暗闇の円舞曲

第十二話

presented by 樹海様


 欧州はフランス。
 その小都市の郊外にあるこじんまりとした館。そこで惨劇が起きていた。この館、見かけこそこじんまりとしていたが、その実最新鋭の警報装置と厳重な警戒網が張り巡らされた要塞である、いや、だった、というべきか。今やそこは死者の住む館と化そうとしていた。
 館の主人は現状が信じられなかった。
 自分は人類補完委員会の一員であり、ひいてはゼーレの最高幹部十二使徒の一員、その筈だった。当然そんな相手を怒らせるような真似を喜んで仕出かすような相手はおらず、自身は絶対的な権力者として君臨していた筈だった。
 だが、それがどうだろう。
 僅かな侵入者と聞き、最初は馬鹿な物盗りが知らずに入り込んだかとでも思い、警備の者に片付けるよう面倒臭そうに伝えたのが始まりだった。だが、気付けば警備は次々は崩壊し、外部への連絡は絶たれ、孤立した。そうして……。

 「御機嫌よう、いい夜ですわね」
 笑顔でにっこりと微笑む美しい女性、服装はピンクのレース地のドレスで可愛らしい膨らんだ傘を手にしている。そうした格好がどうにも似合っていた。
 一方その前にある机に座る方は小柄で、貧相。鼻が突き出し、眼鏡をかけた男だった。
 「……一体どこの者だ」
 侵入者がここまで侵入した時点で本来ならば勝敗は決まったと看做されるべきであったが、男は怯えも震えも見せはしなかった。
 「あら、まだ何かしら隠し玉があるのかしら?例えば緊急脱出装置とかいきなり防弾ガラスが私達の間に落ちてくるとか?」
 その言葉に苦笑した男だった。
 「それは漫画や小説の読みすぎだな。生憎そのようなものはないよ。これは単純に私の番が来たと覚悟を決めただけの話だ」
 実の所それだけではなかった。確かにこの部屋に今更突然飛び出すマシンガンだのいきなり落ちてくる壁だの、突然地下へと降下するエレベーターなどは存在していない。代わりにこの部屋に存在するのは充実した防諜設備を施した通信機能だ。彼はもう自らの命に関しては諦めていた。先程言った通り、これまで自身が今の地位に至るまでに様々なものを生贄としてきた。単純に自分の番が来ただけ……人類補完計画が現実に動き出したこの時にリタイアするのは腹立たしく、呪わしいが、だからといってこの期に及んで見苦しく足掻くのは自分のプライドが許さない。
 ならばせめて、同志達に真実を伝えよう、それが彼の選んだ道だった。この部屋の通信機は送信状態で固定されている。

 「ふうん?」
 面白そうに首を傾げる女性だったが、楽しそうに言った。
 「そうですわね、折角漫画や小説と言われたのですし、ここはお約束という事で教えて差し上げるのが礼儀ですわよね」
 にっこりと笑顔になると彼女は言った。
 「単なる報復行為で私、参りましたの」
 「報復行為、か……どれを指しているか、検討もつかんな」
 苦笑を浮かべる男だったが、事実これまでの生き方で怨みを買った覚えなど腐る程ある、というか数え切れない、が。
 「碇ゲンドウとNERVはご存知ですわよね?」
 「ああ」
 そして、女性が告げた話によると……。
 「……つまり、我々の手を出すな、という通達。奴自身が交わした契約に反し、戦略自衛隊の振りをして一般人に奴が情報を流した、その罰、という話かね?」
 「ええ、部下の責任は上司が取るのが筋でしょう?」
 自分への恨みではなく、まさかそんな事が自分の死へと繋がるとは思わなかった。が、くだらない事が原因で殺される、或いは殺意を持つ人間がいるのもまたよく知っている。だから、彼は溜息をつくだけで済ませた。
 「そうすると、君はヴァン・フェムの手の者か」
 「そこは想像にお任せしますわ♪」
 まあ、さすがにそこまでベラベラ喋ってくれるとは思わない。
 「最後に何故ゼーレの中で私が狙われたのか理由を聞いてもいいかな?」 
 これは単純に好奇心だ。
 「それですけれど、十二使徒と補完委員会。その双方に在席している方なら誰でも良かったんですの」
 あっさりと女性は明かした。
 「ああ、でも議長さんはまだ殺してはいけないと言われてましたし、アメリカはちょっと距離があって面倒。田舎のロシアは行く気になれませんでしたし、そうなると補完委員会所属のゼーレ十二使徒ってイギリスとフランスだけ。ああ、そうしてみると案外確率高かったんですのね」
 花が綻ぶような笑顔で、ポンと手を打ち合わせる。
 「成る程、それで私かね」
 「ええ……では、そろそろフィナーレとさせて頂きますわ」
 「まあ、知りたい事は分かった。出来ればさっと片をつけて欲しいがね」
 そう言って椅子に体重をかける……前に首を掴まれ放り出される感覚があった。思わず一度は閉じた目を開いてみれば、手を振り上げた女性の姿がある。……待て、彼女はあの一瞬で自身の前にまで踏み込んで、片手でいくら年を喰ったとはいえ、如何に小柄とはいえ数十キロの重さがある人体を片手で放り投げた、というのか……?そんな思考が浮かぶ間に人生最後になるであろう短い飛行を終えた老人の体は複数の手で受け止められた。
 (……私のボディーガード達、だと?)
 とうに殺されたと思っていた。生きていた?裏切ったのか?それとも隠れて生き残っていたのが救出に?いずれでもなかった。その彼らの目を見れば、それが一目瞭然だった。ぞろり、と一斉に口を開き、生えた牙を剥きだしにする。その様は映画や物語の中でだけ見るある存在を連想させた。
 そうだ、使徒などという存在までいたのに。人の歴史に措いて恐れられた怪物達が存在しないと何故未だ思い続けていたのだろう……。恐怖の存在もまた、或いは何かしらの元となる存在がいたのではないだろうか……そう、目前のこの存在のように。人の根源が語りかけているのだろうか、彼はその存在に対して一つの答えしか浮かばなかった。
 (吸血鬼)
 それを理解した瞬間、彼は初めて恐怖の叫びを上げ……一瞬の後に死者の群に新たに加わる存在となった。
 
 ぐるり、と女性はそんな悲鳴も姿も無視してそこが舞台の上のようにくるりと回転すると、礼をして言った。
 「さて、それではこっそりご覧になられていたゼーレの皆様。今日はこれにて閉幕ですわ。またの幕の上がり、機会が御座いましたらその節はよろしくお願い致します」
 そう、彼女はこの部屋からゼーレの面々に通信が繋がっている事を既に確信していた。
 実の所、映像までは繋がっていなかったのだが、そこまでは知らなかった。とはいえ、知った所で気にもしなかっただろうが。これは単なる儀礼のようなものだからだ。
 「では御機嫌よう」
 その三十分後、ゼーレの上層部より指示を受けた救援部隊が駆けつけた。
 だが、館内を捜索した彼らは首を傾げる事になる。
 館内部は確かに戦闘の痕跡があった。或いは壁が陥没し、或いは銃弾が壁に列を作り、或いは……。と、そこではかなりの戦闘が繰り広げられた事を物語っていた、が。そこには二つのものが決定的に欠けていた。
 「……何で血痕も死体もないんだ?」
 そこからはその二つだけが拭い去られたかのように存在していなかった。


 ゲンドウはその日、冬月と共にゼーレ最高幹部会へと呼び出された。
 正直に言ってしまえば、その時ゲンドウはやや不機嫌だった。それは一重に自身の工作の結果による。
 一般人にシンジがEVAのパイロットである事を流し、精神的に追い込む元とする筈が、想像以上に流した相手の愚かな行動の為に水泡に帰してしまったのだった。

 「……何だと?」
 出張から帰ってきて、報告を受けたゲンドウはさすがに驚きの篭った声を上げた。
 それは工作、という程でもない。少年のパソコンへと細工をして、特定のアドレスへ接続しようとした際、巧妙に作られた別のHPに移動するようにしただけだった。ただし、一度だけ。その後は本来のアドレスのHPへと繋がるようになっている。この街の回線は余程の細工か独自に引いた一方向回線でもない限りMAGIの監視下にある。この程度は簡単だった。
 無論、計画では複数の人間に同じ事を行う予定だった。
 が、ゼーレからも釘を刺されたが故に、試験を行う予定だったのだ。これで上手くいけば、ゼーレからも細工の了承を得られるだろう。ゼーレとて依り代候補の心を壊すつもりなのは間違いないのだから……。
 が、経過を見るも何もなく……。
 第四使徒シャムシエル戦にてシェルターを飛び出して戦場に入り込んだ少年はEVA初号機に踏み潰され死んだ、と思われた。
 「……警備課の通路を担当していた警備員、更にその警備員がその場を僅かな間離れる要因となった少年の双方について確認を取りましたが、特に記述におかしな所はなく、少年の言った事も事実でした。この為、背後を通り抜ける僅かな隙を狙っていたものと思われます」
 まず、警備員。
 初老の面倒見のいい男性であり、今回はそこを利用されたと見られていた。
 少年――すなわち鈴原トウジであったが、こちらもどちらかと言えば利用された可能性が高い、と見られていた。というのも、少年に妹の事について確認したらと言ったのが、抜け出した相田ケンスケだと判明したからだ。
 「……それで一体どうしましょうか」
 「……しばらく様子を見る。どのみち奴は観測気球だった。工作を進めるかどうかはまた改めて指示する」
 一時は両方とも消す事も考えたが、よく考えてみれば、今回あの少年、相田ケンスケを選んだのはあくまで偶然であり、その目的はヴァン・フェム財団に気付かれずに工作が行えるか、行えたならばゼーレに対して自身の息子への工作許可を求める、その為だった。派手に動いてもらって、目立ってもらうという予定は崩れたが、気付いたかどうかに関しては分かるだろう、と苛立った気持ちを静めて様子見を命じた。
 警備員に関しては訓戒処分、鈴原トウジに関しては厳重注意、と決まった。まあ、正直に言ってしまえば、彼らの事などどうでも良かったからだ。
  
 そうして、ゼーレ最高幹部会へと呼び出された。
 (という事はヴァン・フェム財団にばれた、そういう事か?)
 でなければ、冬月と二人して呼ばれる事はあるまい。ならば、工作は取りやめ、一からやり直しか、そう考え不機嫌になっていた訳だが、事態は彼の想像を遥かに超えていた。
 「碇よ、我らの指示を無視して、サードチルドレンに対して手を出したらしいな」
 01の文字が記されたモノリスより声が発せられた。
 「は……」
 ふとゲンドウは僅かな違和感を感じていた。よく見れば、十二ある筈のモノリスが十一しかない。どういう事だ?その疑問はすぐに晴らされた。
 「貴様のそれを契約違反として、おそらくはヴァン・フェム財団めが動いた」
 「………」
 「部下の責任は上司の責任と言って、奴ら、我ら十二使徒の一人を消しおった」
 冬月がぎょっとした様子で目を見開いた。
 ゲンドウは何時ものゲンドウポーズ、サングラスに口元を隠す為に組まれた両手故に外からその内心は分からなかったが、彼もまた驚き、そして焦っていた。自分の行動の結果、最高幹部の一人が死んだ。無論、ゼーレがそれが何者が手を下したのかを明らかにしようとするだろうし、ただで済ますつもりもあるまい。
 だが、同時に自分もまたただで済むとも考えづらかったのだ。 
 「この失態如何にして償うつもりだ」
 その言葉に、さすがのゲンドウも答えられない。沈黙を守っていると他のモノリスも口々に問う、というより糾弾する。
 「貴様には伝えてあった筈だな、サードチルドレンには今しばらく手を出すなと」
 「何故手を出した」
 「その結果がこれだ、貴様の命で購えるような失態か?」
 「何か言ったらどうだ!」
 弾劾をゲンドウは黙って受けるしかない。何を言っても今は無駄だと判断しているからだ。
 ゲンドウはシンジを甘く見ていた、と思わざるをえない。正確にはシンジを取り込んだ組織を、だ。
 シンジは金を要求してきた。ゲンドウは自分が素直すぎる程にそれを本気で受け取っていた事に歯軋りする。このような行動に出た、という事は最初からあの金を期待してなどいなかったのだろう。元よりしらばっくれて、与えるつもりなどない金だったが、このような事態を招くのであれば……いや、それならばそもそも手など出そうとしなかっただろう。
 「静まれ」
 01:キール・ローレンツの声が糾弾する一同を抑える。
 「碇よ、此度の件、如何に責任を取るつもりか」
 「は……それは……」
 さすがに議長相手に沈黙を保つのは拙い、そう思い答えようとするが答えようがない。
 「言えぬか、そうであろうな。サードチルドレンを罰するは証拠もなく、そも計画と此度の被害を考慮するならばこれ以上の手出しも出来ぬ。金で購えぬ失態である事は明白。現職の辞退など我らがその気になれば、解任は容易い。どうする、命ぐらい捨ててみるか」
 「………」
 答えられない。背中に冷たい汗が流れる。
 「だが、今回は貴様の命は見逃してやろう」
 その言葉に冬月が明らかにほっとした様子を見せた。他のモノリスが沈黙しているのを見る限り、既に決まっていたのだろう。だが、何もないと考えるのはまだ甘かった。
 「日本には詫びとして指を詰める、というのがあるそうだな……此度は腕か足、一本で許してやろう」
 さすがにぎょっとする。
 「無論冬月、貴様もだ」
 冬月も顔が強張っているが、ゲンドウも冷や汗が流れている。それは誰だって自分の腕や足を斬りおとしたくはない。
 「念の為に言っておくが……此度の事をサードチルドレンのせいとして流さぬ事だ。もし、そのような真似をして向こうの報復を招いた場合、尚貴様の……いや、貴様らが人として生きる事も人として死ねる事もあると思うな」
 キールをして吐き捨てるような口調だった。
 「左様、ファーストチルドレンへ吹き込むのも同様だ」
 「いずこから貴様らへの罰がサードのせいだという情報が流れた時は貴様らの無能のせいだと判断する」
 「その旨は既に決定していると思え」
 ゼーレの他の者も口々に言う。これでせめてサードを追い詰める為の布石とする事さえ禁じられた。
 「では、碇、冬月。貴様らが何時処罰を実行するか見せてもらおう……我らが貴様らの首を挿げ替える前に行う事だ」
 そうキールが告げてゼーレの一同は姿を消した。……後には呆然とした二人が残された。

 実の所、今回の一件において、ゼーレ内部ではゲンドウを処分すべき、という意見は強かった。
 だが、問題はその後釜である。
 ゲンドウは確かに問題も多いが、有能な部類ではあった。何より、彼個人の思惑はあるにせよ、人類の自殺とでも言うべき人類補完計画を進める意志があった。才能だけならば、ゲンドウに匹敵するか上回る人材はあったが、確固たる意志を持って、人類補完計画を遂行しうる人材はそうそう見つからなかったのである。
 とはいえ、今後はそうした人材の選出も進められる事になった。
 一応ゼーレは今回は許す、という形を取りはしたが、その実許す気はなかった。見つかり次第、彼らはゲンドウを処断するつもりだったのだ。それだけ今回の一件に対する怒りが大きかったと言える。
 ここで疑問に思う方もいるだろう。直接手を出したと思われるヴァン・フェム財団への報復は行わないのか、と……正確には現状では出来ない、というのが正しい。
 此度の件で、ヴァン・フェム財団は厳重に秘匿された筈のゼーレ最高幹部の居場所を把握している事が判明した。実際はこれは魔術を用いて割り出しが行われたのだが、魔術の存在を知らぬゼーレは当然のように裏切り者がいるか、或いは自分達の居場所に関する情報が裏で流通している、と判断した。
 当然ながら、そのような状況で安心していられる程、ゼーレは優しい組織ではない。
 裏切り者がいるならば、それは誰か、そもそも裏切り者がいるのか?
 自分達の居場所という情報が掴まれているならば、それを把握しているのは誰か?
 更に、いずれの可能性にせよ現在用意している隠れ場所以外の新たな隠れ場所の確保と引越し。
 やる事は山のようにある。そして、最低でもこれだけの事を行った後でなければ、ヴァン・フェム財団への反撃は行えなかった。そもそもヴァン・フェムと財団の重要出資者に関する情報は極端に少なく、生きている事は明らかであるが、居場所はゼーレ側は全く把握出来ていなかった。
 一方的に攻撃を受ける状態ではヴァン・フェムと即座に戦争、という訳にはいかなかったのだ。
 いずれにせよ、この数日後よりゲンドウと冬月が手袋を外さなくなった事、そして、二人が突然暗殺されるような事態は起きなかった事は言っておこう。
 
 
 さて、ゲンドウらが陰険な駆け引きというか、処罰を受けていたのと時間は前後する。
 「は〜クーラーはやっぱり至高の発明ね〜……生き返るわ」
 ぐったりとミサトがアイス珈琲を片手に机にもたれていた。
 「ご苦労様、それでどうだったの?」
 ここは第四使徒シャムシエルの解体現場だ。技術部の為のプレハブの中には現在リツコとミサトの二人だけだった。
 「あ〜〜ダメ。劣化が激しすぎて、耐久実験に使うのは無理、何とか一部の衝撃吸収機構は技術部が解き明かしたって聞いたけど、実際に撃って試してみるのは望み薄ねえ……リツコはなんかわかった?」
 「全然。分かったのはこれだけ」
 言いつつ、画面に数字を表示してみせるが、ミサトはそれを一度確認した後でひらひらと手を振った。
 「あ〜遺伝子がどうたらこうたらはリツコに任せるわ。今あたしがやんなきゃなんないのは、あいつの動力源とか弱点とかそういうのなのよ〜……こっちでも調べてるけど、技術部でもなんか分かったら回して?」
 「分かったわ」
 本音では、ヒトと使徒の遺伝子の一致率や光に近い組成など説明したかったが、ミサトの言う事も分かる。ミサトは軍人であって、学者ではないからだ。
 今回、コア以外に関してはほぼ全身が残った理想的なサンプル、という事で作戦部・技術部一同喜んだのだが、戦闘後急速に劣化が進み、判明した事はごく一部だった。
 「けど、司令と副司令も災難よね……お二人揃って事故で入院でしょ?」
 びくり、と一瞬身体を硬直させたリツコだったが、幸い気付かれなかったようだった。
 「……そうね、大した事がなかったのが不幸中の幸いかしら」
 「そうねえ。あ〜自分も病院のベッドで横になっていられたらいいんだけどねえ……仕事がまだまだあるからそんなとこで横になってらんないわ〜……」
 表向き、ゲンドウと冬月二人は館内の施設にて事故に遭い、検査入院となっている。無論実際は異なる。結局二人はリツコに頼んで、切断を行った後、精密な義肢を装着した。現在はその義肢の調整の為の入院である。将来的にはクローンによる四肢再生も予定されてはいるが、さすがにすぐには無理だ。
 「………ところでシンジ君はどうしたの?」
 話題を変えようと、ここにはいないシンジの事を話題に出す。
 「シンジ君?家よ。戦闘の後は休むのもパイロットは仕事よ」

 そのシンジは家でのんびりとしていた、筈だった。
 いや、無論家にはいるし、監視だけに留めているNERV諜報部にはゴロゴロしている光景が映っている筈だ。
 が、家の中ではそんな事はどこへやら、あちらこちらへと連絡を取っている姿があった。
 魔術要素をNERVが持たないのは確認済みだが、それでも念の為掃除を行い、更に魔術によるサーチを行い……と機械・魔術双方による複数のチェックを行った上での作業だ。当然重要なものである事は予想もつくだろう。
 「……ゼーレ幹部の一人を消したか……これで時間も稼げるだろうけれど」
 渋い表情で押し黙るシンジ。
 「……矢張り手が足りない」
 目は既にNERV全域に張り巡らしている。金に関しては元より最初から駆け引きの種だったから振込み要求さえ行っていない。もっとも実際にはきっちり設けられたシンジの給与口座に振り込みされているのだが。これは支払いの約束を破った場合、それも違反と対ゼーレへの行動に移されては拙いと判断した冬月の指示だったのだが……。
 「一人では出来る事にも限りがある」
 如何に死徒二十七祖の一角といえど、万能ではない。これが皆殺しというのならばどうとでも出来るのだが、今回は情報収集が仕事。なのだが……別にシンジはコンピューターの専門家ではない。NERVに自由に出入り出来るからといって、MAGIから自在に情報を引き出せる訳ではない。少なくとも自分の技術で引き出せる範囲に重要情報が転がっているなどと楽観してはいない。
 では魔術か、となるとこれも難しい。何しろ電子に介入する魔術等は余り得意ではない。シンジが得意とするのはあくまで結界、移動に認識誤認の系統なのであって、ヒトを誑し込む方法にした所で、せいぜい魅了の魔眼を使う手ぐらいだ。
 「……矢張り、誰か追加で」
 回してもらおうか、と言いかけた所で。
 ピポピポピポピポピポピポピポ……。
 チャイムが連打された。
 「……………」
 無視しようかと思ったが、連打は終わる気配がない。さすがに苛立って席を立つ。
 「誰だ、全く……」
 バン!と勢い良く扉を開けたシンジは、だが、そこに親しい人の姿を見つける事になる。
 「……リタ姉!?」
 「シンジ!久しぶりね!」
 顔を見るなり、シンジを抱え込むように抱きしめた女性の名はリタ・ロズィーアン。死徒二十七祖第十五位の来襲だった。 



To be continued...
(2009.06.06 初版)


(あとがき)

疲れが取れません……足が、肩が痛い

今回はいきなりの急展開
TV版で出てきた補完委員会のメンバーの一人が……という展開です
次回もサービス……出来るかは不明ですがw



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