第十六話
presented by ジャック様
「さて・・・どうやってキスレブから出ますか?」
シタンの言葉にフェイ、エリィ、シンジは考える。ちなみにカヲルは離れて見ている。ゲブラーの急襲を退け、フェイ達は騒ぎで空き家になった家を借りて今後の事を話し合っていた。
キスレブから出たとしてもアヴェには戻れない。だとすればアクヴィに行くしかないのだが、イグニスのような大陸と違い、海の多い諸島群なので歩きでは無理なのだ。
「船か・・・飛空挺みたいなのを調達しないとな」
「う〜ん・・・」
四人が考えていると、ハマーが家の中に飛び込んで来た。
「大ニュース! 大ニュースッスよ〜!」
「何だ、ハマー?」
「はい! 実は此処から北の工場に新造戦艦があるんスよ! 何でも一機でアヴェを潰せるぐらいの代物だそうッス!」
それを聞いてフェイ達はザワついた。そしてシンジは恐る恐る尋ねる。
「フェイさん・・・もしかして、盗む気満々ですか?」
するとフェイはニヤリと笑みを浮かべてシンジを見返した。
「バルトの海賊魂に感謝だな」
「あはははは〜」
シンジは乾いた笑みを浮かべてパチパチと拍手した。
「そうだ、ハマー君。リコさんはどうしたんだい?」
ふとカヲルが尋ねると、シンジ達の視線が集まる。
「キングは・・・また行方不明ッス」
「そうか・・・リコの奴、此処にいてもお尋ね者なのに」
「彼には彼の道があるのです。私達が口出す権利はありません」
シタンに言われ、フェイは「ああ・・・」と頷いた。
「ねぇ・・・その北の工場って切り立った山脈を越えた所なの?」
「え? え、ええ。そうッスよ」
突然、エリィに尋ねられ、ハマーが頷いた。
「エリィ、知ってるのか?」
「ええ。そこ、貴方のギアを奪取しに潜入したもの・・・でも、そんな戦艦まで造ってたなんて・・・」
「んじゃエリィさんは案内してくれます?」
「ええ」
エリィは頷き、それにシンジとフェイが同行する事にした。シタンは工場内のギアをシンジ達が始末した後、カヲル、ハマーを護衛しながら付いて来る事になった。
キスレブを出ようとシンジ達は最初の関門にぶち当たっていた。それは入り口に見張りがいる事だ。リコを助けた事で彼らもお尋ね者扱いだ。
「どうする?」
「他の道も同じよ?」
「・・・・・・・・強行突破?」
「それじゃあ物騒・・・」
「あ!! 貴様ら指名手配の・・・」
などと相談していると兵士の一人が気がついた。他の二人は前から気付いていたようだが、相手が相手なので見て見ぬ振りをしていたようだ。
「やっぱり強行突破ですね♪」
「楽しそうだな、シンジ君・・・」
「こんな性格だったのね・・・」
シンジは楽しそうに、フェイは仕方無さそうに、エリィは悲しそうに構えた。そして戦闘が始まろうとした瞬間、シンジ達の間にリコが入って来て見張りの兵士達をぶっ飛ばした。
「リコ!?」
「あれま・・・」
フェイとエリィは驚き、シンジは構えた拳をどうしようか困ってしまった。
「お前、何で・・・」
「気が変わった。俺もお前達と共に行く」
「は?」
「勘違いするな。ゴリアテ奪取まで付き合うだけだ。その後は適当なトコで降ろしてくれ」
結構、勝手ではあるが此処にリコがいても犯罪者扱いなので、断る理由は無い。
「でもリコさん、首輪・・・」
「む・・・」
そう言われてリコは自分に爆弾首輪がくっ付いてるのを見る。これは帝都から出ると爆発する仕組みなのだ。
「ちょっと待ってください」
指をワキワキさせてシンジは首輪に触れた。そしてイロウルの力を使う。するとバチッと電流が走り爆弾の機能を破壊された。
「ほい、これで帝都から出ても大丈夫ですよ」
「本当か?」
「ええ。嘘だったら僕も一緒に死んであげます」
そう言われリコは信じる事にして、街から出て行った。フェイはシンジの背中を見ながら遠い目をする。
「シンジ君・・・・俺のは解除してくれなかったのな」
「・・・・・・・・・」
それだけで何があったのか察したエリィはフェイに同情し、少しばかり涙が出たのだった。
「はい、邪魔」
ドバキャァッ!!
工場内に入ったシンジ達は防衛用のギアを破壊していった。後ろにはシタン達が来易いようにギアの残骸が積まれている。
『凄いわね、シンジ君』
エリィは素直に感嘆の声を漏らした。フェイ達が何発も攻撃して倒せるギアをエヴァは、ほぼ一撃で倒すのだ。リコのシューティアよりパワーがあり、エリィのヴィエルジェよりスピードがある。正に最強だった。
「はははは! 僕がいる限り負けるなんてあり得ませんね♪」
ぶっちゃけ今のシンジとまともに対抗できそうなのはグラーフか砂漠で戦った赤いギアである。それでもS2機関を解放すれば勝てる。
思えば、あの赤い世界じゃどんな強い力でも使い道が無かった。微妙にストレスが溜まっちゃったりしてたのだが、此処じゃ戦闘し放題だった。
・・・・・・昔の自分からはとても想像できない。
『エリィ、ゴリアテの所までまだ掛かるのか?』
『そんなに掛からないと思うわ。貴方のギアだって結構、奥にあったんだし』
そう言い、四人は更に奥へ進むとゴリアテを発見したが、巨大なギアが一機、立ち塞がった。が、
「何だ、自動操縦じゃん。つまんない」
ボシュンッ! ボシュンッ!!
光の槍を連発で撃ち込んで停止させたシンジ。もはやフェイ達も唖然とするしかない。やはりヘヒトを消滅させた力は伊達ではないようだ。
「あれ? どうしたんです、皆さん?」
『『『・・・・・・・・』』』
普通にゴリアテに入って行くシンジにフェイ達は揃って溜め息を吐いた。
「どうも、遅くなってすいません」ゴリアテのブリッジに遅れてシタン達がやって来た。既にシンジが操縦席に座ってスタンバッている。
「シンジさん、どうなんスか?」
ハマーが尋ねてくるとシンジはフッと笑みを浮かべ、両肘を突いて顔の前で手を組んだ。
「問題ない」
「そうっスか」
「・・・・・・・・」
「ではシンジ君、私が操縦を代わりましょう」
「・・・・・・・・」
「シンジ君、凄かったな〜。俺達、殆ど何もしなかったもんな」
「・・・・・・・・」
「本当よね。エレメンツ以上だわ」
「・・・・・・・・」
「一戦交えてみるか・・・」
「・・・・・・・・」
「どうしたんだい、シンジ君? さっきから黙ってて・・・」
「いや・・・何でもないよ」
やっぱり異世界だな〜とシンジはしみじみと思った。折角、神経すり減らしたボケをかましたのに、何の反応も無かったのはやはり寂しい。
シタンに操縦席を譲り、思いながらゴリアテは発進した。
大空を飛ぶキスレブの新型艦。フェイやハマーは物珍しさに窓から外を眺めている。そんな様子をカヲルとエリィは苦笑しながら見ていた。リコは壁にもたれ掛かって静かにしている。そしてシンジとシタンは座って前方を眺めていた。
「良いですね〜、空の旅って」
「そうですね」
「青い空、白い雲、飛び交う鳥達・・・」
のほほんと先を見つめるシンジ。
「そして迫り来るグラーフのギア・・・」
「お、本当だって何ぃ!?」
思わず頷いたフェイは見事なノリツッコミで前方を見た。確かに前方からグラーフがギアの肩に乗って迫って来ていた。
「どうやら僕らを先に行かせないみたいですね〜・・・・しょうがない」
どっこいしょ、とオッサン臭く立ち上がったシンジはブリッジから出て行く。
「ちょ、ちょっとシンジ君!?」
「あ〜、僕一人でやりますよ。まだフェイさん達には荷が思いでしょうから」
バイバイと手を振って、シンジは出て行った。
ゴリアテの甲板でシンジはグラーフと対峙していた。グラーフの後ろには彼のギアが佇んでいる。「貴様一人か・・・」
「他の人は巻き込みたくないんでね・・・どうしても邪魔するって言うなら」
ゴキッと指を鳴らし、ゼルエルの力で拳にATフィールドを纏わせて強化する。するとグラーフが気弾を放って来た。
すかさずシンジはATフィールドを張って防ぐと、グラーフが目前まで迫ってきて蹴り飛ばす。
「のわぁ!?」
上空だけあって風が強く吹っ飛ばされると翼の方まで飛んでしまった。ガシッと翼に捕まり、何とか態勢を立て直す。だが、グラーフは目前まで迫って来た。
「このっ!!」
互いの腕をぶつけ合い、硬直する。そこからパンチとキックの応酬。モニターで見ていたフェイ達はもはや何が起こっているか分からなかった。
「ぬぅ!」
「ぐっ!」
シンジとグラーフは互いの顔面に拳を叩き込み、双方が吹っ飛んだ。二人は翼の端同士に膝を突き、互いを睨み合う。
「(しゃ〜ない・・・このままじゃ埒があかないし・・・いっちょ、カヲル君に賭けてみるか)」
ポリポリと頬を掻くと、シンジはグラーフに向かって駆け出した。
「愚かな! そのような直線的な動きでは・・・・」
ドシュッ!!
「!!?」
グラーフがカウンターの手刀を繰り出して来ると、シンジの腹を貫いた。
「な・・・シンジ君!?」
モニターで見ていたフェイ達は突然のシンジの行動に驚愕した。その中でカヲルはシタンに向かって叫んだ。
「シタンさん! 機体を傾けて奴ごとシンジ君を落として下さい!」
「え?」
呆然とするシタンに、じれったくなったカヲルは身を乗り出して操縦桿を握る。
「皆さん、何かに掴まってて下さい!」
言うと機体が大きく傾いた。モニターの向こうではシンジとグラーフがギアと一緒に海へと落っこちて行く。するとシンジが笑みを浮かべていた、カヲルもフッと笑った。
やがて機体が安定し、フェイがカヲルに突っかかって来た。
「どういうつもりだ、カヲル君!? シンジ君を見殺しにする気か!?」
「落ち着いて下さい、フェイさん。あれがシンジ君の作戦なんです」
「作戦?」
「ええ。シンジ君もグラーフとか言う男も本気を出していません。あれで様子見だったんでしょう。ですが、あれ以上、戦うと互いにどんどん本気になっていきます。そうなったらゴリアテは破壊されてしまう・・・だからシンジ君はグラーフ共々落下する事にしたんです」
まるで自分でもそうするかのようなカヲルの言葉。あのシンジが負った怪我は誰が見ても致命傷だ。だが、カヲルの口ぶりはシンジが無事だと確信しているものだった。
カヲルは皆の気持ちに気づいたのか、ニコッと微笑んだ。
「『あの』シンジ君があれぐらいで死ぬと思いますか?」
思えない・・・・それが全員の答えだった。何だか普通に笑って出て来そうな気がして思わず失笑してしまった。
「ちっ・・・逃がしたか」シンジは海に漂いながら舌打ちした。片手と片足が千切れ、腹には穴が空いていた。一応、グラーフも肩を貫いて、腕をへし折ってやったが奴のギアが邪魔してグラーフ共々、何処かへ去って行った。
シンジは腕と足を再生し、ちゃんと神経が通ってるかどうか確認する。腹の穴も綺麗に塞がった。そして静かに波に体を預ける。
「ふぅ・・・海は良いねぇ〜。赤くないっていうのが特に良い。海は青いものなんだよ〜・・・」
今頃、赤い海の中にいるであろうクソ親父とジジィ共に呟く。シンジはフェイ達を追うのは後にして、しばらくゆったりしようかと思った。
ゴゴゴゴゴゴ!!
「へ?」
と思った矢先、何やら海中から巨大な影が浮かび上がった。
ザバァァァァァアアアア!!!そして水面を割って出現する鉄の魚・・・・早い話が潜水艦だ。
「へぶぅっ!!」
浮上した潜水艦にシンジは思いっ切り吹っ飛ばされる。古今東西、潜水艦に吹っ飛ばされる人はそうはいないだろうとズレた事を考えて、頭から海に落下した。
ドォンッ!!
そして空に向かって放たれる一発のミサイル。シンジはボーっとしながら、そのミサイルは空を飛ぶゴリアテに向かってると認識し、思わず胸の前で十字を切った。
んでもって爆音を立てて煙を上げるゴリアテ。
「どうだぁ! これが、バルトミサイルの威力だ!! わははははは!!」
すると潜水艦から聞き覚えのある品の無い笑い声がした。シンジは眉を寄せて、頭の中に一人の海賊王子を思い浮かべた。
するとゴリアテがこちらに向かって落っこちて来ているのが見えた。
「って、おい・・・ちょっと待て・・・・こ、こっちに・・・・来るんじゃねえ!!」
ゴリアテが来るので潜水艦は慌てて海中に逃げ込んだ。シンジは溜め息を吐いて、ATフィールドを張った。いっそ、ミサイルを撃った人物の血で海を赤くしてやろうかと思っちゃったりした。
To be continued...
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