因果応報、その果てには

第四十六話

presented by えっくん様


 使徒に関する情報は補完委員会とネルフからの圧力がある為に、基本的には一般報道はされていない。

 だが、使徒という巨体を隠し通せる訳も無く、ネットでは様々な情報が飛び交っていた。

 今回のネルフの追加予算請求を受けて、様々な噂がネットを駆け巡っていた。

 そしてその中の一つの噂に関する声が次第に大きくなっていた。

 その噂とは『【HC】が出撃を遅らせて、ネルフの被害を拡大させた』というものである。

 使徒関係の情報が一般報道されていない為、ネルフと【HC】は一切この件に関してのコメントはしていない。

 中国と極東の半島国家のネットでは、この噂に関する声が途切れる事無く拡大し、無視出来ないレベルになって行ったのである。

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 ES部隊の指揮官である『012』は内心で焦っていた。シンジの襲撃命令は出ていないが、シンジを誘き出す算段がつかないのだ。

 シンジが【HC】の管理エリア内に篭っているので、どうすればジオフロントに誘い出せるかの検討すら出来ていない。

 拉致、洗脳するのを人目につかせたくは無いので、シンジが一人の時に襲撃するのが好ましい。

 同居の女の子を誘拐する事も検討したが、三人ともネルフのエリアに出て来ない。強引に行って騒ぎを大きくしたくは無い思惑がある。

 『012』は内心の焦りを抑えながら、チャンスをじっと待っていた。

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 ゲンドウは内心で焦っていた。『死海文書』の解読情報と引き換えに、ユイのサルベージをシンジに依頼する決心はついたのだが、

 肝心のシンジと連絡が取れないのだ。原因はシンジを襲ったネルフ職員の背後関係がはっきりしなかった為に、

 シンジがネルフに用心して姿を現していないという事は分かっていた。

 だが、襲撃者を操ったのがゼーレの手配だと分かっているので、ゲンドウとしてもそこまで【HC】に明かす事は出来なかった。

 内線電話は幾ら呼び出しても応答は無い。そして通用ゲートは完全封鎖されていた。

 外部との出入り口は警備の人間がいるが、当然ネルフの職員は一切入る事は出来ない。

 不知火に連絡しても無視されている状態だ。まさに八方塞りである。

 こうなれば、次のキールとの定期会談の時に話すしか無いと考えているゲンドウであった。

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 ロックフォード財団の総帥であるナルセスは、息子のハンスと養子であるミハイルとクリスを書斎に呼んでいた。


「最近の【HC】に関する噂を聞いているか?」

「あの『【HC】が出撃を遅らせて、ネルフの被害を拡大させた』というやつですか?」

「そうだ。最初は極東アジアの特定国のネットにだけあったのだが、最近は世界的に拡散しつつある。放置するのも拙いと思ってな」

「ネルフと【HC】はその件に関して、公式見解を一切発表していません。

 ですから根も葉もない噂が一人歩きしたのでしょうが、どちらかが公式見解を発表すれば済む問題では無いのですか?」

「補完委員会から使徒に関する報道は一切しないように要請が来ている。

 最悪は無視しても良いのだが、組織だって無視すると後が面倒になる。何か良い案は無いかと思ってな」

「ネットで本来の情報を流してもインパクトは低くて、信用されないでしょうね。一番良いのはTV報道で一気に真実を発表する事です」

「……やはりそれしか無いか」

「不知火司令とか、我が国の政府高官がやると角が立つと言うなら、シンにでもやって貰いますか?」

「シンにか? 何故だ?」

「先のTV報道が好評だっと見えて、もう一度やって欲しいとの声が多数あがっています。

 視聴率も見込めますから、その時にポロリと真実を零せば、あっと言う間に噂は収まるんじゃ無いですか。一石二鳥ですよ」

「シンに面倒を掛けるのか? それに度々こちらに呼ぶのも気が引けるがな」

「日本の冬宮氏に相談して見ましょうか。何か良い案があるかも知れません。それにTV報道なら日本でやっても良いのでは?」

「……そうだな。こちらの報道各社の記者達を日本に派遣すれば済む話しだな。早速連絡を取ってくれ」

「分かりました。私から連絡します」

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 シンジは個室で冬宮とTV会談を行っていた。勿論、盗聴防止対策は施してある。

 二人とも車椅子に座っており、二人は違和感を感じていた。


『あなたが車椅子とは何かイメージが違いますね。怪我の回復状況はどうなんですか?』

「ここから【HC】に戻る頃には、何とか歩けそうですよ。ところで急に連絡が入りましたけど、何かありましたか?」

『ええ。ここ最近の【HC】の噂は御存知ですか?』

「ボクが態とEVAの出撃を遅らせて、ネルフの被害を拡大させたってやつですか? それなら放置しておけば良いと思っていますが」

『クリス氏から連絡が入って、北欧連合であなたの記者会見の要望が大きくなった事もあり、その席で真実を明かして貰えないかと

 言っています。場所はこの日本でです。段取りは全て我々が行います。どうでしょう?』

「……成る程。そこまで影響が大きくなったか。確かに愉快な噂じゃ無いし、潰すには好都合か……記者の構成は?」

『メインは北欧連合から来る記者達です。ですが、日本の報道各社の記者も入れるつもりです』

「……メインは本国か。日本でも報道するんですよね。ネルフの報道規制はどうします?」

『そこは我々がネルフと交渉します。あなたが同意する記者会見なら、前回と同じく特例処置で通しますよ』

「分かりました」

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 シンジは【HC】の自分の執務室にあった立体映像投影装置を、ネルフ本部で使用しているエリアの空いている個室に運び込んでいた。

 定期会談の時間になると、立体映像投影装置からキールとゲンドウの姿が浮かび上がってきた。


『今回の使徒を倒した手並みは見事だったな。流石は最強の初号機だ』

「煽てても何も出ませんよ。そもそも最初からそちらが使徒情報を開示してくれていれば、こんなに拗れなかったものを」

『機密情報だからな。仕方あるまい。それより怪我の状態はどうなのだ?』

「この前の使徒で少し無理をしましたからね。弐号機と参号機の修理が終わる頃に治るかどうかですね」

『まだ大分掛かるのか。だが、次の使徒までは間に合うな』

「具体的に次に何時頃来るか、教えては貰えませんかね?」

『駄目だ』

「……以前に北欧連合で記者会見を開きましたが、また同じ事を行う予定です。

 そちらがあまりにも勝手な事を言うなら、その場でポロリと使徒関係の事を話してしまいそうですよ」

『我らの要請を無視すると言うのか?』

「そちらの要請だけを受ける理由がありませんからね。

 この前のネルフの襲撃事件の真相も有耶無耶にして、何でも自分勝手に物事が進むと思ったら大間違いです。ケンカなら買いますよ」

『少し待て』


 現時点でシンジの拉致・洗脳作戦は、実行準備段階である。実行部隊からは作戦成功率は100%だと報告があがっている。

 これが実行され成功すれば、ゼーレを悩ませている北欧連合や【HC】関係の問題が一気に解決する。

 ここでシンジと争うのは好ましく無いとキールは冷静に判断した。先延ばしすれば解決する問題の為だった。

 だが、私生活でのストレスが溜まっていた(マユミの体調が悪くて、ここ四日間はしていなかった)シンジの機嫌は悪く、

 積もり積もったネルフへの不満が爆発した。公私混同という訳では無いが、一般企業の上司の機嫌もこんな形でコロコロと変わる。


「待てません! ここまで情報を隠され、馬鹿にされ、良い様に使われるだけなら、今後は一切協力しません。

 この三者協議ももう開く必要はありません。約束ですからネルフのEVA二機の修理が終わるまでは此処にいますが、

 それ以降の我々の協力は一切無いと考えて下さい。それで圧力を掛けてくるなら結構。受けて立ちますよ!

 記者会見で今までの事を含めて全て話します。妨害するならどうぞ御自由に。その場合の報復は覚悟して下さい。

 最悪はドイツに人が住めないようにしてあげますよ。この通信機は後で返却します」


 シンジは強い口調で言い放ち、立体映像投影装置の電源SWを切ろうとした時、キールから再び声が掛かった。


『分かった。情報を渡す! だから抑えろ!』

「議長!?」


 ゲンドウが驚きの声をあげた。今まで絶対に使徒関係の情報を出す事を許さなかったキールが、自らその禁を破るとは思わなかった。

 だが、シンジの怒りは収まらない。一度限界点を超えた怒りは、ある程度は発散させるまでは収まる事は無い。

 ここら辺はシンジの若さ故の為であろう。ゲンドウから見ると行き過ぎと思われる要求をキールに突きつけた。


「だったら、今までのお詫びも含めて、あなたが直接こちらに来て下さい」

「何だと!?」

『ワシを呼び出すと言うのか!?』

「当然です。こっちが下手に出ているのに、要求をするだけ。いい加減、頭にきましたからね。嫌なら結構!」

『……分かった。だが、こちらの都合もある。二週間は待て』

「良いでしょう。ならば一週間後の記者会見の時は、使徒関係の情報を開示しない事は約束します。

 ですが、変な噂を打ち消す為に、ネルフの襲撃があった為に出撃が遅れた事は発表しますよ」

『了承する。二週間後の件は後で連絡する』


 キールは内心ではシンジを怒鳴りつけたいのを、それなりの労力を使って抑えていた。

 シンジの立場は分かっているが、それでも自分を呼び出すとは身の程知らずもいい所だと考えている。

 だが、ここでシンジとの関係を決裂させるのもまずい。キールは一つの結論を出していた。


 ゲンドウは戸惑っていた。キールが何処まで使徒関係の情報を出すかは分からないが、これではユイのサルベージと引き換えに

 『死海文書』の解読情報を渡すという交渉自体が出来ないのだ。

 ゼーレのTOPたるキールが日本に来るとなれば大事になる。ゲンドウもキールが日本に来る事を了承するとは思わなかった。

 警備の準備もあるだろうし、会談場所をセッティングする必要がある。それはネルフが行う事になるだろう。

 ゲンドウはキールとシンジの会談が終わるまで、様子を見る事にした。

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 ES部隊の指揮官である『012』は内心で驚いていた。いきなり上から、期限付きのシンジの襲撃命令が来たのだ。

 しかも、拉致・洗脳が出来なければ、抹殺しろと言って来ている。以前と内容が異なっているが『012』は命令を受けた。

 拉致・洗脳が出来なければ抹殺という方が、襲撃側としては手加減する必要が無く、やり易い為である。

 出来る限り人目につかないようにと言われているが、それでも襲撃の制限が減って、『012』は内心で安堵していた。

 一週間後に標的は記者会見を開く為に、ネルフ本部から出てくるとの情報も得た。

 標的が動くのなら襲撃のチャンスも出てくるだろう。

 そう考えた『012』は『067』と『068』を呼び出して、襲撃プランの相談に入った。

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 その夜、シンジは就寝前にベットで横になって後悔していた。キールとの会談で自分の感情を抑えきれずに爆発させた為である。

 原因は分かっている。はっきり言うと欲求不満だ。ミーナが居なくなってからマユミと関係するまでは、まったく何も無かったが

 それは割り切って我慢出来た。だがマユミと関係した後は、心の何処かに緩みが生じている。

 その後、マユミの体調が悪くなると当然関係を持つ事が出来なくなった。明日には大丈夫だと聞いているが、それでもマユミの事を

 考えると、思いっきりにという訳にはいかない。結局、中途半端が続いた為にストレスが溜まって感情を爆発させてしまった。

 普段から沈着冷静を心掛けているシンジにとって、思い出すと赤面する内容である。もっとも、キールに謝罪する気は無かったが。

 簡易ベットで一人で寝ていたシンジは夢を見ていた。その夢には裸のミーシャとレイ、マユミが出ていた。


「シン様、あたしと一つになって下さい」

「心も身体も一つになりたいんです。あたしはシン様の眷属。シン様の女です」

「一つになるのは、とてもとても気持ちの良い事です。あたしは何時だって良いんです。シン様、何時までも待ってます!」


「お兄ちゃん、あたしと一つになって」

「お兄ちゃんと心も身体も一つになりたいの。もうあたしの魂にはお兄ちゃんの魂が入っているの。あたしはお兄ちゃんの女なの」

「一つになるのは、とてもとても気持ちの良い事なの。お兄ちゃん、あたしは何時でも良いから」


「シンジさん、あたしと一つになって下さい」

「まだ一回しか身体は一つになってないけど、心も一つになりたいんです。責任はとって下さいね」

「一つになるのは、とてもとても気持ちの良い事でした。明日になれば大丈夫です。お待たせしてごめんなさい。

 ……でも、あたしの身体を壊さないで下さいね。一つになるのは嬉しいけど、加減を御願いします」


「シン様は何を願うの?」

(家族の幸せかな)


「皆が一緒に一つになれば、あたし達もお兄ちゃんも幸せになるわ」

(でも、ミーシャとレイをもう少し大事にしたいという気持ちもあるんだ)


「同い年のあたしとしたのに、何を言っているんですか!? 二人とも待っているんですよ。

 それにあたしの幸せも考えて貰えるなら、二人に入って貰えると嬉しいです。その分、あたしの負担が減りますから。

 あたしはするのが嫌と言っている訳じゃ無いんです。あれは気持ち良かったと思ってますけど、激し過ぎるのもちょっと……」

(……これは夢だよね? やたらとリアルに聞こえるんだけど!?)


「夢は本人の深層心理の願望が出てきます。リアルに感じる事もありますよ」

(深層心理の願望か……という事は、やはりボクはミーシャとレイを……それは始めからだな。二人の身体の負担だけが心配だったんだ。

 でも三人とも立派に発育しているよね。ミーシャとレイのサイズは最初の「「エッチ!!」」 ……ごめん。でも、これは本当に夢?)


「皆が一緒になれば、あたし達も幸せだし、シン様の不満も解消されます。我慢する必要は無いと思いますが」

(それはそうだ。人間誰しも自分の幸せを追求する権利がある。それはボクも同じ事だ。

 自虐主義者なら幸せになる資格が無いとか言い出しかねないけど、そんな事はボクの自由だ。

 三人を不幸にするならともかく、全員が幸せになるなら躊躇う理由なんて一つも無い!)


 裸の三人はシンジに近づいてきた。正面からはミーシャが、右からはレイが、そして左からはマユミである。

 三人とも顔を赤らめながらもシンジに身体を擦り付け、シンジを挑発してきた。

 ここまでされて自制出来るほどシンジは我慢強くはない。覚悟を決めた事もあり、手を伸ばそうとした時、夢から覚めた。


 自分が一人で寝ていて、さっきの事が夢であった事を自覚すると、身体に掛かっている毛布を退かした。

 パンツが汚れていない事を確認し、安堵の溜息をついたシンジの顔には一つの決意が込められていた。

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 ネルフ本部だと移動場所も制限され、特に仕事を持たないミーシャ、レイ、マユミは日中は食堂で職員の食事を作っていた。

 マユミの料理の腕はプロ顔負けであり、ミーシャとレイは勉強を兼ねてマユミを手伝っている。

 そして夜には宛がわれた部屋に戻ってくるのだが、マユミだけはシンジの呼び出しがあったので、シンジの部屋に向かった。

 シンジの呼び出しの理由ははっきりと分かっている。体調が回復したので、今夜は大丈夫とシンジに伝えたのは自分だ。

 何を求められるかは、はっきりと自覚している。シャワーを浴びて、下着も替えたマユミは顔を少し赤らめながら歩いていた。


(シンジさんの足はまだ治ってないから、あたしが……上……なのよね。最初はそうだったからって、癖になっても困る……のかしら。

 気持ちは良かったけど、前と同じじゃ身体が持たないし……でも加減はしてくれるって言ってくれたけど、どうかしら?

 男の人って五日間無かったら、どの程度回復するのかしら。期待もあるけど、怖い気持ちもあるし、複雑だわ)


 マユミはシンジの部屋の前で、身体を捩りながら考え事をしていたが、気配を感じたシンジに声を掛けられ、部屋に入った。

 シンジはベットに座っていた。マユミに椅子を勧めて、少し顔を赤らめながらも真面目な表情で話し始めた。


「マユミ。ボク達の関係をこれからも続けていきたいと考えているけど、マユミの気持ちもはっきりさせたい」

「……は、はい。あたしもずっとこの関係を続けていきたいと思っています」

「マユミは結婚出来なくても良いかな? 女の子の夢だと思うけど?」

「……確かにウェディングドレスに憧れはありますけど、ミーシャさんとレイさんを差し置いて、あたしと出来ないのは分かります。

 それにあたしは孤児ですから、身の程は弁えているつもりです。ただ生活の事がありますから、保証は欲しいとは思っています。

 シンジさんと一緒に生活するのは……その……楽しいと思っていますし」

「ボクには色々と秘密がある。ボクと一緒に居るからには、それも知る事になるだろうけど、それは外部に漏らさないで欲しい。

 それとマユミの事は当然守るけど、ボクを脅す為に誘拐される危険性もある。それも承知してくれるかな」

「秘密は当然守りますし、あたしの事を守ってくれるんですよね。それなら大丈夫です」

「マユミの事は大切な家族として考えるさ。分かった。じゃあ、ミーシャとレイを呼ぶから少し待って」

「ええっ!? このベットで四人でするんですか!? 狭すぎますよ。それにシンジさんの身体に負担が掛かりません?」

「ここじゃしないから安心して!」


 マユミの勘違いを訂正したシンジは、念話でミーシャとレイを呼び出した。


<ミーシャ、レイ。話したい事があるから、ボクの部屋に来てくれるかな>

<えっ!? マユミさんとはもう終わったんですか?>  <お兄ちゃん、早くない?>

<まだしていないって! 二人とも準備は良いかな? これから前に行った北欧連合にある山奥の別荘のボクの部屋に四人で行くから>

<あそこでするんですか!?>  <確かにあそこの部屋のベットはキングサイズだったわ>

<良いから、早く来てくれるかな。浴室に既にお湯は準備させてあるから、何も準備しなくて良いよ>

<は、はい。い、今から行きます……今夜か>  <あたしは覚悟は決めてあるもの。今すぐ行くわ>


 ミーシャとレイが合流した後、シンジは亜空間転送で四人一緒に北欧連合にある山奥の別荘の自分の部屋に来ていた。

 華美という事は無いが、落ち着いた装飾が施されており、ミーシャ達三人にとって過ごしやすい部屋に感じられた。

 広さは約二十畳程度の広過ぎる事も無く、狭過ぎる事も無いと感じられる部屋だ。

 もっとも寝室であり、中央には巨大なベットが置かれており、空調に花の香りも混じっている。

 照明も話すには支障が無い程度の明るさに抑えられている。


 ミーシャとレイは浴室に向かった。深深度から温泉を引いている事もあり、効用は美肌効果だとミーシャとレイは知っている。

 浴槽は五人程度は同時に入れるぐらいの大きさであり、既にシンジの指示でお湯は自動で入っている。

 二人が浴室で身支度している間に、シンジはマユミに事情を説明した。


 ………………

 ………………


「そ、それってシンジさんが本当の魔術師で、異星人の遺産の継承者って事なんですか!?」

「ついでに言うと、異星人の能力や知識も受け継いでいる。ボクが北欧の三賢者なんて言われている理由はそれさ。

 ボクの目的はサードインパクトを防ぎ、人類の絶滅を回避する事。これに尽きる。

 だけど、こんな秘密を一般公開したら混乱するに決まっているし、敵に情報を与えたくは無いからね。

 こうやって秘密裏に動いているんだ」


 マユミは混乱していた。まあ、シンジが話した内容は大分簡略したものだったが、今まで一般市民をやってきた十四歳の少女には

 かなり重い内容だった。だがそれでも、シンジが教えてくれた秘密がどれほど重要なのかは判断出来る。

 ここに来る前にシンジがくどいと思うほど念を入れたのも当然かと納得した。

 この前、マユミと関係した時にマユミに防諜処理は済ませてあるが、本人の同意が得られなければ記憶を消して、

 冬宮にお金を渡してマユミの一生の面倒を頼むつもりだった。幸いにも本人の同意が得られ、シンジは準備は終わりと考えた。


「じゃあ、ボクはこれから右足を治してから、シャワーを浴びてくる。二〇分ぐらい掛かるかな。

 そろそろミーシャとレイも出てくるだろうから、三人で待っててくれる」

「ええっ!? そんな短時間で右足が治るんですか? それなら何で今まで……そうか、怪しまれない為ですか?」

「そういう事。魔術と『気』と、この別荘の治療設備なら、一〇分で怪我は完治する。おかげでマユミとこういう関係になれたしね。

 日本に戻ったら、偽装で石膏をまたつけるけどさ」


 そう言ってシンジは部屋を出て行った。代わりにミーシャとレイが部屋に入ってきた。

 女三人集まれば、字のごとく姦しい。シンジが戻って来るまでの間、三人の話しは盛り上がった。

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 (書きたい気持ちはありますが、投稿規程は『18禁は絶対に駄目』というルールなので、細かい描写は省かせて頂きます)


 日本時間の早朝(現地時間は夜)、シンジは久しぶりにリラックスした気分で目を覚ました。

 全裸だが空調が効いているので、肌寒さは感じない。

 逆に裸のミーシャとレイが左右に居る為に、身体同士が接触している部分に暖かさを感じている。

 マユミはレイの向こう側で寝息を立てている。

 シンジが全開で事に及んだのは久しぶりの事だった。そしてシンジの全開をミーシャとレイ、マユミの三人は受け止めてくれた。

 若さ故の過ちとは思わない。これでも熟考の末の事だ。シンジの目に迷いは無かった。

 三人とも疲れ果てているのだろう。何時もは朝の早いマユミも、まだ熟睡中だ。

 だが、シンジが身動ぎした事で、ミーシャが目を覚ました。


「シン様、お早うございます」

「お早う、ミーシャ」

「シン様って凄いんですね。本当に身体が壊れるかもって思っちゃいました。それにまだ中にシン様がいるような感じです」

「ご、ごめん」

「いいえ。念願適って、シン様とこういう関係になれて嬉しいんです。最後はちゃんと感じましたし。

 でも、毎晩は身体が持たないかも知れません」

「あたしは毎晩でも構わないわ」

「レイ、起きたの」

「お兄ちゃんが、まだ中にいるみたいな感じなのは、あたしも一緒よ。でもあの感じが味わえるなら毎晩でも良いわ」

「ま、まあ、朝からそういう話しもなんだし、二人ともシャワーでも浴びてくれば?」

「はい。そうします。ああ、身体がべとべとだわ。でもシン様の匂いに包まれて幸せだわ」

「お兄ちゃんが中に残っているのが、はっきり分かるわね。それはそうと、後でシーツを処分しないと。洗濯じゃあ落ちないわよね」


 ミーシャとレイは歩きづらいようだったが、何とか浴室に入って行った。

 それを見届けたシンジが視線を感じて振り向くと、マユミが色っぽい笑みを浮かべてシンジを見ていた。

 マユミの視線はシンジの顔と、朝の現象を起こしている元気な下半身に交互に向けられている。


「シンジさんって昨晩あんなにしたのに、まだ元気なんですね。あれでも物足りないんですか?」

「い、いや、これは男の正常な現象なんだよ」

「ふふっ。あたしが鎮めますから」

「な、何かマユミは積極的になってない? 身体は大丈夫なの?」

「一晩寝ましたから大丈夫です。それにあの二人と違って、あたしは二回目、いえ回数で言えば両手が必要ですね。

 すっかり開発されてしまいましたから……あたしの高ぶりを鎮めて下さい」


 ミーシャとレイがシャワーを浴びている間に、シンジとマユミは第二ラウンドを開始した。

 戻ってきた二人にばれて、ミーシャとレイにもマユミと同じ事をする事になった。

 結局、ミーシャとレイはシャワーを二回も浴びる事となる。

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 別荘の冷蔵庫にはバルト海の海底地下工場で生産された新鮮な食料が入っている。

 それを使ってマユミが朝食を作り、四人の食事が終わったところだ。四人とも昨夜の疲れもあり、食欲はかなり旺盛である。

 窓の外は真っ暗だ。日本時間では早朝でも、北欧連合では夜である、その事に感心したか、マユミが話し出した。


「ここって本当に北欧連合なんですね。あたしは国外に出たのは初めてなんで、後で観光でもしたいですね」

「あたしもしたいです」  「あたしも」

「今は使徒戦で忙しいから無理だけど、それが終わったら四人でゆっくりと観光旅行にでも行こうか。

 北欧連合だけと言わずに、世界各地を回るのも良いかもね」

「「「やった!!」」」

「さて、三人にプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるかな」

「「「プレゼント!?」」」


 シンジは四つの小箱を取り出して、テーブルの上に置いて蓋を開けた。小箱の中には銀色の指輪が入っていた。

 それを見た三人の表情が変わった。勿論、良い意味である。世の女性がアクセサリー好きなのは万国共通かも知れない。


「シン様、これって!?」

「ボク達の関係の証という意味もあるんだ。左手の薬指につけて欲しいんだけどな」


 シンジは顔を少し赤らめて言うと、三人の少女に笑みが浮かんだ。

 昨晩の事だけでも満足だったのに、こんな物まで貰えるとは思っていなかった。しかも左手の薬指とは言うのは効いた。

 三人の顔に僅かに嬉し涙が滲んできた。


「サイズは以前に確認させて貰ったから大丈夫だと思う。もし違ったら言ってくれるかな」

「ありがとうございます。あのう、シン様がつけて貰えませんか」

「ああ」


 シンジは三人の左手の薬指に用意した指輪をつけた。

 三人とも自分の眼前に左手を掲げ、薬指にある指輪を見てうっとりした表情になる。


「あ、あたしも貰って良いんですか?」

「もちろんだよ」


 シンジからは大事な家族として迎えると聞いてはいたが、孤児であり今まで何の繋がりも無かったので、ミーシャとレイと同格で

 迎えられると思ってはいなかったマユミだった。だが、この指輪を見てそんな不安は完全に払拭された。

 三人の御満悦な表情を見て、シンジも笑みを浮かべた。気に入って貰えたのは嬉しいが、さらに驚く事はあるのだ。

 シンジは自分の指にも同じような指輪を付けて、説明を始めた。


「その指輪にはある機能がある。それを説明するから、ちゃんと聞いてくれるかな」

「機能? これは普通の指輪じゃ無いんですか?」

「ああ。その指輪には亜空間制御機構のマーカとしての機能が付けてある。

 具体的に言うと、ある場所からエネルギーやら色々なものが送られてくるマーカという訳。そして……」


 まずはセレナやミーシャが使える『魔眼』に類する精神攻撃に有効な精神障壁の常時展開。

 これは目に見えないので、他人には障壁がある事すら分からない。

 シンジとミーシャには不要な機能だが、レイとマユミにとっては得難い機能だ。

 次に物理的な障壁の展開能力。これに関しては指輪の周囲の亜空間にセンサを常時展開させて、そのセンサに危険物が検出されれば、

 自動的に装着者の周囲に物理的な障壁を展開させる。不意打ちとかには有効で、マグナム弾程度の銃撃を防ぐ事が可能だ。

 当然、周囲の一般人には亜空間にあるセンサを見れるはずも無く、怪しまれる事無く身の安全を確保出来る得がたいアイテムだ。

 この前のネルフ職員の襲撃の時、シンジは反応出来なかった。ユインが居なければシンジは死んでいたかも知れなかった。

 対応策として開発したのがこの指輪だ。護身アイテムとして開発した物で、四人がこれを付けていれば安心出来る。


 そうして家族の絆を深めて、気分もリフレッシュし、準備を整えた四人はネルフ本部に戻って行った。

 因みに、その日は体調が優れないという理由でミーシャとレイは食事の用意に参加しなかった。

 それにより二人が歩きづらいと言う事実は、他の人に知られる事は無かったのである。

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 本部の使用エリアを全てネルフに返す約束があったので、少しずつだが持ち帰る設備の解体を行っていたが、問題が発生した。

 ある程度の大きさの機材の搬入ルートが使徒の攻撃を受けて使用出来なくなったのである。エレベータとか通路の破損の類である。

 よって、ジオフロントの一角に設備搬出用のVTOL発着場を設けて、少しずつでも持ち帰る設備の搬出を始めていた。

 ジオフロントの天井部に開いた穴の修復はかなり先になると連絡を受けている事もあり、【HC】の設備の搬出はVTOLを使用し、

 開いている穴を経由して行われていた。

 このジオフロントの穴の修復と、【HC】の資材搬出ルートの復旧が態と遅らされた事を知るのは、ネルフの極一部の人間だけだった。

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 この頃、加持は必死になってネルフ本部内を駆け巡り、情報の収集にあたっていた。

 使徒の被害を受けて、セキュリティが無効化された場所の数は多い。色々な機密情報を集めたい加持にとっては絶好のチャンスだ。

 そして加持は核心情報に徐々に近づいていく。それはシンジさえも知らない情報も含まれていた。

 苦労して得た情報は、暗示によって加持が意識しない状態でシンジに送られていった。

 そして加持から情報を得たシンジは、その情報の重大さを認識し、行動計画の変更を迫られる事になった。

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 シンジは【HC】基地内に設けられた臨時の記者会見場の控え室に居た。

 記者会見場は基地の入口ゲート近くに設置されており、会場には約四十名程度の記者が待機しており、会見が始まるのを待っていた。

 半数以上が北欧連合からの報道記者であり、残りは日本の報道各社の記者達である。TVカメラは三台。

 北欧連合と日本、それに希望する各国に中継される事になっている。

 定刻三分前にシンジは記者会見場に車椅子で入っていった。(右足は完治しているが偽装)同行者はライアーンである。

 車椅子に乗るシンジを見て記者達がざわめいたが、シンジは気にせずに質疑応答を始めた。

 先陣をきったのは、北欧連合から派遣された記者である。


「博士が重傷を負ったのは知っていましたが、現在の姿を見ると完治まではまだまだ掛かりそうですね」

「ええ。ネルフの新型兵器の起動実験の失敗で、この通りの姿になりました。事故当初はミイラと間違われたくらいですからね。

 左腕の骨折は治りましたが、右足の骨折はもうちょっとかかります」

「この前の記者会見では『天武』を見せて頂きました。それで博士は戦っていると聞きましたが、その身体で戦えるのですか?」

「今回、ネルフから莫大な追加予算請求が出たのは皆さんも御存知かと思います。その追加請求が生じたある戦いにボクは出撃しました。

 『天武』では無く、別の兵器ですけどね。双方とも思考制御機構を搭載していますので、こんな怪我でも戦闘は可能です。

 ところが今回の戦いの直前に、問題が発生しました」

「問題……ですか? それはどんな事なのでしょうか?」

「当日、ボクを含めて【HC】のメンバー数十人はネルフ本部にいました。戦闘が発生する直前に、催眠術か洗脳処理を受けたと思われる

 ネルフ職員数十名の襲撃を受けました。銃撃で【HC】の職員六人が負傷しています。

 これにより我々はまず自分達の身の安全を確保しなくてはならなくなりました。これがボクの出撃が遅れた理由です。

 敵の侵入を許し、ネルフの被害を拡大させてしまった原因になりましたけどね」

「誰が!? 誰がそんな事をしたのですか!?」

「襲撃してきたネルフ職員全員は、ネルフ保安部に拘束されました。

 ネルフからの正式報告では、催眠術無いし洗脳処理の形跡はあったが、真の犯人は不明と言うだけです。

 身柄の引渡しも拒否されましたし、それ以上の事はこちらには分かりません」


 記者団にざわめきが広がった。

 此処にいる全員がネットで広まっている噂は知っていたが、その原因がこんな内容だとは誰も想像していなかった。

 そんな中、日本のG社の腕章をつけた記者の一人がシンジを問い質した。


「ですが、【HC】の出撃が遅れた為に、ネルフの損害が増えたのは事実です。

 それならネルフの被害額の半分は【HC】支持国で負担すべきでは無いですか?」

「面白い事を言いますね。ネルフの不始末の所為でネルフの被害額が増えたのに、【HC】支持国がその被害額を負担しろと?

 しかも一割とかじゃ無くて、半分も!? 随分とぼったくるつもりですね。会社名と名前を言って下さい」

「そんな事はどうでも良いじゃ無いですか! ネルフの追加予算請求で経済が崩壊しそうな国もあります。

 北欧連合はそれらの国々を見捨てるんですか!? こんな困難な時こそ助け合うべきじゃ無いですか!

 常任理事国でもある北欧連合はまだまだ経済的余裕はあるはず。こんな時にこそ経済支援をすべきだ! その義務がある!」

「そんな義務は我が国にはありません。勝手に決め付けられる不愉快ですね。中央○報の記者の方」


 シンジの言葉に質問していた記者の顔が強張った。まさか自分の正体が知られているとは思っていなかった。

 同時にライアーンも眉を顰めた。

 この記者会見には北欧連合以外には、日本の報道記者しか呼んでいないのにも関わらず、何故海外の報道記者が紛れ込んだのか?

 会見が荒れる事になるのはライアーンは望んでいなかった。シンジは顔に怖い笑みを浮かべながら話を続けた。


「あなたが本来取材の許可されたG社の記者を買収して、交代してこの場に来た事は知っています。

 誤魔化せるとでも思っていたのですか? ここは特務機関【HC】ですよ。それくらいの情報収集能力は持っています。

 『【HC】が出撃を遅らせて、ネルフの被害を拡大させた』という噂は、中国やあなたの国を中心に広がった事は知っています。

 そういう噂を先にばら撒いて、我が国の負担を増やそうと画策したんですか?」

「【HC】支持国は今まで一度も追加拠出金を支払っていない! ネルフ支持国の追加拠出金は今回で五回目だ。不公平だ!

 金銭的余裕がある国が貧窮している国を支援するのは当然だ! それとも北欧連合は我が国の国民を見殺しにするのか!?」

「我が国も一時期は危なくなった時がありましたが、その時は日本を含めて何処からも支援の手は来ませんでしたよ。

 あなたの国からもね。その癖、自分の国が危なくなると、我が国に支援を要求ですか。恥というものを知っていますか?」

「恥なんかどうでも良い! 今は貧窮する祖国を救うのが先だ! 我々は北欧連合に対し支援を要求する!」

「自分勝手も好い加減にしろ!! そもそもお前の国は、2008年の中国の核事故の時に我が国との国交を断絶したのだろう。

 それが今になって支援を要求するとは恥を知れ!! お前の国が滅びようとも、我が国は一切関知する必要は無い!

 そもそも、お前の国を支援するようなら、友好国への支援を強化する方が優先だ。身の程を弁えろ!!

 そもそも我々は【HC】のメンバーとしてこの席に居る。そんな外交上の問題は大使館に行くんだな。

 おい、こいつを拘束しろ! 不法侵入者だから手加減は不要だ! 他の不法侵入者と一緒に地下に拘束しておけ!」


 ライアーンが会話に加わってきた。そもそも今回は【HC】の立場を明確にする事と、否定的な噂を打ち消す為の会見だ。

 こんな費用負担がどうだの、支援だのを話す場では無い。

 それは外交レベルの問題であり、そんな事を特務機関に言って来る事自体が間違っている。

 ライアーンは待機していた保安部のメンバーに指示を出して、中央○報の記者を強制的に連行させた。

 因みにこの記者会見は生放送である。全世界に放送されてしまったのだった。


「まったく外交官でも無く、ただの記者の癖にあんな事を言い出すとはな。不愉快だ。

 奴らから国交断絶を通告してきたが、それは結果的には正解だったな」

「まあまあ、副司令は落ち着いて下さい。あんな輩を相手にしては疲れるだけです。流すのが一番ですよ」

「それにしては、中佐はまともに話していたでは無いか? ああいう奴らに甘い顔をすると、とことん纏わりつかれるぞ」

「あそこの国の人は声高に自分の言い分を主張すれば、嘘でもそれが通ると勘違いしている人がかなり多いですからね。

 ウリジナルと呼ばれる文化起源を捏造したり、『日本海』の公称を自国の東にあるからという理由で『東海』という名称に

 変えようともしています。普通の外交は相手の立場を尊重しなくてはいけないのに、一方的に自分の立場しか主張しない。

 ある程度は主張させて、あの国の政府を巻き込んで後で徹底的に叩き潰すつもりでした。二度とこちらの前に出れないようにね。

 まあ、その前に副司令に介入されてしまいましたが」

「そうか。それは済まなかったな」

「いえいえ。後であの記者を自白剤を使って尋問するのでしょう。その結果を教えて下さい。

 【HC】を誹謗中傷する噂が中国と極東の半島国家のネットを中心に広がった事を考えると、国家ぐるみの陰謀の可能性もあります。

 2008年の中国の核事故でボクも散々中傷された事がありましたからね。その結果次第でボクは動きますよ」

(あそこの国だけに専念するほど暇じゃ無い。無関係を貫ければ良いけど、降り掛かる火の粉は払わないとね。

 放置しておいても衰退する国だけど、声だけは煩いからな。こっちに悪評がかからないようにダメージを与える方法を考えてみるか)


 列席していた北欧連合の記者は当然という表情をしていた。ブロック経済制度を布いて、そのブロック内の経済成長は上昇傾向にあり

 経済的には余裕があったが、国交が無くて見返りも無い国に無償で支援するなど平和な時ならともかく、現状ではありえない。

 そんな事をするくらいなら、同盟国や友好国に投資をした方がよっぽどましだ。資金も資源も食料も有限である。

 限られた資金や物資なら、支援を行う国々も当然選択されるべきであろう。

 平和な時代なら共存共栄という事でありえたかも知れないが、今は使徒戦を続けている非常事態である。どの国も生き残るのに必死だ。

 赤字国債を発行してでも、海外支援を行う気は北欧連合には無かった。それは北欧連合の記者は承知している。

 だが、日本の報道記者の立場は異なった。少し毒気を抜かれた記者達だったが、今度は日本の報道記者が質問した。


「ライアーン副司令のお言葉で、『他の不法侵入者と一緒に地下に拘束』とありました。不法侵入者は全部で何人ぐらいですか?

 どのような素性の人達でしょうか? 彼らはどのような処分を受けるのでしょうか?」

「……確か、不法侵入者は全部で十五人だったな。【HC】では無く、発電施設護衛用の基地保安部が拘束している。

 マスコミ関係者が十三人、警察関係者が二人だ。そのうちに中東連合の強制収容所に送る予定だ」

「やはり此処に拘束されていたのですね! 【HC】の取材をしていた私の知人が行方不明になって心配していました。

 彼は取材の一環で間違って入ってしまったのでしょう。彼らを解放は出来ないのですか!?」

「取材の一環? ここは治外法権エリアで不法侵入すれば拘束されるのは分かり切っていたはずだ。解放する必要は無い。

 それに拘束した人間には全て自白剤を投与してあり、マスコミ関係者とは言っているが基地の秘密を盗み出す為と白状している。

 立派なスパイだ。それでも解放しろと言うのかね?」

「そ、それは誤解では? 彼はちゃんとした報道社の職員です」

「本人もそう言っていた。マスコミ関係者だと分かれば直ぐに釈放されると思っていたようだが、我々をあまり甘く見ないで欲しいな。

 我々は犯罪者が誰であっても容赦はしない! 文句があるなら日本政府にでも頼んでみるんだな。

 もっとも日本政府が文句を言ってきたら、本国は即座に反応する。どう反応するかは君達の想像に任せよう。やってみるかね?」

「い、いえ! 遠慮させて頂きます!」 (今、そんな事をしたら我が社が真っ先に潰されるのは間違いない。出来る訳が無い!)

「拘束してあるマスコミ関係者は、全てスパイとして十年以上の強制労働の処罰を受けさせる。これは決定事項だ。

 一応言っておくが、【HC】では無く基地保安部が拘束しているから、不知火司令に働きかけても無駄だ。問題は二人の警察関係者だ」

「その警察関係者の二人は、どういう意図で不法侵入しようとしたのですか?」

「薄っぺらい正義心からだな。ドラマの見過ぎかは知らんが、ここに拘束されているマスコミ関係者を救出しようとして不法侵入した。

 最初は普通に問い合わせがあったが、全て無視してきたからな。それで強引に救出しようと強硬手段に出たらしい。

 勿論、これ以上関わったら懲戒免職だと言う上司の制止を振り切って、二人だけで侵入してきた。あっさりと捕まったがな。

 日本の警察組織に問い合わせたが、懲戒免職処分にしてあるから、ご自由に処分してくれと言われた」

「そ、それで二人の警察官の処分はどうなるのです?」

「日本のドラマだったら二人の警察官が上司の制止を振り切って、無事に捕らわれた人達を救い出してハッピーエンドかもしれんがな。

 現実は甘くは無い。馬鹿であるが、悪意は無いとの判断から、中東連合の強制収容所で三年〜五年の強制労働の罰を受けて貰う。

 日本のドラマの悪影響を受けたのかは知らんが、愚行の報いはしっかりと受けて貰う! 良い勉強になるだろう」


 ライアーンの強硬な態度を受けて、今更ながらも北欧連合の世論が日本に冷たい感情を持っていると実感した日本の記者達であった。

 実際、北欧連合の記者席からは冷たい視線が日本の記者達に向けられていた。

 今の日本の風潮は人道最優先主義であり、殆どの場合ではその考えは有効だろう。だが、例外もある。

 動機は人道主義からであっても、上司の命令を無視して法を犯した人間には裁きが下る。それが世の法である。

 この件でこれ以上突っ込むと、自分達にも火の粉が掛かってくると感じた日本の記者達は、最初の目標であるシンジに目を向けた。


「ロックフォード博士に質問します。財団の日本からの撤退の可能性についてお聞きしたい」

「今の状態から言えば、可能性が高いとしか言えませんね」

「何故ですかっ!? 撤退すれば日本は壊滅的打撃を受ける。先程の記者の言葉では無いですが、日本の国民を見捨てるのですか!?」

「逆に聞きますが、我々に否定的な日本に、財団が赤字続きでも支援を行えと言うのですか? それこそ我が儘というものでしょう。

 民間企業である我が財団に日本の国民を支援する義務など、何処にもありません」

「否定的と仰いますが、何をもって否定的だと断定されていますか?」

「ネットの情報とマスコミの各報道。それに日本政府の今までの対応を見てですよ」

「それだけ見て、日本全体が否定的だとは言い過ぎでは無いですか!? 日本の国民の中にはあなた方に協力的な人間も多数います」

「国全体を判断する場合、個々の人格を論評するのは無意味です。国民全体を見た場合、善良な人がゼロという国は無いでしょう。

 だからこそボクの判断は、その政府の行動や世論をリードする大手マスコミの報道を重視します。

 幾ら半数の国民が善良であっても、国家のトップである政府や大手のマスコミが間違っている国と付き合いたくはありません」


 民主主義国家においては、国のトップは選挙で選ばれる。即ち、国のトップを見れば、その国民性がある程度は分かる。

 マスコミも同じである。ある一定以上のシェアを有するという事は、そのマスコミを一定以上の国民が支持しているという事である。

 人気の無いマスコミは規模が小さい。逆を言えば大手のマスコミは多数の国民が支持していると言える。

 極論かも知れないが、政府と大手マスコミを見れば、その国の傾向が判断出来ると考えている。

 国民一人毎の資質など、論ずる必要性さえ感じていない。

 そもそも善良な少数を救う為に、多数の否定的な人間までも救う義務など持ってはいない。

 正義のヒーローならともかく、限度がある人間に全ての人間を救う事など出来はしない。それは論じる事さえ傲慢な事だと思っている。

 使徒戦に備えて冬宮を経由して日本を支援したが、それで返ってきたのが以前にあった非難報道だった。ある意味、恩を仇で返された。

 プライベートなら、少数でも善良な人がいれば友人関係を築けば良いだろう。だが、今のシンジは個人云々を言う立場では無い。


「博士から見て、我が国の政府とマスコミは間違っていると見えるのですか!?」

「その通りです。あなた方マスコミは真実を報道する義務があるとか、真実を公開するには何をしても良いとか考えているようですが、

 それがちゃんと実行されているんですか? 下らない事件を視聴者に受けそうだからと報道し、重要な事件を別の筋からの圧力で

 報道しない事が結構ありますよね。それに本来は実名報道すべき事件でも、態と名前を公表しない事が多い。

 言っている事とやっている事が違う。マスコミと言っても民間企業だから、スポンサーの圧力や視聴率稼ぎの為に報道を歪めている。

 自社の利益の為に報道を歪めているマスコミが間違っていないとでも? そのマスコミを大多数の日本国民は認めている訳ですよね。

 政府に関しては、今更言わずとも分かると思いますから、何も言いません。

 日本の国民の本質が勤勉で規律を守る善良な資質を備えている事は認めます。ですが、政府とマスコミは納得いきません。

 だから、必要以上の支援は行いません。これはロックフォード財団の極東エリア総責任者として、ここに明言します」

「博士が極東エリア総責任者なんですか!?」

「その通りです。元々、我が財団に日本への足掛かりはまったくありませんでした。ボクが最初から立ち上げましたからね。

 総帥の承認も得ています。嘘だと思いますか?」

「い、いえっ!」

「行き過ぎた愛国主義は国を滅ぼしますが、国民の大半が祖国を大切に思わない場合も衰退の道を歩むでしょう。

 誰が大切に思わない国の為に尽力しますか? 自分達が住む祖国を大切にする国民がいるからこそ、その国が発展するのでしょう。

 日本の国は日本国民のものです。他の国のものでは無い。それを忘れた今の日本は、先の発展は無いと思っています。

 外国人を排斥した方が良いとは言ってませんよ。協力し合えるなら良いでしょうが、外国人の行き過ぎた主張には反論すべきでは?

 ボクもそうですが、外国人は日本の発展に尽くす義務は無い。日本が駄目になっても本国に帰れるんです。

 そんな人達が熱心に日本の発展に尽くすと思いますか? 都合良く立ち回って、利益が出なくなれば日本を見捨てますよ。

 団結無くして、組織の発展は無い。自分勝手な人間が増え続けた組織は、衰退しか残されていません。それは国も同じ事です。

 もっとも、再生の為に一度日本を叩き壊すつもりならそれでも良いでしょうが」


 個人の思想は尊重されるべきもので、誰しも発言の自由はある。だが、組織に組み入れられると組織の論理に沿った行動が要求される。

 民間企業において、社長の考えと違う社員が声高に社長の非難をしたら、どうなるだろうか?

 左遷か免職になる可能性は高い。これは社長の権限もあるが、組織としての統一性を守る為に必要な事である。


 十人十色と言われるように、百人いれば百人なりの意見がある。

 それを百人全員が自分の意見を押し通そうとしたら、組織として成立しない。だからこそルールや法律、そして憲法などがある。

 決して声高に自分の意見を主張した人が正しいのでは無い。ルールや規律に従った人が正しいのだ。

 民間企業なら左遷か免職程度で済むが、軍隊では抗命罪に問われる。最悪の場合は禁固刑になる。

 だが、そこまでしてでも規律や統一性を守らなければ、組織を運営出来ない事もある。嫌ならその組織を出なくてはならない。

 所属している組織がルールを違反し、それが法律などに違反している場合は別だ。

 その場合は組織の一員という立場より、その国の国民という立場を優先させる場合があるだろう。


 シンジも自分なりの意見はあるが、北欧連合や【HC】では過度に主張する事は無い。それは組織の『統一性』を守る為である。

 どうしても自分の思惑を貫き通したい時には、個人として動いている。組織に迷惑を掛ける事は避けなくてはならない。

 個人の人権と組織の規律。どちらも片一方に寄り過ぎても問題が発生するので、バランスが重要になってくる。

 今の日本ではどうだろうか? 個人の人権を尊重し過ぎて、組織人としての守るべき規律を忘れている人が多く無いだろうか?


「それと潔癖症と視野の狭さも程々にした方が良いと思います。日本では政治家に庶民感覚を求めますが、政治家に求められる資質は

 先を見通す展望、つまり大局観。そして危機に陥った時に発揮される判断能力。そして人々を引っ張るカリスマです。

 国家をどう導くか、その国家観や歴史観が無いと勤まらない職業です。目先の利益に判断が左右されては信用を無くすだけです。

 俗に言うエリートとしての資質が必要なのです。そのエリートに庶民感覚を求めるのが日本のマスコミですね。

 さらに言うと、エリートとしての素質より、庶民感覚を持っている事を優先させて考えていますよね?

 確かに庶民の生活を安定させる義務を政治家は持ちますが、庶民感覚を持たずともそれは出来るはずです。

 国政に関与する立場の人間に求められる素養と、庶民感覚を同列に扱うなんて馬鹿げてませんか。

 肉体労働者を馬鹿にする訳ではありませんが、日々の糧を得る為に働く人に十年後を予想した行動が取れますか?

 先行投資の決断が出来ますか? 他の人々を指導出来ますか? 視野の広い決断が出来るんですか?

 逆に言えば、エリートが細かいところまで気を使っては、大局に目が届かずに結局は破綻します。

 国政のトップがカップラーメンの値段を知らないと政治が出来ないんですか? 人の資質は有限ですよ。

 国政を預かる人ならば、そんな下らない事に気を回す余裕があれば、他の国政レベルの有益な事に気を使うべきでしょう。

 中には両方の素質を備えたスーパーマン的な人がいるかも知れませんが、そんな人は我が国では少数です。

 ボクもそんな才能はありません。そんな事を平然と要求する日本のマスコミには、さぞや多才な人が大勢いるんでしょうね。

 そんな優秀な人達が政界や産業界に転向すれば、日本は安泰ですよ。我が財団の支援は日本には不要じゃないですか」


 救急隊員や医者などを含め、個人が個人を助ける事は立派な事だろう。それは称賛されるべきものだ。

 だが、そのような人達に少数を切り捨てて、大多数を救うような判断を求めるべきでは無いだろう。リストラは良い例だ。

 会社を潰すよりは良いだろうと採算性が悪い部署を閉鎖して、一部の社員を切り捨てて、大多数の職員を守るのがリストラだ。

 これが決断力が無いトップだと、一部の職員の首を切るのを躊躇って、会社全体の採算が徐々に悪化していく。

 結局は赤字が累積して、会社そのものを潰す事があるだろう。その場合は社員全員が路頭に迷う事になる。

 多数を守る為に少数を切り捨てるか、少数に気を使って全体を破綻させるか、それはトップの判断次第である。

 どちらの場合も切り捨てられた人間からの負の視線はトップに向けられる。それが多いか少ないかの違いだ。

 賢明なトップはそんな事態に陥らないように努力している。だが、努力だけでは無く、運も関係してくる。

 地震などの天災が、事前に分かるはずが無い。そんな外的要因でリストラを迫られるような事態になる場合だってある。

 そんな事態になった時、全ての組織のトップに非情の決断が出来るのだろうか? 情に厚い人間ほど、決断が出来ない可能性は高い。

 その決断が出来ない場合、組織の大きさに比例して被害は大きくなる。

 だからこそ、備えるべき素質を持たない者がトップになった組織の末路は衰退しか無いと考えている。

 独善的判断を強いられる事が多い為、腐敗する可能性は高い。その監視の為に、世の中には色々な監査機関がある。

 国の場合は野党やマスコミだろう。だが、今のマスコミにそこまでの役割を期待出来るのだろうか?


「日本国民はもう少し自己主張した方が良いと思います。さっきの記者みたいのは論外ですが、ある程度は自己主張しないと、

 他国の主張に呑まれるだけです。正論を持っていても自己主張をしなければ、声が大きいだけの蛮論に呑まれます。

 黙っていれば、相手の意見が正論だと認めたから言い返せないと言われるだけです。この場合、『沈黙は金なり』は通用しません。

 同じレベルに落ちたくないとか、大人気ない対応はしたく無いというのは言い訳に過ぎません。

 僅かな諍いを避けようと、近隣諸国に遠慮して何も言い返さずに良い様に扱われ、そして我が国を軽視した結果が今です。

 ……今起きている事件が何時頃に終わるか分かりませんが、それが終われば【HC】は解散して、ボクは祖国に帰ります。

 その時に財団が日本から撤退するかの最終判断を行います」

「…………」

「今までの発言はボクの持論であって、これを皆さんに強制するつもりはありません。

 ボクは日本の隣国と違って内政干渉をするつもりはありませんから、個々の判断で採否して下さい。

 ですが、発展の見込みが無く、赤字を解消出来ないと判断した場合には、我が財団は民間企業の立場から日本からの撤退を断行します。

 最後になりますが、仮に我が財団が日本から撤退すると決定した場合は、日本から移民を募ります」

「……移民?」

「そうです。今まで協力してくれたメンバーを優先的に、北欧連合への移民を募ります。その他にも技術を持った人とかは歓迎します。

 さっき紛れ込んできた記者のような人が居ては困りますから厳正な審査を行いますが、それにパスした人達は受け入れます。

 もっとも、一般の人だけです。政治家やマスコミ関係、宗教関係、教育関係者などは最初から受け付けません。

 条件としては北欧連合の為に働く事。日本の為に働くなとは言いませんが、北欧連合の不利益な行動を取れば国籍を剥奪します。

 既に本国政府の許可は取ってあります。詳細は後日に発表させて頂きます。以上」


 こうして二回目のシンジの記者会見は大きな反響を巻き起こして終了した。

 このTV放送を見て、笑う者。怒る者。考える者。様々な人間が居た。

 特に日本の場合は当時国という事もあり、移民の件も加えて深刻とも言える影響が出る事となる。

***********************************

 シンジは【HC】からネルフ本部に向かうVTOLに乗っていた。機内には操縦者と護衛の二人を含む四名だけだ。

 そしてシンジはさっきの記者会見の事を考えていた。


(さて、どうなるかだな。こちらとしては日本をどうしても助けなければならない義務は無い。

 核融合炉を設置して【HC】支持国に誘導した後は、後は彼らの責任だ。能力があれば生き残るし、無ければ滅びるだけ。

 だけど、引き込める人は引き込みたい。技術者とか大勢引き込めれば、大分助かるしな。こちらのメリットになる。

 冬宮理事長はごねるだろな。さて、どんな譲歩案を持ってくるやら)


 VTOL機がジオフロントの大穴を通り、もう少しで臨時のVTOL離発着場に到着しようとする時、ミーシャから念話が入ってきた。


<シン様! 今、こちらで爆発が起きています。どこからか襲撃されているみたいです!>

<お兄ちゃんも気をつけて!>

<襲撃だと!? この状況下でこちらを襲撃だなんて、何を考えている!? 分かった。最終防衛システムを起動させる。

 ミーシャとレイは部屋なのか? マユミは?>

<レイと一緒で、マユミさんは隣にいます>

<分かった。三人は絶対に部屋から出ないようにしてくれ! ボクも直ぐに向かうから、何っ!!?>


 シンジが念話中に、VTOL機に三基の対空ミサイルが直撃した。直撃を受けたVTOL機は空中で爆発し、四散していった。






To be continued...
(2012.04.07 初版)
(2012.07.08 改訂一版)


(あとがき)

 今回も本編とは違った展開を書いてしまいました。


 別に自分は右だとか左だとか考えた事はあまりありませんが、最近の世間の動きを見ていて釈然としません。

 鬱憤晴らしを兼ねて自己主張をさせて頂きました。個人毎の考えは当然あると思いますが、こんな考えもあるんだなと思って下さい。

 次回は大荒れの予定です。(以前の設定の回収を行う予定です)



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