「じゃあ、静観するというの?」
「うん。駄目かな?」
誰もが寝静まっているだろう深夜・・・村の隅で星を見ながら、話し合う二人。
「駄目ではないけど、なぜ?ゴルバチョフが大事なら、あんな連中、殺してもいいんじゃないの?」
「ふふっ。レイは単純だね」
「どういうこと?」
予想もしなかった答えに思わず詰め寄るレイ。
「ただのペットだよ。しかも、もう義理は果たしたはずだ。別にいなくなっていいものを、なぜ、守らなければならない?」
そんなレイに、シンジは微笑を浮かべながら、おもしろそうに答える。
その答えに明らかにレイの周りの空気が冷たくなった。
「シンジ・・・お姉ちゃんからの命令よ。今の言葉を取り消しなさい」
「命令?」
「そう、命令。」
一気に険悪になる二人の空気・・・でも、シンジは微笑を崩さない。
「あはは。レイはゴルバチョフが気に入ったようだね。」
「ええ。」
「だったら、上げるよ。」
「ゴルバチョフはモノではないわ。」
「いいや。モノだよ」
あくまでも、レイの言葉を否定するシンジ。
そんな態度に腹が立ってきたのか?
レイははき捨てるように言った。
「偉くなったものね。シンジ。」
「はっ?」
表情が一瞬、強張るシンジ。しかし、レイはそれに気づかないのか?言葉を続けた。
「王様のつもりなの?まるで、あなたはあの頃の碇 ゲンド・・・」
レイの言葉が言い終わらないうちに、目の前のシンジが消える。そして、
「殺すよ?」
底冷えがするような冷たさがレイの体を突き抜けた。
何かを言いかけたレイの首元に、冷たい刃物が押し付けられる。
ダイヤモンドで作られ、シンジの結界で、コーティングされたソレは、何者も切り裂く能力を持っている。
「僕にはモノでしか、ないんだ。分からないのかい?レイ。」
「・・・・ごめんなさい。そんなつもりはなかったの・・・・」
余りにも楽しかった時間に、大事な事を見失っていたレイ。
その代償が今の状況である。
何より大事なものは、シンジだったのだ。
「謝らなくていい。僕が君じゃないように、君は僕ではない。結局、違った個体・・・他人だ。」
「ごめんなさい。許して」
必死に許しを請うレイ。いつもはヒョウヒョウとしたシンジの雰囲気が、あの頃のように変わってしまっている。
それに、なぜ気づかなかったのであろうか?
(まずった)
心の中で後悔する。
「そんなにゴルバチョフが大事なら、君でどうにかするといい。僕は関与しないからね」
そういい残すと、姿が見えなくなる。
「まって!!!!」
慌てて、声をかけるが、目の前には暗闇が存在するばかり・・・
「レイ・・・君はバカか?」
打ちひしがれるレイに、後ろから声がかけられる。
キッと振り向くレイ。
そこには、いつもは茶色い瞳が真っ赤に変色したカヲルがいた。
「シンジ君が一番ではなかったのかい?」
「・・・ごめんなさい。雰囲気に呑まれたわ」
「言い訳は聞いていないよ。とにかく、この問題には僕は関与しない。これ以上、シンジ君の機嫌を損ねたくないからね。レイ、君1人でなんとかすればいい。」
胴体切り離しマジックで負った傷であろうか?
首と腰に、横に伸びる赤い線をつけたまま、カヲルは暗闇へと消えていった。
「・・・分かっているわ。そんなこと」
白い息とともに吐き出されたその言葉は、寂しく空間へと溶けていった・・・・
第七話
presented by hot−snow様
「ねえ?ミサト!!本当にここでいいの?何もないじゃない!!!」
九州の森の中・・・大声で叫ぶアスカ。
「おっかしいわね〜。リツコの話では、この辺のはずなんだけど・・・」
妙に歯切れの悪い言葉にチルドレン達は、一名を除いて、不安を覚える。
「じゃかましい!!惣流!!ミサトさんがココやいうてるんや。黙ってあるかんかい?!」
「なんですってぇぇっぇ〜!!このジャージが!もう1時間以上歩いているのよ。文句も言いたくなるわよ」
「まあ、アスカも鈴原も落ち着いて。マユミさん、何か感じ取れない?」
喧嘩になりそうな二人をなだめるヒカリ。
「あっ、は、はいっ。たぶん、もうすぐだと思います。自然のものではない波動がしますから」
いきなりふられたマユミはどもりながらではあるが、慌てて、言葉を紡いだ。
「よっしゃ〜。やっぱり、私が正しかったのよ。」
その言葉に有頂天になるミサト。本当に調子がいい女だ。
そんな様子に、苦笑いを浮かべるケンスケ。
(おいおい。この場所って、最初についた場所と、すごく近いじゃないか・・・)
最初にワープによって、ついたとき、波動を感じることができるマユミが、近くですといったのにも関わらず、
人の手柄を快く思わないミサトが、「嘘おっしゃい。私には何も感じないわよ。こっちよ!こっち!」
と強引に進路転換させたのだ。
(本当に、大丈夫なのかね〜?)
そんな行動がまたケンスケの不安を増長させる。
「それじゃあ、みんな、作戦通り動いてね。」
「作戦?」
ミサトの言葉を聞き返すアスカ。
「作戦よ。作戦♪昨日、たてたでしょ?」
「昨日?ミサト、お酒が飲みたいって言って、会議の途中で抜けたじゃない!!覚えてないの?」
その言葉にビクッとなるミサト。
「どうやら、忘れていたみたいね。今日だって、遅刻してくるし、勘弁してよね」
「う、うるさいはねっ。そんなこと言うと、アスカ、あなたをこの作戦からはずすわよ」
都合が悪くなったのか?権力を利用して、アスカを脅迫しだすミサト。
そんな、ふざけた案に・・・
「それは、ええ事ですわ。」
賛同するトウジ。
「ふざけないでよね。切りこみ隊長の私を外して、どうやってフォーメーション組むって言うのよ?頭おかしいんじゃないの?」
「思い上がるのもいい加減にしなさい。アスカ!!私とは違って、あなたには代わりはいるのよ。そのことを忘れないで!!」
本来は全くの逆なのだが、本人は正しいと思っているのであろう・・・自信満々に言い切る。
「はんっ?わかったわよ。じゃあ、わたし抜きでやってみたら?」
「上等じゃあ!!ミサトさん、この生意気の女なんかいなくとも、ワシらだけでもなんとかします!!」
無謀なことを言い出すトウジ。
「偉い!!できるわね?」
「任せてください」
勝手に盛り上がる二人。さっきから、マユミが何かをいっているが、聞いちゃいない・・・
「じゃあ、任した。あのバカ娘なんて、ほっといて、いきましょう♪」
「危ない!!!」
意気揚々と足を踏み出したミサトを掠め、後ろの木に突き刺さるナイフ。
マユミの声がナイフよりか、一瞬はやく、ミサトの耳に届き、かろうじて、かわす。
「ひっ!!!」
だが、恐怖のあまり、腰を抜かすミサト。
「使徒?!」
冷静に腰を屈め、気配を断つ、トウジ以外のチルドレン。
「いえっ。違います。これは、人間です」
使徒だと疑うアスカに、マユミが答える。
「人間?どういうこと?」
「私にも分かりません。でも、この波動は使徒ではありません。まあ、すぐ近くに多くの使徒の波動もしますが・・・」
歯切れの悪いマユミ。今までにない事態に戸惑っているようだ。
「ということは、その人間は使徒と意思疎通ができていると見て、いいっていうこと?」
ヒカリが慌てて、声を出す。
「たぶん、そう見ていいと思います。でなければ、戦闘になっているはずですから・・・」
冷静に状況を理解していくチルドレン達。そんな時、
般若の顔をしながら、迫り来る一つの影。
「んっ?ミサト?無事でよかったわね。マユミに感謝でもいっときなさいよ」
「いいえ。私は・・・」
「がすっ」
言葉を言い終わる前に、殴られ、吹き飛ばされるマユミ。
「なに!!!?しているのよ?」
思わず叫ぶアスカに目もくれず、転がったマユミに上から見下ろし怒鳴る。
「あんたが役立たずのせいで、私が危なかったでしょ!!私みたいな優秀な指揮官がいなくなったら、どれだけ、世界が被害をこうむると思っているの??!!死ぬならアンタが死ねばいいでしょ!!」
自分から足を踏み出し、マユミの忠告を聞かなかったばかりか、助けられたのにも関わらず、殴り、なじるミサト。
「す、すいません」
なみだ目になり、赤くはれた頬をさすりながら答えるマユミ。
「なっ、何言っているのよ!!ミサト!!あなた自分が何言っているのか分かってるの!!マユミも謝る必要ないわよ」
「アスカ!!あなた、さっきからこの私になんて口の利き方しているのよ!!もう、あなたなんていらないわ。チルドレンやめなさい」
怒りで頭に血が上っているのか?それとも、元からのことなのか、分からないが、無茶苦茶なことを言い出すミサト。
「なんですって〜。むぐっ」
応戦しようとしたときに、イキナリ口を押さえられるアスカ。
「なにするのよ?!」
「黙って!!」
有無を言わせないヒカリの目に思わず押し黙るアスカ。
「誰かいるわ」
うっそうと生える、木の影から現れた人影・・・
それは、ここにはいないはずの人物・・・手柄を奪うため、司令の命令に背き、つれてこなかった人物。
「うるさいわ。死ぬときくらい静かにしたら?」
なぜか、ものすごい機嫌の悪い綾波 レイであった・・・
なぜ、こんなことになったのであろう?
レイは昨晩からずっと考えていた。
あれから、ずっとシンジに謝罪の通信を送っているのだが、一向に届く気配もない。
いつの間にか、カヲルも消えていたし、取り残された格好となってしまった。
私も、帰りたいとも思ったが、ゴルバチョフ達の村が発見されれば、葛城 ミサト率いるチルドレン達は殺せても、
世界に与える衝撃は計り知れない。
もちろん、自分達の所へも依頼はくるだろうし、例え、断っても、どっかの国のチルドレンがきて、ここを滅ぼすだけ。
どちらにしろゴルバチョフ村は姿を消してしまうのだ。
「そんなことはさせない」
というか、こんなおもしろい村を消されるわけにかいかない。
呟き、硬く心に誓う。早速、村が発見だれないように結界を張った。
シンジに突き放され以上、もう自分がやるしかない。
しかも、ここまで自分の我を通したのだ。途中で、引くこともできなかった。
ひいたら、もっとシンジに怒られそうな気もしたし・・・
しかし、レイの能力では、隠し切ることができないこともわかっていた。
そのためにトラップも作ったし、村長と話し合い、作戦も練った。
とにかく、発見されなければいいのだ。一回も見られなければ、向こうに随時、送られているであろうカメラにも映らない。
それで、チルドレン達がつくであろうという(有力筋情報)の9時には用意を終わらせ、待ち構えた。
が、いつまでたってもミサトたちは現れず、我慢の限界っていうときに、やっと来た。
そこまではよかったのだが、喧嘩を始める始末・・・もう、やっていられない。
こんな連中のせいで、私はシンジと喧嘩をしたのだろうか?
そう考えると無性に腹がたってきた。
「もう、いいや。やっぱり、全部殺そう」
そう考えを変更し、近くに行くが、まだ喧嘩をしている。
もう、こんな事、早く終わらせて、シンジに謝りに行こう。
「うるさいわ。死ぬときくらい、静かにしたら?」
そう言い放ち、後ろから奇襲で、気を失わせるために隠れていた村長と共に、チルドレンたちを異次元空間に放り込んだ。
「ミサトっ?!」
カメラの向こうで、リツコが大声で叫ぶ。
「先輩、なんとか、気配は追えています。けど、早くしないと!!」
「分かっている。早くワープ能力持っている子、集めて!!急いで」
「はいっ!!」
大忙しで、助ける準備を始めるリツコ。
爪を強く噛む。
「レイ・・・許さないわよ。覚えてらっしゃい!!」
そう砂嵐が起こる画面に言うと、部屋を出て行った。
「ふぉふぉふぉふぉふぉ」(誰か〜)
異次元の真ん中で助けを叫んだ村長・・・
しかし、誰にも届くはずもなく、レイが気づくまで異次元を彷徨い続けるのだった・・・
To be continued...
(ながちゃん@管理人のコメント)
hot−snow様より「それぞれの天気」の第七話を頂きました。
いやー、ここのミサトの自己チューぶり、相変わらず凄まじいですな。沸々と殺意を覚えましたよ。
もう要らないです、あんな粗大ゴミ。人類の恥部です。汚点です。蓋を被せて隠したいです。
今回、レイとシンジが喧嘩しちゃうし、いろいろと心配ですな。雨降って地固まってくれれば良いんだけど・・・。
それと、レイお気に入りのゴルバチョフたち、一体どうなるんでしょうかねぇ。
なんか愛嬌のある性格だし、人畜無害そうだから救ってやりたい気もしますが・・・。
(よっぽどミサトのほうが有害だし)
さあ皆さん、作者様に感想メールを書いて、次作を催促しましょう!!
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