第十三話
presented by ジャック様
シンジ、フェイ、シタン、リコの四人は連続殺人の起こっている地下水道へとやって来た。
「さて・・・フェイさんの無罪・・・多分・・・を晴らすとしますか」
「シンジ君、今小さく『多分』って・・・」
「あっはっは♪」
爽やかに笑って誤魔化そうとするシンジにフェイは表情を引き攣らせた。リコはこんなんで大丈夫か少し不安になって溜め息を吐いた。
「む?」
するとシタンが突然、角の方を向いた。
「どうした、先生?」
「しっ! 静かに・・・」
人差し指を立てて三人に言うシタンにシンジは眉を顰めた。
「何か・・・いるようですね」
「ああ、それなら入った時からビンビン感じますよ?」
「「「は?」」」
サラッと言いのけるシンジに三人は思わず唖然となった。シンジはニコッと微笑むと、角に向かって歩き出す。
角を曲がったら何もおらず、下水管から水が流れているだけだった。だが、下水管にはゲル状のものが付着しており、それも新しいものだった。
「ふむん。何だかナメクジみたいな生物がいるみたいですね〜」
「それが犯人だって言うのか?」
リコが尋ねると、シンジは「さぁ?」と首を傾げた。
「おい! こっちに殺人現場の跡があるぞ!」
するとフェイが水路を挟んだ所から呼んで来たので、シンジ達はそちらに移動する。そこには血が壁と地面にベッタリと付着していた。
「ダイイングメッセージがありますね・・・」
シタンは血で綴られた文字を読んだ。壁には『赤い奴にやられた』と書かれている。
「赤い奴・・・ですか?」
「そいつが犯人なのかな?」
「まず間違いないかと・・・」
シタンが眼鏡を押し上げて頷くと、シンジはハッとなって後ろを振り返った。
「どうした、小僧?」
「・・・・・・・・・見られてますね・・・」
「え?」
ポツリと呟くと同時にシンジは駆け出した。
ズバァッ!!
「どわぁ!?」
すると、いきなり下水管から何かが飛び出し、切り裂かれてシンジは吹っ飛んだ。
「シンジ君!?」
フェイ達が慌てて駆け寄ると、下水管から腐った肌に赤い髪を腰まで伸ばし、黒い袴のようなものを履いた化け物と呼ぶに相応しいのが出てきた。
「な、何だコイツ!?」
「コイツが俺の部下を・・・!」
その化け物は大きく剣のような左腕を振り下ろすが、リコは紙一重で避けた。
「はぁっ!」
「せいっ!」
フェイとシタンが同時に蹴りを放つが、化け物はピクリともせず、二人を振り払った。
「うわ!」
「っと!」
吹っ飛んで壁に叩き付けられそうなフェイを復活したシンジが受け止めると、そのまま化け物に向かって突っ込んで行く。
「でりゃ!」
蹴りを放とうとすると化け物が緑色の液体を口から吐き出した。見るからに毒っぽい。
「うっそぉ!?」
別に毒くらいで死にはしないが、苦痛はあるので嫌だ。だが避けようにも勢いがつきすぎて避けれなかった。
今にも毒液に当たりそうなシンジだったが、寸前でリコがシンジを抱えて毒液をかわした。
「あ、ありがとうございます・・・」
「手間をかけさせるな」
「はぁ・・・」
すいませんと苦笑して謝るとシンジは立ち上がって化け物に向き直る。
「さ〜て、どうしましょうかね〜?」
加粒子砲でも撃てば一発でケリがつくだろうが、そんな事すれば地下水道ごと破壊してしまう。化け物は四人に向かって毒液を吐き出して来るが、シンジのATフィールドで防いだ。
「ふむん♪フェイさん、シタンさん、リコさん。お三方で少しアレの注意を引き付けてくれませんか? その間に僕がとっておきの奴、使いますから」
「とっておき?」
「はい♪カヲル君がヒントくれた技です」
「・・・・・・良いだろう」
リコは頷くと真っ先に飛び出して行った。フェイとシタンも余裕しゃきしゃきなシンジを見て、彼に任せようと三人は別々に化け物に飛び掛っていった。
「えっと・・・」
シンジは三人が注意を引き付けている間に、化け物に向かって手を広げ、精神を集中させる。すると化け物の周囲にATフィールドが発生し、化け物を完全に閉じ込めた。
「(S2機関、解放・・・)」
突如、シンジの体から凄まじいエーテル力が発生する。それを見てシタン、リコは目を見開き、フェイはドクンと一瞬、胸が高鳴った。
エーテル力の上昇は留まらず、正に無限と呼ぶに相応しいものだった。シンジの赤い眼は更に輝きを増し、ATフィールド内で強烈な閃光が迸った。
第一使徒アダム・・・その力はインパクト。S2機関を解放せねば使えない力。単独で使えば強力な爆発。リリスのアンチATフィールドと併用して使えば、サードインパクトのように周囲の者をLCLに還元する最強の技である。
アダムの力は制御が利かず、シンジ自身恐れて今まで使った事が無かった。だが、カヲルが見せたATフィールドで相手を閉じ込める技を見て、ATフィールド内部にインパクトを起こせばどうだろうかと考えた。
結果は見ての通り。ATフィールド内に閉じ込められた相手は塵一つ残す事無く消え去った。そりゃ小規模ではあるが最低でもセカンドインパクトクラスの爆発力なのだから当然だ。
「す、凄い・・・」
完璧に消滅した化け物を見てフェイは感嘆の声を上げた。
「ふぅ・・・」
だが、シンジは息を吐いて頭を押さえるとフラッとよろめいた。
「おっと! 大丈夫ですか?」
シタンに支えられると、シンジは息遣いを荒くして頷いた。
「は、はい。すいません・・・流石に慣れない事をするのは疲れますね」
こりゃ多用できないものだとシンジは改めて認識した。まずS2機関の解放が思ったより負担が大きい事。これに関しては、数億、数十億と生きてきて全く使わなかった事が原因だろう。
更にATフィールドで相手を閉じ込めたまま、制御の難しいアダムの能力を使うのは想像以上に精神力を消耗する。
「(う〜む・・・S2機関を解放するのが此処まで辛いとは・・・)」
ゆっくりと体に慣らしていくしかないと思い、苦笑するのだった。
「や、お帰りシンジ君」
部屋に戻るとカヲルとハマーが料理を並べて待っていた。リコは下水道を出る時に別れた。
カヲルはフェイの肩を借りて辛そうなシンジを見て表情を顰めた。
「さっき少しだけど、とてつもないエーテル力を感じたけど・・・」
「あはは。まぁ解放だけなら君にも出来るかな・・・」
「解放?」
苦笑いを浮かべるシンジにカヲルは首を傾げる。
「フェイさん、もう大丈夫です」
「ん? そうか・・・」
フェイから離れるとシンジは席についた。
「あ、そうだシンジ君。実は・・・」
ふとカヲルは思い出したようにシンジに耳打ちした。シンジは一瞬、大きく眼を見開いたがすぐに落ち着きを取り戻した。
「そっか・・・」
そして神妙な顔付きになって俯くが、スクッと立ち上がった。
「どうしたんスか、シンジさん?」
「ん? ゴメンね〜。ちょっと出掛けてくるよ」
「体は大丈夫なのですか?」
「ええ。頑丈さだけが取り柄ですから♪」
ニコッと笑って手を振ると、シンジは階段を駆け上がって行った。
「どうしたんだろ、シンジ君?」
フェイが呟くと三人の視線がカヲルに向けられる。カヲルは笑みを絶やさず両肩を竦めた。
「さぁ? まぁ今は料理を食べましょう。フェイさんは明日、バトリングの決勝なんでしょう?」
シンジは駆けている。カヲルは言った。
『bQがこの街にいる』・・・と。彼女はカヲル同様、別人だ。自分の名を知らず、何の為の存在かも知らない。それに彼女もカヲルも今は自分の中にいる。
シンジはギュッと胸を押さえた。ただ、もし彼女がいるなら早く見てみたかった。最も自分が救いたかった二人の少女。
別人とは言え、彼女が此処にいる。最後の最期に自分を選んでくれた妹のような存在。
シンジは勘を頼りに突き当たりの角を曲がった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
曲がった先は行き止まりでシンジは足を止めた。消耗しているので息が荒い。だが、彼はフッと唇を歪めて言った。
「君は・・・何の為に生まれてきたのか知ってるかい?」
「・・・・・・・・・」
チラッと屋根の上を見ると、シンジやカヲルより青味がかったの銀髪に、同じ赤い瞳の少女がゲブラーの仕官の服を着て彼を見下ろしていた。
少女はスタッと飛び降りると、シンジの前に立って見つめる。
「・・・・・・・こんな所でその服装は目立つんじゃない?」
「・・・・・・・問題ないわ」
その言葉にシンジはククッと笑うと、上着を脱いで彼女の上から着せた。
「で? 君は何の為に生まれてきたのか知ってるかい?」
先程と同じ質問をすると少女は首を横に振った。
「貴方が・・・それを知っている・・・」
「むしろ・・・知らない人の方が少ないんじゃないかな・・・」
シンジは目を閉じて笑うと、続けた。
「命はね・・・生きる為に生まれてくるんだ」
「・・・・・・・・そう」
彼女は呟くと、シンジに歩み寄り胸に手を当てた。
「じゃあ・・・貴方は何なの?」
すると少女の手からエーテル波が放たれ、シンジの体を貫いた。
To be continued...
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