悠久の世界に舞い降りた福音

番外編

presented by ジャック様


 アヴェ・キスレブの国境付近をシンジとカヲルは来ていた。キスレブに近付くにつれ、砂漠から緑豊かな大地になっていく。

 またキスレブの領土は遺跡も豊富で、ゲブラーが介入するまでこれらの遺跡からギアの発掘で戦争はキスレブ有利だった。

 シンジは、それらの遺跡は全てくまなく調べていた。カヲルは石碑の上に立って調べているシンジを見上げて尋ねた。

「ねぇシンジ君」

「何?」

「こんな発掘され尽くした遺跡を調べてどうするんだい?」

「いや・・・こういった古代遺跡から何か手掛かりが見つからないかね」

「例の裏死海文書ってヤツかい?」

「うん」

 調べながら答えるシンジにカヲルは、やれやれ、と肩を竦めた。

「その裏死海文書ってのは、そんなに大事なのかい?」

「いや・・・別に重要性からすれば中の上ぐらいかな。内容も殆ど知ってるし」

「?? じゃあ何で?」

「僕が欲しいのは確信なんだよ」

「確信?」

 拳大の石を拾い、シンジは頷いた。もし、この世界に裏死海文書が存在するなら、いや、使徒がいる時点で確実に存在するだろう。ただ、それが見つかれば、この世界が何であるかと言うシンジの考えがより確実になる。

「それに・・・こういう何も無い遺跡からも分かる事があるよ」

「何が分かるんだい?」

「今まで調べた遺跡は古くても数百年前のもの。もっと詳しく言うなら五百年より前の遺跡は一つも無い」

「それがどうかしたのかい?」

「考えてみなよ? アヴェは五百年前に出来た国だ。つまり、ブレイダブリクは五百年存在している今も続いてる遺跡みたいなものだ」

「ふむふむ」

「つまり五百年以上の前の遺跡があってもおかしくないんだ・・・」

「なるほどね〜」

「けど、それが無い。いくら“教会”でも遺跡を接収できないだろうし・・・」

 考え込むシンジを見てカヲルはポンと遺跡に触れた。

「どういう事なんだろうね?」

「考えれる可能性としては・・・・五百年前、何か大きな出来事があって文明の殆どが破壊された。アヴェはその後、すぐに出来た国ってトコかな。その文明を破壊したものがバルトさんの先祖と戦った・・・バルトさんの先祖は至宝を使い、アヴェを建国した。こんな所でしょ」

 カヲルは素直に感心した。何も無い遺跡から、これまでの事を考え付くなど、とてもラムズとは思えなかった。

 シンジは石碑の上から降りると、ポンポンとズボンの汚れを叩いた。

「さて・・・そろそろ行こうか」

「そうだね」

 カヲルは頷くと、再び並んで歩き出した。キスレブ帝都まで、もう少しかかる。




 既に夜になり、二人は歩いていると人工の明かりが見えた。どうやら村のようで、今日は、そこで宿を取る事にした。

 村に入ると明かりは点いているが、人の気配がしない。いや、するのだが息を潜めている。チラッと民家を見ると、子供がビクッと顔を隠し、カーテンを閉めた。

「シンジ君、どうやら僕らは歓迎されてないようだ」

「まぁ国境付近だしね〜・・・そら錆びれもするか」

 チラッと後ろを振り返ると、角から茶髪の男の子が自分達を見ていた。カヲルも気付いているのか、笑みを浮かべて両肩を竦める。

 シンジは微笑むと男の子の方を見た。男の子はビクッとして、ワナワナと震えると突然、大声で泣き出した。

「ふぇ〜ん! お姉ちゃ〜ん!」

「カイ!」

 すると今度は金髪の女の子が現れて、男の子を庇うように立った。女の子は震えながら、シンジとカヲルを睨み付ける。

「も、もう此処には子供しかいないわ! とっとと帰って!!」

「子供?」

 女の子の言葉を聞いてシンジは眉を顰めると、民家には子供達が窓から顔を覗かせていた。

「ちぇいっ!」

 ぼぐっ!

「はうっ!」

 その隙を突いて、女の子が木の棒でシンジの頭をブッ叩いた。すると地面に倒れたシンジを何度も叩く。

「えい! えい! アヴェの人間なんか出て行け!! お父さんとお母さんを返せ!!」

「ちょ、ちょっと待・・・はぐぅっ!」

 痛恨の一撃がシンジの脳天に決まり、キュ〜と目を回した。女の子はゼェゼェと息を荒くすると、キッとカヲルを睨み付けた。

「やれやれ・・・」

 カヲルは笑みを崩さず、溜め息を零すと抵抗の意志が無いのを示すように両手を挙げた。

「カイ! 縄持って来て! こいつ等、縛るのよ!!」

「う、うん・・・」

 カイと呼ばれた男の子は頷くと縄を取りに行った。




 シンジとカヲルは体をグルグル巻きに縛られ、女の子達の家に連れて来られた。家には末っ子と思われる青い髪の少女がいて、シンジとカヲルは床に寝転がされた。

「お姉ちゃん、お兄ちゃん・・・この人達、誰?」

「アヴェの人間よ! シュリ、近寄っちゃ駄目だからね!」

 女の子はシュリと呼ばれた妹を制し、台所から包丁を取って来てシンジとカヲルの前に突きつけた。

「私達のお父さんとお母さんは何処!?」

「いやあの・・・僕達の話を・・・ひぃっ!?」

 頭にでかいタンコブを作っているシンジは目の前で床に包丁をぶっ刺されて情けない声を上げた。

「えっと・・・僕ら、アヴェの軍人じゃないんだけど・・・」

「(僕は微妙だけどね)」

 シンジの言葉にカヲルは心の中で呟いた。

「騙されないわよ! 前にもそうやって、村に潜り込んで来たんだから!」

 頑なに信じてくれない女の子に、シンジはどうしたものかと溜め息を吐いた。すると男の子のお腹がグ〜と鳴った。

「お姉ちゃん・・・・お腹減った・・・」

「あ、ちょ、ちょっと待ってない。すぐにご飯作ってあげるから・・・」

 女の子は慌てて包丁を抜くと、台所に走って行った。だが、女の子にとってまだ調理台は高く、椅子に立って何とも危なっかしい様子だった。

「えっと・・・・カイ君?」

 シンジが男の子――カイの名前を呼ぶと彼は妹を抱き締めてビクッと身を竦ませた。

「あはは。何もしないってば・・・君ら姉弟なの?」

 チラッと料理している女の子と、カイに抱き締められている女の子――こっちはシュリと言うらしい――を見比べて尋ねる。

 カイは怯えながらもコクッと頷いた。

「そうなんだ・・・・シュリちゃんはお兄ちゃんとお姉ちゃんは好きかい?」

「・・・・・(こくり)」

 シュリはカイの服を掴みながらも頷いた。シンジはニコッと微笑むと、モゾモゾと体を動かした。するとパラッと縄が解けて、シンジは立ち上がった。

 カイとシュリは立ち上がったシンジに驚愕するが、彼は微笑んで料理している女の子の所へ行った。

「!! お、お姉ちゃん!!」

「なぁに、カイ・・・!! あ、あんた!」

 女の子は振り返ると、目の前にいるシンジに向かって包丁を構えた。シンジは抵抗する様子も無く、ソッと震える女の子の手に触れた。

 そして女の子を振り返らせ、トントンと包丁で流れるように野菜を切っていく。

「これでも家事好きでね〜・・・君の料理、危なっかしくて見てられないよ」

「は、離しなさいよ!!」

 女の子はシンジを振り解こうと暴れるが、力が強くて出来なかった。シンジは女の子の手に添えて野菜を切りながら、優しく言った。

「良いかい? 物事には何でも役目がある。包丁の役目は人を傷付ける事じゃない。材料を切る事だ・・・・分かる?」

「そ、そんな事言って自分が死ぬのが嫌なんでしょ! アタシは騙されないわよ!」

「やめときなよ。カイ君もシュリちゃんも君が人を殺す姿なんて見たくない筈だ。君はお姉さんなんだか、綺麗な手で二人を支えて上げないと」

 そう言って微笑むシンジの顔を見上げ、女の子はポッと顔を赤くした。

「さて・・・野菜はこれで良いかな? これをどうするんだい?」

「・・・・・そこの鍋に入れんのよ」

「鍋?」

 そう言われシンジはデンと置かれているホーロー鍋を見る。蓋を開けると、少し濁りかけているスープが入っていた。

「・・・・・これ?」

「野菜スープよ。野菜を入れれば完成よ」

「いや・・・それは良いけど、このスープ・・・・何日目?」

「・・・・五日」

 それを聞いてシンジは唖然とした。こんなの食べたら体壊すと思ったが、女の子は彼の心情を読み取ったのか、野菜を鍋に入れた。

「しょうがないもん・・・・少しずつ食べないと食料無くなっちゃうもん・・・」

「・・・・・・・・・」

「あんた・・・アヴェの軍人じゃないみたいね」

 ようやく分かってくれた女の子にシンジは微笑んで頷いた。




 シンジとカヲル――解放された――は椅子に座って、目の前であの濁りかけていたスープを飲む三人を見比べていた。

「疑って・・・悪かったわね」

 女の子はスープを飲みながら歯切れが悪そうに謝った。

「アタシはリラ・・・十一歳よ。こっちが九歳の弟のカイ、後、こっちが六歳の妹のシュリよ」

 女の子――リラに紹介され、カイとシュリは上目遣いにシンジとカヲルを見る。

「でもアンタ達は食べなくて良いの? 少しぐらいなら・・・」

「ああ、良いよ良いよ。貴重な食糧なんでしょ?」

 そう言ったシンジにカヲルも頷いた。まぁ元々、シンジは神だし、カヲルはプロトアイオーンである。食事は単に味を楽しむだけのもので、空腹を満たすという概念は無い。

「で、何でこの村には子供ばかりなんだい?」

 何気なく尋ねたカヲルの質問に三人の食事の手が止まった。

「アヴェの・・・連中に連れて行かれたのよ・・・」

「アヴェの?」

「あいつ等・・・・この村が国境にあって無くなっても目立たないって大人は全員、労働力って連れて行かれたの。男の人は軍人、女の人や老人は雑用って・・・」

「・・・・・・・・・」

 ジワッと涙を浮かべるカイとシュリを見て、シンジは眼を細めた。説明しているリラもスプーンを持つ手を震わせている。

「もう、この村にはあたし達ぐらいの子供しか残ってないの・・・」

 大人のいなくなった子供は、親がいなくなって泣くか、あるいは自分達だけでも生き残ろうと食材店や雑貨店から食料などを奪い取って行く。だから、この村の子供達は誰も信用できず、出歩かないのだろう。

「ひっく・・・お父さん・・・お母さん・・・ひっく・・・」

 するとシュリが嗚咽を上げて泣き出した。カイはポンポンと彼女を抱き寄せて頭を撫でる。

「・・・・・・・・・」

「シンジ君?」

 ふとカヲルは黙っているシンジを見る。シンジは無表情で、シュリを慰めるカイ、それを見て、今にも泣きそうなリラを見ていた。

 が、フゥと息を吐くとフッと笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ、シュリ。お父さんもお母さんも、きっと無事だ。近い内に戻って来るよ」

「ひっく・・・本当?」

「うん」

 コクッと頷くシンジに、リラはバンとテーブルを叩いた。

「ちょっと! 下手な気休めはやめてよ! つい、この前だって国境でアヴェの部隊が壊滅したのよ! その中にお父さんがいたかもしれないのに・・・」

 確かに彼女達の父親は、この村出身であって国境付近の地理には詳しいだろうから、その可能性は高い。シンジは手に顎を乗せてリラを見て言った。

「リラは現実的だね〜」

「・・・・・・・・」

「ふふ・・・君達を見てると何だか懐かしいよ」

「?? 懐かしい?」

 リラはシンジの言葉に首を傾げた。

「うん。あんまり物事を知らない末っ子のシュリ、そんな妹を守り、姉の言う事をしっかりと聞くカイ、そして、そんな二人を守る気丈な姉・・・僕も昔、リラやシュリみたいな女の人と一緒にいたんだよ」

 苦笑いを浮かべながら言うシンジに、リラは『女の人と一緒にいた』という言葉にムッとした。

「あんた、まだ十代でしょ? 昔っていつよ?」

「へ? あ、ああ・・・そうだね。昔って言うのも変だよね」

 パッと見はリラより二、三歳年上にしか見えないのでシンジは苦笑した。

「でも君達三人は僕らの関係にソックリだ。ねぇカイ・・・」

「な、何?」

「今は、そうやってリラに守られてるけど、君はいずれ彼女達より大きくなる。その時は君がリラとシュリを守らなくちゃいけないんだよ? 今みたいにすぐに泣いてたら、きっと大切なものを失う・・・分かった?」

「・・・・・・・うん」

 自信は無さそうだが、小さく頷いたカイにシンジは満足そうに微笑んだ。

 その時、ふとシンジは窓の外を見ると、目を細めた。

「カヲル君・・・」

「分かってる。この子達は僕が見てるよ」

「・・・・うん。リラ、ちょっと外の散歩に行って来るよ」

「え? もう、かなり暗いわよ?」

「なぁに、ちょっとした気分転換さ」

 ヒラヒラと手を振り、シンジは出て行った。




 シンジは一人、村外れにある森に入って行った。

「此処なら充分に話し合えるだろ? 出て来なよ」

 何処となしに言うと、木の陰から黒装束に身を包んだ男達が数人、現れた。彼らは両手に爪を装備し、腕をダラーンと垂らしている。

「アサッシン(暗殺者)か・・・・一体、何の理由で村を狙っている?」

「・・・・・貴様に教える義理は無い」

「ふん・・・まぁ大体の予想は付くけどね」

 アサッシン達を鼻で笑い、シンジは人差し指を立てた。

「どうせ、窮乏に陥った子供達をシャーカーンが救いに来るんだろ? まぁ『君らの家族は立派に戦った我らの宝だ』と演説でもして、強制徴兵した事を忘れさせて自分を崇拝の対象にする。そうする事で従順な駒の完成って所かな?」

「・・・・・・・・・・・」

「沈黙は肯定・・・と取るよ?」

 シンジに睨まれると、アサッシンはクククと笑った。

「その通りだ・・・子供の精神は未熟だからな。既に、あのような村が十近くある。近い将来、シャーカーン様の為に命を投げ出す者達による兵でアヴェは満たされるだろう」

「なるほど・・・・強制徴兵の目的は子供達だけにさせて、精神を脆くするって事か・・・イヤだね〜、そういうやり方。嫌悪に値するよ・・・嫌いって事さ」

 シンジは笑みを崩さないながらも言うと、アサッシン達はシャキーンと爪を伸ばして来た。

「言い残す事は・・・それだけか?」

 するとアサッシン達は一斉にシンジに向かって飛び掛って来た。が、シンジは軽く避けるとアサッシンの一人を掴む。

「ぎゃああああああ!!」

 すると、そのアサッシンの体から煙が立ち昇り、次の瞬間、ジュッと蒸発して消え去った。

「お前ら全員、骨も残さないよ」

「ぬ・・・ぅ・・・」




「ただいま〜」

 リラ達の家に戻ると、カヲルが奥の部屋から出て来た。

「皆は?」

「もう寝たよ。良い子は早く寝るもんだし」

 そう言ってカヲルは奥の部屋を指差すと、三人は寄り添って眠っていた。シンジは起こさないよう、静かに再び外に出ようとした。

「今度は僕も付き合うよ。月夜の散歩」

 カヲルはシンジの後に続き、パタンと扉を閉めた。




「ねぇシンジ君・・・」

「ん〜?」

 月の夜道を歩きながらカヲルは、ふとシンジに尋ねた。

「さっき話してた・・・君と一緒にいた二人の女の人・・・」

「ああ、それ」

「うん。その人達はどうなったんだい?」

 その質問に、シンジは少し言葉を詰まらせ、星空を見上げた。空には黄砂によって赤くなった月が丸々と輝いている。

「・・・・・・死んだよ」

「・・・・そっか」

「あの頃は僕も若かったね〜・・・はっはっは」

 二人はしばらく夜道を歩いていると、ザワッと風が吹いた。

 ズドォォォォオオンッ!!

「「!!?」」

 その時、風の音に紛れて爆音が鳴り響いた。

「これは・・・あ! シンジ君!?」

 シンジはダッシュで爆音のした方へと走り出す。カヲルも慌てて彼の音を追いかけた。




「お父さん! お母さん! お姉ちゃん!」

 轟々と燃え盛る村。カイは怯えているシュリを抱き締めて叫んだ。

 つい先程の事だった。いつものように三人で眠っていると突然、父親と母親が飛び込んで来て逃げろと言った。三人は訳が分からず両親との再会を喜んだが、いきなりアヴェのギア部隊が攻め込んで来たのだ。

 ギア部隊は村中を破壊し、火の海にした。そしてカイとシュリの目の前には焼けた父親と母親の下で気を失っているリラがいた。

「お、お姉ちゃん!」

 カイは焼けた肉の臭いのする両親から目を逸らしながらリラを引っ張る。その時、焼けた天井の梁がカイの上から落下してきた。

「お兄ちゃん!」

 シュリが声を上げてカイは上を見ると、梁は目の前まで迫って来ていた。

「カイ!」

 正にカイとリラが押し潰されそうになった瞬間、シンジは光の槍を放った梁を破壊した。

「ふぅ・・・大丈夫だった?」

「シ、シンジお兄ちゃん・・・」

 シンジは焼け焦げたリラ達の両親を見て目を細めた。

「(・・・・・・・脱走兵か)」

 恐らくキスレブ国境部隊の壊滅の際、運良く生き残った彼らの父は母親を連れて逃げ出したのだろう。だが、運悪く見つかり此処まで追って来られたのだ。

「シンジ君、他の家の子は・・・」

 そこへカヲルが神妙な顔をして入って来て首を横に振った。寝ている所を村を襲撃されたのだ。そうなっても仕方あるまい。

 シンジはギリッと歯を軋ませると、リラを背負って二人を家の外に逃がした。

「あぁ!」

 だが家の外にはギアが待ち構えており、銃口をこちらに向けた。

「カヲル君!」

「(やれやれ、同僚を殺るのは忍びないが・・・)」

 カヲルはコクリと頷き、ギアに向かって手を広げた。するとギアの周囲を赤い壁が包み込み、グッと手を握ると赤い壁が縮んでいった。

 そしてギアは赤い壁に押し潰された。

「・・・・・・・・・・そんな使い方あったんだ」

 それを見てシンジは、てっきり銃弾から身を守るのかと思ったが、逆にギアを倒したので少し驚いた。カヲルはフッと笑みを浮かべると、両脇にカイとシュリを担ぎ、シンジと共に村から脱出した。




「「「・・・・・・・・・」」」

 翌朝、リラとカイは岩を背にして膝に顔を埋めていた。シュリは体を丸めてカヲルの膝を枕に眠っている。

「ギア部隊の殲滅と、リラ達の両親、後、他の子供達の弔いは終わらせて来たよ」

 そこへ一仕事終えたシンジがやって来ると、カイがガバッとシンジに抱きついてお腹に顔を埋めた。必死に涙を堪えながらも体は震えている。

 リラも無言で目尻に涙を浮かべ、顔を俯かせた。

「けどギア部隊一個潰したからね〜・・・村に調査隊が来る事を考えたら戻れないね」

「・・・・・・・・どうせ村は無くなったんだもん・・・帰る場所なんて無いわ・・・」

 リラが顔を俯かせながら言うと、シンジはポンポンとカイの頭を撫でる。それにカイは我慢の糸が切れ、ヒックヒックと泣き出した。

「・・・・・・・・ねぇ」

 ふとリラが話し掛けてきてシンジは顔を上げた。

「あんた達、キスレブに行くの?」

「まぁね・・・でも、まずは君達を安全な所に送り届けないと・・・」

「・・・・・・・どうして、そこまですんのよ? 私達、赤の他人でしょ?」

 そう言われてシンジは息を吐くと、カイを離しリラを立たせた。シンジは彼女の肩に手を置いて膝を突くと、同じ目線で向き合った。

 リラは急に立たされて涙を拭けず、頬に涙を流している。シンジはニコッと笑って指で涙を拭いて上げる。

「君の御両親は命懸けで君達を守った。僕らがそんな君達を助けたのも何かの縁だ。だから君達が安全な場所まで送り届ける責任がある」

 その言葉にリラは僅かに頬を赤くした。シンジはポンと彼女の頭を優しく撫でると、カヲルの方を見た。

「ちょっと寄り道・・・かな?」

「良いんじゃないかな? こういう触れ合いも大事だと思うよ・・・」

 カヲルの言葉にシンジは苦笑しながら頷くと、カイとリラの手を繋いだ。

「リラはお姉ちゃんだ。これから辛い事もあるだろうけど、ちゃんとカイが大きくなるまで二人を守る。カイは大きくなったら、それ以上にリラとシュリを守るんだ。良いね?」

 二人はシンジを見上げるコクッと頷いた。

「じゃ、カヲル君。行こうか」

「そうだね」

 カヲルはシュリを起こさないように背負った。そうしてシンジ達は歩き出した。














 〜おまけ〜

 カイとリラの手を繋ぎながら歩いていると、シンジは唐突にリラに質問された。

「ねぇシンジ。私とソックリだった女の人と、シュリとソックリだった女の人・・・どっちが好きだった?」

「・・・・・・・・は?」

「も、勿論、私とソックリだった方よね!?」

「え? え〜と・・・・」

 シンジは困ったように頬を掻きながら尋ね返した。

「な、何で、そんな質問を?」

 するとリラは顔を赤くしてプイッとソッポを向いた。

「あ、あんた馬鹿ぁ!? あんたは私の質問に答えれば良いの!」

「は、はは・・・」

 シンジは顔を真っ青にし、冷や汗をダラダラと流しながら乾いた笑いを浮かべた。

「女心と秋の空・・・かな?」

 それを後ろでシュリを背負いながらカヲルはクククと笑うのだった。






To be continued...


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