悠久の世界に舞い降りた福音

第二十四話

presented by ジャック様


 ユグドラシルはタムズへと進路を取っていた。シンジ、カヲル、レイは甲板に出て、空を見上げていた。

「何だ、アレ?」

 そして、シンジは空を飛ぶ巨大なタコ壷のような戦艦を見て呆然と呟いた。その大きさは二千シャール(一シャールは約一メートル)ぐらいある巨大戦艦だった。

「アレは・・・カレルレン閣下の」

 カヲルがソレを見上げながらポツリと呟くと、シンジがピクッと反応した。

「カレルレンって・・・」

「私達プロトアイオーンを創った、ソラリスの実質的指導者よ」

「それが地上に降りて来るとは・・・・タムズは本気でヤバイかもね」

 ソラリスのトップがたかだか一サルベージ船団を叩くなど異例中の異例である。シンジは舌打ちすると、ユグドラシルに入って行った。

 

『お、おい、シンジ何やってんだ!?』

「良いから、ハッチを開けてください。僕が、あのタコ壷を足止めしてます」

 エヴァに乗り込んで発進準備を進めるシンジにバルトが通信で尋ねて来たので、アッサリと答えた。

『アホかぁ! お前、あんなデカイの相手できるか!』

「出来ますよ。っていうか、何とか追い返します。じゃなきゃタムズが大変な事になっちゃうじゃないですか?」

『あのな! お前、自惚れも大概にしとけ! 相手は二千シャールの戦艦なんだぞ!』

 あくまでも発進を許可しようとしなバルトにシンジは呆れて溜め息を吐いた。

「バルトさん」

『あん?』

「海の男なら世話になったタムズを守るのは当然じゃないんですか? もし、違うってんなら貴方は・・・・・恩知らずで臆病者なエセ海賊です」

『・・・・・・・おい! ハッチを開けろ!!』

『『『『『若ぁ〜〜〜!!!』』』』』

 思いっ切りブリッジ全体から非難の声が上がる。だが、バルトは問答無用でハッチを開けるスイッチを押した。

 ガゴンと音を立ててユグドラシルのハッチが開く。

「イカリ君!」

「シンジ君!」

 と、そこへカヲルとレイがコックピットの前にやって来た。シンジは目をパチクリとさせて尋ねる。

「どうしたの、二人とも?」

「シンジ君、馬鹿な考えはやめたまえ。カレルレン閣下は目的の為には手段を選ばない非情な方だ。正面から遣り合って無事で済む訳がない」

 珍しく慌てているカヲルにレイもコクコクと頷いた。だが、シンジはニコッと笑うとレイの頭に手を置いて優しく撫でた。

「大丈夫だって♪僕を何だと思ってるの? 君達が無事にタムズに向かったら撤退するから安心して。それに個人的にカレルレンって人に興味があってね」

 そう言うと、シンジはエヴァのハッチを閉め始めた。

「シンジ君!」

「イカリ君・・・」

「じゃ、二人とも、またね」

 その言葉にレイはハッと目を見開くと、ハッチが閉じられた。ビー、ビーと発進警報が鳴り響き、カヲルとレイはエヴァから離れた。

 そしてエヴァは射出台に乗り、ユグドラシルから飛び立って行った。

「またね・・・さようならじゃない・・・」

「レイ?」

 ふと何か呟き始めたレイにカヲルが首を傾げた。

「また後でって・・・イカリ君が言った・・・イカリ君・・・帰って来る・・・」

 何故だろうか・・・・そう言われた時、レイは心の何処かで嬉しさを感じていた。

<B><I>“さよなら”なんて・・・悲しいこと言うなよ・・・。</I></B>

 キィンと彼女の頭の中に何かが流れた。顔は見えない。けど何処か優しい声のような気がした。そして、月明かりに照らされて顔が少しだけ見えた。すると憂いを帯びた瞳の少年の顔が見えた。

「(アナタハダレ?)」

 だが、それに答える者はいなかった。

 


「閣下。未確認の機体がこちらに接近しています」

 長いブロンドヘアに金の輪っかをはめた青年こそソラリスの実質的指導者にして科学者、カレルレンである。彼はナノマシン工学の天才で、この地にわざわざ出向いたのは、長年捜し求めていたものが見つかったからだ。タムズ襲撃は事のついでである。

 そんなカレルレンは部下の報告に目を細めた。映像を出せと命令すると、スクリーンに紫の鬼神がこちらに迫って来ていた。その機体はピタッと目の前で静止した。

「迎撃しますか?」

「ふむ・・・」

「閣下! あの機体から通信が入っています!」

「何? ・・・・・・・開け」

 最初は少し分からなかったが、カレルレンは通信を開くように命令した。するとスクリーンに十五歳ぐらいの白銀の髪に赤い瞳をした少年が映し出された。それを見てカレルレンは、自分が造り出したプロトアイオーンのbP7と非常に似ていたので少し驚いた。

『こちらユグドラシル所属イカリ・シンジです。カレルレンという方はどなたです?』

 兵士達はザワついた。年端も行かない少年がソラリスのトップを名指しで指名するのだから当然だろう。だが、カレルレンはフッと笑うと口を開いた。

「私がカレルレンだが?」

『おや? 随分とお若い方なんですね。てっきり、欲ボケした爺さんどもかと思ったんですが』

 その言葉にカレルレンはピクッと反応する。傍目には皮肉ったような言葉にしか聞こえないだろうが、カレルレンには分かった。欲ボケした爺さん『ども』とわざわざ会話が矛盾する複数形を使っている辺り、自分が良く知る連中を指しているのだろう。

 そしてカレルレンはふと、ある女性の言葉を思い出した。

【接触者以外に神の楔から外れている面白い少年が連中の中にいる】

 という事を。そして、その少年はプロトアイオーンのbQと17を惹き付ける何かを思っている、と。

「ふ、そうかね? だが年齢は能力と関係ないものだよ」

『確かに。出来れば二人で話がしたいのですが・・・』

「分かった。皆、少々、ブリッジから出て行って貰えるか。彼と話がしたいのでね」

「か、閣下!」

「心配は無用だ。彼に戦う意志は無い」

 そう言ったカレルレンにシンジはニコッと頷いた。兵士達は神妙な顔をしながらも、ゾロゾロとブリッジから退出して行った。

「さて、用件は何かね?」

『タムズ侵攻をやめて欲しいんです』

「タムズを? 何故かね?」

『お世話になったヒト達から犠牲者を出したくないからです』

 その言葉にカレルレンはフッと笑った。

「甘いな。そのような情を持っていては、いつか己の身を滅ぼすぞ」

『情? 生憎と、そんな曖昧な感情は持ち合わせていません。ただ、僕は死なせたくないから守るだけです』

「死なせたくない・・・か。愚かだな、ヒトは死すべくして生まれてくるものだろう?」

『そうですね。ヒトはヒトとして死んでいくんです』

「ヒトとして?」

 問い返すカレルレンにシンジは笑みを浮かべた。

『そう。ヒトは何処までいこうとヒト。神にもなれなければ、神の下へ行ける事もない。ヒトが死に、大地に帰り、植物が育ち、ソレを動物が食べ、ソレをヒトが食べて、やがて死んでいく・・・それが巡り合わせですよ。ヒトは決して自然の一部から解放される事はないんです』

「何故、そう言い切れる?」

『神を創ろうとした愚か者や、神の元へ帰ろうとした馬鹿な奴らを知ってるからですよ』

 それを聞いてカレルレンは眉を顰めて、問うた。

「その結果は?」

『そうですね〜・・・神は生み出されましたし、神の元へ帰る事が出来ましたよ』

「ふ・・・何だ、それは? 思いっ切り矛盾してるではないか?」

 先程、ヒトは何処までいこうとヒトと言い切ったのは他ならぬシンジ自身である。

『ええ。確かに神は出来ました。でも・・・造り出された神は神ではなかったんですよ』

「どういう意味かね?」

『さぁ。知りたければ御自分で試したらどうです? それよりタムズ侵攻はどうして貰えます? もし、やるって言うなら・・・・』

 そこで区切ると、シンジはエヴァの背中にオレンジ色の二対四枚の翼を発生させた。すると、エネルギー計測器が凄まじい勢いで針を振り切った。

 カレルレンは目を見開いてエヴァを凝視する。

『これでも半分も行ってませんよ。もし、行くなら貴方の目的が果たされる前に塵となりますね』

「・・・・・・・・良いだろう。所詮、タムズなど事のついでだ。侵攻は中止しよう」

『ありがとうございます。では僕はコレで。仲間を待たせてるので』

 ペコッと一礼すると、エヴァは背を向けて飛んで行った。

「なるほど・・・非常に興味深い少年だな。しかし・・・私以外に神を創り出そうとした者がいたのか・・・?」

 しばらく考え、カレルレンは兵士達をブリッジに呼び戻した。

 

「あんがとよ、兄ちゃん!」

 タムズへ到着すると、艦長がシンジの肩をバシバシと叩いた。

「しかし、良く追い返しましたね?」

「ま、アレぐらいなら楽勝ですよ」

 シタンの言葉にシンジが苦笑して言う。が、すぐに眉を顰めた。

「けど、あの戦艦・・・あのまま北西に進んで行きましたが何かあるんでしょうか?」

 それに答えたのは艦長だった。

「北西? 北西っていやぁ、確か発掘場があったな・・・」

「発掘場?」

「ああ。けど、あそこには何にも無かった筈だぜ?」

 シンジとシタンとバルトは互いに顔を見合わせて頷いた。どうやらカレルレンが向かったのはそこだろう。

 三人はユグドラシルに向かい、北西にあるという発掘場を目指した。

 


 発掘場には、シタン、シンジ、エリィの三人が向かう事になった。入るとすぐにエレベーターがあり、降りた所に大きな穴があった。

 恐らくこの先は発掘されていない所なのだろう。三人は顔を見合わせ、慎重に入る。

「誰だ!?」

 その時、扉の前に立っていたソラリス兵が銃を向けてきた。シンジは二人の前に飛び出し、ロンギヌスの槍を振るった。ソラリス兵は胸を切り裂かれ、床にゴトッと倒れた。

「どうやらソラリス兵もいるようですね・・・奥に何があるのやら・・・」

 ニヤッと笑みを浮かべて言うシンジ。その時、地下だというのに窓が付いているのに違和感を覚え、覗いてみるとギョッと目を見開いた。

 シタンとエリィも何かと思い、覗いて見るとその景色に絶句した。何と地価に巨大な都市が広がっているのだ。

「これが超古代文明の遺跡・・・ですか」

 シンジがポツリと呟くと、エリィが唐突に呟き始めた。

「・・・知ってるわ、よく知ってる・・・私・・・・・そう・・・・・・空洞都市ゼボイム・・私達は、自らこの広大な霊廟に葬った」

「エリィ! エリィ!! どうしたんですか!!」

 シタンに肩を揺すられ、エリィはハッとなった。すると挙動不審に顔をキョロキョロとさせる。

「え? ・・・・・・え? ・・・・・わ、わたし今・・・・・・」

「いえ・・・・先を急ぎましょうか」

 シタンは首を横に振り、先に行く事を促した。シンジは目を細め、彼女の後姿を見ていた。

 

 内部ではソラリス兵がいたがシンジ達の敵ではない。発掘場の奥は機械だらけで、螺旋状に出来ており、同じような場所が何度も続いていた。

 シタンは迷宮(ラビリンス)とは外敵の侵入を防ぐ為ではなく、中に何かを封じておく為のものだと言う。“入れない”為ではなく、“出さない”為にある。そして、ソレが恐らくカレルレンが狙っているものなのだろう。

 やがて最奥部に辿り着くと、研究室のような部屋が見えた。だが、部屋の前は扉が閉まっており、入れない。

 シンジはその扉の前に赤い跡があるのを見つけた。

「これは・・・血、でしょうか?」

 もうかなり乾いているが、それは間違いなく誰かの血の跡であった。するとエリィが目を虚ろにして言う。

「血の染み・・・・・・私の・・・・・・血・・・痛みはなかった。ただ、寒かった。悲しかった・・・・。
 あの子はあの時から、ずっと此処に一人ぼっちで居たのね・・・」

「? エリィさん?」

 エリィはそのまま隣の部屋に入って唐突に端末を操作し出した。

「ちょ、ちょっとエリィさん!?」

「待ちなさい、エリィ! 何が起こるか分からないんですよ!?」

「『新たなる魂の器よ。願わくば、宿るべきあなたのその魂に安らぎあれ』」

 そう言いながら最後のキーを叩くと、エリィはガクッと膝を突いた。ソレと同時にガコン! という音が聞こえた。エリィをシタンに任せ、シンジは音のした方へと向かう。

 すると先程まで閉まっていた扉が開いており、奥には一つのリアクターが突き出ていた。その中にはエメラルドの髪をした褐色肌の女の子が液体の中に浮かんでいた。

 シンジはその光景に少しばかり嫌な思い出が蘇る。沢山ある少女の器。そして目の前で崩れて行く光景。あの頃はもう殆ど心が不安定だったので、強烈な記憶として残っている。

「これは・・・」

「シタンさん・・・」

 シンジがこのリアクターを破壊しようかと思った矢先、シタンとエリィがやって来た。シンジは仕方なく手に込めた力を抜く。

「先生、これは・・・」

「どうやらこの少女は、このリアクター内で創られた人造生命体らしいですね。恐らくは、そこの操作室のデータベースの数列に基づいてリアクターの中で、再形成されたのでしょう・・・恐らくこの子の体は―――」

「分子スケールの自律機械・・・つまり、ナノマシンと呼ばれる物の群体です」

「「「!?」」」

 その時、背後から声が聞こえて振り返ると、ストーンが笑みを浮かべ兵士達と一緒に入って来た。兵士達はシンジ達を取り囲み、端末を操作してリアクターを解除した。すると少女が床に降り、金色の瞳を薄っすらと開いた。

 そして兵士が少女をストーンの下へと連れて行く。

「このナノマシンの群体は貰って行きますよ。それは我らヒトのクビキを外し、神の御下に導いてくれる大事な存在<ファクター>の一つですので」

「ソラリスの狗の分際で神とか信じてるの?」

 シンジが笑みを浮かべて皮肉めいた事を言うが、ストーンは眼鏡を押し上げた。

「このナノマシンの群体はヒトを救うのに重要な要素なのです。貴方のようなカレルレン様に盾突く愚か者には分からないでしょうが・・・」

「ふ〜ん・・・カレルレンはヒトを救うつもりでいるのかい?」

「その通り。我ら選ばれたヒトだけが救われるのです」

「じゃ、選ばれなかったらどうなるの?」

「贖罪を受ける・・・事になるでしょう」

「贖罪・・・ねぇ」

 シンジはゴキッと指を鳴らすと、両の掌に痣のようなものが浮かび上がった。それは聖痕・・・『贖罪の日』によってヒトでなくなった証の一つ。

 シンジの感情が昂ぶった時に浮かび上がり、それはS2機関を使う寸前でもある。

「自分で此処の扉を開ける事も出来ず、他人に開けるのを待っていた無能が選ばれたヒトなのかい?」

 その毒舌にストーンは僅かに目を開いた。だが、すぐに笑顔を浮かべると、三人に背を向けた。

「今の私は、このナノマシンの群体をカレルレン様の下へ持ち帰る事が仕事です。教会のように、遺跡都市に眠る太古の兵器群が目当てではない。あなた方の利害とはぶつからないと思いますが」

「目覚めたばかりの子供を連れ去って何をしようと言うのやら・・・」

 シンジは両肩を竦めると、ストーンは兵士と共に少女を連れて歩き出した。そして、それと入れ違いで二人の少女が入って来る。

「おや?」

「あ〜〜〜〜!! シンちゃんだ〜〜〜!!」

「何だ、トロさんにセラフィーちゃんじゃないか」

 入って来たピンク色の少女――セラフィータはシンジを見て声を上げた。一方、もう一人の少女――トロネはシンジの呼び方に怒鳴った。

「テメェ、その呼び方やめろっつってんだろうが!!」

「あ、ゴメンゴメン」

「シ、シンジ君エレメンツと知り合いなの?」

 恐る恐るエリィが尋ねると、シンジは頷いた。

「ええ。ちょっとゲブラーの空中戦艦に潜り込んだ時、鬼ごっこしたんです」

「何が鬼ごっこだ! テメェ、閣下の艦に大きな穴空けて逃げ出しやがって!!」

「あっはっは。だって扉とかロックするからね〜」

「当たり前だ!!」

 滅茶苦茶、愉快な会話をしている三人にシタンとエリィは空いた口が塞がらなかった。

「っていうか、二人とも僕らと戦うの?」

「まぁな。カレルレンなんざどーでも良いが、余りいー加減だと、仕事を受けたラムサス様の名に傷が付くからな」

「うんうん! それにセラフィー達、キカイの使い方とか分かんなかったんだ! だから、ありがとね!」

 ペコッと頭を下げるセラフィータにシンジは「いえいえ」と照れ笑いを浮かべた。

「お、お前・・・そんな事バラすんじゃない!! 人が苦労して心理的優位を作ってるトコなのに・・・・・」

「ええ〜っ!! ・・・・・・だってぇ・・・・・シンセツにしてもらったら、ちゃんとお礼するんだよって、おばあちゃんがぁ・・・・。
 でも、トロネちゃんすごいんだ! シンリテキユウイ? さっすがポリクロロトルエン子牛脳トーサイさいぼぉぐっ!!」

「ポジトロン光子脳だっ!!! 何だ? その、検疫で引っ掛かりそうな危ない名前は!!」

 愉快な面白コントをしているエレメンツ二人にシンジは生温かい目で見ながら言った。

「二人とも、もう良いかい?」

「ん? お、おお。そうだな。良し! 戦うとするか!」

 トロネは慌てて取り繕い、拳を構えた。シンジはロンギヌスの槍を握ると、シタンとエリィに言った。

「此処は僕に任せてお二人はストーンを追ってください」

「お? 何だお前? 一人で俺らと戦う気か?」

「合理的ですから」

 ニコッと笑って言うシンジにトロネがカッと目を見開いた。

「上等!!!」

 叫び、トロネはシンジに突っ込んでパンチを繰り出して来た。シンジはトロネと共に壁まで吹っ飛び、激突する。

「シンジ君!」

「だ、大丈夫で〜す」

 だが、シンジは槍でしっかりとトロネのパンチを受けていた。

「早く行ってください!」

 ガッとトロネの腕を弾き飛ばし、セラフィータに向かって光の槍を放って牽制した。

 シタンとエリィはその隙にストーンを追いかけて部屋から飛び出した。

「余り君達とは戦いたくなかったんだけど・・・」

「シンちゃん、セラフィーも戦いたくないよ〜」

「だよね〜」

「お前ら和んでんじゃねぇ!」

「あ、そういえばケルビナさんは?」

「話逸らすな!!」

「ケルビナちゃんだったら今日は来てないよ〜」

「答えるな!!」

「そっか〜・・・折角、美味しいクッキー作ったからお裾分けしようと思ったのに」

「なぁ俺ら敵同士だよな!?」

「そんなにツッコんでて疲れない?」

「トロネちゃん、落ち着いて」

「お前らぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!」

 トロネの中で何かがプチッと切れ、巨大な竜巻が発生した。竜巻は部屋の中を破壊し、暴れまわる。

「おお!? な、何だぁ!?」

「トロネちゃんは風のエレメンツだからね〜」

 シンジは風に飛ばされないようロンギヌスの槍を突き刺して体を支える。

「ふ〜ん・・・ってか何で僕の肩に乗ってるの?」

「にゃはは〜♪」

 セラフィータはシンジの肩に跨り、頭に手を回して風に飛ばされないようにしていた。シンジは溜め息を吐くと、嵐の中心で荒い息遣いをしているトロネを、どのように宥めるか考えた。

「何とかなんない?」

「う〜ん・・・ああなったトロネちゃんは言うこと聞かないからな〜」

「しょうがない」

 シンジは仕方ないと考え、トロネに向かって手を伸ばした。

 ズンッ!!

「のぐぁ!?」

 すると彼女の体に物凄い重力の負荷がかかり、トロネは床に突っ伏す。それと同時に暴風もかき消えた。

「ぐ、ぐぬああああ!!」

「ほいっと」

 苦しそうにするトロネを見て、シンジは手を下げた。すると重力波も消え、トロネは息を切らして立ち上がる。

「大丈夫?」

「自分でやっといて何を心配しとるか〜!」

 手を差し出そうとするシンジだが、トロネは涙目でツッコんだ。

「あはは。まぁ僕も調子に乗りすぎ・・・!?」

 ズンッ!!

 その時、凄まじいエーテルが遺跡内を包み込んだ。シンジは大きく目を見開き、トロネとセラフィータもソレを感じ取った。

「これは・・・」

 シンジは上の方を見て冷や汗を垂らすと、ダッシュで部屋から飛び出した。

「わきゃ〜〜〜!!」

 セラフィータを担いだまま。

「な・・・ちょ、ちょっと待てぇ!」

 トロネも慌ててシンジの後を追いかけた。

 

「く、くくく・・・返せ」

 ストーンは信じられないものを見ている気分だった。鉄橋の上でシタン達に追いつかれたと思ったら、突如、謎の赤いギアと赤い男が現れた。

 その男はまるで全てを憎むかのような目を持ち、抑えているのだろうが強力なエーテルが体から溢れ出ていた。

 男はイドと名乗り、シタンとエリィを返り討ちにした。そして、ストーン達の方に向き直り、少女を指差した。

「返せ・・・ソレは俺のだ」

「な、何を言う? コレはカレルレン様にお渡しするのだ。我らヒトを救う為に」

「くくく・・・貴様らには過ぎた玩具なんだよ。ソイツはな・・・」

 一歩前に歩み出るイドにストーンは身を竦ませる。

「待て!」

「「!!?」」

 と、そこへイドの背後から声がかかった。イドは振り返ると、シンジが息を切らせて立っていた。

「な、何だアイツは・・・!?」

 トロネはイドを間近で見てゴクッと唾を飲み込んだ。セラフィータもシンジの肩に乗ったままガタガタと震えている。

「お前・・・アヴェの・・・」

「ほう・・・あの時の紫の機体の奴か。くくく・・・生きていたとは驚きだ」

「残念だけど、簡単には死ねないんでね」

 シンジは笑みを浮かべ、セラフィータを降ろすと地面で倒れているシタンとエリィを見る。

「二人とも、ストーンの所へ戻って」

「え? シ、シンちゃん?」

「大丈夫。僕なら簡単にはくたばらないよ」

 そう言ってニコッと笑うシンジ。トロネとセラフィータは神妙な顔をしながらもストーンの所へ向かった。その際、イドとすれ違ったが、彼はシンジの方だけを見ていて全く気にも留めなかった。

 ストーン達は今が好機とばかりに、その場から脱出した。シンジはシタンとエリィの周りに結界を張り、イドと対峙する。

「お前・・・何者だ?」

「俺が何者かなど、どうでも良い事だ。だが敢えて名乗るとしたら・・・・イド」

「イド・・・ねぇ」

「お喋りは終わりだ」

「!?」

 イドは一瞬でシンジとの間合いを詰め、拳を放って来た。シンジは咄嗟にガードするが吹っ飛んで壁に叩きつけられる。

「ぐぅ!(強い・・・な)」

 シンジは立ち上がりながらイドを睨み付ける。フッと余裕の笑みを浮かべるイド。だが、シンジは妙な感じがした。

「(今の攻撃は・・・フェイさんに似てる。どうやら、やっぱり・・・)」

 シンジはペッと血を吐くと、唇を吊り上げた。イドは笑みを浮かべるシンジが分からず、眉を顰める。

「今の攻撃で何となく分かったよ。パンチの出し方とかで、ね」

「ほう・・・」

「お前は・・・フェイさんの」

「貴様の推理に興味はない」

 そう言うとイドは手に黒い光を集めた。どうやら、かなりのエーテルを集中しているようだ。シンジは目を見開くと、結界で守っているシタンとエリィに目を向ける。

 いくら守られてるとは言え、あのような攻撃を喰らっては一溜まりもない。シンジは舌打ちすると、両手に聖痕が浮かび上がってきた。

 そしてS2機関を解放させ、体中から凄まじいエーテルを放出させた。

「! 貴様、その力・・・・」

 イドはシンジの体から放たれたエーテルを見て僅かに驚きの色を見せる。

「何故ゾハルの力を・・・」

「ゾハル?」

「ふん、まぁ良い。この場で滅ぼしてやる」

「させるか」

 エーテル波を放とうとしたイドに向かってシンジは突っ込んで蹴りを叩き込む。シンジとイドは吹き飛んで、下の古代都市上空で対峙する。

「はああああああ!!!」

「ぬおおおおおお!!!」

 ガガガガガガガガガッ!!!

 互いに一歩も譲らない凄まじい攻防が古代都市の上空で行われる。シンジの拳がイドの顔面に決まれば、イドの蹴りがシンジの鳩尾に決まる。

「くっ!」

「ふ、ははははは! 面白い! 以前よりも遥かに強いな、貴様!」

 イドはシンジの強さに高笑いを上げる。シンジはS2機関を解放し続けているのが辛いのか、僅かに表情を歪める。

「(マズい・・・な)」

 イドに勝つには、アダムの力・・・・インパクトを使うしかないかもしれない。だが、ソレを使えば下手すりゃこの星ごと破壊しかねない。

「(一回も使ったこと無いからな調節できるか微妙なんだよな〜)」

 こんな事になるなら釣りばっかしてないで、ちゃんと訓練しとけば良かったと思うシンジだった。

「どうした!? 何を呆けている!」

「くっ!」

 イドが突っ込んで来て対応しようとするシンジ。だが、そのイドを一機のギアが乱入して掴んで来た。

『こいつは私が押さえる! 早く、敵を追え!!』

「その声・・・ワイズマン!?」

 ギアから聞こえた声はキスレブで会った仮面の男、ワイズマンだった。シンジはジッとワイズマンを見ていたが、急いでシタンとエリィの元へと引き返した。

 イドはワイズマンに掴まれながらも笑みを浮かべて言った。

「ふん、随分と早いじゃないか? ・・・そうか、あの女、か・・・良いぜ。今日のところの“おもちゃ”は、お前でも・・・・」

 するとイドの体から凄まじいエーテルが放たれ、ワイズマンのギアの手が離れる。

「う? ・・・くっ・・・・・・ぅ・・・」

「ふふふっ、くっくっくっく・・・・・」

 

「う・・・ん、此処は・・・」

「気が付きましたか?」

 エリィとシタンが目を覚ますと潮風が流れ込んで来た。体を起こすと、シンジが空を見上げていた。空にはカレルレンの戦艦が飛んで行っていた。

「シンジ君、此処は?」

「ユグドラシルの甲板です」

「!? そ、そうだ! イドは!? あの男はどうなったの!?」

 エリィがハッとなって言うと、シンジは首を横に振った。

「何とか逃げ切りましたよ。いや、流石の僕もビビりましたね」

 両肩を竦めて答えるシンジに、シタンとエリィは唖然となった。

「けど、あのナノマシンの群体の少女・・・カレルレンはどうするつもりなんでしょうね? っていうかナノマシンって何なんです?」

「ナノマシンとは、細胞より小さなロボットのことです。ソラリスではこれを病気やケガの治療に使っています。
 恐らく彼女は、古代のより進んだ技術で作られたナノマシンの集合体でしょう」

「病気や怪我の治療に使われるなら良い事じゃないかしら?」

「心配なのはストーン司教の言葉です。彼は“クビキを外す”と言いました。もしかしたら彼女の体内には、古代の、人体改造の情報が隠されているのかも知れない・・・・・・リコやハマーの様な亜人は、大昔のソラリスが、人類の復興をかかげ、DNAを弄んだ結果、生まれました。
 もし、カレルレンが、より進んだナノ技術で同じ事を考えていたら・・・これは恐ろしいことです」

 そう言われエリィは顔を青くし、シンジは空を見上げた。戦艦は無情にも彼らの手の届かない所へと飛んで行った。







To be continued...


〜あとがきの部屋〜

アスカ「アンタってしばらく見ない間に神経図太くなってんのね〜」

シンジ「ええ、まぁ・・・」←何故か卑屈

アスカ「アレぐらい肝っ玉が据わってたら父親に怯える事も無かったのにね〜」

シンジ「(ぐさっ!)」

アスカ「まぁグズで、弱気で、自分に自信がなくてこそシンジなんだけど」

シンジ「ひょっとしなくても酷いこと言ってるよね・・・」

アスカ「そういえば零号機はどうしたの? 前回、戦ったけど・・・」

シンジ「ああ、アレならディラックの海に戻したよ。何しろ普通のギアと性能変わらないからね〜」

アスカ「ふ〜ん・・・あ! じゃあアタシの弐号機は!?」

シンジ「・・・・・・」

アスカ「何で目ぇ逸らすのよ!?」

シンジ「あ、いや・・・すいません」

アスカ「ええい吐け! アタシの弐号機は!? ママはどうしたのよ!?」

シンジ「ひえ〜!」

アスカ「あ! こら逃げるな〜!」

リコ「・・・・・シンジでも苦手な奴はいるんだな・・・」


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