因果応報、その果てには

第三十六話

presented by えっくん様


 ネルフ広報部作成のビデオの映写会が行われていた。観客数は六人(五人は立体映像)のだけの寂しい映写会である。

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 時に2015年

 第三使徒:サキエル 襲来。

 使徒に対する通常兵器の効果は認められず。

 戦略自衛隊は作戦遂行を断念。全指揮権を国連特務機関ネルフへ移譲。

 同深夜 使徒サキエル ネルフ本部直上へ到達。

 当日接収する予定だった三人目の適格者サードチルドレン:碇シンジは搭乗を拒否。ファーストチルドレン:綾波レイを連れて逃亡。

 エヴァンゲリオン初号機は出撃出来ず。痺れを切らした日本政府は、国連軍に使徒迎撃を依頼。

 国連軍の依頼を受けた北欧連合の『天武』が出撃。パイロットは碇シンジ。

 使徒サキエルのATフィールドを確認。『天武』の攻撃は全てATフィールドで防がれる。

 『天武』は煙幕を展開して逃亡すると思われたが、その直後に使徒サキエルを殲滅。殲滅方法は非公開。

 爆発した為、使徒のサンプルは入手出来ずと思われたが、コア部分のサンプルを『天武』が入手していた事が後日判明。

 使徒サンプルの提供を依頼するも、シン・ロックフォード(碇シンジ)は拒否。

 迎撃施設の一部が使徒による攻撃で破損。『天武』の損害は無し。

 同事件における被害者の有無は公表されず。


『サードチルドレンが、あの『魔術師』だったとはな。とんだ見当違いになってしまった。

 六分儀君が謝罪をしなかった為に、総額三百億ユーロ(約六十兆円)の賠償金を支払う事になってしまったのだぞ』

『まったくだ。あれで予算がかなり厳しくなったのだ』

『今、思い出しても気分が悪くなる』

『初号機と零号機の所有権を北欧連合に譲渡した。他にも色々と奴らの要求を呑まざるを得なくなったな』

「…………」

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 第四使徒:シャムシェル 襲来

 当時の地対空迎撃システム稼働率:48.2%

 第三新東京市 戦闘形態移行率 :96.8%

 事前協議の結果により、作戦立案はネルフが行い、作戦指揮は国連軍が行う事になる。作戦遂行は北欧連合が行った。

 エヴァンゲリオン初号機 シン・ロックフォード少佐(碇シンジ)が搭乗 初出撃。

 シェルターから抜け出した三人の中学生の為に作戦遂行が危ぶまれたが、初号機は大した被害を受ける事無く使徒シャムシェルを殲滅。

 原型を留めた使徒シャムシェルは北欧連合が管理する事となる。

 サンプル提供を依頼したが、シン・ロックフォード少佐(碇シンジ)はこれを拒否。

 この時の騒ぎで、補完委員会より違約金二十五億円がシン・ロックフォード少佐(碇シンジ)に支払われた。


『これは嫌味かね』

『まったくだ。無駄金を使わせてくれたな』

「…………」


 尚、葛城三尉は越権行為の為に、重営倉に収容された。

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 第五使徒:ラミエル 襲来

 葛城三尉の越権行為により、零号機が使徒ラミエルに狙撃されかかったが、国連軍のワルキューレ三機の攻撃により被害は無し。

 この時【ウルドの弓】により使徒ラミエルに若干の被害を与えた。通常兵器(天武は除く)での使徒への有効打撃が始めて確認された。

 難攻不落の目標に対し、葛城三尉はヤシマ作戦を提唱したが、作戦成功率が低かったので採用されず。

 葛城三尉の越権行為の為、六分儀司令、冬月副司令、葛城三尉、日向三尉が重営倉入りとなった。

 (司令と副司令の重営倉入りは、ネルフ初の快挙出来事である。葛城三尉の重営倉入りは二回目)

 尚、この件に関連して国連事務総長が財産没収の上に懲戒免職処分となった。縁故採用していた職員も同じく懲戒免職処分。

 不知火准将は国連軍と戦略自衛隊に支援を要請。共同作戦を実施。初号機で使徒ラミエルを殲滅。

 この後、重営倉入りした四人の軍事裁判が行われる予定だったが、国連軍に圧力を掛けた為に回避。

 だが葛城三尉と日向三尉は重営倉の追加拘束と一階級降格の処分が下された。

 尚、葛城准尉の越権行為の為に、碇レイに対し五十億の賠償金が支払われた。


『今から考えれば、この時の軍事裁判をやらせていた方が良かったかもしれぬな』

『まったくだ。失敗ばかりで金食い虫のネルフに誰がしたのかね』

「…………」


 九十九の真実に一つの嘘を紛れ込ませれば、嘘も真実と思われる可能性が高まる。

 そんな理由から広報部には、最後以外は真実を編集しろと命令したゲンドウだったが、これは行き過ぎではないかと考えていた。

 どう考えても上司たる自分への敬意が感じられない。この会議が終わったら、広報部にどんな処分を下そうかと考えていた。

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 第六使徒:ガギエルに遭遇

『シナリオから大幅に離れた事件だな』

「…………」


 セカンドチルドレン EVA弐号機専属操縦者 惣流・アスカ・ラングレー EVA弐号機にて初出撃。

 海上での近接戦闘を試みるも、電源ソケットが無かった為にOTRの甲板上でバッテリィ切れで停止。


『そう言えば電源ソケットを輸送船に積まなかったドイツ支部長はどうなった?』

『財産を没収してから追放した。野垂れ死にしているだろう』

『葛城の娘が遅刻しなければ、弐号機で使徒を倒せていたのかね?』

『弐号機が踏み潰した太平洋艦隊の損害も馬鹿にならん』

『期待していたセカンドチルドレンがこの程度とはな。残念だ』

「…………」


 現場に居たシン・ロックフォード少佐は『天武』で出撃。閃光弾を使用している間に使徒ガギエルを殲滅。殲滅方法は未公開。

 使徒ガギエルのサンプルは太平洋艦隊が回収したが、ネルフには提供されず。

 尚、使徒ガギエルが落下した衝撃により、EVA弐号機は小破。太平洋艦隊への賠償金を含めて、多額の出費あり。


『太平洋艦隊は三分の一を失った』

『失ったのは君の国の船だろう。本来なら取るに足らん出来事だ』

『その程度で済んだのは幸運だったよ』

『しかし『天武』か。やっかいだな。どうやってATフィールドを破って使徒を倒したのか、未だに不明だ』

『煙幕と閃光で倒した瞬間は誰にも分かっていない。量産機を出した時の障害になる可能性がある。由々しき問題だ』

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 第七使徒:イスラフェル 襲来

 使徒初の分離・合体機能を擁す。

 弐号機の敗退。N2爆弾による時間稼ぎに成功。

 弐号機の再出撃。途中まで二体の使徒を圧倒するも、再び合体した使徒イスラフェルのATフィールドに阻まれて弐号機は敗退。

 零号機と初号機の同時コア攻撃により使徒イスラフェルを殲滅。


『セカンドチルドレンがATフィールドを張れなかったのに出撃させたのは、ネルフのミスだな』

『左様。あれの修理費も馬鹿にならなかったな』

『もうちょっと上手く使えないのかね。六分儀君』

『【HC】が出来たのは、この後か。セントラルドグマで爆発事故が起こったのもこの後だったな』

『弐号機がATフィールドを張れるようになったのは良いが、早く結果を出して貰いたいものだな』

「…………」

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 第八使徒:サンダルフォン 浅間山火口 地下千四百メートル地点にて発見

 葛城作戦係長(主任から係長に昇格。階級は准尉のまま)はA−17を発令しようとしたが、権限が剥奪されているので実行不可。

 通常の特務権限を使用して捕獲作戦を展開。

 一旦は捕獲に成功したが、引き上げ時に使徒サンダルフォンが孵化した事で捕獲作戦は失敗。即座に作戦目的を使徒殲滅に変更。

 だが、武器を失い弐号機は敗退。左足を強制切断。その後、使徒サンダルフォンは飛行能力を獲得。

 空中から火山弾のような攻撃を行い、弐号機と参号機は中破の損害を被る。(現場職員の約9割が死亡)

 葛城作戦係長が【HC】に強制命令を行った事により、【HC】は協定違反と認定。

 弐号機と参号機が見殺しにされる危険があったが、キール・ローレンツ議長の取り成しで【HC】に指揮権が移譲される。


『見事なタイミングでしたな』

『あそこで介入せねば弐号機と参号機は失われていた』

『しかし葛城の娘の暴走が酷い。暗示を強く掛け過ぎたか?』

『それを管理するのは上司たる六分儀君の仕事だ』

『弐号機と参号機の修理費で、散々揉めたのは記憶に新しいな』


 初号機が空中を移動。(ATフィールドの応用と思われるが、【HC】は問い合わせを無視)

 液体窒素を用いた攻撃を行う。以後はワルキューレの粒子砲とレールガンを使って使徒サンダルフォンを殲滅。

 この攻撃の余波で生き残っていた管理職員に負傷者が発生した。

 補足だが、マグマの中に潜れる観測機をネルフは製作し、浅間山の観測所に引き渡す。観測機の試乗は六分儀司令と葛城作戦係長。


『マグマに潜る気持ちはどうだったかね、六分儀君』

『弐号機で使徒を殲滅しなくてはならないが、捨て駒のような使い方は困るな』

『この時も追加予算で揉めたな』

『EVAの左足の修理費があんなに高いものになるのかね? 参号機の修理費を含めたとしても高過ぎる。見積もりが甘いな』

『国連加盟国に追加拠出を要請する我々の立場も考えて欲しいものだな』

「…………」

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 第九使徒:マトリエル 襲来

 ネルフ本部を含む第三新東京市全域が停電。

 ネルフは人力で弐号機と参号機を出撃させようとするが、弐号機の修理ミスが発覚。参号機のみの出撃になった。


『弐号機の修理ミスか。ネルフの技術部は傷病者が指揮しているんだったな』

『部下の健康管理も上司の務めではないかね』

『仕事を押し付けてばかりで、結果を責めるだけでは誰もついて来ないぞ』

『車椅子の病人を扱き使った結果か。情けない』

「…………」


 その間、【HC】は戦略自衛隊に威力偵察を依頼。零号機と初号機はキャリアに搭載されて、第三新東京へ移動。

 戦略自衛隊の攻撃は効かず、参号機のパレットライフルで使徒を殲滅。ネルフ初の使徒殲滅となる。


『嘘はいかんな、嘘は。あれは戦略自衛隊との共同作戦で使徒を倒したのだ』

『気持ちは分かるが、認められんな』

『あの時日本政府との戦果の分担比率で散々揉めたのだ。我等の負担も考えて欲しいものだな』

『まったくだ。ネルフがさっさと使徒を殲滅しておけば良かったのだ』

『第九の使徒でネルフの初戦果か。しかも共同作戦での戦果だ。結果を出すのが遅過ぎる』

「…………」

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 第十使徒:サハクィエル 襲来

 宇宙より飛来する目標に対し、葛城作戦課長(係長から課長に昇格。准尉から二尉に特進)はEVA四機による直接要撃作戦を立案。

 協力を要請するも、不知火司令は拒否。(後日、ネルフの司令と副司令両名の不在に関するクレームが補完委員会に提出される)

 【HC】は特別宣言【F−05】を発令。北欧連合と日本政府に支援を要請。

 【HC】の基地と北極海艦隊からの粒子砲の砲撃、戦略自衛隊の筑波技術研究所からの陽電子砲の砲撃で使徒に圧力を加える。

 使徒の注意が下方に向いたところで側面からの【ウルドの弓】の過負荷攻撃により使徒を殲滅した。


『『槍』が持っていかれたのはこの時だな。とんだ手間を取らされたな』

『南極へ再度艦隊を派遣させなくてはならなくなったからな。まあ約束通りに『槍』は戻ってきたが』

『六分儀君、丁寧に扱い給え』

『あの暴露戦術を抑える為にネルフが本来は無い特別宣言を出した事で、悪評が広がっている。自業自得とも言うがね』

『六分儀君は気にしないだろうがな。海外の騒動はまだまだ収まる気配は無い』

『それよりEVAで倒せた使徒は八体中の四体に過ぎぬ。これは少し問題だ』

『うむ。天武で二体、粒子砲で二体倒されている。もう少し積極的にEVAで倒すようにしないとな』

「…………」

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 第十一使徒:イロウル

 襲来事実は現在未確認。ネルフ本部へ直接侵入との流説有り。


『いかんな。これはいかんよ』

『使徒がネルフ本部内に侵入するなど予定外だよ』

『ましてセントラルドグマに侵入を許すとは』

『もし、接触が起これば、全ての計画が水泡と化したところだ』

「委員会への報告は誤報。使徒侵入の事実はありません」

『では六分儀、第十一使徒の侵入の事実は無いと言うのだな?』

「はい」

『気をつけて喋り給え、六分儀君。この席での偽証は死に値するぞ』

「MAGIのレコーダーを調べて下さっても結構です。そのような事実は記録されておりません」

『笑わせるな。事実の隠匿は君の得意技だろう』

『ジオフロントの一角に鉛を使用した巨大な倉庫群が建築されたそうだが、何の為なのかね?』

『ああ、高い放射能を放つ残骸を収容していると聞いているが?』

「……タイムスケジュールは死海文書の記述通りに進んでおります」

『まあいい。今回の君の罪と責任は言及しない』

「…………」

『だが、君自身が新たなシナリオを作る必要は無い』

「分かっております。全てはゼーレのシナリオ通りに」

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 明るい部屋に白衣を着込んだ三人の男と一人の女性が、コーヒーを楽しみながら話しこんでいた。

 三人の男の名はオーベル、キリル、ギル。一人の女性の名はセシルと言う。

 四人ともゼーレの切り札とも言われている優れた科学者である。


「やっとこちらの計画の目処が立ったが、日本における計画が遅れている。我々がフォローしろと、上から通達があった」

「何だと! やっと休暇が取れると思ったのに、次の仕事か!? 横暴だ!」

「労働基準局にばれたら査察が入るぐらいの労働だったな。まあ、研究者たる我々に労働基準法は適用されないが」

「偶にはシャワーじゃ無くて、温泉にでも入りたかったんだけど」


「仕方無かろう。ネルフが不甲斐無いのもあるが、相手が悪過ぎる。北欧連合相手じゃあ、我々でも手を焼くからな」

「フォローというと、どの辺りまで?」

「それもこれからの判断次第だ。まずは状況分析からだな」

「こちらの計画は今の所は問題無い。まずはネルフの分析だな。進捗表を出してくれ」

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 セシルがキーボードを操作した。部屋の壁にあるモニタに、写真と色々なグラフと表が表示された。

 その中には、アスカとトウジの顔写真も含まれていた。


「予定ではセカンドはもっと結果を出せるはずだったが、ドイツでの訓練が成果に結びついていない。これは問題だ」

「最初の予定に無かったフォースが、ここまで伸びるとはな。このまま行けば、計画に組み込む事を考えても良いほどだ」

「ネルフの戦果が上がっていないわね。梃入れを検討する必要があるわ」

「あの二度の洗脳を受けた女が作戦部を仕切っているんだぞ。下手な梃入れはトラブルの元だ」

「まったく、誰が受け持ったんだ? 後でカルテを見たが、あれはやり過ぎだ。最初の計画からかなりずれる可能性がある」

「ドイツ支部の技術部よ。あの南欧国連軍の侵攻敗退が無ければ、発生しなかっただろうけど」

「使徒に執着するのは良いが、排他的過ぎる。もうちょっとレベルを抑えないと、周囲とトラブルを起こす原因になる」

「もう、起こしているじゃない。過去何回トラブルがあったと思う?」

「……そうだったな。だが、上には洗脳レベルを落した方が良いと提案はしておこう。採用されるか分からんがな」

「セカンドはどうする?」

「セカンドの洗脳も途中から強化した事が裏目に出ている。

 もうちょっと協調性があれば、『魔術師』と良好な関係を築けた可能性もある。まあ今更だがな」

「上が決めた事だ。仕方あるまい。我々も給与を貰っているサラリーマンという事だ」

「【HC】のパイロットとの能力差は歴然で、武器の開発もかなり遅れている。技術方面の問題が大きい」

「あそこの技術部を仕切っているミス赤木が両足を失ったからな」

「ダミープラグの開発が遅れている。ミス赤木の負担がかなり多くなっている。さて、どうするかだな」

「今更、ダミープラグをこちらでは出来ないでしょう」

「そりゃあ被験者が日本だからな。ダミープラグは日本でやらせるしか無いだろう。だが、まったく支援しない訳にもいくまい」

「配下の技術者数名を日本に派遣するのか?」

「あちらの指揮系統を混乱する元になりかねん。他の懸案もある。支援内容は最後にしよう。次は北欧連合の資料を出してくれ」

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 画面が切り替わり、北欧連合の地図とグラフが表示された。


「……ふむ。ここに来て経済成長が鈍化しているが、表面上だけだな。経済ブロック内部を見ると、経済成長が著しい」

「そりゃあ、総額三百億ユーロ(約六十兆円)の賠償金が手に入った事もあるし、十分な経済成長の起爆剤になるだろう」

「賠償金を渡す以前から高成長を維持していたからな。主にあのロックフォード財団が原因だな」

「へえ。こっちから製品を輸入してあげようと言い出したのに、乗って来なかったのね。経済ブロック内に篭る気かしら」

「それとも、例の訴訟沙汰を起こして賠償金を奪い取ろうとしたあの下策がばれた可能性もあるがな」

「ああ。アメリカ支部で発案されたあれか。ヤンキーらしいな」

「【HC】成立時に北欧連合の友好国は減ったが、そこに重点的に投資している。経済ブロック内は高い成長率を維持している。

 中東連合の存在も大きい。まだまだ石油は必要だからな。経済ブロック内に篭られたら、中々手は出せない」

「あそこは株式市場も小さいし、肝心のロックフォード財団は株式を公開していないからな。

 金融方面と不動産購入でも、外国人に門戸を開放していないから拠点構築も手間が掛かる。経済方面の攻め手は見当たらない」

「輸出制限を仕掛けようにも、北欧連合が輸入しているのは、嗜好品関係の一部だけだ。戦略物資の輸入は無く、輸出しているほどだ」

「ああ。我々の勢力範囲の国でも、北欧連合から食料を輸入している国があるくらいだからな」

「あの鯨肉事件みたいな事が起きないとは限らないわね」

「ああ。かつて反捕鯨団体を手厚く保護していた国に対し、反捕鯨団体のメンバーが鯨肉を食べないと食料輸出を停止すると脅した件か」

「反捕鯨団体メンバーを探し出し、TVカメラの前で無理やり食べさせたんだったな。確か泣きながら食べてたな」

「国民が餓死するより良いだろう。自分の信条を相手に暴力を使って押し付けた報いだ。結局、北欧連合から食料の輸出は続いている」

「北欧連合も捕鯨国だからな。国家レベルの陰湿な虐めだ。まあ、嘗ての北欧連合の漁船に攻撃をした事の報復と言ってたが」

「身から出た錆ってやつかしらね。因果応報とも言うけど」

「諜報活動はどうだ?」

「友好国以外で国交が続いている国の数は少ないから、我々の諜報員を送り込むのに苦労している。

 送り込めても、重要施設に潜入して戻ってきた諜報員はいない。強襲なんて事は絶対に出来ないからな」

「まあな。国家同士の相打ち覚悟なら何とかなるが、そんな手段は選びたく無い。

 こちらの計画が発動するまで北欧連合との衝突を回避出来れば、我々の勝ちだからな」

「イレギュラーもいい所だな。セカンドインパクト前じゃあ、北欧連合があんなに成長するなんて、考えもしなかったぞ」

「成長の要因はロックフォード財団だ。いや、北欧の三賢者か。そっちの調査はどうなっている?」

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 画面が切り替わり、ミハイルとクリスの顔写真と、その調査内容が表示された。


「ミハイル・ロックフォード:33歳。三賢者の最年長。『騎士』の二つ名を持つ。『マーメイド』と『ワルキューレ』に代表される

 兵器関連の開発の実績あり。ロックフォード財団の統括技術部長を務め、北欧連合の政府上層部との深い繋がりがある。か」

「結構、良い男よね。しかも独身。これじゃ周りが放っておかないわね」

「なら、お前が落してみるか? 偶にTV局の取材を受けたりと、外部との接点はあるぞ」

「あたしが? あたしじゃ無理よ。落す作戦を考えるのは良いけど」

「冗談はそれくらいにしておけ。クリス・ロックフォード:25歳。三賢者『魔女』の二つ名を持つ。ユグドラシルに代表される

 コンピュータ関連技術の開発実績を持つ。独身。ほとんど外部に出る事は無いか。結構、良い女だな。勿体無い」

「何が勿体無いんだ?」

「外に出ない事がさ。こういう麗しい美女が外に出ずに、家に篭るなんて人類の損失と同じ事だからな」

「……そういうセリフ。あたしには言わないのね」

「お前は良い身体はしているが、色気が無いからな。コンタクトにして、飾り気のある格好をしてみろ。そしたら褒めてやるかもしれん」

「あんたに褒められても嬉しく無いわね。まあ良いわ。でもこの二人を潰せば、ロックフォード財団は崩壊するわね」

「警護がかなり厳しい。テロを装った暗殺を諜報部が何度か試みたが、全て失敗している」

「この二人を消せば、ロックフォード財団、しいては北欧連合を潰す事も可能か。手間が掛かるがな」

「北欧連合へのネットワーク侵入は尽く失敗か。日本なら楽に情報収集出来るのにな」

「まあ当然よね。自由に書き換え出来ないシステムへの侵入は、理論的に無理なのよ。単純ではあるけど効果的。

 昔から唱えられてきた理論だったけど、従来機との互換性が無くなる事からどこも実現出来ないでいたのよ。

 ある意味、その実行力こそが恐れるところかしら」

「それもユグドラシルと呼ばれる生体コンピュータのプログラム変換サービスがあってこそか」

「あれでユグドラシルの性能の一部を確認出来たからね。MAGIの数倍の性能を持っているとは思わなかったけど」

「……次は【HC】の情報を出してくれ」

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 画面が切り替わり、【HC】の基地の望遠写真と不知火の写真、その調査内容が表示された。


「ネルフと同じ権限を持つ特務機関か。確かにやっかいな存在だが、放置しても補完計画にはそれほどは影響しないと考えられている。

 一応は国連の管理下にあるからな。寧ろうまく誘導出来れば、最後の時のネルフへの尖兵になってくれる」

「そこまで上手く行くか? バックには北欧連合が控えている。油断は禁物だろう」

「確かに。【HC】が成果を上げ過ぎて、量産機の予算が圧迫される可能性もある。EVA不要論が流行りだしても困るしな。

 計画全体を考えた場合、【HC】の勢力を削いだ方が好ましい。出来るかどうかは別にしてな」

「この前の宇宙から落ちてくる使徒の迎撃に使用した粒子砲は脅威だ。ワルキューレもだが陸戦隊も配備されている。

 それに【ウルドの弓】で常時周囲は監視されている。奇襲は成功出来ないだろうし、生半可な戦力では、あそこは落せない」

「やるんだったら、潜入と破壊工作が妥当だろうな。もっとも、今まで潜入して帰ってきた諜報員はいない」

「ちょっと待て。【HC】がどうのこうの言うが、北欧連合やロックフォード財団を潰せば、自然と【HC】は消滅するぞ」

「その北欧連合やロックフォード財団を簡単に潰せないから、こうして苦労しているんだ」

「……そうだったな」

「職員は基地内のマンションに住んでいる。内通者を作ろうと試みているが、まだ成功していない」

「一面は湖、二面が樹海に面している。残りの一面が通用ゲートか。陸はそこからしか攻められないが陸戦隊が待ち構えている。

 ある意味、難攻不落の要塞だな。だが、送電線保護の為の戦自の駐屯地があるだろう。そこから何とか出来ないか?」

「戦自の上層部には我々の息が掛かった人間はいるが、あの基地や発電所関係は全て日本国内の民族派で占められている。

 何とか影響力を及ぼそうとしているが、上手くいっていないのが現状だ」

「陸戦隊、ワルキューレ航空隊、粒子砲の迎撃システム、さらには【ウルドの弓】の支援。最終的にはEVAも出てくるな」

「やっぱり正面からは無理だな。どこぞの提督が要塞を落した時みたいに内部から攻めるしか無いな」

「……零号機と初号機を擁していて、さらに『天武』も居るか。零号機は良いだろう。初号機で判明した内容を出してくれ」

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 画面が切り替わり、初号機の写真と一緒に今までの調査内容が表示された。


「バッテリィを高性能タイプに変更して三十分の稼動が可能。LCLを使わないシンクロシステムを使用している。

 しかもATフィールドの二重化を唯一出来る機体。しかも飛行可能か。まさに化け物だな」

「パイロットの能力がどこまで反映されてるか、知りたいわね。それとも新しいシンクロシステムが効果的に効いているのかしら」

「じっくりと検査をしてみたいが無理だろうな。噂じゃ、検査を迫った医者を逆に手術台に縛り付けたという話しもある」

「弐号機を製作した時は、初号機を上回る性能だと思っていたが、こうまで差をつけられるとはな。

 弐号機にATフィールドの張り方を教えているビデオを見た時は鳥肌が立ったぞ。予定している量産機の性能を上回るかもしれない。

 しかし、あのシンクロシステムは欲しい。あれがあれば量産機への対応がかなり楽になる」

「計画の最終段階での障害に為りえるわね」

「どうだろう? 確かに初号機の戦闘能力は脅威と言って良いだろうが、稼働時間が三十分しか無い。量産機の敵になるか?」

「S2機関を持って再生機能を持っているから大丈夫だろう。数の優位もある。

 しかし、同じ寸法でバッテリィの稼働時間が三十分か。どんな技術を使ってるんだ?」

「バッテリィの情報提供も断られたからな。それらの改造を行ったのが『魔術師』か」

「本当に彼が『魔術師』なのかしら? 第三者が介在している可能性は?」

「間違い無い。彼が普通じゃ無いのは、他にもある。左目が義眼で通信機能と催眠術らしきものを使えるらしい。

 脅威なのは左目の義眼で【ウルドの弓】を直接制御出来る事だ。集中砲撃を受ければ、軍の一個師団でも容易に全滅させられる。

 個体レベルでも、伝説級の武術の達人とか左手に携帯型粒子砲を装備して、特殊部隊のメンバーを一瞬で倒したとか色々とある。

 三歳の頃にEVA関係の資料を理解出来ていたという情報もある。これはもう化け物レベルと考えるべきだろう。油断すべきじゃ無い」

「これで十四歳か。反則レベルもいい所だ。しかし、マスコミの報道は全然当てにならないな」

「当然だろう。しかもやっかいな事に『天武』の開発者兼パイロットでもある」

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 画面が切り替わり、天武の写真と一緒に今までの調査内容が表示された。


「EVA以外に使徒を倒せる唯一の機動兵器『天武』。原理は分からないがシールド機能を持ち、遠隔操作が可能だと推測される。

 速度は遅いが飛行も可能。連射タイプの粒子砲を肩に装備している。何らかの内燃機関を装備していると考えられる。

 最初の使徒を倒した時に、天武の操縦席の映像があったが、思考コントロール制御で動かしていると思う。

 今の零号機と初号機に使われているシンクロシステムだ。そして使徒のATフィールドを正面から突破する性能を持っている」

「大したものね。これをあの『魔術師』が開発したと言うの? あたし達でも無理でしょう」

「あの大きさで最初の使徒の約三割のエネルギーを発生させている。核融合炉じゃ無理だろう。

 別の動力を内蔵しているとすると、隠し札を何枚持っているんだ?」

「シールドも装備している。今の我々の技術ではシールドは発生させられない。強度は通常のミサイル程度は防げるぐらいか」

「飛行機能を持っている事も驚きだ。あの背中に内蔵されているウィングで飛ぶなんて、どんな原理で飛行しているんだ?」


「サンダルフォンの場合は液体窒素でボロボロの状態だった。サハクィエルは注意を逸らして、側面を攻撃したから粒子砲が通用した。

 正面から使徒のATフィールドを破れたのはEVA以外では『天武』のみだ。量産なんかされたら、こっちの計画の妨げになる」

「EVAと『天武』のパイロットを兼任しているから、『天武』の量産設計は出来ていないはずだ」

「煙幕と閃光で詳細は分かっていないが、ATフィールドを破るのに時間は掛かっていない。瞬時に使徒を倒している。

 どういう原理でやっているのだ?」

「ピンポイントでアンチATフィールドを発生している可能性は?」

「ATフィールドの存在を知らなかったのに、アンチATフィールドが展開出来る訳がないだろう。

 我々が未知の方法でATフィールドを中和したか?」

「中和と言うより、何らかの方法でATフィールドを無視出来るような技術を開発したのでは無いか」

「その可能性は高いだろう。『天武』のATフィールド突破能力は不明だが、『天武』を殲滅する事は難しい事では無い」

「あのシールドはATフィールドには遥かに及ばない。N2爆弾で容易く殲滅可能だ」

「同感だ。だが、今の状態で『魔術師』を消去するのは出来ないだろう」

「ああ。使徒殲滅のキーパーソンだからな。消去するのは最後の詰めの段階を待たなくては為らないだろう」

「その前にセカンドが単独で使徒を倒せるぐらいに成長してくれれば良いのだがな」

「難しいな。格闘術なら確かに上位レベルだろうが、EVAの操作という面から見るとファーストにも劣る」

「ファーストはATフィールドの重力操作も出来ていたな。これは『魔術師』の教育の差か?」

「多分な」

「『魔術師』の消去は良いが、ハードルは高いぞ。出撃時にはワルキューレ多数が常に護衛に付いている。あれの粒子砲は脅威だ。

 しかも【ウルドの弓】の監視下にあり、衛星軌道から攻撃されたら反撃の手段が無い」

「粒子砲か。対抗する手段は既に手配している」

「何だと!? あの粒子砲を無効化出来る算段がついたのか?」

「無効化では無いがな。『目には目を、歯には歯を』だ」

「ふむ。後でじっくり聞かせてもらおう。もっとも、一人の時を狙う事も考えた方が良い」

「伝説級の武術の達人で、左手に携帯型粒子砲を持っていて特殊部隊のメンバーも容易く葬れる腕の持ち主だぞ」

「携帯型粒子砲と言っても、発射数の制限はあるだろう。武術の達人であっても、数を揃えれば何とでもなる」

「そうだな。まだ時間はあるが、準備だけはしておこうか」

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 ユグドラシルネットワークに繋がっている三人(ミハイル、クリス、シンジ)が、思考会話を行っていた。

<これで殲滅した使徒は九体。どこまで使徒戦が続くのか、まったく分からないのは困った事かな>

<先が見えないのは困るわね。この前のMAGIの機密情報を手に入れ損なったのは痛いわ>

<そうだが、クリスが二十四時間待機している訳にもいかないしな。チャンスは突然やってくるが、その即応体制は取れない>

<時差がここまで壁になるとはね>

<流石に熟睡中の姉さんを起こすのは気が引けてね>

<当然よ。睡眠不足は健康に悪いのよ。あたしの肌が荒れたら、どう責任を取ってくれるのよ!>

<兄さんに責任を取って貰えば?>

<シン、何を言う!>

<二人がボクに繋がっているのは知ってるでしょう。だから二人が出来ているのは知ってるよ。恥ずかしがる事は無いよ>

<<…………>>


<話しは逸れたけど、MAGIを落すチャンスはまだあるかも知れないしね。事前に分かれば姉さんに頼むよ>

<分かったわ。今のところはそっちに問題は無いの?>

<あの騒ぎも収まったからね。基地内にいれば煩わしい事もあまり無いし、大丈夫だよ>

<こっちの報道はまだ盛んにやっているからな。他の国もそうだ。静かなのは日本ぐらいだぞ。まだ顔写真が出回って無いから良いがな>

<使徒戦が終わったら雲隠れするつもりだから構わないけどさ>

<当然、あたし達も連れて行ってくれるんでしょ>

<……良いけどさ。でもこのまま三賢者をやっても良いんじゃ無い?>

<貰い物の力でチヤホヤされてもね。ミハイルと一緒に暮らすのも悪くは無いわ>

<クリス!>

<良いじゃない。シンはあたし達の上位だから、ばれるのは当然よ。今更隠す事でも無いでしょ。それとも、責任は取りたく無いの?>

<そ、そんな事は無いぞ! クリスには十分満足している。特にあの夜の<ミハイル!> ……ああ、済まない>

<まあまあ、二人とも落ち着いて。場所は決めて無いけど、二人の場所ぐらいは用意するよ。ロックフォード家には言わないでおいてね>

<当然だな>


<ヒルダが泣くわよ。十歳になったけど、シンに会いたいって何時も騒いでいるわ>

<そのうちに友達が出来れば、そっちに夢中になるよ>

<そうかもな。まあロックフォード財団を何時でも去れるように準備だけはしておくか>

<居心地が良いのは確かだけど、何時かは違いが分かってしまうわ。その前に別れた方が傷が少ないしね。ところで、何を残すの?>

<【ウルドの弓】に含まれる宇宙関係技術と海底地下工場以外の公表した技術は残すよ。ああ、ユグドラシルU以下も大丈夫かな。

 そこら辺なら普通にやっても三十年以内には実現可能な技術だからね。流石にオーバーテクノロジーは残せないから>

<妥当な範囲かな。世話になったロックフォード財団も、これでしばらくはやって行けるだろう>

<海底地下工場からの製品が届かなくなったら、財団が赤字になりかねないわよ>

<それは仕方無い。今はある意味で詐欺をして利益を出しているようなものだからな。企業本来の姿に戻るだけだ>

<先走ったけど、今の使徒戦が終わってからの話しだよ。プロジェクト”箱舟”の進捗率は約93%。そろそろ本格的な準備に入って>

<分かったわ。人選は進めてあるけど、本格的な手配に入るわ>


<そうだ、言っておく事があったな>

<何?>

<軍に納入したワルキューレ三機の行方が分からなくなっている。軍に問い合わせても、曖昧な回答しか帰ってこない>

<定期的にメンテナンスしないと動かなくなるのにね>

<横流しされた可能性もあるよ。粒子砲の構造解析の為にね。……これは粒子砲の技術がゼーレ側に渡ったと見た方が良いかな>

<問題だな。とは言っても、あれだけの機数を本国、中東連合、日本に配備したんだ。いつかは盗まれると思っていたがな>

<最初の予定では後一年ぐらいは大丈夫かと思っていたけど>

<これも想定の内。ワルキューレに使用しているタイプと【ウルドの弓】のタイプじゃ構造がまるっきり違うからね。

 国の各地の迎撃基地や艦隊に配備してある粒子砲も、ワルキューレの粒子砲の発展型だから。

 唯一、【ウルドの弓】と同じ構造の粒子砲は【HC】基地のメガ粒子砲三門だけだし、これはボクが管理している。

 低出力タイプはどう改造しても【ウルドの弓】クラスの破壊力は出せないよ。省エネだけど、出力の上限が決まった構造さ。

 ゼーレに粒子砲の技術が洩れて、大量生産された場合、一時的には制空権は奪われるかもしれない。

 けど、地上からの砲撃で普通の人工衛星は落せても【ウルドの弓】は絶対に落せないから、制宙権は守れる。問題は無いよ>

<マーメイドはまだ大丈夫だけど、そのうちには技術は盗まれるわね>

<海中の方にも、次の手があるから。大丈夫だよ>

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 【HC】ではセレナの発案で水泳大会が開催されていた。熱帯気候になった日本では水泳を好む人間が結構多い。

 北欧連合でも盛んな事もあり、管制ビルの前にある二つのプールの周囲には大勢の出場者と観客が陣取っていた。

 そして余りにも参加者が増え過ぎた為に、基地内のみのTV放送を行う事になった。

 【HC】の広報部のカメラマン五人が、それぞれ大型のTVカメラで撮影を行っていた。

 プール二つは男性用と女性用に分かれて使用していたが、今回の水泳大会ではその垣根は無く使用されていた。


 参加は強制では無い。希望者のみ参加の水泳大会が始まった。


『では男子の予選を開始します』

 男子の参加メンバーは保安や戦闘部隊のメンバーが多数を占めていた。技術や保守、整備関係の参加者は少数である。

 観客も鈴なりに見守る中、順々に競技は進んでいった。

 応援も盛んで、知り合いや恋人がスタート台に立った時など、黄色い声援が飛び交っている。


『女子の予選を開始します』

 女子の参加メンバー数は男の一割程度だった。【HC】の基地内の男女比が八対二である事を考えると妥当な参加率だろう。

 ワルキューレ第三中隊の女性パイロットは全員参加。各部署の女子職員も偶の息抜きという事で参加者は多かった。

 だが、発案者であるセレナは何故か水泳大会には参加しなかった。ミーナも参加していない。

 不思議に思ったシンジが聞くと、『水の抵抗が多いから競泳は苦手。その後は出るわ』との返事が返ってきた。

 因みにミーナも同じ内容の回答だった。ミーシャとレイは参加している。


 男子の部を遥かに超える観客が集まり、競技は始められた。

 お気に入りの選手がスタート台に立つと、男達の声援(絶叫)がプールを覆い尽くした。

 男達の声援を聞いて気後れした女性も居るほどだ。因みに、男子部とは異なり、女子部の大会にはカメラの持ち込みは禁止されている。

 大会参加者の姿を見たければ、会場に行くか、基地内のTV放送を見るしか無い。(録画は出来ないようにプロテクトされている)


 水泳大会自体は盛況な中で終了した。男子と女子の一位から六位までは記念品と賞金が贈与された。

 だが、観客は表彰式が終わってからも解散しなかった。そう、これから始まる次のイベントを期待しているのだ。

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 急遽、審査員席とテントが用意され、審査員三名(不知火、ライアーン、シンジ)が用意された席に座った。


『では、これから【HC】第一回美女コンテストを開催します』

「待ってました!」

「何でカメラの持ち込みが駄目なんだ!? 横暴だ! 改善を要求する!」

「これが楽しみだったんだ!」

「うぉぉぉ! セレナ様の水着姿を見れるぞ!」


 会場に流されたアナウンスを聞いて、待っていましたとばかりに男達の絶叫が会場に木霊した。

 セレナが提案していたのは、水泳大会と美女コンテストの同時開催だった。

 最初は、不知火は余裕は無いと却下した。だが、セレナの提案が周囲に知れ渡ると、開催に同意する多数の職員が不知火に詰め寄った。

 そのあまりの人数の多さに不知火は折れて、水泳大会と美女コンテストの同時開催を許可したのだった。

 因みに、不知火の知らない裏では、美女コンテストの順位に関しての裏賭博まで開催されていた。(優勝の本命はセレナ)

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『エントリーNo.1はワルキューレ第三中隊の隊長。年齢は内緒。鍛えられたその肉体美が魅力。彼氏募集中。

 女王様の風格は十分だが、意外とお淑やかタイプかもしれない。北欧の美女。ミス・マリー・サローンです』


 金髪碧眼の美女が進み出た。水着は赤のビキニを着ており、堂々とした態度で審査台に立った。

 パイロットという事もあり、普通の女性よりは逞しさを感じさせたが、女性らしさは十分にある。


「うぉぉぉぉ! マリー隊長!」

「こっちを向いてくれ!」

「鞭は持って無いのか!?」


 一部の観客から不穏な声援が掛かったが、マリーは気にせずに歩みを止める事は無かった。

 審査台では一周して自分のスタイルを誇示し、審査員席にウィンクと投げキッスをした。

 審査員三人は協議したが、その場で評価を表示する事は無かった。

 下手に評価を表示しようものなら、低い評価の女性からどんな報復があるやも知れない。

 こんな事で業務に支障を来たす訳にはいかない。そんな危惧から、単純な順位つけだけの審査である。

 非公開情報  不知火:B  ライアーン:B  シンジ:C

 審査員の好みがモロに反映されるだろうが、三人の審査員に文句をつける者はいない。こうして、美女コンテストは進んでいった。

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『エントリーNo.8はロックフォード顧問の秘書。十四歳。コケティッシュな顔と年齢に合わぬスタイルが自慢。

 メイド服がお似合いで彼氏に尽くすタイプ。アラブの美少女。ミス・ミーシャ・スラードです』


 最初はミーシャは美女コンテストに出るつもりは無かった。だが、ミーナの計略に掛かり、コンテストに出る事になってしまった。

 シンジ以外の異性に水着姿を見せた事の無いミーシャにとって、大勢の観客はある意味で恐怖を感じるに値していた。


<ほら。もっと堂々としなさい。あなたのスタイルは誇るべきレベルなのよ。男なんて侍らすぐらいの気持ちでいれば良いのよ>

<そ、そうは言ってもこんな大勢の前で水着姿になるなんて、恥かしいわよ! まったく姉さんに乗せられた所為よ!>

<承諾したのはあなたでしょう。いつまでも愚痴ってんじゃ無いの。女は度胸よ。覚悟を決めなさい!>

<ミーシャ、頑張って! お兄ちゃんも見てるわよ>

<ああ。この前瀬戸内海に行った時より成長してない?>

<シン様、どこを見てるんですか! エッチ!>

<…………>

<シンも男だからね。さあ、行った、行った>


 覚悟を決めたミーシャは、恐る恐る審査台に進んだ。褐色の肌に水色のビキニを着用。スタイルも年齢標準を上回っている。

 見栄えは良いのだが、顔を真っ赤にして、恥かしがっているのが丸分かりである。


「きゃあ。可愛い!」

「おお、初々しいねえ。恥かしがる美少女か、絵になるな」

「メイド服姿も良いけど、水着姿も中々だよね」


 ミーシャの場合、恥かしがる姿が受けたのか、男達だけで無く年上の女性陣からの声援も飛んだ。

 顔を真っ赤にしたまま、審査台の上で一回転するとミーシャは直ぐに下がって行った。

 非公開情報  不知火:C  ライアーン:D  シンジ:B

 あくまで審査員の独断と偏見の評価である。(ライアーンは自分はロリコンでは無いと言って、低い評価だったが)

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『エントリーNo.15はロックフォード顧問の義妹。十四歳。ミステリアスな容貌に加え、意外とグラマー。

 基地内の妹にしたい女の子アンケートNo.1。日本の神秘の美少女。ミス・レイ・碇です』


 レイも水泳大会には出たが、美女コンテストに出るつもりは無かった。

 ミーナの計略に掛かって美女コンテストに出る事になったのはミーシャと同じだ。

 だが、レイには大勢の観客は目に入っていなかった。レイが気にするのはシンジのみ。レイはしっかりとした足取りで審査台に進んだ。


<お兄ちゃん、見てる?>

<見てるよ。レイも瀬戸内海の時より、成長してるよね>

<お兄ちゃんのエッチ! そういう事はベットの上で言ってね>

<こら、レイ。あたしを差し置いてそういう事言うの?>

<だって、ミーシャはお兄ちゃんに見られたく無いんでしょ?>

<誰もそんな事は言って無いわよ! あたしだって二人きりだったら……>

<ほらほら、そんな事より先に進みなさい。足が止まってるわよ>

<はーーい>


 ミーシャほどでは無いが、それでも微かに頬を赤く染めたレイは審査台に立った。白いワンピースの水着で肌も白いレイに良く映える。

 審査台に立ったレイはシンジに向かって、にこやかに微笑んだ。レイの笑顔を見た観客から歓声が上がった。


「うぉぉぉぉ! 可愛い! 可愛過ぎる!!」

「お持ち帰りしたいんだけど!」

「レイちゃぁぁぁぁん!!」


 どこか妖精のような雰囲気を漂わせるレイは、女性陣からも声援は上がったが、妹属性の男達からは絶大なる声援を受けた。

 微笑を浮かべたまま審査台の上で一回転すると、レイはシンジに手を上げてから戻って行った。

 非公開情報  不知火:C  ライアーン:D  シンジ:B

 ミーシャの時と同じく、審査員の独断と偏見の評価である。(ライアーンの評価が低い理由も同じ)

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『エントリーNo.21は司令部のオペレータ。十八歳。そのグラマラスな身体は男を魅了して止まない。

 フェロモン美女の呼び名も高い。料理上手で、意外と主婦業も様になっている。ミス・ミーナ・フェールです』


 ミーナは水泳大会に出るつもりは無かった。だが、セレナが出ると宣言した美女コンテストを欠席する訳にはいかないと決意した。

 別に優勝するつもりは無いが、それでもセレナとの間の確執をこの場を借りて決着をつけるつもりだった。

 堂々とした足取りで審査台に進んだ。

 その間、無数の視線を胸とお尻に感じたが、何時もの事と割り切ったミーナは動じる事は無かった。


<シン、見てる?>

<見てるよ。夜に見るのとはまた違った凄みがあるよね>

<シン様のエッチ!> <お兄ちゃんのエッチ!>

<ミーシャ、レイ。女は男を引き付けるものなの。それこそが良い女なのよ。男の視線で女は磨かれていくと思いなさい>

<えー。でも他の男の人の視線は嫌だわ>

<あたしもお兄ちゃんだけに見られたい>

<まあ、それでも良いけど。でも外を歩いたら二人みたいに可愛い娘には、男の視線は絶対に来るわよ。それは覚悟しておきなさい>

<うーん> <分かったわ、お姉ちゃん>


 ミーナは堂々とした態度で審査台に立った。ピンクのビキニは何故かミーナのスタイルを際立たせた。

 観客席から唾を飲み込む音が聞こえてきた。審査員席に向かってウィンクをすると、次は観客の方を向いて、投げキッスを行った。


「うぉぉぉぉぉ!! ミーナ様、最高!!」

「凄え、凄すぎる!!」

「ああ、あのフェロモンをじっくり味わいたい!!」


 色気があり過ぎる為に女性陣からの声援は上がらなかったが、補って有り余るほどの男達の声援がミーナに浴びせられた。

 両腕を胸の下においてスタイルを強調するポーズをとったミーナは、審査台の上で一回転すると、ニコッと笑ってから戻って行った。

 非公開情報  不知火:A  ライアーン:B  シンジ:A

 やはり審査員の独断と偏見の評価である。(ライアーンの場合、年齢制限が外されたので高評価)

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『エントリーNo.37は不知火司令の秘書。十八歳。我らがマドンナ。クレオパトラ以上の世紀の美女と呼ぶに相応しい。

 噂ではメイド服を着た事があるらしいが、誰に見せたのか? ミス・セレナ・ローレンツです』


 セレナが水泳大会と美女コンテストを提案したのは、最近少し鬱気味だった事が上げられる。

 シンジとの会話以降、どうしても気分が高揚しないセレナは気分転換を図ろうと考えた。

 まあ過去の美女コンテストの優勝を総なめした実績は伊達ではない。ここで優勝すれば、以前のように積極的になるかもと考えていた。

 セレナから見てライバルと言えるのはミーナであろう。だが、ミーナに負けるつもりは無かった。

 セレナは堂々とした足取りで審査台に進んだ。ミーナの時を上回る視線がセレナに注がれる。


<……やっぱり、あのスタイルは反則レベルよね>

<姉さんから見ても、そう思うの。やっぱりだわ>

<凄い。追いつくのは無理だわ。でも料理は勝ってみせるから>

<ちょっと惜しかったかな>

<シン、今、何て言ったの!?> <シン様、フケツです!> <お兄ちゃんのスケベ!>

<い、いや、セレナには手を出さないって決めたから、そんな事は言わないでよ>

<……まあ、良いわ。今夜は搾り取ってあげるから>


 シンジ達が念話で会話している最中にセレナは審査台に立った。豹柄のハイレグである。

 傾国の美女の容貌に加え、セレナのハイレグ姿はスタイルの良さを過不足無くアピールして、観客の視線を釘付けにしていた。

 セレナは審査員席の方を向くと、ウィンクをした。不知火とライアーンは電撃を食らったような感覚があった。

 シンジも鳥肌がたったほどである。その後、静まり返る観客席に向き直り、今度は右手を高らかに上げるポーズを取った。

 セレナのポーズを見て、観客席が爆発したような騒ぎになった。


「セレナ様、こっち向いてくれ!!」

「女王様と呼ばせて下さい!!」

「ああ、一度で良いから足蹴にして!!」

「うぉぉぉぉ!! セレナ様!!」

「なんで写真が撮れないんだ!! この光景は絶対忘れないぞ!!」


 興奮した観客は一部がセレナに近寄ろうとしたが、予め用意してあったバリケードで防がれた。

 セレナは少しも慌てず、観客にウィンクを向けた。再度、観客から怒涛の歓声が沸きあがった。

 そんな中、セレナは静かに戻って行った。観客の歓声はセレナが退出した後も、しばらくは止む事は無かった。

 非公開情報  不知火:A  ライアーン:A  シンジ:A

 やはり審査員の独断と偏見の評価である。(ライアーンの場合、年齢制限が外されたので高評価)


 その後も審査は続けられたが、優勝はセレナ、準優勝はミーナで決定した。

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 山。重い山。時間をかけて変わるもの。

 空。青い空。目に見えないもの。目に見えるもの。

 太陽。ひとつしかないもの。

 水。気持ちの良いこと。

 花。同じものがいっぱい。いらないものもいっぱい。

 赤い色。赤い色は嫌い。流れる水。血。血の匂い。

 血を流す女。赤い土から作られた人間。

 街。人の作り出したもの。EVA。人の造り出したもの。

 人は何? 神様が創り出したもの? 人は人が創り出したもの?

 私にあるものは、命。心。心の入れ物。

 私は私。これが自分。自分を作っている形。目に見える私。

 誰? お兄ちゃん!


 ……お兄ちゃんの匂いがする!


 レイは僅かに揺れる振動を感じて、目を覚ました。何故かシンジの背中におんぶされている。

 そう言えば、太陽の日差しが厳しくて気が遠くなった事を思い出した。気を失った自分を医務室に運ぶ最中だろうか。

 ふと、このままシンジに運ばれて行くのも良いかなと思っていたレイに声が掛かった。


「目が覚めた?」

「……う、うん。あたしは気を失ったの?」

「ああ。レイには今日の日差しは強過ぎたね。今は医務室に向かっているところだよ」

「……じゃあ、歩くわ。下ろして」

「駄目だよ。まだ辛い筈だからね。このまま医務室に行くから、静かにしてね」

「うん! あっ、そう言えば、お兄ちゃんは審査員じゃ無かったの?」

「司令と副司令に任せてきたよ。レイの方が大事だしね」

「……ありがとう」


 美女コンテストの審査員の仕事より、倒れた自分の搬送を優先してくれた事がレイには嬉しかった。

 シンジの背中にいると、レイに安心感が広がってくる。シンジの匂いに包まれて、レイは幸せな時間を過ごしていた。

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 ネルフ

 第87回目の機体連動試験が弐号機で行われていた。


『弐号機のデータ収集終了』

『ハーモニクス、全て正常値』

『パイロット、異常無し』

「あったり前でしょう」


 問題無く終わった連動試験だが、アスカは当然の事と考えていた。こんな試験をする必要性さえ感じていない。

 だが、この試験を見守るリツコは真剣な表情だった。この試験のデータに基づき、夜にダミープラグの接続試験を行う予定なのだ。

 その比較データという意味でも今回の試験のデータは貴重なものだ。

 ゲンドウからダミープラグの開発を進めろと煩く言われている事もある。その面からも良いデータが取れたと内心で喜ぶリツコだった。

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 ネルフ:司令室

 将棋の雑誌を見ながら冬月は駒を進めた。盤に置かれた駒が気持ち良い音を響かせる。

 冬月はゲンドウの方は向かずに、雑誌を見たまま話し掛けた。


「ネルフ本部への使徒侵入。その事実を知った人類補完委員会による突き上げか。文句を言う事だけが仕事の下らない連中だがな」

「切り札はこちらが用意している。彼らは何も出来んよ」

「切り札か。確かにリリスと『槍』、弐号機はこちらで管理出来ている。だが、アダムの様子がおかしいのはどうする?」

「……技術部に調査させている」

「また赤木君頼みか。彼女の負荷も考えてやらせないと、計画発動前に潰れてしまうぞ」

「計画まで持てば良い」

「……お前がそう言うなら構わないが、アダムの事はまだ分からない訳だな」

「…………」


 レイがシンジ側に付いてクローンまで失われた今では、ネルフがレイに干渉する事はほぼ不可能であった。

 だが、最後の儀式の時にアダムさえこちらで管理していれば、何とかなるという見込みはあった。

 だが、その肝心のアダムに細胞劣化の傾向が見られるとの報告がリツコから上がっていた。

 肝心のアダムの細胞劣化がこのまま進行すると、最後の計画前にアダムが崩壊する可能性さえある。

 リリスが居るとはいえ、最初の使徒のアダムの異常を放置する訳にもいかない。

 冬月は将棋の雑誌から目を離し、ゲンドウを見つめた。


「しかし、当初の予定とは大分ずれてしまったな。本来の計画では、初号機は『覚醒』しているはずだったのにな」

「まだチャンスはある」

「初号機を窮地に陥れて、『覚醒』を促すしか方法は無いのか」

「そうだ」

「例の暴露戦術の後始末で、本来は無い特別宣言を行使する羽目になった。あれでネルフの評判はガタ落ちだぞ」

「問題無い」

「マスコミを使ってシンジ君の隙をついた手だったが、こちらが事態収拾をやる事になるとはな。

 『槍』との交換条件で、シンジ君に干渉がまた出来ないようになってしまった。

 赤木君の報告にあったように、今回の使徒はシンジ君が細菌兵器を使った可能性は十分にある。

 こっちは彼をどうこう出来ないが、彼はネルフを常時監視していると考えるべきだろう。

 何時彼の攻撃を受けるかも知れないんだぞ。油断しない方が良い」

「それは分かっている」

「そうは言うがな。あの使徒の高い放射能まみれの残骸の処分に、幾ら掛かるか知らん訳ではあるまい。あれで予備費が底をついたぞ。

 これでは何かある度に、補完委員会に予算を請求しなければならん。こちらの計画の進行にも支障は出る」

「予算は別枠で確保する」

「まあ良いだろう。ところで、リリスはどうなっている? 予定では『槍』を使う事になっていたろう」

「予定通りだ。作業はフォースが行っている」


 その頃、『ロンギヌスの槍』を持った参号機が、ターミナルドグマへの通路を歩いていた。

 参号機に乗っているトウジは、どこか虚ろな目をしていた。






To be continued...
(2011.12.24 初版)
(2012.06.30 改訂一版)


(あとがき)

 今回は今までの事を振り返っての反省と、今後の展開の見通しがメインです。派手なシーンはありません。

 水泳大会は以前に予定しておいた内容ですが、手短に済ませました。メインはコンテストですから。



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