「ミサト、何かいいわけがあるかしら?」
ここはリツコの研究室。机を挟んだ二人の目に出されたコーヒーは冷め切っていた。
「ははは。ゴミン」
乾いた笑いが響く。
その様子に呆れたのか、見詰め合っていた目を、先に逸らしたのは、リツコであった。
「な、なによ〜?確かに使徒は倒せなかったけど、それは私のせいじゃないわよ〜」
子供みたいにドモリながら、自分の責任ではないことを必死に訴えるミサト。
そんなミサトをチラッと見て、リツコは静かに告げた。
「あなたの処分が決まったわ。まずは降格、そして、20%の減俸。何か不満でもある?」
「処分〜?!なんで、私が処分なんてくらうのよ!!!その逆はあっても、それだけはあってはならないことよ!!!」
相当、不満があるのだろう。顔を真っ赤にし、リツコに詰め寄る。
「落ち着きなさいミサト。これだけの処分ですんだことに、感謝する義務はあなたにあっても、怒る権利はあなたには、ないわ。」
「どういうこと?」
ミサトには予想していなかった言葉が投げかけられて、声の調子が変わる。
しかし、リツコには分かっていたのか、無言で何十枚にも重ねられたレポートをミサトの前に置く。
「何これ?」
「いいから、読みなさい」
ぶつぶつ不満を言いながら、ページをめくっていく。
(ミサトにはとても受け入れられない内容だろうけど・・・)
リツコは心の中でため息をついた。
その予想はもちろん的中し、部屋の中にミサトの大声が響く。
「何よ!!!これ!!!どうなっているのよ!?」
「事実よ。受け入れなさい」
「事実じゃないわよ。なんで、私の指揮能力が54カ国中52位なのよ。ありえないでしょ!!」
声を大にして叫ぶ。
「ありえなくないわ。これは、正式に国連が発表したものよ。チルドレン能力は3位なんだから、それで満足しなさい。」
「それも不満よ。これの累計ポイントって、ほとんどあの3人のポイントじゃない!!」
さっきから、口に出る言葉は不平、不満ばかり・・・
自分自身を省みることをしないミサトに、リツコは段々と呆れてくる。
「いい加減にしなさい。使徒戦での一方的な敗北、チルドレン管理能力の欠如、責任の転嫁、他にも数え切れない程のミスをあなたはしているわ。庇える範囲を超えてね。」
「な、なによ?いつものリツコなら、しょうがないわねとか言って、どうにかしてくるじゃない?だから、今回もパパっと、お願い」
「私は庇える範囲を超えたといったわよ」
甘やかしすぎたのであろうか?助けを求めることしかできない、ミサトの姿に、そんな考えが浮かぶ。
「そこは、なんとか!!お願い。」
「間違えないで!!あなたとは対等で、私は保護者じゃないの!!お互いの目的が一致していたから、"協力"しただけ!!
それに、今回の件は、資料と重なって、国際的に非難されたのよ!シンジ君達を移籍させようとする動きまであったんだから。
まあ、最終的には国連からの出向人員、こちらの使えないチルドレンの調教係が来ることで落ち着いたけど、大変だったのよ」
「別にいいじゃない。あんなクソ餓鬼いるだけ、邪魔よ!!」
「ミサト、口を慎みなさい。今の言葉を誰かに聞かれたら、あなた消されるわよ。
あなたは価値のない人間だけど、シンジ君は世界的財産なのよ。そこのところをちゃんと理解してから、この部屋にまた来なさい。
少なくとも52位の人が言える言葉じゃないわ。」
どんどん駄目になっていく親友を、リツコは突き放し、部屋を出るように、告げる。
そして、顔を真っ赤にしながら、ズンズンと部屋を出て行くミサト。
「あっ、後一つ言い忘れていたわ。それ書いたの加持君よ。」
部屋を出る間際、発せられた言葉。
しかし、ミサトは聞こえないフリをして、部屋を後にする。
「・・・そろそろ限界ね」
1人きりになった部屋の中、リツコの呟きだけが聞こえた。
第八話
presented by hot−snow様
「ふふふふ〜ん」
・・・・・・・・・
「ふふふふふ〜ん」
・・・・・・・・・・・
奇妙な鼻歌を歌う少年に、それを無視する少女。
そんなことが街中で行われているのだから、当然、行きかう人の注目の的だ。
「はぁ〜、つまんない!つまんない!」
「・・・・・・」
これまた無視される。いきなり、変なことを言い出す少年に集まりだしていた野次馬達も一斉に散りだした。
「なんで、無視するのさ〜?」
「・・・・あなたうるさい」
やっと、喋ったが怒られた少年・・・ほっぺたを膨らまし、すねる表情をする。
その少年の風貌は、背は165cmくらいで、顔は少女のような顔をしている。
男物の服を着ていなかったら、男と分からないだろう。正に美少女といえる。
そんな、少年がすねた表情をすると、100人中100人がかわいいというに違いない。
しかし、少女はそんな少年を、
「この国は本当に騒がしいわね。本当に平均能力世界一なのかしら?」
「かしらね〜?」
と全く意に関しておらず、立ち上がる。
「あなたのような低級者が声をかけるなんて、本当に腹が立ちますわ。消してあげます。」
それまで、如何にもお嬢様という感じの振る舞いをしていた少女だが、雰囲気がいきなりかわり、舌をぺロっと、出し、唇をなめる。
「私の名は、キャメル。アメリカ支部、唯一のSSクラスであり、世界の至宝。そんな私に消されることをありがたく思いなさい。」
すると、その少年のすがたがいきなり歪みだす。
慌てて、遠くのほうから、黒服の男達が走ってくるが、間に合いそうもない。
「やめてください。お嬢様。目撃人が多すぎます!」
「お黙りなさい。スティ。この私を侮辱した罪、その体で味わいなさい。」
空間がいろんな方向へゆがみ続け、そこら中に、聞くに堪えない音が響き続ける。
周りの人や、黒服たちは、顔を嫌悪感に歪めるが、キャメルは狂気に満ちた顔をしている。
「あっはははは。痛い?死にたい?でも、駄目よ。まだ、満足できてないんだもん♪」
「・・・・お嬢様。」
そんな様子をやりきれない顔で見守るスティ・・・
しかし、攻撃され、骨がバキバキいかれているはずの、少年は顔に笑顔を浮かべたまま、キャメルを見つめている。
「くっ、なぜ?あなたはイイ顔を見せてくれないの?もう、いいっ!!死になさい」
広げていた手のひらを、ギュっと握り締めると、歪んでいた空間が圧縮され、「パーン」という大音量が辺りに響き、少年の姿が跡形もなく消えた。
「ふぅ。本当に消化不良だわ。イライラします」
満足できていないのだろう。危ない雰囲気があたりに漂っている。
「お嬢様、落ち着いてください。とにかく、予定を消化しましょう。まずはNERVへ」
「そのNERVからの使者はいつくるのかしら?」
もう20分近く待っているが、来ない。脅かしてやるという意味で、キャロル1人で来たのだが、話しかけてきたといえば、よく分からない餓鬼だけだ。
スティとすれば、こんだけの騒ぎを起こした以上、一刻も早くこの場を離れたかったが、迎えが来ない以上、ここを離れるわけにはいかなかったのだ。
「もう、いいわ。すべて殺していいかしら?」
いらいらした様子が増し、自分たちを見守っていた野次馬に目線を移す。
そんな時、
「あはははは。そんなことしてないで、早くNERVに行こうよ〜」
という声がし、後ろを振り返ると、先程、殺したはずの少年が微笑みを浮かべ、無傷で立っていた。
「う、嘘でしょ・・」
「ま、まさか・・・あなたは・・・あの死神・・・」
絶句する二人をよそに、その少年は、
「NERVよりの使者、碇 シンジといいます。以後、お見知りおきを♪」
と颯爽と挨拶をかました。
「シンジ君はどこにいったんだろうね〜」
「ぷぷっ。あなたも置いていかれたのね。情けないわ」
ここはゴルバチョフ村の一角、シンジに置いていかれたカヲルとレイが寂しげにたたずんでいた。
あの後、すぐにカヲルはシンジを追ったのだが、見失ってしまい、今、さっき帰ってきたのだ。
「NERVも現れないし、ここもどうなるか分からないのに、どうなるんだろう?」
「大丈夫。きっと、シンジがなんとかしてくれるわ。」
「君は喧嘩していただろう?全く、君はどうにかしているよ」
レイの考えにはたまに驚かされる。シンジ君が、君を切らないと、なんで、そんなに盲目的に信じられるのか?
僕には無理だ。
あの頃のような優しさはシンジ君の根底にはもはや、ない。誰一人信頼さえしていないのだから・・・
恐怖すら覚える。
けど、そんなシンジを愛し、着いていこうと決めたあの日から、僕は君なしでは生きていけない。
だから、僕は・・・・
「なんとかなるだろうね」
そんな言葉しか言えなかった。
To be continued...
(ながちゃん@管理人のコメント)
hot−snow様より「それぞれの天気」の第八話を頂きました。
ここにきてオリキャラ登場です。キャメル(キャロル?)という女、なんか高飛車な性格のようですが、これからヒロイン候補となるのか、はたまたシンジのおちょくりの餌食となるただの脇役と成り果てるのか、今後の展開に注目しましょう。
ミサトもリツコに見放されつつあるし、いい気味です。因みにどれくらい降格するんでしょうかね?何とか尉官には留まれるのかな。管理人的にはズドーンと落としちゃってもらいたいですが・・・。
まあ、ここのゲンドウはミサトを排斥したがっているみたいだし、これ幸いとばかりに容赦がないんでしょうね(笑)。
カヲルのシンジに対する態度も何か微妙だし、その辺のシンジを取り巻く背景はまだ謎に包まれているようです。
さあ皆さん、作者様に感想メールを書いて、次作を催促しましょう!!
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