第六話
presented by ジャック様
それは真夜中の突然の襲撃だった。アジトのあちこちで爆発が起こり、警報が鳴り響いた。
『ユグドラシルドックにギア侵入・・・・・・! ゲブラー特務部隊ギア五体、未確認の大型ギア二体と推定されます! 全パイロットはギアハンガーへ!』
「これは一体・・・・」
眠っていた所に突然の警報にフェイは戸惑いつつもユグドラシルへと向かった。
「非戦闘員はユグドラシルに避難するんだ!! 急げッ!」
「わ〜ん、怖いよ〜!!」
ユグドラシルでは船員が女子供を避難させている。フェイは、その様子を呆然と眺めていた。
「フェイ!! 早くヴェルトールにっ!!」
「!?」
そこへシタンが声を張り上げてやって来た。フェイは体をビクつかせ、シタンの方を見る。その目には光が宿っておらず、何の気迫も感じられない。
「若くん達が戦っているのですよ! 貴方は何もしないのですか? 関係ないとでも言うのですか!!」
珍しく感情をぶつけるシタンだったが、フェイが何の反応も示さないので首を横に振るとギアハンガーに降りて行った。
フェイは一人ギュッと拳を握り締めた。
「俺は・・・・・・俺は一体何者なんだ?
あいつは・・・・・あの男は俺のことを“神を滅ぼすもの”と呼んだ・・・。
そんな力、俺はいらない・・・・。
俺の・・・・ちから・・・。
俺の・・・・居場所・・・」
その頃、シンジはバルトと共にシタンより先にギアハンガーに来ていた。
「ふわ〜・・・眠い」
「あのなっ!!」
枕持って欠伸するシンジにバルトは思いっ切りツッコミを入れる。
「冗談ですよ。にしても爆音はともかく天井から音がするのは何故でしょうか?」
「天井?」
そう言われ、バルトは耳を澄ます。すると確かに爆発とは別に天井から奇妙な音が聞こえた。
「わ、若、大変です!!」
そこへ一人の整備員が慌てた様子で駆け寄って来た。
「ち、地上の大型ギアがドリルのようなもので岩盤を掘り進んでいます!」
「何ぃ!?」
「まさか・・・・・・!」
驚くバルトを他所にシンジは急いでエヴァの下へと駆け出した。
「お、おいシンジ!」
「バルトさんは基地の敵をお願いします! 僕は地上を!」
それだけ言ってシンジは走り去って行った。
「ったく・・・何なんだ、アイツ。しょうがねぇ、ブリガンティアで出るぞ!」
シンジの行動は不可解だが、とりあえず敵を殲滅せねばならないのでバルトはブリガンティアに乗り込んだ。
そこへ壁を突き破って一体のギアが入り込んで来た。赤いボディに両手から薄く長い触手のようなものを伸ばしている。
『ほっほ〜う。まだギアが残ってたのか』
すると回線の向こうに若草色の髪を伸ばした陰険そうな男が映った。
「何だ、テメェは!」
『俺はストラッキィ。ゲブラー特殊部隊の一人さ。見たトコ、お前さんが海賊の親玉みたいだな。その首、頂くぜぇ!』
ストラッキィのギア――ソードナイトがブリガンティアに迫ってくる。ソードナイトはその名の通り、攻撃力に特化したギアで並のギアの装甲などアッサリと切り捨てる。
「ざけんな!」
だが、攻撃は単調でバルトは避けると鞭で背中を攻撃した。
『ぐぅっ!』
ストラッキィは衝撃で怯みながらも何とか踏ん張って、ブリガンティアの肩に攻撃した。するとブリガンティアの肩アーマーが縦に切り裂かれた。
「このっ!」
すかさずバルトは鞭をソードナイトの足に巻きつけた。
『何!?』
そして、そのままソードナイトを持ち上げ、吹き飛ばした。
『ぐあああああ!!!』
ソードナイトは壁に叩き付けられ、ストラッキィは悲鳴を上げる。
『く、くそ・・・』
ストラッキィは苦々しそうにすると、已む無くその場から離脱した。
「っくしょうぉ!! 手間ぁ取らせやがってぇ!!」
その頃、シタンはギアハンガーの緑色のギアの下へと来ていた。
「メイソン卿、このギアは動くんですか?」
「は? はい、一応動くことは動きます。ですが・・・・・・」
「よしっ!」
戸惑いながら答えるメイソンを他所にシタンは緑色のギアへと乗り込もうと走り出した。
「いけませんっ! それは未だ整備中なのです。とても稼働できる状態では・・・・」
ギアの名はヘイムダル。バルトのブリガンティアと同時期に発掘されたものだが、余りの操縦の難しさに、今まで誰も乗れずお蔵入りになっていたギアだ。
メイソンはシタンを止めようとしたが、そこへシグルドが現れて彼を制した。
「いいんだ、メイソン卿」
「シグルド様っ! しっ、しかし、シタン様のような方では・・・・・・?」
「良いんだ。奴ならば大丈夫。あれでも物足りないくらいかもしれない」
「シグルド様・・・・・・?」
まるで、もう大丈夫だと言わんばかりのシグルドの余裕の表情にメイソンは眉を顰めた。
「さて・・・五年ぶりの実戦か・・・・体が憶えていてくれれば・・・・」
シタンはボヤきながらヘイムダルを軽く動かす。すると準備運動のつもりだったが、かなりの振動がパイロットを襲うヘイムダルにシタンは笑みを浮かべた。
「ほ! 中々のジャジャ馬ぶり・・・慣らしには丁度いいですね。気に入りましたよ」
ヘイムダルのポテンシャルに満足げなシタンだったが、その時、壁を壊して一体のギアが入って来た。
『ウォォォォッ!!』
「新手かっ!?」
それを見て、シタンはヘイムダルで攻撃を仕掛けた。だが、相手のギアは両肩に装備されている盾で防ぐが、よろけた。
『い、 痛ぇじゃねぇか!!』
相手は、かなりの巨漢で大したダメージを受けてもいないのにシタンに対して怒る。
「私の友人の痛みに比べれば貴方の痛みなど・・・・・・!! 無抵抗な人々をなぶる貴方たちのその姿勢、許す訳には行きません。代わりに私がお相手しましょう。かかってきなさい!」
『?? 何言ってやがんだ!! このブロイアー様に楯突いたこと、後悔させてやる!!』
相手のギアはシールドナイトと言い、先程のソードナイトとは逆に防御力に特化したギアである。だが、その為に装甲が重いので、シールドナイトの攻撃をヘイムダルは簡単に避けた。
「はっ!」
ドグシャァッ!!
そしてヘイムダルの放った掌底は盾の無い部分に直撃し、シールドナイトを吹き飛ばした。シールドナイトは何とか態勢を立て直そうとするが、すかさずヘイムダルが間合いを詰めて蹴りを放った。
ブロイアーはギアと操縦テクに差があり過ぎると痛感し、唇を噛み締めながらもその場から撤退した。
「ま、こんなとこですか。けど、鈍っているなぁ・・・・体に染み着いたものと違って、こうやって後から体得したものだとやはり無理があるか。
それにしても、これだけ攻撃しても倒れないところを見ると、彼等“例の物”をやってますね」
『先生!!』
シタンが眉を顰めていると、そこへソードナイトを倒したバルトがやって来た。
「若くん! 彼等は戦意昂揚剤<ドライブ>を打ってます! なまじの攻撃では倒れませんよ!」
『マジかよ!? どおりでネチネチとしつこい! クソッ、きりがねぇっ!』
「それよりシンジ君は!?」
『アイツは地上のもう一匹の方へ向かったよ!』
「ではフェイは・・・」
『もう良いっ! あんな奴、ほっとけ!! それより来たぞ!』
バルトが言うと、二人の目の前に二体の同じタイプのギアが現れた。
『ランク、どうやらストラッキィとブロイアーはやられたようだ』
眼鏡をかけた理知的な男性が、もう片方の髭を生やした男性――ランクと言うらしい――に言った。
『あの二人を倒すとはな・・・そこらの奴らとは一味違うようだ。ヘルムホルツ! やるぞ!』
『おう!』
特殊部隊の隊長であるランクと、副隊長であるヘルムホルツの駆るギアはワンドナイツと言い、バランスの取れた機体である。ビーム砲を使って相手を仕留めるのが彼らの戦法だ。
ワンドナイツは飛び上がり、同時にビーム砲を撃ってきた。ヘイムダルは上手くステップを踏んで避け、ブリガンティアは両手をクロスさせて防いだ。
ヘイムダルはそこから一気に間合いを詰め、ワンドナイツの一体に蹴りを放った。
『うお!』
『ヘルムホルツ!』
『余所見してる暇はねぇぞ!!』
『!!』
仲間の方に気を取られていたランクだったが、そこにバルトの鞭が炸裂した。ランクのワンドナイツも吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
『ぐぅ・・・・!』
『ランク!』
『くっ・・・退くぞ、ヘルムホルツ』
『・・・・・・了解』
これ以上、戦っても意味がないと判断したランクはヘルムホルツと共に、その場から離脱した。
『あははは〜! 泣け泣け〜!』
その頃、別の場所ではカップナイトに乗るフランツが暴れていた。特殊部隊では最年少だが、極度のナルシストで自分が最も美しいと思っている変人である。
泣き叫んで避難する子供たちを見て快楽に浸っている辺り、サディストでもある。そこへ目の前にユグドラシルへと避難する姉弟を見つけた。
『あ・・・ああ・・・』
『くく・・・君達はどんな声で鳴いてくれるのかな〜?』
嫌な笑みを浮かべ、カップナイトは腕を振り上げた。
どがぁっ!!
『ぎゃあ!』
が、そこにヴェルトールがやって来て、カップナイトを殴り飛ばした。
『んだぁ!?』
「お前たちは何故戦う!?」
フェイはまるで自分に問うようにフランツに向かって叫んだ。
『こ、こいつ、何言ってやがる!?』
「戦って何を得られる!? 自分の居場所があるっていうのか!!」
『五月蝿い! お前も殺してやる!!』
敏捷性の高いカップナイトは、その素早さを活かし、ヴェルトールに接近する。ヴェルトールはカウンターでパンチを繰り出すが、カップナイトは紙一重で避けると、鋭い爪で攻撃して来た。
「くっ!」
フェイは相手の敏捷性に苦戦し、表情を歪めた。
『死ね死ね死ねぇ!』
フランツは笑いながらフェイに攻撃を繰り出し、肩に爪を突き刺した。
「捕まえたぜ・・・」
『な!? しま・・・』
ガシッとヴェルトールはカップナイトの腕を掴んで動けないようにする思いっ切り相手を蹴り上げた。
『うわあ!!』
そして、そこから肩を当て、回転して掌底を繰り出す。カップナイトは勢い良く吹き飛ぶと、体中から煙を噴き上げた。
『く、くそぉ! お前、絶対に殺してやるからな!!』
フランツは目に僅かに涙を浮かべると、その場から退散した。フェイはしばらくボーっとしていたが、ふとシタンとバルトがやって来て通信が入った。
『フェイっ!!』
『やっぱお前っ!!』
「そういうのは後にしようぜっ! デカいのがっ!」
そう言ってフェイが睨んだ方に巨大な独楽が手を生やしたようなギア――シュピラーレが現れた。
フェイ達が地下で戦っている間、夜の砂漠ではクリスタルのようなものが、ずっと地面を掘り進んでいた。
「ラミエル・・・」
それは、かつてシンジと戦った第五使徒、ラミエルだった。
『野郎! これ以上、進ませるか!!』
『行くぞっ!!』
するとエヴァの後ろから海賊専用のギア――ディルムッドがラミエルに向かって突っ込んで行った。
「いけない!! 行くな!!」
シンジが叫ぶが、途端にラミエルは加粒子砲を放って来た。
「くっ!!」
シンジは素早くディルムッド達の前に立ち、結界を造って加粒子砲を防いだ。拡散された加粒子砲は砂漠の地面を抉り、大きな溝を作った。ディルムッドのパイロットは、ソレを見て唖然とした。加粒子砲の威力と、それを防いだシンジに。
「大丈夫ですか?」
『は、はい・・・』
「なら良し。アイツは僕が破壊します。皆さんは急いで避難してください。助けるのは一度だけですよ」
『わ、分かりました!』
そう言われディルムッド達は此処から一斉に立ち去った。
「やれやれ・・・まさか僕が防御役をするとはね〜」
思わず苦笑すると、シンジはエヴァをラミエルに突っ込ませた。ラミエルはすかさず加粒子砲を撃って対応するが、エヴァも手から加粒子砲を撃った。至近距離で放たれた二つの加粒子砲はぶつかり合って巨大な爆発が起こった。
だが、エヴァは爆発で怯む事無くラミエルに取り付き、手を突っ込んで無理やりコアを抜き取ると、思いっ切り握りつぶした。
そして、すかさずラミエルから離れると、巨大な十字の爆発が巻き起こった。
「ふぅ〜・・・・こんな勝ち方、昔じゃ出来なかったな・・・」
何とかゲブラーの襲撃を退けた一同は、ユグドラシルの甲板に集まっていた。
「・・・・あ、あ、あり・・・・ありがとう・・・・フェイ」
バルトは顔を真っ赤にしてフェイに礼を言うと、恥ずかしそうにユグドラシルの中に入って行った。
「バルト・・・」
「ありがとう、フェイ君。君の加勢がなければ、今頃どうなっていたか」
バルトに苦笑しながらシグルドが頭を下げて礼を言った。が、フェイは首を左右に振る。
「俺・・・・・・まだ自分が何をすればいいのか分からないんだ。
バルトのしている事は私利私欲のためじゃない。周囲の人々の幸せを願って一歩一歩自分の信じた道を歩んでいる。それに比べて俺は・・・・・」
「・・・・・・」
「俺、自分の前には進むべき道がないと思っていた。でもあいつの言うように、それはただ逃げているだけ。道は自分で見つけなきゃいけない。そうだよね、先生、シンジ君?」
そう問われるとシタンは頷いた。シンジは笑みを浮かべながら、
「ま、それで良いんじゃないですか」
何とも曖昧に答えた。が、フェイは苦笑しながら再びシグルドとメイソンに向き直った。
「バルトが望んでるなら俺、協力するよ。今はそれしか出来ないから・・・・でも、その中で自分の進むべき道を見つけようと思うんだ。
それにあんな恐ろしい連中を放っとけないよ」
「ありがとう、フェイ君」
「私からも深く御礼を申し上げます」
シグルドとメイソンは本当に嬉しそうに頭を下げた。
「さて、ではマルグレーテ殿を救出しにブレイダブリクまで向かいますか」
「それについて提案がありますよ」
「「「「え!?」」」」
突然、発言したシンジに、フェイ、シタン、シグルド、メイソンが注目した。シンジはニヤッと笑みを浮かべた。
To be continued...
(ながちゃん@管理人のコメント)
ジャック様より「悠久の世界に舞い降りた福音」の第六話を頂きました。
そういえばマルー救出前に、こんなイベントもあったような・・・なかったような・・・いかん、完璧に忘れているっ!(汗)
まあ、忘れちゃっているほうが断然楽しめるとは思いますけどね(結果オーライ?)。
第五使徒ラミエル登場―――でも呆気なく瞬殺(笑)。
まあ、今のシンジ君は全部の使徒の力を持っているわけですから、当然といえば当然ですが・・・。
しかし、シンジ君―――いつの間にやら善玉ですな?(ニヤリ)
次こそ、マルー救出・・・かな?
次話を心待ちにしましょう♪
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