因果応報、その果てには

第六十二話

presented by えっくん様


 作者注. 拙作は暇潰し小説ですが、アンチを読んで不快に感じるような方は、読まないように御願いします。

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 ユグドラシルの合成音による緊急報告で、ミハイルはTVカメラの前で大声をあげていた。

 コロニーは地上からの攻撃を受けていたが、シールドで防御可能だと報告があった矢先の事だっただけに、ミハイルに衝撃が走っていた。


「分かった。何だとっ!? コロニーが爆発しただと!?

『内部にコロニーレーザー用のエネルギーを充填中だったので、何らかの内部爆発に誘発されてコロニーが爆発したものと推測されます』

「どうやったのだ!? コロニーの周囲にはシールドが張られていたんだ!

 それをどうやって……まさか、地上から直接内部にテレポートしてきたとでも言うのか!? あの距離をテレポート出来たのか!?」

『その可能性は高いと推測されます』


 隕石衝突回避作戦の第三段階はコロニーレーザーを使って行われる予定だった。だが、その肝心のコロニーレーザーが爆発してしまった。

 ミハイルは唖然とした表情になり、その様子は全世界に中継されてしまった。

 公式発表は無かったが、スペースコロニーから肉眼で地球が見える事は知れ渡っていた。

 ラグランジュポイントにあったのは約二百万人が居住するスペースコロニーだったはずなのに、何故それがコロニーレーザーなのか?

 その事に混乱した視聴者は多かった。その疑問は我に返ったミハイルから語られる事になった。

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 オルテガの屋敷を訪れた時にES部隊の襲撃を受けて、クリスは重傷を負って海底基地の治療カプセルで治療中だった。

 もっとも、ゼーレの総力をあげた攻撃の為に、クリスは治療カプセルに入ったまま防衛指揮を執っていた。


(『北欧の狼』を臨戦態勢にしたけど、迎撃基地へES部隊が核兵器を使った自爆攻撃をしてくる事は防げなかった。

 でも、ミハイルの指摘でESPジャーマーを最大に展開させた後は被害は減ったわ。もっとも基地機能の障害までは無理だったけど。

 人工衛星も殆どが落とされて、迎撃網に大きな穴が開いてしまった。嫌な予感がするわ。

 既に『ガラム』は起動して各地の潜水艦を撃沈しているけど、まだ敵には攻撃手段は残っているでしょうね。気は抜けないわ。

 念の為に『フェンリル』も本国の上空に待機させましょう。早めに手を打たないと、被害はとんでも無いレベルになってしまうわ!)


 クリスは治療中の為に動けなかったが、状況の把握と防衛指揮を執っていた。

 そして海中秘匿兵器である『ガラム』によって、世界中の北欧連合が把握している以外の全ての潜水艦は海の藻屑と化しつつある。

 次世代の無人戦闘機である『フェンリル』は北欧連合の周囲の公海上に配備され、巡航ミサイルの迎撃に一役立つ事になる。

 ネット侵入にも気を配ったが、ハードウエア構成が標準とはまったく違う独自のネットワークシステムに侵入する者は居なかった。

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 北欧連合の領海付近の公海の海中に、ゼーレの潜水艦が潜んでいた。

 迎撃基地の位置は事前の偵察によって判明していた。その為、ES部隊のテレポータが小型の核兵器を抱えて、迎撃基地内部に転移して

 自ら核兵器で自爆する事で各地の迎撃基地を次々と破壊していった。これもゼーレへの絶対の忠誠を誓う洗脳があった為だ。

 彼らはゼーレの為なら、自爆攻撃を拒む事は無い。寧ろ、進んで作戦に志願していた。

 迎撃基地内部には、対諜報部隊である『北欧の狼』が配置されていたが、テレポート転移直後に核爆発されたのでは対応は無理だった。

 この為に、北欧連合の各迎撃基地は次々と破壊されていった。


 それらを統括しているオーベルに、逐次状況が報告されていた。そこにはオーベルの眉を顰ませる報告もあった。


「初期の自爆攻撃は完全に成功したのに、今は迎撃基地の直接攻撃に失敗していると言うのか?」

「はい。確かに最初は迎撃基地のあるポイントの核爆発は確認出来ましたが、何故か今のテレポート攻撃では爆発地点が迎撃基地から

 かなり離れています。こうなると迎撃基地の破壊が完全には行えません」

「さっきのTV報道で『騎士』はあっさりと此方の手の内を読んできたな。まさかテレポート能力者による自爆攻撃がすぐにばれるとは

 思っても居なかった。ESPジャーマーの事を言っていたな。それでテレポート能力者が最後まで転移出来ないと言うのか?

 奴らはそんな物まで開発していたと言うのか!?」

「原因は不明です。ES部隊のテレポート出現位置がずれているとしか言えません。

 核爆発の余波で迎撃基地の機能を無効化出来た可能性はありますが、詳細は確認出来ません」

「それでも約六割の迎撃基地は完全に消滅出来たな。どの道、北欧連合を補完計画に介入させない為の陽動工作だ。

 良いだろう、各地の戦略潜水艦部隊と弾道ミサイル基地、それに欧州の各基地に対して、一斉攻撃命令を出せ!」

「待って下さい! ES部隊を搭載している潜水艦部隊と、SLBMを搭載した戦略潜水艦部隊が次々に通信途絶状態になっています!」

「何だとっ!? くそう、奴らは海中では我々より優勢だと言う事か! これ以上の迎撃基地への攻撃は無理か。

 仕方あるまい。弾道ミサイルと巡航ミサイルでの攻撃は出来る。

 何割かは無効化されるだろうが、これで北欧連合の補完計画の介入は完全に阻止出来るだろう。直ぐに命令を出せ!」


 計画していた作戦が失敗する事は良くある事だ。寧ろ、計画通りに作戦が進む方が稀である。

 それでも当初予定していた北欧連合の迎撃網はズタズタになった。ここが勝負の賭け所とオーベルは次の攻撃命令を出していた。

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 リツコはカスパーの中に入って、懸命にキーボードを操作していた。

 シンジからの協力要請があったとはいえ、自分の拘束命令を出して裏切ったゲンドウの為に働いているリツコの胸中は複雑な思いだった。


(私……馬鹿な事をしている。ロジックじゃ無いのね。男と女は)


「そうでしょ。……母さん」


 リツコは懐かしむようにカスパーの筐体に手を触れていた。

 これで当分の間はMAGIは大丈夫だ。後はゼーレがどんな手を打ってくるか。そしてシンジがどう動くかだ。

 今のリツコに先を見通す事は出来なかった。

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 今のネルフにはハッキング攻撃が為されており、ミサトはその報告を聞くだけだった。戦力比は1対5。

 かなり分が悪く、望みはリツコの作業結果だ。ミサトはコーヒーを飲みながら、暗い表情で状況を確認していた。


「後どのくらい?」

「間に合いそうです。さすがは赤木博士です」


 日向の明るい声の報告を聞いたミサトの表情は暗かった。

 MAGIのハッキングが失敗して、それだけで諦めるような相手では無いと知っていた為である。

 何処の組織にも救援は望めない。加持と連携が取れれば少しは違ったかも知れないが、今となってはそれも無理だ。

 ミサトが予想していた事はゲンドウと冬月にも当然分かっていた。


「MAGIは前哨戦に過ぎん。奴らの目的は本部施設、及び弐号機の直接占拠だな」

「ああ。邪魔をさせまいと奴らは北欧連合に直接核攻撃を行っている」

「北欧連合に直接核攻撃か。無茶をするな。シンジ君が生きていたし、老人達が焦る訳だ」

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 MAGIのハッキング状態を示すモニターで、正常な状態を示すのはカスパーの残り僅かとなっていた。

 だが、残った淡いブルーの部分が点滅すると、一気にバルタザールとメルキオールの赤く染まった侵食部分まで正常な状態に戻されていた。


「MAGIへのハッキングが停止しました。Bダナン型防壁を展開。以後、62時間は外部侵攻は不能です」


 モニターに『666』の多数の文字が映し出されている。これでMAGIの安全は取り敢えずは保証された事になる。

 もっとも、次の展開を予想していたゲンドウ、冬月、ミサトの顔色は暗いままだった。


 一方、作業を終えたリツコはカスパーから出ようとしたが、一瞬振り向いた。


「母さん、また後でね」


 自分の作業が間に合った安堵と、これからのシンジの動きを予想してリツコは微かな笑みを浮かべていた。

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 ミハイルとクリスが用意していた海中秘匿兵器である『ガラム』は、世界各地の海底基地に多数配備されていた。

 全長が三百メートルほどの流線型の形状をしており、ユグドラシルJrを搭載。無人の海中兵器である。

 無人故に気密室などの人用の設備は不要であり、水深二千メートルの潜行が可能。最大水中移動速度は約百二十ノットにも達する。

 まさに海中の切り札と言えた。通常、海中においては浅い場所なら通信が可能だが、深深度の場合には通信手段が無い。

 だが、亜空間通信システムを装備する事で、深深度での通信制御も可能になっていた。


 そして『ガラム』は北欧連合とその同盟国、友好国以外の潜水艦を無差別攻撃していた。

 ゼーレのES部隊を乗せている潜水艦、そしてSLBMを内蔵している潜水艦は次々に『ガラム』の攻撃を受けて、海の藻屑と化していた。

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 ミハイルとクリスが用意していた次世代の無人戦闘機『フェンリル』は、北欧連合の周辺に配置していた潜水空母で運用されていた。

 一般の戦闘機より二周り程大型の戦闘機であり、小型の人工頭脳を内蔵している。

 VTOL式であり、無人という事もあって最高速度はマッハ8を超えるスペックを有していた。

 二種類あり、Aタイプはレーダー等の索敵能力が強化された指揮官機である。Bタイプは対空、対地攻撃能力を重視していた。

 そしてAタイプを一機、Bタイプを二機の編隊を組んで、北欧連合の近海の上空で警戒体制を取っていた。

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 十二個のモノリスは状況の変化を受けて、対策を指示しようとしていた。


『六分儀はMAGIに対し、第『666』プロテクトをかけた。この突破は容易では無い』

『MAGIの接収は中止せざるを得ないか』

『魔術師はまだ仕留めたという報告は無いが、足止めには成功している。北欧連合への直接攻撃も順調だ』

『このままいけば計画通りになる。あともう少しだ』

『出来るだけ穏便に進めたかったが、致し方あるまい。ネルフ本部施設の直接占拠を行う!』

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 某国に住んでいるアリソンは友人達と屋外で望遠鏡を覗きながら、小型TVを持ち込んでバーベキューパーティを行っていた。

 アリソンもそうだが、最近の世情は不安定になっており、気分転換しようと言う計画だった。

 望遠鏡も小型TVも友人達が持ち込んだものだ。

 まあ、小型TVに映っていたのは陽気な番組では無く、隕石衝突回避作戦の実況中継だったのは、出席者の不安を如実に物語っていた。

 変わり映えしないTV中継だったが、ミハイルの大声が流れるとパーティの出席者の視線は小型TVに集中していた。


「お、おい。北欧連合の基地が核攻撃を受けているって、第三次世界大戦でも起きるのか?

 スペースコロニーは大丈夫みたいだけど、あれが破壊されると中の二百万人は死んでしまうんだぞ!」

「分からないわよ。ES部隊の攻撃って言ってたけど、以前に魔術師と騎士を攻撃したのもES部隊って言ってたわね。

 これからどうなるのかしら? 怖いわ!」

「テレポートだとかESPジャーマーだとか、アニメの見過ぎじゃ無いのか。

 現実的に考えて、そんな強力な超能力者がいるはずが無いだろう」

「嘘をTV中継しているって言うのか? そんな事をしても北欧連合に何のメリットがある訳じゃ無いだろうに」

「ちょっと待て! ラグランジュポイントにあるスペースコロニーが攻撃を受けているのは本当だぞ。望遠鏡で確認出来た!」

「本当か!? 本当にスペースコロニーを攻撃しているって言うのか!? 攻撃している奴らは何を考えているんだ!?」

「おい、俺にも望遠鏡を見せてくれよ」

「良いぞ、位置調整は出来ている」

「へー、どれどれ。確かに細長い円筒型の……おい、爆発したぞ! スペースコロニーが爆発してしまったぞ!」

「何だって!?」

「あれを見て! 肉眼でも見えるわよ! あの二つの光がそうじゃ無いの!?」


 望遠鏡でスペースコロニーの周囲が発光しているのは見えた。だが、スペースコロニーの爆発は地上からも肉眼で見えるほどだった。

 ロックフォード財団の発表では、現在スペースコロニーに移住しているのは約二百万人。その全員が宇宙の藻屑となったと言うのか?

 だが、小型TVのミハイルは破壊されたのは移住者が居たスペースコロニーでは無く、コロニーレーザーだと発言していた。

 ラグランジュポイントにあったスペースコロニーに移民輸送船が入っていく様子は、各国の天文台で確認されていた。

 その為に、あそこにあったスペースコロニーに移住した人々が住んでいると思っていた。


「おい、TVではコロニーレーザーが破壊されたって言ってるけど、あれに二百万人が住んでいたんじゃ無いのか?」

「俺に聞くなよ。たしかに宇宙船があのコロニーに入港したのは見た事があるし、移住者の電話の証言もあるんだ。

 あそこに移住者が住んでいたのは間違い無いはずなんだが、どういう事だ?」

「ちょっと待って! 今、TVで説明をしているわ。静かにして!」


 バーベキューの参加者全員の視線が小型TVのミハイルに注がれていた。

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 第三新東京の周辺は蝉の鳴き声が響いていた。車も人影も見えなかったが、それは擬態であり、森の中に完全武装した兵士多数が潜んでいた。

「始めよう。予定通りに」


 上官からだろうか、通信機から命令を聞いた部隊指揮官が命じた。

 その命令に従って、草叢から次々と兵士が立ち上がった。そして戦自の所有する戦闘機や戦車などが一斉に動き出した。

 兵士を乗せた多数の輸送トラックも目的地に向かった。

 そして位置についた戦車から、そしてロケット砲からの容赦無い砲撃が第三新東京に開始された。

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『第六から十七までのレーダーサイト沈黙!』

『特科大隊。強羅防衛線より侵攻してきます!』

『御殿場方面からも、二個大隊が接近中!』


 戦自の猛攻を受けてネルフの各施設に甚大な被害が生じていた。あっと言う間に目と耳を潰されてしまった。


「やはり、最後の敵は同じ人間だったな」

「総員、第一種戦闘配置」

「戦闘配置!? 相手は使徒じゃ無いのに……同じ人間なのに……」


 マヤは司令席のゲンドウを振り返ったが、抗議はせずに視線を戻した。顔には疑念の色がありありと浮かんでいた。

 そのマヤの後半の独り言が聞こえた日向はマヤを諭した。


「向こうはそう思っちゃくれないさ」


 同じ人間同士だからと言って、無抵抗主義を貫き通せるはずも無かった。日向とマヤは知らない事だが、現在ネルフに攻撃を仕掛けている

 戦自の部隊は、ネルフはサードインパクトを企んでいるから一刻も早く殲滅する必要があると伝えられていた。

 その為には捕虜などは不要で、無差別攻撃が許可されていた。

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 不知火のところに戦自が第三新東京に対して、全面攻撃を開始したとの連絡が入ってきた。

 だが、不知火は日本の国連軍のトップでは無く、上司からは国連軍が第三新東京の争いに介入する事を禁止されていた。

 これも各国連軍が出身国の意向を重視する傾向があった事が影響していた。

 つまり、日本の国連軍のトップは日本政府の意向に従って、第三新東京を攻撃する戦自を止める気は無かったという事である。


 シンジから連絡があるまでは待機してくれと言われていた事もあり、焦りながらもタイミングを待っている不知火であった。

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 対宇宙攻撃部隊を率いているギルは、顔に笑みを浮かべていた。

 今まで観測してきた北欧連合の人工衛星を全て地上からの砲撃で破壊した。

 そして位置情報が分からなかった【ウルドの弓】も、各国の侵略軍を捨て駒にする事で位置を算出して破壊した。

 流石に侵略行為が行われなかったエリアの【ウルドの弓】は位置が判明していないので攻撃が出来なかったが、

 北欧連合の全世界を覆う『粒子砲の傘』は破壊出来たのだ。十分な成果だろう。


 ラグランジュポイントにある二基のスペースコロニーに地上から粒子砲の攻撃を行ったが、こちらはシールドがあって、

 容易には破壊が出来なかった。だがこれは前哨戦だ。切り札はテレポート部隊だった。

 通常、テレポート出来る範囲はある程度は限られている。だが、予知能力者八十人の死と引き換えに、『天武』の大気圏突入の

 位置と時間を割り出したように、ゼーレは能力者の同期と過重負荷によって無理やり能力を増強させる技術を確立していた。

 今回、スペースコロニーへの直接攻撃に使用されたのは、十人のテレポート能力者達だった。

 五人ずつの組みになり、携帯用の核兵器を一人一個持って、地上からラグランジュポイントにあるスペースコロニーの内部に転移して、

 所持している携帯用核兵器を爆発させる。当然、地上からラグランジュポイントの距離は、通常のテレポート能力範囲を遥かに超えている。

 だが、五人を同期させて無理やり能力を引き出す事で、超遠距離であるスペースコロニー内部への転移を行った。

 勿論、これも自爆攻撃である。洗脳していたES部隊だからこそ出来た事だ。


(これで後はオーベルの命令でSLBM、ICBM、巡航ミサイルの一斉攻撃が行われれば、北欧連合は甚大な被害を受けるだろう。

 生き残った【ウルドの弓】が数基あったとしても、全ては対処は出来まい。

 そもそも、これは陽動作戦の一環だからな。補完計画に北欧連合が介入して来なければ良い。

 まあ、此処までする必要は無かったかも知れんが、奴らの目を第三新東京から逸らす狙いもある。

 あの騎士の悔しそうな顔を見て、少しはすっきりしたな。今まで散々煮え湯を飲まされたからな。手加減せずに全力で行くぞ!

 だが、破壊されたコロニーがコロニーレーザーだと口走ったな。

 ラグランジュポイントにあるスペースコロニーに移住者が住んでいるのは調べがついている。二百万人を殺されて、気がふれたのか?)


 ギルは勝利者だけが許される笑みを浮かべていた。だが、その表情はミハイルの説明を聞くにつれ、強張っていった。

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 TV中継は続いていて、コロニーレーザーが爆発する光景を見て呆然とするミハイルの顔は全世界に伝えられていた。

 その事に気がついたミハイルは態と咳をした後、表情を改めてTVカメラに向かった。顔が少し赤いが気のせいだろう。


「失礼しました。はっきりさせますが、ラグランジュポイントにあったのは試作コロニーでコロニーレーザーとして改造していたものです。

 移住している二百万人は無事です。移住した人達が標的になる可能性がゼロでは無かったので、態とラグランジュポイントに

 あったのが移住するスペースコロニーだと思わせる偽装をしていました。これがリアルタイムの映像です」


 そう言うと、ミハイルは操作を行って、現在のスペースコロニーの映像を映し出した。

 そこには、コロニー内の街中の大画面モニタに爆発した二つのコロニーを見て、不安がる市民の様子が映し出されていた。

 そして自分達が映されている事を知って、慌ててカメラから逃げる人間と、ピースサインをする若者も映し出されていた。

 そこまで映して、画面はミハイルに戻った。顔に悔しさが滲み出ているのは隠しようが無かった。


「移住者が住んでいるスペースコロニーは、地球から見て月の裏側にありますから御覧のように移住者は無事です。

 リアルタイムでラグランジュポイントにあったコロニーから見えた映像を、本来のコロニーで見えるように小細工していました。

 念の為と思って、このような小細工をしていましたが、まさか本当にコロニーを攻撃してくる勢力があるとは!

 ですが、実際にコロニーレーザーは破壊されてしまいました。

 レーザーの発射エネルギーを溜めていたので、内部爆発に誘発されて、あそこまでの規模の爆発になったと推測されます。

 ……これで第三段階の実行は完全に出来なくなりました。シンの準備している第四段階作戦に全てを託します。

 何っ!? この状況で弾道ミサイルと巡航ミサイル攻撃を行おうと言うのか!?

 皆さん、シンの準備が出来次第、再度放送を行います。決して、パニックにはならないよう、御願いします!」


 海底基地に居るミハイルにも、各国のICBMと巡航ミサイルが発射された事が連絡されてきた。

 それを迎撃する【ウルドの弓】は三基のみ。地上の迎撃基地も多大な損害を被っている。

 後は北欧連合の衛星管理局の奮闘と、生き残った各地の迎撃基地に未来を託すしか方法は残されていなかった。

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 十二個のモノリスは量産機の投入タイミングを見計らっていたが、同時に北欧連合の被害状況の把握にも努めていた。

 世界の不安を抑えようとミハイルが生放送でTV中継をしている事で、情報はリアルタイムでゼーレにも伝えられていた。


『あのラグランジュポイントにあったコロニーに人はおらず、あれがコロニーレーザーだったと言うのか? まんまと騙されたな』

『魔術師の足止めは成功しているが、分が悪い状態だ。今のうちに量産機を向けた方が良いだろう』

『しかし、スペースコロニーを放置しては、全人類の浄化を行う意義が失われる。どうする?』

『スペースコロニーに潜り込ませた諜報員には、細菌兵器を持たせてある。あれを散布すれば、時間は掛かるが、移住者は全て全滅する』

『では、さっそく細菌兵器を使わせよう。万が一の手段と思っていたが、まさか使う事態になろうとはな』

『魔術師が第四段階をどう行うかは不明だが、この期に及んでは、補完計画を実行出来れば我等の勝ちだ』

『北欧連合への攻撃も順調に進んでいる。足止めとしては十分だろう』

『良かろう! 量産機を現時刻をもって投入する!』


 北欧連合に確実に被害を与えて、これならば補完計画に介入出来ないだろうと判断したキールは最終の人類補完計画を発動させた。

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 現在のネルフへの攻撃は航空機やロケット砲などの遠距離砲撃がメインだった。その着弾の衝撃は各所に少しだが伝わっていた。

 そしてゲートの警戒にあたっているネルフの歩哨にも衝撃や微かな爆発音が聞こえてきて、不安そうに周囲を見渡していた。

 その歩哨の背後から音も無く忍び寄った黒ずくめの兵士は歩哨の口を塞ぐと、持っていたナイフを歩哨に突き刺した。

 歩哨は僅かに呻いただけで絶命した。そしてゲートが次々に開いていくと、そこには完全武装の多数の戦自の兵士が立っていた。


 ゲート守備に当たっている他の歩哨も攻撃され、廊下に歩哨の血が染み渡っていった。

 そしてその脇を銃を持った戦自の兵士が駆け抜けていった。

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 周囲からの砲撃に加えて、戦自の兵士が本部に侵入してきた事を知った第二発令所に警報が鳴り響いていた。


『台ヶ丘トンネル、使用不能!』

『西、五番搬入路にて火災発生!』

『侵入部隊は第一層に突入しました!』

「西館の部隊は陽動よ! 本命が弐号機の占拠なら……パイロットはいないわね。良いわ、弐号機を地底湖に隠して!」

「は、はいっ!」

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『セントラルドグマへの全隔壁を閉鎖します。非戦闘員は速やかに退避して下さい!』


 緊急アナウンスに従って次々に通路の隔壁が閉じていったが、そこにも戦自の攻撃は及びだした。


「第三隔壁破壊! 第二層に侵入されました!」

「戦自の約一個師団を投入か。占拠は時間の問題だな」


 ゲンドウはシンジの生存を知ってから、幾つかのシナリオを考えた。だが、どれもシンジと交渉しなければならないものだった。

 そしてゲンドウはシンジと連絡を取る事は出来なかった。つまり、今のゲンドウに打つ手は無かった。

 このまま戦自の侵攻を受ければ全滅するのは時間の問題だ。だが、打つ手の無いゲンドウは黙って状況を見守る事しか出来なかった。

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 多数の弾道ミサイル、そして巡航ミサイルが北欧連合の本土に向かっていた。

 その為、衛星管理局の職員は必死の形相で、残っていた【ウルドの弓】へ弾道ミサイルを迎撃するように指示を出していた。

 地上の迎撃基地が核爆発で深刻な被害を受けたのだ。

 このまま都市部に弾道ミサイルや巡航ミサイルが着弾すれば、深刻な被害が出る事になる。

 そんな事はさせないと、職員は必死に弾道ミサイルの迎撃指示を行っていた。だが、あまりに数が多過ぎた。

 その為に弾道ミサイルの迎撃に成功したのは約八割に過ぎず、約二割の弾道ミサイルは再び大気圏に突入していた。


 地上の迎撃基地で生き残ったのは約三割に過ぎなかった。

 それでも機能が動作している迎撃基地は、巡航ミサイルや弾道ミサイルの迎撃を行った。

 クリスが管理している無人戦闘機『フェンリル』もである。巡航ミサイルなら『フェンリル』の搭載武器で対処が可能だ。

 そして弾道ミサイルに関しても、位置的に対処可能な機体は、体当たり攻撃を敢行していた。

 どうせ無人機である。制作費は掛かっているが、それで弾道ミサイルが防げるのなら安いものだ。

 だが、全てを撃墜する事は無理で、十発以上の弾道ミサイルと巡航ミサイルが着弾してしまった。

 辛うじて首都の防衛には成功したが、各地方都市に弾道ミサイルや巡航ミサイルの一部が着弾した。

 内蔵している核爆弾が爆発して、巨大なキノコ雲が北欧連合の各地に立ち昇った。

 その劫火は三百万人以上の人々を瞬時に蒸発させ、爆風や放射線被害で蒸発した数倍にも及ぶ人々に深刻な被害を与えていた。


 陽動とはいえ、ゼーレの総力をあげた攻撃を北欧連合は防ぎきる事は出来なかった。

 そしてゼーレの弾も尽きていた。潜水艦は全て破壊され、弾道ミサイルや巡航ミサイルも撃ち尽くした。

 本来なら隕石衝突回避作戦の第二段階作戦に使用する為に、全ての核兵器を提供したはずなのに、隠し持っていたのだ。

 もし、この戦いの後に国際政治が復活するのであれば、核兵器を隠し持ち、あまつさえ隕石衝突回避作戦を実行中の北欧連合に攻撃を

 仕掛けた事で、ゼーレ側の国家は凄まじい糾弾をされるだろう。国が潰される可能性さえあった。

 だが、今のゼーレは補完計画の実行だけを考えて、その後の事は一切無視していた。

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 スペースコロニーに潜入していたゼーレの諜報員は、身体は普通の人間であった。

 ES部隊員を潜入させようと計画した事があったが、検査カプセルでDNA異常が発覚して、どうしても潜入させられなかったのだ。

 スペースコロニーに持ち込んだ手荷物に通信機や武器などは無かった。厳しい手荷物検査が予想されており、最初から諦めていた。

 だが、細菌兵器は手荷物検査には引っ掛からない。その為、数人の諜報員が細菌兵器が入った容器を隠し持っていた。

 スペースコロニーは密閉空間である。その中に細菌が撒き散らされては、住民は全滅するしか無いだろう。まさに脅威であった。


 スペースコロニー内には治安組織がある。特に厳しくは取り締まってはいないが、外部との連絡をする人間の動向には目を光らせていた。

 ゼーレの総攻撃が始まってからは、特に神経質になっていた。その為に、ゼーレの諜報員が動き出す前に拘束する事に成功していた。

 この事により、スペースコロニーに居住している約二百万人の生命は守られていた。

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 アスカを拘束してあるというキリルの言葉に、シンジが動揺する事は無かった。

 廃人となっていたアスカに手を差し伸べ、コウジを嗾けるという強引な手法だったが復活させた。

 その後はスペースコロニーへの移住を勧めたが、こちらの警告を無視して第三新東京に向かって捕まった。

 アスカなりの理由はあったのだろうが、シンジとしてはこれ以上はアスカに手を差し伸べる気は無かった。何より余裕が無い。

 だが、一緒に捕まっているコウジの父親は、スペースコロニーの日本人街の有力者であり、コウジの捜索依頼が出ていた。

 此処で見殺しにするのも寝覚めが悪いという程度の理由で、シンジはES部隊への攻撃を中止した。

 だが、彼らと取引などする気は無かった。土煙がまだ止まぬES部隊の中央部に転移して、指揮官であるキリルの頭を鷲掴みしていた。


「何だとっ! 何時の間に!?」

「煩い! 黙れ!!」

「うっ!」


 軍に管理を任していた人工衛星の殆どが破壊され、本土が手酷い被害を受けている事は知っていた。コロニーレーザーが破壊された事もだ。

 これ以上、時間を浪費する気は無かった。キリルと交渉などはせず、頭を鷲掴みしている状態で記憶を一気に吸い出した。


(二人が軟禁されているのは、日本のアルプス山脈の別荘か。ES部隊員は三名。これなら一気にかたを付けられる。

 しかし、こいつ等が今までボク達の邪魔をしてくれた訳か。粒子砲の技術を盗み、【ウルドの弓】を始めとした人工衛星を破壊してくれた。

 まさか、最初から過負荷にさせて威力を増すとはボクも考えなかったな。その執念は敬意に値する。

 その応用でES部隊のテレポータ部隊でラグランジュポイントまで攻撃の手を伸ばすとは。

 本国の迎撃基地の多くが破壊されて、その隙をついてミサイル攻撃を受けてしまった。まったく、数百万人以上の被害はあるだろう。

 此処まで準備してきたのに、これだけの被害を受けるとは! でも、これでゼーレの攻撃の手段も尽きたという事か。

 まったく、ボク達を介入させない為に、此処までの準備をするとは、ゼーレもかなり神経質だな。

 さて、二人を救出させたら第三新東京を何とかしないと。隕石衝突回避作戦は後回しにして、補完計画を先に潰す!)


 記憶を吸い出した後はキリルには用は無い。逃がしたら、再度のチャンスを窺ってこちらに牙を向けるだろう。温情を掛ける気は無かった。

 キリルの記憶には、ゼーレの対宇宙攻撃拠点と北欧連合への強襲部隊の司令部の拠点情報もあった。

 それとゼーレの研究生産の拠点情報もだ。流石にゼーレの幹部の住居情報は知らなかったが、それ以外の重要情報がシンジに渡った。

 既にゼーレの攻撃手段が尽きているとはいえ、生き残って陰謀を画策されても困る。この機にゼーレの施設を処分する事を決めていた。


 身体にかなりの負担が掛かって若干の不調をシンジは感じたが、それは気力で捻じ伏せた。

 残っていたES部隊を全て殲滅すると、シンジは亜空間転送でバルト海の海底地下工場に転移した。

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 加持は状況の変化を知って、TVの前に居座っていた。シンジの生存が明らかになり、事態は動くと予想していた。

 そして案の定、ミハイルの言葉から北欧連合がゼーレの攻撃を受けている事を知った。


(ゼーレは北欧連合に攻撃しているか。どうせ陽動だろうが、凄まじい攻撃だな。まさか超能力者を使って、各地の迎撃基地に

 核兵器を使った特攻攻撃を仕掛けるとは。しかも、ラグランジュポイントにまで攻撃の手が届くとはな。

 二百万人が住んでいるスペースコロニーは月の裏側で、ラグランジュポイントにあったのがコロニーレーザーだったとは意外だったが。

 ……待てよ。じゃあ俺がいるのは試作のコロニーなのか? 確か以前に試作コロニーが三基あると言ってたしな。

 さて、ゼーレはどう動く? それとも既に動いているのか? 葛城の事も気になるが、今の俺では動けないからな)


 加持はTVに見入っていたが、いきなり画面にシンジの顔が映し出された。


「シンジ君!?」

『これからある部隊をあなたのところに差し向けます。あなたはその部隊の指揮官に従って下さい。

 任務は地球のある山荘にいる二人の男女の救出。その後は国連軍の不知火中将のところに向かって下さい。

 不知火中将にはネルフに向かって貰う予定ですので、あなたはそれに同行する事。良いですね!』

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! じゃあ、俺を此処から出してくれるって言うのか!? その救出する二人って誰なんだ?

 それに国連軍の不知火中将のところってどういう意味だ!?」

『詳しい説明をしている余裕はありません。あなたは部隊指揮官の命令に従って下さい。命令違反の時は命の保証は一切しません』

「お、おい、どういう事だ!?」


 シンジからの通信は一方的に切られた。いきなりの事で加持には事情が呑み込めなかった。

 だがその直後、シンジの隠密部隊の指揮官であるアンドロイドの『アルファ』が、ドアを開けて加持の目の前に現われていた。

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 戦自の兵士達はネルフの抵抗を少しずつ排除して、侵攻していった。小型の機動兵器も投入して、次々にネルフの戦力を剥ぎ取っていた。

 既に本部内の施設のあちこちに火災が発生していた。だが、誰も避難などしようとはせずに命令のまま、ネルフの奥にと進んでいった。


『第二区、応答無し!』

『七十七電算室、連絡不能!』

「五十二番のリニアレール、爆破されました!」

「たち悪いな! 使徒の方がよっぽど良いよ!」


 ネルフの状況は最悪だった。対人装備が満足に無い上に、状況を改善させられる要因も無い。

 このまま状況が進めば皆殺しに遭う事間違い無しだ。ミサトの表情は暗かった。


(無理も無いわ。みんな、人を殺す事に慣れてないもの)

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 戦自の攻撃を受けて、通路には多数のネルフ職員の死体が横たわり、一人の女性職員が必死になって死体を移動させようとしていた。

 ネルフ職員の制服は男性と女性は一目で分かる。戦自の兵士もそれは分かっていたが、無差別攻撃命令が出ていたので容赦無く射殺した。

 このような時に男女区別をするような兵士はいない。殺すか、殺されるかだ。戦場の狂気に徐々に兵士達は侵食されていく。

 通路が次々に爆破され、あるいは通路にいる職員を火炎放射器で生きたまま焼き殺した。

 女性職員の悲鳴が響き渡ったが、それで攻撃を止める兵士はいない。淡々とネルフの職員を始末していった。

 そこには無抵抗主義など通用する余地は残されてはいない。抵抗してもしなくても結果は同じであった。

 そして女性は守るべきものという、一部の人間に信奉されている論理が通用する事も無かった。


「第三層に侵入者! 防御出来ません!」

「Fブロックからもです。メインバイパスを挟撃されました!」

「第三層まで破棄します! 戦闘員は下がって! 803区間までの全通路とパイプにベークライトを注入!」

「はい!」


 絶望的な抵抗戦であり、状況の改善は見込めない。ミサトは諦めずに必死になって指揮を執るだけだった。

 命令によって各通路とパイプにベークライトが注入されていった。

 ネルフ職員の死体もあったが、そんな事は考慮されずに、今生きている職員が少しでも生き延びられるように作業は進められた。


「これで少しはもつでしょう」


 ミサトの指示は暫定的なものであり、根本対策では無かった。単なる時間稼ぎに過ぎない。

 だが、今のミサトには事態を好転させる手段など無く、表情は暗いままだった。

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 コウジとアスカは何処だか分からない山奥の別荘に軟禁されていた。

 食料は定期的に補充されているが、監視しているらしき人影は見当たらない。

 余談になるが、アスカに料理をするというスキルは無かった。

 その為に、定期的に補充される食料関係はインスタント食品か、レンジで暖めれば食べられるような食品が殆どだった。

 自分に料理スキルが無い事を見抜かれた事で、アスカは内心では狼狽したが、それをコウジの前で顔に出す事は無かった。

 コウジには笑顔で手料理を披露する機会が無くて残念だと、腕を絡めて甘えながら伝えただけだ。

 ここを出れて時間が取れるようになったら絶対に料理を覚えて、コウジに自分の手料理を食べて貰うんだとアスカは心に誓っていた。


 二人は緊急事態に備えて身体の鍛錬を行うようにしていたが、それは日中のみの事であり、夜は一つのベットで就寝する生活を送っていた。


 その時、二人はリビングでTVを見ていた。自分達がどうなるかは分からないが、世間の動きを知る必要があると考えていた為である。

 一時期から比べると激減した芸能番組など見向きもせずに、ニュース番組をメインに見ていた。

 そして、偶々隕石衝突回避作戦のTV中継を見ていた時に異変は起きた。


「北欧連合が核攻撃を受けているのか!? いったい、どうなるんだ!?」

「分からないわよ! スペースコロニーへの攻撃は防げているみたいだけど、あそこにコウジの家族がいるのよね」

「そうだよ! まったく、何も関係無いスペースコロニーを攻撃するなんて、何を考えているんだ!」

「テロリストに道理は通用しないわ! えっ!? スペースコロニーが爆発!? ……あれがコロニーレーザー? どういう事?」

「良かった。父さん達は無事か。良かった。でも、どうやってラグランジュポイントのコロニーを偽装出来たんだろう?」

「それはあたしにも分からないわよ」


 その時、二人を軟禁している別荘の外で大きな爆発が発生した。コウジは咄嗟にアスカを庇ったが、二度目の爆発は無かった。


「何の爆発だ? この近辺に爆発するようなものは無いはずだが」

「分からないわ。様子を見てきましょうよ」


 二人が外に出ようとした時、靴音が聞こえてきた。

 この別荘に来る道も交通手段も無いはずだと思い、誰が来たのか不安になった二人は、居間の隅に移動した。

 その直後、勢い良くドアを開けて加持と『アルファ』が部屋に入って来た。

 加持の姿を見たアスカは驚いた。確かにミサトからは加持が死んだと聞いていたのに生きていて、しかも此処に来るとはどういう事だ!?

 思わずアスカは立ち上がって叫んでいた。


「加持さん、生きていたの!?」

「二人とも無事だったか。時間が無いんだ。直ぐに此処から脱出する。準備は良いな?」

「えっ!? ちょっと待って! ママの遺品だけは持たせて!」

「早くしてくれ! TVを見ていて知っているだろうけど、今は非常事態だ! 理由は後で説明するから、とにかく急げ!」

「わ、分かったわ!」


 アスカは拉致された時に持っていた母親の遺品を持ってきた。

 それを待っていた『アルファ』は、コウジとアスカと一緒にスペースコロニーに転移していった。

 そして加持だけは不知火が待っている国連軍基地の正門に転移していた。

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 ゼーレの対宇宙攻撃部隊を指揮しているギルは、緊急報告に慌てていた。


「各地の対宇宙攻撃拠点が次々に破壊されていると言うのか!?」

「は、はい。各地の攻撃拠点には小型のキノコ雲が観測されています。ミサイル反応は探知出来ずに、一瞬で各地の拠点が攻撃を受けました。

 間違いなく宇宙からの攻撃で、破壊力は【ウルドの弓】とは比較になりません! 既に全攻撃拠点が破壊されました!」

奴らは【ウルドの弓】を凌ぐ対地攻撃システムを準備していたと言うのか!? どこまで隠し札を持っているんだ!?」

「今まで判明していた北欧連合の人工衛星と【ウルドの弓】は破壊出来ました。ラグランジュポイントにあるコロニーも破壊出来ました。

 ですが、敵の攻撃ポイントが判明する前に全ての我が方の攻撃拠点が破壊されましたので、これ以上の攻撃は出来ません!」

「うぬぬ。北欧連合に核攻撃は成功したから、補完計画への介入は出来ないとは思うが、安心は出来ないな。

 直ぐにこの事を各部隊に報告しろ!」

「はい、了解しました!」


 当初の目標である北欧連合の宇宙にある戦力は破壊して、北欧連合の本土に核攻撃も出来た。

 これなら補完計画の邪魔は出来ないはずだと思いながらも、ギルの胸中の不安は消えなかった。そしてその不安は的中した。

 オペレータが各地の部隊へ状況を連絡している最中に攻撃を受けて、ギルは小型のキノコ雲の中で施設と一緒に蒸発してしまった。

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 北欧連合への強襲部隊を率いているオーベルは、各地から通信途絶状態になった部隊の多さに眉を顰めていた。


「魔術師の対応部隊と、対宇宙攻撃部隊と連絡は取れないのか!?」

「駄目です! 一切の応答はありません。しかも対宇宙攻撃部隊の各拠点にはキノコ雲が観測されています。

 攻撃を受けて消滅したと思われます!」

「北欧連合への核攻撃は成功したが、潜水艦部隊は全滅か。しかし、北欧連合にここまでの報復能力があったとは予想外だ。

 補完計画はどうなっている!?」

「既に量産機九機は第三新東京に向かっています! 最終計画の発動まで、あと僅かです!」

「ここまで被害を与えたから、北欧連合が補完計画に介入する事は出来ないはずだ! 我々は勝ったのだ!」


 オーベルの目に勝利を確信した光があった。だが次の瞬間、そのオーベルが居る指揮所もキノコ雲に呑まれて蒸発してしまった。

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 衛星軌道上から遥かに離れた宇宙空間に、全長三百メートルはあるだろう、細長い筒のような形状をしていた物体があった。

 オーバーテクノロジーを使って造られた砲撃衛星である。

 材料の関係で二基しか製作が出来なかったが、威力は【ウルドの弓】を遥かに上回っている。

 今まで使用されたのは、宇宙から落下してきた使徒:サハクィエルの迎撃の時だけだった。

 二基しか無いが威力は保証つきの砲撃衛星は、シンジの奥の手の一つであり、今はその砲身にエネルギーを溜め込んでいた。


 その砲身から光の奔流が吐き出され、その動作は数十回行われた。

 その砲撃により、ゼーレの対宇宙攻撃拠点と北欧連合の強襲部隊の司令部があったところには、小さいキノコ雲が立ち昇っていた。

 又、キリルの記憶にあったゼーレの研究や工場の拠点なども、この機会を逃す事無く消滅させてしまった。

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 戦自の侵攻は第二発令所にも迫ろうとしていた。

 ミサトは自分の銃を取り出して、他の職員にも銃の配備を命じていた。


「非戦闘員の白兵戦闘は極力避けて! 向こうはプロよ! ドグマまで後退不可能なら投降した方が良いわ!」


 戦自に無差別攻撃命令が出ている事をミサトは知らなかった。その為に抵抗を早々に諦めた職員の犠牲はかなりの数に上っていた。

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 第三新東京の周囲からの戦自の攻撃も続いていた。絶える事無く、次々にロケット砲弾が第三新東京に撃ち込まれていった。

 その様子を見ていた指揮官は軽い溜息をついていた。


「意外と手間取るな」

「我々に楽な仕事はありませんよ」


 この作戦はサードインパクトを企んでいたネルフを殲滅するものだ。大事な家族や祖国を守る為にも、手加減などする気は一切無かった。

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 日向は机の引き出しから拳銃を取り出していた。青葉は机の下の箱から小銃を取り出していた。


「分が悪いよ。本格的な対人邀撃システムなんて用意されていないからな」

「まっ、精々がこれぐらいか」

「戦自が本気を出したら、この施設なんてひとたまりも無いさ」

「今考えれば、侵入者邀撃の予算縮小は、これを見越しての事だったのかな」

「……かもな」


 青葉の嫌な台詞に日向が顔を顰めた時、第二発令所の下のフロアのドアが爆破され、盾を持った完全武装の兵士達が雪崩れ込んできた。

 下のフロアで銃撃戦が始まった。まだ日向達がいる場所までは距離があるが時間の問題だろう。

 日向と青葉は迎撃の準備は済んでいたが、マヤは頭を抱えて机の下で蹲っていた。

 青葉はそれに気がついてマヤに拳銃を渡した。だが、マヤは拳銃を受け取っても下を向いたままだった。


「ロックを外して!」

「あたし……あたし拳銃なんて撃てません」

「訓練で何度もやっているだろう!」

「でも、その時は人なんていなかったんですよ!」


 マヤは抑えていた感情を爆発させたかのように痛烈に青葉に抗議した。マヤからしてみれば、人類の滅亡を防ぐ為にネルフに入った。

 決して殺人をする為にネルフに入ったのでは無い。だが、青葉の立場からすれば、甘いだけだった。


「馬鹿っ! 撃たなかったら死ぬぞ!」


 青葉の言葉にマヤは涙を流すだけだった。確かに女性は基本的には争いを好まない傾向があるだろう。

 だが、無抵抗主義が通用しないと分かった時はどうなるだろうか? それを確認する事は出来なかった。

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「第二層は完全に制圧」


 通路にはネルフの制服を着た死体が多数横たわり、同じ数の血溜まりをつくっていた。

 抵抗を諦めて両手をあげて降伏しようと試みた職員も、戦自の兵士にあっさりと射殺された。

 倒れた死体を踏んで、念入りに頭部に銃弾を撃ちこむ兵士。そこには平時のルールは無かった。戦場の狂気が支配していた。

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「構わん! 此処よりもターミナルドグマの分断を優先させろ!」


 マヤは机の下に蹲っていたが、ミサトと日向と青葉は戦自の兵士との銃撃戦に参加していた。

 そんな中、冬月は全体を見渡しながらも指揮を執っていた。


「あちこち爆破されているのに、やっぱり此処には手を出さないか」

「一気にかたをつけたいところだろうが、下にはMAGIのオリジナルがあるからな」

「出来るだけ無傷で手に入れたいんだろう」


 第二発令所の攻撃は、大型兵器が使用される事は無かった。だが、多勢に無勢。占拠は時間の問題だった。

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 グレバート元帥は総司令部にいて、状況の把握に努めていたが、顔は蒼白になっていた。

 【ウルドの弓】を始めとする人工衛星の大部分が破壊されたが、これは機械であって復旧が出来ると割り切る事が出来た。

 だが、本土の迎撃基地の半数以上が核攻撃を受けて、迎撃網に穴が出来てしまった。

 その為に、世界各地からの飛来する弾道ミサイルや巡航ミサイルを防ぎきる事が出来ずに、本土に甚大な被害を受けてしまった。

 人的被害は三百万人を超えるだろう。下手をすると後遺症などを含めれば被害者は五百万人を超えるかも知れない。

 北欧連合が成立してから初めて受ける深刻な被害だった。


 自分の責務は本土を守る事だ。その責務が果たせなかった事は、グレバートに深い後悔の念を呼び起こさせていた。

 同盟国や友好国の被害は少ない方だが、北欧連合の本土が甚大な被害を受けた事でこれからの国際政治も変わってくる。

 この損失を埋めるには長い年月が掛かるだろう。これ以上の被害は流石に許容は出来ない。

 グレバートは生き残っていた部隊に指示を出して、被災地の混乱の収拾に向かわせていた。それと今以上の厳戒態勢を全軍に命令していた。

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 その時、第三新東京に向けて一基の大型ミサイルが飛行していた。そして着弾すると巨大な爆発が発生。

 地上の施設とジオフロントの地表部分を吹き飛ばしていた。そしてその衝撃はネルフ本部にも激しい揺れを齎していた。


「ちっ、N2兵器か!」

「奴ら、加減てものを知らないのか!?」

「無茶をしよる」


 ジオフロントの上部に巨大な穴が開いて、そこに無数のミサイルやロケット砲がネルフ本部目掛けて撃ちこまれた。

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 長野県 第二新東京市 首相官邸 第三執務室

 その執務室の主は雑音だけが聞こえてくる受話器を持っていた。


「電話が通じなくなったな」

「はい。三分前に弾道弾の爆発を確認しております」

「ネルフが裏で進行させていた人類補完計画。人間全てを消し去るサードインパクトの誘発が目的だったとはな。とんでも無い話だ」

「自らを滅ぼすような生物は人間ぐらいです」

「さて、ネルフ本部施設の後始末はどうするかな?」

「諸外国に再開発を委託されますか?」

「それも隕石衝突回避作戦が完全に成功しないとな。ロックフォード財団に期待するしかあるまい」

「しゅ、首相、緊急回線でお電話が入っています!」

「誰からだね?」

「シン・ロックフォード博士からです!」


 今のシンジは隕石衝突回避作戦に従事しているはずであり、自分に電話が掛かってくるはずが無かった。

 首相は通じなくなった電話の受話器を置いて、慌しく緊急回線の電話の受話器を取った。

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 フランツは報告されてきた被害状況を知って、顔を蒼白にしていた。予想以上の被害だった為である。

 北欧連合は各常任理事国とは敵対政策をとっており、ゼーレの補完計画の時には必ず攻撃を受けるだろうと予測していた。

 だからこそ、隕石衝突回避作戦の終了まで戒厳令を布いたのだ。

 だが、まさか殆どの人工衛星を落とされ、各地の迎撃基地も半数以上が破壊されるとは予想すらしていなかった。

 ましてや、迎撃網の隙をついて各国から弾道ミサイルや巡航ミサイルの攻撃をを受けるなど想定外も良いところだ。

 国内の十箇所に着弾して、被害人口は三百万人以上が見込まれている。甚大と言える被害だった。

 しかし、隕石衝突回避作戦に協力しないどころか、こんな露骨に妨害工作を仕掛けてくるとは。

 このままでは絶対に済ませないと誓ったフランツだった。そのフランツにシンジから連絡が入って来た。


『シン・ロックフォードです。本国はかなり被害を受けましたね』

「ああ。まさか、ここまで被害を受けるとな。各地の放射能被害は大きいが、軍を投入して混乱の収拾に努めているところだ」

『核爆発が起きた地点の放射能は、一時間以内に許容レベルまで下げます。それまでは我慢して下さい』

「分かった。頼む。それはそうと、君が連絡を入れてきたと言う事は、第四段階の準備は完了したのかね?」

『今は最終チェックを行っているところです。ところで日本政府からネルフ鎮圧の行動に入ると連絡を受けていますね。

 何故、こちらに連絡してくれなかったんですか?』

「日本から? 聞いていないぞ、どういう事だ?」

『ならば、電話を取ったはずの補佐官か秘書に聞いてみて下さい』

「ちょっと待ってくれ。日本政府から何か連絡はあったのか?」


 フランツはシンジからの電話機を一旦置いて、側にいる補佐官に尋ねた。確かに今は隕石衝突回避作戦に全力を注ぐ時だが、

 ゼーレの目論む人類補完計画も放置は出来ない。その為に、ネルフの動向に注意を払う必要性はフランツも感じていた。

 国内の被害対応も大事だが、その隙に補完計画を実行されては今までの努力が無駄になる。そんな油断をフランツはする気は無かった。

 フランツの険しい表情と厳しい声を聞いて、補佐官は一瞬恐怖を覚えたが、冷静に応えた。


「は、はい。ネルフがサードインパクトを目論んでいると断定して、日本政府は『A−801』を発令したと正式に連絡が入っています」

「何故、それを急いで報告しないのだ!?」

「し、失礼しました。首相閣下は他に重要度が高い案件の対応に忙しいと判断して、私の独断で報告を遅らせてしまいました」

「その判断は私がするべきものだ! 勝手に判断するな!! 済まなかった。確かに連絡は入ってきている」


 フランツは真っ赤な顔で補佐官を怒鳴りつけると、再び電話機を取ってシンジと話し出した。

 補佐官は身体が震えだしたが、フランツは既に眼中に無かった。手振りで補佐官に席を外すように命じただけだった。


『日本独自の戦力である戦略自衛隊がネルフ本部に侵攻中です。ネルフの陥落は時間の問題でしょう。

 ゼーレの最後の切り札である量産機も確認出来ました』

「!! では、これから補完計画が始まると言うのか!?」

『可能性は高いです。こちらの被害を大きくする事で、我々が補完計画に介入出来なくなるように仕向けたみたいですね』

「……陽動作戦という訳か。それで三百万人以上の被害が出てしまったのか!?」

『ゼーレの一部隊の指揮官の持っていた情報では、攻撃手段も尽きつつあります。これ以上は本国を攻める手段はゼーレは有していません。

 その点は安心して良いでしょう。既に本国を攻撃してきたゼーレの部隊の司令部は潰しました。

 【ウルドの弓】の大部分が失われましたが、全ての攻撃手段を失った訳ではありません』

「分かった。私は国内の混乱の収拾に努めよう。では、君は補完計画の阻止に動くのか?」

『はい。それに関して御願いがあります』

「何だ?」

『今は隕石の件で全世界向けのTV中継をこちらから行っていますので、それに乗じてゼーレの罪を全世界の目の前で告発します。

 その後の追及はフランツ首相にお任せしたいのです。ゼーレの幹部リストを入手しましたので、メールで送っておきます。

 ボクは隕石の件がありますので、ゼーレの補完計画を潰した後は、速やかに第四段階の作戦を発動させます。宜しいですか?』

「……良いだろう。この非常事態だ。君は直ぐにでも動いてくれ。私はそのフォローを行う!」

『ありがとうございます』


 フランツはシンジから送られてきたメールの添付文書を開いて、ゼーレの幹部リストを見ると絶句していた。

 知っている著名な名前がかなりある。そして此処までの勢力がゼーレだったのかと、改めてゼーレの規模に恐怖していた。

 だが、ゼーレと一緒に滅びる気は無い。シンジのゼーレの糾弾を待って、どう動けば効果的かをフランツは考え始めた。

***********************************

 キリルから吸い上げた記憶を元に、各地のゼーレの攻撃拠点と研究生産拠点は既に潰してある。

 これでゼーレから追加の攻撃を受ける事は無いだろう。残るはゼーレの用意した量産機の始末、それとネルフの処置ぐらいだ。

 ゼーレの幹部達の居場所はキリルの記憶には無かったが、後で時間を掛けてでも炙り出せば良いだろう。

 シンジはミハイルと掛け合って、TVの放映権を譲り受けると日本政府に連絡を取った。


「シン・ロックフォードです。首相を出して頂きたい!」

『!! 少々お待ち下さい!』


 現在、ロックフォード財団からのTV中継は巨大隕石の軌道が映し出されていた。シンジはその中継を自分の執務室に切り替えた。

 第三段階の作戦で使用するコロニーレーザーは使用する前に破壊されてしまい、それを全世界に報道されてしまった。。

 これでは全世界の視聴者が不安を持っているだろう。それでパニックになられて暴動を起こされても困る。

 不本意だが、自分が健在である事と色々な手段を講じている事を知らしめて、全世界の視聴者に安心して貰わねば為らなかった。

 手始めはネルフの対応だ。今のネルフに戦力は無く、攻め込む意味すら無かった。寧ろ、目を逸らせる陽動作戦の部類であった。

 まずは邪魔な勢力を抑えて、補完計画を潰す事に全力を注ぐべきだと判断していた。


『私だ。久しぶりだな』

「シン・ロックフォードです。さっそくですが、日本政府は『A−801』を発令して、第三新東京に攻め入っていますね。

 それを中止して下さい。直ちに戦自に撤退命令を出して下さい!」

『何故だっ!? 北欧連合を除く各常任理事国の大使が、ネルフがサードインパクトを企んでいるという証拠を持って来た。

 検証は既に終わっているから間違いは無い! 何故、ネルフの占拠を中止する必要があるのだ!?』

「各常任理事国の大使が持って来たのは、ターミナルドグマの白い使徒の存在証拠と、それを使ったサードインパクトの計画書ですか?」

『何故、君がそれを知っている!?』

「はっきり言いますが、ボクがこの前の最後の使徒を倒した時、ターミナルドグマの白い使徒もボクが処分しました。

 今のターミナルドグマに使徒は居ません。各常任理事国の大使が持ち込んだのは偽の情報です」

『何だとっ!? それは本当か!?』

「こんな事で嘘を言っても始まりません。あなたは知らないでしょうが、足止めの為に本国の防衛施設は多大の被害を受けて、

 迎撃網に大きな穴が開いてしまい、各常任理事国から核攻撃を受けました。本国では三百万人以上の被害が出ています。

 本当なら、隕石衝突回避作戦の為に、全部の核兵器を我が国に提供したはずの各常任理事国は隠し持っていたのですよ。

 そんな事をした各常任理事国を信用出来るんですか? これだけでも胡散臭い事は十分に分かるでしょう。

 それともボクの保証では信用出来ませんか?」

『い、いや、そんな事は無いのだが……しかし……』

「言い忘れましたが、今のボクの姿は全世界に中継されています。あなたとの電話会談の内容もです。

 嘘だと思うなら、TVをつけて下さい」

『ま、待ってくれ! ……!!』

「分かって頂けたようですね。ボクもくどい説明は避けますが、信用するなら『A−801』を撤回して下さい。

 これから各常任理事国の背後に潜む人類補完委員会の勢力を叩きますから、巻き添えを食わないように注意して下さい」

『何だとっ!? 人類補完委員会が今回の件を画策したと言うのか!?』

「より正確に言えば、人類補完委員会の真の姿はゼーレと呼ばれる秘密結社。そのゼーレがサードインパクトを企んでいます。

 そして邪魔になるボクを始末しようと、前回に『天武』に核ミサイル攻撃を加えたのも彼らです。その前はVTOLを襲撃されました。

 日本政府にネルフを攻撃するように仕向けたのも彼らです。今のネルフにあるのは、ボクが破壊した弐号機のみ。

 これではネルフ単独ではサードインパクトは起こせません。そして、ゼーレがサードインパクトを企んでいる証拠はこれです」


 そう言って、シンジは九機のキャリアが海上を飛行している様子を拡大してTV中継した。

 衛星軌道上の全ての監視衛星はゼーレの攻撃で破壊されたが、シンジが持っている監視機能はそれだけでは無かった。

 高高度を飛行するステルス機能付きの無人偵察機を多数、日本周辺に展開させていた。その内の一機からの撮影映像だった。


「人類補完委員会が率先して進めていたEVA量産機九機が、キャリアに搭載されて第三新東京市に向かっています。

 最後の使徒が倒された今、EVAはもはや不要の長物。それなのに補完委員会は量産機の建造計画を推進してきました。

 そして、隠していた核兵器まで持ち出して我が国に多大な損害を与えて、その隙に九機のEVA量産機を第三新東京に向かわせている。

 これこそ補完委員会が、いやゼーレがサードインパクトを企んでいる状況証拠になりませんか?」

『し、しかし、それだけでは具体的な証拠に欠ける。委員会がサードインパクトを企んでいるという証拠にはならない』

「ええ。それは十分に承知しています。ですが、ゼーレの攻撃を受けて本国の人工衛星関係が殆ど全滅。

 そして各地の迎撃基地も核兵器を使用した特攻攻撃を受けて、半数以上が被害を受けました。

 その隙を狙って各国の基地からICBMと巡航ミサイルが次々と発射され、我が国に三百万人以上の被害が出ています。

 この攻撃は各常任理事国の各基地から行われました。

 本来は休戦状態である我が国に宣戦布告も無く、いきなり核攻撃を加えてきたのです。それも本来は無いはずの核兵器を使ってね」

『…………』

「彼らは全面戦争を覚悟しているのか? いいえ、サードインパクトを起こしてしまえば、後は関係無いと考えたのでしょう。

 その為に、我が国がサードインパクトに介入出来ないように、陽動攻撃を仕掛けてきたのです。その為に多くの人が犠牲になりました。

 それを許す事など出来ません!」

『……どうするつもりだね?』

「完全な決別ですね。もはや講和など無意味です。実際の報復内容はフランツ首相の権限ですから、ボクは言える立場にありません。

 ですが、【ウルドの弓】を失ったとはいえ、我々が報復手段を全て失ったと判断するのは早過ぎますよ。これがその証拠です」


 シンジの言葉の後、密集隊形を取って飛行している量産機を全てを呑み込む巨大な光が天空から降り注いだ。

 エネルギー密度も桁違いで、キャリアに搭載中の為にATフィールドを発生させていないEVA量産機に抗う手段は無かった。

 その光は九機のキャリアと同数のEVA量産機を一瞬にして蒸発させた。

 量産機が再生機能を備えているとは言っても、一瞬で蒸発したのでは再生出来るはずも無かった。

 ゼーレが総力をあげて準備した量産機は、何の役にも立たずに一瞬で消え去ってしまった。

 そして量産機を蒸発させた巨大な光の余波は凄まじく、海上に到達したその光は巨大なキノコ雲を発生させていた。

 そこまでTV中継した後、再び画面はシンジを映し出していた。


「御覧のように、【ウルドの弓】を破壊されて、こちらが攻撃手段を持っていないと勘違いされても困ります。

 今使った武器は【ウルドの弓】を遥かに上回る破壊力を持っています。さて、これに対抗する手段を各国は持っているんですか?

 後悔しても遅いですよ。本国を攻撃した報いはしっかりと受けて貰います。そちらの方はフランツ首相から発表があるでしょう。

 さて、日本政府は直ちに戦略自衛隊を撤退させて下さい。代わりに、日本駐在の国連軍の出動を要請します」

『待ってくれ! 国連軍を出動させるくらいなら、戦略自衛隊を撤退させる意味が無いだろう』

「戦自が命令で無差別攻撃を行っているのは知っています。今更、ネルフの捕縛に切り替えは出来ないでしょう。

 一応言っておきますが、戦自が無差別攻撃を行った事を責める気はありません。サードインパクトを恐れた為でしょうからね。

 後々の裁判の為にもネルフの幹部連中を全て拘束する必要があると思われますから、国連軍を派遣させて下さい」

『だ、だが、ネルフは強硬に抵抗している。捕縛など無理だ』

「ネルフのMAGIはこちらで落します。MAGIを落されたネルフに抵抗の手段はありません。一時間以内に戦自を撤退。

 その直後に国連軍を投入する手配を進めて下さい。全責任はボクが取ります。それとも信用出来ませんか?」

『……分かった。君を信用しよう。この会話もTVに流れているのだったな。部隊を説得する手間が省けて助かるよ』


 首相は疲れた表情だったが、シンジの要請を承諾した。各常任理事国の大使に騙されたのは痛かったが、今はシンジの要請に従った方が

 良いだろうとの判断だった。これにより戦自のネルフ侵攻は中断される事となった。

***********************************

 ミハイルが行っていたTV中継は、北欧連合の手の内を知る良い情報としてゼーレの面々も見ていた。

 だが、シンジが出てきた時は雰囲気が変わった。シンジを抹殺、無理ならば極力足止めする部隊にES部隊の大半とサイボーグ兵士二千人の

 部隊をつけたのに、それがもう全滅してしまったのだろうか? それともこんなに早くシンジが戻るという事は別の理由があるのだろうか?

 判断に悩んだが、続いて映し出された量産機九機が一瞬にして蒸発した様子を見ると、全員が絶句していた。

 莫大な予算と時間を掛けて用意した量産機九機が一瞬にして失われるなど、誰も考えてもいなかった。

 ゼーレの元には対宇宙攻撃部隊、北欧連合強襲部隊、それに各地の研究生産設備が消滅したとの報告が入っていた。

 表の顔である各企業や宗教法人などはまだ被害を受けてはいないが、裏の組織が尽く消滅してしまったのだ。

 これを再建するのはもはや不可能。資金、時間、人材、技術、全てが不足していた。


『……まさかあれだけ苦労して用意した量産機九機が一瞬で失われるとは。我々は魔術師の力を見誤っていたのか?』

『……我々の苦労の成果が一瞬で失われるとはな。これでは補完計画を遂行出来ない』

『……既に組織の大半が失われた。再度計画を立てるのは不可能だ。各常任理事国にも報復の手は伸びるだろう。

 そうなったら表の組織にも手が入り、二度と立ち直れぬ。このままでは我々そのものが消滅してしまう』

『スペースコロニーの細菌テロも失敗したようだ。このままでは我々の完敗になってしまうが、絶対に認める訳にはいかぬ』

『コロニーレーザーは破壊した。後は魔術師が用意した第四段階の手段を潰せば、巨大隕石は間違い無く人類を滅ぼすだろう』

『……精神は救えぬが、それも又再生の為の滅びとなるか。良いだろう。だが、可能なのか?』

『既に実働部隊の殆どが消滅しているが、少数だが残っている者達もいる。その者に命じよう』

『魔術師の用意した第四段階の手段がどういうものか分からぬが、せめて我々ゼーレの意地を見せる時だろう』

『待て! 我々は覇権争いに敗れたのだ。この際は潔く身を引くべきだ。

 既に宇宙の開発が目前に控えており、人類の未来は明るいものとなろう。それを我々の独断で摘み取る事は出来ぬ』

『此処に来て裏切るつもりか?』

『我々ゼーレは人類の管理者として永く君臨してきた。だが何事にも寿命というものがある。我々ゼーレの寿命は尽きていたのだ。

 この期に及んで全人類を滅ぼすなど、我々のエゴに過ぎないのでは無いか?』

『我々にも統治者としての意地がある。今更後には引けん。そして裏切り者には死を与えよう』

『ぐあぁぁぁぁぁ!!』

『愚かな。影でコソコソと動き回っているのを知られていないとでも思ったか。高貴な務めを忘れし者に用は無い。

 何としても残った戦力で魔術師の用意した手段を破壊するよう命じるのだ!

『我等のところに北欧連合の手が伸びるのも時間の問題だろう。だが、その前に何としても魔術師に一矢報いる!』

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 ゼーレの科学者であるセシルは、同僚であるオーベル、キリル、ギルの三人が倒された事を察した。

 それに加えて、あっという間に各地のゼーレの各攻撃施設や研究生産拠点がキノコ雲となって蒸発した事で慌てふためいていた。

 さらには、ゼーレが総力をあげて準備したEVA量産機九機が一瞬で蒸発したのを知り、混乱状態になっていた。


(ES部隊の大半とサイボーグ兵士二千人を率いたキリルは、魔術師の足止めさえも満足に出来なかったと言うの!?

 戦闘方法さえ選べば一国の軍隊だって蹴散らせるのに、魔術師に届かなかったと言うの!?

 さらには北欧連合の強襲部隊を率いたオーベルの司令部も、対宇宙攻撃部隊を率いたギルの司令部もキノコ雲となって消え去った。

 確かに北欧連合本国に被害を与える事は出来たけど、ここまであっさりとあたし達の部隊を消し去る事が出来るなんて、あちらを甘く

 見ていたって事! しかも、こちらの各地の部隊の拠点や研究生産拠点も尽く潰されてしまったわ。これじゃあ、戦力の回復なんて無理よ!

 しかもEVA量産機九機を一瞬で蒸発させたあの光は何なの!? 【ウルドの弓】でさえ、あそこまでの攻撃力は無かったわ。

 まだ魔術師は隠し札を持っていたと言う事ね。じゃあ、第四段階はどんなものが出てくるのよ!?)


 同僚と各部隊と施設を失った事で、セシルは冷静さを失って呆然と佇んでいた。

 そのセシルに命令が下った。残存戦力を使って、何としてでもシンジの準備した第四段階の手段を潰せという内容だった。

 セシルは洗脳されており、命令に反抗する事など出来はしない。そしてその命令はセシルの混乱を収束させた。

 冷静さを取り戻したセシルは、シンジの用意した第四段階の手段とはどういうものかを確認しようと、生き残った部隊に指示を出した。

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 シンジは全世界にゼーレの所業を明らかにして、量産機九機を一瞬で消滅させる事で北欧連合に報復能力がある事を見せ付けた。

 日本政府と交渉してネルフへの侵攻を中止させ、ネルフのメンバーの拘束を目指した事を確認すると、フランツはTVカメラの前に立った。

 フランツは内心の怒りを隠す事もせずに、憤怒の表情で全世界に向けて演説、いや脅迫を行った。


「我が北欧連合に対してゼーレを名乗る組織が、各常任理事国を操って攻撃を仕掛けてきた。

 我が国の保有していた人工衛星のほぼ全てが破壊され、本土の各地にあった粒子砲の迎撃基地も半数以上が核攻撃を受けた。

 そして防空網の隙を狙って、欧米各地の基地から弾道ミサイルが、そして各地の軍基地から巡航ミサイル攻撃を受けて

 我が国の地方都市十箇所が戦略核兵器の攻撃を受けてしまった。被害人口は最低でも三百万人で、これからも増え続ける一方だろう。

 隕石衝突回避作戦で全ての核兵器を我が国に提供したはずなのに、何故各国は隠し持っていたのか!?

 そして隕石衝突回避作戦に全力を注いでいる我が国に核攻撃を加えるとは、各国は滅びを望んでいるのか!?

 今回は各常任理事国だけで無く、世界各地の軍基地を持つ一般国からも攻撃はあった。

 それらの国々が滅びを望んでいるなら、希望通りに我が国から与えよう。

 それが嫌なら四十八時間以内に我が国に攻撃を加えた各国政府は、無条件降伏をする事を正式に発表したまえ!

 これは命令だ! 嫌なら滅びを与えるだけだ! 既に我が国の国民三百万人以上が核攻撃を受けて失われている。

 本来なら直ぐにでも報復攻撃を加えても良いのだが、四十八時間の猶予を与えたのは我が国の慈悲と知れ!

 繰り返すが、我が国を攻撃した国々を我々は絶対に許さない! 各国は我が国の怒りを思い知るが良い!!」


 フランツのTV演説は全世界に向けて行われた。

 今回の被害が甚大である事と、これからの事を考えて生半可な事で事態の収拾を図る気は無かった。何より国民感情が許さない。

 そして最後にゼーレの幹部リストを画面に繰り返して流すと、フランツの姿はTVから消えた。

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 国家元首の承認を得ないで、政府高官や軍幹部の独断で北欧連合への攻撃を行った各国は大混乱になっていた。

 隕石衝突回避作戦を実行出来るのは北欧連合、いやロックフォード財団のみ。そして各国はそれを妨害する意思など無かった。

 だが、ゼーレはそんな国家の都合などに囚われずに、北欧連合への攻撃を意図していた。

 そして各国の政府や軍部にいる構成員に対して、北欧連合への弾道ミサイルと巡航ミサイルによる攻撃を命令していた。

 フランツのTV中継の最後に流されたゼーレの幹部リストは、全世界に知らされた。

 各国の著名人が名を連ねている。その豪華さに目が眩んだ人間もいたが、今は勝手に攻撃命令を出した事を確認するべきだと、

 各国の警察や軍部は幹部リストに名を連ねているメンバーの拘束に動き出していた。


「何だと!? あのゼーレの幹部リストのメンバーが全然捕まらないだと!?」

「は、はいっ! 自宅や会社、別荘まで捜査しましたが、姿も形も見当たりません!」

「そんな事で許されると思うのか!? 隕石衝突回避作戦に全核兵器を提供したはずなのに隠し持ち、あまつさえ、それを北欧連合に

 向けて使用したのだ! それで三百万人以上が亡くなった。我が国の責任はどうなると思っている!?

 せめて幹部リストに名前が出ていたメンバーを拘束して差し出さない事には、我々政治家の全員が銃殺で国が滅びるかも知れん!

 そんな危急の時だと分からんのか!? 何としてもゼーレの幹部を探し出せ!! まだ北欧連合とはコンタクトが取れないのか!?」

「駄目です! 第三国の大使館経由で事情説明がしたいと申し込んでいますが、全て拒否されています!

 無条件降伏を承諾するまで、一切のコンタクトは拒否されています!」

「どんな些細な情報でも良い! ゼーレの幹部に関する情報を収集しろ! それと北欧連合とのコンタクトは諦めるな!」

「それとゼーレの幹部リストにあった人物の所有していた各所が攻撃を受けて破壊されています。その時に消滅した可能性もあります」

「何でも良い! 直ぐに情報を集めろ! 少なくても北欧連合に攻撃を命令した人間は分かるはずだ! 直ぐに拘束しろ!」


 まず、本来は隕石衝突回避作戦で全世界の核兵器を北欧連合に提供したはずなのに、隠し持っていた事が拙かった。

 そしてそれを人類の滅亡を防ぐべく隕石の衝突回避作戦を行っている北欧連合に向けて使用したのも拙かった。

 さらには、勘違いはあったのだが結果的には第三段階の主役であるコロニーレーザーを破壊してしまった。(これはゼーレ独自の部隊)

 そして北欧連合での被害が最低でも三百万人以上になると言う事だ。セカンドインパクト時の混乱期を脱した後では最大の被害人口である。

 さらには各国から資金を集めて建造していたEVA量産機が、サードインパクトを起こす為に準備されたとシンジから糾弾された。

 これらの事が北欧連合を除く各常任理事国の支持を受けた人類補完委員会、その裏の組織であるゼーレによって齎された結果である事が

 知れ渡ると、各国の国民は紛糾した。常任理事国で無い国は騙されていたという理由がつけられたので、まだ救いがあった。

 各常任理事国では自国の政府がゼーレに操られていたという不名誉な事もあり、事態をどう収拾するかの目処さえ立ってはいなかった。

 とはいえ、時間が無い。北欧連合は本土に甚大な被害を受けており、生半可な条件では許しては貰えないだろう。

 無条件降伏などしたら、それこそどんな報復を受けるかさえも分からない。だからこそ踏ん切りがつかなかった。

 最低でもゼーレの幹部を拘束して差し出さない事には、報復が怖くて無条件降伏さえ出来ない状態だった。

 だが、時間は待ってはくれない。その審判の時は刻一刻と迫っていた。

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 軍隊というのは迅速に命令に対応して動く事が必須の条件になる。

 とはいえ、ネルフ本部に侵攻している戦自の部隊は、かなり内部に入り込んでおり、撤退命令が周知されるまではある程度の時間は要した。

 ネルフは対人防御システムは殆ど装備されておらず、侵攻の時もそうだが撤退の時も殆ど被害を出さないで戦自の部隊は引き上げていった。

 戦自が一時的に占拠した場所には虐殺されたネルフ職員の死体が多数放置されており、その惨劇の様子を物語っていた。


 ネルフの職員は戦自の攻撃が止んだ事を怪しんだ。罠と思った為である。

 何と言っても降伏した職員を射殺する光景を見ていたので、戦自がネルフへの侵攻を諦めるなど思ってもいなかった。

 現在のネルフは外部との交信を一切絶っていた為に、外部の状況がどんなものかを知る事が出来なかったので、ある意味当然の事だ。


「戦自の攻撃が止んだだと!? どういうつもりだ!? 偵察要員は出せんのか!?」

「まだ戦自の部隊が残っているので、偵察を出すのは危険です! しかし、生き残ったカメラの映像では、戦自の部隊は撤退を始めています」

「何故、戦自が撤退するのだ!? 外の状況は把握は出来ないのか!?」

「駄目です! MAGIの666プロテクト機構が動作していますので、外部状況は一切不明です!」

「そうだったな。しかし、どういう事なのだ? ゼーレが補完計画を諦めるとも思えん。これから量産機が来ると思っていたのだが……」

「安心するのは、まだ早い」

「そうだな」

「待って下さい! モニターに『ZZZ』の文字が溢れています! MAGIの制御は不能!」

「馬鹿な!? 今のMAGIは666プロテクト動作中だろう! 外部からハッキング出来るはずが無い!」

「分かりません! MAGIが666プロテクト中なのは確かですが、確かにハッキングを受けています!

 防御不能! MAGIが乗っ取られます!」


 今まで、MAGIは何度と無くハッキング攻撃を受けてきた。だが、結果としてはMAGIは一度も陥落した事は無かった。

 輝かしい戦歴だったが、それは過去のものになりつつあった。






To be continued...
(2012.09.29 初版)


(あとがき)

 スペースコロニーを公開した時、試作コロニーは三基あると言ってあります。その内の一つは人狼族が使用して、加持も居たコロニーです。

 そして残りの二つをラグランジュポイントに配置していました。

 万が一を考慮して、試作コロニーに輸送船が入る時には自動的に亜空間転送で本来のコロニーに転移するように細工をしていました。

 展望台から見える映像は、全て試作コロニーから見える映像です。こういう小細工も忘れてはいません。


 しかし、各地で紛争が次々に発生して、北欧連合も甚大な被害を受けました。

 やられっ放しという訳にはいきませんから、盛大な報復攻撃が行われました。量産機の消滅はその一環です。

 イベントが多くて順番を考えるのに苦労しています。それと「ZZZ」は以前に外伝の後書きで予告した通りです。

 自分で言うのも何ですが、こうもネタ塗れの二次小説ってあるんでしょうか? 次話も別のネタが出てきます。



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