幽☆遊☆世紀 エヴァンゲリオン 蔵馬育成計画

STAGE.02

presented by かのもの様


早朝。
アスカはいつもどおり、蔵馬を迎えに来た。
アスカの脳裏に先日の蔵馬の言葉が浮かんでいた。

《……今のところ……ないな。…そんな気にはならない……》

確かに、アスカも他人に言われれば否定してきた。
しかし……蔵馬にあんなにはっきりと否定されると……心が激しく痛んだ。
しかも、アスカのようにむきになって……ではなく冷静に……。
だからといって…今更、蔵馬との関係を絶つこともできなかった。
それに、蔵馬は『今のところ』と言ったのだ。
時が経てば……まだ、望みはあるのだ。

(……って、何、考えてるのよ私は……)

ぶんぶんと頭を振り、今、浮かんだ考えを頭から追い出す。
そのとき、目の前の扉が開いた。
蔵馬が出てきたと思い、挨拶をしようと見てみたら……蔵馬の前に見知らぬ女が立っていた。

「……アンタ……誰!?」

 ★☆★

「……と、言う訳で今から転校生を紹介する……野郎共、喜べ!女子だぞ女子ーーーーーっ!」

担任のミサトから女子の転校生が来ることを知らされた、クラス男子たちは、トウジとケンスケを筆頭に喝采を上げた。
しかし、アスカの不機嫌そうな気配が周りの男子を萎縮させた。

「ま…まあでも、ウチのクラスには惣流がおるしな…」

「惣流みたいな美人は滅多に……」

焦りながらフォローの言葉を口にするトウジとケンスケをよそに……転校生が入室してきた。

「綾波レイです。よろしく」

蒼銀の髪をした、アスカに負けず劣らずの美少女ぶりにクラスは騒然となった。

「それじゃあ、席はシンジ君の隣ね」

「よろしく」

蔵馬の隣の席になったレイは、蔵馬に挨拶をした。

「ああ、よろしく」

そんなレイに蔵馬は優しく微笑みながら応えた。

「くぅ〜〜〜〜〜っ、何で席が碇の隣なんや…。惣流がおるくせに……あいつばっかり…」

アスカという美人の幼馴染みがいて、更にその容姿の良さゆえに女子に人気がある蔵馬である。
そして、更にそのアスカに負けず劣らずの美少女が、蔵馬の隣の席になったのだ。
女性にもてたことのないトウジにとっては、うらやましいかぎりであった。
最も、そのトウジに思いを寄せる物好きな少女が1人存在しているが……。

(こりゃあ、ますます惣流の機嫌が……)

ケンスケの考えのとおり、アスカの機嫌は最悪の状態になっており、後ろから蔵馬とレイを睨み付けていた。
アスカに睨まれていることは、当然、蔵馬も察しているが、蔵馬の神経はワイヤーロープより強靭なので特に気にもしていなかった。
蔵馬とアスカは、同じ幼馴染み同士とはいえ、ユウスケとその幼馴染みの少女ほど、親密な関係とは言えなかった。

第3新東京市は、将来の首都として建造された大都市である。
かつての首都であった東京が、首都機能を果たせなくなったので急遽、第2新東京に遷都されたが、急ごしらえの首都ではいずれ限界が来る。
そのことを見越し、小さな街であったこの地が次の遷都予定地に選ばれ第3新東京市となり、様々なビルや施設が建造され、人口も増加していき、次の首都に相応しい大都市へと変貌を遂げた。
蔵馬の通う第3新東京市立第壱中学校も、第3新東京市が建造されてから創立された中学でまだまだ若い学校であった。
新しく創立された第壱から第十までの中学とは別に、この街がまだ第3新東京市になる前から存在した中学が二つあった。
私立である累ヶ淵中学校と公立である皿屋敷中学校である。
この二つの中学は第壱中学と近い場所にあるため、第壱中学の生徒達もこの二つのことはよく知っていた。
累ヶ淵中学は、不良学生しか存在しない、通称『極道予備校』と呼ばれている。
皿屋敷中学は公立校であり、第3新東京市の公立中学の中で唯一、『第○中学校』と言う校名ではない。そしてこの中学に通う生徒たちは、殆どが普通の中学生なのだが……累ヶ淵中学の不良学生より性質の悪い問題児が1人いる。
その問題児こそ、蔵馬のかけがえのない友である浦飯ユウスケである。
万引き、カツアゲ、補導の常習犯であり、皿屋敷中の生徒達は皆、彼を恐れていた。
そして、そのユウスケには蔵馬と同じように女の子の幼馴染みがいた。
雪村ケイコ。
才色兼備で品がよく、ユウスケとは対照的な性格で、周りからの信頼も厚い。
ゆえに当然、男子によく告白されるのだが、『他に好きな人が居る』と言って断っていた。
もちろん、その好きな人とはユウスケのことである。
ユウスケが好きだと公言しているわけではないが、隠しているわけではない。
確かに以前はケイコも否定していたが……ユウスケが交通事故で死んだときは、通夜の時に号泣し、ユウスケが生き返ってからはユウスケに対する想いを仲の良い友人には隠さなくなった。
そこら辺がアスカと違うところである。
最も、仲の良い友人達は、ユウスケのことを怖がっているので、いくら幼馴染みとはいえ、ケイコの気持ちを理解していないが……。

蔵馬はアスカが自分を想っていることには気付いていなかった。
前述したが、蔵馬は他の事には鋭いが、自分に対する異性の好意に関しては鈍い。
長年共に居るアスカの気持ちくらい気付いても良さそう……と、考える読者諸兄もおられるだろう。
蔵馬は、正体が妖怪である為、幼馴染みであるアスカに対しても完全に心を開いているわけでもない。
他の者に対してよりは、開いているが……。
故に、気付かないのだ。

余談ではあるが、蔵馬の周りの人間に対する気持ちを表してみよう。

ユウスケ、桑原、飛影。
最も信頼できる仲間たち。四人の内、誰が欠けても嫌だ。

ユイ。
最愛の母。いつもまで、幸せに。

ゲンドウ。
一応、大切な父。ユウスケとは別の意味で興味深い存在。

ゲンカイ。
尊敬に値し、頼りになる人物。

ケイコ、シズル、アツコ、雪菜。
ユウスケたちを通して知り合った親しい友人。

ぼたん。
ユウスケたちに次ぐ大事な仲間。

コエンマ。
一応、上司。もしくは雇い主のような存在。

トウジ、ケンスケ。
学校での友人。見ていて飽きない奴ら。

ミサト。
尊敬できない担任教師。しかし嫌いではない。

アスカ。
幼馴染み。ユウスケたち程ではないが、それなりに心を許せる友人。

レイ。
母方の親戚らしい?何故か気になって仕方がない。自分自身の感情に少し戸惑っている。

これからもわかるとおり、蔵馬の中のアスカの位置付けはかなり微妙なのであった。

 ★☆★

昼休み。
レイの周りに男子が集まってきた。
レイは容姿だけではなく、頭脳の方もアスカに匹敵していた。
授業中、教師の出した難しい問題をあっさりと解いてしまったのだ。
華麗なる転校生に、男子たちは沸きあがり、口々に質問していた。

「まあまあ、待てや。そないいっぺんに聞かれても綾波さんかて答えられんやろ。代表してワシが」

レイに迫る男子たちをトウジが抑え……。

「どや?ワシと一緒に飯でも……」

と、抜け駆けしてナンパしだした。

「鈴原!!何馬鹿なこと言ってんのよ!?」

「お…怒るなって委員長。ただ親睦を深めようと思っただけやんか…」

むきになって怒る委員長のヒカリに、平謝りするトウジであった。
そう、この洞木ヒカリこそ、先ほど述べたトウジに想いを寄せる物好きな女性である。
想い人のトウジが、レイをナンパしたのでヤキモチを焼いたのだ。
そのことをケンスケに指摘され、真っ赤になる二人であった。

「ヒカリ!こんな連中ほっといて、お昼食べよ」

いらだっていたアスカが、口を挟んだ。

「大体さ、鈴原馬鹿じゃないの?あんたなんか相手にされるわけないじゃん」

少しばかり怒りをこめてアスカがそう言い捨てた。
アスカは、ヒカリがトウジのことを想っていることを知っている。
ヒカリは、潔癖症な所があるが心優しい少女である。
そんなヒカリに想われているのに、トウジの軽い態度に腹が立っていたのだ。
しかし、トウジからすれば、アスカにそんなことを言われる筋合いはないと感じ、反論した。

「う…うるさい!!惣流こそ綾波さんに嫉妬してるくせに!!」

「…なっ!?」

思いもかけない反論に、アスカがひるんだ。

「今朝から機嫌が悪いのはそのためやろ。あないな美人が碇の隣になって、自分の旦那が取られんかと気が気でないんやろ?」

「……お…おい、トウジ……」

「……な…な……」

アスカは完全に動揺していた。

「なあ、碇。正直言って、お前も惣流より綾波さんの方がいいなーとか思っとるやろ?」

トウジはにやけた顔で蔵馬にそう振ってきた。

「……いきなり俺に振らいないでくれ…」

「なんや、やっぱり碇は惣流の方がええんか?」

「そうとは言っていない。確かにアスカみたいな乱暴なのは遠慮したいと思わなくもないが……な…」

ブチッ!!

「何なのよ。さっきから黙って聞いていれば!!」

蔵馬の最後の一言で、とうとうアスカがキレ、怒鳴り始めた。

「なんであたしがこんな女に、嫉妬しなくちゃならないのよ!!いくら朝、シンジの家から出てきたからって………」

頭に血が上っている為か、余計なことまで口に出してしまったアスカであった。
当然、それを聞いたクラスメート達は……

「「「「ええええ〜〜〜〜〜!!」」」」

と、ハモらせるのであった。
トウジを筆頭にレイに群がっていた男子たちはこぞって蔵馬に詰め寄ってきた。

「碇。どういうことや!?」

「説明しろ!!」

「不潔よ!碇君!!」

「ちょっと待て。…それじゃ二人は両親公認の仲ってこと!?」

「惣流さんはどうなるんだ!?」

「ひょっとして二股!?」

「ハーレム!!?」

話がだんだんと変な方向に向かっているようだ。

「「「綾波さん。今の話…本当なんですか!?」」」

「ええ。だって私、碇君の家にご厄介になっているんだもの」

レイがいとも簡単に肯定してしまったので、クラスメート達は呆然としてしまった。

「す…ずるいぞ、碇。お前ばっか……」

悔し涙を流しながらトウジが蔵馬に詰め寄ってきた。

「落ち着いてください!!」

蔵馬はそんなトウジに拳骨を落とした。

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ……!!!」

十分と手加減した拳骨だが、それでもトウジには効いたのか、頭を抱えながらごろごろと転がりだした。

「大体、何故、お前らに文句を言われなくてはならないんです?」

「当然だろ!こんな可愛い娘と一緒に暮らしているなんて聞けば、うらやましくもなるさ…」

ケンスケが何を当たり前のことを……という表情で答える。

「なら、納得のいく説明をしてやるから黙って!!」

蔵馬に睨まれ、クラスメート達は沈黙した。
静かだが、有無を言わさぬ迫力。
クラスメートの蔵馬に対するイメージは、物静かで優しくて、アスカと並ぶ学年首席で、学年一の美男子。
しかし、今はクラス全員をその視線だけで黙らせている。
明らかに怒っている。
好き勝手言うトウジ、ケンスケ、そしてクラスメート達に……。
蔵馬のイメージに、怒らすと怖い……が、追加された。

「綾波さんは、俺の母方の親戚です……家庭の都合で、母さんがしばらく預かっている……それだけのことです……」

「それだけのことって……。それでも十分、うらやましいぞ碇……」

トウジがジト目で蔵馬を睨んだ。

「だからと言って、俺に文句を言ってどうする……俺にどうしろとお前達は言うつもりです……俺の親が、綾波さんをウチに住まわせると決めた。しかも、綾波さんは親戚だ。この件にお前らに何か言う権利があるんですか?」

これは碇家の問題である。
親戚を預かる。
この件に関しては、誰にも文句を言われる筋合いはない。
蔵馬はそう主張している。
正論である。
なによりも、蔵馬から発せられる眼光に皆、呑まれていた。
本気ではないが、それでも百戦錬磨の妖怪の眼光に、皆、反論する気が起きなかった。
一人を除いて……。

「そんなのが居るなんて……アタシは知らなかった……」

アスカである。
長い付き合いなのに、レイの存在を知らなかった。
アスカとしては面白くなかった。

「アスカでも碇君のこと、知らないことがあるのね…」

ヒカリがそう呟いた。

「何よ、どう言う意味!?」

「いや、別に……」

ヒカリは慌てて、そう答えた。

「アスカが知っているわけあるまい。俺も昨日、初めて綾波さんの存在を知ったんだから……」

「「え!?」」

アスカとヒカリはボカンとした。

「知らない人間を、どうやってお前に紹介できる?そして、俺も知らなかった親戚を、いくら隣に住んでいるとはいえ、他人のお前が知っていたら怖いだろうが……」

それは、そうである。
いくら仲の良い友人でも、本人が知らない親類縁者を知っていたら、そいつの素行を疑ってしまう。
許可無く、個人情報を閲覧したということになる。
まあ、蔵馬に内緒でユイが喋れば話は別だが……。

「はいはい、理解したのなら弁当を食べましょう。次の時間は体育ですよ。着替えてグラウンドに集合しなければならないんですから……これ以上、無駄話をしていると、食べる時間が無くなりますよ」

 ★☆★

今日の女子の体育はサッカー。
アスカは、昼食中にヒカリが言ったことを思い出していた。

《アスカにはアスカの良い所が一杯あるんだから、もっと素直になったらいいと思うよ》

(素直って何よ……シンジは幼馴染み……それ以上でもそれ以下でもないんだから……それなのにみんな勝手に決めて……)

心の中でも、実に素直ではないアスカであった。

「アスカーーーーー!言ったよ〜!」

考え事に集中していたアスカは、自分に向かって飛んできたボールに気付いていなかった。
そのため、トラップに失敗してしまった。

(いけないいけない。今は授業中じゃない……集中しなきゃ…)

トラップしそこなったボールを何とか確保し、ドリブルを開始する。
ゴールを目指していると、そこにある意味、諸悪の現況(アスカ視点)の少女の姿が視界に入った。
綾波レイ。
この女が来たから……、この女のせいで、妙なことになっている。

「元はといえば……全部、こいつのせいじゃない…」

完全な逆恨みである。
しかし、アスカにとっては、それが真実であった。

「アンタなんか……大っキライ!!」

ボールの位置を確認せずシュートしようとしたため、アスカの足はボールではなく、地面を蹴ってしまった。

「痛ッ!!」

「アスカ、どこ蹴ってるの!?」

プレイは一時中断となり、皆、アスカの下に集まってきた。

「おい、女子の方、なんかあったみたいやで?」

「惣流が倒れているようだぜ…」

トウジとケンスケから聞き、蔵馬の表情が一変した。
やはり、親しい人間に何かあったとなると、心配になる。
蔵馬は、女子の方に向かった。

「こりゃ……無理な蹴り方をしたため、足を捻ったな…」

体育教師の加持リョウジ先生が、アスカの足の具合を見ていた。

「シンジ君。すまないが彼女を保健室に連れて行ってくれないか?」

それを聞いたアスカが立ち上がった。

「へ……平気です!」

「だが……一応、赤木先生に見てもらわないと…」

アスカは強情を張っている。
蔵馬の世話になるのを、嫌がるかのように……。

「どうしてもと言うのなら、一人で行きます!」

そう言って、保健室に向かおうとする。
蔵馬は、そんなアスカを見てため息を吐いた。
そして、バランスを崩し倒れそうになったアスカを支え、そのまま抱き上げた。

「「「「「「「!?」」」」」」」

それは俗に言う『お姫様抱っこ』である。
蔵馬に憧れる女子たちは、羨ましそうに見ていた。
しかし、抱かれたアスカにしてみれば、恥ずかしいどころの騒ぎではない。

「ちょっと、シンジ!?降ろして……恥ずかしいじゃない!!」

「大人しくしていろ……怪我人なんだから……」

蔵馬の抱かれながら暴れるアスカだが、蔵馬はまったくバランスを崩さず悠然と保健室に向かった。

「ヒューヒュー!!見せ付けてくれるねぇ。碇!」

男子の一人が嫌みったらしく茶化しだした。
この男は、かつてアスカに告白したが、あっさりと振られたことのある男であった。
その為、蔵馬のことが気に入らないらしく、よく蔵馬に突っかかってきていた。
無論、蔵馬は相手にしていなかったが……。

「おい、止めろよ。篠原!」

「何だよ、鈴原。いつもならお前が率先して茶化すくせに…」

確かに普段なら、トウジも騒いでいるだろう。
しかし、トウジは状況を弁えている。
アスカが怪我をしたときにまで、茶化すような常識知らずではなかった。
友誼には篤い性格のため、普段は喧嘩ばかりしているとはいえ、アスカのことを心配しているのだ。

「暑い、暑い。ただでさえ暑いのに、お前らのせいでもっと暑くなったぜ!」

篠原はトウジの制止を無視し、再び蔵馬とアスカをからかい始めた。
アスカは真っ赤になって、蔵馬に降ろすように言おうとした……が、蔵馬の表情を見て沈黙した。
それは、アスカが見たこともない蔵馬の怒りの表情であった。
蔵馬はアスカを抱きながら、近くに転がっていたサッカーボールを蹴りつけた。
ボールは高速で囃し立てる篠原の頬を掠めて、グラウンドの脇にある鉄棒まで飛んでいった。

「………」

ボールの風圧で篠原の頬に傷が出来ていた。

「もう一度、同じ事を言ってみろ……今度は貴様の顔面に当てるぞ!」

篠原は腰が抜けたのか、その場にへたり込んでいた。

「いくぞ、アスカ」

「う……うん…」

アスカも蔵馬の雰囲気に呑まれ、暴れるのを止め大人しくなった。
グラウンドは静まりかえっていた。
先程の蔵馬の放ったシュートは、まるで弾丸のようであった。
あんなシュート……サッカー部の連中にも打つことは出来ない。
蔵馬は、アスカを抱き上げながらそれほどのシュートを放ったのだ…。

「コホン!さて、とにかく授業を再開しようか……鈴原。すまないがボールを取って来てくれないか…」

トウジは、蔵馬が蹴ったボールを取りに行き……そのボールを持ってきた。

「加持センセ……このボール…パンクしとるで……」

「……」

ボールは空気が抜け、ペッタンコになっていた。
蔵馬のシュートで、パンクしてしまったのだ。
シュートを打って、ボールがパンクするなんて、ドコのサッカー漫画だ……。
一同は、そう思った。
クラスメート達は改めて、蔵馬を怒らせると怖いと改めて再認識するのであった。

 ★☆★

保健室でアスカは、保険医の赤木リツコ先生に足の具合を見てもらっていた。

「ま、軽い捻挫ね……大したことはないけど、しばらくは大人しくしているのよ。……と、言っても惣流さんには無理かしら」

「あーっひっど〜いっ。赤木先生まで…!」

リツコに茶化され、アスカが膨れた。

「先輩!職員室まで来てもらえますか?」

リツコの後輩である国語教師の伊吹マヤ先生がリツコを呼びに来た。

「シンジ君。惣流さんをよろしくね」

リツコは蔵馬にそう頼むと、マヤと共に保健室を後にした。
アスカは、蔵馬を見つめていた。
先程の蔵馬は、アスカさえ見たことがなかった。
いつも、自分が蔵馬に怒鳴り、蔵馬がそれを受け流す。
そんな関係だったので、蔵馬が怒った所を見たことがなかったのだ。

(あんな、シンジ…見たことがなかった…)

何より、自分の事で蔵馬が怒ったことが嬉しかった。

(やっぱり、シンジも……男の子なんだ…)

先程、『お姫様抱っこ』をされたことを思い出し、真っ赤になった。
初めて抱きかかえられ、蔵馬の胸が思ったよりも広く、暖かかった。

「じゃあ、HRも始まっているだろうから、俺は教室に戻る。洞木さんに着替えと荷物を持ってきたもらうよう頼んでおくから……アスカは大人しくしてろ」

蔵馬は、そう言うとアスカから離れようとする。

「待って、シンジ!」

「ん!?」

アスカが蔵馬を呼び止めた。

「あ……ありがと……それで……今日…一緒に…」

帰ろ……と言おうとした時、保健室のドアが開いた。

「碇君」

「ああ、綾波さん」

蔵馬はアスカに背を向け、レイに答えた。

「この辺りの道、まだよくわからなくて……一緒に帰りましょう」

「ああ、いいよ」

あっさりとレイに答える蔵馬を見て……アスカがキレた。

「この……馬鹿シンジ!!」

アスカは、枕を蔵馬に投げつけるが、蔵馬はそれをあっとりと受け止めた。

「いきなり、何をする!?」

「うるさい!!」

結局、三人で帰ることになった……らしい。

〈STEGE.02 NEXT〉






To be continued...
(2010.01.16 初版)


(あとがき)

ジョルジュ「今回も、漫画版をモチーフにした話でした」

コエンマ「後、1,2話は漫画版をモチーフにした話が続くが、その後からは度々、かのもののオリジナルの話になると思うからの」

ジョルジュ「さて、漫画版の「碇シンジ育成計画」を知らない方の為に……説明しておきます」

コエンマ「原作でNERVの職員だったキャラは、ゲンドウと冬月以外、つまりミサト、リツコ、加持、マヤ、日向、青葉は皆、第壱中学校の教師として登場する。その中で人工進化研究所に関わりがあるのはミサトと加持の二人だけじゃ」

ジョルジュ「あれ、リツコさんはどうなんですか?」

コエンマ「あやつは、今回は研究所とは敵対する立場におる。ミサトとは友人関係ではあるがの……」

ジョルジュ「くわしくは、月刊少年エー○、もしくは角○書店発行の「碇シンジ育成計画」のコミックを読んで確認してください。では、これからもかのものの駄文にお付き合いください」



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