神を狩る罪神 〜The description of end of gods〜

第二話

presented by ガーゴイル様


『冷却終了』
『ゲージ内全てドッキング位置』
「停止信号プラグ――排出終了」
『――了解。エントリープラグ挿入……』
『――プラグ固定終了』
『第一次接続開始!』

――さて、先程のシンジの決意表明から暫し経ち……現在シンジは、エヴァンゲリオンの操縦中核と言える【エントリープラグ】の中に鎮座していた。
目を閉じ、ゆったりとシートに身を預ける。
宛ら、精神統一でもしているかのように。
「――凄い精神力ね。僅かに動揺が見られるけど、心理グラフが殆ど平常値だわ」
弾き出された数値を見て、リツコが目を丸くした。
「――当然だ。徹底的にこの私が鍛え上げたのだからな。――何時もはへたれだが、やる時はやる奴なのだよ、あの子は」
さも当然のように、胸を張って言うセンリ。
―――って、オイ……
「な、何でセンリちゃんが此処に居るのよ!? 発令所は部外者立ち入り禁止だから、保安部の人達にシェルターまで送って貰ったのに……何で!? 如何して!?」
平然とその場に佇むセンリを見て、驚きの声を上げるミサト。
センリは口の端を歪め、面白そうに、
「ははは、あの程度の人員で私が如何にか為るとでも? 現在彼らは、人気の無い某所で幸せな夢を楽しんでいる事だろう。……命に別状は無いから、安心したまえ」
目茶苦茶説得力の在る台詞だ。
ミサトとリツコの脳裏に、手足が変な方向に曲がって、夢の世界に旅立っている黒服達の姿が浮かんだ。
……何か容易に想像できた。
「……あー、何か納得。――でもね、センリちゃん。一応規則だから、此処に居られるとちょっち不味いのよ……」
「――安心しろ。シンジに危機が迫らん限り、私は何もしない。……そう、危機が迫らん限り、な」
意味有り気ににやりと笑うと、センリは上後方に居るゲンドウとNERV副司令――【冬月 コウゾウ】――に向き直り、
「――構わんな、お二方。もし認められん場合は、私にも考えが在るが……如何する?」
壮絶に、凄みのある笑み。
暗に、【承認してくんなきゃ暴れるゾ♪】、といっているような物である。
――センリの戦闘力を身を以って知ったゲンドウは、あっさりと許可した。
「……問題無い」
「一応、礼を言おう。――何をしているんだ? さっさと己の役目を果たせ、NERV職員の皆様方」
総司令と見知らぬ少女の会話に、呆然とする職員。
――しかし、センリの叱責が飛ぶと同時に、慌しく動き始めた。
誰が責任者か解らない光景である。
「……なんかセンリちゃんって………」
「私達より、偉そうね……」
ミサトとリツコは、仲良く溜息を吐いた。




『……エントリープラグ、注水』
突然、下方から褐色の液体が送り込まれ、プラグ内を満たしていく。
「―――……ぬうおぉッ!? 行き成りなんですか!? ――はッ! ま、まさかこの期に及んで僕を髭魔神の寄り代に……この水のような液体は髭魔神の巫女になる為に必要な禊ぎ用の聖水………嫌だあぁぁ――『二度ネタは止めろ(ポチ)』――ぐはぁぁぁぁぁ!? し、痺れれれれれれれれれRE!!!」
シリアスからギャグにチェンジしたシンジのネタが炸裂する前に、センリは直ぐ傍のロンゲ――【青葉 シゲル】――のコンソールを操作し、プラグ内に高圧電流を流した。
――何故出来るかという突っ込みは、もう無しの方向で。
『――し、シンジ君!?』
『い、今のはちょっちやばいんじゃ…』
『大丈夫だ。後十秒もすれば目を覚ます。……五、四、三、二、一………』
無情なセンリのカウントが響く。
零になった瞬間、
「……あ〜〜、今のは一寸ヤバかった。…去年死んだ里山さんちのおじいちゃんが手を振ってたもんな〜。――母さん、酷いじゃないですか! あと少しでお花畑から川に行く所だったんですよ、マジで死ぬかと思ったぞコラ!!!」
見事に復活し、センリに文句をぶちまけるシンジ。
――何で無事なんだ!?
センリを除く発令所の面々の心が、完全にシンクロした。
『黙れ愚かな我が息子。――いいか、シンジ。此処から先は、どんな泣き言も甘えも許されない、戦いの場だ。……覚悟は、出来ているか?』
何時もの電波モードから一転して、センリは真剣な表情で、シンジに問うた。
少しの心配が、読み取られる。
「――大丈夫。此れは僕が決めた事だから……覚悟は、とっくに出来てる。だから心配しないで良いよ、母さん」
表情を引き締め、儚げに笑う。
――その笑顔に、その場に居た職員の95%が魅了された(女性80、男性15【司令、副司令除く】)。
勿論センリは入っていない。
「――しかし、この水……何か血の臭いと味がするんですけど…」
『我慢しなさい、男の子でしょう』
「――いえ、別に慣れてるんで、そういう訳じゃあ…」
シンジの一言に、場が固まった。
錆付いた金属のように首を動かし、ミサトはセンリを見る。
『……アンタ、子供にどんな教育してんのよ…』
『――穏やかな毎日と、溢れんばかりの愛情。其れに毎日の生活に刺激を与える、バイオレンスなスパイスを少し……此れが、我が家の教育の秘訣だ』
清々しい笑顔で言い切るセンリに、少しばかり恐怖を覚える一同だった。
『……先輩。処であの人、誰なんですか? すっごく偉そうですけど…』
『――マヤ。世の中には、理屈では説明できない存在が居るのよ…』
通信に乗って、そんな会話が聞こえてきた。




『しゅ、主電源接続……』
『全回路動力伝達、起動スタート……俺ってヤツァ…』
『りょ、了解』
スマイルインパクトが強すぎたのか、夢心地の脳味噌に喝を入れ、職務を全うせんとす職員。
女は顔を赤らめ、男は頭を壁にぶつけつつ、職務に没頭した。
「――第二次コンタクトに入ります」
「A−10神経接続異常無し」
「思考形態は、日本語を基礎原則としてフィックス」
「初期コンタクト全て問題無し」
「双方向回線開きます――」
「……し、シンクロ率、44.4%」
「……縁起が悪い数字ね」
シンジのシンクロ率を見て、リツコが一言。
「験を担いでも、しょうがないでしょ」
「その通りだ。数字が666だろうが777だろうが13だろうが、あの馬鹿には少しも影響せんよ。――シンクロの効率が、変わるだけだ」
ミサトの言葉を、センリが続ける。言葉とは裏腹に、その拳はずっと握られたままだが。
「ハーモニクス、全て正常位置――――暴走、ありません!」
「――行けるわ、発進準備!」
――一気に慌しくなる。




『第一ロックボルト解除』
『解除確認』
『第二ロックボルト解除』『第一拘束具、除去。同じく第二拘束具を除去。1番から15番までの安全装置を解除』
『内部電源充電完了。外部電源用コンセント異常なし』
『了解! エヴァンゲリオン初号機。射出口へ』
『進路クリア。オールグリーン』
『発進準備完了!』
『……構いませんね』
『無論だ。シンジの決めた事だ、私は口出ししない』
何故かゲンドウではなく、センリに訊くミサト。
センリもゲンドウより貫禄があるから洒落になっていない。
『了解、エヴァンゲリオン初号機――発射!』
プラグ内のシンジに、強烈なGが加わる。
――しかし、其処は其れ。異様に打たれ強いシンジ君。
この程度の重圧なんて、昼寝していても大丈夫なくらいなのである。
一、二秒ほどで打ち出されたエヴァは地上に着き、重圧から開放される。
『最終安全装置解除―――エヴァンゲリオン初号機リフトオフ!』
今、紫の鬼神が解き放たれたのであった。




『シンジくん、先ずは歩く――』
『――先手必勝だっ、シンジ!!』
ミサトの指示を遮り、センリの檄が飛んだ。
瞬間、反射的にシンジ――初号機は、動いていた。
――センリの鍛錬によりシンジの体に染み付いた動きを、初号機が44.4%分再現しているのだ。
地を蹴り、矢の如く駆ける。
向かう先は――第三使徒【サキエル】!
「――でぇりやあぁぁぁぁぁぁっ!」
渾身のドロップキックが、サキエルの顔?に突き刺さる。
不意の出来事に反応できず、サキエルはATFを張る事無くまともに食らった。
仰向けに倒れる、サキエル。
……一同、沈黙。
『――【喜望峰】心得第12条ォォォォッ!』
「――蝶の如く舞い、蜂の如く刺し、猛禽の如く襲い掛かり、獅子の如く蹂躙し、鮫の如く噛み砕き、業火の如く焼き尽くし、巨人の如く踏み潰すべし! 一切の容赦を無くし、敵を極滅すべし!」
センリの謎の問い掛けに、魂の叫びを以って答えるシンジ。
――何とも物騒な教えである。
――NERV職員の皆さんは、突然の光景に意識を奪われた。
この教えに従い、称号機の猛攻は続く。
アックスボンバーに始まり、キャメルクラッチ、ベアハッグ、アルゼンチンバックブリーカー、腕拉ぎ十字固め……そして止めの――

「――ッ!? 大変です、葛城さん! 向こうに女の子がッ!?」

サキエルに卍固めを極めつつ、シンジはそう言った。
――若干、慌てた様子で。
如何でもいいが、微妙にサキエルは苦しそうだ。




発令所の面々が、一気に青ざめた。
「――日向君! 保安部は!?」
「駄目です! 一番近い場所からでも約二十分―――間に合いません!」
ミサトの問いに、半ば叫ぶように答える【日向 マコト】。
――如何すれば…
ミサトは迷った。
使徒を倒せば、確実に少女は死ぬ。
かと言ってこのまま手を拱いていれば、自分等の命が危ない。
使徒を取るか、少女を取るか。
ミサトは、
選べなかった。
――その時、
「――聞こえるか? シンジ」
何時の間にか傍らに居たはずのセンリが、マコトのコンソールの脇に立ち、通信機を勝手に繋げていた。
「ちょ――」
この非常時に何を、と荒立てた声で注意しようとするミサト。
しかし、言葉は出なかった。
何故なら、
「――あと三分、そいつを抑え付けろ。少女の事は、私に任せろ」
センリの口から出た言葉に、その場に居る全員が固まった。
此処から、現場まではかなり距離が在る。
たった三分で移動するなど――
「…不可能よ。たかが三分で、何が出来るというの?」
リツコが、冷たい口調で言った。
そう、普通ならば不可能だ。
――普通なら、だ。

「――私なら、出来る」

――全く普通ではない少女は、笑みを以って其れに答えた。




「三分……解ったよ、母さん…!」
瞳に焔を燈し、シンジは頷く。
もがき、足掻くサキエルを背に廻し――ぶん投げる!
勿論、少女の居る所から反対方向に、だ。
「……オオオォォォォ……!!」
口元から息吹を漏らし、シンジは倒れ伏したサキエルに組み付く。
「絶対に、絶対に放さない! 三分間、大人しくしててもらうよ!!」
初号機の手足が、サキエルに絡み付く。
繰り出されるのは、サブミッション・アーツ。
「――スピニング・トゥ・ホールドォォォォォォッ!」
回転がサキエルの足を痛めつける。
堪らずサキエルが、光槍を発射する筈の手を、地面に何度も叩きつけた。
ギブアップ、ギブアップと言っているようだ。
「……残り、あと二分三十秒ォォォ……ッ!!」
――使徒と福音のデスマッチが、幕を開いたのであった。




――駆ける。
今のセンリの速度は、音速に匹敵する。
“飛行”すればもっと速いだろが、其れを行えば流石に誤魔化しが利かない。
……何、大丈夫だ。
――この世界には、力が満ちている。
気付かなければ使えない、不思議な力だ。
遥か過去――“前進”と呼ばれた世界――に満ちていた、様々な法則の力。
――最早誰も知らないし、使う事の出来ない力。
……“彼等”の、残した力だ……ッ!
思い出すのは、この“世界”の過去である、“前進”の時代。

過去に軋みを覚え、だが其れを乗り越え“今”を生き抜いた悪役。
悪役の対である、“最低”と“最高”の二重存在である優しき正逆。
過去の自分が遠い昔に愛した女性と同じ名を持つ、大神槍の担い手である光の翼持つ戦乙女。
戦乙女と常に共に在った、加護と輪廻転生の剣を持つ神と人の混血。
進化する少女を想い、ただ共に在る事を望んだ武為る神の駆り手。
変わる事を恐れ、変わる事を望み、駆り手と共に戦った進化する人形。
孤独に身を置いていたが、雷の眷属と共に空を駆けた皮肉な北風。
走る事を望み、同志と北風と共に自由なる空を舞った、幸いの名を持つ雷の眷属。

――どいつもこいつもおかしな奴等だった。
だが……
「――快い奴等だった……ッ!」
既に、センリは地下から星が散らばる空の下を駆けていた。
センリの顔は、口端を吊り上げた皮肉気な笑み。
「この世界は満たされ、そして……全てがセカンド・インパクトに砕かれた。――やらなければ為らない。全てを知る、私が。――悪役達の遺志を継ぎ、守護者である私が!」
地を蹴る。
一歩で、景色は瞬く間に切り替わる。
衝撃が傷付いた街を走り抜ける。
――全てが、在る世界。
しかし、誰も使えない。
知らなければ、使えない。
――其れがこの世界の原理。
謂わば――“概念”である。
「――終末の“2005”は過ぎ、破壊の“2000”が訪れた。時代は輪廻し、繰り返される。世界の滅びは未だ訪れず、時代は過ぎて往く……」
――あれから何年、過ぎただろうか?
世界は移り変わり、技術は発達と衰退を繰り返し――現代に至る。
センリは、時へと思いを馳せる。
駆ける、駆ける、駆ける。
そして。
……見えた!
センリの視界に、紫の鬼神と深緑の異形が映る。
――同時に、瓦礫に蹲る少女の姿も。
センリは、更に大地を蹴り、
「――今こそ言おう」
一気に駆け抜け、驚く少女の目前に立ち、
「我は――“神狩る”存在為り!」
生身の腕と金属の腕を、使徒へと向けた。




――シンジはミスを犯した。
其れは――使徒の再生力の高さを失念していた事。
シンジの関節攻撃を学習した使徒は、光槍で自らの両足を切断。
そして――瞬時に再生した両足が、エヴァンゲリオンを蹴り倒した。
打撃音と共に、紫の巨体が大地を転がる。
其の隙を逃さず、今までの恨みと言わんばかりに、サキエルは光槍の連打とレーザの雨をエヴァンゲリオンに浴びせた。
「アアッァァァァァァ――ッ!!」
シンジの喉から、激痛に塗れた叫びが迸る。
だが、其処で終わるシンジではない。
シンジは、意思とは勝手に叫びを上げる喉を押さえ、
「――負けるかァァァァァァッ!!」
アッパーカット。
強烈な拳打が、サキエルの白い仮面を砕く。
たたらを踏み、其の巨体を揺らがせるサキエル。
故に、光槍が発射状態にセットされた掌が、見当外れの方に向いた。
――少女の前に佇む、センリの方に。
「――母さんッ!?」
シンジの絶叫が、戦場に響いた。




「――騒ぐな、シンジ」
センリはシニカルな笑みを浮かべ、静かに言った。
翳した金属の掌に、何かが浮かぶ。
――蒼き石。
不可思議な輝きが浮かぶ、塊。
センリは、笑みを以って、

「――私は、何者にも屈しない」

砕く。
蒼き燐光が、空間に散った。

・――力は捻じ曲がる

詞が、世界を変える。
瞬間、光の槍がセンリを狙い――

捻じ曲がる。

ぐにゃり、と形容されるように、槍が在り得ない形に捻じ曲がった。
――指向性のある力を、捻じ曲げる概念。
「――故に、この世の全ては捻じ曲がり、私に届かない……ッ!」
センリの直ぐ脇を、殺意の光が貫く。
風が巻き起こり、ありとあらゆる物が宙を舞う。
其れに驚き、少女がか細い悲鳴を上げて、センリの腰に抱き付いた。
センリは、少女を見て、
「――大丈夫だ」
確りと、少女の瞳を見つめ、
「――正義の味方が、あそこに居るぞ」
同時。
サキエルの体が、吹き飛ばされる。
――エヴァ初号機。
其れが繰り出した強力なエルボーが、サキエルの肩に極まったのだ。
センリは、微笑を浮かべ――

「――聞こえるか? シンジ」

問い掛けの声が、夜に響く。




「――母さん?」
母の問い掛けに、シンジは驚きの声を上げた。
遠くに居る筈の母の声が、直ぐ耳元で聞こえる。
……まあ、母さんだから。
奇怪な現象は何時もの事だ、とシンジは気にするのを止め、母の声に耳を傾けた。
「――聞こえるか、光峨・シンジ? ……我が息子よ、聞こえるか?」
「聞こえるよ、母さん」
言葉が、紅い水を振るわせる。
シンジは目前のサキエルから意識を離さず、センリと言葉を交わす。
「……シンジ、“技”を使え。私が、許可しよう」
其の言葉に、シンジは息を呑んだ。
「――いいんですか!?」
シンジの“技”。
其れは、人を超えた武力。
今までの修行全ての、成果の結晶。
センリは此処に来る前、余程の事が無い限り使うな、とシンジに言っておいたのだ。
「いいぞ。お前も、プロレス技のネタが尽きる頃だろう? ――存分に戦れ」
センリのニヤリとした笑みに、シンジは苦笑いを返し、
「――全く」
スイッチを切り替える。
瞬間、シンジの表情が変わった。
笑から、強へ。
――雰囲気が、全く変わる。
「……仕留める」
シンジの一言に、初号機の瞳が、一際強く輝きを帯びる。
顎門の封印が、ばぎん、と音を立てて爆ぜる。

――ルゥゥオォォォォオオォォォォォン………………ッッ!!!!

獣、降臨す。




「――嘘!? し、シンクロ率……89%まで上昇ッ!」
初号機から送られてくる情報を解析していたマヤが、驚きの声を上げた。
「何ですってッ!」
リツコの脳裏に、暴走の一言が浮かぶ。
しかし、その思考は、次の報告に否定される。
「グラフ、安定しています。……暴走では在りません!」
ならば……
「――あの子が、自力でエヴァをコントロールしている……」
呆然と、ミサトが言った。
其の視線の向く先は、スクリーン。
咆哮する紫の鬼神が、大画面に映し出されている。

歯を剥き出し、目を爛々と輝かせる、妖神。

ミサトは――いや、この映像を見ている職員の殆どが、自分の組織が保有していた“兵器”の恐ろしさを、改めて理解した。 ――静寂の空間を、ただ咆哮が通り過ぎる。

――碇、これは予想範囲内なのか?
……問題ありません、先生。

――組織の2TOPが、揃って冷や汗を流した。




――勝負は一瞬だった。
初号機の殺気を敏感に察知したサキエルは、ATFを展開しつつ後退。
距離を取って、槍と光線で攻める心算だ。
しかし、
消える。
視界から、轟音と共に初号機が掻き消えた。
サキエルの高速思考が、次に行うべき動作を弾き出す前に――

飛ぶ。

巨体が、宙に浮いた。何時の間にか、初号機がサキエルの懐に入り込み、蹴り飛ばしたのだ。
再度、初号機の足が飛ぶ。
体の中心――コア――に衝撃が直撃。
悲鳴が、走る。
そしてコアの崩壊に伴い、全身が――粉々に、砕け散ったのだった。
天空に轟音が鳴響き、紅い華が空を彩った。




「“断空脚”……その一撃は空をも断ち、全てを破砕する」
――十年の鍛錬で、シンジが得た力。
超人的な格闘スキル。
その“技”を、初号機が89%分再現したのだ。
「――性格が変わるクセは、全く直っていないな……」
困ったものだ、と肩を下すセンリ。
ふと、センリは腰にしがみ付いている少女を見る。
少女は言葉を無くし、ポカンと初号機を見つめていた。
センリは、少女に笑いかけ、
「もう大丈夫だ。だから――ゆっくり眠るといい」
懐から新たに取り出した蒼き石を、少女の目前で砕いた。
石は砂と為り、少女の周囲の空間に散る。
同時に、少女の瞼がゆっくりと落ちていった。
「――いい夢を」
眠りに落ちた少女を抱き止め、優しく言うセンリ。
その瞳には、慈愛の情が浮かんでいた。
「――さて、終わったか」
少女を負ぶい、センリは烈火を背に吼える初号機を見やる。
「――幕は開いた、か。これから、忙しくなりそうだ……」
髪で隠れた左目を撫ぜ、深々と吐息するセンリ。
天空を見上げ、
「世界は大きく歪んだ。故に、“目覚め”の時が訪れる。――“竜”を冠する十の世界の端末が、満たされたこの世界を正す為に」
センリは懐に手を入れた。
取り出したのは、携帯電話。
彼女は短縮ダイアルに登録してある番号を呼び出し、
「――出来る限り、手を打った方がいいな」
コール音が響く。
電子の奏でる響きが、戦場跡に染み渡る。
――数秒を置いて、回線が繋がる。
センリは、電話向こうの相手が声を出す前に――
「――もしもし、私だ」
自信と自尊に満ちた声で、

「早速だが、議長殿――“キール・ローレンツ”殿はご在宅かな?」

今、新たな年代記が綴られる……




To be continued...


(あとがき)

超不定期シリーズです。
続きが何時になるか解りませんが、誠心誠意頑張らせていただきます。
では――次回に。

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