「シンジぃ〜〜」
「レイは甘えん坊だね〜」
「えへっ」
膝の上で丸くなるレイの頭を撫でながら、ゆっくりと過ぎる時間・・・
レイは感情を出すのが下手であるが、ないわけではない。
積もりに積もった感情は、時々、こんな形で現れるのだ。
「ねえ?ギュッとして」
シンジに乗りかかり、だっこを要求する。
「いいよ。」
シンジもそんなレイのわがままを嫌な顔、ひとつせず、聞く。
「あっ・・・」
心地よすぎる感覚に声が漏れる。
ちょっと淫靡な雰囲気もかもしだされる午後のひと時。
レイは思う。
こんな時間がずっと続けばいいのにと・・・
しかし、長くは続かないだろうとも分かっている。もうすぐ、あいつが帰ってくるから。
でも、それはそれでいいと思っている。
シンジは1人きりなんだし、
「分け合えばいいだけだもの・・・」
「んっ?なんかいった?」
どうやら、声に出ていたらしい・・・
顔を真っ赤にし、シンジに強く抱きつく。
この幸せがいつまでも続くように・・・強く想いながら・・・・
第五話
presented by hot−snow様
「葛城君、君は自分が何をしたか分かっているのかね?」
重苦しい空気が立ち込める司令室のなか、尋問が始める。
「い、いやっ、それは侵入者だと勘違いし・・・」
「嘘はやめたまえ!!!君がその侵入者を碇シンジだと認識していたということはMAGIの記録に残っているのだ!!!」
ミサトが言い訳を言い終わる前に冬月の怒鳴り声が響く。
「冬月・・・」
「すまない」
ゲンドウが声をかける。あまりにも、珍しいことに、冬月は思わず謝る。
「葛城君」
「は、はいっ!!」
虚をついたゲンドウの呼びかけに、声がうわずるミサト。
「君はシンジが憎いか?」
「はい?」
「憎いか?と聞いている」
「碇、お前何を言っているのだ?」
混乱する二人。しかし、ゲンドウはいつものポーズを崩さずに質問を続ける。
「私はシンジが憎いか?と聞いたのだ。早く答えたまえ」
さっきまでの状況とは一変して、静寂に包まれる司令室。
「はい。憎いです。私の命令に従わずに使徒を倒せる訳がありません。それなのに、命令に従わないということは、ただ使徒に殺されに行くようなものです。そればかしか、陣形を崩し、他のチルドレンに、いやっ、世界に迷惑をかける恐れがあります。そんな害をもった少年を私に好意は向けることができません。」
得意満面に語るミサトにゲンドウは、バカにしたような微笑を浮かべ、口を開いた。
「シンジは過去に、1人きりで15体の使徒を葬り去っている。この数字は我々、日本支部の一年間の使徒撃退数に遜色をとらないものだ。それでも、君はシンジは死にに行くようなものと考えれるのか?」
「はい。偶然か、何者かの優秀な私に対する罠でしょう。」
「ふ〜」
ゲンドウの顔に諦めの色が浮かぶ。今すぐにでも、首にしたいところだが、それも、3年前の事実をミサトが、バカ無精ひげのせいで、大体、掴んでしまっているためにできない。じゃあ、殺せば?とも考えたが、元愛人の赤城リツコと手を組んでいるらしく、うかつに、それもできない。まさに打つ手なしである。
「じゃあ、君は今回の事件の責任はどこにあると?」
困っているゲンドウに、見かねて、助け舟を出す冬月。
その顔には「葛城君、君はバカぁ〜だな〜と書いてある」
「それは、もちろん、侵入してきたシンジ君にあるでしょう。話には彼が来るとは聞いていましたが、迎えは日向君に頼んだのに、彼を同行せずに発令所に現れたのですから、敵とみなされても仕方ないんじゃないですか?」
「日向君に?」
「はい。そうです」
自信満々にいうミサト。
本来は自分が行く予定だったのだが、忘れていた。
そして、事件が起きてしまった為、リツコに頼み込んで、証拠はつくってきたのだ。
また、ミサトの犠牲者増加である。
「冬月・・・」
「ああ。分かっている。」
冬月は内線をとり、どこかにかけはじめる。
「じゃあ、葛城君、下がってくれ。後はこちらで調べる」
「はっ!!!」
いかにも軍人のような声をあげ、出て行くミサト。もちろん、カヲルにやられた足は引きずりながらではあるが・・・
「ああ、分かった。それは間違いないんだな?いやっ、なんでもない。すまんが、日向君を司令室まで呼んでくれ」
やれやれといわんばかりに、首をふる冬月。
「葛城一尉が、日向君に頼んだという証拠が見つかったそうだ。どうする?」
「ああ。どうせ赤木君がつくったものだろう。彼を処分しても、意味がない」
「しかし、発令所が半壊し、それを国連に知られたからには、誰かが責任を取らないと、周りが納得しないぞ」
「問題ない。ちゃんと葛城君にとってもらう。」
「いやっ、葛城君は証拠が・・・」
何かを言いかけた冬月の前に、一枚の紙が出される。
「これは・・・」
「そうだ。使徒の目撃情報だよ。まだ死傷者も出ていない。たぶん、サキエルタイプだが、ニュータイプと見てよさそうだ」
「ああ、それは分かっている。これでどうやって?」
その言葉を聞き、ニヤリと微笑むゲンドウ。
「おそらく葛城君率いるチルドレンでは勝てない敵だ。それは、利用して、責任を取らせる。前回も負けているし、2回連続の失敗となっては、さすがの赤木君も庇いきれないだろう。減俸と降格といったところだ」
「ミスにミスを重ねても、減俸と降格だけか・・・しかも、我々の立場も悪くなるな」
「それは大丈夫だ」
「なぜだ?」
「シンジたちにも同行させる。シンジなら相手にもならん敵だ。」
「なるほど。」
暗い部屋で暗い話。では、早速連絡だと決まり、シンジ直通の携帯へ連絡をとる。
その直前のゲンドウの赤い顔にいやな予感を覚える冬月・・・やっぱり、私がと言おうとしたとき、電話が繋がる。
「シンジか?話したいことがある。」
その内容にただの勘ぐりが過ぎたことが分かり、ほっとする冬月。しかし、
「私のことはこれからはパパと呼んでくれ。」
その言葉に乾いたのどを潤すために含んだお茶を噴出す。
電話が切られる音が室内には響き。
そこに残ったのは、お茶が気管に入り、苦しむおじいさんと、真っ白に燃え尽きるおじさんだけだった。
「まったく、何を考えているんだよ。」
「どうしたんだい。シンジ君?」
いつもとは違うシンジの様子に、カヲルは声をかける。
「いやっ、髭がわけのわからないことを言い出しただけだよ。全く、あのおっさんは!!!」
シンジにしては珍しく、荒れている。
その様子を微笑みを浮かべながら、見守るカヲル。
「なに、カヲル君も微笑んでいるのさ?」
またまたムッとするシンジ
「いやいや、こんなに感情を表してくれるシンジ君が嬉しいと思ってね」
「なにそれ?」
「最初に比べれば、演じている感情が減ってきたって事さ。シンジ君は今、素の反応をしてるじゃないか。」
「そういえば?」
サードインパクトがおきた時、依り代だったシンジはすべての人の汚い感情が流れ込み、自分を失ってしまった。
そして、どうしていいのか分からなくなったシンジは、自分自身が望んでいたシンジを演じていたのだ。
「う〜ん、確かに言われてみれば、そうだね。慣れもあるだろうけど、あんまり、考えずに物事をこなせるようにはなってきたよ。」
「うん。いい傾向だと思うよ。ところで、レイはどこにいったんだい?姿が見えないけど」
「ああ。レイなら、緊急会議に行ったよ。なんか、使徒が見つかったらしくてさ」
「使徒?」
「うん。使徒」
聞き返すカヲルに、満面の笑みで返すシンジ。思考回路が見えない。
「それは、僕等も行かないと行けないのかな?」
「だろうね。バックアップだろうけどさ。」
「バックアップ?ああ。なるほど」
1人納得するカヲル。
「あのホルスタインが指揮権を譲るはずがないもんね。しかも、あのニュータイプには、絶対に敵わないのに、ご苦労なこった」
おもしろそうにケタケタと笑うシンジ。
その様子に裏があることが分かる。
「シンジ君。何かしているのかい?」
「うん。もちろん♪実はあれ使徒じゃないんだよね」
「・・・どういうことだい?」
言葉の意味がさっぱり分からない。
「あれ、ゼーレから持ち出した研究用なんだ♪」
「ええっ〜〜〜〜!!!」
あまりのことにびっくりし、大声を上げる。
「何か暇そうだったし、外に行きたいって言うから、連れてきて、そのまま忘れてたよ」
平然とそんなことをいうシンジ。これが、シンジではなかったら、大問題に発展しているだろう。(既に大問題になっているけど)
「まさか、レイが会議に行くことになったのは、そのせい?」
「ううん。なんか、他の班のリーダーともめたらしくてさ。殺してくるって。」
その言葉に1人、納得した顔をするカヲル。
(ああ。たぶん、他の班に今回のシンジ君の行動で何か言われたんだろうな。)
心の中で呟く。
「まあ、なんとかなるよ。ゴルバチョフも僕には忠誠を誓ってるし、今更、回収もできないしね。
いざとなったら、目撃者になるだろうチルドレン全員には、死んでもらえばいいんだし♪」
板チョコを口にほおばりながら、恐いことを言うシンジ。
「まっ、そうだね」
カヲルもそれに賛同の意を示す。
再び、穏やかな時間が流れ出すリビング。
段々と不透明になりつつある、未来にカヲルは楽しみを隠せない。
今、分かっていること、それは・・・ゴルバチョフ=研究用使徒だということくらいであった。
To be continued...
(ながちゃん@管理人のコメント)
hot−snow様より「それぞれの天気」の第五話を頂きました。
いやー、ミサトがふてぶてしいですね。甚振り甲斐がありそうです。
まさかリツコを抱き込んで冤罪をでっち上げるとは・・・なかなか悪知恵が働くようです。
ゲンドウは何か、子煩悩になってますね。このお話では善玉なのでしょうか?
しかし、なかなか面白い展開になってきました♪
次回、ゴルバチョフ君の活躍(?)に期待しましょう!
さあ皆さん、作者様に感想メールを書いて、次作を催促しましょう!!
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