悠久の世界に舞い降りた福音

第二十七話

presented by ジャック様


「此処は空中都市シェバトの最下層部に位置する、ドック・フロアです。
 先程は失礼しました。私は、マリア・バルタザールといいます」

 バベルタワーの頂上に降り立ったシェバトに入ったシンジ、フェイ、エリィ、バルト。その最下層で先程のギアに乗っていた少女――マリア・バルタザールが頭を下げた。

「ん? バルタザールって何処かで聞いたような・・・・」

「ああ! アレだよ! あの鍾乳洞でいたクソジジイ!」

 おお、とシンジとフェイが手を叩いた。そして、シンジがマリアが乗っていたギアが鍾乳洞で戦ったギアに似ている事に気がついた。

「何だっけ・・・・確か〜・・・・カラミティだったかな?」

「カラミティ!? それは、お祖父ちゃんの造ったプロトタイプのギアです」

 カラミティと聞いて、マリアは過敏に反応した。

「あなた方は、お祖父ちゃんの事をご存知なんですか? お祖父ちゃんは、今何処に!?」

 必死になって問い詰めてくるマリアにフェイは表情を引き攣らせながら答える。

「いや、知ってるとは言っても、爺さんとはアヴェの砂漠の地下で偶然出くわせただけだ。特に知り合いってほどでもないんだが・・・・・そうか、君はあのバル爺さんのお孫さんなのか」

「ええ・・・・・でもお祖父ちゃんには、ここ数年会ってないんです。お祖父ちゃんは、大事な探し物があるからって、一人で姿を消しちゃって・・・・・お父さんもソラリスに捕まったままで、その後どうなったかも分からないのに・・・・・」

 マリアは表情を暗くして顔を俯かせる。が、すぐに顔を上げると微笑んで両の拳を握った。

「とにかくお祖父ちゃん、元気でやってるんですね。良かった・・・・・で、でも・・・」

 するとマリアは急に表情を険しくして、バルトを睨みつけた。急に睨まれてバルトは『え?』という顔になる。

「お、お祖父ちゃんはクソジジイじゃありません!」

「お、おう・・・悪ぃ」

 プイッとソッポを向くマリアに、バルトはどうしたものかと頬を掻いた。そんな彼を見てシンジとエリィはヒソヒソと話し合う。

「バルトって最低。何年も会ってないお祖父さんを悪く言うなんて・・・」

「本当ですね。もう陰険最悪鬼畜野郎は地獄に堕ちろって感じですね」

「おい待てや、お前ら。特に後の奴・・・俺に喧嘩売ってんのか?」

「まぁ落ち着けってバルト」

 今にも鞭を振り回しそうなバルトを後ろからフェイが止めるが、シンジがトドメの一言を言い放った。

「バルトさんって鞭使いなだけでに『無知』なんですね」

 ビュ〜!

 天空のシェバトに凄まじい猛吹雪が巻き起こった。

「おや?」

 外したかな〜、と思いながらシンジは三人を元に戻す事にした。

 


 シェバトは円盤型の都市で、宮殿を中心にドック、街と通路が伸びている。シンジ達はマリアに宮殿へと案内された。

「それにしてもマリア・・・君のギアは随分と変わってるね」

 宮殿に続くエレベーターに乗ってる途中でシンジがふとマリアに尋ねた。

「ええ。ゼプツェンといいます。アレは私の父の造ったギアで、ソラリスから逃げ出す際に使ったものです。でも・・・父は進んでゼプツェンを開発しませんでした。でも私を盾にされて仕方なく・・・」

 どうやらジェサイアが言っていた『M計画の中心だった科学者が試作ギアと共に娘を逃がした』話で出てきた。試作ギアがゼプツェンで、その娘がマリアのようだ。

「ですが貴方の戦い方は何ですか? 非常識な・・・」

 話題を変えるようにキツイ一言を発するマリア。シンジは苦笑いを浮かべながら答えた。

「はっはっは。何もギア戦だからってエヴァで戦う必要もないしね〜」

 っていうか、シンジなら別にギアだろうが生身で戦っても全く平気なのだが、本人の美学っちゅうか、そんなもんがあるのでエヴァに乗って戦うのだ。

 やがてエレベーターが止まり、五人は宮殿に到着した。そして真正面の扉に通され、長い階段を上ると、そこには意外な人物がいた。

「ワイズマン!?」

「おやまぁ・・・」

 フェイとシンジは大きな扉の前に立っていたワイズマンを見て驚く。だが、ワイズマンは何食わぬと言った様子で言った。

「何を驚く? 此処はカーンや私が育った国だ。さぁ早く入れ。女王陛下のお待ちかねだ」

 それと同時にマリアが扉を開いた。扉の向こうには薄いカーテンが引かれ、ゆっくりと回って開かれると、童顔気味の女性が玉座に座っていた。
 その女性は何処か不思議な印象を受ける瞳と雰囲気を持っていた。

「よくぞ、参られました。私がこのシェバトの女王、ゼファーです」

 そう名乗り、フェイ達は驚愕した。

「女王!? 貴女が!?」

 どう見ても少女にしか見えないゼファーに唖然となるが、彼女は優しく微笑んで言った。

「このような姿ですが、実際私は522才になるのですよ」

「522才・・・・・・!? 本当にそんな事が可能なのか・・・・・・?」

 そんな会話を聞いていながら、シンジは五百年なんて自分からすれば昼寝の時間と変わらないのでゼファーの話を聞いても平然としている。

 だが、せいぜい寿命が百年ぐらいのフェイ達には驚きだろう。

「ええ・・・・私や一部の家臣達は、特殊な延命処置を施されているのです。生き永らえる事を強要されたのです・・・・終末の日の訪れる、その日まで。ある男によって・・・・・・。
 償いですよ。こうして生き続けることは・・・・五百年前の悲劇の・・・」

 そこまで言うとゼファーは息を吐いて首を横に振り、話題を変えた。

「遠い昔の話はやめましょう。あなた方の事は、ワイズマンから色々と聞いております。ワイズマンには、私の命で下界で行動して貰っていたのです。ある男の動きを監視して貰う為に。
 また、もし地上に私達の助けとなってくれるような方があれば、必ずシェバトにお連れするよう指示してあったのですが・・・・我らは五百年前にソラリスと地上人の解放をかけて戦い、その後も力及ばぬながらもずっと抵抗を続けてきたのです。
 地上人よ、どうか我らに力を貸して頂きたい。人を、ソラリスの支配から解き放つために・・・・・・真に自由で、平和な世界を築くために」

 頭を下げて頼むゼファーだったが、バルトが力強く反論した。

「随分な御高説だがな、あんた達がソラリスと同じじゃない保証なんてないだろう? たとえ、ソラリスを倒しても、新しい支配者が生まれて来るかもしれない」

 女王に対して無礼な口を利くバルトだったが、ゼファーは微笑んでバルトを見た。

「ふふ・・・・・貴方はロニ・ファティマにそっくりですね。性格こそ違えど考え方は丸っきり同じです」

「ロニ・ファティマ!? そ、そりゃあ俺のご先祖の名前じゃねぇか! ご先祖がシェバトと一緒に戦ったってぇのか・・・」

 驚くバルトに微笑み、ゼファーは真剣な顔になって話を続けた。

「しかし、純粋に地上人の未来の為、我らが行動しているのは紛れもない事実。我らが信じられぬと言うなら、ソラリスを倒し、地上人の独立を勝ち得た後に、今一度共に天をいだくかどうか考えればよい」

 そう言われてフェイ達は押し黙った。ゼファーは共に闘うと言っても、すぐに答えが出るものではないだろうと言って、今日は休むように進めた。

 四人が謁見の間を出ると、フェイとシンジは予想外の人物に出会った。

「ようこそ、フェイ。それに、シンジ君も久し振り」

「「ユイさん!?」」

 そこにはシタンの妻であるユイ・ウヅキと娘のミドリ・ウヅキがいた。

「誰だ?」

「ああ、シタン先生の奥さんと娘さんですよ」

「何ぃ!?」

「!!」

 バルトとエリィは紹介されて驚愕する。シタンが結婚してたのは知ってたが、まさか、こんな美女だったとは思いもしなかった。

「でも何でユイさんが此処に?」

「私は此処の出身よ。あなた達がラハンを離れた後、皆を此処に避難させたのよ」

「って〜事はシタンさんは最初からシェバトの事とか知ってたんですね・・・」

 それを聞いて何だか無性に腹の立つシンジ達であった。

「フェイ、色々と大変でしょうけど頑張りなさい。信じれば、きっと道は開けるから」

「はい・・・」

「フェイ兄ちゃん・・・・頑張って」

 ミドリにも励まされ、フェイは曖昧に笑って彼女の頭を撫でた。

「さて・・・と。僕は街の見物にでも行ってみよ〜っと」

「シンジ君、随分と呑気・・・というか元気だな。あんな後なのに・・・」

 バベルタワーを登って、ゼファーから今後の運命を左右する話をされたというのに、全く普段の様子と変わらないシンジにフェイ達は肩を落とす。

「およ? 皆さんはお休みですか?」

「ああ・・・今日は休むよ」

「私も・・・」

「俺も疲れた・・・」

 三人は疲労いっぱいの様子で用意された部屋に歩いていった。

「あらら・・・」

「普通はああなると思いますが・・・」

 残念そうなシンジにマリアがポツリと呟く。

「まぁ良いや。ねぇマリア、街の案内でもしてくれない?」

「ええ、構いませんよ」

 特に断る理由も無いし、何より少し個人的にイカリ・シンジという人物に興味の沸いたマリアだった。

 

「此処は地獄かああぁぁぁ!?」

 街の一角にある店に入るとシンジは絶叫した。そこには溢れんばかりの色取り取りのチュチュがいた。

「え? 可愛いじゃないですか?」

 足元に群がって来るチュチュの一匹を抱きかかえて言うマリアにシンジは「マジか!?」と返した。

「しかしチュチュがこんなにいるとは・・・」

「?? シンジさん達の所にもいるんですか?」

「まぁ・・・ね」

 っていうか好意を持たれているから性質が悪い。以前、寝てる時にベッドに潜り込んで来た時は本気で食用にしてやろうかと思ったぐらいだ。まぁマルーに止められたのだが。

 シンジは何だか気持ち悪くなって店から出ると、適当な所に腰掛けた。目の前には空が広がり、人々が細々と暮らしている。

「シンジさん?」

「う〜ん・・・風が気持ち良いね〜」

 大きく背を伸ばし、一身に風を浴びるシンジ。マリアは首を傾げてシンジを見る。

「ねぇマリア・・・」

「はい?」

「シェバトは五百年間も空を彷徨ってるのかい?」

「ええ。何でも五百年前に≪ディアボロス≫という集団が現れて、世界人口の九割が滅びたと言われています」

「九割? 凄いね〜」

 そうは言うが、シンジは余り驚いた様子は無い。だが、≪ディアボロス≫というのには少し気になったが・・・。

「それ以来、シェバトはずっと空を彷徨っています・・・でも、ただ浮かんでるだけではありませんよ。≪アニマの器≫を探しているんです」

「アニマの器?」

「ええ。ソラリスも探しているもので、神の知恵によって創られたと言われていて、全部で十二あります。そしてアニマの器とギアが融合変化した状態を≪ギア・バーラー≫と呼ばれます」

「なるほど・・・何となく分かった」

 伝説上の代物であるギア・バーラーを聞いても驚かないシンジにマリアは目を丸くした。
 シンジはニコッと彼女を見上げて微笑むと、ポンポンと隣に座るよう促す。マリアが隣に座るとシンジは話し始めた。

「アヴェは五百年前に出来た国だ・・・さっきのゼファー女王の会話から察するに、そのディアボロスって集団とバルトさんのご先祖様はシェバトと一緒に戦ったんだろう・・・・ギア・バーラーでね」

「!?」

「どうやらアヴェ王家の至宝はギア・バーラーと見て間違いないだろうね」

「ではソラリスが・・・」

「うん。これならゲブラーも必死にファティマの至宝を探している理由にも納得がいく」

 そう説明されてシンジは立ち上がって遠方を見つめた。

「貴方は・・・」

「ん?」

「貴方は何で戦うのですか?」

 唐突に質問されてシンジは一瞬キョトンとしたが、フッと笑うと「そうだな〜」と顔を上げた。

「強いて言うなら・・・・因縁、かな」

「因縁?」

「うん。最近、分かりかけた事なんだけどね。最初は暇潰しみたいな感じで、フェイさん達と一緒に行動してたけど、僕自身、戦わなきゃいけない奴等がいるんだ・・・」

 そう言った時のシンジの表情は何処か儚い感じがした。だが、シンジはすぐに温かい微笑を浮かべた。

「ねぇマリア。どんなに辛い相手と戦う事になっても・・・・逃げちゃ駄目だ」

「え?」

「遅かれ早かれ誰だって、自分の大切なものと戦う時が来るのかもしれない・・・・その時、どれだけ自分の信じるものを信じ切れるかが大事なんだ」

「何でそんな事を私に?」

 そう問い返されると、シンジは苦笑してマリアの頭をポンポンと撫でた。

「君はまだ子供だからね・・・それなのにシェバトの護衛として戦ってるから、つい心配になってね」

「私、貴方と歳変わりませんよ?」

 見た目十四、五歳のシンジに言われてマリアは不機嫌そうに言った。シンジはプッと噴出した。

 


 翌日、フェイ達は再びゼファーに謁見した。

「決心は、つきましたか?」

「・・・・ああ」

 フェイは静かに首を縦に振る。

 ズゥンッ!!

「「「「「!!?」」」」」

 その時、宮殿が大きく揺れ、一人の兵士が飛び込んで来た。

「た、大変ですっ! 女王様!!」

「何事です?」

「はい! それが・・・何者かがドック・エリアに侵入! 障壁<ゲート>発生機が爆破されました・・・・・・!」

「何だって!?」

「ゲブラー・・・ですか」

 驚愕するフェイ達に対し、シンジは冷静に誰が攻め込んで来たのか判断した。バベルタワーに連中がいたのも、この為なのかもしれない。

「被害状況は?」

「は、はい! 予機が破壊されて・・・・障壁<ゲート>展開率、通常の70%にまで落ちています! 全力で、消火、復旧作業に当たっておりますが・・・今しばらく時間がかかりそうです!」

「侵入者はどうしました?」

「はい、単独で潜入したと思われるゲブラー兵は、17格納庫方面へ逃れた
もようです!」

 その言葉にマリアがサーっと顔色を変えた。

「17格納庫!? ゼプツェン・・・・・・!!」

「待ちなさい、マリア!」

 部屋から飛び出そうとするマリアをゼファーは一喝した。

「あなた一人では危険です」

「でも・・・・ソラリスのスパイを放っては・・・・・・!」

「ゼプツェンのないお前に、一体何ができると言うのですか、マリア?」

 辛い言葉だが、現実を突きつける女王にマリアは唇を噛み締めた。

「それは・・・・・!」

 拳を強く握り、肩を震わせるマリア。そんな彼女の肩にポンとシンジが手を置いた。

「なら僕が付いて行きます。侵入者は一人なんでしょ? なら僕だけで充分ですよ」

「シンジさん・・・」

「フェイさん達は女王の護衛をお願いします」

 その言葉にフェイ達は頷いた。女王も目を閉じ、軽く頭を下げる。

「すいません・・・・頼みましたよ」

「ええ。行こう、マリア」

「は、はい!」

 シンジとマリアは急いで謁見の間から飛び出して行った。







To be continued...


〜あとがきの部屋〜

アスカ「ふ〜ん・・・」

シンジ「な、何?」

アスカ「・・・・・・・ロリコン」

シンジ「あのね〜・・・設定じゃマリアは十三歳で僕らと一つしか違わないんだよ?」

アスカ「あんた何年生きてんのよ?」

シンジ「・・・・・・・・・億はいってるかな〜」

アスカ「じゃあロリコンじゃない」

シンジ「それじゃあ世の中の女の人、皆が幼女だよ!」

アスカ「年老いた老婆もね」

シンジ「うわ〜! 何で無駄に年食ってんだ僕は〜!?」

アスカ「ふふふ・・・・ジジイは用済みよ」

シンジ「洒落にならない台詞だね〜・・・・嫌悪に値するよ。嫌いって事さ」

アスカ「あ?」

シンジ「嘘です・・・」

アスカ「アンタに好かれるなんて死んでもイヤ!」

シンジ「死んでるじゃん・・・」

アスカ「あ、そっか・・・」

マリア「こ、この二人って・・・」


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