悠久の世界に舞い降りた福音

第二十三話

presented by ジャック様


 死霊退治を終えた事を報告しに、一同は教会へと向かった。

「こ、これは・・・」

 だが、教会に戻ってビリーが見たものは、見るも無惨な仲間達の屍だった。一緒に来ていたシンジ、バルト、シタンも驚きを隠せない。

 ビリーは虫の息だった同僚に駆け寄って声をかけた。

「大丈夫か!? 何が起こったんだ!?

「わ、わからない・・・突然、銃声がし・・・て・・・・・」

「おい、しっかりするんだ! おい!」

 ビリーは必死に声をかけるが、彼はピクリとも反応しなかった。彼は唇を噛み締め、彼の瞼を下ろして寝かせる。

 その時、シンジが何かに気付いて、背中のロンギヌスの槍を取った。

「どうやら悲しみにくれてる場合じゃないようですよ」

「え?」

 すると、突然、天井から全身黒ずくめのスーツを着て、爪を装備した集団が飛び降りて来た。

「まだ生き残りがいたか!」

「まぁ良い! 死ね!」

 その集団は一斉に飛び掛って来るが、シンジが前に立ち槍を振るうと後ろに飛び退いた。

「(こいつ等、アサッシンか・・・!)」

 アサッシン・・・サイレント・キリング(無音殺人術)という技術を極めた暗殺者。何が楽しくて人殺しを生業にしている連中である。

 サイレント・キリングは対人戦闘において最強と言っても過言ではない。気配を殺し、目に捉えられないスピードで相手の急所を的確に狙うのだ。

 もっとも、それは『対人』戦闘に関しての話である。シンジは、しっかりとアサッシンの動きを捉えていた。

「そこっ!」

 まず一人、左から襲って来たアサッシンの肩を槍で貫いて戦闘不能にする。続いて反対側から迫って来たアサッシンに光の槍を脇腹に撃ち込む。

 そして背後と真正面から来たアサッシンの攻撃をATフィールドで防ぎ、怯んだ所を槍で切り払う。時間にして十秒も満たない内にアッサリとカタがついた。

「相変わらずデタラメな奴・・・」

 鞭を構えていたが、シンジが全て倒したのでバルトはボヤいて鞭を戻した。

「一体・・・・お前らは何者なんだ? なぜ、教会を襲う?」

 ビリーは息絶え絶えのアサッシンを掴んで問いただした。アサッシンは笑みを浮かべ、途切れ途切れに答えた。

「く、くく・・・・・・粛清・・・だ・・・」

 するとそのアサッシンは口から血を吐き、絶命した。

「(毒・・・か)」

 己の情報を与える事はアサッシンにとって死よりも屈辱的な事である。一流のアサッシンであるならば、情報を与える前に自決するのは当然の事であった。

 だが、シンジ達にとっては好ましくない事である。

「教会の方々は、大丈夫でしょうか。生き残り、と言っていましたが・・・」

「そんな! それじゃ、皆は・・・」

 シタンがポツリと呟くと、ビリーは顔を青くして身を竦ませた。だが、そんな彼をバルトが宥める。

「おいビリー、しゃんとしろ! まだ無事な人を助け出すんだ。行くぜ!」

 そうして四人は聖堂を抜け、地下に降りる。すると、そこで教会の最高権力者である教皇がアサッシンに取り囲まれていた。

「貴様ら、何者だ!」

「この期に及んで、まだシラを切るか。教会の長たる者が往生際が悪いぞ」

「まさか・・・事が露見したのか!?」

「我らへの反逆、その罪は死で償ってもらう」

 言うとアサッシンは爪で教皇を切り裂いた。

「ぐあー!!」

 教皇は為す術も無く床に倒れ伏す。

「教皇様!! 貴様ら・・・・・・!!」

 ビリーは怒りのこもった目でアサッシン達を睨み付けると、銃を取り出して連射した。アサッシン達は銃弾を避け、ビリーに迫る。

「はっ!」

「おらぁ!」

 だが、ビリーの前にシタンとバルトが立ちはだかり、掌底と鞭を繰り出して撃墜した。

 ビリーは慌てて教皇の下へと駆け寄って体を抱えた。

「教皇様! しっかりしてください」

「お、お、ビリー・・・・無事であったか・・・・・粛清が・・・・・粛清が始まった・・・・罪深き我々人類に神の裁きが下される・・・・」

「神の裁き? どういうことなのです、教皇様!?」

 ビリーは必死に体を揺するが、教皇は既に息絶えていた。ビリーは唇を噛み締めて立ち上がると、ダンと壁に拳を叩きつけた。

 シタンとバルトは悲痛な思いでビリーを見ている。だが、シンジは別の事を考えていた。

「(事が露見、反逆、粛清・・・か)」

 何となく線が繋がり始め、それは今まで自分が教会に抱いていた疑念を更に確信させるものだった。

「ん?」

 ふとシンジは、自分がある部屋の前に立っている事に気が付いた。何気なくロックを解除すると、その部屋には見慣れない服を着た女性が拘束されていた。

 シンジはビリー達を呼んで女性の拘束を解く。

「大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」

 ビリーが声をかけると、女性は怯えた様子で言った。

「知らな・・・・・・い・・・・私は・・・・・・何も・・・こ・・・・・・れ・・・・・・以・・・・・・上・・・・しゃべる・・・・・・ない・・・・・・」

 かなり拷問を受けたのか女性は傷だらけで、衰弱も激しい様子だった。

「おい! しっかり目ぇ開けよ! 俺達が外へ出してやるから!」

 その言葉に女性は相手が教会の人間でないと分かったのか、搾り出すように言った。

「・・・・・・・・・・・・? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・! シ・・・・・・・・・・・・シェバ・・・・・・ト・・・・・・シェバ・・・・・・トへ・・・れ・・・・・・れんら・・・・・・く・・・・・・を・・・・・・」

 その言葉にシタンが目を見開く。

「“シェバト”!? あなたはシェバトの方ですか!?」

 キスレブでワイズマンが言っていたフェイの父親が武官をしていた国の名前。女性はそこで意識を失い、目を閉じた。

「ひでぇ傷だな、こりゃ。手当てしないと、ヤバいぜ。俺はコイツをユグドラに運ぶ」

「分かりました。ビリー、シンジ君。我々は先へ進みましょう」

 女性をバルトに任せ、ビリー、シンジ、シタンは更に先へ進んだ。

 やがて先へ進むとコンピューターで埋め尽くされた大きな部屋に辿り着いた。

 ビリーは部屋を見回し、部屋を何処か推測した。

「位置からして、大聖堂の真下辺りか・・・ということは、ひょっとして此処は教会のデータバンク?」

 その推測にシタンは部屋の機器類を見て頷いた。

「間違いないでしょう。此処は教会のデータバンクですね。ですが、これだけあると私達では調べ切れませんね。ユグドラシルの皆を呼びましょう」

 それから三十分ぐらいしてバルト、エリィ、リコ、カヲル、レイがやって来た。入って来るとシンジがコンピューターに掛かっているロックを取り外していた。

「どうですか、シンジ君?」

「ちょっと待ってくださ〜い。中々、頑丈ですね・・・こりゃ正攻法で外すのは時間がかかるっぽいな」

「なら、いっその事、破壊すればどうだい?」

「カヲル君、正解♪」

 サラッととんでもない提案をするカヲルと、それに笑顔で頷くシンジ。シンジはイロウルの力でロックを力ずくで破壊した。

「ほい、これで存分に調べれますよ」

「「「「「あ、そうですか・・・」」」」」

 シンジの言葉にカヲルとレイ以外がガックリと肩を落としてユニゾンしたのだった。

「このデータバンクには教会に関する全ての情報が納められている。過去から現在に至るまでの、ね。僕らは絶対に入ることを許されない施設。此処には教皇クラスの人間しか入れないようになっている」

「・・・・・・にしても、すげぇ設備だな、こりゃ」

 バルトが周りの機器類を見ながら言った。

「しかし、これだけの設備はソラリスにもそうはないですよ。何故教会がこんな設備を?」

 シタンがそう言うが、エリィは部屋を見回して首を横に振った。

「・・・・・・違う。これ、ソラリスの設備よ」

「ソ、ソラリスだあっ!?」

「変な声出さないで。こんな最新型の設備、世界広しといえどソラリスしか生産できないわ」

「確かにね・・・ソラリスの、それもゲブラーが使ってるものより数段上の設備だよ」

「・・・・ソラリス上層部で使用されているものと同じ・・・」

 エリィと同じソラリス出身(?)であるカヲルとレイが言うと、リコが訝しげな顔をして呟いた。

「何者かに突如襲われた教会。その地下にはソラリスの設備。きな臭いな」

「何なんだ、ここは? おい、ビリー! てめぇ、何か知ってるんじゃないのか!?」

 バルトがビリーに突っ掛かるが、彼は呆然とした様子で首を横に振った。

「そんな、僕に聞かれたって・・・・・此処に来たのは初めてだし・・・・・・」

「はいはい、バルトさん。落ち着いてください」

 が、先程から端末を操作しているシンジがキーを叩きながら口を挟んで来た。

「おい、シンジ。何やってんだ?」

「通信記録を調べてるんですよ。僕の予想が正しければ・・・・っと、出た出た♪」

 そう言うとスクリーンにシンジが調べていたものが映し出された。

【イグニスの紛争状況。第37供与。
 アヴェD2レベルのギアをD3に。
 キスレブD2レベルのまま現状維持。
 均衡状態4対6。
 イグニス管区教皇、シャーカーン皇より報告。
 不確定因子の介入により補正が必要。
 計画進行率3割減退。
 キスレブD区の委員会からの
 報告第50224。
 各バトラーのデータ転送。
 Aクラスバトラーの生体状況
 配置予定Y型デミューマンへの適応率
 以上のデータを本国に転送・・・・・。
 キスレブD区委員会からの報告第50227。
 ジークムントによる総統府からの教会勢力放逐によって調整が難航。
 然るべき後にジークムントの消去を予定。
 実行に関してはバトリング被験体リカルドを使用。
 許可を求む・・・・・・】

 スクリーンに映ったものを見て、皆は唖然となった。

「何だ、これは!? 教会が何だってこんな事を調べている?
 しかも、あのシャーカーンが教皇!? 奴は十七年前に教会から放逐されたんじゃなかったのか!?」

「定期的に報告を入れている所を見るとそうではないようですね〜」

 すると今度は別の所で調べていたエリィが声を上げた。

「見て、こっち! 各地と教会との交易で集められた資材の行方。全部ソラリス本国へ移送されているわ!」

「し、しかし、何故、教会がソラリスに物資を!?」

「それは・・・・・分からないわ」

 首を横に振るエリィ。皆が沈黙に駆られるが、バルトがある端末のスイッチを見つけた。何気なく押してみると、読めない文字がスクリーンに映し出される。
 
「何だ、この文字は? 読めねぇぞ」

 教会が保管している古代文字で書かれた書物のデータかと思ったが、エリィがスクリーンを見上げて呟いた。

「これは、ソラリス語・・・・・・それも暗号化されたものだわ。
 ちょっと待って。ええと・・・・・・何だろ・・・・・・・・?」

「早くしろよ」

「もう! 待ってって言ってるでしょ! 難しいのよ、口語体に訳するのは!」

 エリィが癇癪を起こす横で、レイがスクリーンを見上げながら呟いた。

「・・・・・・ラムズ・・・・・・大戦・・・・・・崩壊・・・・・・。
 再教育・・・・・・・戦後復興計画・・・・・・基づく・・・・・・各ゲート基幹部の設定予定を・・・・・・・・ラムズ・・・02〜04をイグニス・・・・05〜08をアクヴィ・・・・11〜16は均等分布・・・・その実行・・・・・・組織として『教会』を設立。管理を元老・・・・・・会議とする・・・・・ガゼルによる管理・・・そう。そういう事だったのね」

「へ? お、おいレイ。どういう事だ?」

「教会は、ソラリスの下部組織。そういう事だな」

 リコがそう言うとレイは神妙な顔になった。シンジは溜め息を吐いて目を閉じた。

「つまりは・・・・・どういう事なんだよ?」

 未だに分かっていないバルトにレイが暗号化された文章を簡単に説明した。

「つまり、こういう事よ。
 過去・・・・・・五百年以上前に、ソラリスと地上との間で大規模な戦争が起こったらしいわ。結果がどうなったのかは不明。
 終戦後、地上人が再び造反することを恐れたソラリス人は『ゲート』を、つまり、ソラリスと他の地上世界との空間を分かつ障壁を造った。
 そのゲートで囲まれた世界の内側に種族別に住まわせ、これを管理した。そして、実際の管理組織として『教会』を設立した。
 教会はガゼルの法院と呼ばれるソラリスの最高統治機関が管理する。つまり教会はソラリスの下部組織という事よ。
 地上で発見された遺跡資源や生産物資は教会を通じてソラリスへ運ばれた。労働力たる人的資源も含めて、ね。地上とソラリスの窓口なのよ、此処は。記録によると、かなりの物資と人がソラリスへ移された事になってるわ」

「つまり、俺達は教会によって管理されていたというわけか。他には?」

 リコが苦々しそうに吐き捨てる。

「後は大体、その後の人口分布や発掘状況の記録ね。やたらと子細な種族ごとの生体データが気になるけど・・・・・」

 するとシタンが新たなデータを発見し、声を上げた。

「こちらは最近の記録ですが、これもかなりの数の人間がソラリスへと移送されていますよ。移送された人々の殆どが教会に救済を求めてやって来た人のようですね」

「そんな、馬鹿な! 僕はそんな事、何も聞かされちゃいない!」

「じゃあ、その以前見たような此処に救済を求めてきた人達はどうなったんだい?」

「僕のように、エトーンに・・・・・」

「それで全部じゃねぇだろ? エトーンにならなかった奴は何処へ行ったんだ?」

「え・・・・・?」

 バルトの言葉にビリーはキョトンとなった。その反応で皆は確信した。教会がソラリスの下部組織だという事に。

「決まり、だな。どうなんだ、エリィ?」

「確かに、ソラリスには地上人を収容する施設があるわ。第三級市民層。
 そこには労働力として、定期的に地上から様々な種族の人が送られてきていたわ」

「此処がその労働力の出所、というわけか」

「そんな・・・・そんな事って・・・・・」

「やっぱり・・・ね」

 呆然としているビリーの横でシンジが首を横に振って言った。その言葉に皆が注目する。

「おい、シンジ。お前、まさか教会がソラリスの下部組織って知ってたのか?」

「予想はしてました。何でソラリスみたいな世界の支配者気取りしている国が、オーバーテクノロジーを持つ教会を黙認しているか疑問だったんです。そうでなくても、教会が歴史を管理する事をソラリスが何もしないなんておかしいじゃないですか」

 両肩を竦めて言うシンジにビリーが激昂した。

「たとえ、そうはそうとしても、一体誰が教会の人間を!?」

「これが、その答えかもしれませんね」

「え?」

 だが、シタンがアッサリと返答し、ビリーは彼の方を向いた。シタンは調べていたデータをスクリーンに映し出す。

「第44次サルベージ計画」

「それった確かタムズで噂されてる大仕事ってヤツですか?」

「ええ。教会が率先して行っていたこの計画だけは、ソラリスとリンクしていない。
 全くの独立した計画になっているようです。始まったのは・・・・・・十九年前から。データを表示しますよ」

 するとスクリーンに新たな情報が映し出された。

【・・・・・・推定4000年前に海底に沈んだ都市文明セボイムの最終調査完了・・・・・百数十回に及ぶ試掘によって、その都市区画中枢部の存在判明・・・・・・。
 本発掘予定・・・・・・・・・】

「どうやらこの記録によると、アクヴィの地下に、超古代文明の都市が眠っているようですね。かなり沢山の試掘が行われ、大量の遺跡資源が発掘されています。
 生物兵器・・・・・・反応兵器・・・・・なるほど、これが目当てですか」

 シンジは溜め息を吐いてシタンの言葉を続けた。

「なるほど。だから粛清か・・・教会の目的は主・・・・・・ソラリスからの離反。そして、世界を支配する事ですね。このデータをソラリスに送っていない事からも明らかですね。けど、そのソラリスに離反がバレて粛清された・・・」

「おや、これは?」

 その時、シタンは何かを見つけた。

「これは・・・・A−801に備えて厳戒態勢?」

 その言葉にシンジはビクッと震えて、目を見開いた。

「何だぁ? A−801って?」

「・・・・・・・・・・・・・」

 ガタガタと震えて体を自分の体を抱き締めるシンジ。それに気付いてカヲルが声をかけた。

「どうしたんだい、シンジ君?」

 すると皆がシンジの方を向いた。

「ちょ、ちょっとシンジ君、大丈夫!? 唇真っ青じゃない!?」

 尋常でないシンジの姿にエリィが声を上げるが、シンジの耳には届いていない。シンジはドクンと胸が高鳴った。

 そして彼の脳裏にかつての光景が蘇る。

『大人のキスよ。帰って来たら続きをしましょう』

 それが最後にヒトとして他人と直接交わした言葉。ドク、ドク、ドクと動悸が早まる。

「A−801・・・ソラリスが教会を切り捨てる事を表すコードですよ。これが発動したらソラリスの奇襲部隊が教会を破壊する・・・」

 そう・・・ゼーレがネルフを切り捨てる事を表すコードである。

「お、おいシンジ。何でそんなの知ってんだよ?」

 ソラリス組のエリィ、カヲル、レイでさえ知らないのに答えるシンジにバルトが恐る恐る尋ねる。

「・・・・・いえ、前例を知ってるだけです。もう大丈夫・・・です。先へ進みましょう」

 最後にニコッと笑うシンジに皆は戸惑ったが、エリィ達はユグドラシルに戻り、シンジ達は先へ進む事になった。

 

 データバンクを出ると、ビリーは額を押さえ、首を横に振った。
 
「・・・・・・僕は・・・・・まだ信じられない。教会がこんな得体の知れない組織だったなんて・・・・今まで、僕の信じてきたものは一体なんだったんだ?」

 そんなビリーをシンジは複雑な表情で見ていた。今のビリーはかつての自分と同じだ。信じていたものに裏切られる。

 自分は答えが見出せなかった為、一生、背負わなければならない十字架を背負ってしまう羽目になった。だから今のシンジには彼にかける言葉が見つからなかった。

 その時、別の声が響いた。

「だからあの時言っただろう? 君は、僕達と居るべきだって・・・・・」

「ベ、ベルレーヌ!?」

 現れたのはビリーの同僚であるベルレーヌという司祭だった。ベルレーヌは同じ司祭を連れて微笑みを浮かべている。

「穢れてしまったね、ビリー。教会を出て、何ら信仰心など持たぬ輩と触れ合うことによって、本当の穢れた者の姿が見えなくなってしまったんだね。
 信仰の為に生きてきた昔の君からはとても考えられないよ。僕達のようにしていれば良かったんだ。
 でも、大丈夫さ。僕が浄化してあげる。君は、僕の中で生きるんだ。死を以て僕と一つになろう・・・・・」

 バシュンッ!!

 だが、その時、銃声が鳴った。ベルレーヌに連れられていた司祭がバタリと床に倒れた。

「何だ・・・・!? き、貴様は・・・・・」

 突然、現れた人物にベルレーヌは 驚愕する。そこにはライフルで肩を叩くジェサイアがいた。

「親父っ! 何てことをするんだ!」

「このタコ。何慌ててんだ。スタン弾だよ、スタン弾。ちょっと眠ってもらっただけだ。そんくらい、激発音で判断しろって。
 それに、こいつは教会の人間じゃねぇ。見ろ」

 そう言ってジェサイアはライフルで倒れている司祭の法衣を指した。

「その印は!」

 法衣に刻まれていた紋章は教会のものではなく、ビリーは驚愕した。

「そうだ。こいつらはソラリスの工作員だ。恐らくは、ストーン配下の暗殺部隊。教会の人間全てを消去するって情報を聞いたんで、すっ飛んできたんだが間に合わなかったようだな。
 教会の人間は、サルベージ計画とやらで出払っていた者以外、皆やられちまったみたいだぜ」

「ベルレーヌ達が司教様の暗殺部隊!? いい加減なことを言うなよ!」

 親友であるベルレーヌがそんな筈ないと否定するビリーだったが、それは当人によって崩された。

「そうさ・・・僕達は、司教様の下僕。堕落した聖職者と罪人に断罪を下し、悔い改めさせるのがその使命なんだ」

「本当なの、ベルレーヌ? 何故、教会の人達を!?」

「教皇たちなど、死んで当然。ソラリスから課せられた“教会としての責務”を放棄し、世界を支配するという欲望。そのような欲望に取り憑かれた時から彼らの死は決まっていたんだ。
 それだけじゃない。孤児、難民の救済・・・・傍目には慈善に見えるだろうさ。だがその実、此処に囲われている少年や少女達は、教皇や司教たちが己の欲望を満たす手段として使われていたのさ。
 己の欲望に溺れる。これは“聖職者のあるまじき”行為。あんな、穢れた奴らに神の代弁者たる資格はない。だから、僕達が浄化して、その罪をつぐなわせたんだ。司教様のご指示でね」

「それが事実だとしても、僕達には勝手に人を処罰する権利なんてないはずだ! 審判は神が下されるもの。そう教えられたじゃないか!」

「神だって? そんなものが、何処にいるというんだい?」

「(此処にいる)」

 さり気無く自分を指差すシンジ。が、ビリーとベルレーヌは全く気付かず、話を続ける。
 
「君も、もう知っているんだろう? この教会の成り立ちを。愚かな地上の人間たちを管理する為だけに遥か昔ソラリスによって作られた組織。その教義は、大衆を統べるためのまやかしさ。
 教会は“信仰”と“技術”という二つの甘い果実を使い分け、地上世界の情勢を巧みに操作していたんだ。
 操作された衆愚は、ただ悪戯に戦争を繰り返すだけだった。やがてその戦争から得られた“ヒト”そして“兵器”の戦闘データは、ソラリス本国へと送られ・・・・地上世界統治の為の一助とする為に解析された。
 そうやって引き起こされた戦争は、様々な心理的軋轢を生んだ。だけどそれは神への信仰・・・・・・救済という形をとって、和らげられていたんだ。システムとしては、良く出来ていたよ。
 だが、管理者の適性は最低だった。それとも君は、信心深い神のしもべを演じていれば、いつかはきっと偉大な神が応えてくれると思っていたのかい? そんなものなど、“最初からなかった”のだよ。それに、君はまだ分かっていないようだが、君だって、僕たちと同じように“罪人を断罪していた”のだよ」

「僕が、断罪を下していた?」

 呆然となるビリーを見て、ベルレーヌはニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。

「そうさ。君が日頃、その手にかけていた―――」

「私の至福の楽しみを奪うつもりかね? ベルレーヌ君」

 その時、一発の銃声が響いた。銃弾はベルレーヌの心臓に直撃し、彼は床に崩れ落ちる。

「がはっ!」

「ベルレーヌ!」

 ビリーは血相を変えてベルレーヌを抱え起こす。

「しっかりしろ!」

「ビリ・・・ィ・・・」

 ベルレーヌは血で染まって手を上げるが、ポトリとその手を落とした。

「ベルレーヌ! ベルレーヌ!」

「無能でお喋りな人間などに生きている資格はないのですよ」

 現れたのはストーンだった。アサッシン達を引き連れ、眼鏡の奥で相変わらず微笑んでいる。

「司教様! 何故ベルレーヌを!
 司教様は一体何をしようとしておられるのですか!?」

 叫ぶビリーにストーンは眼鏡を押し上げ、微笑みながら答えた。

「私は、ソラリスから派遣された地上の粛清官」

「粛清官?」

「教会での司教の地位は私が地上で活動するための便宜的なものに過ぎない。ソラリスの下部組織として創設され地上人の管理という責務を与えられていた教会。
 その教会は、長い年月の間に自らにとって都合のよい勝手な教義を定義し、衆愚を集め、その信仰の対象としての神を作り出した。そして、事もあろうにソラリスからの離反までも企てていたのだ。我々の制御を脱し、反旗を翻そうとするものは処分しなくては、ね。
 その『処分を行う者』として用意されたのがエトーンなのです。私が教会で創設した組織、<罪をあがなう者>エトーンとは表向きは地上に蔓延る死霊<ウェルス>の処分が目的。しかし、本来の目的は、違う。裏ではベルレーヌ達のような適任者を選出し、堕落した教会の人間の監視、処分を行っていた。早くに教会から離れた貴方は、それを知る機会がなかった。
 ・・・・・・というより、私が知らせなかっただけです。貴方には“別の役割”を演じて貰わねばならなかったのですから」

「別の・・・・・・役割?」

「ビリー。世の中には知らないほうが幸せな事もあるんですよ。嘘もまやかしも、その本当の姿、システムもカラクリさえ知らなければある人にとっては真実となる得るのです。
 現に、君や地上の人間にとって教会が用意した<神>と<信仰>・・・そういったシステムは真実そのものだったでしょう?」

「(あ、ヤバイ・・・切れそう)」

 黙って話を聞いていたシンジは、我慢の限界に達していた。嘘やまやかしで塗り固められた教会。そして何も知らないビリーをずっと騙し続けていた。シンジは他人事には思えなかった。

「教えて下さい! 役割って何なんです!? ベルレーヌの言っていた、断罪とは一体何の事なんですか!?」

「知りたいのですか? 君は真実の重みに耐えられますか?
 ビリー、君がその重みに耐えられるのであれば、お教えしましょう。
 君が、迷える魂の救済と信じて行っている死霊<ウェルス>の浄化。それも、ソラリスが作り出した支配システムの一つなのですよ。君が、救済と信じて行っているその行為は―――」

「よくもまぁ、ペラペラと下らねぇ事を喋りやがる」

「親父!」

 が、そこでストーンの言葉をジェサイアが遮った。ジェサイアはストーンにライフルを向けて言う。

「貴様、あの頃と全く変わっちゃいねぇな? え? スタイン!」

「スタイン?」

 その名を聞いて、ストーンは笑みを浮かべながらも表情を歪めた。

「懐かしい名だ・・・・その名を聞くと“この身体に刻まれた傷あと”の甘美な痛みが鮮やかに蘇ってくるよ。なあ、ジェサイア?」

「ふん。脳ミソのいかれ具合も相変わらずだな。
 答えろ! 何故“こんなまだるっこしいやり方”をしやがった!」

「答えるまでもない。これは“私にとっての生き甲斐”なのだ。
 当然、貴様の悶え死ぬ様を見ることも、だ。この場で貴様の体を切り刻み、そのハラワタを引きずり出したい衝動に駆られるが、実はそうもしていられなくてな。
 私はこれから向かう所がある。貴様の事よりもそちらの“任務”のほうが優先なのだ。此処で時間を潰すわけにはいかん」

「行かせんぞ! スタイン!!」

 ジェサイアは退こうとするストーンにライフルを向けるが、彼の前にアサッシン達が立ち塞がった。

「貴様らごとき虫ケラに邪魔をされるわけにはいかん。
 それまでの間、彼等に足止めをしてもらう事にしよう」

「司教様っ!」

「では、失礼。何かおっしゃりたいことがあるようでしたら、後程。お待ちしていますよ、ビリー」

 そう言ってストーンはニコリと微笑み、一礼するとその場から退散していった。

 それと同時にアサッシン達が襲い掛かって来る。シンジは舌打ちし、ビリーとジェサイアの前に立ってアサッシンを迎え撃つ。

「ビリーさん! ジェサイアさん! 急いでストーンを追ってください! 此処は僕らで食い止めます!」

「悪ぃな!」

「・・・・・・」

 ジェサイアはシンジの肩を叩き、ビリーは無言でストーンの向かった方へ走って行った。

「やれやれ、教会もロクでもないな・・・(ネルフと良い勝負だよ)」

 シタン、バルトと背中を合わせシンジ達はアサッシンと戦闘を始めた。

 

 ジェサイアとビリーは大きなガラス窓の前で突っ立っていた。ジェサイアはシンジ達が駆け付けた事に気付くと、吐き捨てるように言った。

「ひと足、遅かったようだな。スタインの奴は・・・・あそこだ」

 そう言ってジェサイアは窓の向こうをライフルで指す。すると地下から一機のギアが現れて天井を抜けて飛び去って行った。そのギアは通常のギアよりも少しばかり大きかった。

「何だ! あの巨大なギアは!?」

「ソラリスの機動ギア、アルカンシェル。
 だったよな? ヒュウガ」

「え? ええ、まあ」

 急に振って来られ、シタンは戸惑いながらも頷いた。

「ナリがデカい分、動きが取れねぇからギアに乗ってりゃ難儀はしねぇが、その分火力だけは折り紙付き。船なんかのデカい目標だったらドカン! とイチコロさ。
 だったよな? ヒュウガ」

「ええ・・・・多分・・・・」

「ってー訳だ」

「え? ああ・・・・・・そうですね・・・・でも、待って下さい。ということは・・・・・!」

 船でもイチコロと言われ、シンジ達はハッとなった。ストーン達は教会の粛清官である。つまり、教会と手を結んでいたタムズも同様に見なされる可能性があった。

「このままじゃ船長達が危ねぇ! 連中は何も知らされていないんだ!」

「ユグドラシルなら、あのギアに追いつけるでしょう。急いで、タムズ船団の方々を助けに行きましょう」

 シンジの言葉に、シタン、バルト、ビリーは頷き急ぎユグドラシルへと戻った。 







To be continued...


〜あとがきの部屋〜

アスカ「A−801か・・・アレで私、陵辱されたのね・・・」

シンジ「(お、今回はシリアスだな)」

アスカ「ふぅ・・・」

シンジ「(このまま何事も無く・・・)」

アスカ「出番欲しい・・・」

シンジ「(訳ありませんよね・・・)」(涙)

アスカ「出番欲しい〜〜〜!!!」

シンジ「僕に言ったってしょうがないよ。そう言うのは作者に言わないと・・・」

アスカ「どうなの、アホ作者!?」

(作者「・・・・考えてません」)

アスカ「な〜んですって〜!?」

 ――以下、残酷描写の為、お見せ出来ません――

アスカ「全く! 何でファーストが出てアタシがあとがき如きに収まんなきゃなんないのよ!?」

シンジ「あの、アスカさん・・・出来れば、その御手に付いた赤い液体をどうにしかして欲しいのですが・・・」

アスカ「所詮、アホ作者の血よ! 犬のオシッコの方がマシよ!」

シンジ「酷ぇ・・・」

アスカ「きぃ〜! アタシに出番寄越しなさい〜!」

シンジ「無茶言わないで〜!」

シタン「・・・・・・(汗)」(←視線を逸らす)


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