第七話
presented by ジャック様
アヴェ王都ブレイダブリクは年に一度の大武会の前日で賑わっていた。シンジ、フェイ、シタン、バルトの四人はホテルの一室を借り、ファティマ城に囚われているマルーを救出する手立てを話し合っていた。
「で? シンジ君、マルー殿をどのように救出するのですか?」
「ふ。簡単な事です。以前、街の人に聞いたのですが明日の大武会は城の兵士達も観戦に来るもの。ならその間、城の警備は手薄になります」
「なるほど。つまりその間に城に忍び込んでマルー殿を救出するのですね」
「けど、どうやって入るんだ?」
「僕が城から脱出した時、地下水路を通って来ました。井戸に通じてますから、そこから行けますよ」
以前、ファティマ城から脱出した経験がこんな所で活かされるとは、シンジは何とも心中複雑だった。
「とまぁ、そういう訳でフェイさん。大武会の方、頑張ってください」
これでもかってぐらい爽やかな微笑を浮かべ、シンジはフェイの肩にポンと手を置いた。
「は?」
「ほら、フェイさんが出場して大会を盛り上げてくれれば、それだけ兵士さん達の注目も集めれますので」
呆然としているフェイにシンジは指をピンと立てて説明した。
「な、何で俺?」
「絵的に」
「どういう理由だよ!? それならシンジ君が出れば良いじゃないか! 強いんだし!」
「僕って目立つの嫌いなんですよ」
冷や汗をダラダラと流すフェイに対し、シンジはフッと余裕の笑みを浮かべる。
「嘘つけ!」
「失敬な。僕はこれでも昔は地味キャラで通ってたんですよ」
その辺はマジなのでシンジも多少、実感を込める。
「じゃ、そういう訳で、とっとと参加の登録でもして来てください」
「もう決定かよ!」
「え〜? でも作戦的にベストだと思うんですけど・・・・」
首を傾げて言うシンジにシタンが同意した。
「そうですね。城の中はシンジ君と若くんの方が詳しいでしょうし・・・フェイ、協力を申し出たのならこの作戦、是非とも実行しなくてはいけませんよ」
「あのな・・・」
「まぁ良いじゃねぇかフェイ。ついでに優勝でもして来いよ」
バルトも他人事のように――事実他人事なのだが――笑みを浮かべてフェイの肩を叩いた。フェイは三人に見られ、渋々ながらもOKを出し、シタンと共にファティマ城へ大武会の登録に向かった。
「そういえばバルトさん、マルーさんってどんな方なんです?」
「ん? マルーか・・・・そうだな〜・・・・良く言えば天真爛漫。悪く言えばガキだな」
「確かマルーさんって一国のトップなんですよね?」
「まぁな。政治的な事は殆ど周りに任せてるけど・・・」
「その辺はバルトさんも一緒ですね〜」
「ああ。そうなんだよ・・・・って何言わせる!!」
見事なまでにノッて、バルトはシンジにチョークスリーパーをかます。
「ぐぇぇ・・・」
「俺は自分の事ぐらい自分でするわい!」
「そ、それって食べた後の食器を流しに持ってくレベルじゃないんですか?」
「当たり前だ!」
「んな自信満々に・・・」
呆れながらもトントンとシンジがバルトの腕を叩くと、解放された。シンジは軽く咳込みながら備え付けのティーポットから紅茶を注いで飲む。
バルトは不機嫌そうにベッドに腰を下ろし、頬杖を突いてシンジを睨み付ける。
「?? 何です?」
「いや。お前って変な奴だな〜と思って・・・」
「海賊してる王子様に言われたくありません」
「う・・・ま、まぁ俺は俺としてだ」
痛い所を突かれたバルトだったが、咳払いしてシンジをビシッと指差した。
「お前って謎だな」
「何を今更」
「あんなエヴァみたいな見た事のない兵器。ポテンシャルも凄いときたもんだ。あれなら一国を滅ぼすのだって訳ねぇだろう?」
「さぁ・・・全力で戦ったことありませんから」
もしアダムの能力である『インパクト』を全力で使えば、惑星一個ぐらい簡単に消し去れる・・・と思う。何しろ一度も使った事が無いからだ。
「しかもフェイに『ある馬鹿な少年』って話したそうじゃねぇか」
「フェイさんも口が軽いですね〜。ま、別に口止めしてませんでしたし・・・」
「お前、何の組織にいたんだ?」
僅かに目を細めるバルトにシンジは紅茶を口に含みながら見返した。そして、フッと笑みを浮かべてカップをテーブルに置く。
「人体実験が趣味のマッドサイエンティストや、ビールが主食の生活無能力者や、明らかに悪の総帥っぽい顔でマジで悪の総帥だった司令がいる組織です」
「はぁ?」
「いや〜・・・懐かしいですね〜。動かし方の分かんないエヴァに乗せられて最初の命令が『歩け』で、敵のビームをモロに喰らったり、マグマにダイビングしたり、空から落ちて来る敵を手で止めたり・・・・今じゃ良い思い出ですよ」
これでもかってぐらい爽やかな微笑を浮かべ、窓の外を見るシンジ。明後日より遥か向こうを見つめるシンジにバルトは頬を掻いた。
何が何だか良く分からないが、余程イヤな事があったらしいのは確かだ。
「そういえば僕は常に家政夫扱いだったな〜・・・それも今となっては良い思い出か」
「いや、何つ〜か・・・聞いた俺が悪かったよ、マジで」
翌日、フェイ、シタンは大武会の会場に向かい、シンジとバルトは地下水路を通る為、井戸へとやって来た。
井戸の蓋を開けると、地下を流れる水はかなり勢いがある。
「うわ、マジか・・・」
バルトが呆れている間にシンジはとっとと井戸の中へ入っていった。シンジは水に浮かびながらバルトに手を振った。
「バルトさ〜ん! 早く〜!」
「お、お前、平気なのか?」
「・・・・・ひょっとして泳げないとか?」
「ち、違うわ! んな流れの速い所を泳ぐのが初めてなだけだ!」
基本的にシンジもカナヅチなのだが、水中に関してはガギエルの力が働いてるのか、水の中で呼吸する事もできる。
「じゃあ僕、先に行きますよ〜」
「ちょ、ちょっと待てよ!!」
スイスイと流れに逆らって泳ぐシンジに驚きながら、バルトも井戸に飛び込むのだった。
「へっくしっ! う〜・・・お前、寒くねぇのか?」
薄ら寒い地下水道を泳いだにも関わらず、平然としているシンジにバルトが尋ねる。実を言うと、シンジは泳いでいる間、サンダルフォンの熱の能力でしっかりと保温していたのだ。シンジはクスッと笑うと、手に熱を持たせバルトに触れる。
「お? 何だ火のエーテルの応用か?」
「ま、そんな所です」
エーテルとは別物だが、説明するのも何なので、適当に相槌を打つ。少ししてバルトの体が乾くと、二人は梯子を伝って広場に出た。
思った通り、警備は手薄でこれなら目を掻い潜って行けそうだった。
「良し、行くぜ」
「はい」
バルトが警備がいなくなったのを確認し、シンジも後に続く。廊下の突き当りなどで身を隠し、慎重に進む。その時、ふとシンジが尋ねた。
「ねぇ・・・バルトさん」
「何だ?」
「何も無い暗闇で二、三日ぐらい僕と二人っきりになれます?」
「は? 何の事だ?」
「・・・・・いえ、忘れてください」
ぶっちゃけると場所が分かっているならマルーを助ける事は出来る。ディラックの海で移動すれば良いのだ。だが、ディラックの海の時間の進み方は現実よりも早い。現実の一秒が十二時間に感じる世界なのだ。
心が補完されたシンジならともかく、常人のバルトが入れば一秒耐えれるかどうか微妙だ。それならシンジ一人でマルーを助ければ良い話なのだが・・・・。
「(本物の囚われのお姫様を王子様が助けるシチュエーションなんて滅多に見れないしね)」
などと実際じゃお目にかかれない光景を特等席で見れるのを楽しんでいるのだ。
「変な奴・・・・と、あそこか」
そんな話をしている間に二人は東の天守閣にまでやって来た。マルーが監禁されている部屋の前には兵士二人が立っている。
「どうするよ?」
「まぁ見ててください」
ニヤッと笑うと、シンジは両手から光の鞭を出した。それを蛇のように地面を伝って行き、一気に兵士達の足に絡み付くと、思いっ切り引っ張った。
ごんっ!!
兵士達は壁に後頭部を打ち付けて気絶した。
「ばっちぐ〜」
「・・・・お前が味方で良かったよ」
「あはは〜」
そうして二人は気絶した兵士から鍵を奪い、扉を開けた。
「若!」
部屋に入るとマルーが驚いた顔でバルトとシンジを見る。
「マルー、帰るぞ!」
「絶対来てくれると思ってたよ! そっちの人は?」
「僕はシンジ。訳あってバルトさんに協力しているんです」
「ボクはマルー。若の子分だよ」
「和やかに自己紹介してる場合か! 脱出するぞ。ついて来い」
「うん。あ、ちょっと待って」
そう言ってマルーは部屋の片隅に置かれているピンクのヌイグルミを取った。どうやらお気に入りらしく、大切に抱き締めている。
三人が部屋を出ると、向かい側のエレベーターが開いた。すると金髪の男性とダークパープルの髪をした女性が現れた。
「若っ!」
「クソッ! ゲブラーか!」
男性はバルト達を見ると、フッと笑みを浮かべた。
「やはりネズミが紛れ込んでいたか。小僧、その娘を何処に連れて行くつもりだ?」
「小僧とは何だっ! 小僧とはっ! もういっぺん言ってみやがれっ! 誰なんだ、てめぇは!」
「その威勢の良さだけは買えるが、貴様らごときネズミに名乗る名を私は持ち合わせていない」
男性は笑みを浮かべて言うと、バルトはカッとなる。
「何をっ!」
「さあ、マルー殿をこちらに渡してもらおうか。その方は我らにとって大切な客人でな・・・・『ファティマの碧玉』の半片の所在を聞き出すまでは無闇に連れ出されては困るのだよ」
「ふんっ! 月並みだがな、渡せと言われてハイそうですかと渡すと思ってんのか? ざけんじゃねぇぞっ! え? おっさん!」
「ふっ、ならばその月並みの啖呵を切った愚か者の末路も知っているだろうな」
そう言うと男性は剣を抜き、バルトも鞭を取り出した。
「その子を本当に守りたいのなら投降なさい。バルトロメイ王子」
すると今まで黙っていた女性が男性の傍らに立って言った。バルトは女性の言葉に僅かに笑みを浮かべる。
「ほぉ? 俺のことを知ってるのか。へへッ、あんたみたいな美人に名前を知られてるってのも悪くない気分だな」
「シャーカーンとの間で色々あったようだけど悪いようにはしないわ。シャーカーンとの事は、我々には“どちらでもいいこと”なのよ。
「しゃらくせぇ! 嬉しい申し出だが、聞けないね。 俺にとっちゃ、“どっちもよくない”んでね」
「・・・・・・では、決まりだな。私の剣を貴様のような堕ちたドブネズミに使いたくはないのだが」
「この野郎、さっきから抜け抜けと・・・」
完全に怒りの頂点に達したバルトは青筋を浮かべて体を震わせる。
「テメェ! 覚悟しぶっ!」
バッと鞭を振り上げるバルトだったが、突然、シンジが裏拳をぶちかます。
「わ、若!?」
「っ〜・・・・おい、シンジ! 何しやがる!?」
鼻を押さえ、バルトが怒鳴りつけるとシンジは溜め息を吐いた。
「別に熱くなるのは性格でしょうから見逃しますけど、挑発に乗るのは危険です。良いですか、バルトさん? ああいう傲慢高飛車な人の言葉は聞き流すのがベストなんです」
ピクッとシンジの言葉に男性の眉が吊り上がる。それを見てシンジは更に続けた。
「見た所、随分と強いようですが、ああいう一回も負けた事が無いような人種は一度、コテンパンに負けると脆いもんです。そういう知り合いが昔、いたんですから間違いありません」
「貴様・・・・この私を愚弄する気か!?」
「愚弄? そんな大層な・・・・僕は事実・真実・現実をありのままに言っただけです」
「許さん!!!」
男性はカッとなり、シンジに向かって突っ込んで来た。そのスピードだけで並の剣士ではないと分かる。が、シンジは笑みを浮かべ、ヒョイッと横に避けると足を引っ掛ける。
男性はグラッと前に倒れそうになるが、手で体を支えた。
「どんなに強くっても動きが一直線じゃ〜先読みできますよ?」
男性を見下ろして笑うシンジに、更に彼の怒りが膨らむ。
「閣下! 落ち着いてください! その少年の口車に乗せられてはいけません!!」
女性は先程、男性がバルトを挑発したように、今度はシンジが男性を挑発している事に気が付いた。
そしてシンジは言葉を発した女性をチラッと見た。
「貴女・・・・何ですか?」
「え・・・?」
「懐かしい? いや・・・何かが違うけど似てる・・・」
女性を見てシンジはポツリと呟く。そして女性のダークパープルの瞳とシンジの赤い瞳が重なり合った。
「(あや・・・なみ・・・?)」
そう、女性の感じは、かつてシンジが出会い、共に戦い、一つとなった少女と似ていた。全てを見透かすような彼女の瞳に似ていた。
「シンジ、危ねぇ!!」
「!!」
その時、バルトが叫んでシンジはハッとなると男性が目の前で剣を振り上げていた。
「ちっ!」
シンジはATフィールドを張って攻撃を防ぐと、男性から離れた。ATフィールドを見て、男性は僅かに冷静さを取り戻し、シンジを見る。
「今のは・・・プロトアイオーンの・・・・」
「(ふふ・・・面白い子・・・)」
女性はシンジの能力に興味を持ち、人知れず笑みを浮かべた。
「バルト! シンジ君!!」
その時、戦闘の中に大武会に出場している筈のフェイが乱入して来た。そしてシンジと対峙していた男性に向かって技を放つ。
男性は技を剣で受け止めるが衝撃で吹っ飛んだが、足で踏ん張った。
「フェイ!」
「フェイだと・・・?」
バルトがフェイの名前を呼んだのに男性は眉を顰めた。
「(今の技はあの時の・・・だが、姿も違う手応えも皆無。だが、フェイという名前・・・何処かで・・・)」
男性が考えている間にフェイが再び迫って来た。その時、フェイが一瞬、赤い髪の男に見え、男性は目を見開いた。そしてフェイの拳が顔面にヒットし、男性は吹っ飛び壁にぶつかる。
「ぐぁ!」
男性が呻き声を上げると、エレベーターが開き兵士が出て来た。
「今です! そのエレベーターに!」
シンジが言うと、バルトはマルーの手を引っ張って兵士をぶっ飛ばすとエレベーターに駆け込む。フェイもその後に続き、シンジも向かうと女性と目が合った。
「ふふ・・・またね、坊や」
そう言われ、シンジは目を見開くが、フェイ達と共にエレベーターに入って行った。
「おい、シンジ! このエレベーターが何処に繋がってるか、分かっているのか?」
エレベーターが降りている間、バルトが唐突に尋ねてきた。
「確かゲブラーの基地でしたかね〜?」
「な!? そんな所からどうやって逃げんだよ!?」
「まぁ適当にギアの一機や二機かっぱっらえば良いじゃないですか」
「そんな暢気な・・・」
もしもの時はエヴァを呼んで城ごと破壊して帰るという手もあるので、シンジは特に慌ててはいなかった。
「ところでフェイさん、大武会はどうでした?」
「ああ、優勝したよ・・・・一応な・・・・」
優勝したと言うのに、何処か浮かない表情を浮かべるフェイ。シンジは訝しげに思ったが、バルトはバンバンとフェイの肩を叩いた。
「やっぱりな。お前ならやると思ってたぜ」
やがてエレベーターが止まり、四人は出ると巨大な戦艦が停泊しているのが見えた。
「あれは・・・・・・・・ゲブラーの空中戦艦だ」
「それよりも、あれ!」
マルーが声を上げると空中戦艦から多くの兵士達が降りて来るのが見えた。
「もう一戦やらかすか?」
「若、早く逃げようよ!」
「此処は・・・・・・逃げよう!」
フェイがそう言い、皆は残念そうなバルトを引っ張ってその場から逃げ出した。
『基地内に侵入者あり。侵入者は四名、現在、ドック付近を逃亡中。男性三名は見つけ次第射殺。ただし少女は無傷で保護せよ』
「侵入者?」
エリィは自室で待機していると突然の警報に眉を顰めた。立場上、自分も侵入者を捕まえに行かねばいけないので、部屋を出る。
どんっ!
「きゃ!?」
「うわ!?」
すると彼女は部屋から出た途端、誰かにぶつかった。エリィはぶつかった相手を見て大きく目を見開く。
「フェイ!」
「お前! エリィか!? 何でこんな所に?」
「あぁ、そういえば此処ってエリィさんの部屋の近くでしたっけ」
「シンジ君も!?」
フェイの後ろでキョロキョロと周りを見回して言うシンジにエリィは更に驚愕した。
「貴方達、どうして・・・・・・! 侵入者って、まさかフェイ達なの?」
恐る恐るエリィが尋ねると、フェイが「は?」という顔になるが、バルトが間に入って来た。
「おい! 俺達の邪魔をするってんなら悪いが・・・・・・」
「ちょっと待ってくれ、バルト! こいつは、エリィは敵じゃないんだ!」
戦闘態勢に入るバルトに、シンジはエリィを庇うようにして言った。
「敵じゃないって、お前正気か? こいつの服を見ろ! ゲブラーの士官じゃないか!」
「まぁまぁバルトさんも落ち着いて。敵さんが来ましたよ」
そうシンジが言うと、角の向こうの扉が開く音がした。
「早くっ! こっちへっ!」
それを聞き、エリィは四人を自分の部屋に入るよう促した。
「ちょっと待て! 俺はまだ・・・」
「はいはい! 文句は後で聞きます」
抵抗しようとするバルトの背中をシンジが押して四人は部屋に入った。最後にエリィが入って扉を閉めると、兵士達が走り抜ける音がして、消えて行った。
「・・・・・・行ったみたいね」
「フェイ、シンジ。説明してもらおうか。何でお前らがゲブラーの士官と面識があるんだよ?」
「それは・・・・・・」
フェイは答えにくそうに言うが、シンジもまた答えにくかった。まさかスカートに頭突っ込んで連行されたなど恥ずかしくて言えない。
「どこで知り合ったか知らないが、こいつはどっからどう見てもゲブラーの士官だぞ? 敵じゃないって、フェイ、わかってて言ってんのか?」
そう言うバルトにフェイは黙るが、エリィが口を挟んできた。
「そうよ。神聖ソラリス帝室特設外務庁・・・・・通称ゲブラー・・・・・火軍<イグニス>突入三課少尉、エレハイム・ヴァンホーテン・・・・そして・・・・・・キスレブの軍事工場に潜入して新型ギアを奪取、帰還途中追撃隊の攻撃を受けて貴方の村に不時着したのも・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「話そうと思ったわ、何度も・・・・・けど言える訳ないじゃない。私が村に不時着したせいであんな事になったなんて聞いたら・・・・・・言えないわよ・・・・・」
顔を俯かせるエリィにフェイは首を横に振って言った。
「・・・・・・知っていたさ」
「!?」
「聞いていたんだ。エリィと先生の話」
「だったら何故?」
「あれは・・・・・・俺の責任なんだ。なのに俺はエリィに自分の感情をぶつけちまった・・・・・・すまないと思っている」
「そんな・・・・・・」
「あの事はもう忘れてくれ。エリィはエリィで必死だったんだから」
「僕らすっかり蚊帳の外ですね」
「うるせ〜」
ポツリとシンジが呟くと、バルトが不機嫌そうに言った。エリィはチラッとバルトを見て、フェイに問う。
「フェイ・・・・・・なぜ彼等と?」
「俺は、バルト達に協力しているんだ。城に幽閉されていたそこのマルーを救出する為にな」
「そう・・・・・・」
エリィは頷くと、しばらく考えた後、部屋の扉を開けた。
「おい! ちょっと待て! 何処に行くつもりだ!?」
「城から脱出したいんでしょ? 今なら混乱しているから、ギアの射出口から抜け出せるわ」
「なるほどそいつは名案! ・・・・・・って素直に信じると思ってんのか? 俺を甘く見るなよ! うまいこと言ってこの野郎、俺達をあのハゲジジイの前に突き出すつもりふぐっ!?」
ズケズケと言うバルトにシンジは溜め息を吐いて、後頭部を思いっ切り殴った。
「若!?」
「ああ、ごめんなさい、マルーさん。こうでもしなきゃ静かにしてくれないんで・・・・さ、エリィさん。行きましょう」
ニコッと笑ってシンジはバルトを担ぐ。エリィはシンジの一連の行動に表情を引きつらせる。
「え、ええ・・・大丈夫なの?」
「すぐに目ぇ覚ましますよ。ほら、時間が無いんでしょ?」
「そうね・・・」
エリィは頷いて部屋を出ると、誰もいないかを確認する。安全を確認すると、シンジ達は彼女に続いてギアの射出口へと向かった。
射出口には幾つかのギアが並んでいて、エリィはフェイにカードを差し出した。
「はい。ギアの起動キーの暗証番号。汎用のギアはすべてそのコードで起動出来るから」
「エリィ?」
「私に出来るのはここまで。後はあなた達の運次第・・・・・」
そう言ってエリィはフェイ達に背を向けた。すると突然、フェイがエリィに向かって言った。
「エリィ! 一緒に行こう!」
「!?」
「お前はこんなとこにいるべき人間じゃないんだ!
「フェイ・・・・・・」
エリィは一瞬、フェイの方を向こうとしたが踏み止まって首を横に振った。そして残念そうに言った。
「ありがとう、でも無理。私は・・・・・・ソラリスの軍人だから・・・・・私には私の居場所があるの。一緒に行くことなんて出来ない」
「エリィ!」
「フェイ、今度会うときは・・・・・私達、敵同士ね」
強い決意のようなものを込めて言うとエリィは走り去って行った。フェイは彼女の後をずっと見ていたが、ふとシンジが彼の肩を叩いた。
「フェイさん。早く行かないと、また追っ手が来ますよ」
「あ、ああ・・・」
フェイは頷くと既にギアには気絶したバルトが乗せられていた。フェイが乗るとマルーはともかく、シンジが入れる余裕は無かった。
「シ、シンジ君、ちょっと悪いがギアの肩に・・・」
「あ、大丈夫です。僕とマルーさん、こっちに乗りますから」
「え?」
そう言ってシンジはマルーの手を引いて別のギアに向かう。
「ちょ、ちょっと待て! 起動キーがないとギアは・・・」
「大丈夫です。先に行ってて下さい」
ヒラヒラと手を振って言うシンジにフェイは渋々ながら『分かった』と頷くと、ギアを発進させた。
シンジはマルーと共にギアに乗ると申し訳なさそうに言った。
「さてマルーさん、バルトさんと一緒の方が良いでしょうが、今回は我慢してください」
「それは別に良いけど・・・何でボクとなの? スペース的にシンジさんと若の方がバランスも取れるのに・・・」
「いや。それだと途中でバルトさんが目ぇ覚ましてコックピットで暴れられるので・・・」
「あ、そ・・・」
それだったら気絶させなければ良かったのではと突っ込むマルーにシンジは苦笑いを浮かべた。っていうか、どうせフェイの方でも目を覚ましたら暴れるだろうと踏んだシンジは、ある意味、フェイを生贄にしたと言っても過言ではない。
「でも動くの、これ?」
「大丈夫です」
グッと親指を立てて応えると、シンジはアルサミエルの力を使った。アルサミエルの力は機械を支配するもので、ギアを起動キー無しに動かす事など造作も無い。
やがてギアのコンピューターを支配すると動き出した。
「うわ! 凄い、凄い! シンジさん、どうしたの!?」
「ふ・・・まぁ僕の人徳の為せる技ですね」
「それって人徳関係あるの?」
などと言いながらシンジはマルーを乗せてフェイ達の後を追いかけた。
「ぬがああ!! シンジの野郎、良くもおおおお!!」
「うわ!? バルト、暴れるな!!」
その頃、フェイ達のギアのコックピットでは目を覚ましたバルトが暴れて大変だったそうな・・・。
To be continued...
(ながちゃん@管理人のコメント)
ジャック様より「悠久の世界に舞い降りた福音」の第七話を頂きました。
そういえばありましたね、天下一武道会♪すっかり忘れていました。
しかしこのSS、長い、長いですな〜〜先が。
まだまだ道のりは遠く険しいでしょうが、挫けずに頑張って完結させて下さいね♪
多分(どこかで端折らないかぎりは)100話オーバーとなるでしょう。
なるほど、今回ディラックの海を使ってマルーを救出しないワケがわかりました。そういえば伏線がありましたよね。
そりゃ常人にはキツイっすよね。水や食べ物もないし・・・下手すりゃ餓死ですから(笑)。
えーと、今回、謎の女性が出てきましたね。ある意味、一番重要かつ核心の人物・・・かな?
うーん、覚えはあるのですが・・・忘れました。どんな顔でしたっけ?(汗)
確認しようと思ってゼノギアスのゲームCD&メモリカードを捜したのですが、ない。あれ?どこに?
・・・そうだ。実家(Q州)にあるんだった(馬鹿)。
次話を心待ちにしましょう♪
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