シンジさんが入室しました[2014.6.4.22:12]入室3:閲覧0





■シンジ>こんばんわ
■キョウ>おー、おひさー
■シン>ひさしぶりだな
■シンジ>ごびさたでした。親の目がきびしくて
■キョウ>大変だなあ中学生は
■シンジ>ところでみなさん、アレもう始めてますか?
■シン>ああ、かなり進んでるよ
■キョウ>俺はコキュートスまで行ったよ
■シン>私も負けてられんな
■シンジ>じゃあキョウさんが一番乗り?
■キョウ>ああ、これからTRUTHに入るぜ!
■シン>実は私も、同じなんだがな
■キョウ>なんだよー!それ!
■シンジ>すごいなあ!僕もあさって誕生日なんでそれまでには
■キョウ>おう、待っているぜ
■シン>楽しみだな
■シンジ>キョウさんにシンさん、向こうに行ったら何します?
■シン>私はもちろん神に等しい存在となって、あの女は、そうだな牛にでもしてやるか
■キョウ>俺はもっとシンプルに思う存分暴れて、あの女ひいひい言わせてやるぜ!
■シンジ>ははは、僕もたのしみです
■シン>BRC氏もマセナリ氏も既に行ったらしいからな
■キョウ>そういや他の面子も最近見かけねえなあ
■シンジ>きっとハマってるんですね
■キョウ>シンジは何がしたいんだ?あっちへ行ったら
■シンジ>うーん、行ってみないとわからないなあ
■シン>ちゃんと設定は作っておくんだぞ
■キョウ>そうだぜ、そのまんま行ったら意味ねえからな
■シンジ>そのへんは、皆さんを参考にして作りましたから
■シン>はは、抜け目無いな、流石は我らが弟子
■キョウ>よし!それじゃラストスパート行くべ
■シン>そうだな、では行くか
■シンジ>頑張って下さい!僕も誕生日終わるまでには
■キョウ>待ってるぜ!
■シン>では、これにて
■シンジ>はい、いってらしゃい!







シンジさんが入室しました[2014.6.6.23:06]入室3:閲覧0







■シンジ>こんばんわ
■シンジ>誕生日に間に合いました!
■シンジ>ついにやりました!
■シンジ>おどろきました、全然違う話でしたね
■シンジ>あれがTRUTH
■シンジ>空いた口がふさがりませんでした
■シンジ>なんか間違ってますよね、あれは
■シンジ>あんなのが真実なわけないですよ
■シンジ>シンさんキョウさん、どう思います?
■シンジ>でもこれで遂にコンヴィクト制覇か、これで僕もいよいよ
■シンジ>あ、そうそう
■シンジ>ところで
■シンジ>どうでした? 向こうは
■シンジ>帰って来たんですよね、ここにいるってことは
■シンジ>シンさん、キョウさん
■シンジ>ねえ
■シンジ>あれ?
■シンジ>おかしいな

[入室者名]シン:キョウ:シンジ[現在3人が入室しています]

■シンジ>います、よね?
■シンジ>キョウさん、シンさん
■シンジ>寝てるんですか?
■シンジ>おーい
■シンジ>ちぇ
■シンジ>しょうがないなあ、せっかく

入室3:閲覧1

■シンジ>あ
■シンジ>だれか見てる
■シンジ>はじめましてー
■シンジ>おーい
■シンジ>お話しませんかー

入室4:閲覧0

■シンジ>あれ?
■シンジ>えーっと、こんばんわー
■シンジ>名前、出ませんね、どなたですか?
■シンジ>こんばんわー
■シンジ>あれ?
■シンジ>おかしいな
■シンジ>いつもなら「〜さんが入室」って

入室3:閲覧0

■シンジ>あ、消えた
■シンジ>バグかな

[入室者名]シン:キョウ:シンジ:みさと[現在3人が入室しています]

■シンジ>え

[入室者名]シン:キョウ:シンジ:みさと[現在3人が入室しています]

■シンジ>なんだよ
■シンジ>誰だよ
■シンジ>3人しかいないはずだろ!
■シンジ>何で名前がふえてるんだよ!

<エラー!>退室できません[2014.6.6.23:38]入室3:閲覧0

■シンジ>なんで

[入室者名]シン:キョウ:シンジ:みさと[現在3人が入室しています]

■シンジ>まただ
■シンジ>よりにもよってその名前
■シンジ>何のいやがらせだよ!

<エラー!>退室できません[2014.6.6.23:39]入室3:閲覧0
<エラー!>退室できません[2014.6.6.23:39]入室3:閲覧0
<エラー!>退室できません[2014.6.6.23:39]入室3:閲覧0
<エラー!>退室できません[2014.6.6.23:39]入室3:閲覧0
<エラー!>退室できません[2014.6.6.23:40]入室3:閲覧0

■シンジ>なんで電源落ちないんだよ!なんでなんでなんd

[入室者名]シン:キョウ:シンジ:みさと[現在3人が入室しています]

■シンジ>シンさん!キョウさん!
■シンジ>起きて!
■シンジ>はやく!!!
■シンジ>なんかおかしい!!!!!
■シンジ>あ
■シンジ>bvghcjyふい78t960mんvjkg80y97
■シンジ>
■シンジ>
■シンジ>










みさとさんが退室しました[2014.6.7.00:00]入室3:閲覧11,357






おねえさんといっしょう

presented by グフ様







「警察の方が何故。あの子が何か」

黒縁眼鏡の奥、いぶかしむ様に加持を見つめる男の瞳。

「いえ、他の事件で甥子さんと似たような件がございまして」
「似たような、というと、その方も原因が解らずに?」

流石に他の二人は既に、とは言えない。

「ええ、まあ詳しくは申せませんが。ところで」

瞬間、加持の脳裏に過ぎる光景、病室の棚に並べられたDVD、この人は確か。

「藤木さん。貴方ひょっとして“金曜どうでしょう”の」
「へ? 知ってるんスかセンパイ」

その言葉を聞き、藤木の表情が和らぐ。

「あ、ご存知ですか。嬉しいですなあ」
「何スか?それ」

金曜どうでしょう。北海道の地方キー局が制作し2004年に放送が開始。
口コミやインターネット、DVD発売などでファンを拡大させていった深夜バラエティ番組。
出演者は大沼・鈴伊のタレント両名にカメラマンの上島、ディレクターの藤木、キャストは基本的にこの四人。
毎回かなり無謀な旅を行いその模様を放送するという内容で、地方発全国区の先駆けとも言える。
番組は2010年にレギュラー放送を終了したが「一生どうでしょうします」宣言の下、
およそ年一回のペースで不定期ではあるが新作を発表し続けている伝説の番組でもある。

「去年の新作、南極横断は傑作でしたね」
「おお、嬉しいですなあ」

髭面が微笑む。

「DVD見ました、特典も」
「ほうほう、隠しチャプタ見つけましたかあ」
「大沼君と皇帝ペンギンの壮絶な殴り合い、大笑いしました」
「あれはちょっとガチ過ぎましたなあ」

藤木が何かを思い出すように目を閉じる。

「あれはやり過ぎで、入れようか迷ったんですわ」
「あと一昨年のヨーロッパ・アルティメット。アイルランド・サイコロの旅」
「二月のディングル半島、寒かったですなあ。白くま勝負でミスター鈴伊がマジ泣きまして」
「全然知らないっス」

ゴス、と加持の肘がアオバの胸を直撃。声を殺しうずくまるアオバ。

「いやあ光栄です、あの有名な藤木ディレクターとこうやってお会い出来てあふっ!」

ぶすり、と涙目のソバカスデコが決死の反撃。通称七年殺しが加持を貫く。

「どうかされましたかあ?」
「いえ、すいませ、ん、大丈夫です、くそう」

と額に青筋を立てながらギリギリ笑顔の加持、アオバの指を臀部から引き抜くと同時に指と指を絡め締め上げる。
地味に痛いフィギア・フォー・フィンガーロック、指四の字固め炸裂。

「んおおお――っ!んおお――っ!」

左手をガッチリ固められ苦悶のアオバが空いた右手でバンバン、と壁を叩きタップで哀願。

「何かラップ音がしますなあ」
「どうもお騒がせしまして」

撃沈するアオバを満足そうに一瞥し、加持が向き直る。

「すいません、何かいきなり舞い上がってしまいまして」
「いえいえ、やはり嬉しいもんです、作り手としては」

微笑む藤木と加持。それをジト目で見つめるアオバ。
和むオヤジ二人と仲間はずれのデコ女。

「ところで藤木さん」
「はい」
「シンジ君と御苗字が違うようですが、母方の?」
「いえ、父方でして。あの子の父親の、弟に当たります」
「何かご事情がおありなんですか?その、例えば」
「いえ」

加持の言葉の先を察し藤木が答える。

「兄は他界しました。ですが姓は戻して無いと聞いております」

姓は戻していないなら母親も藤木姓のまま、普通はそうだろう。

「不躾でしたね、こんな事をお聞きするなんて」

しかし、ここで敢えて加持は引く。

「いえいえ構いません、ただ」
「ただ?」

教えてもらおうか、その口から、と加持が誘う。

「原因が良く解らんのです。私も伝え聞いたもので」
「よろしければ、その辺のご事情をお聞かせ願えませんか?」

曇った顔で藤木が語る。

「以前、あれの母親が驚いて私に連絡を寄越したのですが。
 何かの手続きで役所へ戸籍を取りに行った時、あの子だけ苗字が変わっていたらしいんです」
「苗字、ですか」
「はい。藤木姓では無く、碇、と」
「その碇という苗字は、母方の旧姓ですか?」
「いえ全く違います」
「おかしいですね、それは」
「ええ。しかもあの子だけが」
「役所へ確認はされましたよね?」
「もちろんです。私も気になりまして問い合わせたのですが、何故こうなったのか先方も首を捻るばかりで」

おかしい。確かにおかしい、と加持は思う。
事前資料からその特異性は解っていた、それを踏まえ標札を確認した。
この中央病院の標札は手書きではなく、システム管理上、直接住民基本台帳から出力される仕組となっている。
つまり、それは。

「ですが未だ彼の名前は、碇シンジ、ですよね?」

母親を飛び越え子供の姓だけが変わる、この異常性。
それをチェック出来なかった役所も問題だが、人為・システム両面のミスが偶発的に重なった、と仮定しよう。
だが、その異常故に手続きを経れば容易に直せる筈だ、しかし。

「まだ直して無いのは何か理由が?」
「そう、そこなんです」

叔父さん、僕の秘密、教えてあげようか。
藤木の記憶から滲み出すシンジの声。

「あの子がそれを拒みまして」
「ほう」

加持の目が静かに淀む。

「僕はただのシンジじゃなくて碇シンジになったんだ、お母さんも喜ぶ筈だ、と」

お母さんも。その言葉を脳裏で反芻する加持。

「喜ぶ? 何故彼はそう思ったんでしょう」
「母親が言うには、あの子の名前の由来ですが」
「はい」
「あの子が生まれる前、夫婦で好きだったあるTV番組の主人公の名前から取ったらしいんです」

ああ、なるほど、そういう事か。
加持の脳裏に散らばるピースの断片と断片が繋がり、やがて組み上がるパズル。

「その主人公の名前が、碇シンジ、ですか」
「そのようですなあ。しかもあの子、不可解な事を言い出しまして」
「ほう」
「あの子が言うには、ネットのどこかに会員登録した際、苗字を碇、と設定したのが原因、と」

そんな事はありえない、まともな考えじゃない、だが。

「そんな馬鹿な事があるか、とその時は笑いながら一喝したんですが」
「お母様は、喜んでましたか?」
「まさか。むしろあんな名前にするんじゃ無かった、と後悔しておりました。
 急いで手続きを取ろうとしたのですが、ある一点が壁になりまして。つまり形式上ですが
 未成年で被保護者と言えど、本人からの直接申請、代理ならば同意書が必要らしいんです」
「彼が拒んだのですね」
「はい。いつもは聞き分け良い子なのにこの件だけは頑として譲らず、ほとほと困った母親から
 連絡を受けまして、タダヒサさんなら言う事聞いてくれるだろうと、あ、これ私の名前ですが。
 つまりはまあ、説得して欲しいと懇願されまして」

結果として藤木の説得を少年は受け入れた。一つの条件を提示して。
曰く、次の誕生日までこのままにして欲しい、と。

「その誕生日の翌朝、ですか」

加持が持つ資料に記された日時、2014年6月7日、午前7時前後。

「はい、あの子の母親がいつも通り起こしに部屋を開けたら、パソコンの前に」

その日、意識が落ち入院を余儀なくされた少年。
以来一年間、彼は藤木姓に戻る事無く、碇シンジとして眠り続けているという。

「シンジ君は一人っ子ですか?」
「はい、母ひとり子ひとりで」

妹はやはり居ない、か。

――こちらに頻繁に兄がお伺いさせて頂いていた様ですが、実は

では、あの噂は。そして誰が。

「警察に届出はされてませんよね」
「私も母親も病気だとばかり、いけなかったでしょうか」
「いえ、それは致し方ないでしょう」

フリーメールによる匿名通報。確認するも返信無し。抹消されたアカウント。

「藤木さん、この件に関しては私の方からも再度調べてみたいのですが、宜しいでしょうか」
「有難うございます。そう言って頂けると心強いです」
「お住まいは、えっと北海道でしたか、いつ戻られるのですか?」
「しばらくはこっちに居ようかと思っております。ヒカリさん一人では心もとない様ですし」

ヒカリさん、母親の名前。その名前は確か。。

「念の為お聞きしたいのですが、お母様の旧姓は」
「洞木です。洞木ヒカリ。現在は藤木ヒカリ、ですが」

ああ新幹線三姉妹だ、やはりな、と加持の記憶が蘇る。
アルカ関連で過去に一度目だけ、厳重な監視を条件に閲覧を許されたファイル、R−14。
その中で目にした名前。コダマ・ヒカリ・ノゾミ。そこだけははっきり覚えている。
名前もさる事ながらその特異性、つまり三姉妹揃ってのリターナー、という稀有な事例だったからだ。

「シンジ君は、聞き分けの良い子だったんですよね。つまりお母様との仲は良好だったと」
「はい。三年前に私の兄、つまりあの子の父親が亡くなった時も気丈にヒカリさんを支えて。
 明るくて、本当に思いやりのあるとてもとても優しい子でした、ですが」
「変わって、しまった?」

藤木が上着のポケットから写真を取り出し、加持に見せる。

「兄が亡くなる前、私ら家族と兄夫婦と皆でキャンプへ行った時、私が撮ったのですが」

父親と母親にはさまれて無邪気に笑うその顔、加持の瞼が大きく開く。

「誰ですか、この子は」

夏の光の下、浅黒く日焼けし元気に笑う少年。

「そうなんです、変わったどころか」

ベッドで眠る彼とはまるで。




「別人なんです」









【第三話】ワールドイズユアーズ ――後編――








「一年前、あの子に会った時」

――おいシンジお前どうしたんだ、そんな女の子みたいな顔になっちまって。

「まだ面影はあったんです」

――ああ、そうなんだ。あんまり外出てないからかな。

「だからただ、ここに来て疲れが出たんだろう、と」

――いかんなあ、シンジ。どうだ、前みたいにキャンプでも行かねえか。

「ですが」

――叔父さん、無理しなくてもいいよ。

――無理だなんてお前。

――あの三人と仲良く行けばいいじゃないか。

――お前、何を。

――ああごめんね。でも僕、今とっても楽しいんだ、とてもとても楽しいんだ。

「気丈に振舞ってたとはいえやはり無理してたのかも知れません。
 寂しかったんだろうなあ、と。ですから強くは言えなかったのですが」

――何がそんなに楽しいんだ。

――叔父さん、僕ね、最近とっても面白いサイトにハマっちゃったんだ。

――サイト? ネットのか。

――そこでは神にも悪魔にも英雄にも反逆者にもなれる。

――オンラインゲームかあ?

――違うよ叔父さん。そこには世界があるんだ、リアルがあるんだ。

――お前なあ、ほどほどに。

――僕の秘密、教えて欲あげようか。

「どうやらあるサイトにはまっているらしく、とても楽しいから大丈夫だ、と」
「サイト、というと先程言われていた奴ですね。内容はお聞きになられましたか?」
「何でも自分の名前の由来になったTV番組のファンサイトらしく、そこに入れ込んでいたようで」
「昔、シンジ君の御両親がお好きだったという、あの?」
「はい。何ですかそこは会員制で、入会するには条件が二つ有り、ひとつはユーザーネームの登録が必要で」
「それが先ほど言われていた、設定入れたら、という所ですね」

マルウェアの一種だろうか。どのみち今、バラして調べてる最中だから今日中には解るだろう。
ただあいつ、それ以上の事してなきゃいいが。と、加持の胸中によぎる一抹の不安。

「もう一つの条件とは?」
「小説らしいんです」
「小説?」
「その番組を題材にした小説を最低一本は投稿せにゃならん、と」


――僕ね、その中で小説を書いているんだ。

――おお、すげえなあ。見せてくれよ。俺も特番でドラマの話が来て、今、脚本書いてんだ。

――えー、叔父さんも作家デビューかあ、すごいなあ。

――どうだ、お互いホン書き同士、見せっこしねえか。

――ごめん、それだけは無理。

――なんだよお前、水くせえなあ。

――見たら叔父さん、きっと僕を嫌いになる。だから、ごめんね。


「結局あいつ、見せてはくれませんでしたが」

俺が見た中にあったのだろうか、と加持はあの膨大なテキストを思い出す。
まるで泥の澱のような文字の群れ、あの中に彼はどんな欲望をぶちまけたのだろうか。
だがしかし、作者名一覧ににその名前は無かった筈だ。
つまりユーザーネームとペンネームは別という事か。

「しかし藤木さん」
「はい」
「本当に仲が宜しかったんですね」
「私は年の離れた弟みたいに思っていたのですが、どうやらあの子は」

一瞬、言葉が詰まる。

「私を、父親の変わりと思ってくれたようですなあ」

うつろな目を窓の外にへ向け何処かを眺める藤木。

「後悔しとるんです」
「何をですか」
「あの子が一番つらかっただろう時に、一緒に居てやれなかった事です」
「でもそれは」
「わかってます、わかっとるんですが」

仕事だった。仕方なかった、本当にそうか? 俺は楽しんでたじゃないか。
この仕事を、あいつらと旅をする事を、このまま四人でどこまでも。
あの子が何かを抱えたまま変わって行ったその時に、俺はその事すら忘れ、あいつらと。

「あの子が目覚めるまで、旅には出んつもりです」

せめてもの償い。いや、それは欺瞞だ。ただの自己満足だ。自分が許せないだけだ。
言葉に出来ない想いを噛み締め苦笑する藤木、握られた手のひらに爪が食い込む。

「あのDVDですが」

加持が切り出す。病室の棚に並べられたDVDの事を。

「藤木さんが持ってこられたんですか?」
「一本だけですが」
「封が切られてない、新作の南極縦断ですね」
「はい、あの子が目を覚ましたら、見せてやりたいなあ、と」

お前が苦しんでいる時に俺はこんな事をやっていた、と自戒を込めて。
責めてくれ、蔑んでもいい、だから早く目を覚ませ、と祈りを込めて。

「それ以外のものは?」
「ヒカリさんが、目覚めた時に寂しくないように、と持って来てくれたようですなあ」
「大好きだったんですね、叔父さんが」
「だと、いいのですが」

――ロケが無ければ、叔父さん、もっと来てくれる?

寂しそうに笑う甥の顔がいつまでも離れない。

「今となっては、解かりません」

俺は父親として接するべきだったのだろうか、と藤木は思う。

「気になる事がありまして」
「何でしょうか」
「昨年の新作、ヨーロッパアルティメットですが」
「ああ、棚に置いてあった奴ですなあ」
「封が切られてましたよね、あれはシンジ君が?」
「あの一ヶ月前、リリース前に送りましたから、おそらく」
「ジャケットの裏面、ご覧になられましたか」
「はい」

藤木は目を閉じる。その表情を見て加持は確信する。やはり見たのだ、あの傷を。

「シンジ君は、優しく思いやりのある子だと仰られましたよね?」
「ええ、まあ、ですが」

口ごもる藤木。

「気付かれたのですね」
「はい」

パッケージ裏面、いくつか並ぶスチルの中央に大きく貼られた画。
あの四人、通称どうでしょう班が肩を組み笑顔で並ぶ集合写真、そこに付いた傷跡。
深く爪でえぐられた大沼・鈴伊・上島の、顔。

「あの、何度も何度も掻き毟られた爪跡を見た時、私は」

藤木は見たのだ、優しい笑顔の下に隠された純粋な感情を。

「たまらなくなりました」

嫉妬。父親を求める彼にとって障害となる存在に向けた、憎悪。
それは藤木に向けての言葉に出来ないメッセージだったのだろうか。

「藤木さん。シンジ君が変わったのは、そのサイトのせいだと思いますか?」
「そう、思いたいのですが、ただ」
「ただ?」
「あれはもともとあの子が持っていたもの、なのかも、と」

猜疑、嫉妬、深く暗く淀んだ情念、いっそ世界など滅んでしまえ、という渇望。
思春期特有の万能感と何も出来ない焦燥感が生む自己と他者との軋轢。

「ですがそれは第二次反抗期では? 思春期特有の」
「あの子にはそれがありませんでした、少なくとも表面上は」

優しく気丈で思いやりのあるいい子。

「母親を支える、という気丈さの影で何故自分が、と思っていたのかも知れません。
 父親さえ居てくれたらこんな想いは、そう思っていたのかも知れません。
 その想いが静かに深く鬱積して。しかしそれを発散する術を持たない。
 ああこの子は優しいいい子だ、という私らの期待が蓋をしてしまった」

その殻の下に蓄積されたものは果たして。

「あの子は笑いながら、荒野にいたんですなあ」

加持は思う。彼が亡き父親に抱いた感情は何だったのだろうか。
何で僕がこんな想いをしなきゃいけないんだ、それは父さん、あんたのせいだ。
あんたが死んだりしなければこんな目に合わなかった筈だ、と思っていたとしたら。
藤木という叔父に見た理想の父親像、それに引き換えあんたは何だ、何と言う体たらくだ、と。
幼さ故の短絡的で歪んだ思考、亡き父に向けられる憎悪、思春期の必須科目である親殺し。
優しい仮面の下、想像という世界の中、繰り返し行われる恫喝。熟成される殺意。

「ご自分を責めても、つらいだけですよ、藤木さん」
「解っております、解っておるのですが」

つまり、素養はあったのだ。藤木シンジという少年は。
しかも彼は母親の血を、リターナーのDNAを継いでいる。
コンヴィクトはトリガー。生成した憎悪という弾丸を解き放つ引き金。
彼はその引き金を引くに値する適格者として、選ばれた。
誰に? 決まっているじゃないか。





あいつだ。





不意に降りた沈黙。壁に掛けられた時計。
秒針が音も無く一回りした頃、ようやく開く口。

「本当に好きなんですね、シンジ君が」
「そりゃあもう」

藤木が微笑む。

「ですからね加持さん、あの子が目を覚ましたら」
「はい」
「今度は思いっきり憎まれてやろうと思います。罵られてやろうと思います。
 あの子の吐き出した全てを受け止めてやろうと思います」
「融通利かない頑固オヤジに転身ですか」
「そうありたいですなあ」

加持も微笑む。

「あ、すいません長々と愚痴聞いていただいて」
「いえ、そんな事は。こちらも貴重なお話を」
「ところで加持さん」
「はい」
「必要な情報は、手に入りましたか?」

その言葉の意味を悟り、加持の口元から笑みが消える。

「気付いてられたんですか」
「そうですなあ」

と、藤木が肩に掛けたバッグから真新しいDVDを取り出し、加持に手渡す。

「これは」

表紙に南極縦断のタイトル、それは加持が病室で見たものと何ら変わらない。

「病室にあったやつ、あのジャケットはプレ版なんです、差し替え前の。中身は同じなんですが」

しかし裏面、棚にあったものとは明らかに違う内容。

「当初は放映時カットされた大沼VS皇帝ペンギンを特典映像に入れる予定だったのですが。
 あまりにもガチ過ぎて愛護団体からクレームは必至だろうと局から物言いが入りまして。
 結局発売日1ヶ月先送りしてジャケット作り直して、泣く泣く差し替えたんですわ」

加持が呻く、やられた、と。

「だから特典映像、見れる筈が無いんですなあ」

そう、藤木は気付いていた。なるほど、なあるほど、と。
多分こいつは見ちゃ居ない。俺と出会ってからほんの数瞬で病室で見た小道具から話を作り上げたんだろう。
恐ろしく頭の回る奴だ、そしてその素振りを隠すこの笑顔。怖えなあ、だが面白い。
警察の前じゃ誰だって緊張する、それをこいつは、あなたの作品良いですね、と
クリエイター泣かせのツボを軽く付きながら緊張という壁を取り払い、俺の勝手口に上がりこんだ。
そう玄関では無く無防備な勝手口へ。人を蕩かす笑顔で気付かぬ内に間合いへ。たいしたもんだ。

「軽蔑しますか?」

再び加持が微笑む。そう、この笑顔。

「いえ、かえって安心しました」

その下には、恐らく何も無い、と藤木は思う。

「加持さん、よろしくお願いします」
「私は仕事を遂げるだけです、それで宜しいですか?」
「充分です、私もプロの端くれですから、その言葉だけで」

そう、こいつは。
仕事をやり遂げる為なら何だってやるだろう。
俺と同じだ。













「おめでとうシンちゃん、おめでとう」

立ち尽くす少年の背中を抱く女。暖かい闇の中で。

「二人の父親を。これであなたもやっと」
「僕はもう、戻れない」

くすっと背後で女が笑う。

「ねえシンちゃん」
「何?」
「思い出して」
「だから何を」
「初めてお父様の首を刎ねたとき、どうだった?」

耳元で甘い声が産毛をくすぐる。

「気持ちよかったよ、とてもとても、気持ちよかったよ」

はあっ、と湿った息が耳を濡らす。

「そうよね、貴方は、そうなのよね」
「でもね、ミサトさん」
「なあに?」
「もう、気持ちよく無いんだ、誰を殺しても、気持ちよくならないんだ」
「ふうん」
「だからもう駄目なんだ」
「じゃあねえ、シンちゃん」

女が、ミサトが、にい、と笑う。

「また始めからやろうか」

やり直そうか、もう一度あの日から、あのうだるような暑い夏の日から、誰もいない街の下で。

「またあの髭親父にワンパターンな台詞を吐かせて」

お前が乗るのだ。ふっ、出撃。問題ない。かまわんレイを起こせ。何が望みだ。

「そして私は、あのお決まりの台詞を繰り返して、相変わらずの無能っぷりで」

逃げちゃ駄目よお父さんから何よりも自分から。我慢しなさい男の子でしょ。馬鹿、弾幕で前が見えない。

「今度は遅刻した事にしましょう、貴方は駅で待ってたのに。そうすれば憎さ倍増」

遅刻じゃないわよ寝過ごしただけよ! 私が悪いんじゃないわ保安部は何やってんのよ!

「でも簡単に殺しちゃ駄目。今度はぎりぎりまで溜めて、そして一気にやれば、もっともっと気持ち良く」
「だから嫌なんだよ!」

もういい沢山だ、飽き飽きだ、と少年が叫ぶ。

「それは、その台詞は、その展開は、僕が、いや、僕らみんなが創ったものじゃないか」
「そうよ、それが何か問題あるの?」
「ミサト、さん?」

驚き後ろを向く少年が見たもの、満面の笑み、恍惚の顔。

「だから私が居るんじゃない」

闇の中、大きく腕を広げ、女が叫ぶ。

「おとうさま、おかあさま!」

女が叫ぶ。こちらに向かって。

「見てくださいませ、みさとはこんなに大きくなりました!」

暗闇がぞわぞわと波立つ。声がする、囁く声がする。その声が大きく沸き立つ。
ころせ、ころせ、ころせ、ころせ、ころせ、ころせ、ころせ、ころせ、ころせ。

「でもまだまだ足りません!みさとは、おなかがすいてます!」

しね、しね、しんじまえ、おまえはわるいやつだ、だからしね、しんじまえ、しね、しねしんじまえ。
ころせ、ころせ、こいつをころせ、なんどもなんどもころしつくせ、しんじまえ、しんじまえ。

「もう止めてくれ!」

張り裂けんばかりの声で少年が叫ぶ。

「ぼくは」

喧騒が掻き消え、再びの静寂。

「僕は」

震える声を振り絞り、シンジが呟く。

「大人に、なりたかった」













病院七階のロビーから眼下に広がる街を見下ろし、佇む二人の男。

「この街は、静かですなあ」

不意に呟く藤木。

「ええ、確かに」

そう静かだ、まるで眠るように静かだ、と加持は思う。

「ですが平穏とは、言い難いですなあ」
「というと?」
「静か過ぎるんです、まるであのジャングルのようだ」
「ジャングル、ですか」

鳥の歌、虫の声、獣の唸り、木々の揺れ、雨の滴り、川のせせらぎ。
ジャングルとは音そのものだと思っていた加持にとって、その話は意外過ぎた。

「以前、マレーシアのジャングルへロケに行った時の事ですが。
 まあいつもの4人組でワイワイ喧しく相変わらずヒドイ目に合って来たんですが」
「ジャングル探検と、ジャングルリベンジ、ですね」
「ははは、今度はちゃんと見て欲しいですなあ」
「時間が許せば、必ず」

藤木と加持が微笑む。

「タマンヌガラ国立公園という広大なジャングルの中にある、ブンブンと呼ばれる動物観察小屋で
 夜を徹して朝まで外の様子を見ながら、トラだヒョウだと大騒ぎしようと目論んでたのですが」
「出ましたか? 猛獣は」
「いえ全く。結局出たのはシカくらいなもので」
「はは、それはそれでいいネタだ」
「ただまあ、地元のガイドの話じゃあ出ることは出るが何日も何日も滞在してやっと、というのが実情で。
 どうやら猛獣と呼ばれる類の動物ほど実は、とてもとても臆病なんだと」
「なるほど、普段と違って急に騒がしくなった小屋周辺には、近づかない、と」
「それもあるんですが、私ちと気になりまして、じゃあどんな猛獣なら現れるのかと聞いてみましたら」
「はい」
「ガイドは言いましたよ、俺の目の前にいる、と」
「中々に痛烈な返しですね」
「私も笑ったんですが、そのガイドはいたって真剣でして。彼は言いました、糊口を潤す為に確かに客は必要だ。
 だが、客を連れてきたとたん普段は騒々しい森の中が急に静かになる。それは奴らが知っているからだ。
 自分など到底かなわない化物がテリトリーに入ったという事を。本当にトラだのゾウだのが見たいなら
 一日二日じゃ無理だ、森に溶け込み、受け入れられなければ、あんたたちが猛獣と呼ぶ臆病者達はきっと、ってね」

眼下に拡がる箱庭の街を、あのジャングルに重ね藤木は語る。

「この街は、あの森の中に似てますなあ。静かですなあ、とてもとても静かですなあ。
 猛獣すら恐れるニンゲンという存在が群れているにも関わらず、です。
 そう、不自然なくらい静かなんです。平穏なんかじゃありません、静か過ぎるんです」

まるで皆、何かに怯えるように息をひそめて。その何かが通り過ぎるのを待ち続けて。

「一体、何がいるんでしょうかねえ、ここには」

ばけものです。とてつもないばけものが、います。

「藤木さん」
「はい、なんでしょうかあ」

出来る事ならあなたも早くこの街から逃げて下さい。夜に呑み込まれる前に。

「お礼に一つだけ忠告を」

だが、何があろうともこの男は此処から動きはしないだろう、ならばせめて。

「ただ待っていて下さい、彼の目覚めを。決して何が起きているのか調べようとはしないで下さい。
 推察しないで下さい、考えないで下さい、思うことすらしないで下さい。ただ、祈っていて下さい」

出来うることなら忘れて欲しい、もう、無理な話だが。

「忠告、有り難く頂戴します」

頭を深く下げる藤木。それに答え加持が会釈。

「では、私達はこれで」
「“私達”ですかあ?」
「あ」

しまった。

「間違えました、私は、ですね。それでは」

加持の顔から軽く血の気が引く。
しまった、やばい、話に集中してすっかり。
やべえ、これはやべえ。





アオバ忘れてた。













すたこらさっさと七階を後にし、中々来ないエレベーターに業を煮やし
階段を駆け下りて一階中央フロア、バイオスフィア前にたどり着くとそこに。
ぷっくう、ぷくぷくぷっくうと、まるで防波堤で釣られたトラフグの如く
これ以上ない程に頬膨らませガッチリと腕を組みベンチであぐら掻くソバカスデコ。

「え、えーっと、アオバ」

無視。

「な、なあ、シゲ」

激無視。

「シゲちゅわぁん」

超無視。

「らーぶり、ピッピ、シーゲちゃん、ピッピ」

ガン無視。

「やっぱ、怒ってる?」

その瞬間、ウオオオオオオオオッッッッッッッッッッッ!と
得体の知れない獣声を上げながら加持に飛び掛るアオバ。

「ちょ、アオ、バ、おち、やめ、やめっ」

ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッと鋼のデコを何度も何度も加持の額に連発するシゲ。

「シゲ、悪かった、悪かったから、おち、もちつけ」

ガッガッガッガッガッガッガッとキツツキの様にヘッドパット連打する25歳売残りの恨み節。

「わかったイチゴ俺、じゃなくてオレ買って来い、1ダース買って来い、な、な!」
「駄目デス! 許さないデス! ミーのブロークンなハートはそれくらいじゃケアできないデス!」

面倒臭いけど説明しよう! この女は怒ゲージが振り切れると語尾がデスに変わるのDEATH!

「待て! ここ病院! ホスピタルOK? さっきみたいに青筋立てた怖い白衣のお姉さんがッ!」

ビシィッ! とアオバが指差す先に、ガラガラと担架に乗せられ運ばれて行く白衣姿。

「邪魔者は排除したデス! マイ・ドアノッカーで撃墜したデス!」

説明しよう! 無理! そんな場合じゃ無ぇ! マジやべえこの女マジヤベエ! 助けてゴッドマーン!

「わかった! 最大限譲歩しよう! 今日も飲もう! 給料日前だけど酒代持つ! な! なッ!? 」
「ソンナンジャダメDEATH! オマエヲコロシテMEモシヌDEATH! 」
「朝まで飲もう! 俺の下宿で、な! 」

ピタリ、と止む連激。恐る恐る加持が目をあけると、ちょこん、と小さく座るアオバが頬を染め指をもじもし。

「え、えーっとお〜、いきなりそんな事いわれてもぉ〜、心の準備がぁ〜」
「はははそうだよなあうーん残念だなぁ〜んじゃまたの機会に」
「バッチ来いっス! バッチ来いっス!」

もうやだこの女。
ふんっ、ふんっ、と鼻息荒いアオバの隣で、加持が深くため息ひとつ。

「んでセンパイ」
「んあ?」
「お話、終わったっスか」
「まあな」
「いやあ本当言うと、オヤジ二人の渋い会話に口挟みにくかったッス」
「悪かったな、オヤジで」

はーどっこいしょー、っと加持が腰を上げる。

「腹減ったなあ」
「あ、そういやもうじきお昼っスねえ。ここで喰ってきます?」
「いや」

高い採光の天井から、受付の角から、ホールの隅から。加持を見つめる無機質な視線。

「ここは正直、居心地悪い」

監視カメラのレンズが一斉に動き出すのを感じ、加持が呟く。

「出ようぜ」

お前も、お前等も、あれを見たのか?

「あい、んじゃ戻りますか」

歩き出す加持の後ろからスタスタと駆け寄るアオバ。

「センパイ」
「ん? 」
「結局、あの子は何だったんですか」
「碇シンジ君、さ」
「でも名前は」
「なってしまったんだ」
「へ?」

あの子はいくつかの条件が重なってしまったが為に、そうなってしまった。
いや、その表現は適切では無い。正確には、そう仕立て上げられてしまった。
彼は、作られたのだ。

「主人公の碇シンジに、な」

そして差し出された、贄として。

「あ、雨ッスねえ」

中央玄関で足を止めたアオバがつぶやく。
急に泣き出した空からぱらぱらと降りてくる滴。

「今日、晴れじゃなかったっけか」
「当てになりませんねえ」

と答えるアオバの手に、いつのまにかの赤い傘ひとつ。

「おめえ、いつの間に」
「へへへー」

ぽん、と赤い花が咲く。

「あいあい傘っスよ、センパイ」

にぱっ、と顔にソバカスと笑みを浮かべて傘を差し出す女。
それを見て、男は思う。

「お、おう」



一瞬、ほんの一瞬だけ。
きゅん、となった自分を殴りてえなあ、くそ。














廃屋のトタン屋根にカン、カンと音が響きだす。
雨だ、また降って来た、と少年は思う。
峠の入り口、あの赤い水溜りは、もう流れてしまったのだろうか。

「大人になって、何をするの?」

湿った声でミサトが問う。

「今度は、愛するの?」

あの娘たちを、あの女たちを、愛しい彼の帰りを待つ下僕達を。

「人形じゃないか」

思った通りに笑い、望んだ通りに涙を流す、忠実なヒトガタ達。

「だから僕は」

シンジが静かに目を閉じる。

「糸を切って来たよ」

その瞬間、ドン! と巨大な地響きを立て崩れ落ちる廃屋。

「ミサトさん、貴方をコンヴィクトから解放したのはね」

轟音と土煙の上に降り注ぐ雨。

「ここに封じ込める為なんだ」

雨の中、中空に佇む少年。

「この場所は、僕が持てる限りの力を込めて完成させた」

現世と幽世の境目、互いが交じり合い打ち消し拮抗する場所。

「だから少し弱くなっちゃったけどね」

彼女をコキュートス中枢に隠したまま、極秘裏に編んだ結界。

「でも大丈夫」

その力は既に無い。

「なんでこんな簡単な事、思い浮かばなかったんだろう」

光り輝く剣も、巨人を切り裂く刃も、防ぐ盾も、これで終わり。

「貴女を殺せる訳が無い、殺しきれる訳が無い」

でももう、そんなものは必要ない。

「ならば、喰えばいい」

そう、何故気付かなかったんだろう。

「その為に僕は」

一番身近に居たじゃないか。

「糸を切ったんだ」

餌が。

「シンちゃん、あなた」
「うん、やっちゃった」

シンジ、あんた何を――――赤い少女の叫び。

「藤木さんにだけは生きていて欲しかった」

碇くん、そんな何故――――青い少女の嗚咽。

「僕を、殺して欲しかった」

碇司令、止めて下さ――――言い切る事無く途切れた絶叫。

「でも、もう駄目だ」

中空に浮かぶ少年が手を開くと同時に地面に現れた薄い闇。
ぞわぞわ、と出来立ての黒が蠢く。声がする、囁く声がする。
声がする、懐かしい声がする、大好きだった声がする。その声が大きく沸き立つ。

「“最後に”殺してしまった」

しんじ、いかりくん、あんたなぜ、どうして、しんじていたのに、あいしていたのに
うらぎったな、ひどい、ひどすぎる、うらぎりもの、おまえをゆるさない、ぜったいゆるさない
しね、しね、おまえなんかしね、しんじゃえ、しんじ、しね、しんじまえ

「もう誰も止められない、僕は二度と戻れない」

少年の両目から光が消える。

「そう、あなたは」

シンジの瞳が黒く染まる。

「うん、そうなんだ」

何も映さない漆黒へ、ほんとうの黒へ。

「僕はね、ミサトさん。あなたと同じものになったよ」

悲しみも憎しみも涙も殺意も全部たいらげた。

「さあ、喰おう、食い合おうミサトさん」

あとは、あんただけだ。

「最後に残るのは、僕だ」









あはっ。









「何が可笑しい」

あはは、あははは、と女が笑う。

「何が可笑しいんだよ!」

あははははははは、と高らかにミサトが哂う。

「シンちゃん」

とろん、と蕩けた瞳で。

「シンジ」

にい、と潤んだくちびるで

「碇シンジ君」

はあっ、と湿った吐息で。

「それは無理なの」

女が、ミサトが、少年に、碇シンジに宣告する。
その刹那、地面が沸き立つ、黒く黒く煮えたぎる。

来たな、さあ来い。

シンジがそれを喰らおうと大きく腕を広げ力を伸ばす。
伸ばして伸ばして、その姿さえ崩し新なる化物へと変化しようとした瞬間。


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「ひいッ!」


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地面が、草が、木々が、峰が、山が、彼方の街が黒い濁流となって押し寄せる。


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そして、ああ見るがいい。遠く山並から、地平線の向こうから、水平線の彼方から。


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立ち上がる数多(メンゲ)。巨大な黒き蛇の群れが空を呑み込み膨れ上がる。


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なんで、なんでなんだよ、と薄れ行く意識の中シンジは自問する。
ここは僕の場所じゃないのか、ここは僕が創った世界じゃないのか、と。


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目が覚めれば病室で、そこに藤木さんが。ああ、そうだ叔父さん、お父さんって呼びたかったひと。
手を伸ばせばほら、叔父さんが、お父さんが僕をここから。


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違う、ここは、ここは僕の中じゃな、い、ちが、う、こ、こ、は、ちが


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やがて黒は、その羽を閉じるように一つの形に収束する。その姿はまるで、黒き月。


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「あなた、もう戻れないって言ったわね」


その位の悲しみ、その程度の憎悪、それっぽっちの涙、だから何?


「わたしもう、おかしくておかしくて」


それで世界が喰えるとでも? もう可笑しくて可愛くて。


「戻れない? ううん、違うの」


戻って来たのよ、あなたは。


「さあ」


おいで。


「私に還りなさい」















ごちそうさま。














おねえさんといっしょう
第三話/ワールドイズユアーズ/後編/了


Can you follow?
Really?

All right.

Here We Go.






To be continued...
(2008.11.08 初版)


作者(グフ様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで