵入出来なかったとあったが、今でもそうなのかね?
彼らのメインコンピュータへの侵入は難しいとしても、個人レベルの端末には侵入は可能だろう。
それを足がかりに彼らのメインコンピュータへの侵入は出来ないものなのかね」
冬月は思い出したように話題を変えた。ネルフが北欧連合の情報を得られず、欲しているのは確かだが、
回りくどい事をせず、直接北欧連合のネットワークに侵入出来れば、情報は得られる。
委員会からの情報では、北欧連合のユグドラシルと呼ばれる生体コンピュータはMAGIの能力を上回るとの事だが、
隙を狙えばどうかと思う。世の中に、完璧なものなど無いと思っている。
「以前の報告にも書きましたが、彼らのコンピュータシステムは、ネットワーク防衛を主眼に置いたシステムです。
世界標準のコンピュータシステムでは無いのです。つまり、MAGIでさえ個人所有のパソコンを落とせないのです」
「何だと!? MAGIが個人のパソコン一台を落とせないと言うのか!?」
「はっきり申し上げれば、そういう事です。彼らのコンピュータシステムは、不用意にプログラムの書き換えが出来ないように
なっており、MAGIといえどもプログラムの書き換えが出来ないコンピュータシステムには侵入出来ません。
土俵さえ同じなら高性能なコンピュータが勝ちますが、彼らのコンピュータシステムは土俵を変えています。
勝負が出来ないのです。ネットワークの世界では、北欧連合と中東連合のネットワークは難攻不落と言われています。
一般公開されている情報は入手出来ますが、それ以上の情報は一切入りません。
だからこそ、今回の機会に情報を得ようと手配をしているのです」
「そ、そうか。済まんな。そこまで理解していなかった」
「いえ、私も説明が足りず、申し訳ありませんでした」
冬月は冷や汗をかいた。以前のリツコからのレポートをそこまで熟読しなかった。
たまたま駄目だったという思いがあって、まさかMAGIが個人所有のパソコン一台さえ落とせないとは思わなかった。
その後、細々とした内容の打ち合わせをした後、冬月が溜息をついた。
ここまで来るのに難問が山積みだったのを、何とか処理してここまで漕ぎ着けた。
これからも難問が出てだろうが、まずは最初の山を越えなければシナリオは始まらない。
「次の使徒が来るまで、あと一週間か。これで何とか間に合うか」
「彼らはEVAを改造すると言っています。ネルフは維持管理のみだと。
下手に彼らにEVAを改造させ、使徒が来るまでに改造が終わらなかったら出撃が出来ません。
出来れば司令か副司令から、彼らにEVAの改造を止めてもらうように言って頂きたいのですが」
現状のまま初号機を使うのであれば、ネルフからの干渉は容易だ。
戦闘時に何かあったとしても、機械の故障か撤去漏れで済ませられる。
「分かった」
リツコの内心を分かったのであろう、冬月が頷いた。
特務権限が使えない相手に、ゲンドウでは交渉出来ないと判断していた為だ。
特務権限さえ使えれば命令するだけで終わりだが、特務権限が使えなければ交渉をしなければならない。
今までは特務権限を有効に使い、ゲンドウの威圧感もあってうまく行ってきた。
だが国連軍と北欧連合には特務権限を使えない。これから先、交渉は自分の役だなと冬月は内心では溜息をついていた。
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ネルフ:会議室
国連軍と北欧連合の持ち込む物資の搬入は始まっており、実務担当レベルの人間が行っていた。
そして、国連軍と北欧連合、ネルフの主要メンバーが、顔合わせの為に会議室に集まっていた。
出席者は以下の通りだ。
ネルフ 六分儀ゲンドウ(准将)、冬月コウゾウ(二佐)
総務部、経理部、保安部、諜報部、整備部、広報部の各部長(佐官クラス)
第一技術課課長の赤木リツコ(三佐)(因みに、技術部、作戦部の部長は不在)
特別監査官として、セレナ・ローレンツ(委員会の代理)
オブザーバーとして、作戦立案主任の葛城ミサト(三尉)
国連軍、北欧連合 不知火准将(司令)
戦闘指揮担当、技術担当、整備担当、保安担当、総務担当(佐官クラス)
技術監査、及びパイロットとしてシン・ロックフォード(少佐)と秘書役としてミーシャ
冬月の簡単な挨拶で始まって、各自の自己紹介が行われた。そこから本題に入った。
「現在は機材の搬入中だ。本日中には大半が終わるだろう。明日からは荷物の開梱と機器の設置作業になる予定だ。
我々はこの施設の構造に関して熟知していない。構造が詳しい人間を三名ほど借りたいのだが」
不知火が良く響く低い声で、ネルフに依頼をした。
国連軍の軍服を着ており、襟章は准将である事を示していた。多少は白髪があるが、まだ豊かな黒髪を短く切ってある。
四十代後半と聞いている。眼光には鋭いものが含まれている。
不知火の名はゲンドウと冬月も知っていた。ゲンドウはともかく、冬月は腰を低くし対応した。
冬月より年下だが、不知火の方が階級は上だ。
軍組織では良くあるパターンだが、冬月としては初めてのパターンだ。ぎこちない対応になってしまう。
「了解した。貴官達は開放したエリアでは自由だが、他のエリアでは機密保持の関係で立ち入りを制限させて頂く。
ネルフのIDカードが無いと、入れないようになっているから注意して欲しい。案内は、発令所勤務の三人にさせる」
反対側の椅子に座る不知火からの威圧感を受けつつも、冬月がネルフ代表として話しを進めた。
ゲンドウに話しを任せては、どうなるか分かったものでは無い。
「こちらも制御コンピュータを持ち込むが、MAGIへのアクセス権も貰いたい」
不知火はネルフの防諜能力を軽視していなかった。MAGIに秘匿された情報は欲しいが、今はまだ時期が早い。
MAGIは簡易検索とネルフへの連絡ぐらいに使用するつもりだった。
それと、ネルフがこちらの情報を得ようと考えているのも理解している。隙を見せるつもりは無かった。
「MAGIの一部のエリアを、あなた方の為に開放してあります。御自由に使って下さい。
ただ、機密情報にはアクセス出来ないようになっています。注意して下さい」
リツコも不知火の事は知っていた。そして、この人選には多少は驚いていた。
国連軍は名ばかりで、北欧連合が主体を占めるメンバー構成かと思っていたのだ。
確かに要所要所では北欧連合の人員がいる。だが保安部などは全員が日本人ではないか。
意思疎通の面からは日本人の方が都合が良い。逆に言えば、彼らもネルフにも入り込みやすいと言う事だ。
だが、こちらの体制も準備した。機密保持は完璧とは言わないが大丈夫だろう。そう思い込んだ。
そうリツコが考えている間も、打ち合わせは進んでいた。
「こちらは、まずは状況把握ですね。そちらの総務部長と会議後に個別に打ち合わせをさせて頂きたい」
「了解しています。では、会議後は私と個別で打ち合わせという事で御願いします」
国連軍から派遣されてきた総務担当と、ネルフの総務部長が合意した。
両人とも中年で腹が出ている。外見は気の好い親父だ。気が合うのだろう。
「私も現状把握ですね。こちらの保安部長と打ち合わせを希望します。
それと、この第三新東京の監視システムのアクセス権を頂きたいですね」
続いて国連軍から派遣されてきた保安担当が発言した。三十代後半から四十代前半ぐらいだろう。
引き締まった体をしており、雰囲気もそれを裏付ける。
派遣されてきた要員の安全確保が主要な役目だ。当然、パイロット保護は最優先される。
「それは、機密にも関係しますので遠慮願いたい」
「このネルフ本部内は問題無いでしょうが、各要員の警備をする関係上で外の監視システムが使えないと警備が出来ません」
「……ネルフ内部では無く、街の監視システムですね。……分かりました、検討して明日には回答します」
ネルフ内部の監視システムのアクセス権は、問題が大き過ぎる。
街の監視システムならば、見られたく無い内容をシャットアウトすれば大丈夫だろうとリツコは判断した。
「技術担当です。零号機と初号機の管理システム全般を、これから持ち込むユグドラシルUに制御を移行します。
本発令所の機能の制限も行いたいので、MAGIシステムの担当者との打ち合わせを希望します」
金髪碧眼の美女が流暢な日本語で話した。一目で北欧連合から派遣されてきたと分かる。
年齢は二十代前半から中頃だろう。若過ぎないかとリツコは思っていたが、発言内容に眉を顰めた。
「ちょっと待って下さい。本発令所の機能制限は聞いていません。
それと今からそちらのコンピュータを組み込んでも、稼動までに数週間はかかるでしょう。
それまで使徒が来ないという保障はありません。
MAGIのシステムの説明と言っても、概略だけで二〜三日かかります。MAGIを使用した運営で御願いします」
彼らにMAGIを使わせる。それが彼らの情報を得る手段になる。
それに次の使徒が来るまでは一週間しか無い。初号機の改造が間に合わなかったら、天武で出撃するだろう。
それは、ネルフに取って好ましく無い事だった。
「MAGIの概略は理解しているわ。こちらに持ち込んだユグドラシルUも、こちらでの運用を想定した設定にしてあります。
本発令所からのEVAへの強制割り込み機能の制限、MAGIとの一定レベルの情報共有を希望します。
それとEVAの改造ね。工期は一週間を予定しています。工事終了以前に使徒が来た場合は、天武で出撃します」
「待って下さい! そこまでの作業が一週間で終わるはずがありません!」
リツコは技術担当と言った女を睨みつけた。MAGIを舐めているのか? EVAを改造? 出来るのか?
そういう思いだった。だが、次の女性の言葉に度肝を抜かれていた。
「見縊らないで欲しいわね。伊達に『魔女』と呼ばれている訳では無いわ。
ユグドラシルUは廉価版だけど、MAGIに匹敵する性能よ。なんなら、MAGIと勝負しても良いわよ」
女性は口の端を少し上げながら笑った。まさにニヤリと表現出来る顔だ。この辺は白色人種だろうが黄色人種だろうが変わらない。
ゲンドウは目を顰め、冬月とリツコは絶句した。まさか、北欧の三賢者の魔女までがネルフに来るとは思ってもいなかった。
「ここでの設置の時だけですが、姉の協力が得られる事になりました。ユグドラシルに関しては姉が第一人者です。
因みに初号機の改造はボクが担当します。一週間以内に終了させる事を約束します。
万が一、それまでに使徒が来たら天武で出撃します。それとも使徒が何時来るか、分かっているんですか?」
それまで沈黙を保っていたシンジが会話に加わってきた。
クリスが来てくれたおかげで、シンジは初号機の改造に専念出来る事になった。その他の盗聴システムの捜索作業や、
各執務ブロックや格納庫の改造とかは、北欧連合から来た技術部の課長以下のメンバーに任せてある。
精神的に余裕が出来たシンジは、ネルフの目論見を推測した。そして、冬月にかまをかけた。
「使徒は何時来るか分からない。それに備えるのがネルフの使命だ」
冬月は北欧の三賢者の魔女までが来た事に少し動揺したが、それを顔には出さずにネルフの意義を説明した。
だが、冬月の言葉に素直に納得するシンジでは無かった。探りを入れる為もあり、以前のネルフの失敗の事を言い出した。
「ボクの時は、使徒が来る二日前に手紙で呼び出しましたよね。
備えるのが役目と言うなら一日と待たずにホテルに来て、その場で交渉をするのが筋でしょう。
ネルフは使徒の情報を機密として公表しない。その機密の中には、使徒の来襲スケジュールが入っていると我々は推測しています」
「…………」
冬月は反論せずに黙り込んだ。シンジの切り返しの鋭さは、今までの事もあって理解していた。
だが、こうも度々反論されると言葉を発するのが苦痛になってくる。
ネルフの使命や意義を説明してもシンジには通じずに、ネルフが隠している事を段々と見抜かれていくのだ。
冬月が黙り込んだのを見て、クリスは痺れを切らして話しを進めた。
ストレスが溜まっている事もあり、我慢はあまり出来ない状態だ。
「では打ち合わせは無しかしら。こちらからMAGIをハッキングして、必要な工事を済ますけど文句は無いわね」
「ま、待って下さい。私が担当者です。会議後で宜しいでしょうか?」
リツコが慌てて回答した。『魔女』に好き勝手にされては堪らない。本当にMAGIを落とされるかもしれないのだ。
「結構よ。では会議後ね。言っておくけど、私はここでの設備設置後は本国に戻ります。
勿論、私には専属の護衛がついています。変な事はしない方がネルフの為だと言っておきます」
「北欧の三賢者の魔女に会えるとは思っていなかった。まさか、こんな若くて綺麗なお嬢さんとは思わなかったがね。
だが、変な事とは何の事だね。我々は重要人物の対応には気をつけているつもりだが?」
冬月は表面上は穏やかに答えた。目の前の女性を拉致出来ればと、頭の隅で考えた事は当然口には出せない。
そんな冬月の台詞を額面通りに受け取るクリスでは無かった。皮肉を交えて反論した。
「それにしては、弟に対する対応には呆れましたけどね。ネルフのやり方はビデオで見させて頂きました。
私は弟ほど優しくはないわよ。私に手を出せば、ネルフのMAGIだけで無く常任理事国のメインコンピュータを
全部落して情報を公開してあげるから、覚悟しておくのね」
実際、その気になれば可能な事だ。はったりでは無い。それが分かったのか、ネルフ側からの反論は無かった。
クリスの皮肉に反論しても負けるのは分かっているし、MAGIを落すと言った事が不可能だとは思えない。
他のネルフの首脳部は知らない人間も居ると見えて、首を傾げていた。ゲンドウは口を閉ざしたままだ。
「では会議もこの辺で宜しいかな。第二発令所、執務ブロック、格納庫の三グループに視察グループを分けるから、
ネルフ内部を案内して欲しいのだが」
不知火が場をまとめた。不毛な会話をして、時間を浪費したくは無いと思っていた。
「分かりました。直ぐに案内の者を呼びます」
そうして、国連軍と北欧連合のメンバーは三グループに分かれ、ネルフ内部の案内を受けた。
リツコはクリスに付きっ切りだ。同じ女性という事と生体コンピュータの専門家である事に共感を感じた事もあるが、
放置すると本当にMAGIを落とされるかも知れないと思った為もある。
ある程度のトラブルは続出したが、大きなトラブルにはならなかった。
そして予定通り一週間後には、ユグドラシルUのシステムは稼動を開始したのだった。
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マンション:一室
シンジ、ミーナ、ミーシャ、レイは、大家族用の六LDKに入居していた。
もちろん部屋は一人一部屋だ。二部屋は客室用で空けてあり、四部屋を使用している。
もっとも就寝時に空き部屋が、二部屋から三部屋になる事も度々ある。
レイが未だに一人で寝る事を嫌がる為だ。ミーナかミーシャと一緒に寝る事が多い。
唯一、ユインと一緒に寝る時だけが、空き部屋が二部屋になる状態だ。
だが今はその客室用の二つの内の一つに客(?)が滞在している。シンジの義姉のクリスが泊まっているのだ。
リビングの絨毯の上に、シンジは非常に疲れた顔でうつ伏せで横たわっていた。
体力的には余裕はあるが、精神的にかなり疲労していた。ユインはシンジの頬をペロペロと舐めている。
ミーナ、ミーシャ、レイは元気だ。少し疲れた様子はあるが満足げな表情である。
さっきまでクリスがリビングに居てシンジをからかい、ミーナ、ミーシャ、レイとお喋りをしていた。
クリスは仕事続きでストレスが溜まっており、日本でストレスを発散させるつもりでいた。
その結果がこれだ。本人は満足したのだろう、部屋に戻っている。また明日もやると言っていたが。
とばっちりを受けたのがシンジだ。
ミーナ、ミーシャ、レイはクリスとお喋りして満足げな顔だったが、男であるシンジには苦痛だった。
まあ、男と女の差なのだろう。
レイは青のワンピースを着ている。張り詰めた雰囲気は消え、甘えたがりの雰囲気が出まくりの状態だ。
シンジ達が自分の正体を知っても忌避しないと分かり、安定した精神状態で自我の構築を行っていたのだ。
レイはお喋りが大好きである。寡黙なのは過去形になり、年相応の話しが出来るようになった。
元々、知識は一般成人以上だ。話術が身に付けば普通に話せる。
話し相手はミーナとミーシャがメインだ。シンジとも話すが、やはり女の子同士の方が話し易い。
レイは甘い食べ物が好きである。ケーキやアイスクリームなどの甘い食べ物を好んで食べる。
今までの反動があったのかも知れない。暇を見つけては食べている。
もっともミーナがチェックしているので、食べ過ぎは控えて適度に運動をしている。
レイはスキンシップを好む。夜はミーナかミーシャのどちらかと一緒にベッドで寝る。
人肌を感じていると安心して眠れるそうだ。ユインを抱いて寝る事もある。
シンジとは手を握るだけでも顔が赤くなるので、同じベッドには入っていない。(そうなったら、シンジが困る)
以前は服装に気を使わなかったが、今は可愛い服装を好んで着るようになっていた。
身体は十代前半だが、仕草は幼女そのものである。これにクリスが嵌った。
レイと初めて会ったクリスだが、ぎこちなく挨拶するレイにクリスは頬を染めて「可愛い!!」と抱きついた。
そこからが大変だった。レイを気に入ったクリスはレイを側に置き、ミーナとミーシャを含めてのお喋り大会になってしまった。
クリスは溜めていたストレスを発散させる為に盛大に騒いだ。部屋が防音構造になっていなければ、隣から苦情が来た事だろう。
女四人にシンジが太刀打ち出来る訳が無い。昔の恥ずかしい話しも暴露され、精神的ダメージを負ってしまった。
明日から作業なのに、大丈夫だろうか?
クリスが抜けても、女三人の話しは続いていた。ダメージが抜ききれないシンジは、早々に自分の部屋に逃げ帰ったのだった。
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セレナは特別監査官として、数人の女性スタッフと共に、一部の専用ブロックを使用していた。
{余談になるが、大祖父がゼーレの議長を務めている事もあり、セレナは正真正銘のお嬢様である。
事実、実家にはセレナ専用のメイドが三人いる。そのお嬢様が、急遽日本に派遣される事が決まった。
ゼーレの幹部会での決定であり、誰も異を唱える事は出来ない。
ドイツに傾国の美女という言葉は無いが、セレナの稀有の美貌は万人が認めていた。
そんなセレナを一人で日本に派遣出来る訳が無い。ここで問題となったのは随行員の人選だ。
これには、セレナの所属する組織は頭を抱えた。
男は論外だった。何せ、枯れ果てた老人でさえ甦らせるという噂がセレナにはあった。
セレナを守るべき随行員が、セレナの色香に迷ってセレナを襲うような事になれば、本末転倒である。
従って随行員は全員女性である事が前提になった。(昔の中国にあった宦官なら大丈夫だろうが)
セレナの申告で三人のセレナ専用メイドのうち一人は部屋の維持の為に残り、二人が日本に付いて行く事になった。
だが、護衛の人選が苦労した。セレナと一緒にいると顔を比べられるから嫌だという理由で、女性護衛官の辞退者が続出した。
美貌を優先基準にして選んだ技量未熟者に、セレナの護衛を任せる訳にはいかない。
組織内に適当な人材がいない事もあり、組織はセレナの実家と交渉した。
そしてセレナの実家から護衛が二人出る事になった。セレナを含め総員五名である。しかも、全員が標準以上の美貌を備えている。
この五名が揃えば、男相手なら無敵だろうと思わせる陣容である。セレナも派遣する側も満足なメンバーだった。 余談終わり}
住居は地上に用意してある。補完委員会の代理という事もあり、ネルフの応対レベルもかなり上等な部類に入っていた。
だが、ゲンドウと面会する時は三十人以上の保安部が見守る中で行われ、他の重要スタッフの時も同じだった。
明らかに最初の時に使ったセレナの力を、警戒しているのが分かる。
命令に無い事もあるが、ネルフの実態に失望したセレナは、ネルフのメンバーと会おうという意欲が湧いてこなかった。
故に、ネルフスタッフとの面会は、セレナ側でも最小限に抑えられていた。
だが、シンジとミーシャは違った。
委員会の命令でミーシャの力を上回るように、魅了の魔眼の力を伸ばせとの通達が出ていた。
セレナに異存は無い。むしろ望むところだった。ローレンツの名に誓って、負けたままで済ませる訳にはいかない。
そしてネルフに着任して、すぐシンジとミーシャに面会を求めたのだが……門前払いされてしまったのである。
初号機を改造するので忙しいので、後にしてくれと言われたのだ。
確かに最初のミーティングで、初号機の改造はシンジが行うと聞いた記憶がある。ミーシャはその手伝いだそうだ。
そんな状況では、セレナも無理矢理押しかける訳には行かない。もちろん、守衛を魅了の魔眼で落とせば、二人と会えるだろう。
だが、そんな事をすれば、ミーシャの魅了の魔眼がネルフに向けられるだろう。仁義無き戦いになる可能性もある。
自然と、セレナも自重せざるをえなかった。
従って、肩透かしを喰わされて時間を持て余したセレナとスタッフは、冬月に提出させた資料の解析を行っていた。
「……ジャパニメーション恐るべし……ですかね」
「そう……これがジャパニメーションの威力なのね……」
「まあ、発想の豊かさは認めるべきでしょうね。でも、蒸気機関の時代の設定とはね」
「確かに外観は似ていますね。もっとも中身は別物でしょうけどね」
「それと武装はかなり違っていますよね。天武は槍と粒子砲だけでしたが、それともまだ隠し武器があるんでしょうか?」
「まさか、これと似たような必殺技があったりして、それで使徒を倒したんでしょうか?」
「じゃあ道路が左右に分かれて、空中戦艦が発進するのかしら?」
「だから、あくまで参考にしただけでしょう。セレナ様の聞かれたところでは、洒落で造ったとか」
「ええ、確かにそう言っていたわ。でも重要なのはそれじゃ無いわ。重要なのは、気に入ったキャラが誰かという事よ!」
冬月が提出した資料とは、天武の元となったゲームの攻略本とコミック、DVDだった。
既に資料の全ページを電子ファイル化し、補完委員会に送ってある。天武の元となった資料という触れ込みを付けてある。
送付直後には、最優先事項として解析するという返事も貰っていた。もっとも資料に目を通す前に出した返事だろうが。
あの大祖父がどんな顔をしてこの資料を見るのだろうかと、セレナは想像しようとした。
だが、止めた。何か空恐ろしい物を感じたのだ。
セレナを含めて、スタッフに技術に詳しい人間はいない。それは委員会に任せればいいだろう。
セレナが調査しようと思ったのは、気に入ったキャラクターが居ると言ったシンジのセリフだ。
シンジの好みを見極めれば、シンジを落とせるかもしれない。
自分の美貌に靡かなかったシンジへの報復の意味もある。
それに魔術師を落とせば、自分のプライドを満足させるだけで無く、組織の利益にもなる。一石二鳥だ。
そのような理由から、美女と美少女の五人がコミックと攻略本を真剣に読んでいるのだ。
「あのミーシャっていうアラブ系の女の子には、手を出していないようだしね。となると誰かしら?」
「ヒロインは素朴な女の子ですが、財閥の捻くれたお嬢様や、ロシアの傭兵もいますしね。後は機械オタクのメガネっ子。
ロリじゃあ無いと思います。美少年が似合う美少女とも思えないし、イタリアの貴族子女というのもありですね」
「まあ、財閥のお嬢様ならセレナ様にぴったりですね」
「失礼ね、私はあんなにだらしない格好はしないわよ。それよりイタリアの貴族子女と言って欲しいわ」
「そ、そうですね、失礼しました」
「ロシアの傭兵なら、クールビューティか。私がそうだな。銃の腕なら負けんぞ」
「……さすがに、好みの要素に銃の腕は入って無いと思いますけど………」
「今は分析だけで良いわ。後は少しづつ会話の中から、情報を得るから。
初号機の改造が終わったら、早速行くつもりだから準備を御願いね」
シンジの周囲で見た女性関係は、ミーシャしかいなかった。
家族構成の調査を命令しても、まだ報告が上がってきていない為である。
そして後日、セレナがシンジのところに行った時に、ミーナと出会う事になる。
ここで、セレナとミーナの比較をしてみよう。(本来は女性を比較するなど、失礼な事だが)
美貌の完成度という意味では、セレナの方がミーナより上だろう。
セレナは陶磁器を連想させられるような完成された美を誇り、一方のミーナは活発性があり、親しみやすい傾向にある。
身長はセレナの方が上だ。だが、スリーサイズはほぼ同じ。ただ、体の曲線はミーナの方が女性らしい丸みを帯びている。
そして親密度は比較にならない。セレナは敵対組織の一員で、ミーナは家族………家族以上の親密な関係である。
セレナがミーナと会った時、どのような反応をするのであろうか?
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ネルフ:司令室
ゲンドウは普段と変わらない態度だが、冬月は憔悴の混じった雰囲気だった。
現状認識能力は、ゲンドウより冬月の方が上だ。その冬月が現在の状況を危惧していた。
「六分儀、まずい状態だぞ。彼らの受け入れ自体は大きなトラブル無く済んだが、ユグドラシルUはまずい。
噂でしか聞いた事は無いが、MAGIに匹敵すると聞いている。万が一、MAGIに侵入されたら破滅だぞ」
「赤木博士には、MAGIのプロテクト強化を指示してある」
「相手は”北欧の三賢者の魔女”だぞ。赤木君より実力は上かも知れん。注意するに越した事は無い」
リツコもMAGIの第一人者として名高いが、クリスの知名度はリツコの上だ。
MAGIは非公開でネルフにしか恩恵をもたらしていないが、ユグドラシルと新型コンピュータの事は全世界に知れ渡っていた。
MAGIと同じ生体コンピュータを、たった三年でハードとソフト共に立ち上げたと聞いている。
勝負をした場合は負ける可能性が高い。何と言っても、MAGIがパソコン一台落とせないと聞いたのはショックだった。
事実、北欧連合の本国にあるユグドラシルは、MAGIの数倍の能力との報告もある。
ユグドラシルUがユグドラシルの廉価版とはいえ、勝負をする訳にはいかない。
負けた場合は、ネルフの機密情報がそのまま北欧連合に渡る事になり、ネルフの優位性は完全に失われる。
いや、優位性どころか犯罪行為の証拠を掴まれ、幹部全員が逮捕。ネルフは解体される事になるだろう。
「機密と言えば地下もそうだ。セントラルドグマに入れる訳にはいかん」
エレベータのスリットに特定のカードを通さないと、地下へは移動しないようになっている。
指定されたカードは、ゲンドウ、冬月、リツコの三人分のみしかなかった。(レイのカードは既に無効化済み)
だが、国連軍と北欧連合の派遣要員の顔ぶれを見て、そんなカードだけのセキュリティで大丈夫なのかと心配になっていた。
冬月の小言にうんざりしたのか、ゲンドウがいきなり話題を変えた。
「特殊監査部から連絡が入った」
ゲンドウはそう言って、キーボードを操作をした。すると画面に、レイの姿が映し出された。
可愛い服を着ており、マンションに入る映像だ。隣には、メイド服を着ている少女が居る。
「レイか。だが、あのマンションには手出しは出来ないぞ。
手出しした事が公になれば、彼らはネルフの干渉と言って休戦協定の破棄を言い出すだろう。
ゼーレも我らの不手際を二度は許さないだろうな」
「ネルフと分からなければ良い。既に拉致の指示は出してある」
「おまえは!」
冬月は驚きと呆れをブレンドした顔で、ゲンドウに詰め寄っていた。確かに上手くいけば良いだろうが、失敗すれば破滅なのだ。
心配するのは当然だろう。だが、何もしなければネルフの計画は行き詰る。ゲンドウはそれを危惧していた。
「レイを諦める訳にはいかない。シンジをやっと初号機に乗せたのだ。
後は初号機が覚醒してレイが戻ってくれば、計画の再実行が可能になる。ユイを諦めるつもりか?」
「別の方法があるかも知れんのだぞ。拙速で失敗すれば、待っているのは破滅だ。
彼らに開放した第二発令所、各ブロック、格納庫。全ての目と耳は外されたと連絡が入っている。
赤木君が大丈夫と太鼓判を押したにも関わらず、全部が一日で発見されて取り除かれたのだぞ。
抗議が来ていないのは幸いだが、彼らも二度は許すまい。楽観視するのは危険だ」
無線タイプの盗聴器や監視カメラなどは、ある種の測定器があれば簡単に見つけられる。電波を出しているからだ。
だが壁の内部に埋め込まれ、ケーブルで電源と信号が接続されているものを見つけ出す事は容易では無い。
それを彼らは一日で、百を越える数の盗聴器と監視カメラを、一つ残らず撤去した。
抗議が来たら撤去を忘れていたと逃げるつもりだったが、一つ残らず撤去されるとは想像外の出来事だった。
「電話回線の盗聴も指示してある。奴らがここの施設を使用するなら電話盗聴は可能だ。何としても、奴らの情報を得る必要がある」
「電話盗聴程度なら、見つからんだろうな。彼らが、その隙を見せればいいのだがな」
「別の手も打ってある。今は揺さぶりをかけ、奴らの弱点を見つけるのが先だ」
ゲンドウは中学、税務署、警察、水道局等に、シンジへの揺さぶりをかける為に、工作を指示していた。
To be continued...
(2009.02.21 初版)
(2009.03.21
改訂一版)
(2011.02.26 改訂二版)
(2012.06.23 改訂三版)
(あとがき)
まだ、初号機の本格稼動までいってません。八話は、初号機の改造後の起動シーンが入ります。
それと不知火との密談ですね。シンジの裏事情の説明が入ります。
そして九話は、第四使徒 シャムシエルの登場です。本編ではまだ三話の段階です。
それと、セレナとの絡みを少し入れておきました。オリキャラって表現が難しいです。
個人的にはLRSなので、レイの扱いは保証します。(段々とシーンを増やして行きますが、まだ早いかな)
まだまだ、先は長いですね。(現在、二十二話を書いてます。次回は八と九話をUPの予定です)
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