因果応報、その果てには

第六十五話

presented by えっくん様


 作者注. 拙作は暇潰し小説ですが、アンチを読んで不快に感じるような方は、読まないように御願いします。

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 ロックフォード財団が隕石衝突回避作戦の第三段階を実行しようとした時、人類補完委員会、その裏の顔であるゼーレの攻撃が

 北欧連合とロックフォード財団に対して行われた。そして北欧連合は本土に核攻撃を受けて、三百万人以上が消滅。

 【ウルドの弓】を始めとする人工衛星の殆どがゼーレによって破壊されてしまった。そして肝心のコロニーレーザーまで破壊された。

 その間隙をついてゼーレはサードインパクトを企んだが、シンジの秘匿兵器によってEVA量産機を一瞬で殲滅。

 サードインパクトを起す人類補完計画を完全に潰した。これで隕石群を消滅させられれば、地球への脅威は消える。

 その切り札はバルト海の海底にあった宇宙船を秘かに改造した宇宙戦艦であった。そして全世界にその宇宙戦艦の持つ破壊力を見せ付けた。

 だが、見る者全てに安心感を与えた巨大宇宙戦艦も、ゼーレの核爆弾を使った自爆攻撃を受けて大破してしまった。


 混乱する状態を抑えたのは、初号機による隕石群への特攻だった。

 小型隕石は数が多過ぎるので無理だったが、中型以上の隕石は初号機の犠牲の元に何とか危機を回避出来る事になった。

 これらの事が全て全世界に中継され、サードインパクトを企んだ事もあるが、隕石衝突回避作戦の邪魔をして現在の危機を呼び込んだ

 ゼーレに対して怨嗟の声が集中していた。もっとも、人名リストは公開されていたが居場所は不明だ。弾劾しようにも出来はしない。

 それにゼーレの責任を追及する時間的余裕も無く、無数の小型隕石の脅威から逃げようと各国の市民達は大混乱状態になっていた。


 小型隕石と言っても分類上は直径が十キロ未満だ。仮に直径が五キロの隕石が地球に衝突した場合は、直径が百キロ以上のクレーターが

 出来て、巻き上げられた粉塵によって地球規模の気候変動の可能性がある。

 太古の大地の支配者だった恐竜が絶滅した原因は、隕石の衝突だとする学説もある。

 一撃で地球の生命体が死に絶える事は無いが、深刻な被害を受ける事には変わりは無い。

 さらに言えば、初号機が自爆して巨大隕石が地球への衝突コースから外れた後、ミハイルの報道打ち切り発表があり、情報がまったく

 入らない状態だった。北欧連合と同盟国、友好国には政府間連絡で隕石の衝突時間等の連絡はあった。

 だが、ネルフ支持国にはそれらの連絡は一切無く、情報も無いままパニックに陥った民衆が暴動を起すなど、大混乱状態が続いていた。

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「駄目だ! このシェルターは既に収容人員をオーバーしている。他に行ってくれ!」

「そんな!? 今まで三つのシェルター全て断られたんだ。こっちには子供も居るんだ。入れてくれ!」

「パパ、怖い!」 「ママ、あたし達はどうなるの?」

「駄目だ! 本当に余裕は無いんだ。こちらにも子供はいる。悪いが他を当たってくれ!」

「もう直ぐ隕石が来るかも知れないんだ。そんな余裕は無い。どけっ!」

「ぐあぁぁぁ!」


 情報も無くパニックに陥った人々に冷静な判断は出来ない。まずは自分達が生き残ろうと考える。

 こうして、シェルターに無理やり入ろうとする人間とシェルターに入れまいとする人間との間に戦闘が起きていた。

 もっとも、こうした武力衝突は武器を持っている一部の人間だけだった。

 武器も持たない人間達は安全な場所を血眼になって捜し求めていた。


「何処に逃げりゃ良いんだよ!? もう、何処のシェルターも満杯だ!」

「シェルターに逃げ込んだって、隕石の直撃を受ければシェルターごと吹っ飛ぶ。隕石が来ない事を祈るだけさ」

「隕石は何時頃来るんだ!? 情報が全然入って来ない。TV局もラジオ局も何も放送していないぞ!」

「隕石が直撃すれば死ぬって時に、真面目に仕事なんかしてられるか!? TV局もラジオ局の職員も真っ先に逃げ出したのさ!」

「俺達はどうすれば良いんだ!?」

「知るかよ! 魔術師のカミカゼ攻撃で中型以上の隕石は地球にぶつからなくなったから、直撃さえ無ければ生き延びられるはずだ!」

「それに北欧連合とロックフォード財団が残った武器で隕石を攻撃するって言ってたよな。何とかなるかも知れないぞ」

「でも、ゼーレって奴の攻撃でコロニーレーザーも爆破されて、あの【ウルドの弓】や宇宙戦艦も被害を受けたんだろう。

 本当に大丈夫なのか!?」

「分かる訳が無いだろう! まったく、サードインパクトを企んだり、ロックフォード財団の邪魔をするなんて、どういうつもりだ!?

 俺達は自殺する為に税金を払ったんじゃ無い! まったくゼーレの連中を縛り首にしてやりたいぜ!」

「そのゼーレを支持した各常任理事国の大使館に暴徒が侵入したらしい。凄い火が出ていたぞ」

「まったく、あいつらの所為でここまで苦しむなんて、もし生き残ったら絶対に殺してやるぞ!」

「おい、あの山の麓に洞窟があるらしい。食料は無いが、少しでもマシだろう。行くぞ!」


 各国とも隕石襲来の準備をする余裕など無く、何処に逃げて良いのか分からない民衆が暴動を起し始めていた。

 そして本来は混乱を収拾するべき警察組織や軍組織も統制が取れずに、混乱は拡大する一方だった。


 普通のネルフ支持国なら騙されたからという理由から、不満の捌け口は各常任理事国の大使館程度に留まっていた。

 だが、ゼーレを支持したと公表された各常任理事国の国民の怨嗟の視線は、自国の国会議員や軍部に向けられていた。

 隕石衝突回避作戦に使用する為に核兵器を全て提供したはずなのに隠し持ち、それを北欧連合に使用して三百万人以上の被害を出したのだ。

 北欧連合の恨みは大きいだろう。だからこそ、この危急の時にも情報も無く、支援も無いのだろうと市民は推測していた。

 誰しも死ぬ事は望んでおらず、生き延びる事を望んでいた。絶対に人類の滅亡を画策したゼーレ、それを支持した政府は許せなかった。

 そして国会議事堂や軍施設に大勢の市民が集まり、暴徒化した市民によって各施設の被害は拡大する一方だった。

 その混乱を収拾する組織は無く、滅びを待つだけになっていた。

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 日本は使徒戦が行われていた事から、他の国から比べるとシェルターの設置は進んでいた。

 もっとも、全ての国民が収容出来るほどのものは用意が出来なかったが、諸外国から比べればマシな方だった。

 それに旧【HC】基地のメガ粒子砲で隕石群の迎撃を行うとTV報道した事が、多くの国民に安心感を与えていた。

 混乱もあまり無く、ある者はシェルターに、ある者は山間部などに避難をしていた。

 海岸部には津波の危険性があった為に、最低でも海岸から十キロ以上は離れる事との通知が政府から出されていた。

 だが順調に避難が行われたのは、メガ粒子砲で迎撃範囲に入っているエリアのみであった。


 隕石の侵入コースとメガ粒子砲の位置の関係から日本全土をカバーは出来なく、一部の地域はまったくの運任せの状態になっていた。

 宇宙での迎撃が順調に出来れば良いが、それが不調に終わると本当に生きるか死ぬかは隕石が落ちてくるか否かに左右される。

 直径数キロの隕石の直撃を受けたら、シェルターごと吹き飛ばされて死ぬだけだ。

 この為に、メガ粒子砲の迎撃範囲に含まれない地域では大混乱が発生していた。


「なんで船が無いんだ! ここは北欧連合の迎撃範囲外なんだろう! 政府は俺達を見殺しにするつもりか!?」

「何で北欧連合にもっと戦力を要求しないんだ!? 俺は死にたく無いぞ!」

「御願いです。子供だけでも安全なところに避難させて下さい!」

「船は離島の住人を避難させる為に出払っているんだ! 飛行機もそうだ! 政府は出来る限りの事はしている。

 全員がシェルターに避難してくれ! 満員の場合は出来る限り海岸線から離れてくれ!

 海に隕石が落ちた場合は巨大津波の危険性もある。十分に注意してくれ! まだ時間は十五時間ほど余裕がある。慌てずに避難してくれ!」

「そんな事で納得出来るか! 俺達は税金を払ってきたのに、安全を守れないなんてどういう事だ! 税金泥棒じゃ無いか!」

「甘ったれるな! 税金を払ったからこそ、シェルターが準備出来たんだぞ! それを言うなら、今まで我々の足を引っ張ってきた

 政治家の責任は無いとでも言うのか!? 何でも国に責任を擦り付けるのもいい加減にしろ!」

「ここの市議会はやたらと政府のやる事の反対決議を出していたな。それでメガ粒子砲の迎撃範囲に入っていないのか!?」

「そうか! 以前の国会議員は馬鹿な事をやって落選していたな。あいつの所為で俺達はロックフォード財団から見捨てられたのか!?」

「い、いや、そういう訳じゃ無いだろう。落ち着け!」


 この地域がメガ粒子砲の迎撃範囲に入っていないのは、単純に隕石の侵入コースとメガ粒子砲の位置の関係からだった。

 だが、パニックになった群衆にそんな理屈は通用しない。パニックになった群衆が求めるのは、怒りをぶつける生贄だった。

 そして売国行為を行った政治家を選出した地域の人間を、スペースコロニーへの移住を認めない事が思い出された。

 メガ粒子砲は北欧連合の管理下にある。迎撃範囲を決める時に恣意的な事は無かったのかと疑った。

 事実は違うが、パニックになった群衆が一番分かり易く納得出来る理由だった。

 その為に、自分達の怒りをぶつける相手として、今は落選した嘗ての政治家を選んだのだった。

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 第二新東京市のある地下シェルターに、首相以下の政府閣僚達が避難していた。

 この地下シェルターは政府の運営が出来る設備を備えている。その設備を使って、日本中の状況の確認を行っていた。


「陛下達は無事に避難されたのだな」

「はい。冬宮理事長も合流されて、皇室の方々と一緒に特別地下シェルターに避難されています。

 一般市民の避難活動には混乱もありますが、概ねは順調に進んでいます」

「そうか。後は北欧連合とロックフォード財団に期待するしか無いのか」

「そうですね。シン・ロックフォード博士の尽力によって、一瞬で人類が滅びる危機は回避出来ました。

 後は、小型隕石をどれだけ迎撃出来るかで人類の運命は決まります。我々に出来る事は祈る事ぐらいです」

「分かった。戦自と国連軍の各部隊の様子も確認しておいてくれ」

「はい」


 首相の胸の不安は消えなかった。面識のあったシンジが初号機と自爆して中型以上の隕石の脅威からは解放された。

 だが、その犠牲を払っても、まだ脅威が残っているのだ。この結末はどうなるのだろう。一国の元首として、自国の未来に思いを馳せた。

 自分は責務を放棄するつもりは無く、まだ日本は国家としての機能を失ってはいなかった。

 どれだけの被害を受けるか分からないが、出来るだけの事をするつもりだった。そして冷静に最後の審判を待つ用意が整いつつあった。

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 北欧連合の駐日大使であるロムウェルは、他の同盟国や友好国の大使館員達と一緒に、日本政府の手によって用意されていたシェルターに

 避難していた。外交官用のかなり設備が整ったシェルターであった。そのラウンジで各国の大使と会談を行っていた。


「ロックフォード財団の尽力によって此処まで状況が改善出来ました。ロムウェル大使には感謝致します」

「いえ、我が国の政府は何もしていません。全て財団の独自の成果です。しかもシン・ロックフォード博士まで犠牲になってしまった」

「お悔やみ申し上げます。一度はお会いしたかった」

「私が最後に会ったのは、博士が負傷して月面基地に行く直前でした。こんな状況になるとは当時は想像すら出来ませんでした」

「そうでしょうねえ。でも、私は運が良かった。日本では粒子砲の迎撃が行われます。これがネルフ支持国に赴任していたら、

 生きた心地がしなかったでしょう。このシェルターもかなり立派な造りですしね。さすがは日本と言ったところでしょうか」

「しかし、他の国の大使達が見えませんな。かなりスペースに余裕があるのに……どういう事でしょうか?」

「おや、御存知じゃ無かったのですか? ネルフ支持国の大使館員達は、別のシェルターに避難させられたそうですよ。

 諸悪の根源であるゼーレを支持した国の大使達が、理不尽な扱いを受けないようにとの日本政府の気配りのようです」

「ほう。日本の外務省はそこまで気配りが出来るようになっていたのですか? 以前はマニュアル人間ばかりだった記憶がありましたが」

「例の日本の国内の意識改革以降ですな。あれから札束外交しか出来なかった外務省の職員は飛ばされ、それなりに手強くなりました。

 北欧連合政府には日本も強く出れないでしょうが、我が国に対しては手強い交渉相手になりましたよ」

「ほう、それは初耳ですな。私には以前と変わらないように感じられましたが」

「いえいえ。この事態がどう落ち着くかは予断を許しませんが、日本が手強い交渉相手になったのは間違いありません。

 少なくても被害無しという事は無いでしょう。その復興には北欧連合の手が必ず必要になります。それは我が国も同じです。

 是非とも復興の際は我が国にも御国の協力を願いたいですな」

「それは勿論です。本国政府に掛け合いますよ」

「私見ですが、この災害で滅びる国も出て来るでしょう。国際政治力学が一変すると考えています。

 この機会にロムウェル大使の御意見を伺いたい」


 第二新東京の地下にあるという事から、完全に旧【HC】基地のメガ粒子砲の迎撃範囲に入っている事もあり、自身に危険が及ぶ可能性は

 低いと誰もが考えていた。この後の国際政治に関しての意見を交換して、お互いの祖国の利益になるように画策するのであった。

 後で様子を確認しに来た外務省の職員も加わって、復興計画の草案が練られた。それにはネルフ支持国が加わる事は無かった。

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『こちらは国営放送です。国民の皆様にお知らせします。現在、多数の小型隕石が地球への衝突コースを取っています。

 ロックフォード財団は宇宙空間において、隕石の迎撃作戦を行います。

 そして近海には我が国の為に派遣された機動艦隊が配置されており、我が国の為に隕石群の迎撃活動を行います。

 隕石の数が多く、我が国に被害が出るかも知れません。ですが、友好国である北欧連合は我が国に支援の手を差し伸べているのです!

 決して国民の皆様はパニックには為らずに、冷静に行動して下さい! 我が国への隕石の到着予定時刻は約十時間後です。

 津波の危険性がありますから、決して海岸線には近づかないように注意して下さい。冷静な行動を御願いします!』


 北欧連合の友好国には、隕石の侵入コースとその到着時刻などの詳細情報が送られていた。

 シェルターの用意はあまり進んでいなかったが、見捨てられる事も無く、機動艦隊の支援があるというのは国民の心の支えになっていた。

 避難した人々の不安を消し去る事は出来なかったが、パニックを誘発する事は無かったのであった。

 この為に北欧連合の友好国では、混乱は少なくて済んだ。そして最後の審判を待つのであった。

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 某国は侵略行為に遭い、亡国の危機にあった。

 隕石群の脅威が迫りつつあったが、目先の侵略行為に対抗する事を最優先としなくてはならなかった。

 何時隕石群が降り注ぐのか? その情報はまったく伝わって来ず、不安を抱えながらも侵略してくる敵軍への対応に追われていた。

 軍部は侵攻してくる敵軍を出来るだけ食い止めるだけだ。

 そして一般市民は隕石群から逃げる為では無く、侵略者の虐殺から生き延びる為に逃げ回っていた。

 首都を脱出した政府首脳部は出来るだけ戦禍が及ばない軍の基地で、戦況の確認を絶望的な表情で行っていた。


「では国土の約半分が奴等に占拠されたと言うのか?」

「はい。敵は秘密の地下トンネルを使って首都の守備隊を奇襲しました。その為に一気に首都は陥落して守備隊も全滅。

 一般市民は殆ど首都を脱出出来ないまま、敵の虐殺と略奪が行われました。そして首都の守備隊が全滅した事で、敵は一気に南下。

 現在は第三次防衛ラインで戦闘が発生しています。このままでは数日で第三次防衛ラインも突破されるでしょう」

「なんたる事だ! 我が軍の空軍は何をしている!?」

「焼け石に水という事です。既に弾薬が乏しくなってきています。首都が早期に陥落した事で兵士の士気は低下しています。

 逆に敵は首都を落とした事と物資の略奪が成功した事から、勢いに乗って進軍しています。

 占領された地域で大虐殺が行われているという情報もありますが、今の我が軍に敵を排除するだけの力はありません」

「……そうか。日本への支援要請はどうなっている!? 何時援軍は来るのだ!?」

「日本政府は我々の支援要請を一切無視しています。既に隕石群への対応の為に、日本全土に特別避難警報が発令されています。

 戦自は日本海から対馬海峡、そして東シナ海に戦自の無人偵察機の哨戒ラインを維持したまま沈黙を守っています。

 それを無理やり突破しようとした我が海軍の哨戒艦は、警告無しに撃沈されました。難民を乗せた漁船も同様です」

「くそっ! 日本は我々を見殺しにすると言うのか!? 絶対に許さない! 後で徹底的に追及してやる!」

「生き残る事が出来たらですね。隕石群への対応はどうされるんですか? 我が軍は敵軍への対応に追われて、国民の避難誘導は出来ません。

 政府の方から警察組織に連絡して対応を御願いします」

「隕石群が何時降り注ぐかも分からないんだぞ! そんな対応が出来るかっ! 軍部で何とかしたまえ!」

「無理です。敵軍が侵略して来なければ我が軍が避難誘導が出来ましたが、今ではそんな余裕はありません」

「だったら、みすみす国民が隕石で死に絶えるのを黙って見過ごすと言うのか!? 軍部の責任だろう!」

「二面作戦をやる余裕はありません。あなた方政府は何もしないで命令するだけですか? それこそ責任放棄ではありませんか!」

「何だとっ! きさま軍人の癖に大統領である私を批判しようと言うのか!?」

「そもそも、日本との関係を拗らせた責任はあなたにあるのでしょう! その責任を取って下さい!

 では、私は部下の指揮をしなくてはなりませんから失礼します!」

「ま、待てっ!」


 同席していた閣僚達は何も発言しないで、白い目でその大統領を見つめていた。今の大統領は孤立無援、四面楚歌の状態だった。

 敵軍、隕石群、部下、同僚。その全てから攻め立てられ、状況を改善出来る要素は何も持ってはいなかった。


 パニックになった大統領は日本の要求を全て呑むという通信を送ったが、既に日本全土には特別避難警報が発令されており、

 国外の事に関与する余裕などあるはずも無く、無視されただけだった。

 数回の通信の全てに返信が無く、大統領は呆然としていた。そして何の対応をする事も無く、最後の審判の時を迎える事となった。

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 某大陸国家は全土に避難警報を発令していた。もっともシェルターの数は少なく、逃げる場所は国民の自由意志に任せていた。

 その為に各地で暴動などが発生していたが、軍部も自分達が避難するのが精一杯であり、その暴動を鎮圧する組織は無かった。

 そして政府の上層部や軍の高級幹部は、ヒマラヤ山脈の中腹をくり貫いた対核戦争用の地下シェルターに避難していた。


「北欧連合からは隕石の衝突日時情報の提供は無いが、日本の様子を確認する限り、もう間も無くだな」

「ああ。我が国は北欧連合の迎撃範囲に含まれていないから、どれだけの被害を受けるか想像すら出来ん」

「どれだけ宇宙で隕石を消滅させてくれるかに掛かっているな。我が人民に深刻な被害が出てしまうか」

「我々はこの地下核シェルターに居るから安全だ。隕石群の脅威が去るまで此処で避難していれば良い」

「魔術師が中型以上の隕石を何とかしてくれたからな。一発で地球上の全生命体が死に絶えるような大物が来なければ何とかなるだろう。

 こうなると、人口の多さも幸いするな。どれだけ被害を受けようとも全滅する事は無いだろう」

「各地で人民の暴動が起こっているが今は鎮圧している余裕は無い。我々の避難指示を無視した輩はどうなろうと知った事では無いな。

 もっとも、隕石騒ぎが落ち着いたら直ぐに軍を出動させる必要がある」

「寧ろ暴動を起こしているような輩は一掃した方が良いだろう。その方が後々の統治もし易くなる。

 まったく民度が低い人民にも困ったものだ。この機会に略奪が発生しているところもあるからな」

「隣の情勢も混乱してきた。あそこは避難活動さえ行っていないという報告だ。さて、どうなるかだな」

「それこそ神のみぞ知るというやつだな。運を天に任すしか無いという事だろう」

「それは我が国の人民も同じ事だ。文化財も全部では無いが、貴重なものは此処に運び込んである。準備は出来ている」


 地下の核シェルターには数ヶ月分の食料や水、そして自家発電設備もあった。

 この避難者達は隕石群の脅威は自分達には届かないと確信していた。そして最後の審判の時を迎える事となった。

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 某国の政府要人や軍の高級官僚は、ロッキー山脈の地下にある核シェルターに避難していた。

 既に全土に避難警報が発令されていたが、全ての国民が避難出来るシェルターは無く各地で大混乱が発生していた。


「国民の避難は進んでいないのか?」

「シェルターも全員が収容出来るはずも無く、海岸線沿いの地下シェルターは津波の被害を受ける可能性があるから内陸部に避難しようと

 する車で大渋滞が発生している。軍を出して混乱を抑えているが、未だに収拾する目処は立っていない」

「確かに津波被害は十分にありそうだからな。それと国立天文所からは海に落下する大物の情報は入ってこないのか?」

「隕石群の存在は分かったが、細かいサイズ別の分布などはまったく分からないそうだ。

 だから、どれほどの津波被害が出るかも予測がつかない」

「北欧連合は知っているんだろう。国交断絶だから直接聞けないだろうが、第三国経由でも情報は入って来ないのか?」

「北欧連合と我が国と国交がある第三国はあるが、人類補完委員会を支持した我が国に対する感情は最悪だからな。

 そんな貴重な情報は中々入って来ない。大使館の連中も現地政府の態度が悪くて、顔を青褪めていたぞ。

 まったく大統領命令無しにICBMを発射するなんて我が軍はどうなっているんだ!?」

「どうやら大統領が持っている最終安全装置のコピーを持っていたらしい。既に命令を発した高級軍人は射殺されている」

「あのゼーレの構成員リストに載っていた奴か?」

「そうだ。他の構成員は見つかってはいない。奴だけだ。北欧連合の無条件降伏勧告も一度きりだ。あそこも避難に忙しいんだろうな」

「今の状況で無条件降伏なんか出来る訳が無い。確かに報復攻撃は怖いが、今は隕石群の脅威に備える方が優先だろう」

「魔術師の報復攻撃で我が国のICBM発射基地は根こそぎ破壊された。まあ、基地は郊外にあるから市民に影響は無いがな」

「攻撃された時はキノコ雲があがったが、放射能は測定されていない。エネルギーキャノンと言ったか、どういう原理なんだ?」

「さあな。謎解きより今は隕石群への対処が優先だ。宇宙では財団に任せるしか無いが、大気圏に突入した隕石なら何とかなるのか?」

「空軍の全戦力と対空ミサイルの全てを使う予定だ。もっとも、突入速度が速いから迎撃出来るか心許無いがな」

「神のみぞ知るというやつか」


 北欧連合の人工衛星の大部分が失われて、隕石への攻撃手段の大半が失われた事は周知の事実だった。

 しかもその破壊行為は北欧連合を除く各常任理事国が支持した人類補完委員会、ゼーレの手によって行われた。

 北欧連合の迎撃網に自国は含まれないと判断して、何とかして自力で隕石の迎撃が出来ないかを必死に検討していた。

 国家とは国民の安全を守る義務がある。その義務を遂行する為には、多大な犠牲も払うのも止むを得ない事もある。

 こうして隕石群による最後の審判を待つ準備は整いつつあった。

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 初号機が自爆した直後のエクセリオンの艦橋は、四人の少女がすすり泣く声だけが聞こえていた。

 シンジを失ったのだ。ミーシャ、レイ、マユミ、カオルの四人は何もする気には為れずに、深い悲しみに覆われていた。

 その四人に活を入れたのはクリスだった。このまま四人が悲嘆にくれて何もしなければ、シンジの犠牲が無駄になる。

 そう言って四人を叱責した。クリス自身も悲しみはあった。だが、今はシンジのした事を無駄にする事無く、出来る限りの事を行って

 地球の全生命体を守る事を優先するべきだと考えたのだ。四人はクリスの叱責を受けて、涙を拭いた。

 そして四人で目を合わせて、表情を改めて自分の任務を遂行し始めていた。

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 エクセリオンのメインモニターには隕石群のマップが映し出されていた。

 隕石群は細長い歪な円柱の形状を為しており、その直径は地球の倍以上もあった。

 既に巨大隕石は軌道をかなり離れていたが、核兵器を使った中型隕石の破壊の破片が増えた事により、小型隕石の数が増えていた。

 まったく、こんな歪な円柱の隕石群が地球への衝突コースを取っているなど、運命の悪戯としか言い様が無い。

 確率論から言って、本来は有り得ない事態だ。設定の悪意さえ感じられる。だが、今それを言っても始まらない。

 ミーシャ、レイ、マユミ、カオルの四人は決意を秘めて、必死にエクセリオンで迎撃準備を進めていた。


「目標の隕石群との接触まで、後120秒よ」

「動力炉は出力37%まで回復。バリアシステムとESPジャーマーは正常。バリアシステムの出力は現在86%」

「『フェンリル』は全機発進済み。全ての反応兵器はスタンバイOK!」

「艦首主砲の修復は間に合わないけど、第二種兵装の45%が復旧済みよ。ミサイル弾頭は全て失われたから、使えるのは

 エネルギーキャノンのみ! 副砲やパルスレーザーはエクセリオンに向かってくる隕石の攻撃に専念するわ!」

「準備は良いわね。突入するわよ!」

「『フェンリル』搭載の反応兵器は、隕石群の中部エリアの大物を集中的に攻撃! 散開!」

「エネルギーキャノンは隕石群の前面から攻撃。直径一キロ以上のものを選択して攻撃!」

「正面エリアのバリアを強化! 小物は全てバリアで消滅させるわ!」

「全員、ショックに備えて! 突入!!」


 こうしてエクセリオンはその巨体を隕石群の中に突入させた。無数の破片がバリアシステムに衝突して、艦体にかなりの振動を与えた。

 その振動に気を取られる事無く、エクセリオンのエネルギーキャノンは次々に火を噴出した。

 そして無人戦闘機『フェンリル』は、小さい破片の間をすり抜け、大き目の隕石に反応弾を搭載したミサイルで攻撃していた。

 消滅は無理でも小さく砕けば大気圏突入で燃え尽きる。若しくは被害が少なくなる。そこに活路を見出していた。

 そしてエクセリオンは困難な操舵を強いられていた。小さめの隕石ならバリアシステムと接触すれば、消滅する。

 だが、大き目の隕石の場合はバリアシステムのエネルギーだけでは消滅せずに、エクセリオンに大きな衝撃を与えた。

 その為に、無数の隕石群の中にあっても、被害がなるべく少ないコースを飛行しなくてはならなかった。

 この隕石群は細長い形状をしている。何時終わるか分からない焦りを抱えたまま、四人の少女は必死に自分の任務を遂行して行った。

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 エクセリオンが隕石群の中に突入して、大きい隕石を狙って攻撃している様子は付近の観測用無人宇宙船から撮影されていた。

 その情報は直ちにバルト海の海底基地に転送され、ミハイルは管理権を譲り受けた簡易砲台の攻撃準備を入念に行っていた。

 簡易砲台は数は多いが、威力は小さいし連射も無理な構造だった。コストを抑えて、数を揃える事を優先させた為だった。

 とは言え、宇宙空間での貴重な攻撃手段である事には変わりは無い。

 大出力の砲撃衛星二基は修理中であり、殆どの【ウルドの弓】を失ったので、尚更であった。

 小さい隕石なら大気圏で燃え尽きるか、地上に衝突しても被害は少ない。だが、直径が数メートルを超えるサイズになると

 被害の規模は大きくなってくる。エクセリオンは必死に隕石群への攻撃を行っているが、数が多過ぎた。

 全てを撃ち落とす事など物理的に不可能だった。その為に、第二陣として簡易砲台の攻撃が行われる。

 約三百基の簡易砲台を効率良く稼動して、効果的に隕石を攻撃しなくては為らないのだ。

 連射が出来ない関係で、大気圏で燃え尽きる大きさの隕石を攻撃しても意味は無い。

 それに隕石の被害から、本国と同盟国、友好国を優先させる必要があった。

 身勝手と呼ばれるかも知れない。もし生き延びた人がいれば、見殺しにされたと非難されるかも知れない。

 だが、今はあまりにも多過ぎる数の為に、まず自国と同盟国、友好国への被害を減らすべきだと判断されていた。

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 宇宙はロックフォード財団の独壇場であり、北欧連合の軍部とはいえ簡単には手出しは出来なかった。

 だが、地上に降り注ぐ隕石を攻撃する最終システムとして、北欧連合の本国の粒子砲の迎撃基地の存在があった。

 ゼーレの核兵器を使った自爆攻撃で甚大な被害を受けていたが、全滅した訳では無い。生き残っていた迎撃基地は、宇宙から送られてくる

 隕石群の情報を元に、綿密な迎撃作戦を練っていた。これに失敗すれば、本国が甚大な被害を受ける。滅亡する危険性さえある。

 その為に、各迎撃基地の職員は必死になって、迎撃の準備作業を行っていた。


 さらには衛星管理局にもまだ迎撃手段は残されていた。ゼーレの攻撃が及ばなかった【ウルドの弓】三基。

 これが軍部に残された衛星軌道上の兵力の全てだった。核融合炉を内蔵して、連射が可能な機構を持っている。

 一発では大き目の隕石の破壊は無理だろうが、何度も攻撃を行う事で隕石の破壊は可能だろう。

 その為に、衛星管理局の職員は隕石群の観測データを目を皿のようにして、攻撃するべき隕石の選別を行っていた。


 それと機動艦隊の存在もあった。本国の近海に一つ。同盟国である中東連合に一つ。そして世界各地の友好国に三艦隊を配置していた。

 機動艦隊の旗艦である巡洋艦に装備されている大型の粒子砲一門だけだが、衛星軌道上への攻撃が可能だった。

 正直言って、広範囲の被害をたった一門の大型粒子砲で防げるとは思わない。

 だが、北欧連合が友好国を見捨てる事は無いとアピールする結果になり、派遣された各国の人心を安定させるのに一役買っていた。


 最後は日本の核融合炉発電施設に設置されたメガ粒子砲三門である。地上設置型としては、最大の出力を誇る。

 固定式の為に攻撃範囲は限定されるが、地上からの攻撃力は絶大であった。


 そして懸念されていたのは、海への隕石の落下だった。地上に衝突する隕石に気を取られすぎて、海に落下する隕石を見逃すと、

 大きさによっては巨大津波の原因にもなる。この為に、無数の隕石の中から危険性が高いものを選別して攻撃する必要があった。

 そしてバルト海の海底にある巨大な生体コンピュータは、エクセリオンの攻撃をすり抜けて地球に向かっている隕石群の解析に入っていた。


 世界は混沌としていた。事前情報に従って避難を済ませている国もあれば、未だに混乱が続いている国もある。

 未だに戦闘行為が続いている国もあった。こうして混沌とした状態のまま、世界は最後の審判の時を迎える事となった。

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 隕石群は細長い歪な筒の形状をしており、その直径は地球の倍ほどの大きさになる。

 如何にエクセリオンが必死に攻撃を加えようと、全てを破壊する事など出来はしない。艦首主砲の拡散モードが使えないから尚更だった。

 そして観測用無人宇宙船からの情報を元に、簡易砲台の攻撃準備が整った。

 ミハイルは管制室のモニターで隕石の分布マップを確認しつつ、隕石群の先頭部分が簡易砲台の射程内に入った事を確認した。


ファイアー!!


 ミハイルの号令に従って、簡易砲台三百基は一斉に火を噴いた。簡易砲台の近くで見れば、直線に並んだ簡易砲台の一斉攻撃は壮観だろう。

 まさに光のカーテンと言い換えても良い。だが、地球の倍以上の直径の隕石群から比較すれば貧弱の一言に尽きた。

 隕石群はちょうど地球を直撃するコースを取っている。そして隕石群の周囲は地球の重力の影響を受けるが、衝突しないものもある。

 だが、外からの砲撃は隕石群の外周からの攻撃になってしまう。どうしても優先的に隕石群の内部に攻撃の手は届かない。

 そして簡易砲台は一度発射すると、エネルギーを溜める必要があった。

 少しずつだが、隕石群の外周部から徐々に破壊されていったが、その速度は遅く、隕石群の先頭部分は地球への落下を始めていた。

 その様子をミハイルは表情を暗くして見つめていた。

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 北欧連合の迎撃基地は全部で三十八箇所あった。過去形である。ゼーレの核兵器を使った自爆攻撃によって半数以上が破壊されていた。

 残った基地も至近で核爆発を受けて、未だに復旧が終わっていない基地もある。

 その中の第二十五迎撃基地は、ゼーレの攻撃を免れて機能を維持している貴重な基地の一つであった。

 その基地に緊迫した空気が流れていた。エクセリオンは隕石群の中に突入し、大き目の隕石を片っ端から攻撃している。

 そして宇宙で簡易砲台三百基が攻撃を開始した事も連絡が入っている。衛星管理局による【ウルドの弓】三基の攻撃も始まった。

 それでも攻撃をすり抜けてくる隕石はある。それほど隕石の数は多かった。そして最後の砦として迎撃基地があった。

 その事を自覚している職員達は真剣な表情で、射程圏内に隕石が入ってくるのを息を潜めて待っていた。

 既に基地内にある核融合炉は最大出力だった。砲身が壊れるまで連射するつもりである。まさに生きるか死ぬかの状況だった。


「隕石群が射程圏内に突入するまで、後240秒!」

「大きさ別の攻撃対象の選別は終了しています。粒子砲迎撃システムの稼働率は現在100%です。他の迎撃システムとのデータリンク終了。

 ターゲットロック。バッテリィシステム正常。エネルギーを収束していますが、全砲塔の300連射が可能です。

 核融合炉の出力は現在98%!」

「バルト海に落下するもので大きいもの。それに我が国本土を直撃するもの。それに周囲の海域に落下するものが目標です。

 既に国内の避難は終わっています。津波警報も発令中です。隕石群が突入してくるまで後120秒!」

「射程圏内に入り次第、手当たり次第攻撃を開始しろ! 砲身が壊れるまで続けるんだ!

 一発でも大きいものに直撃されては数十万の命が一瞬で失われる事もある! 全員、気を引き締めて作戦を遂行しろ!」

「隕石群の一部は射程圏内に入りました!」

よし、全砲塔は全力射撃を開始せよ! ファイアー!!


 こうして第二十五迎撃基地から、地球に突入してくる隕石に向けての攻撃が開始された。

 市民は全員が避難しており、その光景を見る人間は基地の職員だけだった。

 そして職員は大事な家族、そして国を守る為に必死の努力を続けていた。他の生き残っている迎撃基地でも同じ状況であった。

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 中東連合は北欧連合の同盟国であり、国家の樹立からそれほど時間を置く事無く、機動艦隊が派遣されていた。

 もっとも、北欧連合の機動艦隊は世間の一般標準から比較すると小艦隊というべき構成だった。

 だが、粒子砲と核融合炉を艦内に組み込み、ワルキューレを擁するその戦力は各国の脅威でもあった。

 対地攻撃能力こそ大きくは無かったが、対航空機や対ミサイル防衛において比類ない力を発揮していた。

 その為に、地域の安定に貢献してきたという自負を艦隊司令官は持っていた。

 だが……さすがに今回の隕石群は、完全に防ぎきるのは物理的に無理と判断していた。

 飛来してくる隕石を遠距離で迎撃出来る能力を持つのは、旗艦である巡洋艦の大型粒子砲一門だけである。

 これで中東連合一国全てをカバーするなど無理であった。だが、同盟国という関係から何もしない訳にもいかない。

 それは中東連合の政府首脳部も納得している事だった。既に隕石の衝突の詳細時刻などのデータに基づき、全国民が避難している。

 後は派遣された機動艦隊の奮戦に期待するだけだった。それを伝え聞いた艦隊司令官は、期待を裏切る気はまったく無かった。

 艦橋のメインモニターには、地球に突入してくる隕石の状況が表示されていた。

 そして残り時間が120秒になった時、不退転の決意を秘めて、部下に命令を発していた。


「各員、最終状況を報告せよ!」

「ワルキューレ全機発進済み。上空にて出来るだけ隕石に攻撃を行う予定です。既に所定の迎撃位置についています」

「旗艦の大型粒子砲の発射準備は終了。核融合炉の出力最大。大丈夫です!」

「ユグドラシルネットワークで、中東連合に被害を与える隕石の位置情報は把握しています。自動射撃準備は終了!」

「各艦の小型粒子砲も射程圏内に入り次第、攻撃を開始します!」

「全艦隊には津波警報を発令しています! 万が一の時のレスキューも待機済みです!」

「我々が中東連合に派遣されて八年が経過した。職員の中には現地の人と結ばれた者もいるだろう。此処は我々の第二の故郷だ!

 必ず第二の故郷を必ず守れ! 全員の奮戦を期待する。大型粒子砲、ファイアー!!


 メインモニターの表示が切り替わり、隕石群が射程圏内に突入した事を知った艦隊司令官は大型粒子砲の発射を命じた。

 そして艦隊旗艦である巡洋艦から、一条の光が天空に伸びていった。

 その様子は中東連合の各シェルターに中継され、人心の安定に寄与する事となっていた。

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 日本の富士核融合炉発電施設のメガ粒子砲三基は、その収容ドームが開いて威容を誇示していた。

 既に外部への電力供給は三分の一にカットされ、その余剰電力をメガ粒子砲に供給している。

 地上に設置された中では最大の威力を誇っていた。だが、固定砲台という条件から広範囲をカバーは出来なかった。

 当初の目的は【HC】基地の上空への攻撃だけを考慮していた為であるから、当然の事だ。

 そして、今は日本の主要部の防衛の期待を担って、メガ粒子砲にエネルギーが注ぎ込まれていた。

 その様子を基地保安部隊の司令であるライアーンと、臨時の施設長であるアーシュライトが見つめていた。


「エクセリオンか。中佐があんな巨大宇宙戦艦を造っていたとは驚きだったが、ゼーレの自爆攻撃を受けてダメージを受けた。

 隕石群の中に突入して大き目の隕石に攻撃を加えているが、やはりダメージが大きい為か効果はあまり無いな」

「ええ。ですが、博士の犠牲で一瞬で地球上の生命体が死に絶える危険は去りました。後は残った我々が頑張りませんとね」

「そうだな。中佐の犠牲を無駄にする事は出来ない。宇宙での迎撃も限度がある。かなり大気圏に突入しているな。

 既に各地で被害が出始めている」

「メガ粒子砲で何処まで迎撃出来るかですが、もし太平洋に大き目の隕石が落下すると巨大津波の危険性があります。

 既に日本政府は特別避難警報と津波警報を同時に発令しています。まあ、被害がゼロという事は無いでしょうが、まずは大丈夫でしょう」

「固定砲台ゆえの制限か。歯痒いものだな」

「当初の設計の時に、こんな状況は想定していないと思いますよ」

「想定外の事か。仕方あるまい。我々は出来る事をするだけだな」

「基地の全職員は地下シェルターに避難してあります。地上施設にいるのは、関連職員のみです。既に準備は全て完了しています」

「よし、隕石群の先頭が射程圏内に入ったな。メガ粒子砲、ファイアー!!


 前回は三基のメガ粒子砲を一条の光に収束して使徒を攻撃した事はあった。今回はそこまでの威力は求められていない。

 三基のメガ粒子砲は、各々の目標に向かって攻撃を始めた。その様子は日本各地のシェルターに中継されていた。

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 隕石群は細長い歪な円筒形であり、地球への衝突コースを取っていた。そして地球が自転している関係で、地球の全範囲に衝突の

 危険性がある。宇宙、並びに地球の各所で迎撃が始まったが、当然優先順位はある。自国や同盟国、友好国に被害を与えない事が優先だ。

 そしてその範囲に入っていない場所に、徐々に隕石の衝突の被害が広がっていた。


 直径が一メートル未満であれば、一軒の家ぐらいが壊れる程度の被害で済む。それが地上の至る所に着弾して、被害を増やしていった。

 隕石の大きさが増すにつれ、被害の規模は拡大する。そして北欧連合とはまったく関係の無い国に、直径八メートルの隕石が落ちてきた。

 その隕石はある地方都市の中心を直撃した。すると小さなキノコ雲があがり、戦術核兵器クラスの被害を齎した。

 都市の住民はシェルターに避難していたが、それでも戦術核兵器クラスの威力である。当然、各地のシェルターにも被害は出ていた。

 そして、それらの小型の隕石がどれだけ降り注ぐかも分からないのだ。まさに地獄であった。

 あるシェルターでは、全員が消滅していた。如何に地下にあったとしても、直撃を受けては意味が無かった。

 あるシェルターでは響いてくる大きな揺れを感じて、全員が悲鳴をあげパニックに陥った。


 宇宙での隕石の迎撃は、直径が一キロ以上のものを優先的に攻撃している。衝突時の被害が大きい為である。

 その為に、直径が一キロ未満のものは残った【ウルドの弓】、それと簡易砲台三百基、それと地上からの迎撃が向けられた。

 それでも迎撃網をすり抜けてくる隕石の数は多い。

 ある国の首都に、直径が二百メートルの隕石が直撃した。地下シェルターに入っていても意味が無かった。

 大きなキノコ雲が発生して首都を完全に蒸発させ、周囲百キロ以上にマッハ2を超える衝撃波を撒き散らした。

 隕石の直撃を免れても、その衝撃波によって周囲の広範囲の建築物などを尽く破壊し尽していった。


 そして海に落下した隕石は巨大な津波を引き起こした。その海域の周囲に甚大な被害を齎した。

 難民を乗せた小さな船も、巨大なタンカーであっても巨大な津波に襲われては助かる術など無く、海中に沈んでいった。

 そのような光景が、世界の至る所で見られた。普通の市民に抵抗する手段は無く、じっと息を潜めて隠れて耐えるだけだった。

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 バルト海の海底基地で、全体の行動の把握を行っているミハイルとクリスに焦りが広がっていた。

 今のところ、本国と同盟国、友好国に致命的な被害は出ていない。だが、それ以外の国では深刻な被害が拡大していた。

 ある国では首都に隕石の直撃を受けて、首都にいた国民全てが瞬時に消滅。巨大なクレーターだけが残っていた。

 そしてそれ以外の隕石の衝突もあって、高高度からの撮影映像では建築物など一つも残っていない状況だった。

 こうなると、地下シェルターに避難していても生き延びられるかは分からない。

 そして津波の被害も大きかった。各国の海岸線の大部分が津波の被害を受けた。

 地下シェルターにいても設備が老朽化していれば、シェルター内に海水が侵入する事もあるだろう。

 その場合はシェルター内の全員が溺死してしまう。

 それに隕石への攻撃目標を決める為の観測システムにも障害が発生し始めていた。宇宙にある二基の砲撃衛星からの観測データは大丈夫だ。

 だが、不足していた観測機能を補う為に急遽配備した高高度を飛行する無人偵察機が次々に隕石と衝突して墜落。

 隕石の迎撃を選定する為の観測データに綻びが生じ始めていたのだ。


<くっ! 高高度偵察システムの稼働率は60%に低下したか!>

<隕石を避ける余裕が無いわ! 砲撃衛星の観測範囲をもっと地球側に回して!>

<そうなると事前に大き目の隕石を簡易砲台で攻撃出来なくなる。駄目だ! 被害が大きくなる可能性がある!>

<だったら、どうするのよっ!? このままじゃあ、地上は全滅するかも知れないわよっ!>

<高高度無人偵察機を隕石群の突入範囲から移動させる。距離があるから観測精度は下がるが、これ以上破壊されては迎撃指示が出せない>

<まだ本国や同盟国は無事だけど、何時被害を受けるか分からないわ!>

<大き目のものはエクセリオンに任せるしか無い! 何だとっ、エクセリオンがっ!?>

<まさかっ!?>


 伝えられた情報にミハイルとクリスは衝撃を受けて、顔を真っ青にしていた。

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 南米の友好国に派遣されていた機動艦隊の旗艦では、オペレータからの報告に司令官が顔を青褪めていた。


「では隣国のS国は全土が隕石の衝突で廃墟と化してしまったのか?」

「高高度偵察システムからの撮影映像では、そうなります。さっきの直径が約四百メートルの隕石の直撃を受けたのが原因でしょう」

「……我々の任務は友好国であるP国を守る事だ。だが、その隣国のS国が全滅とはな」

「小さい隕石も多数直撃しましたから……」

「余力があれば少しは手助け出来たがな。我々の戦力ではP国を守るのに精一杯だからな」

「それでもP国にも被害は出ています。首都は無事ですが、地方都市の七つが隕石の直撃を受けて消滅しています」

「P国政府とは連絡は取れるのか?」

「はい。回線は保持されています。先程、お礼の通信がありました。回線を開きますか?」

「いや、良い。隕石群はあと一回くる。それまでに艦隊の態勢を整えておけ! 津波被害を受けた駆逐艦はどうだ?」

「被害は大きかったのですが、沈没は免れています。ですが、同規模の津波がくれば拙いです」

「隕石の観測システムが被害を受けて、観測データの精度が落ちています! 次のタイミングはどうなるか不明です!」


 地球の自転の関係と隕石群の軌道の関係から、一度被害を受けた地域であっても再度の隕石の落下の危険はあった。

 これ以上の被害はさすがに看過出来ない。その為に艦隊全員で次の隕石の迎撃の準備を行っていた。

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 北欧連合は以前から粒子砲を装備した迎撃基地を多数設置していた為に、地球上で一番隕石の迎撃態勢が整っていた。

 【ウルドの弓】が三基残っている事もある。とはいえ、被害がゼロという事は無く、基地の管制室は慌しい雰囲気であった。


「第一回目の隕石群の襲来は凌げたか。後、一回を凌げれば大丈夫か」

「小さい隕石の被害がそれなりに出ている。民家もかなり被害を受けたぞ。数万世帯が被害を受けている」

「それでも他国の被害から比べれば、だいぶマシな方だ。中には首都ごと消滅した国だってあるんだ。民家レベルなら問題無い」

「我が国はシェルターが整っているからな。避難していれば大丈夫さ」

「核ミサイル攻撃を受けて三百万人以上が亡くなった。これ以上の被害を受ける訳にはいかない」

「我が国が隕石の迎撃には一番装備が揃っている。でも、隕石観測システムに被害が出て精度が低下している。それが心配だ」

「それは何とかして貰わなくてはな。それと各国の被害は?」

「かなり酷い。ユーラシア大陸の中央部に大き目のやつが複数落ちたからな。インド大陸やアフリカ大陸、アメリカ大陸もそうだ。

 被害を受けていない国なんて無いぞ。被害集計が出来ないから詳細は不明だが、下手をすると世界人口は半分以下になるかも知れん」

「半分で済めば良いさ。全滅する事は無いだろうが、下手をすると一割を切るかも知れん」

「【ウルドの弓】が全基残っていれば、ここまで被害が拡大する事も無かったんだろうが」

「それを言い出せば、ロックフォード財団の作戦の邪魔をしなければ、此処まで被害が拡大する事は無かった。

 コロニーレーザーや巨大宇宙戦艦。あれが完全に稼動していれば、今頃は祝宴をしていたかも知れないんだぞ」

「そうだな。散々に邪魔されて、最後はシン・ロックフォード博士も犠牲になってしまったしな」

「博士が直径五十キロ以上の隕石の軌道を逸らしてくれたから、まだ俺達の努力で何とかなる状況まで持ち込めたんだ。

 特に最後の直径が三百キロの巨大隕石が地球に衝突してみろ。被害がどうの言う前に地球上の全生命体は一瞬で消滅するんだ」

「今はあの巨大宇宙戦艦が隕石群に突入して、大き目の隕石を攻撃してくれている。あれが無かったら、此処の装備だけでは無理だろう」

「あの女の子四人が頑張ってくれているんだよな。感謝しないとな」

「まさかっ!? おい、モニターを確認しろ! 隕石群の後半部に巨大な爆発反応があった!」

「何だとっ!? 直ぐに財団に問い合わせろ!」


 円筒形をした隕石群は長い。まだ次の隕石群の襲来はあるのだ。その状態で隕石群の中で何があったのか?

 その状況確認に職員は慌しく動いていた。

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 中東連合の各王族達、政府上層部、軍の上層部はシェルターに避難していた。

 その中の一つのシェルターには臨時の政府が置かれて、隕石の被害状況の集計に追われていた。


「では、国土の半数以上に被害が出たのか?」

「はい。やはり機動艦隊の旗艦だけの攻撃では、満足な隕石の迎撃は出来ませんでした。地上の施設の被害はかなりの規模です。

 ですが国民はシェルターに避難しており、現時点の国民の被害は三割程度で済んでいます」

「……隣国は全滅なのか?」

「……はい。北欧連合から提供されている高高度からの撮影映像では、二つの隣国は跡形も残っていません。

 あるのは巨大なクレーターだけです。あそこは満足にシェルターも用意していませんでしたから、生き残りはほぼゼロかと」

「それから比べれば、我が国はまだ良い方だと言う事か。隕石の襲来は、後一回あるのだな」

「はい。それを耐え凌げれば、我々は生き延びたと言えます」

「各地のシェルターの様子はどうだ?」

「全滅したシェルターもありますが、生き残っているシェルターではさほど混乱は無く、不安に怯えながらも国民は耐えてくれています」

「もう少しだ。もう少しの辛抱だ。私から全土に向けて放送を行う。準備してくれ」

「はっ」


 今が一番辛い時だ。そしてもう少し頑張れば展望が開けてくる。それを国民に伝えようと元首は各シェルターへの放送準備を指示した。

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『国民の皆さん! 私は元首のパオロンです。今は隕石群の襲来で国民の皆さんに避難という困苦を強いています。

 隕石で被害に遭った方もいらっしゃいます。ですが、後18時間は我慢して下さい。隕石群は一度来ましたが、規模が大きい為に

 もう一度来襲します。それが6時間後になります。非常に辛い12時間になるでしょう。被害を受けるかも知れません!

 ですが、我々には北欧連合の機動艦隊が支援に来てくれているのです! あの粒子砲で隕石を撃ち落としてくれているのです!

 言い辛いですが、北欧連合の支援の無い隣国の被害は想像を絶します。隣国はクレーターだらけで生き残った人々は殆ど居ないでしょう。

 ですが、我が国は北欧連合の支援を受けていますので、国民の約六割が生き残っています。

 生きる希望を捨てないで、もうしばらく耐えて下さい! 後18時間の辛抱を御願いします!』


 北欧連合の友好国にもかなりの被害は出ていた。とは言え、何の支援も無い隣国と比べるとまだマシと言えた。

 まだ世界各地と連絡が取れて、隕石群に関する情報も入ってくる。派遣されている機動艦隊も健在であった。

 希望を捨てないで次の隕石の襲来が終わるまでは辛抱して欲しいと、その国の元首はシェルターに避難している人々に呼びかけていた。

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 欧羅巴の某国では隕石の衝突の脅威が叫ばれていたが、同時にゼーレを拘束しないと北欧連合に対して何も言えないとして

 国民の避難を進めながらもゼーレの捜索に力を注いでいた。隕石の落下の詳細情報も入ってこない状況で、運命の時を迎えた。

 北欧連合とは対立しているので、粒子砲の迎撃は一切望めない。この状況で、隕石は容赦無く地表に降り注いだ。


 小さな隕石が民家を直撃した。住民は避難していたが、家屋は全壊した。戻っても生活は出来ないだろう。

 ある隕石がガソリンスタンドを直撃した。隕石の破壊効果は小さかったが、引火して大火災を引き起こした。

 これも周囲の住民は避難していたので、人的な被害は無かった。

 ある隕石が海に落下した。少し大きめの隕石だったので、津波を引き起こした。高さ三十メートルにもなる津波が沿岸部を襲った。

 沿岸部にあるシェルターは全滅だった。場所によっては津波の高さは五十メートルにも及んだ。この為に内陸部でも被害が発生した。

 ある大きめの隕石がシェルターがある山を直撃した。高さが五百メートルもあったその山は跡形も無く吹き飛んだ。

 複数の地下シェルターが吹き飛び、周囲の百キロ以上を全て更地に変えてしまった。

 ある大きい隕石は地方にあった主要都市の中心を直撃した。そして地下シェルターに避難していた住民三十万を一瞬で消滅させた。

 残ったのは巨大なクレーターと周囲の衝撃波で吹き飛ばされた更地だけだ。そこに生き残った者は誰もいなかった。

 このような状況があちこちで見られた。避難している人々は何も状況を変える手段は持ってはいない。

 ただ、隕石群の脅威が立ち去るのを恐怖に耐えながら待つだけであった。それは政府の上層部でも軍部でも同じ事であった。

 こうして無慈悲な隕石の直撃は、民間人であっても政府要人であっても軍部であっても平等に襲い掛かっていった。

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 某大陸国の政府の上層部や軍の高級幹部は、ヒマラヤ山脈の中腹をくり貫いた対核戦争用の地下シェルターに避難していた。

 隕石群の落下の衝撃は地下の核シェルターにも響いてきたが、特に被害は無かった。そう、核シェルター内は。

 今は各地からの被害報告が次々に入り始め、その報告を聞いた政治家や軍人達は顔を真っ青にしていた。


「各地の主要都市は全滅だと言うのか!?」

「は、はい。隕石群が止んだので、まだ連絡が取れている各地の軍基地に偵察命令を出しました。現在、生き残った軍施設は約四割。

 そして偵察の結果、各地の主要都市はかなり大き目の隕石の直撃を受けたようで、巨大なクレーターしか残っていないと報告がありました。

 周囲の百キロ以上は衝撃波で吹き飛ばされたようで、建物類は一切ありません。首都も地方も深刻な被害を受けています。

 特にシェルターに避難していない場合、助かる確率はかなり低いと思われます」

「……何と言う事だ。各地の被害集計はまだ分からぬか?」

「まだ集計が出ていません。沿岸部では津波の被害もあります。

 山間部に逃げ込んでいれば、少しは生存率は上がるでしょうが、どれほどの人間が生き残っているかまでは不明です」

「隕石群が我が国をこれほど直撃するとはな。……これは北欧連合の報復処理なのか!?」

「まさか!? だが、あそこは我が国を嫌悪している。可能性がゼロとは言えぬ」

「馬鹿を言うな! そんな選択して隕石を攻撃する余裕などあるはずも無い! とはいえ、我が国に粒子砲の援護がある訳でも無いか。

 近隣諸国の様子はどうだ? 何か連絡は入っているか?」

「各国とも隕石群を避ける為に避難行動に入っていますから、諜報員からの連絡も入りません」

「そうだな。しかし、隕石群もこれでやり過せた訳だ。避難警報を解除して、生き残った軍部に各地の情報収集と救援を命じろ!」

「はっ! 直ちに命令を出します。それと我々はどうしますか?」

「首都の設備は使えないだろう。我々は此処で指揮を執る」


 隕石群の襲来時期は北欧連合から最初は伝えられていた。だが、隕石群の長さが判明したのは最近であった。

 この為に地球の自転の関係から二回目の隕石の襲来があるなど、夢にも思っていなかった。

 だから軍部へ出動命令を出したのだ。そしてこの事によって、この国は致命的な打撃を受ける事になってしまった。

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 某国の政府閣僚は侵略から逃れる為に、攻め込まれた国境線からかなり離れた軍基地に避難していた。

 隕石衝突に備える為に全土に避難警報を出したかったが、目先の侵略者を放置する事も出来ない。

 そして一切の避難活動を行わないまま隕石群の襲来を迎えてしまった。


 その基地は地下に司令部があった。その司令部にも隕石の落下の衝撃は何度も響いてきた。

 電気も途中で切れて、自動的に自家発電に切り替わった。暗闇と何度も伝わってくる振動に怯えながらも、何とか耐え抜いた。

 しばらくの間、振動が来なくなった事で隕石群の脅威は去ったと考えた元首は、軍の司令官を呼び出した。


「隕石群は収まったようだな。各地の被害は分かるのか? 侵略してきた軍隊はどうなった?」

「……まだ混乱中ですが、生き残った部隊から連絡が少しずつ入って来ています。

 それによると、まず我々の首都は隕石の直撃を受けたようで、巨大なクレーターしか残っていないと報告がありました。

 そして周囲の百キロ以上は衝撃波で吹き飛ばされ、建築物は一切残っていません。

 それに首都以外にも各地で巨大なクレーターが何個も観測されています。

 連絡が取れているシェルターは三つだけです。それと侵略していた軍隊は一切見当たりません。

 推測ですが、隕石に直撃されたか、その衝撃波で吹き飛ばされたのでは無いかと思われます」

「そうか!? 侵略軍は隕石で吹き飛ばされたのか!? 良かった! これで助かった!」

「……国民は甚大な被害を受けているのですよ。喜ぶのはどうかと思いますが?」

「ああ、そうだったな。まあ、我が国の国民はしぶとい。生き残りも十分にいるだろう。何、支援は日本にさせれば良いのだ。

 我が国の国難を支援するのは日本の義務だからな。分かった。軍は偵察を続けて、各地の救援に向かってくれ!」


 市民に甚大な被害が出ていたが、侵略軍が消滅した事で自分の身の安全が確保されたと、その大統領は喜んでいた。

 その大統領を恨めしい視線で軍の司令官は見つめていたが、何も言わずに部屋を出て行った。

 残った大統領は、これで展望が開けると考えていた。国民の被害は大きいが、他からの支援を受ければ必ず復興が出来ると信じていた。

 何より経済大国であり自国の財布である日本がある。この災害直前の揉め事など、自分の命が助かった事で忘れていた。

 そして隕石の二度目の襲来がある事を知らずに、軍に出動命令を出した事は被害を拡大させる要因となってしまった。

***********************************

 某国の日本人街にいた人々は侵略軍を退けた後、残った人達で近くの山に避難していた。

 侵略軍を恐れた事もあるが、隕石群の襲来も警戒していた。詳細な報道も無く、以前に聞いたうろ覚えの情報からだった。

 二十六人の日本人は食料を携えて近くの山に移動して、小さな洞窟を見つけて隠れていた。

 何時、北の軍隊が来るかは分からない。何時、隕石が来るかも知らない。用心して洞窟から出る事は無かった。

 その洞窟にいきなり強い地震と衝撃波が襲い掛かった。


「きゃああああ」  「お姉ちゃん、怖い!」

「伏せろ! 伏せるんだ!」

「侵略軍の攻撃なのか!?」

「違う! これは隕石の落下の衝撃波だ! 近くに落ちたんだ。絶対に外に出るな! 衝撃波で吹き飛ばされるぞ!」

「この洞窟は大丈夫なのか!? 落盤したら、俺達全員が死んでしまうぞ!」

「多分としか言えない! だが、外に出れば間違い無く衝撃波で吹き飛ばされる! 運を天に任せるしか無い!」


 何度も何度も地震と衝撃は洞窟に襲い掛かってきた。その度に二人の少女は悲鳴をあげて、大人達は緊張した表情で周囲を警戒した。

 何時止むのか? それは誰にも分からなかった。度重なる緊張に疲れ、段々と集中力は低下してきた。

 だが、いつしか地震と衝撃は止んでいた。生き残る事が出来たのか?

 長時間の緊張を強いられ、疲労も蓄積していた事もあり、何時しか全員が疲れ果てて眠りについていた。

 この二十六人が目を覚ましたのは、二回目の隕石の襲来による地震があった時だった。

***********************************

 日本はセカンドインパクトの被害から完全に復旧していた訳では無かったが、他の諸外国と比較すれば復興は進んでいる方だった。

 シェルターも使徒戦が行われていた事から、かなり各地で準備は進んでおり、先進国の中では上位の普及率だった。

 それでも地方ではシェルターは準備出来ずに、沿岸部からかなり離れた山間部に民間人の避難が進められていた。

 そして隕石群が襲来した。富士核融合炉発電施設からはメガ粒子砲が何度も発射された。

 だが襲来する隕石は多く、段々と被害が大きくなっていった。その状況はシェルターに避難している首相に届けられていた。


「地方の被害が甚大か?」

「はい。元【HC】基地のメガ粒子砲のカバー範囲外ですから。最初から分かっていた事とはいえ、ここまでとは予想していませんでした」

「地方の損害率が40%を超えるとはな。それに引き換え、メガ粒子砲の防衛範囲は約8%程度か。この差がメガ粒子砲の恩恵か」

「さすがに技術の粋を凝らした兵器です。ここまでの効果があるとは嬉しい誤算です」

「それも今までの努力の結果だ。それに隕石群はもう一回来るんだ。まだ安心するのは早い。私から国民に放送を行おう」

「準備は出来ています」


 日本の被害は他と比較すると軽い方だった。とは言え、まだ安心するには早かった。

 それを徹底させようと、日本の首相は顔を引き締めて避難している全国民に対して演説を始めていた。

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 スペースコロニーでも、隕石の直撃を受けて地球が被害を拡大させつつある事は報道されていた。

 位置的にはスペースコロニーは月を挟んだ地球の反対側にある。隕石群の脅威は及ばないとの安心感はあったが、自分の故郷が被害に

 遭って喜ぶ人間は誰もいない。TVで、そして自宅の端末を使って世界各地の被害状況や撮影映像の確認をする人は多かった。

 そして故郷が無事で安堵の溜息をつく人間、そして故郷が消え去って嘆く人間、様々な人間模様があった。

 誰しも注目していた事だったが、表面上の生活には影響が無かった。

 そしてスペースコロニーに移住出来た幸運と、これから地球がどうなるかの懸念に大勢の人が考えを及ばせていた。

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 地上に住む人達から見れば、隕石群の襲来は一回目と二回目がある。これは地球の自転の為であった。

 宇宙から見れば巨大な円筒状の隕石群が、地球を飲み込もうとしているように見えていた。

 そしてその隕石群の中にある巨大宇宙戦艦エクセリオンは、休む間も無く奮戦していた。


「隕石群も三分の二は通り過ぎたわ! 残りは三分の一よ! もう少し頑張って!」

「動力炉の出力が低下してきたわ! 連続稼動による負荷で回復出来ないわ! バリアシステムの出力も73%に低下!」

「もう『フェンリル』に搭載している反応弾も底を尽いたわ! 搭載している粒子砲で小型の隕石を砕く事に切り替えるわ!」

「エネルギーキャノンも撃ち過ぎで、半分が使えないわ。修理している時間は無いわ!」


 ミーシャ、レイ、マユミ、カオルの四人の少女は不眠不休でエクセリオンを操作して、少しでも隕石の脅威を減らそうと努力していた。

 地上の被害状況も知っている。見逃したそれほど大きく無い隕石でもあれだけの被害が出たのだ。

 今、直径一キロ以上のものを選択して攻撃しているが、それを見逃して直撃を受ければ、どんな被害が出るのだろう?

 シンジのした事を無駄にさせない為にも、四人の少女は疲れた身体に気合を入れて頑張っていた。

 だが、どんなものにも限界がある。シンジが最後の切り札として準備したエクセリオンもそうだった。

 出力が低下したバリアシステムを突き破って、隕石がエクセリオンを直撃した。大きな振動が艦全体を襲った。


「「「「きゃあああああ」」」」


 艦橋の大きな振動が収まると、四人は慌てて被害状況を確認した。小さな振動は収まらないが、その事を気遣っている余裕は無い。


「メインエンジン大破! 反重力エンジンは無事だけど、もう高速移動は出来ないわ! 中央部の居住エリア全損!」

「動力炉の出力が21%まで低下! さっきの衝突の衝撃で一部が破損! 被害は拡大する一方で、修復の目処は無いわ!

 バリアシステム39%まで低下! 駄目っ! 小さい隕石までバリアシステムを突破してくるわ。この小さい振動がそうよ!」

「『フェンリル』の管制システムにも影響が出ているわ! もう制御不能!」

「艦内のエネルギー伝達システムに障害! 駄目っ! エネルギーキャノンも撃てない! 副砲やパルスレーザーの損傷率は82%」


 絶望的な状況だった。エクセリオンは大破の状態で、身を守る事も隕石を攻撃する事も出来ない。

 いや、此処に留まる事さえ危険な状態だった。撤退するしか無い。だが、この隕石群を抜けて撤退出来るのか?

 既にバリアシステムの出力は低下して、小さな隕石さえ防げない。直ぐに決断する必要があった。そしてミーシャは決断した。

 険しい表情のミーシャは、冷たい声でレイ、マユミ、カオルの三人に宣言した。もっとも、素直に聞く三人では無かったが。


この艦を自爆させるわ。皆は非常用脱出艇で避難して! 後はあたしがやるわ!」

「ミーシャ、一人で死ぬ気なの!?」 「ミーシャ、一緒に逃げましょう!」  「そんな事をして意味があるの!?」

「シン様の犠牲を無駄にしたくは無いわ! それにシン様の遺志を継いでシン様の下へ行けるのなら本望よ! さあ、皆は急いで避難して!」

「……あたしも手伝うわ。動力炉の管理はあたしの担当だもの」    「レイ!?」

「……あたしも手伝うわ。バリアシステムの制御はあたしがやるわ」  「マユミ!?」

「……あたしも手伝うわよ。もっとも効果的なポイントを算出するわ」 「カオル!?」

「確かにお兄ちゃんの犠牲を無駄にしたくは無いもの。それにお兄ちゃんのところにミーシャだけを行かせる訳にはいかないわ」

「そうよね。抜け駆け禁止の約束をしたものね。シンジさんのところに行けるのなら、それもありかな」

「そうね。どうせ、この隕石群を脱出するのも無理だしね。シンに天国でサービスするのも良いでしょう。付き合うわ!」

「皆!? 馬鹿ね! 皆は大馬鹿よっ!」


 ミーシャは涙を流しながら、三人を詰った。だが、三人は笑みを浮かべただけだった。

 そして直ぐに行動に移った。バリアシステムの出力が低下している今、次の隕石がエクセリオンに衝突すれば、それだけで致命傷になる。

 カオルの算出したもっとも効果が出るポイントに、すぐに移動を開始した。幸いといっては何だが、距離は近い。

 直ぐに自爆準備に入った。


反重力エンジンは順調。目標ポイントまで後30秒!

動力炉のリミッタ解放! 暴走まで約35秒!

副砲、及びパルスレーザーは本艦に向かってくる隕石に向けて攻撃!

バリアシステムを進行方向に集中展開!


 目標ポイントに到着すると、四人の少女は感慨深げにお互いの視線を交した。後は動力炉が暴走してエクセリオンが自爆すれば、

 後続の隕石群を効果的に破壊出来る。既に前面の制御盤は脱出を勧める甲高い警告音が鳴り響いていた。

 四人が一緒の生活をした期間は短かったが、それなりに充実した生活を送る事が出来た。

 心残りが無いとは言えないが、シンジの下へ行ける事で不思議な安堵感も感じていた。


 ミーシャはシンジとの出会いと、その後の北欧連合への旅行の事を思い出していた。

 レイはミーナを含めた最初の出会い、そして広島でバーベキューをした事を思い出していた。

 マユミは自分の料理を始めて食べた時の事を思い出していた。あの時のシンジの驚いた顔はマユミにとっての最大の宝物だ。

 カオルは使徒だった時に、初めてシンジと関係した時の事を思い出していた。今の身体とは違うが、あの時のシンジは忘れる事は無い。


 甲高い警告音を発している制御盤の残カウンターの表示がゼロになった。

 そしてエクセリオンの動力炉は暴走を始めた。こうなっては誰にも止める事は出来ない。後は爆発するのを待つだけだ。

 四人の少女はシンジに思いを馳せて、静かに目蓋を閉じた。そして何故かシンジの温もりを感じていた。

 次の瞬間、エクセリオンの動力炉が暴走して爆発、巨大な光がエクセリオンを飲み込んで行った。

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 エクセリオンが爆発して、隕石群の後ろのエリアのかなりの部分が消滅した事はミハイルとクリスの知るところとなった。

 大破している状態で不眠不休で隕石を攻撃してくれた。そして最後は力尽きて自爆したのだろう。

 その細部の状況は分からなかったが、ミハイルとクリスはそう判断して涙を流していた。

 シンジを失い、そして四人の少女も失ってしまった。シンジから四人の少女の事を頼まれたのに、何もしてあげる事は出来なかった。

 その後悔の念が二人に渦巻いていた。だが、今の二人は悲嘆にくれている余裕は無い。

 シンジの犠牲、そして四人の少女の犠牲を無駄にしない為にも、まだ気を抜く事は出来ない。

 地上の被害は想像以上だった。これ以上の被害を防ぐには、宇宙での隕石への攻撃を徹底させるしか無い。

 ミハイルの手持ちの札は簡易砲台三百基のみ。攻撃力はさほどは無く、連射も出来ない。

 だが、五人の犠牲を無駄にさせない為にも最善を尽くす義務があるとミハイルとクリスは考えていた。

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 エクセリオンが爆発した事は、衛星管理局や各迎撃基地、それに各機動艦隊にも連絡された。

 連絡を受けた全員が、四人の少女に黙祷を捧げた。大破したエクセリオンを操作して、最後の最後まで頑張ってくれたのだ。

 そして隕石群の後半の部分がかなり消滅した事は明るい情報だった。地球の為に自爆して散った四人の少女の犠牲は無駄にはしない。

 隕石の迎撃に当たっている全員に、その決意が漲っていた。

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 エクセリオンが自爆した事は試作コロニーでも確認され、その情報をミーナは呆然とした表情で聞いていた。

 シンジを失った時は大泣きした。人目も憚らずに大泣きした。そして今回はミーシャとレイを失った。

 二人を新しく出来た妹だと思っていたのだ。自分の事情からこの試作コロニーに来ていたが、二人とは今でも家族だと思っていた。

 その二人が失われた。泣き崩れるミーナを優しく支えたのは、同じく人狼族の一人のガイという青年だった。

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 キールは秘密の隠れ家の一つに居て、情報端末に見入っていた。既に初号機の自爆の後は、TVでは何も映さなかった為である。

 その情報端末には何故か機密情報である各地の隕石の被害状況や、エクセリオンの様子などが表示されていた。

 そして隕石群の真ん中で奮闘していたエクセリオンが自爆した事を知って、キールは目を閉じた。


(これで魔術師に関連した者は、騎士と魔女以外は死に絶えたか。地上は壊滅的な被害を受けつつある。

 あのエクセリオンが自爆して隕石群の後半部分を吹き飛ばしても、これだけの被害を受けては異常気象を誘発する原因にはなる。

 スペースコロニーがあるから人類が死に絶える事は無いが、地上では生きる事も難しくなるだろう。

 地上の浄化はなったと判断して良いだろう。魔術師と相打ちに近い結果になってしまった。まあ、あちらの方が優位だがな。

 ここの地下シェルターも隕石の直撃を受ければ消滅するだけだ。さて、我が命、何時まで持つ?

 もし、この惨劇を生き延びる事があれば、残り少ない人生を償いに捧げるか? いや、その時に考えるとしよう)

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 エクセリオンの自爆で隕石群の後半エリアの大半が消滅した。だが、ゼロになった訳では無い。

 そして最後尾にあった直径が三キロから五キロの隕石五個は、必死の迎撃に努めるミハイル達の努力を尻目に地上に落下した。


 一つは北アメリカ大陸のロッキー山脈に衝突した。半径五百キロ以内の全生命体は即時に消滅。巨大なキノコ雲が立ち上がり、

 後に残されたのは巨大なクレーターと周囲を衝撃波で吹き飛ばされた広大な更地だけだった。

 地下に核シェルターがあり、政府要人や軍の幹部が避難していたが、直径が数キロもの隕石の直撃を受けては助かるはずも無かった。


 一つは太平洋のど真ん中に落下した。巨大な津波が発生し、その被害は北米アメリカの太平洋沿岸部の施設を尽く押し潰した。

 それは日本にも被害が及んだ。太平洋沿岸部の施設はほぼ全滅した。シェルターも流れ込む海水を完全に防ぎきる事は出来なかった。


 一つはヒマラヤ山脈の中腹に落下した。セカンドインパクトで地軸変動が起きて、万年雪が少なくなってはいたが、その山頂ごと

 隕石は吹き飛ばしていた。その地下にある核シェルターも被害を免れる事は無く、某国の政府要人達を巻き込んで消滅した。


 一つは欧羅巴大陸の中央に落下した。その威力は欧羅巴の主要国を尽く消滅させた。半径六百キロ以内の生命体が瞬時に消滅。

 隠れ家にいたキールも巻き込んで生きとし生けるもの全てを消滅させた。

 その衝撃波は北欧連合やUK、イベリア半島にも被害を与えていた。


 最後の一つは大西洋に落下した。

 北米大陸の大西洋沿岸、そしてアフリカ大陸の沿岸部、UKとイベリア半島に甚大な津波被害を与えていた。


 それ以外にも小型の隕石は迎撃する者達の努力をあざ笑うかのように降り注いで、各地の被害を拡大させていった。

 中には隕石の直撃を受けて噴火を始めた火山もあった。まさに地球全体が業火に曝されていた。


 隕石群の脅威が去った時、生き残っていたのは一部のエリアの人間だけだった。

 こうして人類は人口の約93%を失った。そして、生き残った人達をさらに追い詰める事態が発生していた。






To be continued...
(2012.10.13 初版)


(あとがき)

 別に破滅願望があると言う訳ではありませんが、こういう結末になりました。

 問題提起を含めていますので、全ての人がハッピーエンドという訳にはいきません。

 まあ、救いは残してあります。次話はエピローグです。時間軸が飛びます。



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