第十九話
presented by ジャック様
ゲブラーの空中戦艦から帰って来たシンジはタムズに停泊してるユグドラシル内が慌しい事に気が付いた。何事かと思い、ブリッジに行ったらそこは嵐になっていた。
「だぁぁぁ!!! どうすりゃ良いんだぁぁぁ!?」
「どうしたんです、バルトさん?」
頭を抱えて叫んでいるバルトにシンジが話しかける。
「おお! シンジ! いやな、あのエリィって奴が帰って来たんだけどよ・・・」
「あ、それは知ってます。まさか行き違いになってたとは・・・」
暢気なシンジだったが、スクリーンを見て眉を顰めた。スクリーンにはウイルスが侵入したかのように、変な文字が浮かび上がっている。
クルーの人々は何とかしようとコンピューターと睨めっこしていた。
「どうしたんです?」
「エリィの奴、ブリッジに来たら急に変なディスク入れやがって、そしたら自爆装置がONになっちまったんだよ!!」
「うわ・・・」
シンジは嫌な予感がして表情を引き攣らせた。バルトの話では、エリィはその後、倒れて気を失った。どうやら強力な後催眠もかけられていたようだとシタンに言われ、今は医務室でフェイ達が付き添っている。
「くっ・・・若! こうなればユグドラシルを捨てるしか・・・」
「は〜い、ちょっと待ってください」
シグルドの提案を遮り、シンジが前に出た。そしてクルーを横にやって、コンソールを叩く。
「(うわ、やっぱりイロウルだ・・・)」
細菌型の使徒で唯一、戦わなかった敵でもある。どうやらエリィはイロウルの潜んだディスクをセットするよう暗示をかけられていたのだろう。
「これなら何とかなりますよ」
「マジか!?」
「ええ。でも、何か敵が迫って来てるみたいですよ?」
「「!!?」」
するとスクリーンに空から飛んで来る一体のギア、そして海中から迫って来る二体のギアとガギエルが映った。
「あのギアは・・・ドミニアの」
「あ、エリィさん」
ふと後ろから声がかかったので振り返ると、フェイとシタンに支えられたエリィがやって来た。
「あの空から来るギアはドミニアのだわ・・・」
「って事は海中のは、あのラムサスって人ですかね。ゲブラーの戦艦にいなかったですし・・・」
「カール・・・」
それを聞き、シグルドとシタンは目を細めた。
「で? どうするんです?」
「決まってる!! 迎え撃つんだよ!!」
「待って。私も行くわ」
「エリィ!」
ブリッジから飛び出そうとするバルトをエリィが言って引き止めた。フェイは無茶だと言うが、エリィは首を横に振った。
「今の状況を招いたのは私の責任・・・催眠術にかかっていたとは言えね。だから・・・・お願い」
「エリィ・・・」
「・・・・・分かりました。エリィ、私の代わりに言ってください」
「先生!」
シタンの言葉にフェイは食って掛かるが、シタンは眼鏡を押し上げ、いつもの温和な表情を崩して真剣な顔でエリィを見る。
「ただし、貴女が奇妙な真似をすれば私が貴女を撃ちます」
その言葉にエリィはハッとなった。自分は試されているのだ。かつての仲間と戦える事と、軍に背いてまでフェイ達と一緒にいる覚悟を。エリィはギュッと拳を握って頷いた。
「しゃ! 行くぜ、フェイ! エリィ!」
「あ〜! バルトさん、待って!」
と、今度はシンジに呼び止められてバルトは不機嫌そうに彼を睨む。
「ったく! 何だよ、一体!?」
「いえ、ギアはともかくガギエルはエヴァしか倒せませんから・・・・バルトさん、エヴァで出てください」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
かなりの沈黙の後、バルトは大声を上げた。
「っざけんじゃねぇ!! ギアじゃねぇ機体を上手く使える訳ねぇだろうが!!」
「大丈夫ですって。エヴァって精神対応型ですから思った通りに動きます。バルトさんみたいに大雑把な性格だったら『目の前の敵を潰せ』って考えりゃ、後はエヴァが勝手に何とかしてくれますよ」
「・・・・・・・・・・マジ?」
何だか今、バカにされたような気がしたが、バルトはエヴァの性能の凄まじさに呆然としていた。
精神対応型? 何ソレ? と言った感じである。エリィのエアッドも同じ理屈なのだが、ギア自体が精神で動くなど信じられなかった。
「大マジです。まぁ乗ったら最初は歩く事だけ考えてください」
「あのな・・・敵と戦うのに、そりゃねぇだろうが!」
「冗談です。ちょっと言ってみたかっただけです」
「「「「「「??」」」」」」
訳の分からないシンジの発言にブリッジ全員が首を傾げた。
「じゃ、頑張ってください♪」
いまいち納得できなかったが、フェイ達はブリッジから出て行った。
「さて、こっちもやりますか・・・」
ニヤッと笑い、シンジはコンソールを叩きながら電脳世界へのダイブを開始した。
『へぇ〜・・・エヴァのコックピットもギアと大差ねぇな』
青白い空間にシンジは立っていた。シンジは今、三つの精神とシンクロしている。一つはエヴァを介してバルト達の様子を、もう一つはこの電脳世界上を、そしてもう一つがイロウルを倒すように見せかけ、適当にコンソールを叩く本体の様子である。
バルトにはエヴァは考えた通りに動くとは言っているが、実際そうなのだがシンジ以外の命令は受け付けない。故に、こうしてエヴァと遠隔でシンクロしてバルトの命令通り動こうという訳である。バルトの性格だから絶対に考えた事を口に出すと踏んでの算段である。
『うっしゃ! エヴァ発進! ってか』
「(やれやれ・・・)」
フゥと溜め息を吐くと、エヴァの双眸を光らせ、発進させた。
『うお〜! 凄ぇ〜! 本当に考えただけで動きやがったぜ!!』
ヒャッホォ〜イ! とか叫ぶバルトを煩く思いながらもシンジはキョロキョロと辺りを見回した。すると、その時、シンジの体に糸のようなものが巻き付いてきた。
「!? これは・・・」
振り返ると、そこには口から糸を吐き出している蟲のような生物がいた。
「お前がイロウルか・・・」
【オマエ・・・ナンダ・・・?】
やけに機械的な声が返って来た。
「僕はね〜・・・・」
『こるぁ! この魚野郎!! 人様の縄張りで暴れてんじゃねぇぞ!!』
「・・・・・僕は・・・」
『おら、エヴァ!! あの大口開けてる魚を刺身にしやがれ!!』
「・・・・僕はね・・・」
『潰せぇぇぇぇええええ!!!』
「やかましいわぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!」
頭の中に響くバルトの声が物凄く鬱陶しいので、シンジはガギエルに向かって思いっ切り水中衝撃波を放った。
『ぬおおおおおおおおお!!!!?』
するとその衝撃波でエヴァも吹っ飛び、中のバルトは気を失った。
「(喰らえ!)」
そして光の鞭で一瞬でガギエルを切り刻んでぶっ倒す。傍に以前ドミニアが乗っていたハイシャオと未確認のギアと対峙するヴェルトールとヴィエルジェが見えたが、シンジはエヴァをユグドラシルに戻した。
とりあえず一息吐くと、シンジはイロウルに向き直った。
「へぇ・・・カヲル君とアヤナミ以外の使徒と話すのは初めてだな・・・」
と言っても相手は機械的な声を返すだけだった。
【オマエ・・・・ワレワレト・・・オナジ・・・】
「ま、似たようなもんかな。単体だしね〜」
【オマエ・・・ナニ・・・?】
「・・・・・・・・神様♪」
ニコッと笑って、シンジは加粒子砲を放った。
自爆装置が解除された音が響き、ブリッジが歓声に包まれた。
「うし」
「シンジ君、良くやってくれた。ありがとう」
歓声の中、シグルドがシンジの下にやって来て頭を下げてきた。シンジは照れ臭そうに鼻の頭を掻くと、メイソンにお茶を貰えるよう頼んだ。
メイソンは快く頷くと、ブリッジから出て行こうとするとエレベーターが開いてエリィが飛び出して来た。
「シンジ君、お願い助けて!!」
「はい?」
いきなり助けを求められ、シンジは首を傾げる。訳の分からぬまま、シンジはエリィに腕を引っ張られた。
タムズの医務室ではフェイが寝かされており、バルトとシタンが看病していた。エリィが言うには、ラムサスを倒したのだが、最後の悪あがきにヴェルトールを集中的に攻撃し、コックピットに浸水して意識不明になったそうだ。医者は早く治療しないと危険だと言うが、タムズの施設ではどうにもならないと言われた。
「お願い、シンジ君! フェイを・・・」
「あの・・・エリィさん。僕を便利屋の神様か何かと勘違いしてません?」
一応、神様ではあるが余り人を治すのは得意ではない。前のケルビナの治療だって殆ど博打的だったし、今度のフェイは更に重症だ。
神様は神様でも破壊神だと最近、思うようになって来たシンジであった。だが、目に涙を浮かべて縋ってくるエリィに根負けし、シンジはフェイに触れる。
「う〜ん・・・溺死寸前だったみたいですね〜。こりゃ僕でも手に負えませんわ・・・」
「そんな・・・」
「・・・・一つだけ手が無い事も無い・・・」
「「「「!?」」」」
ふと医師の言葉に四人がそちらを向いた。
「教会本部の医局なら助かるかもしれん・・・」
「教会・・・」
その言葉にシンジは眉を顰めた。教会は前から怪しいと思っていた所だ。世界の支配者気取りのソラリスが、何故か高度技術を持っている教会を放っている。この間に何も無いなど考えられない。
だが、エリィ達はそんな事微塵も思ってない様子でフェイが助かるという事だけしか頭になかった。
「しかし・・・何の紹介も無しに教会が医局を貸してくれるとは思えんな。一般人は聖堂以外は立ち入り禁止だからな」
「そんな・・・」
再びエリィは愕然とするが、医師は何か思い出したのか「おお!」と手を叩いた。
「そういえば、今、此処に教会のエトーン<罪をあがなう者>が来ておったわ」
「ほ、本当ですか!?」
「何なんだ? エトーンって?」
「アクヴィエリアに出没する死霊を浄化する事を聖職とする教会の者の事じゃ」
「(死霊・・・ねぇ)」
これまた妙に胡散臭い単語にシンジは表情を顰めた。フェイをユグドラシルに運ぶシタンと別れ、シンジ達は甲板にそのエトーンを探しに向かった。
「あれ? マルーさんじゃないですか?」
甲板に着くと、マルーがタムズの人と話していた。
「おい、マルー。何してんだ?」
「あ、若! あのね、僕もエトーンって人を探してるんだ! それでね、この辺で見たって人がいたんだよ!」
それを聞いてシンジ達は互いの顔を見合わせた。そしてマルーにその事を聞こうとすると、広場の方が騒がしい事に気が付いた。
何かと思い、見てみると十歳ぐらいの少女が大人達に絡まれていた。
「あれは・・・人買いですかね?」
「って、呑気に見てる場合か!」
「助けるわよ!」
言って、エリィは少女の下に走ると少女を庇うように抱き締めた。「何だ、姉ちゃん。どきな!」
人買いの男達はエリィに詰め寄るが、その間にバルトとシンジに阻まれて少し怯んだ。その時、一発の銃声が響いた。
思わず全員が銃声のした方を見ると、人相の悪い顔に傷の入った男性がライフルを担いでやって来た。
「人の娘に手ぇ出そうたぁ・・・どういう了見だ?」
「何だとテメェ!」
「おい、待て!」
人買いの一人が男性に詰め寄ろうとしたが、もう一人が止めに入った。
「あの人相・・・・まさか『ジェサイア』」
「ま、まさか・・・・」
ジェサイアという名前に人買い達は血相変えて、その場から逃げ出していった。男は鼻で笑うと、ゆっくりとエリィに詰め寄りライフルを頭に押し付けた。
「!?」
「お、おい何の真似だよ!」
「うるせぇ! ソラリスの犬が・・・」
エリィの軍服を見て、その男性はソラリスの軍人だと決め付けた。グッとトリガーに力を込めると、そこへシタンがやって来た。
「待ってください!! その短く丈を詰めたライフル、その銃さばき、貴方は、もしや、ジェサイア先輩!?」
その発言にシンジ達は目を見開き、ジェサイアと呼ばれた男はシタンの方を向いた。
「その人をくった口の利き方は・・・・ヒュウガ・・・・か?」
「ええ。違うんです、先輩! 先輩お得意の早とちりです!」
シタンの言葉にジェサイアは眉を顰めると、エリィに抱き締められていた少女がクイッと彼の服を掴んでジーッと見つめてきた。
「だ〜! 分かったってプリム! 俺の勘違いだったんだろ!」
ジェサイアはライフルを引くと、頭を掻き毟ってエリィに謝った。
「悪かったな嬢ちゃん。俺はジェサイア・・・・まぁジェシーとでも呼んでくれ。ジェサイアなんて呼ぶのは小憎たらしい後輩どもで充分だ」
そう言ってジェサイアは少女の頭を撫でる。少女はジーッとエリィを黙ったまま見上げていた。
「こいつはプリメーラだ。ちょっとした事情で口が利けねぇんだ」
「このお嬢さんが、あわてて先輩が御結婚なさったときの?」
シタンがポツリと言うと、ジェサイアは思わず噴出した。
「アホか! 時間考えろ! プリメーラは二人目で、あの時の倅はもう十六だ!」
そう言われ、シタンは「ああ・・・」と頷いた。そこへ先程、マルーと話していた人が「あの〜・・・」と遠慮そうにやって来た。
「先程、話していたエトーンの人・・・いましたけど」
すると全員がそちらを向いた。そこにはシンジより少し濃い目の銀髪にマリッジブルーの瞳をした少年がやって来た。
「貴方が・・・・エトーン?」
恐る恐るエリィが尋ねると、少年は目をキョトンとさせた。
「ええ。ビリーと言います・・・・僕に何か御用ですか?」
「はい。実はお願いがあって・・・」
エリィは仲間が瀕死の重傷を負っているので、教会の医局を貸してもらえるよう口添えしてくれないかと尋ねた。
ビリーは顎に指を当てて「そうですね・・・」と考える。と、そこへジェサイアが声を上げた。
「良いじゃねぇか、それぐらい! こいつ等はプリムを助けてくれたんだぞ」
「!? 親父!? 何で此処に・・・」
「買出しだよ、買出し」
トントンとライフルで肩を叩くジェサイアをビリーは睨みつける。
「親父、また教会の神父に暴行したんだって? 僕の立場も考えてくれよ!」
「はっ! 教会なんぞに入って堅苦しい人間になりやがって・・・ちったぁ他の事にも目を向けるんだな! だからプリムがなつかねぇんだ」
「親父!」
鼻で笑うジェサイアにビリーは突っかかる。が、こちらは一刻を争うので、エリィが割って入って来た。
「あの・・・それで教会の方には・・・」
「あ、そ、そうですね・・・妹の恩人なら分かりました。僕はエトーンでもっぱら外勤が主ですが、本部に掛け合ってみましょう」
「あ、ありがとうございます!」
エリィは本当に嬉しそうにビリーに頭を下げた。
「へ〜。教会ってニサンとは随分、違うんだね」
ふとマルーが呟くと、ビリーはピクリと反応した。
「ニサン? もしや、貴女はニサンの方なのですか?」
「うん。僕、マルー」
「そうなんですか。僕は常々、他宗教の方と話がしたいと思ってました・・・是非、今度ゆっくりと」
「うん。良いよ」
と、あっさり頷くマルーに今まで黙っていたバルトが不機嫌そうに声を上げた。
「ほら、教会で口きいてくれるんだろ、早いとこ行った行った」
というバルトに対して、ビリーは、
「無礼な人ですね。もう少し口のきき方を学んだ方がいいですよ」
とまぁシンジ張りに突っ返すのだった。二人は、互いに絶対に性格が合わないとこの時、確信した。一方のシンジは何となくビリーとキャラが被る気がしていた。同じ銀髪だし、丁寧だし。
「おや? 随分と賑やかだねぇ、シンジ君」
ふと聞き覚えのある声をかけられ、シンジが振り返ると、そこにカヲルと、そしてレイが立っていた。
「あ、お前アヴェの・・・」
「貴女キスレブで・・・」
バルトとエリィはカヲルとレイを見て、それぞれ声を上げた。カヲルはニコッと微笑んで、バルトに頭を下げる。レイはエリィに気付かず、ジッとシンジを見つめる。
レイは以前のようにゲブラーの制服にシンジが上げた上着を羽織っている。
「アヤナミ・・・何で此処に?」
「え? シンジ君、知り合いなの?」
「ええ、まぁ・・・」
意外そうなエリィに苦笑しながら頷き、バルトの方を向いた。
「すいません、バルトさん。少し三人で話がしたいんで良いですか?」
「え? あ、ああ・・・けど早くしろよ。フェイを教会に連れて行かなきゃならねぇんだからな」
「ええ」
シンジは頷くと、カヲルとレイを促した。
三人は甲板の端っこの方に座り、夕陽が昇り始めた大海原を眺めていた。エリィ、バルト、シタン、マルーはそれを離れた所から見ている。ビリーは先に教会に向かい、ジェサイアとプリメーラは帰って行った。
「何か、あの三人って雰囲気似てねぇか?」
バルトがポツリと呟くと、エリィ達は頷いた。
「うん・・・何て言うか・・・不思議な雰囲気な所かな・・・」
「そうね・・・そう言えば私達、シンジ君と随分長くいるけど未だに彼のこと詳しく知らないのよね」
果たしてシンジが今まで話した事の何処まで本当で嘘なのか皆目見当がつかなかった。エリィ達はジッと三人の様子を見つめるのだった。
「・・・・・海、綺麗・・・」
「そうだね・・・」
レイが呟くと、カヲルが同意した。だが、シンジは夕陽に染まった海を嫌悪するように見つめる。
「僕は・・・嫌だな」
「何故?」
レイが聞き返す。
「海は青い方が好きだから・・・・赤い海は・・・血の色だからね」
それを聞いて、レイは再び赤く染まった海を見つめる。その様子を見て、シンジはフッと微笑んだ。
「一緒に来るかい・・・アヤナミ?」
「・・・・ええ」
レイはシンジの方を見ず、静かに頷いたのであった。
To be continued...
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