第十八話
presented by ジャック様
突然の来襲だった。海中からの攻撃にユグドラシルは酷い損傷を受けた。相手はゲブラーの水中用戦闘ギア、ハイシャオだった。
『ふん、キスレブの奴か。生きていたとはな』
水中で戦えるのはバルトのブリガンティアが少しだけで、完全に戦えるのはシンジのエヴァだけだった。
ハイシャオに乗ってるのはキスレブを襲撃してきたヘヒトを操っていたドミニアだ。
『それに砂漠で死んだと思っていた海賊どもまで生きていたとはな・・・丁度良い。この場で始末してやる』
『燃料も残り少ないわ。余り無茶をしては駄目よ』
ハイシャオにはもう一人搭乗していた。ドミニアと同じエレメンツのケルビナという名の女性だ。瞳を常に閉じており、その理由は高過ぎるエーテル力を抑制している為だ。
「(やれやれ・・・よりによってこんな時に・・・)」
シンジは溜め息を吐くと、センサーがピピッと反応した。すると上からヴェルトールとヴィエルジェが降りて来た。
『バルト! シンジ君! 無事か!?』
『フェ、フェイ!?』
「お、やっぱり生きてましたか」
バルトはフェイが生きている事に驚き、シンジはニコッと笑った。どうやら前回、勝手に殺していた事は忘れてるようだ。
一方、ドミニアはヴィエルジェを見て、声を荒げた。
『貴様、エレハイムか!?』
『ド、ドミニア!?』
エリィもドミニアがいる事に驚きを隠せず、動揺した。
『何故、貴様がラムズと一緒にいる!?』
『それは・・・』
グッとエリィは言葉を詰まらせた。が、意を決して顔を上げて言い返した。
『私達と彼らの何が違うと言うの? 彼らだって同じ世界に生きている人間よ!』
『私にとってラムズだろうがアバルだろうが関係ない。あるのは個々の能力の差だ!』
ドミニアは純正なソラリス人ではない。元は地上の人間で、ソラリスに被験体としてソラリスに連れて行かれた。そこでラムサスと出会い、その潜在能力を買われてエレメンツへにまで昇りつめた。
ドミニアにとってラムサスこそが絶対で、彼の思想である能力主義が彼女の理念でもある。だからドミニアはエリィを嫌っている。エレメンツ並の能力を持ちながら使おうとしない彼女の考えが理解できないのだ。
『それが分からぬなら・・・・私が貴様に引導を渡してやる!!』
そう言うとハイシャオのシザーアームがヴィエルジェを襲う。
ガキンッ!!
だが、それを両側からエヴァとヴェルトールの拳が挟んで止めた。
「やれやれ・・・随分と熱い方ですね。そういう人は嫌いじゃないですよ?」
『大丈夫か、エリィ!?』
『え、ええ・・・』
頷くエリィを見て、ドミニアはシザーアームを引くと、フッと軽蔑するような笑みを浮かべた。
『なるほど・・・結局は男という訳か』
『な・・・ち、違う! これは私の意志よ!』
『愚かだな、エレハイム。薄汚いラムズに塗れて生きるという訳か・・・』
『あなたが、ゲブラーが智者の摂理というのなら・・・私は・・・私は愚か者で構わない!!』
そう言うと、ヴィエルジェはハイシャオに突っ込んでいった。
「!!?」
シンジは何かに気付き、ハッと目を見開くと水中に凄まじい衝撃が発生した。
『何!?』
『コ、コントロールが・・・!』
その衝撃はハイシャオの巨体をも揺らした。
『きゃあ!!』
するとケルビナの乗っていたコックピット部分のハッチが吹っ飛び、彼女は水中に放り出された。
「く・・・ごふっ!」
すると水圧で体が圧迫され、血を吐く。
「(まずい!)」
シンジは彼女をATフィールドで包んで保護すると、掴んでエヴァのコックピットに入れた。気絶しているケルビナを膝に乗せ、シンジは衝撃波のした方を見る。
『ケルビナ! 貴様、ケルビナを返せ!』
「五月蝿いですね!! ちゃんと返しますから、後にして下さい!!」
放たれたシザーアームを避け、シンジはジッと暗い海中を見つめる。すると巨大な魚が凄まじいスピードでこちらに向かって来た。
「(ガギエル!)」
やはり、先程の衝撃波はガギエルのものだった。
『な、何だ、あの魚!?』
「フェイさん、バルトさん、エリィさん逃げて!! あいつ、ギアでも簡単に飲み込みます!!」
昔、上半身丸呑みされた記憶が蘇り、シンジは叫ぶ。するとガギエルは再び衝撃波を放ってきた。シンジは避けようとするとハッとなった。此処で激しく動けば機体が大きく揺れて、ケルビナにかかる負担が大きくなる。内臓を損傷している可能性があるので、それは出来なかった。
「この!」
すかさずATフィールドを張るが、衝撃だけは防げなかった。
『きゃあ!』
「『『!!?』』」
その時、エリィの悲鳴が聞こえた。ヴィエルジェがハイシャオに捕まっていた。
『エリィ!?』
『ケルビナと交換だ! エレハイムは預かって行く!!』
どうやら燃料が尽きかけており、ケルビナの乗っていたコックピットから水が入ってきたようなのでハイシャオはヴィエルジェを捕らえて、そこから離脱していった。
『エリィ!』
『落ち着け、フェイ! まずはアイツだろうが!!』
追いかけようとするヴェルトールを押さえ、バルトはガギエルを指す。シンジも普通なら楽勝で勝てる相手なのだが、戦えば衝撃がある。舌打ちすると、静かに目を閉じ、S2機関を解放した。
するとエヴァから凄まじいエーテル力が発生し、ガギエルはビクッと身を竦ませた。シンジはエヴァの中から鋭い目でガギエルを睨み付ける。
キエロ・・・シトゴトキガ・・・
ガギエルはビクビクとなって、何処かへと去って行った。「ふぅ・・・」
S2機関を長い間、解放してるのは疲れるのですぐに抑え込む。
『おい、シンジ。どうすんだ、その女?』
「・・・・・・・・・とりあえず治療しますか」
ユグドラシルは修理の為、タムズに寄る事になった。その移動中、シンジはケルビナを医務室に運んだ。船医もシタンも追い出し、彼女をベッドに乗せると、とりあえず服を脱がし始める。やがて豊かな胸が露になったが、なるべく見ないように視線を逸らし、内蔵が無事かどうか確かめる為、手を添える。
「う・・・ん・・・」
するとケルビナが声を上げた。シンジはビクッとなるが、目を閉じているので気が付いていないと思った。が、彼女の顔はカーッと赤くなり、
「き、きゃああああああああああ!!!!」
どごっ!!
「はぐっ!!」
顔を真っ赤にしてケルビナは渾身の力で殴り飛ばした。シンジは壁に激突し、ピューピューと血を流す。ケルビナは無理をしたせいか、コフッと血を吐いた。
「あ〜、もう。内臓損傷してるんですから動かないで下さい」
「ち、近寄らないで! 貴方は敵・・・けほっ! けほっ!」
「エリィさんが攫われたんです。それで貴女と人質交換と言ってましたから、とりあえず無事に治療しないと・・・」
そう言って近づき、無理やりベッドに寝かせる。ケルビナはハッとなって胸を手で隠した。シンジは苦笑して息を吐くと、彼女の腹部に触れた。
「ちょっと我慢してください」
ニコッと笑うと、ATフィールドを腹部に当てる。ゼルエルの力はATフィールドで包んだものを強化する事だ。なら、こうして全体を包んで自己治癒力を強化できるかと思った。ぶっちゃけ初めてなのだが、ケルビナの顔色は良くなっていった。
どうやら成功したようでシンジは安堵の溜め息を零す。
「もう良いですよ」
そう言われて起き上がると、服を着直して改めて辺りを見回した。
「此処は?」
「ユグドラシルの医務室です。あ、自己紹介が遅れました。僕はイカリ・シンジ・・・あの紫の機体のパイロットです」
「貴方が?」
ケルビナは信じられなかった。あれほどの力を持つ機体のパイロットがこのような少年だという事に。シンジはニコッと微笑むと、ケルビナは視線を逸らした。
「おい、シンジ。気が付いたのか?」
と、そこへバルトが入って来てケルビナがハッと身構える。
「大丈夫です。一応、バルトさんは人畜無害なんで」
「おい、それじゃあ俺が有害に見えるみたいじゃねぇか!?」
「え?」
「何で不思議そうな顔すんだよ!?」
「まぁ99.98%本気のジョークは置いといて・・・」
もはや突っ込む気すら失せたバルト。
「僕はこの人をゲブラーの所まで送って行きますね」
「は? ちょ、ちょっと待て!!」
その言葉にバルトは目を点にして突っかかって来た。ケルビナも驚きを隠せないようだ。
「お前、それじゃあエリィって奴はどうすんだよ!?」
「・・・・・・・バルトさん」
ポンとシンジはバルトの肩に手を置いた。
「僕を何だと思ってんです?」
その一言でシンジのやりそうな事を察したバルトは溜め息を零した。
「お願いですから暴れないで下さいね」
「分かってるわ・・・」
シンジはケルビナを膝に乗せ、エヴァで空を飛んでいた。彼女の話だとゲブラーは空中戦艦で来ているらしい。ケルビナは普通のギアとは違うエヴァのコックピットを物珍しそうに見回した。
「とても・・・あのヘヒトを破壊したようには見えないわね」
「でしょうね」
クスッと笑うシンジ。ケルビナはとてもこの少年が自分達と敵対しているように思えなかった。まるで状況を楽しんでるような・・・・そんな感じだった。
そして重傷だった自分を一瞬で回復させたあの力。ただのエーテルでは説明がつかない。ケルビナはそういう意味でシンジに興味を持った。
やがてゲブラーの空中戦艦が見えてきた。
「お、あれですね」
シンジは普通に戦艦に向かって行くと、唐突に向こうから砲撃して来た。
「うわ!? な、何ですか!?」
「未確認の機体を近づける筈ないでしょ」
「あ、そうか」
言われてシンジはハッとなった。砲弾の嵐をかわしながらどうしようかと考える。ケルビナとしては考えながら普通に砲弾を避けまくってるシンジに素直に驚いている。
「あ、そうだ」
すると何か閃いたのか、シンジはエヴァを急上昇させて空中戦艦の真上に来た。下から砲撃が来るが、結構な高度にいる為、中々当たらない。
「ケルビナさん、しっかり捕まってて下さい♪」
「え?」
シンジはおもむろにコックピットを開くと、ケルビナの肩に手を回した。
「え? ちょ、ちょっと貴方まさか・・・」
サーッとケルビナは顔を青くし、シンジは空中戦艦に向かって飛び降りた。
「きゃああああああああああああ!!!!!」
「暴れないで下さいってば!!」
悲鳴を上げるケルビナを他所にシンジは余裕しゃきしゃきで生身でありながら砲撃を避ける。空中じゃ身動きが取れない筈なのにとケルビナは自分の常識が崩れていくような気がした。
「よっと」
ズンッ!!
凄い音がしてシンジは空中戦艦に着地した。恐る恐る足を見ると、挫いた様子も無かった。風が強く吹き飛ばされそうながらも、シンジは安定してケルビナを抱きかかえており、加減して光の槍を放って穴を空けると、その中に入った。
「・・・・・・・・・・おろ?」
「あ〜! ケルビナちゃんだぁ〜!」
「おう、ケルビナじゃねぇか」
入った所は思いっ切りブリッジで、ゲブラー兵達がポカンとシンジとケルビナを見ている。するとピンクの髪の少女と、白髪の男っぽい少女が声をかけてきた。
「トロネ、セラフィータ・・・」
ケルビナはシンジの腕から降りると、同じエレメンツのトロネとセラフィータを見る。
「何だ、この優男?」
「あ、初めまして。イカリ・シンジと申しますが・・・あの、エリィさんはご在宅でしょうか?」
ご在宅?
何だか言葉の使い方が違うような気がして、約一名以外が心の中で突っ込んだ。で、その約一名は、
「はい、初めまして! 私はセラフィータです! あのね、エリィちゃんならとっくに帰っちゃったの」
「マジッすか!?」
「マジッす!!」
グッと親指を立てて頷くセラフィータ。
「なぁ・・・ケルビナ。こいつって敵だよな?」
「ええ、まぁ・・・多分・・・」
余り自信は無いが頷くケルビナ。すると兵士達がシンジに向かって銃を向けてきた。それは当然の行為だが、シンジは全く気づいてなかった。
「はぁ! しまった!」
が、突然、シンジは頭を抱えて膝を突いた。皆はビクッとなって銃を下げた。
「僕とした事が余所様の所へ来るのにお土産を忘れるなんて!!」
「お前、何しに来たんだよ!?」
変な所で後悔するシンジにトロネが突っ込んだ。
「うう・・・礼儀を重んじる僕がこんなミスを犯すなんて・・・・実家に帰れないいいいい!!!」
異世界なので実家も何もあったもんじゃねぇが、シンジには重大なようだ。それを見てセラフィータがポンと彼の肩に手を置いた。
「気にしなくて良いよ〜。私達だっていきなり来るから、おもてなしの準備してなかったんだもん。だからお相子♪」
「あ、ありがとうございます・・・」
シンジはセラフィータの手を握って涙しながら礼を言った。
「うんうん」
「何か微妙な所で意気投合してねぇか、こいつ等?」
「そうね・・・」
どうやらシンジとセラフィータには常人には理解できない特殊な思考回路が備わってるようだ。良く彼女とコンビを組まされるとトロネも、まさかセラフィータと同じ人種がいた事には驚いた。
「そっか・・・エリィさん帰ったのか。じゃあ僕もお暇しないと」
「え〜!? 一緒に遊ばないの〜?」
「駄目だよ・・・こんな所じゃ鬼ごっこくらいしか出来ないよ」
「二人でしてもつまんない〜」
そういう問題じゃねぇんだが、二人は真剣そのものだった。
「御免ね・・・僕も早く帰らないと、甲斐性の無い友人と、弄りがいのある艦長が悲しむんだ」
「そっか・・・じゃあ今度会ったら遊んでくれる?」
「勿論さ!」
親指を立てて歯を光らせて頷くシンジ。
「じゃあ指切りしよう!」
「うん!!」
そうして二人は指切りをした。
「「ゆ〜びきりげんま〜ん。嘘ついたら針千本の〜ます♪指切った♪」」
ピッと小指を離すと、シンジは踵を返した。
「じゃあ・・・またね」
「うん!!」
そしてシンジは駆け出してブリッジから出て行った。ポカーンと一同は空いた口が塞がらなかったが、ケルビナがハッとなった。
「・・・・・・・・逃げられた?」
「「「「「「あ・・・・」」」」」」
To be continued...
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