因果応報、その果てには

第六十一話

presented by えっくん様


 作者注. 拙作は暇潰し小説ですが、アンチを読んで不快に感じるような方は、読まないように御願いします。

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 隕石衝突回避作戦の第三段階の発動まで時間が迫ってきた事もあって、二十四時間体制で状況を全世界にTV中継していた。

 とは言っても緊急に報道する内容は無く、通常は今までの作戦の実行記録や巨大隕石群の軌道などの映像を繰り返して流していた。

 電気と電波の無駄使いという指摘もあったが、状況を繰り返し説明する事で各国市民の不安を和らげるという目的を持っていた。

 そして今は画面に椅子に座ったミハイルが映り、無表情のまま、隕石衝突回避作戦の第三段階の説明を行っているところだった。


『コロニーレーザーの改造は終了しており、現在はエネルギーの蓄積を行っているところです。

 宇宙空間での発射ですから、減衰はほぼ考えなくても済みます。障害物がありませんので、かなり遠方まで砲撃は届きます。

 明日に第一射を予定しており、第二射はその三日後の予定です。最後は地球の間近に迫ってから、第三射を行います。

 これで十キロ未満の隕石の約八割を消滅させます。

 義弟のシンは第四段階の作戦の準備中です。こちらに関しては、コロニーレーザーの第一射後に詳細を発表します。

 全世界の皆さんはパニックにならずに落ち着いて行動するように御願いします』


 第二段階の作戦は完全には成功はしなかった。だが、この第三段階の作戦が上手くいけば、第四段階に希望をつなぐ事が出来る。

 それをミハイルは世界中に訴えていた。内心では、色々な事があって不安が心の中に渦巻いていたが、それを表情に出す事は無かった。


 オルテガの転移の魔術により、クリスとシルフィードは危機を脱したが、無傷という訳にはいかなった。

 その為にクリスは現在海底基地で治療中であり、二日間は身動きは取れない状態だった。シルフィードも同じく動ける状態では無い。

 さらに、オルテガの身柄を返して欲しくば、指定の場所にシンジが一人で来るようにとの連絡が届いていた。

 シンジにしても結界内の屋敷を襲撃され、師匠であるオルテガを拉致されて、そのまま放置する事は出来なかった。

 罠である事を承知の上で、シンジは一人で指定された場所に向かっていた。

 まだ、シンジが敵と接触したという連絡は入って来てはいない。内心の不安を抑えて、己の職務を遂行しているミハイルであった。

 そのような状況であったが、世界全体が激動する予兆を見せていた。

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 今のシンジの公的な業務は、隕石衝突回避作戦の第四段階作戦の準備を行う事であった。

 そんな状態だったが、師匠であるオルテガの屋敷を強襲されて、クリスとシルフィードは重傷を負った。

 そしてオルテガの身柄を返して欲しくば、アフリカにある地下の巨大洞窟にシンジで一人で来るようにとのメッセージが届けられていた。

 冷静に考えれば、恩人ではあるがオルテガ一人の身柄と、人類全体の脅威に対抗する準備のどちらを取るべきかは明白だった。

 だが、シンジはどうしてもオルテガを見捨てる事は出来なかった。

 シンジは険しい表情で近くにいるミーシャ、レイ、マユミ、カオルの三人に事情を説明していた。


「ボクは師匠の救出に向かう。罠だって事は分かっている。馬鹿な事をしているって事も分かっている。

 だけど、師匠を見捨てる事は出来ない。許してくれ」

「……シン様が決めた事です。あたしはそれに従います」

「……お兄ちゃんがオルテガさんを見捨てる決断をしたら、嫌いになっていたかも知れないわ。頑張って!」

「クリスさんとシルフィードさんの仕返しですね。ですが、準備はちゃんとして下さいね。あたしはまだ未亡人にはなりたく無いです」

「あれの準備はあたし達が進めておくわ。だから気兼ねなく行ってきなさい。ちゃんと生きて帰るのよ!」

「……ありがとう。必ず帰る! だから、あれの準備を急いでくれ! 嫌な予感がする。

 出し惜しみなんかしないで一気に叩き潰さないと、逆にこちらがやられる気がする。皆も十分に注意してくれ!」


 指定された場所はアフリカの巨大地下洞窟だ。確かに地下なら衛星軌道上からの攻撃手段は使えない。

 それにカオルの時に弐号機を一瞬で殲滅した事は知られているだろう。それなりの準備で待ち構えている事は想像が出来た。

 核ミサイル攻撃を受けて長期間の治療が無かったら、ここまで先手を取られる事は無かっただろうが、それは過ぎた事だ。

 悔やんでも仕方が無いと、気持ちを切り替えた。それに重傷を負う前に、ある程度の準備は済ませてあった。

 出来る限りの準備を済ますと、シンジは指定された地下洞窟に向かって行った。

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 第二発令所で日向、青葉、マヤの三人がコーヒーを飲みながら話していた。


「確かに中佐と一緒に映っていたあの娘が使徒だったんでしょうけど、何故殲滅しないのかしら?」

「彼女が最後の使徒であった事は間違い無いだろう。だが、今の彼女は本当に使徒なんだろうか?」

「どういう事?」

「胸のサイズが変わっていたろう。此処に来た時と、中佐と一緒に映った時とでは、あまりにサイズが違い過ぎる!」

「確かにあたしより小さかったのが、あのサイズになったのは納得出来ないわ。……でも、良く見ているわね。……不潔!」

「ま、まあ、男はそういう生き物なんだよ。でも、中佐の側に居るという事は使徒じゃ無くなった可能性もある」

「使徒によるサードインパクトの脅威は無くなったと言う事か」

「そうで無くては、【HC】を解散させないはずだ。それにあの時にターミナルドグマに出現したパターンイエローは中佐だと思う」

「そうか! 彼女と一緒に居る事もあるし、中佐が生きていたなら、それも十分ありえるな!」

「それでも本部施設の出入りが全面停止だなんて、どうなるのかしら? 此処は? 弐号機はどうなるの? 先輩も今はいないのに……」

「ネルフは……組織解体されると思う。俺達がどうなるのかは見当もつかないな」

「補完計画の発動まで自分達で守るしか無いのか」

「それと中佐が生きていた事から、隕石衝突回避作戦の成功率は上がったが、補完計画の発動が前倒しになる可能性もある」

「気は抜けないって事ね」


 三人は顔を見合わせて、深い溜息をついた。この先どうなるか、誰にも想像がつかない。不安が過ぎったが、それを口にする事は無かった。

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 ミサトは愛車を走らせ、そして夜の夜景が見えるところで停車させた。

 そしてハンドルに持たれかかって考え込んでいた。


(出来損ないの群体として既に行き詰った人類を、完全な単体としての生物へと人工進化させる補完計画。まさに理想の世界ね。

 その為にまだ委員会は使うつもりなのね。アダムやネルフでは無く、あのEVAを。加持君の予想通りにね。

 アスカも行方不明だし、心配だわ。まあ弐号機があれだからアスカを利用する事も無いわね。まったく、誰の仕業なの?

 しかし、シンジ君が生きていたから隕石の件は何とかなるだろうけど、こっちの対応も急がないと。でも、シンジ君と連絡がつかない。

 加持君が戻ってきてくれれば、まだ何とかなるかも知れないけど、もう、どうしろって言うのよ!?)

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 スペースコロニーにある日本人一家が移り住んでいた。両親と中学生の息子の三人家族であった。

 とある事情で地方に住んでいたが生活が苦しい事から移住申請を行い、無事に審査が通って現在はスペースコロニーに住んでいた。

 両親はコロニー内の生産工場に勤務しており、家族の生活は安定していた。そしてリビングで三人が歓談していた。


「財産をネルフに没収されて、第三新東京を追放された時はどうなるかと思ったが、やっと安定したな」

「そうね。アキラが馬鹿をやった所為で、あの時は不安だったけど、今はこうして安定した生活が出来ているから良かったわ」

「悪かったよ。でも、あの時はシュウジに逆らったら俺が虐めに遭ったかも知れなかったんだ」

「それは聞いたわよ。でも、大勢で少数を虐める事の怖さが分かったでしょう。良い勉強をしたと思うのね」

「そうだな。碇シンジ君、いや、シン・ロックフォード博士に十人で虐めをしようとしていたんだからな。

 幸いと言っては何だが、あの時はそれを誰も知らなかった。今なら彼に近づく事も出来ないだろうけどな。

 もし彼があの時の事を覚えていたら、私達一家がスペースコロニーに移住は許可されなかったろう」

「あいつの正体を知って、突っかかる程馬鹿じゃ無いよ! あの時は普通の下級生だと思っていたんだ!」


 この家族の長男は、以前に第壱中学でシンジに絡んで中学を強制退学。そして他の九人の同級生と一緒に第三新東京を追放されていた。

 その十人のうちの四人はネルフの幹部を父親に持ち、父親の権威を盾にして学校内で暴力をふるって横暴な態度を取っていた。

 そしてネルフの特殊監査部からのアルバイト依頼があって、シンジを十人がかりで襲おうとした。(16話参照)

 勿論、返り討ちに遭って今までの非行も暴露され、被害にあった人達への賠償の為に財産をネルフの強権で強制没収されていた。

 このアキラは十人のグループの中では腰巾着的な扱いであった。父親が普通の会社員だった事も影響していた。

 シンジとは直接話した事も無く、第三新東京からの追放が決まった。財産を没収されて、地方にあった祖父の家に転居したのだ。

 父親も強制解雇された為に、新たに就職先を見つけたが収入は低く、生活は苦しい状態が続いた。

 そしてスペースコロニーへの移住が募集された時、今の苦しい生活を続けるよりかは良いだろうと判断して申請を行った。

 勿論、その時はアキラが暴行を加えようとした下級生が、シン・ロックフォードであるとは知っていた。

 以前の事をシンジが覚えていれば、絶対に許可されないだろう。だが、今の苦しい生活から抜け出すチャンスを無駄にはしたく無かった。

 幸いにも申請は許可されて、家族三人は無事にスペースコロニーに移住してきた。

 仮にだが、第三新東京に留まっていれば、零号機と参号機の自爆に巻き込まれて死んでいたかも知れない。

 それに巨大隕石群の脅威に怯えて、不安な生活を続けていたかも知れない。『災い転じて福と為す』と言うべきだろうか。

 最初の財産は没収されたが働けば良い。そして不安な生活を送る事も無い。三人はやっと手に入れた安住の生活を楽しみ始めていた。


「そう言えば、他の九人とはもう連絡はつかないのか?」

「ああ。五人とは直ぐに音信不通になったよ。転居先も知らないしね。ただ、マサシの話しだと、シュウジ達は転校先でも暴力を

 ふるって退学処分になったらしい。かなり荒れているってさ。マサシは何とかうまくやっているって」

「転校先でも暴力か。父親がネルフの高官の時に染み込んだ特権意識は無くならないのか。そういう人間だと思うしか無いだろうな。

 財産没収の上の第三新東京からの追放は痛かったが、彼らとの関係を切れたんだ。

 今もあそこにいれば、アキラが虐めの対象になった可能性もある。それを回避出来たと思えば、結果的には良かったんだろうな」

「そうかも。あいつらは気に入らないと直ぐに暴力をふるってきたしね。離れられて、ほっとしてるよ」

「こちらの学校はどうなの? 虐めとかは無いの?」

「大丈夫だよ。日本の学校のように生徒は好き勝手は出来なくて、逆に先生の指示に従わないと直ぐに罰せられる。

 それに先生もきちんと全員を見てくれるしさ。勝手な事をしたら学校を追放される事になるから、誰も大人しいもんだよ」

「罰則は日本よりも厳しいのね。逆に安心だわ」

「親が子供を庇って学校に文句を言ってくれば、治安維持部隊の人が来てどっちが悪いかを判断してくれるってさ。

 それで親も悪ければ処分は親にも及ぶから、日本のようなモンスターペアレントは出来ないんじゃ無いのかな。

 言いっ放しは許されないって言ってたよ。文句を言うからには、その発言に責任を持たないようでは駄目だって」

「じゃあ、こちらの学校にも馴染めたんだな。もう虐めなんかに関わるなよ」

「ああ、大丈夫だよ。もう馬鹿な事はしない。嫌な事ははっきり嫌と言うさ。もう、機嫌を伺ってビクビクするなんて嫌だからさ」


 スペースコロニーでも教育は重視されていた。教育を疎かにしては、ろくな大人に為らない事は当然の事だったからだ。

 そして生徒達の自主性はある程度は尊重するが、いざという時は教師達がすぐに介入する事になっていた。

 過保護な親など認めない。一方的な理由から過度に学校の方針に介入してくる場合は、親と子供の双方を罰する規定になっていた。

 それと言葉遣いやマナー重視の教育方針を採っていた。言葉遣いが乱暴で他者の立場を考慮しない発言を繰り返す子供には、

 一定期間の矯正施設での徹底教育が実施される事になっていた。これは強制教育であり、断る事は出来なかった。

 何より、卒業後であっても以前の教え子が粗暴な行いをして犯罪などをした場合、担任の教師の査定ポイントが下がる仕組みだ。

 教師に権限を与える代わりに、責任も持たせたのだ。この為に、矯正教育が終わらなければ何時までも施設から出られない。

 そして最悪は子供であっても矯正が無理と判断された場合は、スペースコロニーからの追放処分が待っていた。

 勿論、教師達の暴走を防ぐ監視体制も整っていた。理不尽な扱いを受けたと感じた生徒は学校にある外部の監査機関に訴える事も出来た。

 そして元気が有り余っている子供達のストレスを溜めないように、スポーツ教育にかなり力が注がれていた。

 又、歴史教育に関しても北欧連合の歴史認識をベースに、統一された教育が行われる事となった。

 様々な国から移住者が来ており、その各々の国の文化を否定するつもりは無い。

 実際に各国の貴重な文化財を展示してある博物館は複数存在している。だが、異なる見解の歴史教育を認めては後々の問題になる。

 その為に統一した歴史教育を受ける事は、北欧連合自治領の国籍を得た人間の義務となっていた。

 この事により、滅多な事では学校で虐め問題が発生する事は無かった。

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「くっ! やっぱり奴らは侵攻してきたか! 直ぐに総司令部に連絡を入れろ!」

「必ず援軍は来る! 諦めずに戦線の維持に努めるんだ!」

「奴らの侵攻を許したら、物資は略奪されて市民は虐殺される! 絶対に阻止しろ! お前達の家族を守る戦いだ!」

「燃料が不足しているから、敵の侵攻は陸軍部隊が主力だ。航空部隊は我が国の方が優勢だ! 落ち着いて迎え撃て!」


 世界の各地で計ったかのように、ネルフ支持国で国の経済が傾いて貧窮に喘ぐ国々は、隣国への侵略を同時に開始した。

 【HC】支持国で経済的に余裕がある国、又は経済的に余裕が無くても、食料などの備蓄がある国が目標とされた。

 合計すると戦闘が発生したポイントは世界中で三十箇所を超えていた。それがほぼ同時に発生していた。

 侵攻する側も飢えに困っての事であり、侵攻を止めれば国民が餓死するだけと分かっていたので、引けなかった。食うか食われるかである。

 北欧連合は各地に機動艦隊を派遣していたが、規模はかなり小さい。

 その為、機動艦隊の支援攻撃では不足していたので、【ウルドの弓】を使って、本格的な防衛支援攻撃を行おうとしていた。

 もっとも、北欧連合が支援攻撃を行ったのは友好国のみである。その他の国家への侵略行為に介入する勢力は存在しなかった。

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 隣国でクーデター未遂事件が発生し、その状況は直ちに日本政府と戦略自衛隊に通報された。

 その報告を受けて、戦略自衛隊は第二種警戒体制から第一種警戒体制に変更して、不測の事態に備えようとしていた。


「クーデター未遂事件か。これであそこが我が国の要求を呑む事は無くなった。海上の哨戒ラインの監視を徹底させろ!」

「我が国があそこを支援する可能性はゼロになったな。しかし、自浄能力さえも無くなっていたか」

「あの国が再生出来る最後のチャンスだったんだが。まあ、仕方あるまい」

「実利よりプライドを選択したか。あそこの国が選んだ結果を我が国は尊重するとしようか。これで国交断絶は決定だな」

「あそこの国が生き残れればな。北に完全侵略されたら国が消滅する。そうしたら自動的に国交は途絶える」

「政府が亡命政府など認める訳も無い。あそこからの密入国者が激増する事も考えられる。絶対に我が領海内に入れてはならん!」

「世界各地で貧窮に喘ぐ国々が、物資に余裕がある国に攻め入っている。日本は海と言う天然の防壁があるが、気を抜く訳にはいかんな。

 それと首相官邸に複数の各常任理事国の大使が訪れたという情報が入った。どうなるか、皆目見当がつかないな」

「今更、各常任理事国の大使が首相に何の用事があると言うのだ?」

「さあな。使徒は全て倒されて、サードインパクトの危険性は無くなった。【HC】は解散したが、ネルフはまだ残っている。

 その対応の協議かも知れん。今更各国の大使が隕石衝突回避作戦に介入出来るはずも無いしな。それぐらいしか考え付かない」

「ネットの噂で、ネルフが特別宣言【A−19】を上回る別の特別宣言の準備をしているというのもある。さて、どうなるかだな」


 世界各地の紛争の状況はリアルタイムで把握していた。現在、各地で起きている紛争は日本からの距離は遠い。

 そちらに関しては日本に影響が出るとは考えてはいない。それより戦自は隣国の情勢に注意していた。

 そして、終に戦火が開かれたとの連絡が入ってきた。


「た、大変です! 隣国で本格的な戦闘が始まったとの連絡が入りました。既に南の首都は北の砲撃を受けている模様です!」

「邦人の帰国は順調に進んでいたから、残っているのは大使館員ぐらいだったな。

 既にあそこの首都の大使館は閉鎖して、南の領事館に移っている。救出を急がせろ!

 物好きで残った奴らは自己責任だから気にする事は無い。生きるも死ぬも奴らの自由にさせておけ!」

「それと各基地にその事を連絡だ! 気を抜くなと注意しておけ! 特に対馬海峡と日本海に注意しろ! 絶対に不法入国を許すな!

 隣国からの大量の難民を受け入れたら、我が国が窮地に陥る。警告に従わない場合は、武力行使も許可する!」

「我が軍の支援が無ければ、あそこは二週間で弾薬が尽きる。そうなると我が国は直接北の独裁国と対峙する事になるのか」

「味方のふりをして背中を狙われるより、正面から敵対している方が気が楽だからな。精神的にもその方が良いだろう」

「あそこの国力レベルでは絶対に制海権を取られる心配は無いからな。防衛戦になれば、負ける事は無い」

「クーデター未遂で浮き足立ったところを狙われたか。北も抜け目無いな」

「南の軍司令部から緊急支援要請が入っています!」

「無視しろ! 我々戦自が許可無く動けるはずも無い。そういう交渉は政府が窓口だ。政府にはそういう要請があった事は連絡しておけ」

「まったく、世界各地の三十箇所で同時に侵略騒ぎか。隕石衝突回避作戦の第三段階が間もなく始まるというのに、どういう事だ?」


 巨大隕石が地球に衝突すれば、間違い無く人類は絶滅する。その衝突回避の第三段階の作戦がこれから実施されようとしているのに、

 人類同士が争うなど、何か不吉な予兆を戦自の将官は感じていた。

 その時、首相官邸から連絡が入ってきた。


「はい、私です。……ネルフがサードインパクトを!? 証拠は……地下に使徒を隠していたと!? それを使ってですか!?

 ……はっ、分かりました。直ちに第三新東京へ部隊を向かわせます! では正式発令を待って攻撃を開始します!」

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「何だとっ!? いきなり司令部が攻撃されたと言うのか!? 防衛部隊は何をやっていたのだ!?」

「敵の航空攻撃隊もミサイルの反応も無かったそうです!」

「なら、どうやって……まさか、【ウルドの弓】の攻撃だと言うのか!?」

「まさか!? こうも素早く北欧連合が動くのか!? それとも秘密の防衛協定を既に締結していたのか!?」

「前線から応援要請が来ています!」

「駄目だ! 司令部が潰されたから連携が取れない。ぐっ!」


 自国が貧窮に喘いでいた為、まだ物資に余裕がある隣国に侵略を開始したが、あっと言う間に司令部を潰されていた。

 とはいえ、ここで引いては国民は餓死するだけだ。それを回避するのは隣国の食料を奪うしか無い。

 その場合は侵略された側の国民が餓死してしまうが、死ぬか生きるかの状態に追い込まれた今、そんな人道主義を唱える人間は居なかった。

 司令部を潰されたと言っても、侵略を止める訳にはいかない。自分達の家族の命が掛かっているのだ。

 他の部隊との連携が取れなくなっても、絶望的な侵略戦を続けるしか、彼らに残された道は無かった。


 このような状況は北欧連合の友好国に攻め入った国々の軍隊に、数多く発生していた。

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 某国の日本人街に緊張が走っていた。この国の政府の穏健派がクーデターを起そうとしたが、発覚して逆に粛清されてしまった。

 その混乱に乗じて、北の独裁国が食料や物資を求めて侵略を始めたのだ。

 日本人街は独裁国との国境からは遥かに離れているが、それでも此処に戦禍が迫らないと断定出来るものは無い。

 住人達は暗い表情で今後の事を相談しあっていた。


「穏健派がクーデターか。結構、思い切った事をしたもんだな」

「もう、あの歴史が全ての国民に浸透してしまったのね。やっぱり今から自主的に路線を変えるのは無理だったのね」

「そんな事はどうでも良い! 問題は北の軍隊が侵略を始めたという事だ。首都は国境線に近いから直ぐに落ちるだろう。

 問題は此処まで北の軍隊が来るかどうかだ! もし北の軍隊が此処までくれば略奪されてしまうぞ! 俺達は皆殺しになるかも知れない」

「此処にあるのはほんの僅かな食料だけだ。まともな財産と呼べるものは無いし、略奪されようが無いだろう」

「あんたは無抵抗主義を訴えていたろう。武力を持たなければ攻め込まれる事は無いと、何度も主張していたしな。

 北の軍隊が此処に来たら、抵抗しないから見逃してくれと交渉してくれ!」

「ちょっと待って! 無抵抗主義だなんて日本人を騙す為の嘘に決まっているでしょう! そんな事を今言われても困るわ!」

「仮にも、政治家だったんだろう。口は上手いはずだ。出来ないのか?」

「女であるあたしに殺気だった北の兵士と向かい合えって言うの!? 冗談じゃ無いわ!」

「使えない奴だな。まあ良い。他にも日本で話し合えば何とかなると主張していた政治家が何人かいたな。交渉はそいつらにやらせよう。

 交渉が決裂した時は、日本人達に銃を持って戦わせる。俺達はその隙に逃げるか」

「此処にいる日本人は肉体労働なんてしてなかったからな。身体が鈍っているから、銃を持っても戦えないだろう」

「構わん。あいつ等が死ねば、食料が浮く。使えない奴らには消えてもらった方が良い。

 その方が俺達に回ってくる食料も少しは多くなる。どの道、あいつ等は祖国にも帰れずに、誰にも看取られずに死ぬ運命なんだ」

「……少々欲張った為に日本から追い出されて、見放されて死ぬのか。まあ、仕方の無い事とは言え、少し可哀相だな」

「俺達は祖国の為に頑張ったが、あいつ等は金の為に日本を売ったんだ。そんな奴等に掛ける慈悲は無い。

 金で祖国を売るような奴らは、直ぐに裏切るからな。あいつ等が北と交渉して成功されても困る。機会があれば直ぐに処分した方が良い」

「まあな。俺達だってどうなるか分からないんだ。裏切り者の日本人の事なんか、どうでも良いか」


 この街の住民の半数以上は、この国の民族と同じだが言葉は通じない。その為に、同じ民族からも忌避される傾向にあった。

 自分達でさえどうなるかも分からないのに、金で工作員に引き込んだ日本人の心配をする人間は誰も居なかった。


 此処にいる日本人にも言い分はあった。自分は小遣い稼ぎのレベルで頼みに応じただけであり、国を売ったなどと大それた気は無かった。

 まず殆どの日本人はそう言い張るだろう。事実、深刻に祖国を憎んでいる人間など誰も居なかった。

 だが、結果的には金銭の為に、祖国を裏切る行為をした事には間違いは無い。

 一部はかなり高額な報酬を受け取って、大々的な工作を行った人間もいたが少数派であった。殆どの人間が微罪だった。

 しかし、その僅かな隙が敵対国からの工作員を引き入れる事になり、色々な日本の不利な状況の原因になったのも事実だった。

 二国間の関係が極端に悪化した事もあり、金の為に日本に被害を齎した原因を作った人間の抗弁を、まともに聞く人間は誰も居なかった。

 僅かな隙が生み出した悲劇である。この悲劇の責任は誰が取るべきなのであろうか? それを正確に答えられる人間は誰もいなかった。

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 北欧連合の軍部、その一部局である衛星管理局は大騒ぎになっていた。

 世界各地の友好国が侵略を受けて、北欧連合に支援攻撃要請が入って来た為である。


「参謀本部からの要請だ。南米管理下の【ウルドの弓】でM国の侵攻部隊の司令部を殲滅せよ!」

「アジア管理下の【ウルドの弓】は、洋上を航行しているC国の輸送艦を全て始末しろ! 上陸前に全て潰せ!」

「西アフリカ管理下の【ウルドの弓】は、P国の侵攻部隊全てに効力射! 急げ!」

「全ての侵攻してくる軍を攻撃する必要は無い。奴らの神経に相当する指揮系統を破壊すれば無効化出来るんだ、急げ!」

「派遣艦隊司令部より入電! ワルキューレの対地攻撃装備が底を尽きつつあり。補給が追いつきません!」

「ワルキューレは各地の侵略してくる航空兵力の撃滅に専念させろ! 対地攻撃は全て【ウルドの弓】が行う!」

「実弾兵器と違って、こういうエネルギー兵器は弾切れを心配する必要が無いから助かるな」

「ここが踏ん張りどころだ! 何としても、我が国の友好国を侵略の手から守るのだ!」

「極東アジアの半島でも戦闘が行われていますが、そこはどうしますか?」

「あそこか? そもそも国交の無い国を我が国が支援する必要は無い。気にするな」 

「了解です。日本の核融合炉発電施設の基地保安部隊のワルキューレは第二種警戒体制に入っています」


 北欧連合は基本的に外部侵攻能力は無かった。だが、【ウルドの弓】を使用する事による世界各地への対地攻撃能力は保持していた。

 そして、友好国への侵略の魔の手を払い除ける切り札として、【ウルドの弓】の使用権限が一時的に衛星管理局に戻され、ほぼ全基が

 各地の侵略軍への攻撃を開始していた。衛星軌道上からの粒子砲を防ぐ手段は、どの国も所有していない。

 【ウルドの弓】の攻撃に耐えられるはずも無く、侵略軍の指揮系統は次々に破壊されていった。

 だが、順調に作戦が継続していると衛星管理局の職員が考えていると、異常を示す情報が入ってきた。


「た、大変です! 衛星軌道上の各衛星が次々に接続を絶っています!

 監視衛星、通信衛星、気象衛星、GPS衛星、【ウルドの弓】もです!」

「何だと!? 至急原因を確認しろ!」

「生き残っていた監視衛星の情報から、世界各地で強烈な発光現象が確認されています!

 恐らくは何らかの光学兵器による地上からの攻撃では無いかと推測されます!」


 北欧連合が管理している通常の人工衛星の軌道は、ゼーレ側は地上からの観測で全て把握していた。

 ステルス機能を備えている【ウルドの弓】の軌道は観測では分からなかったが、世界各地の侵攻軍に対する粒子砲の砲撃の軌跡を解析して、

 位置を特定していた。つまり、世界各国の貧窮した国の侵攻軍を捨て駒として、【ウルドの弓】の位置情報を得たのだった。

 【ウルドの弓】はステルス機能を備えてはいるが、シールド展開機能は持ってはいない。

 地上からの強力な粒子砲の直撃を受けては、耐える事など出来なかった。ゼーレの総力をあげた攻撃が始まった。

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 不知火は中将に昇進して、古巣である日本駐在の国連軍(旧自衛隊)に戻っていた。

 今は戻ったばかりで指揮部隊の状況把握に忙しかったが、世界の各地で紛争が始まった事もあって目を光らせていた。


(ネルフの動向に注意を払わなくてはならないから、基本的に国外の紛争介入は日本の部隊は行わないと上からは釘を挿されている。

 今のところ、日本の周囲で紛争が起きているのは二箇所だが、一箇所は北欧連合が直接介入している。

 友好国だから支援は同然だろう。これであの大陸国も諦めるだろう。問題は隣国だ。あそこはどちらも北欧連合とは関係が無い。

 日本の部隊が介入しないならば、二週間であそこは落ちるだろう。大量の難民が日本に来れば、食糧危機が発生する。

 戦自が哨戒ラインを厳重に取り締まっているから大丈夫だとは思うが、どうなるかだな。

 中佐に見せて貰ったゼーレの人類補完計画がどうなるか? すぐには動けないとはいえ、気を抜く事は出来んな)


 シンジからの連絡もあって、日本の国連部隊はまだ静観している状態だった。

 そして要請があった時は介入する予定であり、その準備は怠ってはいなかった。

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 冬宮は理事長室で車椅子に座って、一人で考え事をしていた。


(最後の使徒が消えた今、ゼーレの計画する人類補完計画の発動が迫っている。だが、隕石衝突回避作戦も手を抜く事は出来ない。

 一般には使徒戦の事は公表していないから、隕石の件の方で世間に不安が漂っている。

 まあ、博士の生存が明らかになったから、少しは期待が持てると世間では噂されているから少しは安定したな。

 各地で紛争が始まった。まだ、我が日本にその影響は無いが、巻き込まれないという保証は無い。

 これで原油の輸入ルートの安全も脅かされるだろうが、核融合炉発電が順調だから一先ずは安心だ。

 だが、早期に世界の紛争を止めて貰わないと、必ず悪影響が出てくるだろう。

 スペースコロニーには予定通りの人員を送り込めた。最低の民族存続の保険は掛けられたが、これからどうなる事か?)


 シンジから連絡があったが、内容は今までの経緯の説明と、これから色々な事件が発生するだろうが、慌てないで欲しいという内容だった。

 今の冬宮に急いでする事は無く、状況を見守っていた。

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 ES部隊五百名とサイボーグ戦士二千人は、巨大な洞窟内でシンジを待ち構えていた。

 中は巨大な空間があるが、出入り口は一箇所しか無い。そして地下で戦うなら【ウルドの弓】は無効化出来る。

 既に部隊の布陣は済んでいた。戦力的には小国であれば、この部隊だけで攻め滅ぼせる。

 ES部隊は切り札として後方に、サイボーグ戦士達は捨て駒扱いで入口近くに布陣していた。


 クリスの行動を監視していて、幸運にも恵まれて結界内のオルテガの屋敷を襲撃する事が出来た。本来の目的はクリスの拉致だったが、

 逃げられてしまった。だが、死亡したオルテガはクリスから様をつけて呼ばれていた。そして屋敷内を捜索してシンジの幼い頃の写真を

 見つけた事から、死んだオルテガとシンジの間に深い関係があったと推測され、シンジを誘き出す材料になるだろうと判断された。

 オルテガは死んでいるが、その事はシンジ達は知らない。その事からもシンジが来る事は間違い無いだろうと思われていた。

 準備を済ませたES部隊員の二人は、小さな声で話し始めた。


「おい、いくら魔術師だからって、ここまでの戦力を集める必要があったのか? この戦力なら一国ぐらいは滅ぼせるぞ」

「婆さんが死んだとは魔術師は知らないだろうから、絶対に奪還しようとするだろう。だが、入口は狭いから重装備では入れない。

 軽装で来るとは分からないが、強襲は出来ないだろう。まあ、かなりアバウトな作戦だから、ここまでの人員を集めたんだろう」

「透視能力者が周囲を警戒しているから、いくら魔術師だって奇襲は出来ないだろう」

「そうだな。罠も用意してある。これで魔術師も年貢の納め時だと思うが、気は抜くなよ」

「分かっているよ。今まで魔術師に散々やられたんだ。仲間の仇を討たないとな」

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 シンジは装甲スーツを身につけて、目標の洞窟から五十キロのポイントまで移動すると、そこから亜空間に転移した。

 どうせ、拠点を構築して自分を待ち構えているだろう事は容易に想像出来た。敵の開けた口に無防備で突っ込む気は無かった。

 それに第一目標はオルテガの救出だった。まずはオルテガの安否の確認を優先させる必要があった。


 亜空間にいる状態でシンジは洞窟内部に移動した。洞窟の入り口にはサイボーグ戦士の大部隊が、重火器を構えて待ち構えていた。


(やっぱり待ち構えていたか。まあ、当然だろうな。しかし、洞窟の入口に約二千人のサイボーグ戦士を布陣しているか。

 しかも戦車やロケット砲まで用意してある。その後方にはES部隊約五百人か。ここまで人数を集めるとは。

 ES部隊の攻撃も侮れないし、やはり奇襲で人数を減らすしか無いだろう。

 そして肝心の師匠は何処にいる? 姉さんとシルフィードを本来は使えない転移の魔術を使って逃がしたんだ。

 疲れて身体を壊していなければ良いけど…………居た! ……まさか!? 生命反応が無い!?)


 亜空間から知覚を伸ばしてシンジはオルテガを見つけたが、既に息絶えていた。オルテガはクリスとシルフィードを逃がした時に

 息絶えたが、それはシンジが知る由も無かった。分かったのは、オルテガの遺体を無造作に放置してある事だけだった。

 この時、左目を通して衛星軌道上にある様々な人工衛星が次々に破壊されている事が知らされた。しかも通常の衛星だけでは無く、

 オーバーテクノロジーを使った【ウルドの弓】も破壊されていると言う。隕石衝突回避に対して、最後の迎撃システムの一部と考えて

 いたので、正直言って【ウルドの弓】の消失は痛かった。残ったのは大西洋からロシア上空のエリア用の三基だけだ。

 本国の周辺は流石に紛争は生じなかったので、攻撃が行われなかったので生き残っていた。

 簡易砲台を多数用意したから、ある程度のフォローは可能だが、迎撃作戦の一部の修正を迫られるだろう。


(【ウルドの弓】の管理権は軍に移管してあるからな。今戻っても意味は無いし、戻る気も無い。

 師匠を遺体を辱めた罪。姉さんとシルフィードに重傷を負わしてくれた罪。きっちりと清算させて貰う。

 サイボーグ戦士二千人とES部隊五百人。それに戦車が三十台とロケット砲が十基。それ以外には戦力は無いな。

 これなら一人で十分だ。まんまと洞窟の入口から入ったら蜂の巣になるだろうが、ボクにそんな事は通用しない。一人残らず殲滅する!)


 シンジは亜空間に潜伏したままオルテガの遺体の付近に移動した。そしてオルテガの遺体を見つめると違和感を感じた。


(師匠の身体の中に僅かな振動で爆発する小型のナパーム弾が内蔵されている! ボクが師匠の遺体を奪い返そうとしたら、

 ボクごと焼き尽くそうと考えたのか!? 死体を冒涜するにも程度ってものがあるだろう! 絶対に仇を取る!!)


 シンジはオルテガの遺体に埋められているナパーム弾だけを別の亜空間に転送した後、オルテガの遺体をさらに別の亜空間に転送した。

 そしてES部隊が騒ぎ出す前に致命傷を与えようと、ナパーム弾をES部隊が布陣している中央に戻した。


 そしてナパーム弾が爆発した。数千度の高熱がES部隊の主力に襲い掛かった。ある者は咄嗟に危険を察知してシールドを張り、

 ある者は瞬時に遠方に移動して難を避けた。だが、ES部隊の二百人はナパーム弾の轟炎で焼き尽くされた。

 ES部隊とサイボーグ兵士は水中での活動を考慮して、体内に小型の酸素ボンベを内蔵しており、ある程度は酸素は無くても活動は出来る。

 だが、洞窟内に高温のガスが充満して、酸素が殆ど無い状態に長時間耐えられるはずも無かった。

 その為に、サイボーグ戦士の部隊とES部隊は逃げようと洞窟の出入り口に殺到した。

 それを通常空間に姿を現したシンジの攻撃が襲い掛かった。

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 ゼーレの科学者であるキリルは、ES部隊の主力部隊を率いてシンジを迎え撃とうとしていた。

 ES部隊の中でテレポート能力を有している者は、別の攻撃隊に配置されている。

 それ以外の大部分のES部隊員はシンジを抹殺する為に、この地に集められていた。それ以外にもサイボーグ戦士が二千人。

 それと戦車やロケット砲を含む多数の重火器が用意された。普通に考えれば、一個人に向ける戦力としては過剰だった。

 だが、核ミサイル攻撃からも生き残り、空間転移技術を有していると思われるシンジを迎え撃つには、この程度の戦力は必要だとキリルは

 考えていた。念の為に、オルテガの遺体にも細工し、もう一つ別の罠も用意していた。


 シンジに誘き出しのメッセージを送ってからは、透視能力者によって周囲十キロを常時監視していた。

 空間転移技術がどの程度の距離の転移を行えるか、判明していない。

 誘き出したは良いが、奇襲を受けては叶わないとして監視は怠ってはいなかった。


 その用意周到な準備をあざ笑うかのように、いきなりオルテガの遺体が消え去り、そして遺体に埋めてあったナパーム弾が爆発した。

 キリルは何とかナパーム弾の直撃は避けたが、ES部隊の約四割が瞬時に失われた。そして洞窟内には高温のガスが充満していた。

 このままでは酸素不足になって全員が窒息死してしまう。全員が洞窟の出口に向かったが、待っていたのは無数の粒子砲の砲撃だった。


(衛星軌道上からの攻撃を避ける為に、洞窟を待ち伏せ場所に選んだのが裏目に出てしまったか!

 よりにもよって、トラップのナパーム弾を逆手に取られるとは! しかも洞窟の出口で待ち伏せだと!

 だったら、他に出口を作るまでだ! ES部隊の能力を舐めるな!)


 キリルは配下のサイコキネシス能力者に命じて、洞窟上部を破壊させた。そしてサイボーグ兵士にはシンジが待ち構えている出口を突破する

 事を命じて、ES部隊には破壊した洞窟上部の穴から地上に脱出するように命令した。サイボーグ兵士を捨て駒にしたのだ。

 サイボーグ兵士は瞬く間に人数を減らしていた。出口が一つで、そこにシンジからの砲撃が集中していたので当然の事だった。

 だが、ES部隊の約三百人は別の穴から地上に出る事には成功した。

 そこには装甲スーツを身につけ、サイボーグ兵士に砲撃を加えているシンジがいた。

 そして陣形を整えたES部隊は、シンジへの攻撃を始めた。

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 ゼーレの科学者であるギルは、対宇宙攻撃部隊を率いていた。

 もっとも、一箇所に集中している訳では無く、世界各地に部隊は分散していた。

 その部隊が配置されている拠点では、次々に爆発が起きていた。


 ゼーレは北欧連合のワルキューレ本体を入手して、分解して解析を行い、粒子砲の基礎原理は理解していた。

 粒子砲の技術を入手出来れば、制宙権の奪還は容易だと考えていたが、現実は甘くは無かった。

 入手した粒子砲はエネルギー変換効率は高かったが、最高出力を上げると発射機構が持たないような構造になっていた。

 これでは航空機やミサイルの迎撃ぐらいには使えるが、衛星軌道上の目標を破壊するには出力不足であった。

 そこでゼーレの技術陣が考えたのは、宇宙から落下してきたサハクィエルを仕留めた時の技術の応用だった。

 【HC】の国連への提出資料には、サハクィエルは【ウルドの弓】を強制過負荷状態にして粒子砲を発射する事で仕留めたと書かれていた。

 過負荷で【ウルドの弓】は爆発したが、その一瞬の砲撃は今までの最大出力を遥かに上回る出力が得られたとレポートにあった。

 (実際にはオーバーテクノロジーを使用した別の巨大な砲台を使用したが、それを悟られない為の偽装工作)

 ゼーレの技術陣はその点に着目し、出力を上げると発射機構が持たない粒子砲だが、最初から破壊覚悟で過負荷状態で発射すれば

 どうなるかを地下施設で実験して検証した。

 そして粒子砲の発射機構は爆発したが、衛星軌道上の物体の破壊に必要とされる出力の確保に成功していた。

 繰り返し行われた地下実験で、最適と思われる粒子砲の発射機構は完成した。

 勿論、実地試験など行おうものなら、北欧連合に目を付けられ、事前に攻撃を受けたろう。

 だが、地下実験に徹した為に、対宙攻撃能力の切り札と目されたゼーレの粒子砲の技術の機密は洩れる事は無かった。

 そして、この日の為に大量生産されて世界各地に配置された。爆発しても一分以内に発射機構を交換して次の砲撃が可能な構造である。

 そのゼーレの努力は実り、北欧連合が所有する各種の人工衛星を次々に破壊していった。


 その様子をギルは笑みを浮かべて、見つめていた。


(実験通りの出力だ。今の時点で低軌道の人工衛星は全て破壊した。高軌道の人工衛星も位置が判明したものの半数は破壊した。

 後は時間だけの問題だな。完全に破壊したという保証は無いが、北欧連合の軍事衛星の大部分を破壊した事には間違い無い。

 弾道ミサイルの飽和攻撃に対応出来なければ良い。さて、それではスペースコロニーへの攻撃を行うとするか。

 補完計画を実行しても、スペースコロニーに生き残られては計画の意義を失ってしまうからな。

 わざわざ、我々の目の届くラグランジュポイントにスペースコロニーを配置したのが、奴らの失策だ。

 現在の移住者は約二百万人か。全員に宇宙の藻屑となって貰う!)


 ES部隊のテレポート能力者の約一割は、ギルの管理下にあった。そのES能力者にギルは命令を下した。


「対宙粒子砲の半数は目標をスペースコロニーにセットして、攻撃を開始せよ! ES部隊の跳躍準備はどうか!?」

「準備は完了しています。全員が携帯用核兵器を装備しています」

「よし! 少し様子を見る! 全ES部隊員はスペースコロニーへの攻撃準備! 命令があるまで待機せよ!」

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 ゼーレの科学者であるオーベルは、潜水艦隊を含んだ北欧連合への強襲部隊を率いていた。

 第一目標は北欧連合の各地にある粒子砲を装備した迎撃基地だ。これがある為に弾道ミサイル攻撃さえも無効化されてしまう。

 だが、北欧連合の有する軍事衛星と迎撃基地を破壊すれば、北欧連合の弾道ミサイルの迎撃能力は失われる。

 そうなった時には、各地の潜水艦からのSLBM、そして各地の発射基地からICBMが北欧連合目掛けて発射される予定だ。


 北欧連合の各地にある迎撃基地は三十八箇所。今までは諜報員を潜入させても、帰って来る者はいなかった。

 前回、ES部隊を潜入させてミハイルや財団の研究所や工場を攻撃させたが、あっさりと全滅した。かなり優秀な防諜組織があるのだろう。

 だが、一気に潰せば如何に優秀な防諜組織を持っていても無意味だ。力を発揮させる前に潰してしまえば、普通の獲物と変わりは無い。

 そして北欧連合の領海ぎりぎりの海中に、テレポート能力者で組織された強襲部隊を搭載した潜水艦があった。


「魔術師との戦闘は継続中で、北欧連合の所有する軍事衛星はほぼ無効化出来た。これで奴らの目と耳、そして腕を無効化出来た。

 次は奴らの盾を破壊する番だ! 各地の強襲部隊に行動開始命令を出せ!」

「了解しました!」

「強襲部隊の攻撃が成功すれば、SLBMとICBMによる弾道ミサイル攻撃と巡航ミサイルによる総攻撃を行う。

 各部隊に準備しておくように通達しろ! 結果観測も怠るな!」

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 北欧連合との領海間際の公海の海中に、一隻の小型潜水艦が潜行していた。

 搭載しているのはES部隊のテレポータ達と、小型の核兵器だった。

 北欧連合への強襲部隊の指揮官であるオーベルの命令は下った。

 ES部隊のテレポータ達は薬を使ってトランス状態になり、これから自分が転移する場所を強く念じた。

 そして核兵器の起爆タイマをセットすると、目標となる北欧連合の各地の迎撃基地へ転移していった。

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 ゼーレの科学者であるセシルは、北欧連合の目を世界各地に分散させる為に、貧窮して侵略行為を目論んでいた国家の調整を行っていた。

 もっとも、【ウルドの弓】にわざと攻撃させて位置を把握する為の捨て駒に過ぎない各国の侵略軍は、司令部などを砲撃されて指揮系統が

 混乱していた。それでも攻撃してきた【ウルドの弓】は全て破壊に成功した。セシルの作戦の成功を見て、笑みを浮かべていた。


(北欧連合の友好国に攻め込んでいた軍は指揮系統が破壊されて劣勢ね。予想では、このままジリ貧になって撤退するでしょう。

 だけど、目標である【ウルドの弓】の破壊が出来たから作戦は成功だわ。

 それにしても、友好国で無い国には一切の支援攻撃をしなかったか。あいつ等も徹底しているわね。

 さて、魔術師は仕留められるか分からないけど足止めには成功。北欧連合の軍事衛星はほぼ無効化出来た。

 後は迎撃基地を何処まで破壊出来るかね。此処までくれば、邪魔は入らないわ。スペースコロニーも落せるでしょう。

 SLBMとICBMで北欧連合のさらなる混乱を誘えれば、それで十分だわ。後は上に報告して、補完計画を発動させなくては!)


 ゼーレの最終目標は人類補完計画を実行する事である。その邪魔をすると予想される北欧連合は受けに回った。

 このまま攻撃を継続すれば、補完計画を邪魔する事は出来ないだろう。

 北欧連合を殲滅する必要は無く、補完計画の邪魔さえさせなければゼーレの勝ちだ。セシルは自分達の勝利を確信していた。

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 クリスは結界の中にあったオルテガの屋敷にいた時に、ゼーレのES部隊の襲撃を受けた。

 その時にオルテガの転移魔術によってシルフィードと一緒に難を逃れたが、無傷という訳にはいかなかった。

 オルテガは予知をメインにした魔術師であり、転移魔術は殆ど使えない。その為に不慣れな事もあってクリスとシルフィードが転移したのは

 ある山の山頂付近の上空二百メートルのところだった。クリスはシンジから力を与えられていたが、空中浮遊が出来る能力は無い。

 辛うじて重傷のシルフィードのフォローがあって即死は免れたが、それでも治療カプセルで二日間は掛かる重傷を負っていた。

 クリスは治療カプセルに入っていたが、思考制御回路によって外部の状況は逐次監視していた。

 そして【ウルドの弓】が次々に破壊される状況を知り、ミハイルと念話で話していた。


<オルテガ様とシルフィードとあたしが襲撃された事といい、【ウルドの弓】が攻撃を受けている事といい、ゼーレの総攻撃が始まったと

 判断して間違い無いわね。まさか此処までの被害を受けるとは思わなかったけど、これは一刻の猶予も無いわ>

<【ウルドの弓】が落されるとは想定外だが、これ以上の被害を受ける訳にはいかない。クリスに防衛指揮を頼めるか?>

<ええ。まだ治療カプセルからは出れないけど、指示は出せるわ。本国の全ての防衛能力を発揮させる時ね>

<私はTV中継とコロニーレーザーの管理があるから動けない。済まないが、宜しく頼む>

<分かっているわ。あたしをとオルテガ様を襲ったゼーレに報復する良い機会だわ。この際、徹底にやってやるわ!

 それはそうと、シンからオルテガ様の事で連絡は入っている?>

<いや、まだ連絡は受けてはいない>

<何か嫌な予感がするわ。でも、今はこちらを守る事を優先させなくてはね。任せて!>


 既に北欧連合本国には戒厳令が布かれている。正面きったゼーレの攻撃は軍に任せた方が良いだろう。

 そのような考えから、クリスは全土に網の目のように張り巡らした防諜組織『北欧の狼』の臨戦態勢を指示していた。

 重要施設への侵入者に対する処分や、ES部隊の探知に特化した部隊である。

 それと世界各地の海中に潜むゼーレの潜水艦の処分も決定していた。

 海中秘匿兵器である『ガラム』を起動させ、北欧連合が識別出来ていない全ての潜水艦を殲滅するように指示を出した。

 通常の国家所属の潜水艦とゼーレの潜水艦の区別など、外部からつくはずも無い。だが、北欧連合と同盟国、友好国の潜水艦は区別出来た。

 どの道、自国側で無いならゼーレの影響下にある可能性が極めて高いとして、識別可能潜水艦以外は全て無差別破壊の行動に出た。

 客観的に考えるなら、無関係の潜水艦をも攻撃対象としている暴挙だろうが、今はそこまで考慮している余裕は無かった。

 それと他にもゼーレの攻撃が為される危険性は十分にある。その一つがネット侵入による攻撃だった。

 本国なら独自のコンピュータシステムを導入しているので、ネット侵入攻撃は考慮しなくて良いはずだが、そこにもクリスは注意を払った。

 残るクリスの手札は無人戦闘機『フェンリル』だが、まだ人目に晒すのは拙いだろう。そちらの投入は時期を見るクリスだった。

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「敵の指揮系統は既に破壊された。ここがチャンスだ! 押し返せ!」

「北欧連合の支援攻撃は、何故中断したのだ!? 直ぐに問い合わせろ!」

「北欧連合に連絡! 侵略軍の指揮系統だけでは無く、戦車部隊にも攻撃を要請しろ!」

「グズグズするな! 敵の圧力が弱まった今が反撃のタイミングだ! 一気に潰せ!!」


 北欧連合の友好国に侵略した軍隊に対して、【ウルドの弓】による支援攻撃が行われた。確かに敵の指揮系統は破壊してくれたが、

 その後の支援攻撃は中断されたままだった。迎撃部隊の指揮官は怪訝に思ったが、それでも確実に敵の圧力は弱まった。

 ここが反撃のチャンスとばかりに、部下に攻撃強化を命令するのだった。


 一方、北欧連合の同盟国や友好国では無いのに他国から攻め入れられた国には、支援の手は差し伸べられる事は無かった。

 ゼーレの陽動の一環になればという思惑から、侵略のタイミングだけは合わせられたが、その後は何も考えてはいなかった。

 混乱さえ誘発出来れば、それで良いとゼーレが考えた事もあり、且つ、様々な要因が重なった理由もあった為である。

 侵略する側は物資に不足して飢えを理由に侵略してきた。ここで引けば餓死が待っているだけだ。

 それならば、他国の物資を強奪してでもと考えていたので、強引に攻め入っていた。そして防御側と激しい戦闘が発生していた。


「攻めろ! 攻めろ! 捕虜など要らん! 全て殺せ! その分、食料が手に入るんだ! 力の限り攻め込め!!」

「我が方の航空部隊の燃料と弾薬が不足気味で、航空支援は期待するなと司令部から連絡が入りました」

「構わん! もうすぐ奴らの防衛網を突破出来る! そうしたら燃料や食料が手に入る。攻めまくれ!!」

「絶対に倉庫には攻撃するな! 敵の部隊は全滅させろ! 急げ!!」

「三十キロ先に敵の倉庫群がある。そこが第一目標だ! 急げ! 邪魔するものは全て破壊せよ!」


 侵略する方も侵略される方も負ければ死が待っていた。仲介する勢力も存在しておらず、両者の戦闘は収まる気配すら無かった。

 そして侵略される方が劣勢になると、民間人の被害も徐々に増えていった。

 侵略する方から見れば、食料さえ手に入れば良い。目先の事しか考えていなかった。

 そういう人間からしてみれば、抵抗する民間人に遠慮する考えなど無く、虐殺が次々に始まっていた。

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 某国の政府要人達は、疲れた表情で会議を行っていた。

 今まで支援を受けていた組織から、このチャンスを使って侵攻し、かつて分かれた同胞が治める国を併合しようと目論んだのだが、

 見事に大被害を受けて失敗したとの報告が軍部から入ってきていた。


「今回のチャンスであそこを占領出来ると思っていたが、失敗したか」

「ああ。北欧連合の機動艦隊が出て来た。【ウルドの弓】の砲撃をくらって、我が方の地域司令部は壊滅だ。

 あのエリアの航空戦力の約八割が破壊され、海上戦力は全て海の藻屑となった。我々はあの島への侵攻能力を失った」

「まだ地対地ミサイル群は残っているだろう。あれで攻撃は出来ないのか? 理由は分からないが【ウルドの弓】の攻撃は止んだのだろう」

「あの島を占領して、我が国の正統性を示す事が重要なのだ。破壊する事が目的では無い。それに貴重な文化財を破壊しても良いのか?」

「あそこの故宮博物館にある文化財は、我々が受け継ぐべきものだ。我々の正統性を示す為にも破壊する訳にはいかん」

「そうだな。今回の北欧連合の攻撃の被害はまだ少ない方だ。今回は諦めるしかあるまい」

「同意しよう。それはそうと、北が南に攻め込んだそうだが、どうする? 放置か?」

「我が国が支援を止めたからな。食料不足があるから、口で言っても止めないだろう。それこそ支援を要求されるぞ」

「我が国だって余裕がある訳では無い。魔術師が生きていた事から、恐らくは隕石の件も何とかなるだろう。

 この後の事も考えると、今は動くべきでは無いだろう」

「ああ。今、下手に動いて北欧連合を刺激すれば、事件後の我が国への対応が一層悪化するだろう。今は静観すべきだな」

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 某国の政府要人は顔を青褪めていた。現在は首都を脱出して、南の軍事拠点に向かっている途中だった。

 独裁国の脅威は以前から叫ばれており、人数比では圧倒的に不利だった。確かに装備はこちらの方が高性能だが、武器弾薬の備蓄は少ない。

 支援が無ければ二週間で備蓄は尽きる。それも最初から分かっていた事だが、支援をあてにしていた日本からは断りの連絡が入っていた。


「日本は我々に支援をしないというのか? そんな事が許されると思っているのか!?」

「要求に従わない限りは一切の支援を行わないとの回答だ。だから強硬な態度を止めて、日本の譲歩を引き出すべきだと言ったんだ!」

「日本に膝を屈しろと言うのか!? お前は売国奴だ!!」

「そうだ! 何故、我々が日本に謝罪をしなくてはならないのだ!? 謝罪すべきは日本だ! 我々の輝かしい歴史に嫉妬しているのだ!」

「それで国が滅びても良いのか!? 日本は我々の亡命や難民の受入さえ拒否している。このままでは北に完全征服されてしまうぞ!

 そうなったら、我々全員が絞首刑か銃殺だ! それでも良いと言うのか!?」

「そ、それは……日本が全て悪いんだ! 日本の責任だ! 日本は我々を支援する義務があるんだ!!」

「そんな一方的な主張が通るはずが無いだろう! お前は物事の道理さえも分からないと言うのか!!」


 捏造された国史の変更と今までの侮辱行為に対する謝罪要求を突きつけられていた某政府は、最後まで強硬姿勢を崩さなかった。

 良識派と陰で呼ばれていた政治家と軍の幹部が画策したクーデターは、部下の裏切りによってあっさりと未遂に終わった。

 軍の下士官や兵士は上官から状況の説明を受けたが、今までの教育からどうしても上官の説明に納得出来なかった為だった。

 国を救う為のクーデターだったが、納得しなかった下士官は強硬派に密告して、クーデターを画策した勢力は全て粛清されていた。

 その為に政府内部は強硬派のみの体制になっていた。その状態で北の軍が侵攻を開始。首都への砲撃が始まっていた。

 北の装備は古いが、人数は圧倒的に多い。武器弾薬の備蓄も乏しく、二週間が抵抗出来る限度だと軍部から以前から指摘されていた。

 慌てた政府は日本に支援を要請したが、日本政府は首を縦にふる事は無かった。

 内々で打診した政府要人の亡命も、難民の受入も一切が拒否されていた。彼らに打てる手は無かった。

 これから祖国と自分達にどんな事態が待ち受けているのか? それを想像した政府要人達は絶望感を感じていた。

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 ゲンドウと冬月を十二個のモノリスが取り囲んでいた。


『約束の時が来た。『ロンギヌスの槍』と『リリス』を失った今、当初予定していた補完は出来ん。

 リリスの分身たるEVA初号機による遂行を考えたが、現実には無理だ。弐号機による遂行を行う』

「ゼーレのシナリオとは違いますね」

「人はEVAを生み出す為に、その存在があったのです」

「人は新たな世界へと進むべきなのです。その為のEVAシリーズです」


 此処までくれば、ゼーレも引かないとは分かっていた。無駄とは分かっていたが、ゲンドウと冬月は自らの意見を主張した。


『我等は人の形を捨ててまで、EVAという名の箱舟に乗る事は無い』

『これは通過儀式なのだ。閉塞した人類が再生する為の』

『滅びの宿命は新生の喜びでもある』

『神も人も全ての生命が死をもって、やがては一つになる為に』

「死は何も生みませんよ」

『死は君達に与えよう』


 そう言って十二個のモノリスは消えていった。これが終わりの始まりだった。

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 首相官邸の執務室で、首相は女性の秘書官と会話していた。


「彼らからの支援要請を断って、後で問題が起きませんか?」

「今は非常事態だ。各常任理事国大使がネルフがサードインパクトを起こそうとしている証拠を持ってきた。

 既に検証は終わったから間違いは無い。隣国の危機より人類の絶滅の脅威に対抗する方が優先だろう」

「その通りですね。我が国の要求に従ってくれれば、少しぐらいは支援出来たものを、彼らの方から断ったのですからね」

「後世で何と言われるかは分からないがね。それでもサードインパクトの脅威に対抗したという理由は残る」

「これからは北の独裁国と対峙する事になるのですね」

「世界一優秀な民族と自負している彼らだ。我が国の支援が無くても、独力で北を撃退するかも知れん。それに期待しよう」

「少し意地が悪いと思いますが、まあこれも彼らの選択した道ですから、彼らの意思を尊重すべきでしょうね」

「そういう事だ。『A−801』の根回しの準備はどうかね?」

「既に戦略自衛隊の各師団が第三新東京を包囲しています。直ぐに発動出来る準備は出来ています」

「では、後は補完委員会からの連絡待ちという事か。今回の件は北欧連合には連絡してあるが、彼らがどう出るかだな」

「はい。今は隕石衝突回避作戦に全力を注いでいるところです。北欧連合にはそちらで頑張って貰わないと」

「そうだな。我々のお膝元のトラブルは、我々の手で解決しなくてはな」

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 某国の軍司令部は侵略行為を撃退する事が出来て、安堵の溜息をついていた。


「何とか凌げたか。被害はどうだ?」

「航空攻撃に関しては、北欧連合の機動艦隊の支援がありましたので、航空機の約三割に被害が出ましたが、国内に被害はありません。

 奴らの航空戦力の大部分と地対地ミサイルも彼らが全て迎撃してくれました。敵の地方司令部も【ウルドの弓】で完全に破壊。

 奴らの海上戦力も全て海の藻屑と化しましたので、取り敢えずは大丈夫かと。引き続き、北欧連合の機動艦隊の支援は受けられます」

「そうか、彼らに礼を言っておいてくれ。周辺国の動きはそれぐらいか?」

「日本ではネルフを攻撃する動きが見受けられます。それと半島で戦闘が始まり、政府関係者は直ぐに首都を脱出しています」

「こちらに影響は無いだろうな?」

「どちらも海上戦力は近海エリアに限定されます。我が国とは距離がありますから、影響は無いでしょう」

「ちょっと待って下さい! 南の軍司令部から緊急支援要請が政府に入ったそうです」

「緊急支援要請? 我が国は侵略を受けて辛うじて撃退には成功したが、他国を支援する程余裕は無い。政府もその事は分かっているだろう」

「はい。政府は正式に支援要請を断ったそうです」

「当然だろうな。騙して国交断絶した国を支援する程お人好しの国では無いからな。これも自業自得と言うものだ」

「しかし、北の侵略を単独で撃退出来るとは思えませんが?」

「多分、全土を占拠されるだろうな。民間人も多くは虐殺されるだろう。だが、我が国だってそんな余裕がある訳でも無い。

 北欧連合の支援を受けている身で他国に支援など出来るはずも無い。我々は正義の味方では無く、自国民を守る義務があるのだ。

 確かに他国であっても民間人の虐殺は痛ましい事だが、それは我が国が責任を持つ事では無い。勘違いするな」

「はっ。失礼しました」

「消耗した部隊は補給と整備を急がせろ! 撃退はしたが、二度目が無いとは誰も保証はしてくれん。気を抜くなよ!」

***********************************

 ネルフの第二発令所に警報が鳴り響いていた。いよいよゼーレの攻撃が始まったのだ。


『第六ネット、音信不通!』

「左は青の非常通信に切り替えろ! 衛星を開いても構わん! そうだ、敵の状況は?」

「駄目です! 北欧連合の通信衛星が破壊された事で衛星回線は開けません!」


 冬月は突如始まった情報網への攻撃に対処していた。

 ゼーレからの攻撃があると予想はしていたが、此処までの規模は想像を超えていた。


『外部との全ネット、情報回線が一方的に遮断されています!』

「目的はMAGIか……」

「全ての外部端末からデータ進入! MAGIへのハッキングを目指しています』

「やはりな。侵入者は松代のMAGI二号か?」

「いえ、少なくともMAGIタイプ五、ドイツと中国、アメリカからの進入が確認出来ます!」


 青葉の前にあるモニターには、世界各地のMAGIから攻撃を受けている情報が示されていた。


「ゼーレは総力をあげているな。兵力差は1対5。……分が悪いぞ」

『第四防壁、突破されました』

「主データベース閉鎖! ……駄目です! 進行をカットできません!」

「更に外殻部侵入! 予備回路も阻止不能です!」


(まずいな、MAGIの占拠は本部のそれと同義だからな)


 MAGIを落されるという事は、ネルフ本部の陥落を意味する。それを知ってはいたが、今の冬月には何も対抗出来る手段は無かった。

 だが、拘束されているリツコなら。そしてゲンドウは既に動いていた。

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 北欧連合の各地にはレーダーサイトに併設して、粒子砲の迎撃基地が多数配備されていた。

 弾道ミサイルや巡航ミサイル、それに敵航空機の探知と迎撃が主な任務である。

 その威力は2009年の欧州国連軍が北欧連合に侵攻して来た時に立証されていた。

 そして敷地内には対諜報組織である『北欧の狼』が多数配置され、不法侵入者の取締りを行っていた。

 今まで始末した不法侵入者は総数で三桁になり、一度でも取り逃がした事は無かった。

 正面からこの迎撃基地を突破出来るはずも無く、秘かに侵入を試みても『北欧の狼』の餌食となる。

 まさに難攻不落の拠点だと思われていた。


 だが、その日に基地中央部にいきなりESP反応が検出された。機械的に『北欧の狼』の部隊は検出ポイントに向かったが、

 部隊のユニットが侵入者と接触する前に、基地の中央部で核爆発が発生した。

 その核爆発はレーダーサイト、そして核融合発電施設と粒子砲の発射システム全てを蒸発させてしまった。


 そのような光景が北欧連合の各地で発生していた。

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 グレバート元帥は総司令部にいて、世界全体の状況の把握に努めていた。

 世界各地の友好国への侵略は【ウルドの弓】の初期攻撃で侵略側の指揮系統が無効化された事で、何とか撃退出来る目処がついていた。

 だが、その代償に【ウルドの弓】の大部分を破壊されてしまった。正直言って、これは痛かった。

 【ウルドの弓】が失われた事で、世界各地への対地攻撃能力の殆どを失ってしまった。残っているのは本国の上空近辺の三基だけだ。

 三艦隊を友好国の近海に派遣しているが、それで全ての友好国をサポート出来る訳では無い。これ以上の友好国への侵略行為が行われた時、

 どのような対応をすべきかとグレバートが考えた時、通信員から緊急連絡が入ってきた。


「第十一、第十六、第二十二迎撃基地との通信途絶! 観測所から迎撃基地があったところにキノコ雲が観測されたと連絡が入りました。

 地震も観測されています。核兵器による迎撃基地への攻撃が行われた模様です!」

「何だと!? ミサイルの探知は出来なかったのか!? それとも潜入してきた特殊部隊がいるとでも言うのか!?」

「ミサイルの反応は一切ありませんでした! お待ち下さい! 第二、第七、第二十四迎撃基地とも通信途絶!」

「馬鹿な!? 奴らは直接我が国に牙を向けるというのか!? 全軍に戦闘態勢を取らせろ! 我が国上空の【ウルドの弓】は大丈夫か!?」

「はい! 三基はいまだ健在です! ですが、他の全ての人工衛星は破壊されてしまい、全世界の索敵能力は極端に低下しています!」

「衛星管理局に連絡! 奴らが人工衛星と迎撃基地を攻撃してきたという事は、我が国が弾道ミサイル攻撃を受ける危険性が極めて高い!

 集中して索敵に努めろと伝えろ!」

「は、はいっ! 何っ!? 世界各地で弾道ミサイルが発射された模様! 現在、目的軌道を計算中です!」

「拙い!! 衛星管理局と各地の迎撃基地に緊急命令! 何としても本国への弾道ミサイルを阻止させろ! 軌道計算は不要だ!

 直ちに全ての弾道ミサイルに対して攻撃を開始せよ!

「了解です!」

「巡航ミサイル攻撃も為される危険性がある! 迎撃基地のレーダーサイトが無効化された今、隙をつかれる危険性がある。

 各地の空軍基地に連絡! 直ぐに予備の早期警戒機とワルキューレも発進させろ!

 哨戒中の航空機が巡航ミサイルを見つけた場合は、直ちに撃ち落とせ!」

「了解です!」

ラグランジュポイントにあるスペースコロニーの周囲に次々に発光現象を確認! 攻撃を受けていると思われます!」

「何だと!? 損害は!?」

「今までの攻撃はスペースコロニーに張られたシールドで防がれています! 今のところは……何っ!?」

「どうした!? 状況を報告しろ!」


 ここまで一方的に攻撃を受けるとはグレバートは想像していなかった。今、残っている軍事衛星は【ウルドの弓】が三基だけ。

 そして本国の迎撃基地が次々に攻撃を受けているのだ。グレバートの顔色は蒼白になっていた。

 そして周囲が騒がしい中、通信員の報告が続けて入ってきた。

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 ゲンドウの命令を受けた職員は、リツコが収容されている部屋を訪れていた。

 リツコは状況を何故か知っていた。職員が口を開く前に、俯いたままのリツコは用件を口にした。


「分かってる。MAGIの自律防御でしょ」

「はい。詳しくは第二発令所の伊吹三尉から」

「必要となったら捨てた女でも利用する。エゴイストね」


 リツコは暗い声だったが、立ち上がった。自分の夢の中に現われたシンジの言葉を思い出していた。

 そして今こそがその時だろう。上手く行けば自分の両足の再生治療を行ってくれるかも知れない。リツコの目に光が篭っていた。

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 敵の用意していたナパーム弾を使用して燻り出し作戦を行ったシンジは、洞窟の出口で出てこようとしているサイボーグ兵士に

 装甲スーツの粒子砲と自動攻撃ビットからの粒子砲の攻撃を加えていた。このままいけば、順調に殲滅が出来る。

 時間が経てば、中の酸素不足で窒息死するか、粒子砲の攻撃で死ぬかの二択だろうと考えていた。

 だが、敵はそんなに甘くは無かった。洞窟の上部をサイコキネシスで破壊し、ES部隊約三百人が地上に姿を現していた。


(流石に、このまま簡単には済ませてはくれないか。確かに三百人のES部隊は脅威だが、こちらも準備は万端だ。一気に殲滅する!)


 洞窟の出口のサイボーグ兵士への攻撃は自動攻撃ビットに任せて、シンジはES部隊と相対した。

 ES部隊から、電撃や竜巻、それに光線のような色々な攻撃が行われたが、全て装甲スーツのシールドで防がれていた。

 シンジは高出力粒子砲にエネルギーを溜めて、ES部隊の中央目掛けて撃ち出した。

 同時に左腕のサ○コガンから無数の光を上空に放ち、曲線を描きながら四方からES部隊に降り注いだ。

 ES部隊は咄嗟に数人がシールドを張ったが、高出力粒子砲の前では紙と同じだった。

 あっさりとシールドは貫通され、ES部隊の中央部で巨大な爆発が発生した。

 そして上空から降り注いだサ○コガンの光は、ES部隊の周囲の部隊員の頭部を次々に撃ち抜いて行った。それは光のシャワーだった。

 シンジの顔には残忍な笑みが浮かんでいた。恩義がある師匠を襲撃、そして遺体にナパーム弾を埋め込んで道具扱いした。

 クリスとシルフィードに重傷を負わせた事もあって、このエリアの人間は全て処分するつもりだった。

 いかにES部隊が強力な力を備えていようとも、オーバーテクノロジーを駆使した装甲スーツのシールドは破れない。

 そしてシンジからの攻撃をES部隊は防ぐ事は出来ない。それは一方的な虐殺だった。

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 シンジを誘き出して抹殺する任務を請け負ったキリルは簡単な任務とは思ってはいなかったが、ここまで圧倒的に翻弄されるとは

 思ってもいなかった。シンジが強敵である事は最初から想定済みだ。だからこそ、誘き出して罠を張ったのだ。

 だが、その罠はあっさりと食い破られ、こちらは全滅の危機にあった。

 最後の罠を使うべき状況だが、シンジに聞いてもらわないと意味が無い罠だった。


(くそう! これが魔術師の真の力だと言うのか!? 今まで見せてきたのとは桁違いだぞ! こちらのシールドをあっさりと貫通する

 あの砲撃は何だ!? あの小さな装甲スーツにそんなエネルギーを溜め込めるはずが無いだろう! それにあの曲射する光線は何だ!?

 あれは光自体に自動追尾機能がついているというのか!? まるでサ○コガンじゃ無いか!

 ジャパニメーションは好きだが、此処でそんな物を使うなんて非常識だ! これだから日本人は嫌いなんだ!!

 ……まさか、これがパターンイエローの正体なのか!? 弐号機を瞬殺して、タブリスを殲滅……じゃ無くて対抗した力なのか!?

 あの大きさに勘違いしたが、使徒やEVAに匹敵する力を持っているというのか!? やはり核兵器を用意すべきだった!!

 こうなったら、捨て身で最後の罠を使うしか生き残る道は無い!)


 最初は二千人だったサイボーグ兵士の生き残りは、二桁台になっていた。全滅するのは時間の問題だった。

 ES部隊なら魔術師に対抗出来ると思っていたが、全然歯が立たない状態だ。こちらの生き残りは百人を下回った。

 そして目の前の魔術師に有効な攻撃力は持ってはいない。そう判断したキリルはシンジに向けて大声で叫んだ。


「我々はセカンドチルドレンを保護している! 彼女の命が惜しくば、攻撃を中止しろ!!」


 魔術師とセカンドの関係が良く無いのは知っていた。だが、二度に渡って弐号機の危機に手を差し伸べ、最後は廃人となったアスカに

 強引だが好きな相手をあてがって復活させたと思しき行動が窺えた。魔術師の本心は分からないが、ひょっとしてセカンドに好意を

 持っている可能性があるのでは無いかと、同僚との協議で指摘がされていた。

 本当に使えるかも分からない策だったが、此処に至っては藁をも掴む思いでキリルは叫んでいた。

 次の瞬間、シンジからの攻撃は止んでいた。

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 北欧連合の首相であるフランツは、執務室で同盟国と友好国の首長達と慌しく連絡を取っていた。

 侵略行為を受けた国々を北欧連合が見捨てる事は無い事と、【ウルドの弓】が失われた事で効果的な支援攻撃が出来ない事の謝罪の対応だ。

 その様子を補佐官は書類整理をしながら見つめていた。


(日本の扱いは他の友好国のワンランク下だからな。私が取り次いだが、日本政府がネルフを攻撃する事を決定した事は後で伝えれば

 良いだろう。首相は同盟国と友好国との調整で忙しい。ネルフが滅びようが、日本がどうなろうが我が国にはあまり影響は無いからな)


 ゼーレの最終計画でEVAを使った儀式が行われる事は、シンジからの情報でフランツは知っていた。

 一定レベル以上の人間はその事を知っていたが、補佐官は知らされていなかった。

 この事により、ゼーレがネルフを攻撃する事を決定した事実が、フランツに知らされたのはかなり遅れてからになってしまった。

 その為、対ゼーレ作戦の発動が遅れる事になってしまった。

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 ミサトは第二発令所に、急ぎ足で向かっていた。

 状況を確認するべく、日向に電話を掛けた。


「状況は!?」

『おはようございます。先程、第二東京からA−801が出ました!』

「801?」

『特務機関ネルフの特例による法的保護の破棄。及び、指揮権の日本国政府への移譲。最後通告ですよ。

 現在、MAGIがハッキングを受けています。かなり押されています』


 ここで電話の相手が日向からマヤに変わった。


『伊吹です。今、赤木博士がプロテクトの作業に入りました』

「リツコが!?」


 リツコが拘束された理由を知るミサトとしては、リツコが協力している事は意外だった。

 だが、これでハッキングに関しては大丈夫だろうと感じたミサトだった。そして第二発令所についたミサトは状況の把握に努めだした。

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 ミハイルは定期的にTVカメラに向かって、隕石衝突回避作戦の状況を説明していた。

 【ウルドの弓】が本国上空付近の三基を除いて、全基が破壊された事は知っていた。

 ステルス機能を持って、本来は察知する事も困難な【ウルドの弓】をどうやってゼーレは破壊したのか?

 今までゼーレは衛星軌道上への攻撃手段など持っていなかった。粒子砲の技術がゼーレに洩れて、それを応用した兵器を開発したのだろう。

 予想では通常の軍事衛星の破壊は想定していたが、【ウルドの弓】まで破壊されるとはミハイルの予想を超えていた。

 ミハイルに不安が漂っていたが、最初に予告した時間にTVカメラに向かって説明しないと全世界の視聴者に不安を与えるだろうという

 懸念から、TV中継は継続していた。現在はコロニーレーザーの状況について、撮影映像と共に説明を行っているところだった。


「現在のコロニーレーザーのエネルギー蓄積率は約78%です。宇宙空間は……何事だっ!?」


 ミハイルが見ているモニターにはスペースコロニーが映っていたが、周囲に張り巡らしたシールドが発光していた。

 これは外部から何らかの光学兵器によって、スペースコロニーが攻撃されているという事だ。

 同時にユグドラシルの合成音による緊急報告が入って来た。


『緊急連絡。現在、本国のレーダーサイト並びに各地の粒子砲迎撃基地に対して、核兵器による攻撃が行われています。

 ミサイルの存在は探知されておりません。敵の攻撃手段は不明です』

「何だと!? 『北欧の狼』でも対処出来なかったというのか!? 何か前兆となる事も無いのか!?」

『消滅する寸前の『北欧の狼』からは、ゼーレのES部隊員と思われる脳波反応を検出しています』

「ES部隊だと!? ……そうか! 奴らは核兵器と一緒にテレポートして来たのか!? くそう、自爆攻撃か!

 分かった。『北欧の狼』の全ユニットに連絡! 直ちにESPジャーマーの範囲を最大にして展開! 予備のユニットも出せ!

 それで迎撃基地の核攻撃の直撃は防げるはずだ! 他の重要施設のユニットにも同じ事を徹底させろ!」

『了解しました。直ちに指示を実行します』

「コロニーのシールド負荷率は? あっちは大丈夫なのか?」

『現在、攻撃を受けているコロニーの負荷率は23.4%です。この程度の攻撃ならコロニーが破壊される事はありません』

「分かった。何だとっ!? コロニーが爆発しただと!?


 ミハイルの正面の大型モニターには、ラグランジュポイントにある二つのコロニーが内部から爆発した光景が映し出されていた。

 そして、その事は全世界にTV中継されてしまい、多くの視聴者を動揺させていた。






To be continued...
(2012.09.23 初版)


(あとがき)

 イベントが目白押しで時系列毎にまとめるのに苦労しました。

 ゼーレ側の総力をあげた攻撃です。量産機の出現は次話になります。



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