「ねえ、シンジ君・・・ゴルバチョフって、何体いるんだい?」

つい先日、シンジから真実を知らされ、驚いたカヲルであったが、

レイが帰って来てから、この問題を話し合い、まず様子を見に行こうということになった。

「えーと、確か1体だと思ったんだけどな〜」

そして、NERVが動き出す前にと慌てて、来た3人の前に広がっていた光景。

それは、見渡す限りのゴルバチョフ、ゴルバチョフ、ゴルバチョフ・・・

「これは、さすがにまずいわね。かわいらしさが足りないわ」

「うん。確かに」

これを見て、ゴルバチョフ村のかわいらしさを議論している二人はほっといて、

自称、良識派を名乗るカヲルは、現状を把握しようとする。

「え〜と、シンジ君が連れてきたのは、1体だけだよね?」

「うん。そうだよ〜」

何を今更と想いながらシンジは答える。

「じゃあ、なんでこんなに増えているんだい?これは明らかに100体以上いるじゃないか?!」

半ば半狂乱になっているのだろうか?髪をぐしゃぐしゃにしながら、叫ぶ。

「ちょっと、待っててね〜。聞いてくるよ」

そんなカヲルに少し引いたのか、シンジは慌てて、オリジナルに事情を聞きに行った。

「なに、そんなに取り乱してるの?」

「なぜ、君はそんなに冷静なんだい?」

レイの質問に、質問で返すカヲル。どうやら、本当に余裕がないらしい。

「そんなの決まっているわ。これはシンジがした事なのよ。それなのに、あなたはなぜ慌てるの?」

「シンジ君がしたことだから、慌ててるんじゃないか。他の誰かがした事だったら、何も考えずに、全部、消しているよ」

「だったら、何も悩む必要はないわ。シンジのしたいようにやらせましょう。何か言ってくる人がいたら、殺せばいいわ。」

「・・・・そうだね。何にせよ僕らが大切なのは、シンジ君なのだから。」

二人とも、何はともわれシンジを一番に思う同士。話し合えば、理解しあえる。

そんな、二人の想い人は、ものすごい笑顔を浮かべながら、ゴルバチョフ村長を振り回し、はしゃいでいた・・・










それぞれの天気

第六話

presented by hot−snow様











「以上が今作戦の内容です。分かった!?」

無意味に広い会議室の中、葛城ミサト以下、チルドレン一行は、作戦会議を行っていた。

「大体は分かったわ。とりあえず、バカシンジより先に、使徒をぶっ殺せばいいのね?」

「そう。その通りよ。あんな餓鬼に手柄を横取りされて、たまりますか!!!」

日本の安全の維持を任された機関とは思えない言葉が飛び交う。

その光景をケンスケは冷めた目で見つめていた。

(やっぱり、間違っているのはNERVだな〜。こいつら、ちゃんと考えて、モノいってるのかな〜?)

つい先日、生まれた疑問は、もう無視できないほどまでに広がっていた。

(こりゃ、司令に言って、シンジのチームに入れてもらったほうが、悩まずにすむな)

自分の中でひとまず答えが出る。

いくら、環境適応能力が高いからって、こんなところにいるのは、堪えられない。

しかし、昔から親友だったトウジを置いていくのには、抵抗を感じる。

こんなとこにいたら、間違いなく葛城ミサトに殺される。

最近、気づいたのだが、あの女は能力が極端に低い。非人道的でもあるし、駄目な人間なのだ。

手柄を取れるためなら、俺達を、切るだろう。

こんな事、すぐ気づきそうなものなのに、なぜみんな気づかないのか?!!

そう思い、昨日、みんなに聞いてみたのだ。

(なあ、みんな、先日の戦いで、ミサトさんが逃げたことについて、どう思う?)

(はぁ?まだ、そないな事いっとんのか!!おのれは!!根性、くさっとるのぉ〜)

(しょうがないんじゃない?ミサトはそういう人間よ。期待するだけ無駄ね)

他のみんなは黙っているだけ。だが、アスカの言い分にはびっくりした。

信じていないのだ。しかし、シンジのことを相当、憎んでるようだが。

まっ、葛城ミサトを盲信的に信じているのは、トウジだけか〜。

女子メンバーは恐くて、従っているだけだし。

能力ナンバー1の洞木さんに限っては、トウジがいる限り、抜けないだろうし、もう、俺にはどうすることもできないな。

「相田君、聞いているの!!!?」

「は、はいっ」

「全く、しっかりしてよね〜!!私の言葉を無視するなんて、死刑に近いわよ」

「すいませんでした」

会議中にボーとするのは、危ないな〜。冷や汗を浮かべるケンスケ。

チルドレン結成当初、会議を聞いてなくて、ミサトに意見を言った者が、会議室から、つまみ出され、

二度と帰ってこなかった事件があったのだ。

「こんなこと、二度とよしてよね〜」

「はい」

とりあえず、時がくるまでは、従っているフリはしとかないと・・・

「じゃあ、出発は明朝8時!!ワープで移動して、行きます。」

「「「「「はいっ」」」」」」

元気な声が響く。

(シンジが動くのを待つしかないな・・・)


ケンスケはそこで考えを、打ち切った。










「なぁ〜んだ。そういうことだったんだ。」

ゴルバチョフと、見つめ合っていたシンジが突然、声を上げる。

そんなシンジにゴルバチョフも安心したのか、肩を叩き、胸を撫で下ろす仕草をしたように、感じるような行動をとった。

「レイ、今、通信の合図は感じ取ったかい?」

不思議な光景を目の前にし、カヲルはレイにたずねる。

しかし、レイは首を横に振るばかり・・・

「いいえ。何も感じなかったわ。」

「僕もだよ。この調子じゃ、他の使徒とも、シンジ君なら交信できそうな気がするよ」

彼らにとっては、非現実らしい・・・

「あははは。そんな機能がついているからって、ゴルバチョフも頑張りすぎだぞ〜」

「ふぁふぁふぁふぁふぁ」

バルタン星人のような声を上げ、照れるゴルバチョフ。

「使徒って喋れるのね。うふふふふふ。おもしろいこというわ」

「レイ、君まで分かるのかい・・・・」

ただでさえ頭がパンク状態なのに、レイまで会話を理解し始める状況に、段々とついていけなくなるカヲル。

「ふぁ〜ふぁふぁ〜ふぁふぁ」

「なになに?この一週間で5キロもやつれたって〜。しばらく、見ないうちにおもしろくなったな〜お前〜」

「ふふふ。ゴルちゃんは、家のできそこない使徒とは違って、おもしろいのね」

非常にアットホームな空気が流れる。

「ふぁふぁっふぁふぁ」

「お疲れでしょう、我が村でくつろいで下さいって〜。どうする?レイ?」

「お言葉に甘えさせてもらうわ。今日はとことんお笑いについて、語るわよ」

意気投合し、どこからか現れたチビゴルバチョフに連れられて、村の奥に消えていく二人。

会話についていけず、その場に残されたカヲルは、ぶつぶつ何かを呟きながら、うなだれる。

そんなカヲルに気づいたのか?ゴルバチョフはカヲルの肩を叩き、

「ふぁふぁ」(元気出せよ。なっ?駄目使徒)

と全く慰めにならない声をかけた。










「全くシンジ君も、洒落にならない仕事を頼む・・・」

くたびれたシャツに身を包み、ネクタイもだれている。

顔には無精ひげが生え、くわえタバコをしながら、暗い部屋の中、唯一、光るパソコンの液晶画面と向かい合っていた。

「かちっ、かちっ・・・・」

キーボードをひたすら叩く音だけが、部屋に響く。

そんな部屋に、廊下を走る足音が加わる。

「加持さ〜ん、コーヒーいかがっすか〜?」

力いっぱいタックルをうけた扉は、勢いよく開き、暗闇に支配されていた部屋に光がもたらされた。

「んっ?ノゾミか?なんの用だ?」

「だから!!コーヒーよ。コーヒー!!加持さんがその仕事終わらせないと、シンジさんのチームに加われないじゃないの!!」

加持は突然の訪問者にも驚いたりせずに、ゆっくりと振り向いた。

「まあ、大体、終わったよ。これを国連に提出して、終わりだ」

「わぁ〜本当だ〜」

いろんな文字とグラフが羅列されたパソコンの画面を瞳を輝かして、見つめるノゾミ。

「かつて愛していた女を酷評するのは、俺の道には背くが、雇い主の命令だし、仕方がないか」

タバコを深く、吸い込み、ふ〜と吐き出しながら、言葉を押し出す。

その様子にノゾミは深くため息をつきながら、

「加持さんも趣味悪いよね〜。あんな女が好きなんて!!私の能力が分かったとき、あの女ったら、私を拉致しようとしたのよ!!

人類のためにとか、いろんな事言ってたけど、適当に流してたら、最後には、なんて言ったと思う?」

「・・・大体、想像はつくよ。葛城のことだ、私の言うこと聞いていればいいのよ!!とかだろ?」

「ご名答。それでも、従わなかったら、攻撃してきたんだから!!全くどうにかしてるわよ!!

お姉ちゃんもあんな女の下に付くなんて、いくら男のためだといえ、頭おかしくなっちゃったのかな?」

加持に持ってきたコーヒーを、飲みながら、ノゾミは深くため息をついた。

そんなノゾミの様子に、いささか、困った様子を見せながら、テーブル上から、紙を一枚手に取る。

「まあ、そう言うなって。これ見てみろ?」

ノゾミは怪訝な表情を表しながら、紙面に目を走らす。

「何これ?使徒の目撃情報じゃない?しかも、日本?!ニュータイプじゃない?」

「そおいうこと。葛城率いるチルドレンたちでは、相手にもならないよ。」

「でしょうね。魂が汚すぎるわ。で?これが、なんの関係があるのよ?」

はっきりとモノをいわない加持にいらいらが募る。

「まあ、アイツのことだ。この戦いには敗れるだろ。そして、この資料公開。もしかしたら、ノゾミと俺の着任時期も早まるぞ」

「・・・なるほど〜。それは、非常に嬉しき事態ね〜」

まだ余り理解できない。が、バカにされたくなくて、理解したフリをする。

「おいおい?本当に理解しているのか?」

「う、うるさいわね。とにかく、チャッチャと資料公開しちゃってよ。それじゃね〜バァ〜イ♪」

逃げるように、走り去るノゾミ。

そんな、ノゾミの後ろ姿を眺めながら、苦笑を浮かべる加持。

「やれやれ、止まってた時間が一気に動き出したな。それじゃあ、偉大なる雇い主と、ヤンチャ娘のためにも、もう一頑張りするか?」

ぐ〜と伸びをし、部屋へと戻っていく。

「カチッ、カチッ」

再び、部屋にはキーボードの音だけが響くようになり、元に戻っていく空間。



その同時刻、ゴルバチョフ村では・・・・・


偉大な雇い主を観客に、カヲルの命をかけた、ゴルバチョフの胴体切り離しマジックが行われていた・・・










To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

hot−snow様より「それぞれの天気」の第六話を頂きました。
ゴルバチョフの活躍は次週(?)持ち越しですか。
しかしこのネーミング・・・この後、チェルネンコやアンドロポフとかも登場するのかな?(笑)
ミサトは周りから見放されていますね。心酔してるのはトウジだけのようだし・・・彼は地獄行き決定か?
おサルさんはシンジ憎しで今の立場に甘んじているようだし、コレも痛い目を見そうな予感(笑)。
ケンスケは見限る寸前だし、加持も何とも思っていないようだし、憐れミサト、四面楚歌・・・。
あとは、リツコがどの程度、彼女を庇うのかどうか・・・。
カヲル君なんて、なんかお笑い担当っぽくなっているし・・・。クールな君はどこに行った?(笑)
さあ皆さん、作者様に感想メールを書いて、次作を催促しましょう!!
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