第弐話
presented by かのもの様
暗い。その中に浮かぶ12のモノリス。
彼らはNERVのスポンサーであり、世界を裏側から支配している組織。名をSEELEという。
「使徒再来か。あまりに唐突だな。」
「19年前と同じだよ。災いは突然、訪れるものだ。」
「幸いともいえる………。我々の先行投資が無駄にならなかった点においてはな。」
「そいつはまだわからんよ。役に立たなければ無駄と同じだ。」
「左様。もはや、周知の事実となってしまった使徒の処置。」
「情報操作。NERVの運用はすべて迅速かつ適切に行ってもらわないと困るよ。」
「その件に関しては既に対処済みです。ご安心を。」
モノリスたちから浴びせられる言葉を動じることなくゲンドウは答えた。
「碇君。NERVとEVAもう少しうまく使えんのかね。零号機に引き続き、初号機と兵装ビルの補修。かなりの損害だよ。」
「聞けばあの玩具は君の息子に与えたそうだな。」
「中々の活躍だ。初号機は再出撃においては、ほぼ無傷に近い。そのお蔭で予算も少しは浮いた。」
「しかし、少々異常ではないかね。」
「我々の計画の障害にはならないのか。あまり優秀すぎるのもな。こちらから制御できなくては諸刃の剣となりかねん。碇君。君に扱えるか。」
「問題ありません。多少、利口ぶっていますが、所詮は青二才。どうとでもなります。」
ゲンドウは嘲るように答えた。
「しかし、君の仕事は子供のお守りではない。」
「左様。人類補完計画。我々にとって、この計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ。」
「使徒、再来によるスケジュールの遅延は認められない。予算については考慮しよう。」
「ご苦労だったな。」
「後は委員会の仕事だ。」
「碇。後戻りはできんぞ。」
モノリスは消えていった。
「ああ。人類には時間がない。」
☆ ☆
「おい碇。シンジ君についてだが。」
「問題ない。」
冬月の疑問に、ゲンドウはそっけなく答えた。
「しかし、委員会の連中が言うように、あの力は異常だぞ。妙に戦闘慣れをしている。一介の高校生のレベルではない。」
「使徒殲滅が最優先だ。」
「しかし、彼は本当にシンジ君なのか。調査が必要だぞ。」
「一応、赤木博士にシンジの身体検査をさせている。DNA鑑定もな。」
やはり、蔵馬に疑いを持ってはいるようだ。
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「検査の結果。彼は間違いなく、碇シンジ君本人です。」
リツコから検査結果の報告を受けている。
「クローンの可能性は。」
「無いとは言えませんが、それが可能な組織は限られていますし、クローニングができてもあれだけの戦闘技術をつけるには時間がかかります。MAGIもそれはありえないと解答しました。」
「奴が本物のシンジなら問題ない。委員会の連中にも言ったが、所詮は青二才。どうにでもなる。」
妖狐としての蔵馬は青二才などではないのだが、彼らが知る由もなかった。
☆ ☆ ☆
「…………ん………。」
私は目を覚ました。
「気が付いたか。」
声がする方を見ると見知らぬヒトが立っていた。いや、一度会っている。EVAのケイジで。
「貴方は……。」
「俺は碇シンジ。ここでの呼称では『サードチルドレン』というらしい。」
「……碇。」
「そう、碇ゲンドウの息子だ。一応。」
「一応。」
「ああ。何年も会っていなかった。父親としての義務を行わなかった父さんが未だに父親なのかはわからないが。そもそも、父さんが俺を息子と認識しているかもわからない。」
彼は苦笑しながら答えた。
「身体の痛みはないはずだ。あの時に飲ませた薬草で回復しているからな。」
そういえば、傷はどこも痛みがない。
「君に聴こう。命令とはいえ何故あの時出撃しようとした。」
「EVAに乗ることだけが、私の存在理由。そして絆だから。それしか私にはないから。」
あの人のためにEVAに乗る。それが私のすべて。
「無ければ作ればいい。自分の価値をそれだけに限定するな。」
「必要ない。私は碇司令のために。」
「何故。父さんをそこまで信じる。」
「司令は私を助けてくれた。そして、私を見てくれるのは司令だけ。」
あの人だけが私を認めてくれる。
「そうかな。君が気付いていないだけかも知れない。」
…………。
「綾波レイという名前だったな。」
私は頷いた。
「じゃあ、綾波。君は絆が欲しいのか。」
絆。それがあれば、自分の中にある空洞を埋めてくれる気がする。
「ええ。」
「ならば、俺と絆を結ぼう。」
「貴方と。」
「ああ。君が望むならだが。そうすれば、俺も君を見続けるができる。」
彼は手を差し出してきた。この手を取れば、彼との絆ができるのだろうか。何故、彼は私と絆を結ぼうと思ったのだろう。他の皆は私を見てくれないのに。本当に彼は私を見てくれるのだろうか。何故か彼の目を見ていると安らいでいた。私はゆっくりと手を伸ばし、彼の指に触れた。
「よし。今から君は俺の友だ。」
彼が微笑んだ。暖かい。碇司令のような、いやそれ以上に暖かくなる。
この人は本当に私を見てくれる。何故かそう思えた。
「さて、俺は行くよ。また来るよ。」
彼は病室から出ようした。
「ええ。また、今度。」
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ケイジでの出来事は蔵馬をEVAに乗せようとする茶番だった。しかし、彼女だけは演技ではなかった。本気でEVAに乗ろうとしていた。
「EVAに乗るしかない……か。」
蔵馬はレイとの会話を思い出していた。
何故、彼女を気にかけようとするのか。それは蔵馬自身もよくわからなかった。しかし………。
「母さんは、魔物の俺に母子の絆だけでなく、人の心を与えてくれた。しかし、父さんは綾波に心を与えていない。俺は母さんから与えられたものを彼女にも与えたいのかもしれない。」
☆ ☆
霊界。
死者の魂が集まり、死後の運命を決める審判を行うところ。
かつては人間界の管理も行っていたが、霊界の利益のため、妖怪の人間社会において犯罪の水増しが発覚したため、最高責任者、閻魔大王は罷免。その息子にして告発人、コエンマが統治している。
「あ〜〜〜〜。最近、書類の量が多すぎるぞ、ジョルジュ。」
書類仕事の多さに辟易しているコエンマであった。
「コエンマ様が仕事をお溜めになるからでしょう。」
「うるさ〜〜〜〜〜〜〜〜い。」
秘書のジョルジュ・早乙女に怒鳴るコエンマ。そこに霊界案内人のぼたんが入室してきた。
「コエンマ様。蔵馬からの依頼がありましたよ。」
「何。蔵馬から。」
かつて、蔵馬が魔界3大実力者、黄泉の配下だったとき、霊界に内緒で(一部を除いて)人間界でS級妖怪育成を行っていた。そのとき、協力していたコエンマとの極秘連絡網を完成させていた。
蔵馬からの依頼は碇ユイは霊界に来ていたか。それとNERVの目的を調べて欲しい。とのことだった。
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「まさか。あの裏死海文書が係わっていたとは。」
裏死海文書。
人類が誕生したときからあるという預言書。その存在は霊界でも把握できない代物だった。だが、その予言はそのとおりに動かない限り、意味の無いものでもあった。
かつて魔界の上にあった世界、冥界が霊界との戦争敗北後に人間界を滅ぼそうと利用した。人間達に自分達自身を滅ぼさせ、冥界復活の糧にしようと画策したが、実行されることなく、霊界で超A級危険物として、封印されていたが、20年以上前に何者かに奪われていた。犯人は見つからずじまい。おそらく何者かがSEELEに与えたのだろう。
その後、セカンドインパクトが起きた。起こすのに立ち会ったものたちが霊界に来たとき、問い詰めたが真実を何もしらなかった。何者かが裏死海文書に記された禁断の力を手に入れようとして、失敗したのだろうと判断された。
ちなみにこれが霊界探偵発足の理由のひとつである。
「蔵馬の母。碇ユイも惑わされてしまったのだろう。」
優秀な科学者だからこそ、これを正しく使えば人類は救われると。そして、初号機に取り込まれてしまった。そして、使ってはならない力を更に間違った使い方をしようとしているSEELE。見過ごすわけにはいかない。
「ぼたん。蔵馬に報告し、SEELEの目的阻止の依頼をしてくれ。ただしいきなりSEELEを潰すと世界が混乱し、下手すれば第3次世界大戦が起こるかも知れんから慎重に、とな。今回は内容ゆえ蔵馬が適任だろう。後、サポートにユウスケにも協力を要請しろ。最後の詰めにはユウスケの力も役立とう。ワシは魔界の煙鬼に蔵馬たちの力を借りることを承認してもらう。」
「わかりました。」
☆ ☆
蔵馬は本部の一室に部屋をもらえることになっていた。
「いいの一人で。申請すれば、お父さんと住むことだってできるのよ。」
ミサトが蔵馬に聞く。
「必要ありません。俺はもう18歳ですし、一人のほうが気楽です。」
「無理しちゃって。お父さんと住むのが普通……。」
「残念ですが、俺達は普通の父子じゃないんですよ。」
この蔵馬の様子にミサトは何を勘違いしたのか、父親に捨てられて素直になれない可愛そうな少年を放っておけないと感じた。
懐から携帯を取り出し、
「あ、もしもし。リツコ。うん、あたし。シンジ君、あたしのマンションで一緒に暮らすことになったから。」
いきなりの台詞に蔵馬が、ミサトを見る。
「大丈夫だって。高校生に手を出すほど飢えていないから。じゃ、上の許可もらっといてね。」
《ちょっと、葛城一尉。》
ピッ。
ミサトは携帯を切った。
「これでよし。さっ、いこうか。」
この傍若無人な態度にさすがに呆れた蔵馬は、
「なにを勝手なこと言っているんですか。葛城さん。」
「ミサトでいいって言ってるじゃない。」
と、ウィンクする。
「あんな茶番をする人に何故そこまで馴れ馴れしくされなくてはならないんですか。」
「うっ……。」
ミサトもあれは反省していた。あの時は蔵馬にEVAに乗せるだけを考えていた。高圧的に命令し、頼むことをしなかった。ミサトは基本的には悪人ではない。ただ、先走る傾向が強いのだ。
「ごめんなさい、シンジ君。あれは確かに私達が悪かったわ。」
「成程。どこぞの髭親父と違って、間違いを詫びることはできるようですね。なら今回は大目に見ます。じゃあ、行きましょうか。」
「えっ、行くってっ何処へ。」
「何処って、ミサトさんのマンションでしょう。」
ミサトはホッとした。蔵馬が名前で呼んでくれたことで、許してもらえたようだ、と。
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「買い物の後で寄るところとはここですか。」
峠の展望台につれてこられた蔵馬。
「そうよん。」
そんな、ミサトを見ながら買い物のときを思い出す。
(あの年齢で、買う物はレトルトかインスタント。どうやら家事が苦手なようだな。)
さすがに、インスタント食品ばかりは嫌だったので、蔵馬が料理を作ることにし、食材を買うことにした。もちろん、ミサトの金で。
「時間だわ。」
その言葉とともにサイレンが鳴り響き、それを合図に各所からビルが飛び出した来た。
「……ホ〜。」
「これが、『対使徒迎撃要塞都市』第3新東京市。私達の街。貴方の護った街よ。」
蔵馬は考えていた。使徒が侵攻してくるような場所に何故都市というものを造ったのか。対使徒迎撃要塞だけでいい。都市は必要ないのではないか……と。
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ミサトのマンションで待っていたのは、とても女性の一人暮らしの部屋とは思えない、ゴミだらけの空間という有様に、さすがの蔵馬も気が遠くなった。
☆ ☆ ☆
病室で、レイは考えていた。
(何故、私は彼と絆をむすんだの。)
今まで、自分に話しかけてきたヒトは無視していた。しかし、彼には応対していた。
(彼が、碇司令の子供だから。)
サードチルドレン、碇シンジ。あの人の息子。あの人と絆を持つ人。
(『また今度』。こんな言葉、あの人にも言ったことない。)
蔵馬の顔を思い出す。何故かとても暖かくなった。ゲンドウを想っているとき以上に。
(碇君。私を見てくれる人。あの人よりも暖かくしてくれる人。)
蔵馬に触れた手を、自らの頬に当て、そのぬくもりの残りを感じたかった。
(碇司令。)
レイはゲンドウのことを想っても以前ほど暖かくはならなかった。いや、むしろ醒めていた。
蔵馬の後に来たゲンドウが言った言葉。その言葉に言い知れない恐怖を感じていた。そして、彼女は気付いていた。ゲンドウが実は自分を通して別の人間を視ている事を。考えないようにしていたが、自分をしっかり見てくれた蔵馬の登場が、レイの心に変化をもたらしていた。
☆ ☆
霊界からの情報と依頼をぼたんから受け取った蔵馬。
「やはり、母さんは初号機の中にいたか。」
そして、レイの正体も知った。
「それで、ぼたん。SEELEとかいう組織の目的を阻止すればいいんだな。」
「はいな。」
「ユウスケも呼ぶのか。」
「一応、この街に来るよう手配するけど、あいつを使うタイミングは蔵馬に任せるよ。」
「了解。」
「そいじゃね〜。」
ぼたんは、霊界に帰って行った。
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「母さんと使徒の遺伝子を組み合わせたクローンか。」
レイの病室を出たとき、ゲンドウが来る気配を感じた蔵馬は使い魔を放っていた。ゲンドウはレイの病室に来ていた。使い魔を通してだが、ゲンドウのレイを見る目に違和感を感じていた。彼女を見ながら誰か別の人を見ていることに。
「つまり、綾波は母さんの面影を見る道具か。」
それは、使い魔を通じて知ったゲンドウの台詞からも明らかである。
☆ ☆ ☆
「レイ。先ほどシンジを見掛けたが、ここに来たか。」
「はい。碇君は私と絆を結んでくれました。」
嬉しそうなレイ。それが気に入らないゲンドウ。
「……お前は人間ではない。そのことを知ればシンジはお前から離れるだろう。」
「…………。」
☆ ☆
「本当に、綾波を気遣っているのなら、綾波を苦しめるあんな発言をするはずが無い。俺と深く係わることで、綾波に心が芽生えることを恐れている。」
蔵馬は、ゲンドウがかなりの臆病者であることを知った。人に拒絶されるのが怖い。だから冷徹な仮面を被っている。他人の心を否定すれば、自分が拒絶されてもなんとも思わないから。レイも心がない故に、自分を受け入れてくれるユイの面影を見る道具に使えるのだ。
「あと、人類補完計画か。」
レイはゲンドウの補完計画の要だということ。ジオ・フロント地下にあるセントラル・ドグマ。そこにあるダミープラグ開発と予備の器のための身体。
「母さんに会いたい気持ちはわかるが……。しかし、どのような方法で産まれようが、綾波は綾波だ。彼女は母さんではない。」
だれもユイの代わりにはなれない。ゲンドウもそれはわかっているのだろう。だから、レイをユイに会うための道具としているのだろう。
「父さんにとって、綾波はお気に入りの道具にすぎない。」
妖狐だった頃は、なんとも思わなかっただろう。しかし、碇シンジとして生まれ変わった今の蔵馬には、到底容認できなかった。たとえ、ユイの面影かあろうとユイとレイを同一視はできない。そして、自分から友となった以上、彼女との絆は大事にしたかった。
☆ ☆ ☆
「シンジくん。開けるわよ。」
ベットで横になっていた蔵馬にミサトがふすま越しから話しかけてきた。
「はい。」
ミサトがバスタオル姿で入ってきた。
「1つ、言い忘れていたけど、貴方は人にほめられる立派なことをしたのよ。胸を張っていいわ。じゃ、おやすみなさい。」
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「彼女の精一杯の罪滅ぼし……だな。」
最初はいい加減な女性と思ったが、思ったより善人。
霊界の調査では、彼女の父がセカンド・インパクトを引き起こした実行者。しかし、その事をミサトは知らない。それゆえにセカンド・インパクトの原因の使徒に復讐するために、蔵馬を手駒としようとしている。しかしゲンドウとは違い、その事に罪の意識を抱えている。明るい態度はそれの裏返し。
何時か、彼女を見当違いの復讐から、開放させることができるか。
蔵馬は思いを馳せた。
〈第弐話 了〉
To be continued...
(2009.04.18 初版)
(2009.04.25 改訂一版)
(あとがき)
第弐話終了。
SEELEとゲンドウの目的阻止のため動くことになる蔵馬。これからどうするのか。ご期待ください。
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