因果応報、その果てには

宇宙暦0015
U

presented by えっくん様


 作者注. 拙作は暇潰し小説ですが、アンチを読んで不快に感じるような方は、読まないように御願いします。

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 西暦2030年(宇宙歴0015年)。スペースコロニーでは宇宙歴が使われていたが、地球では依然として西暦が使用されていた。

 大災厄から十五年後ともなると地球全体が氷と雪で覆われ、一年中ブリザードが吹き荒れる環境になっていた。

 その為に地上に住んでいた全ての生物は絶滅して、人類の居住エリアは地下都市だけになっていた。

 残ったのは土の中と海中に棲む生き物だけだったが、数は激減していた。

 この時点で、北欧連合で百万人。中東連合で八十万人。日本で六十万人が地下都市で生活していた。合計二百四十万人。

 これが地球に残った人類の全人口であった。大災厄の時に生き残っても、地下都市に入れない人達は次々に亡くなっていった。

 三つの地下都市は潜水輸送艦を使って交流ルートを確保して、北欧連合の地下都市で生産される修理部品や医療品の供給を受けていた。

 食料は各地下都市とも自給が出来る体制が整っており、ある程度の民生品の生産も可能な事から最低限の文明生活は維持出来ていた。

 エネルギーは全て核融合炉発電施設によって賄われていた。海水から燃料を抽出出来るので、輸入しなくても発電が出来た為である。

 これが無かったら、最初から地下都市など維持出来なかっただろう。今では中東連合でさえ原油の採掘は行われてはいない。

 この電力を元に食料の生産が行われ、辛うじて地下空間で普通の生活が出来た。

 だが、問題が無い訳では無い。三つの地下都市は色々な問題を抱えていた。

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 スペースコロニーは北欧連合の自治領であり、本国は地上にあった。とは言え、今の実態は地下都市で細々と生き永らえている状態だ。

 それに本国である地下都市の人口より、自治領の人口の方が多い。実際の力関係は逆転していた。

 だが、それを認められない人は多く、地下都市に住む多くの住人は自治領を併合すべきだという意見を持っていた。

 既に議会は閉鎖され、大災厄の後から引き続いてフランツが首相の座にあり、地下都市のトップの地位にあった。

 この時期、新たに首相の座に就いても苦労は多くてメリットは無いと考える人間は多く、選挙自体が行われていなかった。

 そのフランツは以前より老け込んだ顔だったが、相談相手のナルセスを呼んで会談していた。


「スペースコロニーを自治領にしたのは一時凌ぎだったのだが、こんな問題になるとは思わなかった」

「あの時はサードインパクトの時の避難場所と考えて、ミハイルが統括し易いように自治領にしたのでしたな。

 ですが実際の力関係は逆転して、既にあちらの方が人口は多い。こちらが併合される事はあっても、逆は無理です」

「それは分かっている。だが、以前の栄光を忘れられない国民も多く存在していると言う事だ。それだけあの当時の我が国は輝いていた。

 こんな事態になってまで、主導権を握りたいと考えている。まったくもって度し難い輩が多くて困る」

「こう言っては何ですが、この地下都市に収容出来なかった大多数の国民を我々は見捨てたのです。

 そんな犠牲の下に今の我々の生活があるのです。下らない事で争っている場合では無いと思いますが」

「私もそう考えている。だが、納得出来ない人間も多いと言う事だ。

 三基目のスペースコロニーの主権を我々が持つべきだとか言い出す者も居る。

 こうなると五年後に完成が決まった自治領への移住計画も考え直さなくてはならないな」


 地球に残された人達が希望を捨てないようにと、三基目のスペースコロニーの建造の進捗状況は定期的に情報が入ってきた。

 それは中東連合と日本の地下都市にも伝わっている。完成の二年前ぐらいから、移住計画を進める予定であったのだ。

 だが、こうなると素直に移住計画を進める事が本当に良いのかと考えるフランツであった。


「シンが残してくれた海底地下工場がありますので、殆どの生活必需品や修理部品の生産が可能です。

 このまま少しずつでも拡張を続ければ、人口増加にも対応は可能で、態々宇宙に行かなくてはならない必要性は失せるかも知れません。

 確かに閉塞感はありますが、それはマスコミを使って押さえられるでしょう。一度は計画の見直しを行うべきと考えます」

「駄目だ。ロックフォード財団はこの海底地下都市の維持管理の業務があるから、市民の意欲の減衰という問題は知らないだろう。

 あまりにも環境が整い過ぎた為に、一部の対外活動や治安維持活動に従事している人間以外は何もする事が無い状態だ。

 つまり無職の状態が続いて、それでも衣食住は保障されているから労働意欲が無くなってきている。

 生活保護に慣れきって政府に依存する状態が進んでいて、このままでは国民は自堕落な生活しか出来なくなるかも知れないんだ」

「……良過ぎる環境は逆に人間を堕落させると言う事ですか。そこまで状況が深刻になっているとは思いませんでした」

「この地下都市に入れず、凍死や餓死した人達から見れば贅沢過ぎる環境だろう。だが、人間は慣れる習性を持っているからな。

 このままの状態が続けば、この地下都市の維持にも支障が出るのは間違い無いだろう。市民の意識を活性化する必要があるのだ」

「分かりました。それを踏まえて、財団でも良い方法が無いかを検討してみます」

「頼む」


 食料や色々な物資が無くては人間は窮乏し、死に至る事はある。逆に整い過ぎたに慣れてしまうと労働意欲が無くなる。

 人間の性(さが)とも言うべきものなのだろうか。今のフランツとナルセスに最善の方法は分からなかった。

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 中東連合では大災厄の前であっても、地下都市といえるものの建設は一切行ってはいなかった。

 辛うじて、シンジが赴任中に準備していた原油採掘後の地下の空洞を利用した秘密の生産施設があるだけだった。

 大災厄の後で地球の寒冷化が避けられないと判断され、生活空間を宇宙か地下にしか見出せない事が知れ渡った。

 とは言え、地下の生活拠点など直ぐに準備出来るものでは無い。自治領への移住が進められる中、地下空間の探査も進められた。

 原油採掘後の地下空洞が多数あるというのは幸運だった。これが無ければ、地下空洞の掘削だけで数年が経過していたろう。

 幸いにも探査開始から一ヶ月以内に巨大な地下空洞がある事が判明し、空洞の周囲を固めて生活拠点の建設が急ピッチで進められた。

 作業ロボット以外にも大量の作業員が投入され、何とか大災厄の四年後には人口八十万を収容出来る施設が完成した。

 北欧連合や日本の地下施設と比べるとかなり見劣りする部分はあったが、まずは国民の居住環境を整える事が最優先だ。

 見栄えより機能。そして多数の国民を収容出来る事が出来れば良いと二十四時間体制の作業の結果であった。

 近くに核融合炉発電施設もあり、地下トンネルで連結されて電力の供給も問題は無かった。

 生き残った全ての人口を収容は出来なかったが、何とか国家組織の維持には成功していた。

 そんな中東連合ではあったが、地下都市の生活で問題が多発していた。政府の閣僚会議でその問題の討議が行われていた。


「突貫工事だった為に地下都市の壁の強度が弱く、水漏れ事故が多発しています。

 市民を動員して応急処置で凌いでいますが、限度があります。このままでは遠からず、この地下都市に水が溢れます」

「ポンプを使って地上に排水しているのでは無かったのか?」

「既に地上は氷で覆われています。何度も凍結して、その度に修理作業を行っています。非効率過ぎるのです。

 排出箇所にヒーターは付けてはいますが、地上の寒冷化が予想以上に進んでいるので、凍結する度に作業員を派遣しています。

 何らかの根本対策を取らないと、我々は地下都市で水没する可能性もあります」

「地下トンネルを経由して、核融合炉発電施設から海に排水出来ないか検討中です。

 早期に対策を講じないと致命傷になる可能性もあります」

「うむ。その件は早急に進めてくれ。食料などの問題は無いのか?」

「魔術師の残してくれた生産施設にあった設備を流用して、食糧生産は順調に進んでいます。

 不足気味なのは確かですが、餓死者が出る事はありません。修理部品については、北欧連合からの輸送潜水艦が一ヶ月に一回は来ます。

 医薬品なども補充してくれますから、あれが命綱ですね。生活環境の問題は少しずつですが改善が見込めます」


 急遽造った地下施設の為に、色々な問題が発生していた。それでも地下で凍える事無く、飢える事無く生活出来る環境であった。

 生活水に関しても海水の淡水化プラントから供給を受けている。問題は汚水処理施設だった。

 完全なリサイクル施設は建設する余裕は無く、近くの地下空洞に汚水を垂れ流しの状態だった。計算では十年でそれも使用出来なくなる。

 だが、三基目のスペースコロニーに移住出来れば良いと考えて、何とか耐えるつもりだった。それでも別の問題も発生していた。


「後は人口増加の速度が速過ぎる事か。今のままでは五年後には、この地下都市の収容可能人数を上回ってしまうぞ」

「あの時は人口増加をあまり考えずに出来るだけ多くの国民を救おうと、ぎりぎりのところまで地下都市に収容しましたからね」

「食料や生活必需品の供給に力を注いで、家族計画用のあれの生産なんか何も考えていなかったツケが回ってきたんでしょうねえ」

「北欧連合や日本でも問題はあるが、我が国の場合はそれが著しい。

 修理などの仕事はあるが、帰宅したら娯楽が少ないから、やる事があれだけという家庭も多いからな」

「子供が増える事は確かに良い事なんでしょうが、何か情けなく感じるのは自分だけでしょうか?」

「いや、私もそうだ。国家の存続を考えている時、人口増加に悩むなどあって良いのかと問いたくなる。

 家族計画用のあれを軽視した為に、こんな事態になろうとはな。

 こうなれば、自治領に移住が開始出来るまでは何とか凌がなくてはならないな」


 中東連合では特に家庭持ちを優先して地下都市に収容していた。将来を見据えてである。

 その結果が出産人口の急増である。夜に頑張る家庭が多いという事もあり、人口増加対策に悩む政府の閣僚達であった。

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 日本はジオフロントに人口五十万人を収容する地下都市を建設していた。

 そして富士核融合炉発電施設の地下で十万人を収容する施設を使用していた。こちらはシンジの造った施設である。

 その双方の地下施設を地下トンネルで結び、電力や色々な生産物の供給を行っていた。

 ジオフロントにある政府組織が入っている施設の会議室で、政府閣僚とゲンドウとリツコが出席した会議が行われていた。


「今のところは食糧生産も順調で、不足する物資の問題が大きくなる事は無い。閉塞感はあるが、希望は持てるからな。

 人口増加も六分儀君の先見の明があったお蔭で何とか抑えられている」

「そうだな。六分儀君があの家族計画用製品の生産計画を提唱した時は馬鹿にしたが、人口増加に悩む中東連合の状況を伝え聞くと

 間違っては居なかったと言う事だ。君のお蔭で我が日本の地下都市は大きな問題を回避出来たのだ。あの時の事は正式に謝罪する」

「まったくだ。十年前に子供が出来たのだったな。名前をシンイチ君と言ったか。

 二人目も予定されていると聞くし、やはり現役選手の言う事に間違いは無いな」

「子供は国の宝だが、増え過ぎて問題になるとは世も末だな。やはり計画性は必要だと言う事だな」

「その年齢で現役選手とはな。羨ましいものだ。何か秘訣でもあれば、教えて欲しいものだ」

「おほん! 少し話題がずれていると思いますが」

「おお、済まなかったな。だが、君のお蔭でジオフロントの再開発は無事に終わって、こうして日本民族が生きていけるのだ。

 感謝の気持ちに嘘は無いぞ。さすがは元はネルフを仕切っていた事はある」


 現在のところ、日本の地下都市の運営に大きな問題は発生していない。

 北欧連合では無気力感が漂い、中東連合では人口増加現象が起きているが、どちらとも日本の地下都市では無かった。

 これもゲンドウがあるゴム製品の生産を早急にするべきだと提唱した事が影響していた。

 リツコとの間に子供を作り、二人目はまずいだろうと己の経験から悟ったものだとは言えなかった。(失敗して現在二人目を妊娠中)

 とはいえ、他の出席者の称賛する態度を見れば本気で褒めているのは分かる。

 分かるが、こんな事で褒められても嬉しく思うはずも無く、ゲンドウは微かに頬を赤くしていた。

 リツコも他の出席者と視線を交そうともしなかった。当事者の一人であるリツコからすれば、赤面する内容であった為だ。

 あれから十五年。ゲンドウも老齢の域に差し掛かり、リツコも子供を産んだ事と二人目を宿している事から、

 以前とは大分違い穏やかな雰囲気を漂わせていた。余談だが、リツコは高齢出産であるが二人目なので、さほどは問題視されてはいない。

 大災厄直後はネルフ関係者という事で批判も多かったが、最近では功績も認められて政府上層部の評価も改まっていた。

 他の出席者もゲンドウへの感謝の言葉を言った後、五年後に迫っている三基目のスペースコロニーへの移住計画に話題は移った。


「十五年前に移住した人達に日本人では無い者も混じり、かなり高い犯罪発生率だというクレームが以前から来ている。

 その為に五年後に予定されている移住計画では、地下都市全員の受入は断られて、かなり厳しい審査が求められている。

 それと旧ネルフ関係者の受入も難色を示している」

「あの大混乱の時に奴等が紛れ込んだというのか!? まったく移住審査員の目は節穴だったのか!」

「まったくだ! 一人でも多くの日本人を移住させるべき時に、態々問題となる輩を移住させるとはな。

 その為に自治領の日本エリアの評価も芳しくないという噂だ。当時の移住審査員には責任を取って貰いたいものだ!」

「過ぎた事を悔やんでも仕方が無い。クレームを受けて地下都市の住民を精査したところ、確かに一部に紛れ込んでいたのは事実だ。

 何度か周囲と問題を起こした輩は、既に追放処置にしている。彼らの祖国にまでは送り出せなかったがな」

「最初はこちらの信用を得ようと協力的だが、一旦ある程度の立場を与えると、とたんに自分達の権利を強く主張するからな。

 それに仲間を優先的に取り込んで、自らの勢力圏を築こうとする輩が多い。そういう輩に限って押しが強いからな。

 強者には媚びて、弱者には高圧的な態度になるから始末が悪い。

 日本人に同化していれば問題無いが、彼らの独自の勢力圏を放置すると以前のマスコミや教育業界の二の舞になるぞ」

「受け入れたからには、問題を起こさない限りは追放も難しいからな。

 旧マスコミ関係者やネルフの特別宣言【A−19】の適用を受けた輩のように、簡単に見離せれば良かったんだがな」

「収容人員に限りがあるから、善良な日本人でも受け入れなかった人も多いんだ。彼らに申し訳無い」

「やはり五年後の移住計画の人員選別を今からでも考えよう。後の問題は元ネルフ関係者の事だ」


 今では地下都市の中では元ネルフ関係者の評価は改まっていた。色々な実績や改善立案などの結果の為だ。

 だが、自治領とは何の関係も無い。十五年前の経緯もあって、ミハイルは元ネルフ関係者の受入に難色を示していた。

 議題が自分達の事になった事で、ゲンドウは再び口を開いた。


「確かに十五年前の事を考えると、我々元ネルフ関係者の受入を拒まれるのも理解出来ます。ですが、子供達には罪は無い。

 他の元ネルフ職員でも子供を持っている者は多数居ます。せめて子供達だけでも受け入れるように要請は出来ませんか?」

「私も同じ意見です。ネルフは直接的に北欧連合に敵対した事はありませんが、ゼーレのバックアップを受けて設立した組織でした。

 彼らが私達を嫌っている事は分かります。私はこの地下都市に骨を埋める覚悟は持っていますが、子供達には大きな世界を知って貰いたいと

 思います。是非とも交渉を御願いします」


 ゲンドウとリツコは切実な願いを訴えた。今から自治領に行ったとしても、ある意味では飼い殺しの待遇になるだろう。

 だったら、我が子だけでもと考えた。他の元ネルフ関係者も同じ気持ちを持っている事もあった。

 会えなくなるのは寂しいだろうが、自分達より子供達の幸せを願うのは、どこの親でも同じであった。

 リツコと結婚して再び子供を得た事と、あれから年齢を重ねた事からゲンドウの気持ちも変わっていた。

 今のゲンドウを見ればシンジは目を疑ったかも知れない。だが、それが今のゲンドウの真実だった。

 それが分かったのか、政府閣僚も快くゲンドウとリツコの申し出を受けた。


「まあ、子供に罪は無いからな。その件は交渉してみよう」

「ありがとうございます」


 その後、移住者選別委員会を再度立ち上げる事と、次の自治領主のミハイルに移住者の規制に関する交渉を行う事が決定された。

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 ゲンドウとリツコはマンションの自室に戻って寛いでいた。部屋は5LDK。家族用の仕様である。

 本来は五人家族向けであるが、三人の家族で暮らしていた。あれからゲンドウは質素な生活を心掛けていた。

 勿論、リツコや子供に不満を持たせるような事はしなかったが、自身は贅沢もせず出来るだけ簡素化した生活をしていた。

 十歳の子供のシンイチには、親馬鹿と思われる甘い態度のゲンドウであった。


「明日は冬月先生の命日か。花は公園で咲いているもので我慢して貰うか」

「そうですね。余裕が無いから花屋はありませんからね。それにしても副司令が亡くなってから十年も経ちますか。

 月日の流れるのは早いものですね」

「シンイチの産まれた年だったな。セカンドインパクトと比べるとましだったが、医薬品が不足していて流行り病に倒れたのだったな。

 今なら早めに治ったのに残念だ。そう言えば、シンイチはどうしたんだ?」

「あの子はミサトのところに遊びに行って、今日はお泊りですよ。あちらは十四歳の双子ですけど、気が合うみたいですからね」

「葛城君、いや加持君だったな。この前も泊まりで遊びに行っていたが、迷惑は掛けては無いだろうな」

「大丈夫ですよ。ちゃんとお土産も持たせてありますし、シンイチもそれは分かっています。

 ミサトも賑やかな事は好きですし、あちらの双子と元気に遊んでいるはずですよ」


 リツコはソファにいるゲンドウの隣に座った。既に四十台の半ばであるが、未だに現役である。お腹には二ヶ月の子供も居る。

 十歳のシンイチが居ない今、部屋にはゲンドウとリツコだけだ。まだ大丈夫とリツコは言い聞かせて、ゲンドウの手を取った。

 その意味するものはゲンドウも知っている。だが、リツコのお腹に胎児がいる事を考えて少し動揺していた。


「だ、だが、お腹の子供は大丈夫なのか?」

「まだ二ヶ月だから大丈夫ですよ。シンイチの時だって、お腹が大きくなるまで、していたじゃありませんか。

 しかもあんな恥かしい格好をさせて。忘れたとは言わせませんよ」

「い、いや、あれはだなお前の魅力を引き出す為のものと言うか……」

「あたしも年を取りました。でも、あなたがこうして求めてくれるのは嬉しいんです。だから恥かしがらなくても良いじゃありませんか」

「い、いや、まだ十分若いぞ。肌も十分滑らかだしな」

「お世辞を言ってくれるのは嬉しいわ。でもシンイチを産んでから肌がだいぶ荒れたんですよ。少し太ってしまったし」

<以前と変わらないように見えるが、そうなのか?>

「ええ。内緒にしていたけどって……誰っ!?」

「今の声は頭の中に直接響いたぞ!」

<赤木博士は以前に見た時とあまり変わらないように見える。しかし二人ともまだ現役だったとはな。健在で何よりだ>

「誰だっ!? 出て来い!」 「あなた、注意して!」

<慌てなくとも姿を見せよう。二人とも久しぶりだな>


 いきなり部屋の照明が切られ、TVの上の小さなランプの光だけの薄暗い状態になってしまった。

 そして抱き合って身構える二人の前に、特殊なバイザーをつけた老人の上半身だけが空中に浮かび出ていた。

 しかも後ろの様子も透けて見えた。その老人は二人とも見知った顔だった。その事に気がついた二人は驚愕していた。


「キール議長!? まさか!? 死んだはず!」

「そんな! あれから十五年。しかも欧羅巴中央部は全滅したのに!?」

<二人とも落ち着け。確かに私は遺体も残さずに隕石の直撃を受けて消滅した。死んだ事に間違いは無い>

「だったら何故!? しかも後ろが透けて見えて、空中に浮かんでいるとは!? まさか幽霊!?」

「そんな非現実的な事があるなんて!?」

<だから落ち着け。今のお前達二人をどうこうするつもりは無い。少し話し合いをしたいから顔を出しただけだ>

「話し合い!? だが幽霊という事は未練があって成仏出来なかったですか!?」

「で、でも、そんな事を言えば、この世は幽霊で溢れかえってます。信じられないわ!」

<やれやれ、二人とも平常心では無いのか。あの頃の二人は我々からどんなに厳しい追及を受けても平然としていたものだったのにな。

 特に赤木博士は全裸になって我等の前に立っても動じなかった事は覚えているぞ。結構良い身体をしていたな。

 確かに年をとって皺が増えたのだろうが、精神年齢は逆行しているのか? 残念な事だ>

「そんな昔の事を持ち出さないで下さい!! 今から考えればあれはパワハラですよ! それに年をとれば誰でも皺ぐらいは増えます!

 あたしなんかまだ良い方なんですからね。今はミサトの方が皺は多いのを知っていますか!?」


 キールの言葉はリツコの逆鱗に触れていた。今までゲンドウが気遣ってくれて褒め言葉しか言わなかった事も大きく影響していた。

 何時の時代も女性は年齢を気にするという事だろうか。リツコは口を捲し立てて、キールに女性とはという説明を始めていた。

 こんな切れたリツコをゲンドウは始めて見た為、唖然として声を出せない状態で見守るだけだった。

 ふと、キールの口元に笑みが浮かんでいる事に気がついたリツコは我に返った。そしてタイミング良く、キールから声が掛かった。


<落ち着いたかね?>

<……申し訳ありませんでした」  「……リツコ」

<構わん。では用件に入るぞ>


 今まで自治領の治安維持に掛かりっきりだったが、最近になってやっと安定したと思われたので、二年前から地球の各地の

 調査を十人の仲間と行っていた。シンジと四人の少女の霊体は別の場所で行動している。

 もっとも目の前のゲンドウに全てを話すつもりは無く、脚色したシナリオを組み上げて説明を始めた。

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<隕石の直撃によって私の身体は消滅した。死んだ事に間違いは無い。だが、私は心残りがあったから、こうして霊体として存在している。

 一人は欠けたが、他の十人の同志もいる。北欧連合の関係国以外で、生き残りがいないかを確認していたのだ。残念な事に居なかったがな>

「他に十人もの幽霊がいると!?」

<ああ。会いたいのなら、後で呼んでも良いぞ>

「いえ! 遠慮します!」


 今の幽霊であるキールからは以前よりプレッシャーを感じていたゲンドウだった。

 立体映像より身近の方がプレッシャーは強いという事だろう。十一の幽霊に囲まれたくは無いとゲンドウは思った。

 そんな慌てるゲンドウを見て微かに笑ったキールは話を続けた。


<我等が補完計画を進めたのは、人類全体を考えての事だった。失敗して残念に思うが、既に過ぎた事。今更再開する気は無い。

 あの時は人類は遠からずに自滅すると考えていたが、人類が存続出来るのなら繁栄を願う事に嘘偽りは無い。

 今の我等は地球の寒冷化を出来るだけ防ごうと考えて動いている。そこでお前達に協力して貰おうと考えて来たのだ>

「地球の寒冷化を防ぐ? どうするのですか? それと私は日本政府の管理下にありますから、独自に動く権限はありません」

<それは分かっている。協力の意思を示せば、自治領主から日本政府に働きかけは出来る。

 それとお前達二人と他の元ネルフ職員の子供の移住を認める事も出来るだろう。協力して貰う代価では不足か?>

「まさか議長は自治領主に伝手があると!? 本当ですか!?」

<……では、それを証明する意味を兼ねて、二〜三日ほど待て。自治領主から日本政府に直接交渉して貰おう。

 お前達に協力して貰う内容も、その時に説明する事にする>


 キールは言いたい事だけ言うと、いきなり姿を消した。

 残されたゲンドウとリツコの胸中に不安が過ぎっていた。あのキールが幽霊となって存在していたのも驚きだったが、

 自治領主と何らかの関係があって、自分達に協力を要請して来た。あのキールの要請とは何だろう?

 以前のキールを知るゲンドウは生半可な内容とは思わなかった。それに自分だけで無く、『お前達』と言った。

 妊婦であるリツコも巻き込む事になるのだろうか? その夜、ゲンドウとリツコは深夜まで延々と話し合っていた。

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「恥かしいからそれは止めて!」

「シンイチは可愛いから似合うわよ。遊びと思えば良いのよ!」

「おい、十歳とはいえ男の子なんだぞ。女装させる事は無いだろう」

「あたしの趣味なんだから良いじゃ無い。それくらいシンイチは可愛いのよ! ヒロシは黙ってて!」

「こら!! 変な事をして遊ぶんじゃ無いの! まったくトランプで遊んでいたんじゃ無いの!」

「だってママ、シンイチは可愛いから絶対に女装は似合うと思うんだけど!」

「馬鹿言わないの! この事がリツコに知れたら改造されるかも知れないわよ! それでも良いの!?」

「!! ごめんママ。二度としないから許して!!」


 ミサトにはケイコとヒロシという双子の子供がいた。現在は十四歳である。

 そして親同士の関係からリツコの子供であるシンイチ十歳とかなり親しい関係になり、定期的に泊りがけで遊びにくる関係になっていた。

 ミサトはあまり子供に干渉する事は無かったが、さすがに他所の家の子供に女装をさせるような事は許可出来ない。

 リツコに知られようものなら、怒鳴り込んで来るのは間違い無いだろう。今のリツコは技術職では無く、ゲンドウの秘書を務めている。

 だが、子供には怖いものがあった方が良いと考え、『悪い事をするとリツコに改造される』とケイコとヒロシが幼少の頃から教育していた。

 効果は抜群。悪ふざけをしようとしていたケイコは真っ青になり、シンイチに謝っていた。そして三人でトランプ遊びを始めていた。


 その様子を見て、ミサトは苦笑いをして考え込んだ。


(ケイコとヒロシも十四歳。あの時のシンジ君やアスカと一緒の年になったのね。でも、こうも落ち着きが無いと困るわね。

 まったく、リョウジは出張ばっかりで全然子育てに協力してくれなかったわ。あたし一人で二人を育てたものよね。

 まあ、リツコにも少しは協力して貰ったけど。あれから十五年。あたしも皺が増えたし、年を取ったわ)


 ミサトは四十台の半ばになっていた。皺も増えて、確実に年齢を身体に刻んでいた。嘗て誇った容姿も衰えがきている。

 もっとも、その事に不満は無い。子育てに忙しかった事もあり、充実感を感じていた為である。

 リツコと皺の多さで口喧嘩する事はあるが、それもストレス発散の一部と考えている。

 今のミサトを悩ませていたのは五年後に迫った三基目のスペースコロニーへの移住の事だった。

 そして元のネルフ関係者の受入に難色を示されているという情報もあって、ミサトは悩んでいた。


(あの当時の事を考えると、北欧連合が元ネルフ関係者に不信感を持っていても不思議じゃ無いのは分かるわ。

 でも、子供は関係無いはずよ。この地下都市では発展は限られてしまうから、ケイコとヒロシの二人には宇宙に行って広い世界を見せたい。

 あたしの所為で二人がこの地下都市で一生暮らす事になるなんて納得出来ないわ。後でリツコに相談しなくちゃね)


 隣の芝生は青く見えるという言葉がある。一応は飢える事無く生活出来る地下都市であったが、閉塞感は誰しも感じていた。

 自治領の生活は実際は楽なものでは無かったが、今のミサトはバラ色の生活が出来ると感じていた。

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 富士核融合炉発電施設の地下には十万人を収容出来る施設があり、施設の維持管理を行う人達と元国連軍の人達が住んでいた。

 所有権は日本政府に移され、地上の核融合炉の電力と、地下施設で生産される食料や色々な製品は地下都市の命綱とも言えた。

 そして地下施設といっても、無機質なものばかりでは無い。大規模な温泉もあるし、池がある公園などの施設もある。

 以前に【HC】の慰安施設としてシンジが建設したものだった。今、人気の無い公園で一組の若い男女が口論をしていた。


「だから、俺は本気なんだ! あと三年待ってくれ!!」

「トオルはまだ十五歳なのよ。まだ人生を決めるには早過ぎるわよ。そういう事は一人前の社会人になってから言いなさい!」

「そうは言ってもメグミ姉ちゃんは人気があるから、今から言っておかないと誰かに取られちゃうからな。

 俺のファーストキスを奪った責任はちゃんと取って貰う!」

「あんたねえ。男がファーストキスの責任を取れって言う!? しかもあなたが三歳の時じゃ無い。良く覚えていられるわね」

「あれは俺の大切な思い出だ。絶対に忘れない! 母さんも賛成してくれているんだ!」

「ははは……セレナさんも賛成してるの?」  (そのセレナさんが苦手なんだけどな)


 不知火財閥の総帥だった不知火シンゴの孫のメグミに、この地下施設のNo2である不知火マモルの子供のトオルが求婚していた。

 二人は親戚関係であり、年齢差も少ない事から幼い時から親しい間柄であった。俗に言う幼馴染の関係であった。

 不知火メグミは十九歳。不知火トオルは十五歳。微妙な年齢差である。

 確かにまだ結婚は早いと思っていたが、メグミはトオルを憎からず思っていた。しかし、気になる事もあった。

 トオルの母親のセレナの事だ。セレナは三十四歳の女盛りであり、傾国の美女と謳われた美貌は些かも衰えていない。

 年齢を感じさせない容姿を誇り、メグミと一緒に買い物をした時も周囲の視線をセレナは独り占めしていた。

 そんなセレナを義母と呼ぶ事に、メグミは抵抗を感じていた。


(あたしより美人の人を義母さんだなんて呼ぶのもちょっとねえ。顔だって三十過ぎに見えないもの。

 トオルは悪い子じゃ無いのは分かるけど、セレナさんと比べられたくは無いわね。

 でも、あんな凄い人も年を気にしているのよね。はあ、どうしよう)


 メグミにとってセレナの夫のマモルは祖父の弟である。つまり、メグミの祖父の弟の奥さんを何て呼べば良いのだろう。

 一度、大叔母さんとセレナを呼んだら、凄い形相で睨まれた。美人だけに余計に怖かったのだ。それ以降は単純にセレナさんと呼んでいる。

 まあ、セレナはメグミを可愛がっているし、家族間の雰囲気も良い。

 だけど、あんな絶世の美人の娘になって、いつも比べられたくは無いと考えるメグミであった。

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 キールと会ってから二日後、懇意にしている日本政府の閣僚から呼び出しがあり、ゲンドウとリツコは指定された会議室に赴いた。

 そこには予想もしていなかった人が待っていた。


「加持君か。何故、此処にいるのだ?」

「ミサト!? 家庭に入ったあなたが何故!?」

「……政府の担当者から直々に呼び出しがあったのよ。今更、あたしに何の用なのかしら?」


 部屋にはミサトが待っていた。今のミサトは専業主婦であり、単なる民間人である。政府の担当者が呼び出すなど、普通はありえない。

 しかも、同じ場所にゲンドウとリツコも呼ばれているのだ。昔のネルフを思い出して、三人の胸中に不安が過ぎった。

 そしていきなり部屋の照明が消えて、真っ暗になった。

 次の瞬間、微かに動揺する三人の目の前に巨大なドリルを装備したロボットの立体映像が映し出された。


「なっ!? 何だこれは!?」

「ドリルを装備しているロボットなの!? いったい何の為に使うと言うの!?」

「こ、これは……ま、まさか!?」

『これは我々が造り出した究極の汎用人型掘削ロボット『穴掘り君』、その初号機だ。

 建造は極秘裏に行われた。地球寒冷化を少しでも抑える為の、我々人類の最後の切り札だ


 ロボットの立体映像に引き続き、自治領主のミハイルの立体映像も映し出された。

 ミハイルの顔は三人とも知っている。今は自治領全体を見る立場であり、三基目以降のスペースコロニーの指揮を執っている事もだ。

 そんな多忙なはずのミハイルが、今は日本の地下都市の一職員や民間人と何の理由も無く会う筈も無い。

 キールが自治領主と何らかの関係があるとは言われていたが、さすがに自治領主自らが自分達に直接話しかけてくるとは予想外の事だった。

 しかも、今のミハイルの演出は十五年前の事を三人に思い出させていた。

 元ネルフ職員の移住を拒んでいる事から、自治領主が自分達に良く無い感情を持っている事は推察出来た。

 どんな難題を吹っ掛けられるのか? 目の前の巨大なドリルを装備したロボットの立体映像を見て、三人の不安はさらに高まっていた。


「これを我々に見せて、何を望んでいるのですか?」

「……あなた」

「……十五年前と同じ状況か……皮肉も良いところね」

『我々は地球の寒冷化を出来るだけ防ぐ為に、地下のマグマを噴出させて地上の温度回復を図ろうと考えた。

 直ぐに効果が出るものでは無いが、やらなければ何時まで経っても効果は出ない。

 勿論、このロボットは一機だけでは無く、十二機を建造する予定だ。

 これを使って地上の各所で休火山の噴火を誘導する事が目的だ。これは全人類の為である事は、君達にも分かるだろう』

「……何故、我々にこれを見せるのですか?」 「「……ま、まさか!?」」


 いきなりの呼び出し。理由も説明無しにドリルを装備したロボットを見せられた。

 呼び出された三人は既視感を覚えて、薄ら寒さを感じた。そんな三人が目に入らないかのように、無表情のミハイルの説明は続いた。


『分かっているだろう。君達にこれに乗って貰いたいからだ。一応言っておくが、君達三人以外でもこのロボットは動かせる。

 君達が以前に造ったEVAのように特定人物しか動かせないなら、汎用人型掘削ロボットなどとは言えないからな。

 ただし、これを動かすには人の身体を捨て去らなければ為らない。有人ロボットはパイロットの食事や体力の関係から稼働時間は限られる。

 だが、人の身体を捨て去る事でその制限を取り払い、操縦者となった人間の脳は最低でも二百年は生き続けられる。

 人の身体による弊害を極力取り除き、マグマの中でも稼動可能な耐熱性能と、食事が不要な事から長期間の行動時間を可能にしている』

「……人の身体を捨て去るような非人道兵器に我々に乗れと? 承諾すると思っているのですか!? しかも妻は妊婦なのですよ!」

「……そ、そんな、嫌です! 拒否します!」

「自治領主だからって、そこまで要求して良いはずが無いわ! 訴えてやる!」


 人の身体を捨て去って、目の前のロボットに乗って地下の掘削に従事しろと迫ったミハイルに三人は抗議した。

 確かにいきなり地球の為に自分の身体を捨てて奉仕しろと言われて、直ぐに承諾する人は居ないだろう。

 だが、そんな三人の抗議にミハイルは冷たい視線で応じた。


『君達は以前に人類の為だと言って、私の義弟にEVAに乗るように迫った。私は君達の流儀に従っただけなのだがね。

 嫌なら仕方が無い。無理強いはしない。だが、日本の地下都市からの移住は全面的に拒否させて貰う。

 今までも日本エリアの犯罪発生率が高い事から、他のエリアからの批判も多いのだ。日本エリア以外からは批判的な声は少ないだろうな』

「くっ!」  「そんな! そんな取引を迫るとは卑怯です!」  「それでも自治領主なの! 恥を知りなさいよ!」

『さらに君達の子供達に、最初の使徒戦の記録映像を見せて、十五年前の行いを全て教えてあげるとしようか。

 ああ、態々感謝してくれなくても良い。君達の子供が親の功績を知らないのも不憫だと思う私の好意からだからな』

「「「くっ!」」」


 ゲンドウとリツコは当然だが、ミサトも子供達には十五年前の事を詳しくは教えていない。

 確かに当時は人類の滅亡を救う為という名目があったが、実際には結果は出せずに自らの失敗を重ねただけだった。

 十四歳の少女を洗脳したり、脅迫紛いの強要を行った事を自分達の親が行ったと知った子供達はどんな反応を示すのだろう?

 軽蔑? 憐れみ? 今の三人にそれ以上の事は想像出来なかった。そして力関係からは、それを拒む事が出来ないのだ。

 それほど自治領と地下都市の力関係の差はあった。そもそもが日本の地下都市はシンジの遺した核融合炉があって初めて稼動する。

 ブラックBOXになっていて手を出せないが、ユグドラシルネットワークに接続されている制御コンピュータで核融合炉は動いている。

 MAGIに代えようにも、その仕様すら把握は出来ない。ミハイルの指示一つで日本の地下都市の電力が途絶える事も可能なはずだ。

 さらには、宇宙から隕石を直撃されては一瞬で地下都市は消滅する。そんな力を持ったミハイルに日本政府が抗議が出来るはずも無い。

 ゲンドウ、リツコ、ミサトは逃げ道を塞がれた事を自覚した。だが、ゲンドウはミハイルの提案を全面的に承諾する気は無かった。


「待って下さい! 妻は身重なのです。パイロットは私一人で御願いします」

「あなた!」  「司令!」

承諾するなら早くしろ! でなければ帰れ!


 ゲンドウの抗議に、ミハイルの冷たい声が返ってきた。

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 さらに交渉しようとした三人の周囲に、次々と十一体の老人の霊体が浮かび上がった。キールを筆頭にしたゼーレを率いたメンバーだ。

 霊体から感じられる圧迫感は尋常なものでは無かった。

 ゲンドウとリツコはキールの霊体の事は知っていたが、ミサトは初めて見てパニック寸前になっていた。

 そして激しく動揺している三人に、十一体の霊体はさらに詰め寄った。


<お前達は何の為に此処に来たのだ!? 逃げるでは無い!>

<お前達が此れに乗らないなら、此処では不要な人間なのだ>

<運命からは逃れられぬ。何より自分から逃げるな!>

<逃げてどうする? 他の地下都市の住民がお前達を許してくれると思っているのか?>

<十四歳の少女を洗脳した旧姓赤木リツコ博士。他人の人権を無視しても、我が子が可愛いのか?>

<それを言ったら、何も準備もしないままに戦闘を強要した当時の作戦課長もだ。今更、罪から逃げられると思うな!>

<あの時の策を弄した六分儀もだ。今こそ、当時の責任を取る時だ>

<お前達の行いを子供達が知ったらどういう反応を示すか楽しみだな>

<もう良いだろう。その三人に乗る気が無いなら、親の因果を踏まえて三人の子供達に責任を取らせるべきだろう>


「なっなんだと!? シンイチをこのロボットに乗せる気か!? 自分が乗りますから、子供を巻き込むのは止めて下さい!」

「止めて! あたしも乗ります! ですが、せめてお腹の子供が産まれるまでは待って下さい!」

「リツコ!? いえ、あたしも乗ります! 司令と二人で乗りますから、リツコは除外して下さい!」

「ミサト!? そんな事は言わないで!」

「良いのよ。あの時のあたしは使徒への恨みから暴走していたの。色々と迷惑を掛けていた事は確かだものね。

 子供も二人を授かった事だし、二人をリツコが面倒見てくれればあたしは安心してあのロボットに乗れるわ」

「ミハイル自治領主。自分もあのロボットに乗ります。ですが、身重の妻は見逃して下さい。加持君、済まんな」

「いえ。これも自分の撒いた種です。覚悟は決めました。でも、子供を託す事が出来る友人がいるのは幸せだと思っています」

「ごめん、ミサト。ごめんなさい」


(シンジにした事が、そっくりそのまま私に返ってこようとは運命の皮肉か。わざとやっている節もあるが、今の私では逆らえん。

 だが、産まれて来る子供の事もある。リツコは何としても守らねば為らん! シンイチもだ。

 いくらエゴイストと罵られようと、これだけは譲る訳にはいかん! その為に我が身を差し出す事になっても悔いは無い!

 それにしても、脳だけになってロボットで穴掘りを延々と行うのか。ユイに拘ってシンジを捨てた私にお似合いの罪かも知れんな)


(今になって、レイを洗脳した事と中佐を追い詰めようとした事が責められるなんて!

 悪い事はしてないとは言わないけど、シンイチとこれから産まれてくる子だけは守らなくては! ミサト、ごめんなさい!

 あなたの子供を責任を持って預かるわ。二人を犠牲にするのは胸が押し潰されそうだけど、子供達の為にも耐えて見せるわ!)


(心残りはケイコとヒロシの事だけど、リツコが預かってくれれば安心だわ。

 昔から子供を託せるような友人がいる事は幸せだって言うけど本当よね。十五年前のあたしのした事の清算をする時か。

 リョウジ、最後の挨拶が出来なくてごめんね。たまにはケイコとヒロシを遊びに連れていってね)


 覚悟を決めたゲンドウとミサトはミハイルを直視して、身重の為に後を託されたリツコは涙を流していた。

 傍から見ていると美談になるだろう。だが、周囲の十一体の霊体から笑いが起きた。


<クククッ。あの六分儀がこんな事を言い出すとはな>

<あの頃のふてぶてしさは何処へ行った事やら。やはり人間は守る者が出来ると変わると言う事か>

<我等の前で裸体を晒した赤木博士も母親になると、こうも違うとはな。良い物を見せて貰った>

<それを言うなら、暴走していた葛城の娘もだな。いやはや月日の流れとは、こうも人を変えるものなのか>

<碇ユイの魂はエネルギーに変換されて完全消滅したが、もし残っていたら目を丸くしたろうな。見れなくて残念だ>

<そういう事だな。賭けは我々の勝ちだ>

<ああ。『マスター』の驚く顔が目に浮かぶな>


 十一体の霊体の笑いは冷笑では無く、何処かに暖かさを感じさせる笑いだった。

 それに気がついたゲンドウが不審な目でキールに問いかけた。キールは黙したまま、代わりにミハイルが答えた。


「……賭けとはどういう事ですか?」

『君達三人の移住を認めないのは最初からの予定通りだが、日本の地下都市の住民の移住を認めないというのは嘘だ。

 この究極の汎用人型掘削ロボット『穴掘り君』も存在はしていない。全て君達を見極める為だ』

「な、なんだと!? そんな悪趣味な事を!?」

「そ、そんな!? 良かったんだけど、何か釈然としないわ!」

「人の気持ちを弄んだのね! このあたしの気持ちを弄んだのね!

『一応は言っておくが、君達が十五年前に過ちを犯した事実は事実だ。そしてその裁きは行われてはいない。

 君達は罪人である事を肝に銘じるべきだろう。

 それに正当な名目があっても権力を不当に使った場合、相手がどんな気持ちになるのか分かったのかね?

 最善を尽くして他に手段が残されていない場合は止むを得ない場合もあるが、君達の場合はろくな説明や努力も無かったしな。

 まあ君達が悔いているらしき事は分かった。それでは本題に入らせて貰おうか』


(使える人間はとことん使った方が良いだろうな。もっとも、油断する気も甘やかす気も無いがな。

 子供の移住を認めて定期的に会える『飴』を用意したんだ。後は定年なんかは認めずに、たっぷりと扱き使わせて貰おう)


 そしてミハイルはある計画をゲンドウ、リツコ、ミサトに説明した。

 その計画によれば、三人は自治領への移住は認められないが、子供達の移住は認められる。

 そして富士核融合炉発電施設の地下施設を使って、ある業務に従事する事となる。

 最初の脅かしの件は釈然とはしなかったが、ミハイルから提示された計画は理性的なものであり、やり甲斐のある仕事でもある。

 ゲンドウ、リツコ、ミサトの三人はその計画に参加する事を承諾した。


 余談だが、ゲンドウはゼーレの一人が呟いた『マスター』の存在が気になった。

 あの食わせ物揃いの老人達が『マスター』と呼ぶ存在は、どんなものなのだろう? あの悪趣味な脅かしはその存在が考えたのだろうか?

 質問はしたが、ゼーレからの回答は無く、それはミハイルも同じだった。

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 スペースコロニーに最も近い天体は月、地球の順番になる。確かに火星や小惑星帯の資源は有望だが、距離を考えると月が一番好ましい。

 月にはシンジが建設した小規模な基地があり、それを利用すれば効果的に資源採掘が出来るだろうが実行される事は無かった。

 所有者がいない現在、本来なら封鎖されているはずの月面基地に少数ではあるが靴音が響いていた。


「監視衛星No15の射出終了。あと百五十秒には軌道に入ります。自動制御と通信回線は正常。今のところは問題ありません」

「よし。これで地球全域の監視体制が整う事が出来たな。【ウルドの弓】No2の修理の状況は?」

「アベルとマートン、レインの修理は終了。彼らの作業船はこの月面基地に向かっています」


 月面基地には小型の核融合炉発電施設が二基があり、地下の資源採掘基地、各生産工場、観測所、小型宇宙船の修理ドックを保有、

 小規模ながら中継基地としての機能を全て兼ね揃えていた。最大収容人口は約五十名で、食料生産も行っている。

 その月面基地に人狼の一族の子供六人が住んでいた。

 大災厄から十五年後、人狼の一族は太陽を挟んだ地球とは反対の軌道にある試作コロニーに住んでいた。

 そして徐々に人口も増加傾向にあり、大災厄の後で産まれた子供は十五人。まだ幼児もいたが、十二歳以上は八人である。

 人狼の子供達は今までと違って、色々な教育を受ける事が出来た。長老などからは人狼としても生活スタイルや考え方。

 今までの迫害の歴史等色々である。中には狩猟や農業について実地指導する者もいた。

 そんな中、宇宙関係の技術指導を希望した六人の子供達は、親の反対を押し切って月面基地でシンジの直接指導を受けていた。

 地球の衛星軌道上にあった各人工衛星は【ウルドの弓】三基を除いて全て破壊された。

 緊急で必要になる訳では無いが、地球の観測体制を整備する必要もあり、シンジは六人の人狼の子供達に技術を教えながら

 その作業を行わせていた。ちなみに大災厄の後に残った【ウルドの弓】の管理権は財団に返却されていた。

 それらを用いて、地球の気象情報の観測と各地下都市の状況確認を月面基地から行っていたのだ。

 こうした理由から、自治領において月面基地の公開や月の地下資源の採掘が行われる事は無かった。


「既に地球全土が氷と雪に覆われ、海も大部分が凍結しているか。まったく氷河期はいつ終わるんだ?」

「過去の歴史を見ると、氷河期が数万年続いたという情報もある。直ぐに氷河期が終わる訳が無いだろう」

「それは分かるが、俺達が大人になっても緑の地球は見れないのか?

 俺の故郷はあのスペースコロニーだと思っているけど、緑の地球で思い切り遊びたいぞ」

「それは俺も同意見だな。だけど、焦っても仕方が無い。氷河期を短縮出来る方法を考えないとな」

「先生達はどうしている?」

「地上の確認に行っている。予定ではあと六時間で戻ってくる予定だ。霊体だから殆ど制限が無いし、行動力が半端じゃ無いよな」


 人狼の子供達の技術指導は二年前から行われていた。既にある程度の事は任せられるレベルに達していた。

 特にミーナの子供であるアベルには、試作コロニーの維持管理を仕込む為に高度な技術を教え込む予定だ。

 心配性のシンジは自動監視機器を稼動させて、万が一の時は直ぐに介入出来るように準備していたが、緊急介入する事は無かった。

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『昨日、スペースコロニー『U』の中台エリアを中心に大規模デモが行われました。デモ隊は様々な要求を叫びながら行進。

 三時間ほどで終了しています。大きな混乱は無く、警察組織の介入もありませんでした。

 デモ隊の主張は、主に自治領主の権限の放棄と住民の権利の拡大です。

 現在は自治政府がデモ隊の主導者の取調べを行っており、自治領主と治安維持局は沈黙を保っています』


 TVの番組でデモに関するニュースが報道されていた。それを見た市民の反応は様々だった。


「自治領主の権限の放棄ねえ。彼らが今の自治領主の仕事を引き継げるとは思えないな」

「厳しい規制は確かに嫌だけど、本当に彼らに任せて生活が良くなるのかしら?

 昔の日本のように選挙で騙されて、余計に生活が苦しくなったんじゃ嫌だものね」

「三基目のスペースコロニーにかなりの開発資源が投入されているからな。あれがこっちに回れば生活は良くなる事は分かる。

 分かるが、地球に残された人達の事を無視して俺達だけが楽な生活をするのもどうだろうな」

「最初に此処に来た時に説明を受けたけど、あの雁字搦めの規則はちょっとねえ。改善出来るならして欲しいわ」

「しかし、技術的な裏付けも無い彼らに任せて問題が起きた時はどうするんだ? 責任は取れるのか? 逃げるだけじゃ無いだろうな」

「元々、このスペースコロニーは魔術師が建造して、それを今の自治領主が引き継いだ。所有権はあちらにあるのに、権限を放棄出来るのか?

 権利の拡大は良いけど、それが実現出来る裏づけ情報を出して貰いたいな」

「そもそも評議会で議決された訳でも無く、少数の利己主義者のデモじゃ無いのか。まともに考えるのも馬鹿らしい」

「でも、中台エリアを中心に、日本エリアと南米エリアからも参加者が出たらしい。不満は何処も一緒だってか」

「『T』ではデモは起きていないんだろう。やっぱりあちらは本国出身者で固められているから贔屓されているのかな」

「TVの報道では平等にしていると言っている。連絡艇で行った事はあるけど、あまり変わりは無さそうだ」

「娯楽を増やして欲しいって気持ちはあるよな。TV局を新規に開設するぐらいは良いと思うんだが」

「給料も上げられるなら上げて欲しいさ。でも、それで食料や製品の供給が増えるのか? インフレになるだけだぞ」

「技術的にも無茶な事を言っていたしな。要求するのは良いが、裏付けも無しにはデモ隊を信用出来ないさ」

「歴史教育の変更も要求していたな。中台エリアとしては滅びた祖国が悪し様に言われるのは気持ちが良いものじゃ無いのは理解出来る。

 分かるが、悪い事をしても開き直ったり、根拠も無いのに領土を主張した事は批判されて当然だと思うな」

「その点は半島も同じだな。恩を仇で返す行為は人間としての良識に欠けるだなんて、批判されて当然だ」

「魔術師の評価を改めろか。これは納得が出来るな。さて、どうなる事やら」

「どうして防火用バケツの事が報道されていないんだ!? TV局は手抜きをするな!」


 市民の反応は様々だった。デモに批判的な人間は約五割。三割が無関心。デモ隊に好意的な評価をしたのは約二割だった。

 だが、デモ隊に批判的な人間でも現状に不満は持っている。そしてデモ隊に好意的な評価を下した人間も実現性は疑っている。

 現状ではこの先どうなるか見通せる人間はいなかった。

 唯一、日本エリアで防火用バケツの導入が決定され、生産が開始された事が今回のデモ隊の効果かも知れない。

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 現在は滅びた大陸の国であれば、デモが発生した事は報道されなかったかも知れない。

 しかし官営TV局に規制は入らず、公正な内容でデモが行われた事が報道された。

 その後にTV局が管理する掲示板に色々な人の書き込みが行われた。ちなみに此処では全て登録IDを打ち込む必要がある。

 無記名での書き込みは出来ない為、ある程度は本音では無く建前を重視した書き込みが行われていた。

 その結果、デモ隊に好意的な評価の書き込みは全体の二割弱程度である事が分かった。それを受けて、デモの主催者は会合を開いていた。


「予想していたより視聴者の反応が悪いな。もっと賛同が得られると思っていたが」

「TV報道自体はあまりカットは無くて、報道されていたな。アナウンサーも中立的な表現だった。

 と言う事は、他のエリアの住民は不満を持っていないのか!? 感想の集計に自治領主か治安維持局が介入したんじゃ無いのか!」

「まあ、無記名の感想じゃ無くて身元を特定されるから、建前しか言えないという事もあるんじゃ無いのか。

 後で治安維持局に目を付けられたら怖いからな」

「そうだな。我々の中台エリアの市民の反応はかなり良い。他のエリアの反応は悪いが、実績をあげていけば改善はされるだろう」

「我々のエリアの市民の反応が良いと言っても、主に外省人だろう。それも全員じゃ無い。内省人の反応はそれほど良くは無いぞ」

「それでも不満は誰でも持っているんだ。徐々に繰り返していけば賛同者も増えるさ」

「こんな事なら、移住の時にもっと外省人を優先しておけば良かったんだ」

「大災厄の前に大量の同胞が宇宙開発を目当てに移住してきていた。祖国の宇宙開発の足掛かりと為るべくな。

 此処への移住の時に彼らを優先して選んだが、限度があるんだ。

 元々の住民の此処への移住数は抑えて、宇宙開発を目当てにしていた同胞の比率を六割以上にしてあるんだぞ」

「今の中台エリアの住民の四割は現地民だった者だが、六割は大陸の栄光を担う者なのだ。それを忘れてはいかん!」

「悠長な事は言っていられなくなった。上級評議員から内密に連絡があったが、自治領主は今回のデモを注視しているそうだ。

 早期の解決を求められ、出来なければ自治領主が直接介入するかも知れないという事だ」

「何だと! では治安維持局が動くと言うのか!?」

「やっぱり自治領主は言論の自由を認めないというのか!?」


 各自治組織の管理下に各地の警察組織がある。武装も拳銃のみで、犯罪の取締りがメインの業務である。横の繋がりは無い。

 まだ発生した事は無いが、重火器を使った犯罪などが発生して警察組織の手に負えない場合は、治安維持局の出動になる。

 今まで武器密売組織の鎮圧等には出動したが、市民の目の届く範囲で行動した事は無く、ある意味不気味な存在だった。

 組織構成、人員、装備、それらは不明だ。下っ端のメンバーを取り込んでいたが、全体を知る事は出来なかった。

 その為に、自治領主の直接介入は避けなくては為らないと出席者は考えていた。


「さすがに今は自治領主に直接介入させる訳にはいかないだろうな。口コミでも徐々に協力してくれる人間を増やすしか無い。

 そして時を選んで、一気にデモを行うんだ。さすがに十万人規模のデモ隊に武力鎮圧は出来ないだろうし、他のエリアも注目するだろう」

「今は待つべき時だと言う事か。まだ我々の力は小さいから仕方が無いな。武器製造もまだ在庫は少ないんだろう」

「ああ。まだ二百人分ぐらいだな。手榴弾も三百個ぐらいだ。まだまだ時間は掛かる」

「ただ、自治領主の目を逸らす意味でも、日本エリアの騒ぎを大きくしよう。

 あそこの他国籍者の不満を煽るのと、冬宮上級評議員に働きかけをするんだ。

 婦女暴行未遂事件で、あそこの他国籍者は白眼視されているから簡単に騒ぎ出すだろう」

「他国籍者を煽るのは分かるが、冬宮上級評議員に何故働きかけをするんだ? 意図が読めない」

「上級評議員からの情報では、冬宮上級評議員は魔術師の功績が正当に評価されていない事に不満を持っているそうだ。

 それを煽るんだ。上手くいくかは分からないが、騒ぎは起こせるだろう」

「そういう事か。さっそく手配するとしよう。南米エリアもそれなりに扇動する事としよう」


 中台エリアの大部分の住民は不満を持ってはいたが、今は我慢するべきと考えている人も多かった。

 それらの人達はデモに参加したり騒ぐ輩を、胡散臭い視線で見つめていた。

 だが、そんな人達の意向は反映されずに、一部の人間は策動を開始していた。

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 デモが行われた事がTV報道されても、日本エリアの大部分の住民の反応は冷やかだった。

 立て続けに婦女暴行未遂事件が三件発生した。その全てが日本エリアで発生し、全員が地球に追放処分となったとTVで報道された。

 その為に、『U』の中東エリア、中台エリア、南米エリアの住民の冷たい視線が日本エリアに向けられた。

 本来は許可されない国籍の人間だったと報道された事で周囲の視線は緩くはなったが、日本エリア在住者だった事には違いは無い。

 肩身が狭い思いをしているのに、そんな時期にデモに参加するなどは日本人の美意識が許さなかったのかも知れない。

 だが、極一部の人間は、そんな事は気にしない。彼らは諦めずに、次の機会を窺っていた。


「自制が出来なかった馬鹿な連中が追放処分になって清々したな。

 まったく勢力を築くまで我慢出来ない連中など、追放処分になって当然だからな。あんな奴らと同じ民族だとは思いたくは無い」

「そうだが、自治組織で移住を許可した審査官を割り出して、選ばれた俺達も目をつけられているんだ。注意しないとな」

「頭を下げて少しずつ信用を得ていって、やっと俺達の組織が築けるまでになったんだ。もう少しだ。

 これで権力を握れば、一気に俺達の組織の拡大が出来る。そうなれば今まで見下していた日本人を顎で使えるようになる!」

「我慢して信用を勝ち取ったんだ。組織を拡大すれば、権限も増える。やっぱりデモを繰り返さないとな」

「だが、自治領の国旗を燃やすような事はするなよ。放火犯として捕まるからな。それと無闇に動物を殺すなよ」

「分かっているさ。表面は日本人らしく穏便にデモをする。権力を掴むまでの我慢は出来るさ」

「俺達が我慢して頭を下げた事で信用している市民は多い。奴等を使って騒ぎを大きくしよう。

 上手く行けば良し。拘束者が出ても俺達が捕まるんじゃなくて、俺達を信用した奴等が捕まるのを見るのも面白いしな」

「まあ、騙される方が悪いって事だよ。俺達が実地教育してやれば良いんだ」


 自治領の学校教育では、恩を受ければ、恩で返すのが常識と教育されていた。このような常識が普及すれば争いごとも自然と減るだろう。

 自分の利益にさえなれば、恩に仇で返しても当然と考えるような価値観の人間は、争いの元になるのも真理の一つだ。

 そのような人間が多くなれば、自然と治安も乱れて人心も荒れてくる。

 そして全てでは無いだろうが、そんな人間は我が強く、押しも強い。ただの善良なだけの人々だけで対抗するのは難しい。

 撲滅するのが難しい人達だと言えるだろう。


「中台エリアからはデモへの参加要請が来ている。奴等を上手く利用して、俺達の勢力を拡大させるんだ」

「まずは世論に関与出来るマスコミ関係だな。今のTV局には全然入り込めないが、民間のTV局が出来れば潜り込む事も出来る」

「教育に関しても独自の教育が出来るように要求しなくてはな。俺達は指導的な立場に立つべきなんだ」

「心の何処かで人間は救いを求めている。そんな時に全住民が幸せになるような政策を提示すれば受け入れられる。

 実現が出来なくても、新興宗教と同じく皆が幸せになると信じさせられれば良いんだ。愚民達に希望を与えてやるんだ!

 そして反対勢力には皆の幸せを邪魔するのかと非難すれば良い。そうすれば、俺達の反対勢力をエゴイストだと糾弾出来る。

 お人好しな奴等を信じさせた後は、実現出来ないのはお前達の努力が足らないと指摘すれば反論は来ない。

 それで俺達を信用させれば、後は好き勝手に出来る。騙された奴が悪いのさ」

「それはそうと、あの防火用バケツの事を言っていた日本人はどうしたんだ? 次のデモに参加するのか?

 やたらと張り切っていたからな。態度が大きいのは癪に障るが、あいつを前面に出せば騒ぎが大きくなるぞ」

「自治領主から直々に、防火用バケツ生産の許可が出たらしい。自治組織の上層部と掛け合って、普及委員会の委員長になったそうだ。

 だからデモには参加しないって言ってたぞ」

「はあ? まあ良い。こんな状態で防火用バケツに拘るなんて、関わってられるか!」


 こうして一部の人間によって、次のデモの下準備が始まっていた。

 そして防火用バケツに拘った一人の男は、周囲の冷やかな視線にも関わらず、張り切って防火用バケツの普及を始めようとしていた。

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 デモが行われた事がTV報道されても、南米エリアの大部分の住民の反応は冷やかだった。

 南米エリアの本国は大災厄の四年後に消滅していた。

 その時の事は各自治組織に割り振られた時間帯にTVで放映されていたので、住民に大きな衝撃を与えていた。

 その後も本国が壮絶な最後を遂げた事と、その託された思いを定期的に伝える事で引き締めを図った事が影響している。

 確かに全住民に我慢しろと言って、我慢出来る訳が無い。それでも定期的な啓蒙活動によって多くの住民の意識は改まりつつあった。


「確かに規制は多くて不満はある。でも、本国は食料が尽きて消滅したんだ。その事を考えるとまだ飢えないだけ良いんだろうな」

「ああ。あのTV報道はショックだったからな。パオ大統領のあの言葉はまだ忘れる事は出来ないさ」

「TV映像には俺の親戚の人も映っていたんだ。もうあの人はいない。俺達に託された思いを無駄には出来ないよ」


 そういってある人物は、大災厄の四年後に本国が消滅した時の事を思い出していた。

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 南米にある某国は地球の寒冷化に伴って食料が生産出来なくなり、滅亡の道を歩んでいた。既に対応策は尽きていた。

 スペースコロニーに二十万人もの国民を送り込めたのが慰めになるだろうか。

 国土の大部分は雪と氷に覆われて、その時まで生き残った約三十五万人は全員が首都に集められていた。

 既に食料の在庫は残り二ヶ月分も無かった。北欧連合から定期的に輸送潜水艦が来るが、僅かな食料と医薬品ぐらいしか来ない。

 そして大統領は決断した。潜水輸送艦の担当者に最後の頼みを伝え、次の補給時にそれは届けられた。

 最後の日、スペースコロニーの南米エリアだけだが、TV画面にいきなり祖国の状況が映し出され、大統領が移住した国民に呼びかけた。


『スペースコロニーに移住した嘗ての国民に告げる。我が国はまもなく滅ぶ。既に国土の大部分は雪と氷に覆われた。

 食料も底を尽いた。北欧連合から細々と援助はいただいているが、国民全員を賄える量では無い。

 北欧連合も厳しい状況の中で援助してくれているのだ。その事は感謝している。彼らの支援が無かったら、二年前に国は滅びただろう。

 このままでは食料の奪い合いから一年前に滅びたT国の二の舞になる。私は国民が争いながら滅びるのを見たくは無い。

 そこで北欧連合に無理を言って、大量の酒と核爆弾を用意して貰った。それとこの通信回線もだ。

 今は食料を全て出して生き残った国民に振舞っている。北欧連合から提供して貰った大量の酒もだ。

 最近の窮乏生活もあったので、国民全員が大喜びしている。これを移住した人達は目に焼き付けておいて欲しい』


 TVの画面は切り替わり、大統領官邸や国会議事堂、色々な場所で思う存分食べて飲んでいる国民の様子が映し出された。

 中には移住者の親戚や知り合いだった人もいた。子供はほとんどおらず、逆に高齢者や傷病者が多かった。

 TVに映った全員が疲れた様子であったが、お腹一杯食べて、そして久しぶりの酒を楽しんでいた。

 空元気かも知れないが、笑い声もTVから流れてきた。中には民謡を歌っている人もいた。

 既に国民全員にこれからの事は伝えてある。最後の時を楽しもうと、何処か悲しさを感じさせる光景だった。


『北欧連合に準備して貰った核爆弾の起爆装置は私が持っている。争いながら滅びるよりは、少しでも幸せを感じながら滅ぶ事を選んだ。

 スペースコロニーの生活でも苦労はあるだろう。だが、我々の分まで頑張って諸君には生きて欲しい。

 諸君が栄えるのならば、我々が滅んでも悔いは無い。君達に我々の民族の希望を託す。最後まで支援をしてくれた北欧連合に感謝する。

 辛い事もあるだろうが、移住した諸君の繁栄を願う。ではさらばだ」


 その直後、TVの画面はいきなり消えて、しばらくの間は何も映らなかった。

 祖国が滅んだ事を悟った市民の多くはその場に泣き崩れた。大きな叫び声を出す者もいた。エリア全体が深い悲しみに包まれていた。

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 この映像はミハイルも見ていた。最後の補給で準備したものの異常さを感じたフランツからの連絡があった為だ。

 そしてミハイルの元には僅かに残っている地球の観測機器から、南米で核爆発が発生した事が伝えられていた。

 その報告を受けたミハイルは深い溜息をつき、核兵器の爆発の中で滅んだ彼らの事を思って瞑目していた。


(彼らを何とかして救えなかったものなのか? ああいう最後を見せつけられると自分がした事が正しいのか疑ってしまう。

 とはいえ、スペースコロニーの受入も限界に近かったし、三基目が完成するまでに人口飽和はさせられない。

 これから先、こういう非情な決断をする事も迫られるだろう。元々は技術者だった自分に耐えられるのか?

 本当にその資格があるのだろうか? これから自治領主としてやっていけるのだろうか?)


 生き延びれないと判断して、核兵器の爆発の中で国家が消滅して気落ちしているミハイルをキールが叱責した。


<自分の力不足を嘆いて悲しむのも良いだろう。だが、それを引き摺るべきでは無い。指導者は多くの市民を導く義務があるのだ。

 死んでしまった人間をいくら嘆いても復活はしない。

 それより自治領主は現在の七百万以上の市民の生活を守る義務がある。それを優先するべきだろう。

 それとも今の自治領主は泣くだけの惰弱者なのか! それならさっさと地位を他者に譲るべきだ!

 彼らの希望は移住した市民に託された。その希望を託された市民を守る事が、死んでしまった彼らの鎮魂歌になるとは思わないのか!?>


 移住を締め切る二年前ではまだ数百万もの人間があの国にいた。

 仮定だが彼ら全員を収容したら、スペースコロニーの生活が維持出来なくなる。他の各国ももっと受け入れろと要求するだろう。

 そうなったら、宇宙に準備したスペースコロニーでの生活が出来なくなる。それは人情に溺れて、人類の存続の努力を放棄した事になる。

 結果的に非情に見える当時のミハイルの判断は正しいのだろう。ミハイルは人間であり、全能では無い。

 一部の人間に感情を移入するのも良いだろうが、視野を狭くして私情に溺れれば、全体が破滅する事さえ有り得る。

 個人レベルで私情に溺れるのは自由だが、大きな責任を持つ者はそんな勝手な事が許されるはずも無い。


 ゼーレとして嘗て人類社会を支配し、指導した過去があるキールの叱責にミハイルは気を取り直した。

 確かに死んだ人間の事を嘆いても復活はしない。だったら生き残っている人間の幸せに取り組むべきだろう。

 ミハイルに真の意味で自治領主の自覚が芽生えた瞬間だった。

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 スペースコロニー『U』において、中東連合エリアの人口と日本エリアの人口はほぼ同じで勢力は拮抗していた。

 もっとも、最近の連発する不祥事(婦女暴行未遂事件等)の為に、日本エリアの影響力は低下していた。

 とはいえ、本国の様子も定期的に知らされて今後の対応策に議論が紛糾しているので、中東連合エリアとして評議会等で積極的に

 関与する事は無かった。デモが行われた事についても他人事という立場から、冷たい対応を取っていた。

 それよりは、どうにかして今の生活の改善を進めようと、裏ルートを使ってミハイルに要請を掛けていた。


 市民においては個人主義が強くて生活への不満はあったが、現状を知ってなお我侭な要求をする人間はさほどは多くは無かった。

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 スペースコロニー『T』はほとんどが北欧連合出身者で占められており、他民族との接点も少ない為に問題の発生頻度は低かった。

 それでも不満を感じる人間は多かったが、暴動を起こすような事は無かった。

 ミハイルも一番多くTVに出演して、市民の自制を訴えている。今のところは一番安定している場所と言えるだろう。

 スポーツ振興策が盛んという事もあり、ストレスの上手い回避策は成功していた。

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 冬宮は日本エリアにあるマンションの一室に住んでいた。皇族という立場で特別待遇を受けていたが、住居は他の市民と同じだ。

 立場から与えられた上級評議員の地位と、それに伴う特別枠の活動資金の供与がミハイルから与えられていた。

 日本にいた時とは比較にならないが、今はスペースコロニーの住民の一人である。他の北欧連合と中東連合の王族も同じ扱いだ。

 これに関しては贅沢は言えず、冬宮としては逆にここまで他の市民との待遇差をつけて良いのかとも考えていた。

 中台エリアの代表から冬宮宛てに、シンジの功績評価についてバックアップするとの連絡が入っていた。

 メールでそれを見た冬宮は苦笑し、ソファに深々と座り込んだ。


(中台エリアの代表が博士の名誉評価に協力するか。元々、両者の関係は無いし、やはり裏があると考えるべきだろうな。

 最近の中台エリアの動きは激しい。日本エリアにも同調する者は少なからず居るからな。あの移住の時に紛れ込んだ奴らだけじゃ無い。

 同調する日本人もそれなりに居る。困ったものだ。このまま衝突が続けば、このスペースコロニーで生活が出来なくなる可能性さえある。

 争いは避けるべきなのだろうが、さてどうやって市民に耐えるべきだと訴えるのが良いだろうか?

 これは後で他の代表と打ち合わせするべきだろう。それと博士の名誉評価の時の自治領主の表情も気に為る。

 何故、あんな情けない表情に一瞬なったのだ? 我々が博士から受けた恩義は大きい。恩には恩で返すのが我々の流儀だ。

 必ず自治領主に博士の名誉評価を認めて貰おう。そしてそれを突破口にして、徐々に改善を進めていけば良いだろう。

 物質的には無理もあるが、精神的な豊かさを増すような事には自治領主も反対し辛いはずだからな)


 冬宮は日本の皇室を代表する立場であった。

 他の王族と同じように、自治領の市民であると同時に出身国の民族の精神的象徴の期待が掛かっている。その為に特別待遇を受けている。

 シンジが居なければ日本は滅んでいたかも知れないと、冬宮は考えていた。その恩人の名誉を回復させるのは、自分の義務だと思っていた。

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 ミハイルは四十台後半になり、妻であるクリスはちょうど四十歳。二人の子供を為しており、それなりの賑やかな家庭を築いていた。

 小さい子供二人が寝静まって、ミハイルとクリスは居間でソファに座りながら会話をしていた。


「三基目のスペースコロニーの完成まで後五年か。四基目以降の建設を中断しても工期の短縮は僅かだな。

 やはり五年後までは二基でやりくりするしか無い。それにそろそろ地下都市の移住も考え始めなくてはな」

「地下都市の問題は私も聞いているわ。対応策はあるの? 今更本国に併合だなんて無理だし、中東連合や日本も問題を抱えている。

 何か腹案はあるのかしら?」

「まだ無い。そっち方面は今はシンがミーシャ達と一緒に現状を確認している。その情報を聞いてから最終判断するつもりだ」

「そうね。詳細情報が来てからでも遅くは無いわね。それはそうと、『U』で起きたデモの件はどうするの?

 不満を持つ人間を放置するのも拙いでしょう」

「ああ。上級評議会には明後日までに対応策を出せと通達してある。それを聞いてから最終判断するつもりだ。

 確かに厳しいこの現状で不満を持つなとは言えんが、ある程度は我慢して貰わなくてはな。地下都市の市民を見捨てるならともかく、

 今は三基目の建造に全力を注ぐべき時だ。それが分からないなら、決別する事も考慮しなくては為らない」


 スペースコロニーに移住する時に、最初から規則が多いと伝えてある。

 それに納得して来たはずなのに、文句を言うとは自分勝手だと思える。それが人間の本性だと言われればそれまでだが、

 全体を管理する立場としては、デモをするような不満が市民に溜まっているのは放置は出来ない。

 最悪は強硬策を執る事も考えて、内密に治安維持局に出動準備を整えておくように指示を出したところだ。


「決別か。あと五年我慢してくれれば三基目が稼動出来て余裕が出るのにね。人間の欲求は際限が無いと言う事か。

 詐欺やハッキングして資金を増やそうと考える輩もまだまだ出てきているわ。この非常事態に困ったものだわ」

「その人間の欲求を適切に管理する必要があると言う事だ。何か他に目を向けさせるのも手段の一つだ。

 特にスポーツ競技や祭りで一体感を盛り上げて、ストレス発散するもの良いんだが」

「特に『T』では結構盛んに行われているわよ。でも『U』では少ないわね。

 それはそうと、防火用バケツの生産を許可したって聞いたけど本当なの? 役に立つとは思えないけど」

「防火用バケツ? ああ、デモ隊が言っていたやつの事か。許可した。資源の無駄使いかも知れないが、量は微々たるものだしな。

 少しでも不満解消になればと考えた。デモ隊で主張した時の映像を見たが、目が血走っていたからな。

 余程防火用バケツに思い入れがあるらしい。やたらと煩そうな顔だったから、関わらない方が良いと思ってな。自治政府の裁量に任せた」

「水は貴重品とまでは言わないけど、それほど大量にある訳でも無いのよ。

 地球と違って地下水で活用出来るものじゃ無くて、地下のエリアから回収して再利用処理場に回しているのに。

 それに油火災に水を入れれば逆効果になるのを知らないのかしら? それにいざとなれば真空消化という方法も取れるしね」

「さあな。だから関わりたく無いから自治政府の裁量に任せたんだ。結果がどうなっても彼らの責任だ」

「消火剤を入れたペットボトルサイズの消火器がこれだけ普及して、地下の消化剤タンクと直結した消火栓も多数ある現状でバケツリレーを

 するつもりなの? 復古主義者もいい加減にして欲しいわ。そんな輩こそ、地球に追放処分にするべきじゃ無いの」

「そんな下らない事を言い出す輩とは、話し合いもする気は無いからな。追放処分も考えておこう」


 クリスとの会話が何故か防火用バケツの事になり、ミハイルは脱力感を感じていた。

 現状を理解しないで、自らの意見に固執する。ある意味ではメリットがあるかも知れないが、デメリットもある。

 何か問題を起こしたら、晒し者にして追放処分するかと考え始めるミハイルだった。






To be continued...
(2012.12.08 初版)


(あとがき)

 色々な人間模様を書いてみました。全ての分野など書ききるはずもありませんし、考え付いたものだけです。

 自分程度に人の本質なんて書ききれるはずもありませんが、たまにはこういう皮肉っぽい小説もどうでしょうか。

 まだ準備段階であって、事態は次話から動き出します。



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