悠久の世界に舞い降りた福音

第二十二話

presented by ジャック様


「随分と盛り上がってんな〜」

 ユグドラシルのガンルームではメイソン自慢のバーでシタン、シグルド、ジェサイアが酒を飲み合っていた。

「お帰り、シンジ君」

「・・・・お帰りなさい」(グビグビ)

 そこではカヲルとレイが一緒に酒を飲んでいた。

「おう! 坊主と嬢ちゃんも良い飲みっぷりだね〜!」

 既に出来上がってるジェサイアは上機嫌でカヲルとレイの肩を叩く。するとシンジがフッと笑ってカウンターに腰掛ける。

「マスター! バーボン!」

「アホかぁ!!」

 スパァァァンッ!

 何処から出したのかバルトがスリッパでツッコミを入れて来た。

「カヲルにレイも未成年だろうが! 爺も普通に酒出してんじゃねぇよ!」

「申し訳ありません、若」

「まぁまぁバルトさん。酒は飲めども飲まれるな・・・これは酒に飲まれなけりゃ未成年だろうが何だろうが関係ないって意味です」

 違う違う、とシタン、エリィ、メイソンが首と手を振って否定した。が、意味が分かってないバルトはやはり怒った。

「良いか、シンジ。俺は何も酒を飲むなとは言わん。だがな、お前みたいなガキの頃から飲んでると・・・」

「ちょっと食堂行ってきま〜す」

「聞けよ、人の話!!」

 綺麗に無視してガンルームから出て行くシンジ。バルトは何かもう、疲れた感じで椅子にドカッと座った。

「は〜い、お酒持って来ましたよ〜」

「早いんだよ!! って〜か、何しに行ってたんだ、テメェ!!」

 が、あっという間にシンジが瓶を持って戻って来た。

「シンジ君、それは何だい?」

 カヲルが瓶を指差して尋ねると、シンジは某ネコ型ロボットのように手を掲げた。

「日本酒〜」

「ニホンシュ?」

 聞いた事のない単語に皆が首を傾げた。

「何でウイスキーはあるのに日本酒は無いんだろ〜♪」

 謎の歌を歌いながら、シンジは酒をコップに注ぐ。どうやら食堂で材料集めてディラックの海で作ったようである。あそこなら、精米から熟成まで、あっという間である。

「ほい、どうぞ」

「おう」

 普通にジェサイアに渡し、彼は一気に飲む。

「お! 中々いけるじゃねぇか!」

「ささ、もう一杯〜。摘みにスルメって〜のもありますよ」

「ほ〜」

 日本酒を飲みながらスルメを食べる姿。思いっ切り普通の親父であった。

「どれ、私も一口」

 好奇心でシタンも飲んでみると、程好く熟成されており癖になる味だった。そして、スルメが良く合う。

「カヲル君とアヤナミも飲む?」

「頂くよ」

「・・・ええ」

 と、不思議系三人も別のテーブルで酒盛りを始めた。バルトはハァと溜め息を吐くと、力なくガンルームから出て行く。

「何処行くの?」

「何かツッコミ疲れたから部屋行って休むわ・・・」

 肩越しに手を振って出て行くバルトを表情を引き攣らせながら見送り、エリィもフェイの看病に戻って行った。

 ちなみにこの後、シグルドが酒に弱い事が発覚し、倒れてしまったので出発は明日になってしまうのだった。

 


 翌朝、シンジは寝ているカヲルを起こさないように部屋から出る。まだ早朝で殆ど誰も起きていなかったが、ガンルームにビリーがいる事に気が付いた。

「ビリーさん、早いんですね」

「ああ、おはようございます」

 ビリーは軽くシンジに挨拶する。シンジは椅子に腰掛け、ビリーを見て言った。

「随分と軽装なんですね」

「エトーンはその性質上、装備も特殊なんです」

 言うとビリーはマントの下から拳銃を取り出した。その拳銃には聖なる力が込められ、死霊を浄化する事が出来ると説明した。

「そういえば・・・ビリーさんは何でエトーンになろうとしたんです?」

「・・・・気になりますか?」

「ま、少しは」

「そうですね。手伝って貰うんなら話した方が良いですね」

 ビリーは静かに目を閉じ、自分がエトーンになる切っ掛けを話した。

 

 あれはいくつの時だったろう・・・・良く覚えていない。八つか九つだったのかな。拳銃の扱いはその頃、親父から教わったんだ。

 ある日、その親父がいなくなった。親父は僕等を置いて出ていった切り・・・二度と戻っては来なかった。

 子供心にも酷いショックを受けたけど、泣くわけにはいかなかった。母さんとプリムがいたから。 それでも僕は、よく独りで 親父の部屋にいたよ。

 親父の銃、親父の匂い。 残されたそういう物の中に、少しでも“父親”を感じようとしてたんだ。

 でもその幸せも長くは続かなかった・・・・・・。

 十二歳の時、自宅に突如死霊の群れに襲われ、母を亡くした。何故か奴らはしつこく親父の行方を知りたがったけど、母は頑として口を割らなかった。

 今でも耳から離れない。

 母さんの撃った弾の音が

 ゆっくりと3発響いて・・・。

 薬きょうが床を打った音まで憶えてる。 その後に死霊の叫び声がして、
誰かが崩れ落ちる音がした。

 その時、僕等を助けてくれたのがストーン司教なんだ。

 その出会いが僕のその後の運命を変えたといっても良い。僕とプリメーラは隠れていたお陰で一命を取り止めたけど、プリメーラはその時から一言も喋らなくなった。

 あの時、神のように現れた優しくて力強いストーン司教の姿に僕は、自分の歩くべき道を見つけたような気がした。あの人のように、誰かを悪しき者から救いたい。これ以上、プリムのような子を増やさないためにも教会で修練して、いつかストーン司教のようになろうってね。

 プリムを教会の施設に預けて、僕は修道院に入った。

 それから何年か経って・・・・教会での修練を終え、僕はエトーンになった。孤児院を開くため、家に戻って暫くしてから・・・あいつが・・・・・・親父がひょっこりと帰ってきたんだ。

 親父は、激しい事故があったとかで 人相が変わってしまっていた。 人相だけじゃない、性格も仕草も、まるで変わってしまっていたんだ。 記憶にある親父は、もの静かな人だったのに・・・・・・。

 いや・・・というより、僕が親父のことをハッキリと覚えていなかっただけかも・・・・・・。

 そういうわけで・・・・・・未だに本当の親父とは思えないんだ。

 でも、プリムには親父が必要だし、実際、懐いてる。僕自身も、心の底では親父であって欲しいと思っているんだ。だから・・・僕があれが本当の自分の父親なのか、未だに信じられないでいるんだ。

 


 そこまで話すとビリーは自嘲気味に笑った。

「フフッ、馬鹿みたいだよね。兄妹二人きりになってから、プリムを養うためなら自分自身さえ売ろうとしたのに・・・・・・。
 プリムはいきなり現れた見知らぬ親父の方がいいなんて・・・・・・」

 その言葉にシンジはピクッと表情を顰めた。

「自分を・・・売ろうとした? それって、まさか・・・」

「一晩で三千Gになるって言われたから・・・・・最初は思い留まったけど・・・」

 シンジはハァと溜め息を吐くと、額を押さえた。

「ビリーさん、すいません」

「え?」

 ゴッ!!

「痛っ!! な、何するんだよ!?」

 いきなり頭を叩かれ、ビリーは涙目でシンジを睨み付ける。

「あのですね、ビリーさん。僕は別にビリーさんがジェサイアさんをどう思おうが知ったこっちゃありません。でも自分の体を売るってのは絶対に間違ってます。貴方の母が命懸けで守った体を易々と売っちゃいけませんよ」

「でも・・・プリムが・・・」

「バルトさんだったらこう言いますね。『今度からそういう時は、妹連れて俺の艦に来い! うちは自給自足だけど、少なくとも食う寝るには困らねーからなっ! 分かったら、俺の前で二度と売るだの買うだの言うんじゃねえ! いいな!?』ってね」

「あいつが?」

「バルトさんは普段はぶっきらぼうで単細胞で後先考えない人ですけど、人情は弁えてます。そういう所は結構、好きですよ」

 本人を前にしては絶対に言わないが、微笑むシンジにビリーも自然と微笑んだ。

「不思議だね、君は。何だか話していると随分と楽になるよ」

「そうですか? まぁ僕も父親には苦労させられましたし、妹とも色々ありましたから・・・ビリーさんの気持ちも何となく分かりますよ」

「何だか僕ら似てるね」

「ええ」

 互いに笑い、緊張感が解けた。しかしシンジは内心、焦っていた。それはグラーフと対峙したり、レイやカヲルと出会った時より彼の心を乱していた。

「(キャラが被る!)」

 他人にはどうでも良い事に。

 


 ユグドラシルは海流を渡り、輸送船にピッタリと寄せた。

「さて、どう攻めます?」

 シンジが言うと、ビリーが答えた。

「二チームに分かれましょう。一チームが中から、もう一チームが甲板から攻めるんです。僕は中から行きます」

「私も中から行くわ」

「では私も同行しましょう」

「俺も行くぜ」

「・・・・中の方が歯応えがありそうだ」

 エリィ、シタン、バルト、リコがビリーと同行すると言う。

「じゃあ僕とカヲル君とアヤナミは自然と甲板からですね〜」

 シンジはカヲルとレイを見渡して言う。二人は問題なさげに頷いた。

「大丈夫? 戦力が偏ったけど・・・」

「ええ。僕一人でも充分なんですが・・・」

「シンジ君、君の足手まといにはならないよ」

 カヲルの言葉にレイもコクコクと頷く。そう言ってビリー達は先に輸送船に乗り込んで行った。

 シンジはロンギヌスの槍を持ち、カヲルとレイを一瞥する。

「余り心配ないと思うけど・・・危ないと思ったら、すぐに避難してよ」

「分かったよ」

「了解」

 シンジは頷き、ユグドラシルから出て輸送船に乗り込んだ。

 


「な〜るほど・・・死霊ね〜」

 シンジはカヲル、レイと背中合わせにして自分達を取り囲むモノを見据える。潮風に乗って腐った体臭が鼻につく。

 死霊は正にゾンビというに相応しい姿をしていた。爛れた体、生あるものを貪ろうとする感情。こんなの普通の人間だったら吐き気を催すだろう。

「アヤナミ、火のエーテルで燃やし尽くして。カヲル君はATフィールドで圧縮して」

「「了解」」

 二人は言われたように、火のエーテルで死霊を焼き、ATフィールドで閉じ込めて圧迫させる。

「はぁぁぁ!!!」

 シンジはロンギヌスの槍を振るって、一瞬で十体以上の死霊を切り裂いていった。

 が、死霊はどんどんシンジ達に迫ってくる。

「やれやれ、キリがないね」

「どうするの?」

 レイもエーテル技を使い過ぎたのか疲労の色が見え始めて来た。シンジはチラッと死霊を一瞥すると、ロンギヌスの槍を甲板に突き刺した。

「カヲル君、アヤナミを結界で守っててくれるかい?」

「? 構わないけど、シンジ君は?」

「一気にカタをつける」

 言うと、シンジは両手を広げ、死霊達に向ける。カヲル達が結界に包まれたのを見ると、サハクィエルの能力を発動させた。

「知ってる? とんでもない重力の中に重力を加えると空間が歪むんだ。この時、出来る時空間は俗に・・・・ブラックホールって呼ばれるんだ」

 すると空中に直径2mほどの黒い穴が出来た。すると穴は海の水や死霊達をいっぺんに吸い込み始めた。

「ぐぅっ!(や、やっぱ調節が難しいか・・・)」

 重力を操るサハクィエルの能力の極みであるブラックホール。それはコントロールが非常に厄介で、ちょっとでも力を抜くとあっという間に周囲のもの全てを吸い込んでしまう。

「後・・・少し・・・」

 死霊達が雄叫びを上げて吸い込まれて行く。そして、最後の一体が吸い込まれた所でブラックホールを消し去った。

「ふぅ・・・」

 シンジはロンギヌスの槍に掴まって汗を拭く。そこへカヲルとレイが駆け寄って来た。

「大丈夫かい、シンジ君?」

「うん。これぐらい平気だよ」

 ニコッと笑うシンジにカヲルとレイも僅かに苦笑した。

 ズズンッ!!

「!?」

 その時、海が揺れた。シンジ達は振り向くと、海の中から巨大なウエルスが現れた。

「アレは・・・」

「シンジ君!!」

 ふとビリーの声がして振り向くと、艦内からビリー達が上がって来た。

「ビリーさん、アレは」

「巨大ウエルスだ。ギアじゃないと・・・」

 巨大ウエルスはシンジ達を見据え、ゆっくりと歩み寄って来た。だが、その時、一機のギアが飛んで来て巨大ウエルスの前に立ちはだかった。

 スカイブルーの装甲にマントを装着したギア。両腕にはハンドガンが装備されている。

「何とか間に合いましたね。さっき下の通信機で孤児院の皆に射出するよう頼んだんです」

「え? これってビリーさんのギアなんですか?」

「そう。僕のギア、レンマーツォだ」

 言ってビリーはギアに乗り込み、巨大ウエルスと対峙した。

「おいおい、どうするよ? ユグドラは反対側だぜ」

 これではギアを取りに行こうにもいけない。シンジはボリボリと頭を掻くと、一歩前に出た。

「どうしたのです、シンジ君?」

「ビリーさん一人にやらせる訳にはいきませんからね」

 ゴゴゴ!!

 その時、後ろの海が揺れ出し全員はそちらに向いた。すると海中から一つ目の青い機体が現れた。

 レイはその機体を見て目を見開き、胸がドクンと高鳴った。

「やれやれ・・・これってお遊びで造った機体だから余り強くないんだよね〜」

 ボヤきながらシンジがその機体に乗り込もうとすると、レイが飛び出して先に乗り込んだ。

「(アヤナミ?)」

「お、おいレイ! お前、何やって・・・」

「良いんですよ、バルトさん」

 声を上げるバルトをシンジが肩に手を置いて制止した。

「アレは僕が乗るよりアヤナミが乗った方が良いですよ・・・・エヴァ零号機はね」

 フッとシンジは笑い、レンマーツォと並ぶエヴァ零号機を見つめた。シンジは目を閉じ、アラエルの能力でレイに語りかける。

【アヤナミ、聞こえる〜?】

【?? ・・・・・・・・イカリ君?】

【ぴんぽ〜ん。どうだい? 零号機の乗り心地は?】

【悪く・・・ない】

【そか。じゃ、僕が操縦方法を説明するから、それでビリーさんと協力して相手を倒すんだ】

【・・・・分かったわ】

 すると零号機が巨大ウエルスに向かって蹴りを放つ。そこへレンマーツォがハンドガンで一斉射撃をした。

 零号機は飛び上がると、プログナイフを取り出し巨大ウエルスに突き立てた。巨大ウエルスは咆哮を上げ、動かなくなった。

「お〜。流石はアヤナミ。初操縦で上手く出来たね〜」

 シンジはパチパチと拍手するが、他の連中は呆然としている。レイはコックピットの中で、ギュッと胸を押さえていた。

「(何で・・・私、何でコレに乗っただけでドキドキしてるの・・・?)」

 その疑問に答えられる者は一人もいなかった。







To be continued...


〜あとがきの部屋〜

アスカ「ねぇシンジ・・・」

シンジ「何?」

アスカ「アンタって酒飲めたの?」

シンジ「そりゃ長生きしてますから・・・」

アスカ「な〜んでナルシスホモやファーストとは飲めてアタシとは飲めないのよ!?」

シンジ「逆切れ!?」

アスカ「ほら! 酒持ってきなさい!」

シンジ「あんた未成年でしょ!」

アスカ「アタシは良いのよ! もう大人だから!」

シンジ「・・・・・・・そうやって無理に大人になろうとして心壊れたクセに」

アスカ「(グサッ!)」

シンジ「あ、言い過ぎたかな〜・・・」

アスカ「シ〜ン〜ジ〜・・・」

シンジ「ひぃぃぃ!?」

アスカ「アンタね〜! 甘くないジャム食べるか、どろり濃厚ジュース飲むか、レインボーパン食べるか選ばせて上げるわ!」

シンジ「な、なしてKey作品!?」

アスカ「作者が好きだからよ!!」

(作者「マジです。特にクラ○ドは泣きます」)

アスカ「ほら! 選ぶかアタシと酒盛りするか選びなさい!」

シンジ「ってか、これって『あとがき』じゃなくて『ショートコント』になってません!?」

アスカ「細かい事を気にすんな〜!」

エリィ「シンジ君も苦労してるのね・・・」


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