第十五話
presented by ジャック様
「此処がキングの部屋です。存分にお使いください」
委員会のルアという女性にフェイ達はつい先程までリコが使用していた部屋に連れて来られた。とても犯罪者が住むとは思えないほど絢爛豪華な部屋だ。
フェイとハマーは、バトリングチャンプとそのメカニックという事で特権として爆弾首輪は外され、帝都の何処にでも行けるという事で晴れて自由の身となった。
「ところでリコはどうしたんだ?」
試合終了後、リコを全く見なかったのでフェイが尋ねると、ルアは振り返らずに答えた。
「全キングのリカルド・バンデラスは御前試合の時にギアが暴走して総統の観覧席に突入、それ以来行方不明ですわ」
「暴走? リコのギアが?」
「しかも総統の観覧席にピンポイントに突っ込んだんですか?」
シンジが意味あり気な表情で尋ねると、ルアはフッと笑みを浮かべた。それに対し、シンジも笑みを浮かべる。
「ジークムント総統閣下が、キング・フェイ様にお会いしたいって言ってたから、是非、総統府にお立ち寄りください」
そう言って部下と共に部屋から出て行った。
「どう思う?」
「ま、十中八九、リコさんは総統を狙ったんでしょうね。理由は不明ですが」
「マ、マジっすか!?」
幾らバトリングチャンプでも一国の主を狙うなど信じられない。ハマーは驚きを隠せなかった。
「どうします?」
「勿論、助けるに決まってる!」
自由の身になったのだから、もう此処に留まる理由は無い。別に総統に逆らおうが何だろうがお構いなしだった。
「当然ですね。じゃフェイさんとシタンさんは総統の所へ挨拶しに行ってください。その間に僕とカヲル君とハマー君で情報を集めるとしましょう。で、此処で待ち合わせって事で」
「分かった」
フェイとコツンと拳を合わせ、シンジ達は情報収集へと向かった。
「流石はA地区。いいものあるね〜♪」
帝都のA地区は一般階級の人々が住む地区で、犯罪者が押し込められたD地区よりも良い設備が整っている。
「あの、シンジさん。そんなの、どうするんスか?」
シンジが『いいもの』と言ったのは、ゴミ捨て場に捨てられていたパソコンだった。
「ほら、モニター壊れてない。これなら修理可能〜♪」
「はい、シンジ君。工具一式買って来たよ」
どうやらシンジがゴミ捨て場のパソコンを見て何を思い付いたのか悟ったようで、颯爽と雑貨屋に工具を買いに行ってたカヲル。
「あんがと、カヲル君」
「どういたしまして」
「じゃ、キーボードを・・・」
「既に探してるよ」
シンジが言う前にカヲルはゴミ捨て場を漁る。
「阿吽の呼吸ッスね〜」
「当然だよ。僕とシンジ君は心の友と書いて心友と読むんだからね」
「凄いっス!」
「そして最後はシンジ君に殺されるのさ」
「へ?」
何だか物騒な事を言われ、ハマーはキョトンとなる。そして、恐る恐るシンジの方に言葉の真意を求める。
「ま、本人は望んでるみたいだけど〜」
シンジはシンジで呑気にパソコンを分解して修理している。ハマーは「え〜と・・・」と空を仰ぎながら尋ねた。
「お二人って心の友と書いて心友なんスよね?」
「「うん」」
パソコンを修理しながら答えるシンジと、キーボードを探しながら答えるカヲル。
「で、最後は命の遣り取りをする仲と?」
「うん」
サラッと答えるカヲル。
「そうなった時に考えるさ」
既に一回殺してるから、それがどんなシチュエーションか自然に思い浮かぶ。余りいい思い出ではないが、そうなった時にどうすべきか考えれる。何とも皮肉だ。
「変な関係ッスね」
「そうかな〜? 僕、カヲル君以上の友人っていないと思うけど・・・」
「僕ら基本的に友達少ないからね〜」
何気に悲しい事を笑顔で言うカヲル。
「あっはっは! 言えてるね〜。僕もフェイさん達に会うまで友達なんて指で数えるぐらいしかいなかったよ」
「僕なんて生まれた時から孤独だったからね〜」
ハマーは会話に付いて行けず、ただただ唖然とするしかなかった。
打ち捨てられていたパソコンは、シンジの修理で一応、電源が付いた。だが、画面はブレていて酷く不安定だ。
今は酒場のコンセントを借りて、あるテーブルで作業を行っている。
「シンジさん、これで何するんスか〜?」
「何って・・・総統府のコンピューターにハッキングしてリコさんとフェイさんのギアの情報を聞き出すんだけど?」
キスレブを離れるとなると、ヴェルトールを取り戻さなくてはならない。あくまで、あれは委員会から支給されたギアという事になっているのだから。
「えぇ!? こ、こんなオンボロじゃ無理ッス・・・」
「何、このプロテクト? 普通に入って下さいって言ってるようなもんじゃん」
驚くハマーを他所にシンジは簡単に総統府のコンピューターにアクセスしていた。
「・・・・・・・・・・」
アングリと口を開くハマーの横でカヲルがパチパチと拍手した。イロウルの力さえあればプロテクトなど無きに等しい。
「え〜と・・・ふむふむ。お、ついさっき更新されてるじゃん・・・何々? 『前キング、リカルド・バンデラスがジークムント総統閣下を暗殺未遂。今夜、バトリング会場にて死刑執行』・・・」
「し、死刑!?」
「こりゃ早い内に助け出さないと・・・で、肝心のヴェルトールは・・・やっぱりギアハンガーに置いてるね」
「そこからはどうやって行くんだい?」
「う〜んと・・・D区画を走る列車が通るトンネルの中に通風口の入り口があるね。もう一つはバトリング会場から直接行けるよ」
ニヤリとシンジは笑みを浮かべた。それを見てハマーは何か悪巧みを考えたなと確信した。何となくシンジがどんな人間か理解し始めてきたようであった。
「へぇ・・・リコさん、フェイさん達の前で捕まったんですか」
「ああ」
情報収集を終え、キングの部屋に戻ってきたシンジ達はフェイとシタンと合流した。フェイの話では総統のジークムントに力を貸してくれと頼まれた所で、リコが天井から降って来た。それで捕まってしまったそうだ。シンジが総統府のコンピューターにアクセスして情報を取り出したのは、その後だったのだろう。
「じゃ、リコさん救出&ヴェルトール奪還作戦を説明しますね。まず、電車に乗って通風口から潜入してヴェルトールを取り戻します。その間、僕がバトリング会場のリコさんを助け出しますから、そこで合流しましょう」
「分かった。シンジ君、リコのこと頼むぞ」
「お任せ〜」
グッと親指を立てるシンジ。
「では実行は早い方が良い。フェイ、行くとしますか」
「ああ」
フェイは頷くと、シタンと共にヴェルトールを取り戻しに向かった。
「さて、じゃあ僕はバトリング会場に向かうとするか。カヲル君、ハマー君、留守番よろしくね」
「ああ。気をつけて」
「健闘を祈るッスよ!!」
応援する二人にニコッと微笑み、シンジは手を振った。
「ふわ・・・あぁ」
バトリング会場ではバトリング管理委員会の兵士が見張りについていた。もうすぐ前キングのリコの処刑が行われ、人望のある彼を助け出そうとする輩がいるかもしれないので警備は厳重だった。
「あ〜あ・・・俺も前のキングの処刑見たか――むぐっ!?」
ボヤく兵士は口をガバッと押さえられ、人気のない方へと引きずり込まれた。
「な、何だおま・・・」
「静かにして下さい。静かにしないと・・・」
シンジはニコッと微笑むと指先からマトリエルの溶解液を垂らす。ジュッと床が解け、兵士は「ひっ!」と竦み上がった。
「フェイさん達には言いませんでしたが、どういう事なんです?」
「な、何がだ・・・」
「何で捕まって間もない内にリコさんの処刑が決まったんです?」
「そ、それは・・・」
ゴキッとシンジは手を鳴らした。下手な嘘をつくと容赦しないという合図だ。
「お、俺達はキスレブの兵士じゃない! きょ、“教会”の者だ!」
「“教会”の?」
「あ、ああ」
兵士の話では委員会っていうのはほとんどが“教会”の人間で構成されている。昔はキスレブの政治に発言力をもってたが、現在の総統は政府から“教会”勢力を追い出した。そこで“教会”派は総統の暗殺を図ってそれをリコにやらせようとした。何故、“教会”がリコに目をつけたかと言うと、総統はかつて厳しい亜人排斥を行った。だからリコは総統とキスレブを憎んでいるのだ。だがリコは今回暗殺に失敗した。事の露見を恐れた委員会は、今度は逆にリコを見殺しにしようとしているという事だった。
「なるほど・・・だから、こんなに早く処刑が決まったのか・・・」
「な、なぁ、もう良いだろ? 帰してくれよ」
兵士が言うとシンジはニコッと微笑んだ。
「ええ、構いませんよ。ただし・・・」
とんっ!
シンジは兵士の首に手刀を叩き込んで気絶させた。
「しばらく寝ててくださいね♪」
夜のバトリング会場をリコは歩いていた。此処で処刑が行われるそうだが、執行人がいる訳でもなく、だだっ広い会場を歩いているだけだった。
「一体、どうするつもりだ、ジークムントの野郎・・・」
愚痴りながら歩いていると一瞬、地面が揺れた気がした。
「何だ・・・・気のせいか」
そう思い、再び歩き出すと再び揺れた。
「地震? いや・・・違う・・・これは・・・」
何かが近づいてくる。リコはハッとなって背後を振り返ると、ランカーがこちらに向かって走って来た。
「な!? あ、ありゃあランカーじゃねぇか!! あんなの、まともに相手できるか!!」
リコは駆け出すが、ランカーの脚力には敵わなかった。
「お〜・・・ありゃ黒月の森の時の・・・」
それを遠くから見ていたシンジは、あのランカーのせいでグラーフとの戦いが中断されたのを思い出した。
「流石にギアがなきゃリコさんも勝てないか」
これだけ広い会場を処刑場にしようとしたのは、ああいう方法だからかと納得するとシンジはディラックの海を展開した。すると中からエヴァが現れた。
砂漠で赤いギアにやられた傷はすっかりと癒えていた。久し振りに乗り込むと、エヴァの相貌が光った。エヴァはランカーに向かって駆け出すと、蹴りを入れた。
ランカーは突然のエヴァの攻撃に対応できずに吹っ飛ぶ。
「う〜ん・・・久しぶりの感覚だな〜」
フッと目を閉じると、エヴァも久し振りにシンジが乗っているので嬉しがっている感覚が分かった。すると立ち直ったランカーがこちらに向かって突っ込んで来る。
「甘いよ、畜生君♪」
ニコォッと笑顔を浮かべると光の槍を撃ち込んでランカーを貫いた。そしてトドメの威力を抑えた加粒子砲を放ち、ランカーは消滅した。
リコはボーっとエヴァを見上げると、出てきたシンジを見て驚いた。
「シ、シンジ!?」
「やぁリコさん。ご無事でしたか?」
ピョンと飛び降りてリコに歩み寄ると、彼はクルッと背を向けた。
「何故、助けた?」
「ふぇ?」
シンジはリコの言葉に首を傾げた。
「何故、俺なんかを助けた?」
「何故って・・・ひょっとしてお節介でしたか?」
「当たり前だ!!」
怒鳴り散らすリコにシンジはビクッと身を竦ませた。
「俺など・・・キングでなくなれば何の価値もない・・・奴を殺せなかった時点で俺に生きる価値などない」
「はぁ・・・随分と安っぽい人生ですね〜」
「何だと・・・? 貴様に何が分かる!?」
リコは振り返ると、シンジの襟を掴んで持ち上げた。シンジはリコの頭より高く持ち上げられるが、苦しそうな素振りなど見せなかった。
「分かるも何もそんなの問題じゃありませんよ。ただ貴方が死ぬべき人じゃないと判断したから助けたんです。それが余計な事なら謝ります。でも・・・貴方は本当に死んでも良かったんですか?」
まっすぐシンジの赤い瞳に見られ、リコは言葉を詰まらせてシンジを下ろした。その時、空気が震えた。シンジとリコは今のが先程のランカーの地鳴りではない事だけは分かった。
「シンジ君、リコ!!」
と、そこへヴェルトールに乗ったフェイがやって来た。フェイはヴェルトールのコックピットから身を乗り出し叫んだ。
「ゲブラーの強襲だ!」
「何・・・?」
「うわ〜・・・」
リコは愕然となり、シンジは頭を掻く。
「敵の数は?」
「でかい戦艦が一隻だ!」
一隻? シンジはそれを聞いて眉を顰めた。大国であるキスレブを一隻で来るなんて馬鹿げている。シンジは妙な引っ掛かりを感じてハッとなった。
「まさか・・・奴らの狙いは原子炉?」
「何だと?」
シンジがポツリと呟くと、リコが反応した。
「奴ら、その戦艦を原子炉に落とすんですよ。そうなったらキスレブ一帯は消滅・・・そして長い間、生命の住めない土地になってしまう・・・それが狙いです」
「そんな・・・くっ! シンジ君、リコ! 奴らを止めるぞ!」
そう言うとシンジは頷いたが、リコは背を向けた。
「リコ?」
「・・・・・・・・・フェイさん、先に行っててください。リコさんはギアを取りに行かなきゃいけませんから」
「あ、ああ・・・」
フェイは頷くと、コックピットを閉めて飛び立って行った。シンジはリコを見ると、ポツリと呟いた。
「たとえどんなに憎くても・・・どんなに悲しい思い出があったとしても・・・貴方にとって此処が故郷でしょう? そして、そこが危機に直面している・・・貴方はそれを防ぐ力を持ちながら使わないつもりですか?」
「・・・・・・・・・・」
黙っているリコにシンジは溜め息を吐くと、エヴァに向かって歩き出す。
「僕には故郷なんて存在しません・・・今も昔も。だから守れる故郷のある人を見ると少し羨ましい気になります」
『貴方が守った街よ・・・・』
シンジは脳裏に遠い昔に言われた言葉を思い出す。そして頭を振って髪の毛を掻き毟った。
「(あの街も守りたくて守りたかった訳じゃないから・・・・故郷なんて呼べないか・・・楽しい思い出はあるんだけどね)」
自嘲的に笑い、シンジは最後に振り返った。
「リコさん、貴方を慕う人は多い筈ですよ」
そう言ってエヴァに乗り込むと、シンジはフェイの後を追って飛び立って行った。リコは飛んで行くエヴァの背中を見て拳を強く握った。
「・・・・俺の守る故郷・・・」
「フェイさん!」
空中戦艦ヘヒトの下へとやって来たシンジはヴェルトールが六機のギアと対峙しているのを見て目を見開いた。それは、以前、バルトのアジトを急襲したゲブラー特務部隊とエリィのギア、ヴィエルジェだった。
『シンジ君・・・エリィが』
「分かってます。フェイさんはエリィさんの相手をお願いします。他は僕が・・・」
『・・・すまない』
フェイは言うとヴィエルジェに向かって行った。
『野郎! 逃がすか!!』
だが、ブロイアーのシールドナイトRが攻撃を仕掛けようとするが、ヴェルトールを赤い壁が守った。
『何!?』
「貴方達の相手は僕ですよ」
『小僧・・・テメェ一人で俺らの相手をするってのか?』
隊長であるランクが侮辱されたような様子で聞いてくると、シンジは笑みを浮かべた。
「後ろにデカイのが控えてるんです。ウォーミングアップは必要でしょ?」
その言葉に、ブロイアー、ストラッキィ、フランクの三人がプチッと切れた。
『貴様ぁ!!』
『上等だ!』
『殺してやるよ!!』
シールドナイトR、ソードナイトR、カップナイトRが迫ってきた。エヴァは後退すると、両手に光の鞭を発生させ、振り払った。
ガキィッ!!
だが、パワーアップしているシールドナイトRの盾が鞭を防いだ。すると左右からソードナイトRとカップナイトRが飛び出し、両側からエヴァに襲い掛かった。
シンジは笑みを浮かべると、エヴァの両手を突き出した。
ズンッ!!
『な・・・!』
『ぐぁ・・・!』
するとソードナイトRとカップナイトRに重力の負荷がかかり、地面に向かって落っこちていった。
『ストラッキィ! フランク!』
「他人の心配してる場合ですか?」
『!!?』
エヴァは一瞬でシールドナイトRの間合いを詰め、光の槍を撃ち込んだ。足を貫かれたシールドナイトRはバランスを崩し、地面に落ちていった。
「!?」
その瞬間、シンジはハッとなって振り返ると、二体のワンドナイツRがこちらに向けてレーザーを撃って来た。
ATフィールドを張るのも間に合わず、何とか避けるが肩を貫かれた。
「ちっ・・・」
『食らえ!!』
するとヘルムホルツのワンドナイツRがレーザー砲を構えたまま突っ込んで来た。
「甘い!!」
だが、エヴァは片手に高熱を発生させると、突っ込んでいきレーザー砲を溶かした。
『な・・・!』
驚愕するヘルムホルツ。そこへ上からエヴァの蹴りが叩き込まれ、地面に落ちていった。シンジは残ったランクのワンドナイツRを見る。
「大丈夫ですよ、全員途中でブースターでも使って激突を避けてますよ。ま、もう戦闘は無理でしょうね。どうします? お仲間を助けに行きますか?」
『・・・・何故、一思いにやらない? お前なら俺達を簡単に捻り潰せるだろう?』
「今の僕のする事はフェイさんにエリィさんへの道を開く事です。それに貴方達はエリィさんの部下でしょう? 流石に殺すのは気が引けますよ」
苦笑いを浮かべ答えるシンジにランクは言った。
『甘いな・・・そんな事じゃ、いつか後悔するぞ』
「そんなの、とっくの昔に分かってますよ〜だ」
『何?』
「で? どうするんです? 戦うんですか?」
ブンと両手に光の鞭を発生させるエヴァ。ランクはフゥと息を吐くと、無言で仲間が落ちた方へと向かった。それを見てシンジはニコッと笑うと、彼とすれ違いに来るギアを見て目を見開いた。
それはリコのシューティアだった。
「リコさん?」
『シンジ! 何だ、今のギアは!?』
「あ、気にしないでください。僕が懲らしめましたから・・・にしても、やっぱり来たんですね〜」
『勘違いすんな! 俺は奴らが気に食わないから潰すんだ!!』
それを聞き、シンジはフッと笑う。
「分かり易いですね」
『後はあのデカイ奴だけか!?』
「ええ、そうですね。じゃ、ちょっくら行くとしますか」
「これを見ろ! お前は今、自分が何をやってるか分かってるのか!?」
フェイは眼下に広がる燃え盛る街をエリィに見せ付けた。彼女を無理やりギアから降ろし、フェイはエリィに自分達のしている事を認識させているのだ。
「あの艦がどこに向かってて、その結果がどうなるか知ってるのか?」
「・・・・・・・・・・」
「人の国に土足で上がりこんで人が死んでいくことが楽しいのか!」
「楽しいわけないじゃない!!」
すると今まで黙っていたエリィが叫ぶようにして答えた。
「私だってこんなの間違ってると思うわよ! でも、変えられない・・・変える勇気が無いの・・・私は貴方のように自分の望む居場所、仲間があるわけじゃないし、自由でもない・・・そんなこと、できない。従わなかったら・・・私は今の居場所と部下を失くしてしまう・・・」
目を潤ませて言うエリィにフェイは拳を握って言った。
「俺にも・・・・今は居場所が無いよ・・・」
「え?」
「バルト達は・・・砂漠で艦ごと沈められた・・・今の俺には戦う理由が何のか分からない。ひょっとすると、他人が作ってくれた理由をその都度拝借しているのかもしれない・・・それでも、あの戦艦を原子炉に突っ込ませるわけにはいかない」
「フェイ・・・」
エリィは顔を俯かせ、フェイと顔を合わせれなかった。
「それで・・・良いかもしれない・・・」
「「!!?」」
すると、そこへ聞いた事の無い声が届き、フェイとエリィはそちらを向いた。そこにはゲブラーの制服を着た蒼銀髪の少女がいた。
「貴女は・・・」
この任務には自分と特務部隊、そしてゲブラーでもエリート中のエリートであるエレメンツの一人であるドミニアしか参加していない筈だった。エリィは少女が何者か分からず、眉を顰めた。
少女はフェイを見ると、上空に佇むヘヒトを見上げた。
「人は・・・・生きる為に生まれてくる・・・だから・・・戦う理由が分からなくても良いかもしれない。それが貴方の意志で、貴方が望む事だから・・・それが戦う理由になるかもしれない・・・」
そう言われ、フェイは目を見開いた。
「君は・・・」
少女はフェイとエリィを見ると、小さく微笑んだ。
「行ってあげて・・・きっと・・・彼も待ってるから・・・」
フェイは頷くと、ヴェルトールに乗り込んでヘヒトに向かっていった。エリィは飛び立ったヴェルトールを見ていたが、少女の方へ振り向いた。
「貴女は・・・・何の為に戦うの? 貴女の意志は何? 人は・・・思い一つで自分の居場所を作れる筈よ・・・彼が・・・そうであるように・・・」
そう言われ、エリィは震えながら唇を噛み締めた。目を閉じて頭を押さえる。
「私の・・・思い・・・私の・・・居場所・・・」
やがてエリィは顔を上げると、無言でヴィエルジェへと乗り込んだ。飛び立つヴィエルジェを少女は微笑みながら見上げていた。
「どうして姿を消したんだい?」
すると背後から声をかけられ、少女は微笑を消して振り向いた。そこにはポケットに手を入れて微笑んでいるカヲルがいた。
「惹かれているんだろう? シンジ君に・・・」
「ええ・・・」
「恥ずかしいのかい?」
少女は顔を真っ赤にして俯いた。
「この気持ちが・・・何のか分からない・・・でも・・・嫌じゃない・・・」
「そうだね。どうして僕らが見ず知らずの彼に惹かれているか分からない・・・けど彼は微笑んで僕らを受け入れてくれた」
「彼は私を妹だと言ったわ」
「僕を親友だと言ってくれたよ」
二人は互いに同じ色の瞳にそれぞれの姿を映す。そして、カヲルは以前、シンジが話した事を少女に語った。
「シンジ君は親友を自分の手で・・・自分の意志で殺したそうだ。そして、二人の大切だった女性を見殺しにした・・・」
「・・・・そう」
「彼は繊細だ・・・そんな事があったなら絶対に立ち直れない」
「そうね・・・」
「それでも彼が微笑んでいるのは・・・・何故だろうね?」
カヲルが問うと少女は空を見上げた。視界は煙によって夜空は隠れ、炎が燃え盛っている。その中でヘヒトが戦闘を繰り広げていた。
「それを見極めたい・・・だから僕はシンジ君と共に行くよ」
「・・・・けど、私達はプロトアイオーン。彼の敵よ・・・」
「いずれ戦う時が来る。それまで僕はシンジ君の親友として、彼といるよ」
「bP7・・・」
「今はナギサ・カヲルさ。シンジ君がくれた親友の名前だよ」
「なら私も・・・・アヤナミ・レイよ」
二人は互いに微笑むと、空を仰ぐ。
「後一人・・・」
「え?」
「シンジ君が大切だった二人の女性・・・一人がアヤナミ・レイという名前だったら、もう一人は誰だろうね?」
「・・・・知らないわ」
レイは僅かに不機嫌そうに答えた。それにカヲルは苦笑する。
「シンジ君、言ってたよ。一人は会える、けどもう一人は絶対に会えない・・・って」
「そう・・・」
レイはギュッと胸の前で手を握った。頭の中に違う声が響いたようだった。
『笑えば良いと思うよ・・・』
こんな言葉、聞いたことない。だがハッキリと頭の中に木霊した。ボンヤリと何かが浮かんでくる。黒い髪に黒い瞳。自信の無さそうな・・・悲しそうな表情。
「(一体・・・誰・・・?)」
その頃、ヘヒトではシンジとリコが奮戦していた。
『ふ・・・薄汚いラムズどもが』
ヘヒトを操っているのはエレメンツのドミニア。ユーゲントにおいてトップの者に与えられる称号だ。かつてシタン、シグルド、ラムサス、ミァンもそのエレメンツであった。
ドミニアは主であるラムサスに絶対の忠誠を誓い、地上人を徹底的に嫌っていた。
『おい、シンジ! テメェ、あのランカーぶっ倒した奴で何とか出来ねぇのか!?』
ヘヒトのレーザーを避け、リコが回線の向こうから怒鳴ってくる。
「やっても良いですけど、それじゃあ残骸が原子炉に落っこちてしまいます。まずは、こいつの軌道を変えないと・・・」
エレメンツであるドミニアは、エリィが遣ったエアッドもあっさりと使える。全方位をエアッドが取り囲み、ビームを放ってくる。
「このっ!」
光の槍を打ち出すが、ヘヒトの防御力は高く大したダメージを与えれない。
『シンジ君、リコ!!』
そこへ、ヴェルトールに乗ったフェイが駆けつけ、エアッドの間を掻い潜ってヘヒトに拳を叩き込んだ。ドミニアも突然の攻撃には対応し切れなかったようだ。
『遅いんだよ、テメェ!!』
『悪い・・・』
怒鳴りつけるリコに謝り、ヴェルトールはエヴァとシューティアと並んだ。
『どうする? 落ちるまで、そんなに時間ないぞ』
「そうですね〜・・・」
シンジはエアッドのビームからATフィールドで自分達を防御しながら、どうしようか考えた。
「あ、そうだ。何だ簡単だったんだ」
『え?』
「じゃ、フェイさん、リコさん後はよろしく〜♪」
言うや否やシンジはATフィールドを解いて、ピョンとヘヒトから飛び降りた。
『な・・・あ、あいつ逃げやがった!?』
『シ、シンジ君?』
あの大胆不敵なシンジが敵を目の前にして逃げるなど信じられず、フェイは呆然となる。
『何処を見ている!!』
『『!!?』』
ドミニアが叫び、再びエアッドが撃ち出されフェイとリコはハッとなった。だが、その瞬間、ヘヒトを下からエヴァが貫いた。
『な・・・!?』
ドミニアは驚きを隠せなかった。エヴァはロンギヌスの槍を持っており、ヘヒトを簡単に貫いたのだ。
『シンジ君!』
「いや〜、良く考えたら真下ってがら空きでした」
でかいモノほど足下が疎かになる。そう言ってシンジは苦笑いを浮かべた。
ヘヒトはバチバチと放電し、ドミニアは唇を噛み締める。
『くっ! こうなったら原子炉だけでも・・・!』
するとヘヒトがガクンと揺れた。脱出ポッドが飛び、ヘヒトはまっすぐ原子炉に向かって落下して行く。
『な・・・!?』
『まずいぞ!!』
ヴェルトールとシューティアは慌てて下に向かって、被害を少しでも少なくするようヘヒトの軌道を変えようとギアで押す。
「ちっ!」
シンジもそれに加勢しようとするが、ドクンと胸が高鳴った。
「(何だ・・・この感じ・・・)」
ドクンドクンと胸はどんどん激しく鼓動する。既視感というか何か嫌な予感がした。
『フェイ!!』
すると回線からエリィの声が入って来てハッとなった。見るとヴィエルジェもヘヒトを支えるのを手伝っていた。
「(まずい! 三機じゃ軌道を変えても住宅街に・・・!)」
シンジは急いで三機に通信を開いた。
「フェイさん、リコさん、エリィさん離れて!!」
『え? な、何言って・・・』
『そんな事したらヘヒトが・・・』
「良いから!!」
珍しくシンジに叫ばれ、三人はヘヒトから離れた。エヴァは落下してくるヘヒトに向かって手を広げ、もう片方の手を住宅街に向けた。するとキスレブ全土に結界が張られた。
そして、もう片方の手からは特大の加粒子砲が放たれた。加粒子砲はヘヒトを飲み込み、粉々にする。落下物は流星のように降り注ぐが、結界によって遮られた。
『何て・・・野郎だ・・・』
呆然としたリコの言葉がフェイとエリィの胸中を代弁した。あの巨大なヘヒトを粉々にし、帝都中を覆う結界。正に脅威としか言いようが無かった。
ビーッ、ビーッ!!
「『『『!!?』』』」
その時、四人の機体の警報が鳴った。
『な、何だ!?』
『何かが・・・落ちて来る・・・』
『な、何、これ!? ヘヒトより巨大な質量・・・!』
「(まさか敵の本当の狙いは・・・!)」
さっきの嫌な感じはコレだったのか。シンジは目を見開き、空を仰いだ。すると夜空の中から巨大な何かが落ちて来た。目のような模様が付き、前衛的なフォルムをしたソレにはシンジが見覚えがあった。
『な、何だアイツは!?』
「サハクィエル・・・」
エリィも知らない所を見ると、どうやらゲブラーが管理しているプロトアイオーンではないようだ。どちらにしろ、アレが落ちたらヘヒトが原子炉に落ちただけじゃ済まない。この辺一体が海となってしまうだろう。
『野郎!!』
「待って、リコさん!!」
止めに入ろうとしたリコをシンジが制止した。フェイとエリィも飛び出そうとしたが、思わず止まってしまう。
「多少の爆発と衝撃は覚悟してください」
そう言うとシンジはロンギヌスの槍を引く。そして落下してくるサハクィエルに向かって槍を飛ばした。槍はサハクィエルを貫き、やがて大爆発が空中で起こった。
その時、シンジは閃光の中に翼の生えた・・・グラーフのギアが見えた。
To be continued...
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