悠久の世界に舞い降りた福音

第十一話

presented by ジャック様


 フェイから遅れて岩山の頂上にやって来たシンジは目の前の光景が信じられなかった。それは巨大な二本の触手を持ったギアが見た事の無い赤いギアに破壊されていくものだった。

「あのギア・・・」

 シンジは遠く離れた此処からでも感じる赤いギアの力に冷や汗を垂らした。そして溜め息を吐くと、キッと上空を睨み付けた。

「どういう事か説明して貰えるかい? グラーフ」

 シンジが言うと、上空からグラーフの漆黒のギアが降りて来た。相変わらずコックピットには乗っておらず、肩に乗っていた。シンジもエヴァから出ると、グラーフ同様、肩の上に立った。

「あのギアは確か・・・ドーラだったか? 新しく配属されたって聞いてたけど・・・アレから感じられる力・・・お前のとソックリなんだよね〜?」

「当然だ。奴は力が欲しいと言った・・・我は力の求道者。力を求める者に滅びの母の力を与えたのだ」

「大き過ぎる力は時に人を狂わせるよ?」

「人は狂っている。最初からな・・・」

 シンジは、そう答えたグラーフを横目で見ると、赤いギアの方へと視線を変えた。

「ふ〜ん・・・まぁ良いや。で? その、お前が力を与えたドーラを玩具のようにしてるのは何だい?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「あの力・・・お前やラハン村でのフェイさんと同じ力だ。僕とは正反対のね」

「・・・・・・・・・・・・・」

「まさか・・・あのギアは・・・」

「アレこそが・・・神を滅ぼす者の憑代だ」

 シンジの言葉を遮ってグラーフが言うと、シンジは『そっか・・・』と頷いた。すると、ドーラを完全に破壊し終えた赤いギアは、こちらに気付いたのか振り向いた。

「やれやれ・・・やんちゃ坊主を相手にするのは疲れるんだけど・・・」

「そのような可愛いレベルなのか?」

「ま、死なないように気を付けるさ」

 グラーフとギアが上空へと飛んで行くのを見送ると、シンジもエヴァの中へと入って行った。そして、赤いギアがエヴァの目の前に来て止まった。

『お前・・・強いな』

 すると冷たく、負の感情の入り混じった声で言われ、シンジは目を細めた。

「さぁ・・・強いんじゃないかな?」

『楽しめそうだ』

「ふぅ・・・」

 シンジは溜め息を吐くと、エヴァの手を赤いギアに向けた。

 ズシッ!!

『む!』

 すると赤いギアに強力なGがかかり、砂漠がめり込んで行った。サハクィエルの能力は重力を操る強力なものだ。最大一万倍のGをかける事が出来るが、必要以上に強力にすると、ブラックホールなんか作っちゃったりするので、滅多に使わない。

 が、赤いギアは体に負荷がかかっているにも関わらず、エヴァに向かって来た。

「まだ動けるか・・・なら今度は五百倍で」

 先程までは百倍だったが、その五倍の負荷をかけた。赤いギアはガクッと膝を突くと、機体がミシミシと言い出した。

『く、くくく・・・・面白い。面白いぞ、貴様!』

「(まだ喋れるのか・・・)」

 普通なら十倍に耐えるだけでも凄いのだが、赤いギアは機体が悲鳴を上げているのにまだ耐えれそうだった。

『だが!』

 赤いギアは声を上げると、背中から青い光の翼を生やした。そして、凄まじいスピードで重力の結界を抜け出ると、エヴァとの間合いを詰めた。

「げ!?」

 シンジは、まさかアレが破られるとは思っても見なかったので流石に慌てた。赤いギアはエヴァの両手を掴むと、動けないようにした。

「(まずい・・・)」

 シンジは表情を青くすると、自分自身の体にATフィールドを張った。そして赤いギアは強烈な蹴りを何度も放ったのである。




 砂漠の大地にボロボロになって倒れているエヴァが一体。コックピットが開き、シンジは転がるように出て来た。

 ペッペと口から血を吐き出すと、あちこち壊れているエヴァを見上げた。

「あ〜あ・・・酷いやられよう・・・」

 幾らエヴァに自己修復機能があると言っても、これでは、しばらく使いものにならないとシンジは溜め息を吐いた。

 赤いギアはエヴァが完全に停止したと同時に、興味を失くした様で何処かへと去って行った。が、少し遠くの方で爆音などがし、そこで戦っているのかと判断した。

 もしS2機関を解放して戦えば勝てていただろう。だが、それであの赤いギアとぶつかり合えば、確実にこの大陸は消滅してしまう。S2機関を解放した時にのみ使えるアダムの能力、『インパクト』はそれだけ強力なのだ。最低でもセカンドインパクト以上の破壊力があるのだから。

「しょうがないか・・・」

 溜め息を吐くと、シンジはディラックの海を展開し、そこにエヴァを沈めた。あの中なら時間の流れも早いし、普通より早く修復するだろう。

 そして、更にディラックの海からロンギヌスの槍を取り出す。ロンギヌスの槍は持ち主の意志によって大きさを変えれるので、今はシンジの体に合わせ、通常より小さくなっている。

「さて・・・バルトさん達の所に行くか」

「それは無理だよ」

「!!?」

 突如、背後からかけられた声。シンジは大きく目を見開いて振り返った。その声は忘れる事の出来ない声だった。シンジはドクンと胸が高鳴ったが、グッと堪え、笑顔を向けた。

「君は?」

「僕はbP7・・・プロトアイオーンだよ」

「bP7・・・ねぇ」

 シンジは呟くと、ロンギヌスの槍を彼の喉元に突きつけた。

「知ってると思うけど三体のプロトアイオーンを倒したのは僕だよ」

「つまり僕も君に殺されるのかい?」

 彼はロンギヌスの槍を突きつけられていると言うのに、笑みを零さずに言った。

「カレルレンって人も知らないだろうけど・・・この槍は君達にとっての天敵だ。一突きすれば、君達はあっという間に死ぬよ」

「構わないさ。僕にとって生と死は等価値なんだからね・・・」

 その言葉にシンジは大きく目を見開いた。一瞬、槍を持つ手が震えたが、グッと堪えた。だが、彼はそんなシンジの心情を読み取ったのか、クスッと微笑んだ。

「強い心の持ち主だと思ったけど・・・案外、脆い所もあるんだね。良いね、そう言うのは・・・好意に値するよ」

「「好きって事さ」」

 するとシンジと彼の言葉が重なり、彼は虚を喰らったように目をパチクリとさせた。シンジは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべると、槍を引いた。

「君、唄は好きかい?」

「唄? ああ、好きだよ。唄は・・・」

「人が生み出した文化の極み・・・そう言いたいんでしょ?」

「・・・・・・・参ったな。その通りだよ。君は僕より僕の事を知ってるようだね」

 彼の言葉にシンジは目を閉じて微笑んだ。

「うん・・・多分、良く知ってるんじゃないかな」

「君の名は?」

「イカリ・シンジ・・・・シンジって呼んで欲しいな」

「ああ・・・シンジ君」

 微笑んで自分の名を呼ぶ少年にシンジは苦笑いを浮かべた。

「時にバルトさん達の所に行くのが無理って言うのは?」

「ああ。君達の作戦ならとっくにバレて、ラムサス閣下がニサン国境の鎮圧に向かったからね」

「あちゃ〜・・・」

 そう言われてシンジは頭を押さえた。だとすると、あのニサンの国境に援軍に来たのは防衛隊ではなく、ラムサスの部隊だったのかと後悔した。

「まぁファティマ城では僕が彼らを逃がしたから良かったけど・・・」

「え? 何でそんな事を・・・」

「彼らからは君の匂い・・・と言って良いかどうか分からないけど、それに近いものを感じたんだよ。だから生かして、彼らの後を付いて行ったんだ。お陰で君に会えた」

「なるほど・・・・ん? って事は・・・」

 ふとシンジは嫌な予感がして、恐る恐る彼に尋ねた。

「もしかしてバルトさん達は?」

「ああ、ラムサス閣下が既に彼らと接触してるだろうね。それと君の所へ来る途中、赤いギアを見たけど?」

「あちゃ〜・・・」

 どうやら先程から聞こえる爆音はバルト達のものだと分かり、肩を落とした。

「助けに行くのかい?」

「いや・・・良いよ」

「見捨てるの?」

「それも違う。バルトさんみたいな人は殺しても死なないような人だから大丈夫って分かってるの」

「・・・・・・・信じているんだね」

「まぁ・・・ね」

 彼の言葉に少し照れながらもシンジは頷いた。シンジ自身、自分がこんなにも素で感情を表すなんて思ってもみなかったので、内心、驚いていた。

「シンジ君はこれからどうするんだい?」

「そうだね〜・・・このまま、アヴェに戻っても指名手配されてるだろうから・・・キスレブにでも行こうか。幸い、此処はキスレブとの国境だし」

「なら僕も付いて行こう」

「え!?」

 流石のシンジも彼のその発言には驚いた。

「僕が君の前に現れたのは僕の存在意義が知りたかったから・・・君なら僕が何の為にあるのか教えてくれる気がする。それが、例え君に殺される事でも僕は受け入れるよ・・・・そう、僕は君に会う為に生まれてきたのかもしれない」

 胸を押さえて言う彼にシンジは言葉を失った。そして彼と同じように自分の胸を押さえ込んだ。

「そっか・・・僕に会う為にか・・・でも勘違いしないで。僕は確かに君達を良く知っている。多分、君達が何の為に生まれてきたかも知ってると思う。だけど・・・・僕は、そんな事より君と友達になりたい」

「とも・・・だち?」

「そう・・・僕は昔、この手で親友を殺した。君はその彼に良く似ているんだ・・・・だから今度は最後まで親友と生きたい・・・そんなの僕のエゴだと思うかもしれないけど、駄目かな?」

 彼は最初、面食らったような顔をしていたが、フッと笑うと首を横に振った。

「いや・・・ちっとも変じゃないよ。不思議だね・・・君に友達って言われると胸が高鳴る。何だろう・・・僕も君を良く知ってる気がするよ」

「うん・・・あ、けど流石にbP7なんて名前じゃ呼びにくいね」

「そうかな・・・? じゃあ君が名前を決めてくれよ、シンジ君」

 そう言われてシンジは頷くと、静かに口を開いた。

「カヲル君」

「え?」

「ナギサ・カヲル・・・・君の名前だよ」

 ポンと肩に手を置かれて言われ、彼はポツリと呟いた。

「ナギサ・カヲル・・・・何だろうね・・・ただの名前なのに、とても心が温かくなるよ」

「気に入った?」

「うん」

 頷く彼――カヲルにシンジも微笑んだ。

「ああ、そうだ。bQも君に惹かれてるみたいなんだ・・・多分、もうソラリスを出たと思うけど・・・」

「・・・・・・・・そう」

「彼女は・・・僕より君に惹かれてるかもね」

「うん・・・」

 シンジは頷くと、空を仰いだ。

「・・・・・何かあるのかい?」

「うん・・・ちょっと昔を思い出してね」

 そう言ってシンジはサラッと自分の髪に触れた。白銀の髪と赤い瞳・・・・彼と彼女と同じように人でなくたったものの証の一つ。

「ねぇ・・・カヲル君」

「何だい?」

「ソラリスに・・・・『神』に固執した老人、あるいは永く生きている老人はいるのかい?」

「唐突だね・・・・でも・・・いるよ」

 頷くカヲルをシンジは冷たい瞳で彼を見た。

「ガゼル法院・・・ソラリスの実権を握っている老人達だ」

「そこまで一緒なんだ・・・・」

「一緒?」

「いや・・・こっちの話だ」

 シンジは口許に指を当ててしばらく考える仕草を見せる。そして、顔を上げると決意したように言った。

「カヲル君、キスレブに行ったら探したいものがあるんだ」

「探したいもの?」

「(この世界では何て呼ばれてるか知らないけど確実にそれと相応するものがある筈だ)・・・・・・・裏死海文書」






To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

ジャック様より「悠久の世界に舞い降りた福音」の第十一話を頂きました。
ちょっと奥さん!初号機ってば、やられちゃったじゃないですかっ!
いくらシンジ君が全力ではないとはいえ、まさかイドの野郎がここまで強いとは・・・う〜む。
はっきり言って、使徒(プロトアイオーン)より厄介じゃないですか!
これはちょっとしたイレギュラーな存在になりましたねぇ〜。
シンジ君のバラ色な???計画の障害にならなければ良いのですが・・・(笑)。
さて、bP7こと、カヲル君も仲間になりましたね。意外にアッサリと。
次からはキスレブ編に突入とのことで、楽しみです。
次話を心待ちにしましょう♪
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