悠久の世界に舞い降りた福音

第九話

presented by ジャック様


「若ぁ〜!」

 住宅街に戻って来たフェイ、バルト、シタンに、ある家の前で待っていたメイソンが駆け寄って来た。マルーは教会に残り、シスター達と話をしている。

「ニサンの方々の御好意でこちらの家を貸して頂く事になりました。しばらくの間、宿をとられる必要はございません。ついては今後の動きについて話し合う必要があるとシグルド殿が申しております」

「そうか・・・それより爺。シンジを見なかったか?」

「シンジ様ですか?」

「ああ・・・教会で一人になったと思ったら消えちまって・・・」

「はて? 私は見ておりませんが・・・」

 メイソンが首を傾げるとバルトは『そうか・・・』と頷いた。まぁシンジなら一人で何でもこなしそうなので大丈夫だと判断し、バルト達は家の中に入って行った。



 その頃、件の人物は・・・・。

「シスターアグネス、歴史に関する資料はこれだけですか?」

「え、ええ・・・」

 まだ聖堂の資料室にいた。シンジの周りには大量の本が積まれており、凄まじいスピードで読破していった。

「詳しい歴史の資料は“教会”が管理していますので・・・」

 シンジはシスターアグネスの言葉を聞きながら、更に資料のページを捲る。

「その“教会”はニサンと違い、単なる宗教とは違うようですね・・・・むしろ歴史を隠すのに重点を置いてるようだ・・・」

「え?」

 シンジは本を閉じると、更に新たな資料に目を通した。

「そうまでして真実を隠したい理由でもあるのか・・・」

「あの・・・シンジ様、“教会”はギアの整備や医療など人々の為に尽力している素晴らしいものだと思うのですが・・・」

 シンジの言い方が“教会”を疑っているように聞こえ、シスターアグネスは恐る恐る言うと、彼はチラッと彼女を見返した。

「前例がありましてね・・・・『真実を隠そうとしている組織はロクでもない』って。それがオーバーテクノロジーを持ってるなら尚更です」

「は?」

「でも・・・一国から資料を接収するなんて権力が強過ぎる・・・・こりゃあ、ますます、あの組織に似てるな・・・だとすると何かの下部組織か?」

「シンジ様?」

 ブツブツと独り言を続けるシンジにシスターアグネスは恐る恐る声をかける。シンジは資料を戻すと、ニヤッと笑みを浮かべた。

「なるほどね〜・・・上手く人々から信頼を集めて、何で資料を独占しているかという疑問を持たせないようにしてるのか。くく・・・本当に似てるな〜」

「あ〜! シンジさん!!」

 その時、マルーが部屋に入って来てシンジの腕を引っ張った。

「もう! 若が探してたよ!」

「え? バルトさんが? ・・・・・・・・・デートの誘いか!!」

「違うよ!!」

 思いっ切り筋違いなボケをかますシンジにマルーはツッコミを入れる。

「馬鹿言ってないで早く行くよ!」

「へ〜い・・・」



「おろ? バルトさん達は?」

 マルーに連れて来られたシンジはフェイ、バルト、シタンがいない事にシグルドに尋ねた。

「ああ・・・若達なら外にいるよ」

 そう答えるシグルドも何処か元気がないようだった。

「・・・・・何があったんです?」

「何・・・私とシタンがかつてソラリスにいたという事で・・・」

「え!?」

 シグルドの言葉にマルーは大きく目を見開き、シンジは目を細めた。

「シンジ君も戦っただろう? マルー様を救出した時に戦った男・・・彼の名はカーラン・ラムサスと言ってゲブラーの総司令だ。彼は私やシタンとは同期の友人だったのだ・・・」

 マルーは驚きを隠せないようだったが、シンジは動揺した感じは無く、シグルドに尋ねた。

「ソラリス・・・それは何処に?」

「?? ソラリスの首都エテメンアンキはゲートと言う障壁に守られながら天空を漂っているが・・・」

「へ〜・・・」

 シンジはシグルド達がソラリスにいた事よりも、そのソラリスの場所などに興味を持っているようだった。

「シグルドさん、一つ質問しますが、ソラリスの技術レベルは?」

「ゲブラーの技術を見ただろう? およそ地上では考えつかない科学力を持った組織だよ」

「なるほど・・・」

 シンジは頷くと、口元に指を当てて考えた。シンジの頭の中で面白いようにパズルが組み立てられていった。

 そもそも彼が疑問を持ち始めたのはバルトのアジトをゲブラーが襲撃してきた時だ。あの時、ゲブラーのギア部隊と共に、ラミエルが来ていた。つまりゲブラーはプロトアイオーンを所持している事になる。

 だとすればグラーフにプロトアイオーンを預けたのもゲブラー・・・強いて言えばソラリスという事になる。そうなるとグラーフもソラリスと繋がっているとも考えられる。

 更に鍵を握るのが“教会”だ。シタンから聞いた話ではヴェルトールを修理する際、ダジルで“教会”本部に行かなければ手に入らないパーツが必要だと言われた。ヴェルトールはキスレブ製だが、ユグドラシルの整備班でもブラックボックスの塊と言われるほど、未知の機体だ。つまり地上の技術では不可能な代物なのだ。それを作れるとすればソラリスだと考えられる。更に、それが修理可能な“教会”もまたソラリスと繋がりがあるのかもしれない。

「(ソラリス・・・・これが、この世界で言うゼーレみたいな存在かな)」

 いずれにしても全ての謎はソラリスにあるとシンジは判断した。

「シンジ君」

「?? 何ですか?」

「改めて尋ねるのも何なのだが・・・・君はどうして私達に手を貸してくれるのかね?」

 シグルドの質問にシンジは目をパチクリさせた。が、フッと笑みを浮かべると、

「そうですね〜・・・強いて言うなら楽しいからでしょうか」

「楽しい?」

「ええ。別に戦いが好きだとか、そんなのじゃありません。ただ、僕の意志で貴方達と行動し、戦う事が楽しいんです。初めてなんですよ・・・・心の底から自分の意志で戦うなんて・・・それが、こんなに気持ち良いとは知りませんでしたよ」

 ククッと笑うシンジにシグルド達はポカンとなった。そんな彼らの反応も当然かとシンジは苦笑した。

「それに僕にも因縁の相手がいるみたいですからね・・・・」

「因縁?」

「(プロトアイオーンのbQと17がアレだったら・・・・少し厄介かな)」

 何やら深刻な溜め息を吐くシンジに、シグルド達は首を傾げるのだった。

「お〜い! 今、戻ったぞ!!」

 と、そこへ外に出ていたフェイ、バルト、シタンが戻ってきた。

「あれ? シンジ君とマルーもいるのか・・・?」

「うん。シンジさん、聖堂の資料室にいたんだ」

「資料室? 何か調べものでもあったんですか?」

「ええ・・・女体の神秘について少し」

 ニヤッと笑みを浮かべながら言うシンジにマルーはカッと顔を赤くし、他の皆も唖然となった。

「バルトさん、如何です? 少々、拝借してきましたが・・・」

 言ってシンジは女性の裸が描かれた本をバルトに差し出す。

「え? マジ? いや、悪いな〜」

『若っ!!』

 嬉しそうに受け取るバルトにマルー、シグルド、メイソンが怒鳴る。

「っていうか、聖堂にそんな本ないよ!!」

「そうですね。これは、さっきそこのゴミ捨て場に落ちてたのを拾ったものです」

「うう・・・もう良いです・・・」

 何だか哀しくなってきたマルーは何故か敬語を使って家から出て行った。

「はい、これで真剣な話が出来るでしょ、バルトさん?」

「え?」

「どうせ、これから王都に潜入したりするのに作戦立てるんでしょ? まぁバルトさんの事ですから、まずはシャーカーンを倒してアヴェを平定した後、ゲブラーを何とかするって寸法でしょ?」

 H本を破り捨てて言うシンジにバルトは呆然としたが、へッと笑みを浮かべた。

「お見通しか・・・」

「僕の調べですとキスレブ国境部隊と王都防衛部隊ですね。ニサン方面の西方部隊もありますが、これに関しては戦力はそんなにありません」

「・・・・・随分と詳しいな」

「ファティマ城に潜入した時に色々な情報を盗んで来ましたからね〜。まぁゲブラー程度のプロテクトなんざ僕にかかりゃあ無いに等しいですよ。の〜っほっほっほ」

 高笑いしてアヴェの地図を出すシンジ。地図には各部隊の情報が詳しく載っている。

 バルト達は表情を引き攣らせながらもシンジが味方で良かったとマジで痛感した。

「まぁ西方部隊は僕とエヴァさえあれば速攻でカタがつきます。問題はキスレブ国境部隊と王都防衛部隊です」

 そう言ってシンジは国境部隊と防衛部隊に印をつける。

「ぶっちゃけると、これもエヴァさえあれば簡単に潰せるんですが、僕が一から十をやっても意味がありません。あくまでも中心で主役で、尚且つ大胆不敵に目立たなくてはいけないのはバルトさんでないと。つまり!! フェイさんを含めた少数精鋭でキスレブ国境部隊を引き付けて更には援護に向かってくるであろう防衛部隊をも殲滅する。その間にバルトさん達はファティマ城に潜入してシャーカーンと叩くんです。あんだーすたん?」

「ちょ、ちょっと待てシンジ君。俺は別に良いが、少数精鋭で本当に国境部隊とかを相手に出来るのか?」

「それが出来るんですよ、フェイ」

 フェイの疑問に答えたのはシンジは無くシタンだった。

「その国境部隊を指揮している人物はヴァンダーカムと言う男です」

 その名前を聞いてシグルドが反応した。

「ひょっとして、あのユーゲントにいたヴァンダーカムか?」

 ユーゲントとは、ソラリスにある仕官養成学校の事で、かつてはシタンもシグルドもそこにいたのだ。更にトップであった二人はエレメンツと呼ばれていた。

「その通り。この男はギア出現による戦術転換に馴染めず・・・・・旧態依然とした大艦巨砲主義から離れられない男なんですよ」

「つまり石頭な馬鹿なんですよ、馬鹿」

 あっけらかんとシンジが言うと、誰もが頷いた。

「まぁご安心下さい、フェイさん。僕も西方部隊をチョチョイのチョイと片付けたらすぐにそちらに向かいます・・・・そうですね〜、この岩山で落ち合いましょうか?」

「分かった」

「兵は神速を貴ぶものと言いますしね・・・決行は明日が良いでしょうね〜」

「悪いな、フェイ、シンジ」

「今更、悪いも何も言いっこなしだぜ、バルト」

 笑みを浮かべて言うフェイにシンジもウンウンと頷いた。

「そうですよ〜。折角、あの暗くてマイナス思考にしか考えれなかったフェイさんが珍しくポジティブなんですから。やる気を削ぐような発言は・・・・おや?」

 ふとシンジはフェイが部屋の隅で縮こまっている事に気が付いた。黒い縦線を背負ってフェイはイジけている。

「・・・・・・・・ほら、バルトさんが追い詰めるから」

「お前だよ!」




 翌日、作戦決行の為、ニサンの入り口にしてシンジはエヴァに乗り込む準備をしていた。

「じゃ、先に行って西方部隊を片付けて来ますね。そちらの方はお願いしますよ」

「ああ。頼んだぜ。でも本当に一人で大丈夫なのか?」

 バルトが幾つか兵を貸そうかと言うが、シンジは首を横に振った。

「並のギアじゃエヴァのスピードに付いて来れません。それより、一応、一個部隊が相手だから、どうしても戦闘は派手になってしまいます。その時に巻き込まない自信はありませんよ?」

 笑顔で言うシンジにバルトは一瞬、身震いした。

「じゃ、そっちの方はよろしく。フェイさん、後で合流しましょう」

「ああ」

 軽くフェイと拳を突き合わせ、シンジはエヴァに乗り込んで飛び去って行った。






To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

ジャック様より「悠久の世界に舞い降りた福音」の第九話を頂きました。
すべての使徒の力を有するシンジ君にとって、今さら使徒(プロトアイオーン)の単体なんて何てことはないんでしょうが、bQとbP7があのお二人だとすると、やはり想い入れがあるのか手を掛けにくいのでしょうかね?
(尤も、自分の母親は躊躇なくアッサリと殺したシンジ君ですが・・・)
さて、どうやらシンジ君は、ギア戦ではなるべくオブザーバー的な役回りに徹するみたいですね。
これも愛のムチですかね?
(まあ、実際そうしないとフェイたちの経験値が上がらないでしょうが・・・)
いや、面白くなってきましたね♪
ゼノギアスの原作をほどよく忘れているので(汗)、そういえばこんなのあったなーという新鮮な驚きがあって楽しいです。
続きが待ち遠しいですね。
最後に一言だけ───シンジ君が女体の神秘を実地で解明する日が来ることを切に願ってやみません!(をい!)
次話を心待ちにしましょう♪
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