因果応報、その果てには

第二十二話

presented by えっくん様


 柔らかな布団に包まれてアスカは熟睡していたが、自然と目が覚めていた。


「ううーーーん」


 ベッドを降りて背伸びをした。疲れていたので良く眠れていた。気持ちの良い朝の目覚めだった。

 そして周囲を見渡した。見慣れない家具と部屋の装飾だ。昨晩はミサトのマンションの空き部屋に泊まったのを思い出した。

 アスカは首をふり、気持ちを切り替えると昨日の事を思い出した。


(まったく、あんなに床に埃が溜まっているなんて、ミサトはどういう神経をしているのよ。一応、女でしょうに。

 ドイツじゃミサトの部屋に行った事は無かったけど、昔からなのかしら? 結局昨日は、後片付けを手伝わされたし。

 その後に、この空き部屋を掃除して…………お風呂に入って、そのまま寝込んじゃったのよね。

 まったく、客を呼べる家じゃ無いわよね。ペンギンが手助けしてくれたから、掃除は思ったより早く終わったけどね)


 台所の掃除を行っている時、ペンギンのペンペンが冷蔵庫から出てきて、アスカを手伝った。

 ペンギンが手伝いを出来る事に、アスカは当然驚いた。

 そして、台所と空き部屋の片付けが一段落した時、ペンギンは奇妙なジェスチャーをした。

 良く観察すると、食べる物を要求しているらしい。ミサトに確認すると、餌をやるのをしばらく忘れていたと言う。

 アスカは慌ててスーパーに魚を買いに行った。

 片付けを手伝って貰った手前、報酬を要求するペンギンに正当な報酬を与えるのは、当然の事だと思っていた。

 こうしてアスカはペンペンを気に入った。ミサトと話して、ペンペンの餌係りはアスカがやる事になった。

 ペンペンの世話をする事に、密かな楽しみを見出しているアスカだった。


 昨日の夕食はミサトが買ってきたお弁当で済ませており、食生活に関してはミサトに期待は出来ないと内心では思っていた。

 アスカは今までの訓練生活の為に自炊のスキルは無く、全て外食に頼っていた。

 別に外食が嫌いだとかでは無い。店を変えれば色々な味が味わえる。食の楽しみというやつだ。

 EVAのパイロットとして高額の給与を貰っているアスカにして見れば、食事の出費は微々たるものだ。

 外食を止めるつもりは無かった。だが、店が開いている時間にしか食事が出来ないという制限がある。

 これから不規則な生活があると予測しているので、レトルト食品を買いだめするか、自炊を検討した方が良いかと悩むのだった。


(さて、午前中はミサトに車を出して貰って、買い物よね。日本に気に入る洋服や下着があればいいけど。

 家財道具も買わなくちゃね。急いで買い物を済ませて、配達を頼まないと時間が無くなるわ。

 そして午後は赤木博士のレクチャーか。ミサトと違って知的なイメージだけど、本当はどうなのかしら。

 太平洋艦隊の入港の時に擦れ違っただけだから、本当の事は分からないわね。聞きたい事は山ほどあるし、午後も楽しみだわ)


 アスカは今日の予定を確認すると、シャワーを浴びる為に浴室に向かった。

**********************************************************************

 リツコの部屋

 午前中はデパートで買い物をしたアスカだったが、午後はリツコの部屋に向った。

 ネルフ本部内の説明をリツコから受ける為であった。

 午前中だけでは買い物は終わらなかったが、さすがにリツコの部屋に行くのに遅れる訳にはいかない。

 買い物を途中で切り上げてきた。

 待っていたリツコは、簡単な挨拶の後で準備していた資料をアスカに見せながら、手際よく説明を始めた。

 …………

 …………

 …………

「……これがネルフ本部の概略よ。後は自分の目と足で確認するのね。大丈夫かしら」


 リツコはネルフ本部の立体図を画面に出して、それを色分けしてアスカに説明をしていた。


「購買、総務、経理の場所は、あの白いエリアよね。司令とかの上層部は、あの黒いエリアと。

 保安部は赤のエリアで、整備と格納庫のエリアは青のエリアよね。で技術部は橙のエリアと。

 食堂とかの慰安関係は緑色のところと。立ち入り禁止区域も結構あるのね。

 それはそうと、格納庫の隣のところと黄色のエリアは何なの? 説明が無かったけど」

「そこは国連軍と北欧連合の使用エリアよ。初号機と零号機の格納庫と、それに隣接する第34〜37ブロック、

 それと第二発令所が彼らの使用区域なの。ネルフといえども、勝手に入る事は出来ないわ。注意してね」

「……何で自由に入れないのよ? ネルフのものなんでしょう?」

「そういう協定だからよ、納得しなさい。司令といえども勝手に入れないのよ。

 彼らはネルフとは独立した指揮権を持っているわ。勝手に入ったら不法侵入で拘束されるわよ」

「……あそこにファーストとサードが居るのね」

「ちょっと待ちなさい! その呼び方は止めなさい。ミサトから聞いてないの?」


 リツコが眉を顰めた。内心ではミサトに何をやっているのかと毒づいていた。

 アスカの保護者役をミサトが務めると聞いた時、リツコは不安に思ったが、案の定心配した事が現実になっている。

 アスカが今の態度を変えなければ、シンジの反撃があるだろう事は容易に想像出来た。

 そして、そのシンジの反撃を受けたアスカが大ダメージを受ける事もだ。

 まあ殺しはしないだろうが、最悪の場合はパイロットを辞めざるを得ない場合も有り得るだろう。

 シンジに近づかないよう、アスカに釘を刺しておかねばとリツコは考えていた。


「へっ。何を?」

「彼を番号で呼んではいけないって事よ。それと彼女に対しては、ネルフの職員は一切の接触を禁じられているわ。

 彼を番号とかファーストネームで呼んだら、ネルフに代わって補完委員会から彼らに罰金を払わなくてはならないの。

 彼女に対しては話しかけても駄目よ。そして呼んだ本人は、減俸処分が待っているわよ」

「減俸処分!? 太平洋艦隊で散々ファーストとサードって呼んだわよ!?」


 太平洋艦隊での出来事を思い出して、アスカは顔色を変えていた。

 まだ必要な買い物は残っている。かなりの出費を予定しているのに、ここで減俸は少々辛い。


「……最初だから大目に見て貰ったんでしょう。でも次は無いわよ。注意しなさい。

 減俸処分が怖かったら、男の子の方はロックフォード少佐って呼びなさい。碇さん……女の子の方は話しかけても駄目よ」


 レイはシンジの義妹として戸籍登録をしてあった。従って”碇レイ”が正式な名前である。

 そしてファーストネームを呼べないので、苗字で呼ぶしかない。軍属にでもなれば、碇の後に階級を付ければいいのだが、

 レイの立場は拒否権を持つ民間協力者だ。従ってネルフのメンバーは、レイの事を碇さん以外に呼べない事になっている。

 (直接声を掛ける事は禁じられている。間接的に呼ぶ時の呼称である)

 アスカにしてみれば、そんなレイの事情など知った事では無かった。それに目障りなのはシンジなのだ。

 アスカは少し考え込んだ。加持からは誰にも言うなと言われているが、リツコなら聞いても大丈夫だろうと判断した。


「少佐か……あいつが北欧の三賢者の魔術師って本当なの?」

「……加持君から聞いたのね。良いわ。どうせ隠すつもりも無いしね。彼が魔術師である事は本当よ」

「他にもあるでしょ。全部教えて!」

「隠していても、いつかは分かる事ね。順番にいきましょうか。

 少佐は現在は十四歳。六分儀ネルフ司令と、今は亡き碇ユイの間に産まれたわ。あなたと同い年ね」

「えっ!? あいつは、司令の子供なの!?」

「質問は最後にしなさい。彼が三歳の時に、訳あって司令が手放したのよ。その時に左目を失明して今は義眼よ。

 もっとも普通の義眼じゃ無くて、何かを仕込んであるわ。彼の義眼が赤く光ったら、直視しないようにね。

 そして司令が手放した三歳の彼を保護したのが、ロックフォード財団の人間だったという事。

 その後、彼はロックフォード総帥の養子になったのよ。彼の魔術師としての実績は有名だから、後は言うまでも無いでしょう」


 ゲンドウが三歳のシンジを全身打撲にして、左目を潰したなどアスカには言えない。

 それと、シンジの左目は催眠術以外にも軍事衛星の制御機能を持っていると推測しているが、そこまでアスカに教える気は無い。


「最初の使徒の時、ネルフは彼をサードチルドレンとして呼び出したわ。その時は彼の事を普通の子供と思っていた訳だけどね。

 だけど、彼は初号機への搭乗を拒否したわ。そして彼自身が開発した天武で使徒を倒したの。

 レイ……碇さんは零号機のパイロットだったけど、少佐側についたわ。

 その後の話し合いで少佐は初号機に乗る事になったけど、ネルフのパイロットでは無くて北欧連合の士官として乗っているの。

 碇さんは零号機のパイロットとしてね。ついでに言うと、碇さんは少佐の義妹になっているわ。

 そして、彼らにネルフの特務権限は効かないわ。彼らに命令は出来ないの。

 今の初号機と零号機は、北欧連合が所有権を持っているのよ。そして、協定によってネルフは彼らに手を出せないの。

 大まかには、こんなところかしら。質問があれば受け付けるわ」


 リツコの説明は、大分省略した内容になっていた。

 全部を話し出すと一日かけても終わらないし、レイの洗脳等の件はアスカには絶対話せない。

 まずは、アスカがシンジに近寄らないように誘導するのが先決だ。


 リツコの概略説明を聞き終えたアスカは、納得いかなかった事を声を張り上げて質問した。


「何で初号機と零号機の所有権が北欧連合なのよ? 造ったのはネルフでしょう! それに、特務権限が何で効かないの?」

「特務権限が効かないのは、補完委員会の関係もあるわ。細かいところは機密に関わるから言えないわね。納得するしか無いのよ。

 そして彼らにEVAに乗って貰う条件として、初号機と零号機の所有権を渡したのよ」

「何で所有権を渡すのよ!? ネルフの所有権のままで良いじゃない!」

「それをごり押しすれば、彼らは最初の使徒を倒した天武だけで戦おうとするでしょうね。

 それはネルフにとって、好ましく無い状況だわ。それに初号機と零号機を遊ばせておく訳にはいかないしね」

「くっ! じゃあ、天武はどうやって使徒を倒したの? この前の使徒の時は、閃光が走って見えなかったのよ」

「最初の時は煙幕が張られたわ。彼らの情報管理は徹底しているから、簡単には見せてくれないわよ」

「あいつらに、聞けば良いじゃない!!」

「彼らは教えてくれないわよ」

「じゃあ、あたしが聞くわよ。どうやって使徒を倒したかなんて、隠す必要は無いでしょう!」

「止めなさい! 彼らとネルフは険悪な関係なのよ。あなたが行ったところで教えてくれる訳が無いでしょう。

 ネルフも機密を彼らには教えて無いわ。それなのに、彼らの機密を聞ける訳が無いでしょう。

 行ったところで不法侵入で捕まるだけよ。無駄な事は止めなさい」


 ネルフが今まで行っていた事を言わずに、ただ北欧連合とは険悪な仲とだけアスカに伝えた。

 アスカに余分な事を知らせる訳にはいかない。そして、アスカを北欧連合に関わらせたくは無かった。

 アスカにして見れば、ネルフが蔑ろにされてると感じて良い気持ちでは無い。

 だが、リツコの態度を見て、シンジ達から情報を聞き出す事の困難さをを、ある程度は察していた。

 ならば、シンジ達の情報を得た方が突破口が開けるかもしれないと考えた。


「何であいつは技術少佐なの? 魔術師だからなの? 軍事訓練は受けているの?」

「中東連合で紛争鎮圧とかにも関わっていたみたいね。だから彼は軍隊経験があるわ。

 技術少佐の地位は、その時の功績によるみたいよ。実戦もそれなりに経験してると聞いているわ。

 それと彼の体格は年齢平均を超えているわ。十五〜十六歳ぐらいの平均ぐらいかしらね。格闘の方もかなりの腕よ。

 あなたも軍事訓練を受けているけど、彼には敵わないと思うわ。だから近づかないでね」


 最初の使徒の時のネルフの失態がシンジから指摘され、その後始末の連帯責任でアスカ(ネルフ全職員が一律一階級降格)は

 准尉に降格された。別に階級に拘るつもりは無いが、シンジが少佐というのは気に障っていた。

(あんな軟弱そうな奴が、あたしより四階級も上だなんて、認められないわよ!!

 それに、OTRで投げ飛ばされてワンピースを汚された恨みは忘れないわ!! あたしの実力を見せつけてあげるわ!!)


(単なる軍事訓練で、発令所で示した威圧感が出せるとも思えないわ。ミサトのジャケットを素手で切り裂いたし。

 伝説級の使い手レベルか……少佐には絶対に秘密があるんでしょうけど……でも、この子に言っても信用はしないでしょうね。

 予定通り、少佐に関わらないように誘導しないといけないわね。まったく、ミサトがちゃんと仕事していれば問題無かったのに!)


「あいつらはATフィールドを張れるの?」

「……ええ。零号機は、この前の使徒の時には張れなかったけど、今では張れるわ。

 定期的にジオフロントで実機テストをしているから、その時にATフィールドを見れるわよ。

 そして初号機は二重のATフィールドを張れるのよ。しかも自分の周りだけじゃなくて、武器にも張れるのよ。

 それは初号機だけの特性なのか、少佐の技量なのかは、検査が出来ないから分からないけどね。

 ところで、あなたはATフィールドを張れるの? ドイツ支部からの報告には入っていなかったわね」

「……ATフィールドぐらい、すぐに張れるようになるわよ!!」

「……という事は、まだ張れてないのね。……少佐に張り方を教えて貰う?」

「あいつに教えて貰うなんて、お断りよ! あたしは天才よ。ATフィールドぐらい張ってみせるわよ!!」


 弐号機が参戦した現在、アスカと弐号機で戦果を出さないと、ネルフの立場はどんどん悪化していく。

 だが、アスカと弐号機だけで使徒を倒されては、初号機の出番は無くなり、初号機の覚醒が出来なくなる。

 この辺のバランスが難しいところだ。

 ゼーレの目標(弐号機で戦果)からあまり逸れずに、ネルフの目標(初号機の覚醒)を達するには、どうすれば良いのだろう?

 ATフィールドが張れないのは致命的だが、これからのアスカの訓練で何とかなるかもしれない。

 どの道、シンジにATフィールドの張り方を教えてと頼んでも断られるだろう。

 リツコはアスカの反応を見る為に、シンジに教えて貰うかと聞いた。案の定、アスカはシンジを毛嫌いしている。

 ATフィールドの事はアスカの訓練に期待して、リツコは別の件に話しを変えた。


「あなたが、そのつもりなら良いけどね。それと、弐号機はどうしようかしら。改造した方が良いのは分かってるけどね」

「弐号機を改造?」

「零号機と初号機は少佐がかなり改造しているのよ。一つはLCLを使わないようにしているわ。

 おそらく、衝撃緩衝用の液体をエントリープラグに満たしているの。酸素マスクの着用は必要になるけどね。

 それと、彼らはシンクロシステム自体を改造しているわ。どんな制御システムにしたかは不明。

 ただ、少佐はシンクロシステム改造前から、シンクロ率99.89%を出しているわ。

 そして、最後はバッテリィシステムの変更よ。

 零号機と初号機は、ケーブルを繋がなくても三十分の稼動が可能な高性能バッテリィに代えているの。

 弐号機のバッテリィは、従来通り五分が限界よ。

 ちなみに改造内容は機密という事で、彼らは教えてくれないわ。バッテリィシステムだけでも貰いたかったけどね。

 ネルフでも大容量バッテリィの研究を進めているけど、まだ実現出来ていないわ」

「何で、あいつ等に出来て、ネルフに出来ないのよ!」

「それが技術の差よ。ネルフでは彼らの技術に太刀打ち出来ないの。認めなさい!」


 リツコは内心悔しかったが、それを顔に出す事は無かった。それが現実だし、嘆いても憎んでも状況は改善されない。

 ならば、冷静に次善の手段を考える方が良い結果が出るだろう。


「確かに稼動時間が五分じゃ短いと思うわ。三十分あれば、文句は無いけどね。

 でも、弐号機をあいつらに改造させるなんて、お断りよ! それにあたしの腕があれば、その程度のハンデは大丈夫よ!!」


 弐号機はアスカの母親の遺産とも言うべきものだ。そして十年に渡って使い続けた機体だ。当然、愛着はある。

 対立しているシンジ達に、弐号機を預ける事などアスカにしてみれば認められる事では無かった。

 それより、シンジ達の情報を得る事が優先だと思い直して、アスカはリツコに次なる情報を出すように迫った。


「……これまでの使徒との戦いの記録があるでしょ。それを見せて!!」

「……良いわ。ちょっと待ちなさい」

***********************************

 リツコはキーボードを操作して、これまでの使徒戦の記録映像を引っ張りだした。

 もっとも、アスカが見たいと言い出すと思って、事前にネルフの都合の良い様に編集した記録映像だったが。


「まずは最初の使徒からよ。敵は手から光るパイルを打ち出すわ。それを天武で倒したのよ」


 画面には、天武が起動して使徒に向かっていくシーンから映し出された。

 アスカに初号機の格納庫でのやり取りを見せる気は、リツコには無かった。特にレイが洗脳されていた事は教えられない。

 天武の攻撃を使徒がATフィールドで防ぎ、使徒の攻撃を天武が盾で受け流すシーンに、アスカは真剣な表情で見入っていた。

 使徒と天武の攻防はしばらく続いたが、やがて天武から煙幕が噴出された。

 その直後、煙幕の中に十字型の閃光が走って、映像再生は停止した。


「見ての通り、煙幕の中で使徒が倒されたのよ。だから、どうやって使徒を倒したかは分かっていないわ」

「天武ってEVAと比較すると小さいのね。あれで良く使徒を倒せたわね」


 アスカの顔には、少しの悔しさと大きく呆れたような表情が浮かんでいた。

 アスカから見ても天武の動きは、さすがと思えるレベルだった。あの使徒の至近からの攻撃を、半分は体捌きで回避したのだ。

 弐号機でも出来るとは言えなかった。だが、自分のプライドが邪魔して、天武を褒める事はしなかった。


「次の使徒よ。敵の武器は光る鞭よ。この時は初号機で出撃したのよ」


 初号機が射出され、空中に飛び上がるシーンから始まった。ミサトが勝手に射出を命令したシーンはカットされている。

 パレットライフルを打ち込むシーンに続いて、初号機が使徒に捕まって投げ飛ばされるシーンが映し出された。


「間抜けね。あたしなら、あんな無様な真似はしないわ!」


 ミサトの怒声でシンジの耳が一瞬麻痺して初号機の動きが止まった事は、画面に映し出されてはいない。

 続いて、初号機が立ち上がって棍に巻きついている敵の光の鞭を弾き飛ばし、一気に使徒に詰め寄って棍で使徒の赤い珠を

 貫くシーンが映し出された。


「速い! なんで、あんなに速く動けるのよ!?」


 シンジは縮地という技を使ったのだが、アスカに分かる訳も無い。リツコでさえも分かってはいないのだ。


「初号機が、何故あんな速度で動けたかは不明よ。EVAのスペックを超えているけどね。少佐に聞いても答えてくれなかったわ」

「…………」


 アスカは黙り込んだ。初号機が使徒に捉えられたのは間抜けだと思うが、さっきの動きは弐号機でも出来ないと分かっていた。

 だが、初号機の戦いを賞賛する気は無かった。

 アスカにとって零号機と初号機は仲間では無い。エースを自任する自分にとっては、邪魔な競争相手に過ぎないのだ。


「次の使徒よ。敵の武器は粒子砲よ。最終的にはEVAで倒したけど、国連軍や戦自の援護もあったわ」


 零号機が攻撃を受けるシーンはカットしてあった。アスカに見せるのは、使徒の殲滅シーンのみだ。

 画面には八面体の青い使徒が映っていた。その使徒に自走砲の砲撃が襲い掛かった。だが、ATフィールドで阻まれた。

 そして、使徒の粒子砲が自走砲に向かって放たれた。

 その直後、真上からと横四方からの粒子砲の光が、使徒に次々に突き刺さって爆発した。

 その状態の使徒を、初号機が殲滅するシーンを見せられていた。


「ふん。随分と小細工をしてるのね。あたしなら、あんな相手じゃ楽勝よ」


 弐号機の戦闘能力と自己の才能を信じているアスカにとって、他者の力を借りるのは恥という意識があった。

 戦自や国連軍の力を借りて使徒を倒した初号機の戦いは、アスカにとって認められる内容では無かった。

 もっとも、零号機が使徒の粒子砲で破壊されそうになったシーンを見れば、気持ちは変わったかもしれないが。

 蔑視の色が混ざった視線で画面を見ていたアスカに、リツコは内心で溜息をつきながらも話しを進めた。


「この前の使徒は、太平洋艦隊から記録映像を貰えなかったから持ってないわ。あなたが見たから無くても良いわね」

「それは良いわ。閃光があって、何も分からなかったもの」

「これぐらいかしらね。質問があれば、後でも受け付けるわよ。

 それはそうと、あなたはミサトと同居するって聞いたけど、大丈夫?」

「……何よ、大丈夫って?」

「食事と住居の問題よ。ミサトはほとんど自炊しないからね。あなたが自分で自炊するか、外食するか、買った弁当になるわよ。

 それと昨日泊まったから、部屋が散らかっているのは分かっているでしょう」


 アスカは沈黙した。リツコの言うとおりに、昨日の夕食はミサトが買ってきた弁当だったし、台所を片付けたのは自分だ。

 これからのミサトとの同居では、色々な問題が出るであろう事は容易に想像出来た。リツコの懸念は、もっともな物だ。

 だが、ペンペンの世話という密かな楽しみもあった。それに知らない土地で一人暮らしは寂しいものがある。


「……着いたら、さっそく掃除したわよ。

 でも、ここに来る前に総務に相談しに行ったけど、未成年者の一人暮らしは認められないって、住居変更は却下されたのよ。

 そうだ! リツコのところは部屋は余って無い?」

「あたしと同居? 駄目よ。あたしは帰りが遅くて、自宅に帰らない事もあるわ。

 あなたを預かって、自宅に帰らないなんて無責任な事は出来ないしね。

 知らない人との同居は嫌でしょう。諦めてミサトと同居するのね。部屋代が浮くわよ」


 アスカの希望をリツコはあっさりと拒否した。

 だが、ミサトに任せっぱなしにするとアスカが不調に為りかねないので、適度にフォローする必要をリツコは感じていた。


「あーーーあ。仕方無いか」

「それと、ミサトはめったに自炊しないけど、ミサトが料理を作った時は注意しなさい。自分が可愛ければ、絶対に食べない事。

 食べた場合は、腹痛になる事ぐらいは覚悟するのね」

「な、何よそれは! ミサトって味覚音痴なの?」

「はっきり言えばそうよ。ミサト自身は、美味しいと思っているらしいけどね。あれを食べたら、身体を壊すかもよ」

「……分かったわ。注意するわ」


 ミサトの料理でアスカが万全では無い時に、使徒に来襲されては叶わない。アスカの体調管理には注意しようとリツコは思った。

 それと、ミサトにもさり気無く注意する事も忘れてはいなかった。


「ところで、あなたは大学の卒業資格を持っているのよね」

「ええ、そうよ」

「言いにくいけど、あなたには中学校に通って貰うわよ」

「中学校? 何で? 大学を卒業したあたしが、今更日本の中学校に行く必要は無いでしょう」

「それが、日本のやり方だからよ。あのロックフォード少佐とレイ……碇さんも、中学校に行ってるのよ。

 ちなみに、同じ中学校になるわ」

「えっ!? あいつが中学校に行ってるの? 北欧の三賢者なのに!?」

「日本では十四歳の子供は中学校に行くのが普通なの。まあ、少佐の場合は勉強しに行くと言うより、息抜きの為かしらね」

「……良いわよ。あいつらが居るなら、あたしも行くわよ」


(あいつらが中学にいるなら、どれほどのものか、あたしが見極めてあげるわよ。覚悟しておきなさい!!

 それに隙を見て、あいつらから情報を聞き出して見せるわ!)


「じゃあ、中学校に編入の手続きしておくわ。準備もあるでしょうから、明後日から行くようにね。

 地図とか制服とか必要な物はリストアップしておくわ。後で、また来なさい」


(中学に行く事は、あっさりと納得してくれたわね。これで中学で友人を作ってくれれば、その子がフォースに決定ね。

 少佐に関しては、あれだけ脅しておけば不用意には近づかないでしょう。これで一安心だわ)


 アスカを中学に通わせるのは、最初からのシナリオだった。フォースの選抜が絡んでいる為に、行って貰わねば困るのだ。

 だが、中学校で大きなトラブルが起きる事は想像していなかった。

**********************************************************************

 昨日、加持は不知火から連絡を受けていた。

 太平洋艦隊のVTOLで墜落した時に落とした荷物を預かっているから、今日の夜に取りに来るように言われていた。

 ゲンドウから矢の催促をされている事もあって、一刻も早く荷物を取り戻したかったのだが不知火から忙しいと言われ、

 荷物をシンジに渡しておくから、シンジから荷物を受け取るようにと言われていた。


 不知火からシンジの執務室の場所を教えて貰い、加持はそこに向かって歩いていた。

 通常、ネルフとの境界には保安部員が立って立入検査をしているのだが、加持は誰とも会わずにシンジの執務室の前に着いていた。

 これが、リツコあたりなら不審に思って、引き返しただろう。

 だが、ネルフ本部に来たばかりの加持には、歩哨が居ない事を不審には思わなかった。(数人の通行人はいたが)

 実際にはシンジの指示により、加持が来る前に歩哨がいないように手配していた。


 加持はシンジの執務室の前に立って、ドアを見つめた。プレートには”シン・ロックフォード”と書かれている。

 普通ならドアをノックし、中の人間の許可を得てから入室するだろう。

 だが、諜報員である加持は、ノックをせずに部屋に入ろうとした。

 万が一、鍵がかかっておらずに部屋の主が不在の時は、部屋の中を調査出来る。

 それに、ノックをしないで入ろうとした事を責められても、何とかなると思っていた。

 (行き当たりばったりでは無い。責められても、言い逃れぐらいは出来るという自負心による)

 だが、加持がノックをせずにドアノブに手をかけた時……


 バリバリバリバリ


 バタン  ぷしゅぅぅぅ


 高圧電流が流れて、加持は意識を失ってその場に倒れこんだ。身体のあちこちから煙が出ている。

 カチャ

 加持が倒れこんだのを監視カメラで確認して、シンジと保安部員二名が執務室から出てきた。


「准将の言った通りに、ノックもせずに入ろうとしたか。……加持三尉を、このまま第二医務室に運んで下さい」


 シンジの顔には不気味な笑みが浮かんでいた。

***********************************

 加持は肌寒さを感じて目を覚ました。周囲は暗闇で、何も見えない状態だ。

「なっ!? ここは何処だ!?」


 上半身は何も身に着けておらず、下半身にいたっては股間の上に布らしき感触はあったが、パンツさえ脱がされていた。

 加持は慌てて起き上がろうとしたが、胸と両手両足が拘束されている事に気がついて愕然とした。

 体の節々が痛んで頭痛もあるが、そんな事は言ってられない。

 自分はシンジの執務室に黙って入ろうとしたのだと思い出した時、悪寒が加持を襲った。

 シンジがネルフに容赦無い制裁を加えている事は知っている。

 執拗に検査を受けるように迫った医者を手術台に乗せ、解剖しようとした事がある事も知っている。

 そして、自分の行動を省みた時、シンジに責められると判断した。

 四肢を固定されて服を脱がされている状態は、まさに危機そのものだ。肌寒さを感じるのにも関わらず、加持は冷や汗を流しだした。


 ガチャ

 パチッ

 ドアが開いて照明が点いた。そこには、白衣を着込んだシンジが大きな注射器を持って立っていた。


「シ、シンジ君!! こ、これは一体どういう事なんだ!? そ、それに、その格好は!? 何をするつもりだ!?」

「ボクの執務室に忍び込もうとしたスパイを捕らえたので、尋問するつもりですが、それが何か?」

「し、忍び込もうって、それは違う! 不知火准将から君が預かった荷物を取りに来ただけだ!!」

「確かに荷物は預かっています。しかし、ノックもせずに部屋に入ろうとした事は、立派な不法侵入ですよ。

 それにOTRでのあなたの振る舞いは、些か不愉快ですしね。それに許可無くボクをファーストネームで呼んでいる。

 三尉の振る舞いとして問題です。この際、じっくり尋問させて貰いますよ」


 シンジは無表情だ。それが加持には不気味に感じられて、余計にプレッシャーになっていた。

 加持は経験豊富な諜報部員だが、シンジを甘く見ていた為に捕らわれてしまった。これがリツコならこういう失敗はしない。


「そ、それは謝る! 謝るから、拘束を解いてくれ!」

「ポケットに盗聴器を入れて、黙って部屋に入る人間を信用は出来ませんね。不知火准将から話しは聞いています。

 ボクの部屋に入って、技術情報を盗み出そうとしたんじゃ無いですか? それとも盗聴器を仕掛けるつもりでしたか?」

「盗聴器は諜報部員の身嗜みみたいなもんだ。本当だ、信じてくれ!!」


 注射器には紫色の液体が入っていた。加持の知識では、紫色の薬品など記憶には無かった。

 シンジから異様な迫力を感じて、加持の冷や汗は止まる事が無かった。


「では、何故ノックもせずに、部屋に入ろうとしたのですか?」

「そ、それは、うっかり忘れていたんだ! 早く荷物を取り戻したかったから、忘れただけだ!!」

「……ほう。それを信じろと?」


 シンジの目が細くなった。無表情だったシンジに侮蔑の色が浮かんできた。

 だが、シンジの誤解(?)を解かなければ、どんな目に遭わされるか分かったものでは無い。加持は必死になって叫んだ。


「本当だ、信じてくれ!!」

「盗聴器以外は、確かにありませんでしたね。X線検査でも、身体の中に不審物は見つかりませんでした。

 自白剤を投与しようと思いましたが……まあ、良いでしょう。

 あなたの身体に複数の針を埋め込みましたからね。今後、こんな真似をしようものなら、即座に針を爆発させます。

 そうなれば二度と女性に手出し出来なくなりますけどね」

「針!? 女性!? ……まさか!? パンツを脱がせたのはその為なのか!?」


 まさか一番大切な愚息の中に、針を埋め込まれたと言うのか? その事に思い至った加持の顔が真っ青になった。

 加持の顔色を見て、シンジが不気味に笑った。


「あなたの体の何処に埋め込んだかは内緒にしておきます。まあ針と言っても伸縮可能で、体内の異物感を感じる事はありません。

 以前と変わらない生活が出来る事は保障しますよ。そうそう、材質は金属じゃ無いですからX線検査じゃあ見つけられません」

「どこに埋め込んだかを教えて欲しいんだが……」

「駄目です。内緒の方がスリルがあるでしょう。それに、あなたがこちらに手出しをしなければ、何もしませんよ。

 そうそう、摘出しようとすると爆発します。嘘だと思ったら、試して貰っても結構ですよ」

「い、いや、それは……」

「あなたの事は不知火准将から聞いています。片っ端から女性に手を出している節操なしだとね。

 ボクの家族の女性に手を出そうとするなら……その時は覚悟した方が良いですよ。

 男として死んだ方がましの状態になるか、実際に死ぬかは、その時の状況次第ですね

「わ、わかった!! 君の家族には手を出さない事は約束する!!」

「あなたの約束など信用出来るものでは無い事は、不知火准将から聞いています。

 でもまあ、あなたの首に鈴を付けた事になる訳ですから、今回はこれで釈放しますよ」


 シンジは感情を込めない声で加持に告げた。そしてシンジの言葉を聞いた加持は、ほっとひと息ついた。

 一時はこのまま実験台にされるのかと思ったが、無事帰れると察した為だ。

 二度目が無いと言われたが、次はこんなヘマはしないと心の中で誓っていた。だが、シンジがこれで済ますはずも無かった。


「まだ、安心するのは早いですよ。あなたの持っている情報を、洗いざらい吐いて貰いますからね」

「何っ!!」


 シンジの言葉に反応して、加持は視線をシンジに向けた。

 そして、シンジの左目が赤く輝いているのを見た後、再び加持は意識を失った。

***********************************

 加持が気がつくと、シンジの執務室の前にアタッシュケースを持って立っていた。しかも服を着た状態だ。

 慌ててアタッシュケースを確認したが、間違い無く自分が太平洋艦隊から持ち出そうとした物だった。

 開けられた形跡は無かった。


(どういう事だ? 確か俺は執務室のドアを触って気絶。そして手術台に裸で拘束されて、シンジ君に脅迫された事までは

 覚えているんだが、それ以降の記憶は無い。服を着たり、アタッシュケースを渡された記憶は無い…………

 確か、シンジ君は催眠術らしきものを使えたな。やばい!! 俺は何をされたんだ!?)


 最初の使徒来襲の時、シンジがリツコに催眠術らしきものをかけたのは、加持はビデオで見て知っていた。

 記憶を失ったという事は、自分もそれにかかってしまったのか? だが、それをシンジに聞く訳にもいかない。

 聞いても答えてくれない事は分かりきっているし、それにシンジに関わりたく無いという気持ちが強かった。

 自分の体の事は後でじっくり調べようと気を取り直して、アタッシュケースを大事に抱えて戻っていった。


 シンジは執務室のモニターで、加持の様子を見ていた。

 気がついて慌てながらもアタッシュケースを確認した後、少し思案して戻っていく加持。

 加持がネルフのエリアに入った事を確認すると、シンジはモニターの電源を切った。そして考え始めた。


(加持三尉の情報は興味深いものがあったけど、まだまだ不足しているな。

 やはり、もうちょっと上の人間じゃないと欲しい情報は持っていないか……これからの情報に期待だな。

 でも、あのアタッシュケースに入っていたのが、最初の使徒とは。

 魂を分離して、ゆっくりと細胞劣化を促進するナノマシンを投与したから、無効化出来たと思うけど……

 しかし、地下の使徒を含めて二体の使徒を隠していたとは。ネルフも侮れないな。

 まあ、加持三尉はネルフとゼーレの秘密も探っているようだから、その成果も横流しして貰おうか。

 人類補完計画か……まだ詳細は分からない……まあ良い。まだ時間はある。

 それに、あれだけ脅しておけばボクには近寄らないだろうし、ミーナ、ミーシャ、レイにも手を出そうとはしないだろう。

 まあ、手を出そうとしたら一生不能で生きてもらうだけだ。加持三尉の件は、これで一段落だな)


 加持の件が一段落した事を不知火に伝える為、シンジは電話機に手を伸ばした。

**********************************************************************

 新百里基地

 基地のレーダーには、南西方面から基地に接近する航空機二機が映っていた。


「連絡通りだな」

「時間に正確らしいな」

「さて、お手並み拝見といこうか。栗原、風間、滑走路で出迎えるぞ」

「そうだな。後五分ぐらいで基地には着くな」


 新百里基地の司令と、神田少佐、栗原少佐、風間少佐の見守る中、二機の航空機が姿を現した。

 ワルキューレの一機は、国連軍マークを付けて横に『No.01』と書かれている。神田少佐の愛機であった。

 太平洋艦隊が使徒に襲われた時に、シンジに貸した機体である。今日は、その機体を返すと連絡が入っていた。

 ちなみに、もう一機のワルキューレは北欧連合のマークを付けていた。複座タイプである。


 四人が見守る中、ワルキューレ二機が教科書通りの降下角度で滑走路に着陸した。

 二機とも垂直離着陸が可能だが、垂直離着陸は燃料消費が激しい。

 特に理由が無ければ、普通の航空機と同じく滑走路を利用した離着陸を行うのが通常だ。

 ワルキューレ二機は作業員の指示に従って格納庫まで移動し、滑走路の端に翼を並べた。


「へえ。着陸も上手いもんだな」

「俺の機体は、あの坊主が乗ってるのか。大したもんだな」

「しかし、子供なのに少佐って言ってたよな。どういう事だ? 太田司令は聞いてますか?」

「いや、ワシも細かいところは聞いて無い。不知火准将からは、詮索無用とだけ言われている」

「あの天武って機体の事も聞きたいしな。楽しみだぜ」


 太平洋艦隊を使徒が襲った時にシンジが少佐と名乗り、天武を操って使徒を倒したのを神田達三人は見ていた。

 シンジが神田の愛機を返却すると連絡があった時、事情を聞かせろと割り込んでいた。


 ワルキューレから、シンジが降りた。天武用では無く、普通の航空機用のパイロットスーツを着用している。

 もう一機のワルキューレからは、北欧連合から派遣されているベールイ中尉が降りた。こちらも普通のパイロットスーツだ。

 二人は揃って太田司令以下四人の前に進み出た。


「ボクは北欧連合の”シン・ロックフォード”技術少佐です。彼は北欧連合所属のベールイ中尉です。

 本日はオーバー・ザ・レインボーでお借りしたワルキューレを返還しに参りました」


 シンジはそう言って、太田司令以下四人に対して敬礼した。ベールイ中尉も、それに倣った。

 すかさず、太田司令以下四人も返礼をした。


「ワシが基地司令の太田だ。機体を返還しに来てくれて感謝する。後ろに控えているのが、神田少佐、栗原少佐、風間少佐だ」

「神田だ。坊主があの天武って機体のパイロットなんだよな。その歳で技術少佐なんて、どういう事だ? 教えて貰おうか」

「神田、言葉を控えろ! ロックフォード技術少佐ですか……もしや北欧の三賢者の……?」

「ええ。そうです。ボクが三人目の魔術師です」

「「「!! 失礼しました!!」」」


 太田司令と栗原、風間はシンジの言葉を聞いて目を瞠った。すかさず、シンジに向けて敬礼した。

 三賢者の魔術師が、日本にどんな影響を与えているかは知っていた。それと自分達国連軍にも恩恵を与えてくれたのもだ。


「ボクはまだ十四歳です。あなた方から見れば、青二才に見られて当然です。そう、畏まらないで下さい」

「?? 栗原と風間は、坊主の事を知ってるのか?」

「神田、お前は本当に知らないのか!? 核融合炉と粒子砲の開発者だぞ!」

「げっ! 本当か?」

「まったく、不知火准将も人が悪い。前もって言ってくれれば良いのに」

「准将を責めないで下さい。ボクの事は一応は機密になっていますからね。不用意に第三者に話さないようにして下さい」

「うむ。了解した。だが、魔術師たる君がワルキューレを操縦して、ここに来るとはな。何か別の用でもあったのかね」


 太田司令が疑問を口にした。確かにワルキューレの返還だけで、北欧の三賢者が百里に来るはずが無かった。

 シンジは笑みを浮かべながら太田司令に答え、神田達三人に頭を下げた。


「太平洋艦隊では時間が無かったので言えませんでしたが、神田少佐と栗原少佐と風間少佐に礼を言いたくて参りました。

 この前の第三新東京で、零号機が使徒の粒子砲を避けられたのは三人のお蔭です。

 妹のレイを助けて頂きまして、ありがとうございました。

 准将からも礼があったでしょうが、ボクとしてもきちんとした礼をしたかったのです」

「ああ、あの時の! あの機体に、少佐の妹さんが乗っていたのですか」

「あの時の事は、不知火准将から礼を言われてる。少佐が気にする事は無いさ」

「あれはネルフの暴走だと聞いている。妹さんも無事で良かった」

「最初、准将は無人機を出すように要請したそうですね。ですが、あなた方が出撃した。

 准将の要請通りに無人機を出していれば、今頃は妹がどうなっていたかは分かりません。本当にありがとうございました」

「気にするなって。敵がどんなもんか、見たかったから出撃しただけさ」

「まったく、本来なら命令違反で独房もんだぞ」

「まったくだ。太田司令の命令を無視して出撃するんだからな」

「まあ、結果が良かったからいいじゃねえか」


 神田達三人が言い合いを始めたのを見て、シンジは話しを切り出した。お礼以外にも用件はあるのだ。


「三人に質問です。ワルキューレに大分慣れたと思いますが、感想はどうですか?」

「癖はあるが機動性は良いな。管制機能も上等な部類に入るだろう。それにVTOLという事で運用の幅は広い。

 良い機体だと思うぞ。まあ、もうちょっと速度が出れば良いと思うが」

「機銃が無いのは少し寂しいな。対空武装が粒子砲とミサイルだけだからな。

 だけど、ロックオンして粒子砲を撃てば、対空ミサイルでさえ簡単に迎撃出来るからな。

 粒子砲があんなに使い勝手が良いとは思わなかった。出力調整が出来るから、発射回数もパイロットが調整出来る」

「ミサイルだと、発射しても着弾まで時間がかかるからな。粒子砲なら一瞬だ。

 管制システムも良いから、対空迎撃任務に合っているな。まあ、地上攻撃任務には少々辛いがな」


 神田、栗原、風間はそれぞれワルキューレの感想を述べた。

 ワルキューレが配備されるまでは、予算不足の為にかなり旧式の機体(F−4)を使用していた。

 それが今では世界レベルの最新鋭機である。戦闘機乗りとしては嬉しい状態だが、改善要望は尽きる事は無かった。


「この前話したように、ワルキューレVはロックフォード財団の作った量産試作機です。ワルキューレに比較して、

 管制システムの強化と粒子砲のエネルギー変換効率の改善、それと最大移動速度の改善を実施しています。

 本国で第二ロットの生産が終わりまして、ボクの管轄に五機が割り振られました。二機は予備機で三機が空いています。

 宜しければ、三人にはワルキューレVのモニターを御願いしたいのですが」

「えっ。ワルキューレVのモニターだと!?」

「あの最新鋭機をか?」

「ほう。願っても無い事だ」

「ええ。量産試作機とは言っても問題点はほとんど改良されています。メンテナンス内容もワルキューレとほぼ同じですから、

 ここの基地でのメンテナンスは問題無いでしょう。期限無しで三機のモニタを御願いしたいのですが、どうでしょう」

「ほう。そう言ってくれると助かるな」

「願っても無い。楽しみだな」

「では、後日にワルキューレV三機をこの基地に搬入します。それと司令を含めた四人と内密な話しがしたいのですが?」

「……分かった。応接室に案内する。そこで話しを聞かせて貰いたい」


 シンジから内密な話しがしたいと言われ、太田司令達四人の顔に真剣な表情が浮かんだ。

 所属も違う自分達に、北欧の三賢者が内密な話しがあるというのは普通ではありえない。

 さすがに滑走路の脇で重要と思われる話しをする訳にはいかないだろう。六人は防諜システムの整った応接室に向い、歩き始めた。


(さて、あの話しを切り出した時の反応が楽しみだな。まあ、断られるとは思えないけど。

 それと風間少佐の移籍は無理かな……まあ、駄目もとで打診してみようか。准将には後で怒られるかな。ふっふっふっ)

**********************************************************************

 マンション屋上

 国連軍のマークを付けたヘリが、シンジ達の居住するマンションの屋上に着陸した。

 そのヘリから太平洋艦隊司令のローグが降りてきた。不知火が敬礼で出迎えた。


「ローグ司令。お待ちしておりました。歓迎させて頂きます」

「不知火君。太平洋艦隊は現在修理中で、わしは休暇中だ。プライベートなんだから、敬礼は止めてくれ」

「分かりました。では、御案内します」


 そう言って不知火はローグをマンションの中の談話室に案内した。シンジが準備して待っている予定だ。

 不知火は歩きながらローグに尋ね始めた。


「提督。太平洋艦隊の状態はどうですか?」

「うむ。日本では応急修理しか出来ないから、本格的な修理にはアメリカの母港に戻らねばならんだろうな。

 だが、ネルフに請求した賠償で、支払われるのは十分の一程度に過ぎん。老朽艦が多いから、多数が廃艦になるだろう。

 予想だが太平洋艦隊の規模は半分以下になる。下手をすれば、以前の三割以下の規模になるかもな」

「それは……やはり予算はつかないのでしょうか?」

「前々回の使徒の時に国連軍の予算は追加されたが、今回は無理だろう。アメリカ政府からも我慢しろと命令が来ているしな」

「提督……我々は国連軍ですよ。そういう元の本国政府を重視する言葉は自重された方が良いかと」

「まあな。君の前だから言えるのだ。公式の場では言えんな。それはそうと、天武のパイロットの少年も居るんだろうな?

 彼との話しを楽しみにして来たんだぞ」

「ええ。先に行って準備していますよ。ああ、ここです」


 不知火は談話室のドアを開けて中に入った。ローグも不知火の後に続いた。

 談話室ではシンジとセレナが準備をして待っていた。


「ようこそ、ローグ提督」

「セレナ・ローレンツと申します。宜しく」

「……ああ、わしがローグだ。宜しくな」


 シンジは笑顔で、セレナは仏頂面で挨拶した。もっとも、セレナは仏頂面でも、その美貌に翳りは無い。

 ローグは部屋に入った瞬間から、セレナに目を奪われて挨拶の返事が遅れてしまった。

 シンジが居るのは当然だが、見た事も無いような美女がまさかメイド服を着て待っていようとは、想像さえしていなかった。

 ましてや、メイド服もやたらと胸を強調するようなデザインだ。

 セレナから漂ってくる気品、その稀有の美貌。そして完璧とも言えるプロポーションの持ち主が、扇情的なメイド服を着ている。

 海の男として生きてきたローグだが、セレナから目を離せなかった。

 武人として女の色香に迷った事は無かったが、セレナに迫られたら抵抗出来る自信は無かった。

 もっとも、不知火も同レベルだ。面識があるとはいえ、今のセレナは目の毒に近いものがある。

 不知火はセレナを直視出来ず、微妙に視線を逸らしながらセレナに問いかけた。


「ミス・ローレンツ、何故あなたがここに居る? それにその格好はどういう事かね? 些か刺激的過ぎるのだが……」

「私がここに居るのは、少佐に呼ばれた為です。それに……服装の事は何も聞かないで下さい」

「ミス・ローレンツを呼んだのはボクです。ローグ提督にある程度は状況を説明した方が良いと思い、ボクが要請しました」

「しかし……」

「今日はローグ提督への事情説明でしょう。ならば、ミス・ローレンツも関係者です。もっとも、この服装は予想外でしたが……」

「ほう? このお嬢さんも関係者だと言うのかね?」

「はい。私は人類補完委員会から任命されて、ネルフの特別監察官を勤めております。

 この度は弐号機の暴走で太平洋艦隊に被害を出してしまい、申し訳ありませんでした。

 私の立場ではネルフを代表してとは言えませんので、人類補完委員会に代わって謝罪させて頂きます」

「君が!? ……なら関係者だな。分かった」


 そう言って、ローグは空いている席に腰を下ろした。不知火もローグに続いた。

 ローグの横は不知火が座っている。そして正面はシンジだ。セレナはシンジの横に座っている。

 テーブルには各種の酒と食事が準備されていた。香ばしい匂いが漂ってきて、ローグの食欲をそそった。


「とにかくお疲れでしょう。堅苦しい話しは後回しにして、とりあえずはゆっくりして下さい。

 酒を準備しましたから、ご存分に味わって下さい。准将もどうぞ」


 元々、酒が好きなローグに異論は無かった。不知火もローグの機嫌を良くする為と思って、同意した。

 かくして、男三人と美女一人による酒宴が始まった。


 話しは世間話から始まって、使徒やネルフと関係無い話題で盛り上がっていた。

 そして話術という面から見ると、一番慣れているのはセレナだった。

 何せ、実家が財閥である。社交界で慣れており、このような席で話しをリードするのはお手の物だ。

 セレナはローグや不知火の興味を引くような話しを続けた。機嫌は悪いのだが、粗雑な応対はしていない。

 もっとも、会話の合間にシンジと接触し、挑発する事も忘れていない。

 酒をハイペースで飲んでいるのは、ローグと不知火だ。シンジは少量のみだ。セレナはまったく飲んでいない。


(うーーむ、良い女だな。眼福というやつか。しかし、少年と近過ぎないか? もしかして二人は出来てるのか?

 いや、少年の方が見劣りするな。つりあいが取れてるとも思えんが。だが、彼女の方から近寄っているのか……

 まあ良い。確かに彼女は目の保養になるが、仕事を忘れた訳では無い。そろそろ本題に入らせて貰うか)


(しかし、何で彼女を呼んだんだ? まあ、ネルフの特別監察官だからまったくの無関係では無いが……

 彼女のメイド服なんて初めて見るが、これは犯罪レベルだな。ジロジロ見たら失礼だろうし、まともに見れんな。

 これなら何時ものスーツやドレスの方が、まだましだ。そろそろ本題に入るか……)


(確かに使徒を倒した時、ローグ提督が酒でも飲み交わしたいと言ったけど、社交辞令だと思ったんだよな。

 まさか本当に来るとは思わなかった。でも来たからには、ミス・ローレンツと一緒に情報誘導させて貰おう。

 だけど、ミス・ローレンツに使徒のサンプルと交換条件に来るように頼んだけど……

 確かに何時もの服装じゃなくて、奇抜な服をリクエストしたけど、メイド服はルール違反だよな。

 やたらとスカートの裾が短いから、借り物なのは分かるけど、慌てて仕立て直したのか。

 それと近づき過ぎだよな。足はくっついているから体温を感じるし、香水の香りが匂ってくるし。

 たまに胸を押し付けてくる。意趣返しか……我慢、我慢!)


(まったく、使徒のサンプルを交換条件に、接待を強要するなんて何を考えているのよ! 公私混同だわ!

 これじゃ断れないじゃ無い! しかも、何時ものような服装じゃ無くて、奇抜な服をリクエストして、セクハラよ!

 それにナターシャもナターシャよね。相談したらメイド服が良いだなんて言い出すし。

 それも胸元をすごく強調するような服だし、恥ずかしいじゃないの!!

 目の前の二人が胸元をちらほら見ているのが、はっきり分かるわよ。いい年でも、やっぱり男はスケベよね。

 こうなったら、この子に少しでも嫌がらせをしてあげるわ)


 ローグは酒が回った為に顔が赤くなっていたが、頃合と見てシンジに話しを切り出した。


「いやあ、ここまで歓迎されるとは予想していなかったよ。そして、改めて礼を言わせて貰う。

 君の援軍が無かったら、今頃太平洋艦隊の全艦が海底の藻屑と化していたろう。君は太平洋艦隊将兵の恩人だ。ありがとう」

「いえ、正直に言いますが、最初はボクは太平洋艦隊に行く気はありませんでした。

 准将が見殺しには出来ないと頼み込んで来たので、行ったまでです。礼は准将に言って下さい」

「少佐、言わなくても良い事を……」

「不知火君にも礼は言ったさ。だが敵を倒したのは君だ。それに君の手配した援軍が無ければ、太平洋艦隊の損害は一桁多い

 ものになっていたろう。心から礼を言わせてもらう。それはそうと、君は少年でありながら少佐と言っていたな。

 何か理由があると思うが、教えて貰えないかね?」

「ボクは使徒を倒せる天武のパイロットですよ。少佐では不足ですか?」

「わしの勘は、それだけじゃ無いと言っている。あの機体のパイロット以外にも理由はあるはずだ!」

「提督、それは機密なのですが……」

「不知火君。わしも武人だ。秘密は絶対に守る。わしは真実が知りたいのだ」


 ローグはアルコールがまわったらしく、赤い顔をしてシンジに迫った。酔っ払いなので、妙な迫力がある迫り方だ。

 そしてシンジは考えた。この四人のメンバーの中でシンジの素性を知らないのはローグのみだ。

 当初はローグに自分の素性を話す気は無かったが、素性を話した方が誘導しやすいかと思い直した。

 シンジの素性に関してはネルフ内部で周知されている為に、ある程度の範囲には広まってしまっている。

 今更、ローグ一人に知られたところで影響は無いと判断した。


「ボクの日本での名前は”碇シンジ”ですが、北欧連合では”シン・ロックフォード”と名乗っています。

 提督の分かり易い呼び名で言えば、北欧の三賢者の一人ですよ」

「君が!! 君があの粒子砲の開発者なのか!?」


 ローグは驚愕した。まさか、六年前に祖国を含めた旧常任理事国を追い詰めた元になった粒子砲を開発したのが、

 目の前の少年だとは、想像さえしていなかった。だが、不知火とセレナにしてみれば、以前から知っている内容である。

 顔色に変化は無かった。ローグは不知火とセレナの態度を横目で見て、シンジの言葉が嘘では無い事を悟った。


「……そうか、君が三賢者の魔術師なのか、正直に言ってくれてありがとう。絶対に他言はしない事を約束する。

 そして、改めて礼を言わせて貰う。わしが君の立場なら太平洋艦隊を見殺しにしていたろう。よく助けてくれた。ありがとう」

「礼は一度言われれば十分ですよ。そんなに気にしないで下さい。どの道、あの使徒と呼ばれる敵は倒さねばならなかったのです。

 今回は戦場に太平洋艦隊が選ばれたという事に過ぎません。ところで、太平洋艦隊の損害と再編の見込みはどうなのですか?」

「うむ。本格的な修理はアメリカに戻ってからになる。だがネルフの賠償金は少ないから、予算不足で多数が廃艦になるだろう。

 太平洋艦隊の規模は半分以下になる見込みだ」

「私は補完委員会から派遣されました。ネルフへの勧告権限はあるのですが、命令権限はありません。

 ですが、私の目から見てもネルフのやり方は目に余ります。ネルフの特別監察官として、提督に謝罪させて頂きます」

「ミス・ローレンツは、ネルフに対して命令権限は無いのでしょう。謝罪すべきはネルフの司令達だ。あなたが謝罪する必要は無い」

「でも、不知火准将。伝え聞く弐号機の損害状況を聞けば、知らぬふりは出来ません。誰かが謝罪しなければなりません」

「まあ、ミス・ローレンツの責任じゃ無いでしょう。ネルフの悪辣さは最初からですからね。

 補完委員会でさえ、ネルフには手を焼いていますよ」

「何だと!?」


 ローグを徹底的なネルフ嫌いにする為、機密に関わらない内容だけだが、シンジはネルフの悪行をローグに話し出した。

 機密に関わらない内容だけでも十分だった。

 パイロットを洗脳していた事や、作戦妨害等のネルフの横暴さを伝えるだけで十分にローグを誘導出来た。

 ローグに関しては予定通りと言っていいだろう。だが、セレナに関して言えば失敗だった。


 …………

 …………


 ドン

 セレナが勢い良くグラスをテーブルに叩き付けた。顔は真っ赤になって、目は据わっていた。


こら、シン! 聞いてるの! はっきりしなさい!

「聞いてるよ。だけど、お酒はもう止めたら。飲み過ぎじゃないの?」

うるさい!! あたしがお酒をどれだけ飲もうが、あたしの自由でしょ!!


 ネルフへの不信感を大きくさせる為に、シンジはその方向の話しをセレナに聞かせた。

 話すネタは十二分にある。事実、セレナは最初のうちは、渋々であったが頷きながら話しを聞いていた。

 だが、シンジの話しを繰り返し聞いているうちに、セレナのストレスは危険レベルまで上昇した。そして決壊してしまった。

 それまで一滴の酒も飲まなかったセレナが、隣に座っているシンジのグラスの中身(日本酒)を一気飲みしたのだ。

 呆気にとられ、間接キスだという突っ込みも言えぬ間に、セレナは二杯目、三杯目とグラスを傾けていった。


まったく、何であたしがこんな苦労をしなくちゃいけないのよ! ドイツは良かったわ。

 でも、日本に来てから苦労の連続よ。これと言うのも、全部ネルフが悪いのよ!! ネルフのバカヤローー!!

「ちょっ、ちょっと、落ち着いて。お酒を飲み過ぎだよ。ジュースでも飲んでよ」

うるさい!! そうよ、あなたも悪いのよ。このあたしが迫っているのに、何で落ちないのよ!! 侮辱だわ!!

「い、いや、ミス・ローレンツは「セレナって呼びなさい!!」 ……えっと、セレナは十分に魅力的だと思うけど」

じゃあ、何で手を出さないのよ!! そのくせ、メイド服を着て来いだなんてセクハラよ!! 分かってるの!?


 切れた人間は手に負えない。セレナは手負いの野獣と一緒だった。

 ローグと不知火は最初は面白がって見ていたが、セレナの勢いが天井知らずなのを見て、顔を蒼くして退席していた。

 残されたのはシンジとセレナだ。そしてシンジを獲物と定めたセレナが、シンジを逃がすはずも無かった。

 右手に日本酒が入ったグラスを持ち、左手はシンジの肩を掴み、アルコールがまわった赤い顔でシンジを睨みながら

 延々とセレナの愚痴は続いていた。

**********************************************************************

 ゼーレの会合

 太平洋艦隊を襲った使徒に関するレポートは、ネルフと太平洋艦隊の両方から提出されたものがゼーレに届いていた。

 ちなみに、シンジは戦闘レポートを北欧連合に提出したのみで、国連軍には提出していない。

 電源ソケットが無いという予期せぬアクシデントの所為もあったが、期待外れに終わった弐号機に関しての討議を行っていた。


『弐号機の初陣だったと言うのに、無様な姿を晒してくれたな。あれがセカンドの実力なのか?

 だとしたら期待外れどころか、シナリオが狂ってくるぞ』

『いや、葛城の娘が電源ソケットを届けるのが遅れた為だ。電源ソケットさえあれば、弐号機で使徒を殲滅出来ただろう』

『まったく、電源ソケットを積まなかったドイツ支部は、何を考えているんだ!?』

『その件については、既に元支部長に厳罰を与えてある。だが、時刻通りに荷物を届けなかった葛城の娘にも問題はある』

『六分儀の管理ミスだな』

『まったく、失態続きだな』

『今回も北欧連合の天武で倒されてしまったか……奴等の得意げそうな顔が目に浮かぶわ! 忌々しい!!』


『次の使徒は、弐号機で大丈夫なのか? 本当に使徒を倒せるのか?』

『弐号機は制式機だ。実験機や試作機とは違い、ドイツネルフで、かなり改良されている。スペックなら初号機の上だ!』

『だが、奴等は零号機と初号機を改造している。それでも弐号機は上と言えるのか? 奴等の技術を上回っていると?』

『…………』


 弐号機が初号機よりもスペックが上だと言い張ったモノリスは沈黙した。

 事実、稼動時間が五分から三十分に延びた事などは、ネルフやゼーレの技術でも出来なかった事だ。

 それにLCLを使用しないシンクロシステムに変更されたと報告が来ている。

 ゼーレとはいえ、ユイが開発したシンクロシステムに替わるシステムは、まだ開発出来ていない。

 それらを考慮すると、弐号機のスペックが初号機を上回るだなどと言い張る事は出来なかった。


『弐号機パイロットの能力はどうなのだ? 今回、太平洋艦隊の艦艇を踏み潰している。騒ぎを収めるのに苦労したのだぞ。

 太平洋艦隊への賠償額は抑えたが、今後の使徒との戦闘で、あのような被害が出ると収拾がつかなくなる可能性もある』

『被害については多少は仕方無かろう。年齢を考慮すれば十分な能力はある』

『弐号機パイロットが被害を出して、そこを国連軍や北欧連合につけ込まれないかと危惧しているのだ。

 如何に弐号機の操縦が上手くとも、戦闘員としての素質に欠けていれば、そこを責められる』

『この前のように国連軍に圧力をかければ良い。国連軍には容易に圧力をかけられるからな。

 協力している国連軍が北欧連合に泣き付けば、奴等の譲歩は引き出せるだろう』


 第五使徒(ラミエル)の時、ミサトの越権行為を何ら制止しなかった事でゲンドウと冬月は重営倉に入れられた。

 正式に二人の処罰を北欧連合が行おうとしたのだが、国連軍に掛けられた圧力に屈して、処罰をしなかった経緯がある。

 今まで北欧連合に対して有効な手を打てなかったゼーレとしてみれば、喜ぶべき状況だった。


『確かにな。駄目で元々と思って、国連の拠出金を減らすと脅して、六分儀と冬月の処分を諦めたからな。

 あそこまで有効に効くとは思わなかったな。国連軍という足枷を付けた為なのは、皮肉な事だな』

『うむ。弐号機パイロットの戦果を出させる為には、多少の損害は仕方あるまい。

 北欧連合の牽制が可能な今、まずは弐号機の実績を出させる事を優先すべきだろう』

『六分儀にはフォースの選定を急がせる事にしよう。それと北欧連合への牽制だな。次の使徒は必ず弐号機で倒さねばな』


 アスカはドイツネルフの切り札として教育、そして訓練を受けてきた。EVAの有効性を示す意味でも弐号機での戦果が

 求められていた。事実、アスカの個人戦闘能力は平均的な軍人レベルを超えている。

 年齢を考慮すれば、十分に優秀だと言えるだろう。それらを確認し、議題は弐号機から使徒のサンプルの件に移った。


『今回の使徒のサンプルは、太平洋艦隊経由で入手出来たのだな』

『ああ。既に分析に回している。もっとも、表面の皮膚や筋肉組織などのサンプルだけだ。後は海中に投棄したからな』

『今回の使徒は爆発しなかったから、S2機関のサンプルが入手出来るチャンスだったのだがな』

『北欧連合の天武がどうやったのかは分からぬが、使徒の体内には内臓らしき部分は残っていなかったと太平洋艦隊の報告にある』

『どうやったのだ? 使徒を倒す時に、使徒の体内を瞬時に分解でもしたと言うのか?』

『分からぬ。天武が使徒を倒した時は、閃光があって誰も見ておらぬ。残された残骸は海中に投棄された。

 今更、引き上げは出来ない。唯一残ったのは、太平洋艦隊が回収したサンプルだ』

『使徒のサンプルをネルフに渡さない事を条件に、魔術師が太平洋艦隊に使徒の処分を任したのだったな』

『やはり魔術師の目はネルフ、いや六分儀に向いているのか。我等にとって好都合だな。

 この前の魔眼使いの護衛のレポートを読んで、笑ってしまったぞ』


 この前(十六話)でシンジとセレナの会談があった。その時、シンジはゼーレとセレナを欺く為、偽情報を伝えていた。

 セレナからの報告は無かったが、セレナの護衛からのレポートがゼーレに提出されていたのだ。


『ああ。ネルフが補完委員会を影で操っているのでは無いかというあれか。確かに笑えるな。

 我等の事を知らないとはいえ、ネルフを過大評価し過ぎだ』

『魔術師が誤認しているのなら、そのままにしておけば良い。その方が我々の計画に邪魔が入る事も無い』

『確かに。ネルフが不用意に奴等に干渉する事が無いように、注意を促しておけば良いだろう』


『話しは変わるが、この前の使徒の内臓部分の細胞サンプルを、魔眼使い経由で入手した。既に分析に回してある。微量だがな』

『何と! 内臓部分という事は魔術師経由か?』

『そうだ。魔眼使いが魔術師と交渉して入手したそうだ。もっとも、代償は支払ったがな』


 使徒のサンプルの代償として、セレナはメイド服を着てシンジ達を接待した。

 高い代償だったか、安い代償だったかは、人によって評価は異なるだろう。(ゼーレにしてみれば、安い代償だろうが)

 だが、魔術師から使徒のサンプルを入手したセレナの評価は、上がっていた。


『魔眼使いが使徒のDNAを摂取させられたと知ったようだな。だが、何も言ってこないのを見ると、まだ大丈夫だな』

『多数の死者が出た実験の生き残りだ。折角うまく能力が発現したのだ。役にたって貰わねば困るからな』

『まったくだ。多くの幼児に使徒の細胞を与えた実験で、生き残ったのは魔眼使いを含めても三人だけだ。

 使徒の細胞が人間に与える影響を確認する為の実験だったが、予想外の能力発現があった。まだまだ魔眼使いには、働いて貰わねばな』

**********************************************************************

 初号機:格納庫


 ジオフロントで通常の定期訓練を終えた初号機は、格納庫に戻っていた。

 今日はネルフに内緒で、ある技が初号機で出来るかの実験を行った。今後の戦いを左右するかもしれない重要な事だ。


(【ウル】は今日も調子が良かったね。大分慣れてきたから、技も使えるようになった。実戦でうまくいけば良いんだけどね)

(汝は興味深いな。あのような事が出来るとは、我は思ってもいなかった事だ)

(まあ、これでも色々な人の人生経験を知っているからね。それなりに苦労はしているんだよ)

(我も苦労はしているぞ。汝が来ない時は、侘しい時を過ごしておる)

(確かにボクが来ない時は【ウル】は一人だよね。………使徒戦の終了を待たずに【ウル】の身体を創ろうか?)

(良いのか? 約束では使徒戦が終わったらになっているが?)

(別にこれくらいは先払いでも構わないよ。それで希望は? 出来れば小動物が楽でいいんだけど。鳥とかにする?

 それと人間形体は止めてね。出来なくは無いけど、完全な機能は持たせられないし、戸籍なんか面倒なんだ)

(……ちょっと待て。少し考えたい)

(そうだね。何度も身体の造り替えなんて出来ないからね。ゆっくり考えて。

 でも、普段はそちらの身体にいて貰って好きにしていいけど、戦いの時はこの初号機に戻って貰うよ)

(それは当然だろうな。了解した。ふふふ。これで満腹感というものが味わえるか……)

(えっ!? 【ウル】はお腹が減ってたの? おかしいな、バッテリィ切れはしてないけど?)

(あれは死なない程度の食事に過ぎん。我も本来の力は知らないが、何故かそう感じるのだ。本能的なものだろう)

(……そうか、初号機は元々使徒だからね。そして使徒はS2機関と呼ばれる動力機関を内蔵しているか。

 【ウル】ごめんね。まだS2機関の解析が終わってないんだ)


 二番目の使徒(第四使徒)のサンプルは徹底的に分析していた。その為に、動力源と目された部位の解析の目処はついていた。

 だが、動作中の解析をしないと最終判断が出来ない。そう、シンジは悩みを告白した。


 四番目の使徒(第六使徒)の内臓部分は、亜空間転送で取り出して冷蔵保存してある。

 それを動作解析が出来れば、初号機にS2機関を移植出来るかもしれない。もう少し待って欲しいと。


(……という事で、解析はある程度は終わっているんだ。ただ、確証が無くてね。

 この前の使徒の内臓部分を亜空間で冷凍保存してあるけど、どうやって動作確認しようか悩んでいるんだ。

 下手をして暴走すると危険だからね。動作確認がうまくいけば、その動力機関を初号機に組み込める。もうちょっと待ってね)

(いや、待てぬ!)

(えっ!?)

 【ウル】がここまで我を通した事は初めてだ。シンジは驚いていた。


(その冷凍保存されている内臓部分を見せてくれ)

(えっ、見てどうするの?)

(良いから見せてくれ。我も分からぬが、何かそこに望むものがあるような気がするのだ)

(?? ……分かった。でも、夜までは待って。今は人目がある。夜、誰も居なくなったら持って来るから)

(……良いだろう。待っておるぞ)


 仕事が終わらないという理由で、シンジは泊り込みをすると決めていた。

 そして人気が無いのを確認して、初号機の格納庫に入っていった。そして他の人が入って来れないようにロックをかけた。

 邪魔が入らないようにした上で、誰にも見られないように結界を張って初号機に搭乗した。監視装置は無効化済みだ。


(【ウル】、待たせたかな)

(待ちわびたぞ。早く、あれを見せてくれ!)

(そう急かさないで。動作解析していないから、どうこう出来る事は無いんだから)


 そう言って、シンジは亜空間に冷凍保存してあった使徒の内臓を転送させた。

 凍りついた使徒の内臓が初号機の前に出現した。ピンク色をした部分もあって、グロテスクさを感じさせる。


(おお! これは!)

 【ウル】は歓喜の思念で包まれた。シンジはそれを感じたが、冷静に対応した。


(見ての通り、今ままで冷凍保存していたから、動かし方が分かれば動くんだろうけどね。でも、今は動かし方が分からない。

 何時までに解析を終えると確約は出来ないけど、今はまだ待って欲しい)

(いや、待てぬ! あれを我の体内に取り込めば、我は満たされる。何故か分かるのだ。あれは我の求めるものだ!)

(……い、いや体内に取り込むったって、どうやるの? 触って融合でも出来るような機能は初号機には無いよ)

(我には口がある。お主等が食事をするように、我が口から入れれば良い)

(た、食べるの! あれを! ま、まさか生のままで!?)

(無論。お主等の食事のように火などを使っては、使い物にならなくなるではないか)

(あれを……生で……)

(我だけでは、この身体は動かぬ。お主の協力が必要だ。頼む。我からの初めての頼みだ)


 改造前のシンクロシステムだったなら、いかに【ウル】の頼みであってもシンジは聞き入れなかっただろう。

 それほどフィードバックによる影響は大きいのだ。普通の人間は生の内臓を口に入れる習慣は無い。

 そんなフィードバックに耐えられる自信は、シンジには無かった。

 だが、今は天武と同じ思考制御システムが初号機に搭載されていた。フィードバックは僅かなものだ。

 だが、初号機で食事なんぞした事は無い。もちろん、天武でも無い。

 シンジは慌てて感覚のフィードバック機能の内容を思い出した。……良かった。味覚のフィードバックは無い。

 問題は触感だ。生肉を喉越しに入れる感覚を我慢出来れば、問題は無いだろう。

 後は使徒の内臓をそのまま初号機の口に入れる行為をやると決断するだけだ。

 【ウル】からの初めての頼みである。シンジは断るつもりは無かった。(まあ、嫌々ではあるが)


(念の為に聞くけど、本当に冷凍のままで良いの? 解凍する必要は無いかな?)

(我の体内に入れば同じ事だ。心配は無用だ)

 【ウル】の言葉に、シンジは諦めた表情を浮かべながら、使徒の内臓に手を伸ばした。

 …………

 …………

 …………

 (余りにグロテスクな内容の為、あえてカットしています)


 …………

 …………

 …………


 結論から言うと、【ウル】に取って大満足する内容になった。身体中に満ち溢れるエネルギーに歓喜していた。

 シンジにもその感覚ははっきり伝わった。確かにバッテリィの時とは比較にならないエネルギー量だ。

 これだけ差があれば、今まで空腹感を感じてきた事にも納得はいく。

 だが、シンジは落ち込んでいた。S2機関を解析し、それから初号機に取り付けようと考えていたシンジにして見れば、

 初号機の口から摂取するなど、普通では考えられないような乱暴なやり方でS2機関を取り込んだのだ。

 内心では自分の科学者としての実力に自負を抱いていたシンジを虚無感が襲った。自分の今までの苦労は何だったのか?

 歓喜の念を思い切り表している【ウル】に対し、シンジはがっくりと肩を落としていた。

**********************************************************************

 ネルフ:通路

 シンジとミーナは連れ添って、訓練ルームに向って歩いていた。

 擦れ違う男達はシンジに嫉妬の視線を、シンジの腕を抱いて笑みを浮かべているミーナには邪な気持ちのこもった視線を向けていた。

 だが、二人はそんな視線をものともせずに悠然と歩いていた。

 そして、ミサトとアスカが反対方向から歩いて来た。二人はシンジとミーナに気がつき、顔色を変えた。


(……サードか。女連れとはいい気なものね。今に見てらっしゃい。次の使徒はあたしが倒すわ!)

(やばい!! このシチュエーションは以前にもあったわよね。今回はアスカがターゲット?

 アスカが噛み付かないように注意しなくちゃね。それに、相変わらず嫌味な程のサイズよね。嫌な女だわ!!)


 リツコからはシンジに関わるなと言われている事もあり、アスカはシンジに喧嘩を仕掛ける気は無かった。

 憎しみの感情を込めた視線で、シンジを睨みつけるだけであった。

 だが、シンジの腕を抱いているミーナからしてみれば、見知らぬ少女がいきなりシンジを睨み付けたのだ。

 何事かと思うのは普通だろう。そして、ミーシャとレイから聞いていた内容を思い出した。


(この子がEVA弐号機のパイロットか。身の程知らずにも、シンに挑もうと言うの?

 ミーシャとレイにも色々としてくれたみたいだし、姉としてはお灸を据えなくちゃね)


 ミーナは立ち止まって、シンジの腕を外してミサトとアスカに正対した。そして視線をアスカに向けた。

 それまでシンジを睨んでいたアスカだったが、ミーナの視線に気がついた。

(何よ、この女! 人の事を睨んで失礼な女ね! ふっ、視線を逸らしたわね。あたしの勝ちだわ)


 ミーナはアスカと視線を交わした後、視点をアスカの目から胸に変えて数秒凝視した後に、視線をアスカの目に戻した。

 顔には勝者たる余裕の笑みを浮かべてだ。


「なっ!!」

「あっちゃああ」


 ミーナの視線と笑みに含まれるものを瞬時に理解して、アスカは屈辱に顔を歪ませた。

 ミサトは思った通りにアスカが標的になったかと、右手を額に添えて溜息をついていた。

 だが、アスカは今までの標的と異なって反撃に出ていた。さすがはEVAのパイロットと言うべきだろうか?


「な、何よ! そんなデカイ胸をぶら下げて恥ずかしくないの! それに、時代はバランスを要求しているのよ!

 サイズが全てじゃ無いわ! まったく、あんたは牛じゃない!」

「そ、そうよ。アスカまで標的にするなんて、どんな了見よ。もうちょっと控えなさいよ!!」

「別にあたしは何も言って無いわよ。あなた達がどう理解したかは知らないけどね。

 それに最初に仕掛けたのは葛城准尉、あなたでしょう。自分達が仕掛けるのは良くて、仕掛けられるのは嫌なの?

 我が儘も程々にしたら? まあ、ネルフの人間に言っても無駄かしら?」

「何ですって!」

「アスカ、抑えなさい!」


「自分を女の子と思うなら、もうちょっと言葉使いに注意なさい。そんなんじゃ、恋人なんて何時までたっても出来ないわよ」

「ふん!! 男なんかに興味は無いわよ!!」

「そうなの? ああ、だから葛城准尉と一緒に居るのね。人の趣味に口出すつもりは無いから、これ以上は言わないけど。

 まあ、そこの葛城准尉と仲良くするのね。頑張ってね」

「「なっ!?」」


 ミサトとアスカは絶句していた。ミーナがとんでもない勘違い(ズレ疑惑)をしたのを理解した為だ。

 確かにアスカが言った言葉だけを聞けば、そういう解釈が出来るかも知れない。もっともミーナは単純に二人をからかっただけだ。

 二人の顔が赤く染まった。その二人の顔を見て、ミーナが笑いだしたいのを我慢した。


「自己主張も良いけど、ほどほどにした方が良いわよ。さもないと、そこの葛城准尉のようにおばさんになっても独り身よ」


 そう言うと、ミーナは再びシンジの腕を胸に抱いた。ミーナの胸がシンジの腕に押し付けられて変形した。

 それを、ミサトとアスカに見せ付けた。

 あっけにとられるミサトとアスカの横を、シンジとミーナは悠然と通り過ぎていった。






To be continued...
(2009.07.26 初版)
(2011.11.20 改訂一版)
(2012.06.30 改訂二版)


(あとがき)

 今回は布石がメインになっています。加持への精神誘導が後々で効いてきます。

 次話は、第七使徒来襲です。



作者(えっくん様)へのご意見、ご感想は、感想掲示板 まで