第十一話
presented by かのもの様
「え〜、臨海学校に行っちゃ駄目。」
食事をしていた蔵馬、レイ、アスカの3人はいきなり通告された。
「そうよん。」
ミサトはビールを飲みながら、さも平然と答えた。
第7使徒戦の後、蔵馬は隣の部屋に引っ越した。葛城宅にはもはや部屋が無く隣の空き部屋に久遠と共に移ったのだ。レイは自分もそちらに行くと言って聞かなかったが、今までのように保護者と共にというならともかく、男女二人きりは不味いと散々説得され、渋々諦めた。
といっても、結局、この女性3人は料理が出来ない為、蔵馬は葛城宅で食事を作ることになっていたし、食事と睡眠時以外はレイはほとん碇宅で過ごしているが……。
さて、今回何を揉めているかというと、第壱高三年唯一の行事(全校行事である体育祭、文化祭を除く)である臨海学校に不参加であるということだ。
高校三年はまさに大学受験の為、なにかと忙しい。しかし、このくそ暑い中では、受験勉強も身に入らない……という理由で、沖縄に二泊三日の旅行に行くことになっていた。むろん、遊びに行くわけではなくそこでも講習があるのだが、当然自由時間は沖縄の海で海水浴を楽しめる。アスカは既に大学を卒業しているので、純粋に沖縄の海を満喫できると思っていたのだ。
……進学しないなら、行く必要はないという突っ込みはおいといて………。
「…なぁ〜んで、そんな……。」
両手でテーブルを叩き、ミサトの詰め寄るアスカ。眉はピクピク引き攣っていた。
「戦闘待機だもの。」
ミサトは、全く平然とビールを飲みながら答えた。ちなみに今、缶ビール5本目である。
「そんなの、聞いてないわ。」
「今、言ったわ。」
「誰が決めたのよ。」
「作戦担当の私が決めました。」
あくまで平然と答えるミサトに憤りを感じていたが、ふと隣を見るとまったく動揺していない蔵馬とレイが目に映った。
「ちょっと、シンジ。アンタ何、平然としているのよ。臨海学校に行けなくなるのよ。アンタからもミサトに言ってやりなさい。」
その台詞に、ミサトは少しビビッていた。今まで、蔵馬に口で勝てたことがないからだ。
だが、蔵馬の答えは……。
「……別に、どっちでもいいが……。」
「何言ってんのよ。」
蔵馬が全然気にしていないことに、気に入らないアスカ。
「別に海に行けないくらい、どうでもいい。……これが山だったらともかく。」
やはり、蔵馬は元は狐である。海よりは山の方が好みなのであった。
蔵馬が当てにならないと判断したアスカは、レイに矛先を変えた。
「ファースト、アンタは。」
「蔵馬君が行きたくないなら、私も別に行きたくない。」
考えれば予想できた答えに……。
「………アンタに聞いたのが間違いだったわ。」
アスカは溜息をついた。
「……それに、赤木博士から一週間前に聞いていたから。」
少し、不機嫌そうに言うレイ……。その言葉に蔵馬は無表情になった。
☆ ☆
一週間前。
NERV本部、零号機ケイジ。
ここでは、戦闘用に改修した零号機の最終チェックが行われていた。
「……レイ。そろそろ治療をするから、後で来なさい。」
「……もう、必要ありません。」
遺伝子治療をしようとしたリツコはレイに拒絶され驚いた。
「……なにを言っているの。貴女、死にたいの……。」
レイは定期的に遺伝子治療をしなければ、その身体を保つことはできない。そのことはレイも知っているはずと…リツコは不審に思った。
「……蔵馬君のお蔭で、身体が安定したからです。」
その台詞にリツコは驚いた。
「(シンジ君が……何をしたというの。)そこまで言うなら、本当に大丈夫か検査するから来なさい。」
「……わかりました。」
あの部屋のイヤな臭いは、いつ行っても慣れないし、何より蔵馬と一緒に帰るのが遅くなるので嫌だったが、煩わしいことは先に済ませておいた方がいいと判断し、了承した。
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検査結果……間違いなくレイの身体は安定していた。リツコはパニックに陥りそうになった。
「(……どういうことなの。シンジ君は、どうやって安定させたの。)シンジ君が貴女にした治療はどういうものなの。」
リツコは科学者としての好奇心丸出しでレイから聞き出そうとした。
「…蔵馬君が、赤木博士の専門外だから理解できない…と、言っていました。」
その台詞に、カチンときたリツコだった。
「レイ、貴女最近変わったわね。いつもシンジ君にくっついて、表情が人間らしくなったわ。」
リツコの皮肉に、レイは真面目な顔で答えた。
「……いけない事ですか。」
「まさか……いけないだなんて、ただ少し驚いているのよ。今まで碇司令しか眼中になかったのに。」
その台詞でレイは不機嫌になった。
「………。」
「ふふっ。たいしたものね、ただの人形かと思っていたら、父親と息子を一度に手玉に取ろうとするなんて……。」
「私、人形じゃないわ。」
リツコの台詞に、流石に怒りを覚えたレイだった。
「……今は、碇司令のことなんて考えるだけで不快になる……でも、昔はあの人ばかり見ていたのは本当のことかもしれない……でも……それは赤木博士も同じじゃないんですか?」
その瞬間、リツコは持っていた聴診器でレイのクビを締めた。
「……うっ、ゴホッ……。」
レイは首を絞められ息ができない。……その時、部屋のドアが開き、人影がリツコを殴り飛ばした。
「……ゴホッゴホッ……。」
絞首から開放されたレイが咳き込んだ。
「大丈夫か、レイ。」
人影は蔵馬だった。
部屋の外で待っていたが、その常人より遥かに優れた聴覚で部屋の中の二人の会話が聞こえていた。蔵馬は異常事態に気付き、すぐさま部屋に入り、リツコを殴り飛ばしたのだ。……かなり手加減していたが(本気で殴ればリツコは即死)……。
リツコは、かなりの激痛で悶絶していた。
「……リツコさん……いえ、赤木博士……。今度、レイに手を出せば……その程度では済ません。……そのことを覚えておけ!!」
ゲンドウや冬月が受けたのより遥かに冷たく鋭い、氷の刃の様な眼光を浴びたリツコは、恐怖で震え上がっていた。
怒りで我を忘れたとはいえ母親と同じ愚を犯し、確実に蔵馬の怒りを買ってしまった。リツコは後悔と恐怖に苛まれていた。
☆ ☆ ☆
一週間前の事を思い出し、不機嫌になっていた蔵馬とレイに気付かず、ミサトとアスカは話を続けていた。
「ま、気の毒とは思うけど……あなた達が沖縄に行っている間に使徒の攻撃があったらどうするの。」
「いつもいつも、待機待機待機待機、何時来るかわかんない敵を相手に守ることばっかし、たまには敵の居場所を突き止めて攻めに行ったらどうなの!」
「それが出来ればやっているわよ。それに、アスカはこれを機会に勉強したら……。」
いきなり、満面の笑みになったミサトはあるディスクを取り出した。それには『成績表、惣流・アスカ・ラングレー』と記入されていた。
「……それが、何。」
表面上は気にせず、少し顔が引き攣っていたが……アスカは対応した。
「言わなければバレないとでも思ったのかしら。テストの点数の情報くらいお見通しなんだから…。」
ミサトはしてやったり、という顔をしていた。
アスカは自分だけ言われているのは面白くないようだ。
「ちょっと、あたしだけなの……シンジとファーストはどうなの。」
「……レイは、昔から成績優秀、学年順位は15位前後をキープしているわ。シンちゃんにいたっては、学年首席だし……。」
新東京第壱高校は、蔵馬が前に通っていた盟王高校より偏差値がかなり低い。盟王高は一流進学校、第壱高は中の下である。トウジ、ケンスケがなんとかギリギリ入れる高校なのだから。
そんなわけで、この高校での蔵馬は全教科満点で文句なしの学年首席だった。
「ふん、旧態依然の減点式の試験なんか興味ないわ。」
「郷に入れば郷に従え…よ。日本の学校にも慣れて頂戴……。」
不貞腐れたアスカはそのまま、自分の部屋に戻って行った。
☆ ☆
臨海学校当日
「じゃあ、アスカ。お土産買ってくるからね。」
「三人とも残念だったな。」
「お前らの分も楽しんで来たるわ。」
ヒカリ、ケンスケ、トウジの3人は楽しそうに言った。
「碇君。お土産買ってくるから、今度デートしましょう。」
「なんでアンタとデートなのよ。私よ。」
「違うわ、私よ。碇君とデートするのは…。」
蔵馬に憧れる女子たちが好き勝手に戯言をほざいていたが……。
「「…………。」」
レイとアスカが彼女らを睨みつけたら、静かになった。
「おいおい、綾波さんだけじゃなく、惣流さんまで碇に………。ちくしょ〜。何だあんな奴、顔と成績がいいだけじゃないか。」
クラスメート、二階堂ミツルがやっかんだ。
彼は、蔵馬が転校してくるまではクラスで一番、女子に人気があった。蔵馬ほどではないが中々の二枚目である。しかし、成績は下位、運動神経はどうにか体育の授業で落ちこぼれない程度である。性格にいたっては……女の子にあ〜んな事やこ〜んな事をする事しか考えていない。
容姿端麗で、知的で、運動神経も抜群、そして物腰は柔らかい蔵馬と比べるとどうしても見劣りする。
「それだけ良ければ、仕方ないと思うけど……。」
「ミツルは成績は下から数えた方か早いし、運動神経だって人並みだからな。」
所詮、顔だけのこの男を、やがて女子は誰も相手にしなくなった。
レイは最初から蔵馬以外眼中に無いし、アスカは元々、自分より優れていると認めた蔵馬以外の同年代の男子に興味が無く、ケンスケも既にこいつの写真は売っていなかった。
他の男子たちはもはや、蔵馬をやっかむのを止めていた。
正直、ここまで差を見せ付けられると対抗する気も起こらなくなっていた。クラスで一番、喧嘩が強かったトウジか蔵馬と親友になり、しかも、そのトウジよりも強い。
ちなみに蔵馬を締めようとした、ガラの悪い連中は悉く返り討ちに遭っていた。全員、一瞬の内に当身を喰らわされてそれで終わるのである。
もはや、蔵馬に対抗意識を持っているのは、頭が悪く、身の程を知らないミツルだけであった。
彼は当然、全女生徒の中で1,2を争う美少女であるレイを狙ってアタックを掛けたが、当時のレイには当然無視され、敢え無く玉砕。蔵馬が来てから、少しは周りと会話をするようになったレイに再度アタック。しかし、既にレイは蔵馬にぞっこん。やはり無視され、再度玉砕。
そのレイに匹敵する美少女、アスカにもアタックしたが、肘鉄を喰らい玉砕。
なんとも哀れであった。
蔵馬、レイ、アスカを除いた第壱高の生徒達を乗せた飛行機が離陸していった。
アスカはまだ不服そうな顔をしていた。
☆ ☆ ☆
発令所では、珍しく穏やかな時間が過ぎていた。
マヤは読書、日向も読書……漫画だが…、青葉は音楽を口ずさみながらエア・ギターのようにギターを弾く真似をしていた。
リツコはコーヒーを飲んで表面上寛いでるように見えるが……心中穏やかではなかった。
あれ以来、蔵馬とレイとは顔を会わせていない。しかし、何時までも会わないわけにはいかない。
正直、レイに嫌われるのはどうでもいい。計画しているダミーシステム開発に影響があるかもしれないが、少なくともゲンドウの命令には従うだろうから…まだ、リツコもレイが命令には従うと思っている…特に問題ではない。
しかし、蔵馬には恐怖を抱いていた。
ゲンドウや冬月は愚かにも、まだ蔵馬を侮っている。多少、恐怖を感じているだろうが、保安諜報部の力でいずれは……と考えているのだろう。
だが、リツコは蔵馬の本当の恐ろしさ……リツコはそう信じているが、彼女もまだ蔵馬の真の恐ろしさを理解している訳ではない……を知った。
保安諜報部では彼の足元にも及ばないであろうことを……。
リツコは本来けっして強い人間ではない。彼女もゲンドウと同じく、人の心を無視することで冷徹な仮面を被っているに過ぎない。本物の強者の前ではその仮面も易々と砕かれてしまう。
どうやって、蔵馬に許してもらうか……。リツコはその思いに囚われていた。
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臨海学校に行けないので、せめてもの息抜きにと、蔵馬、レイ、アスカの3人はNERV本部内のプールを貸切にして泳いでいた。
レイはシンプルな白い水着を着て、先程からずっと泳ぎ続けていた。
蔵馬は、普通の海パンにパーカーを羽織った姿で、読書をしていた。そんな蔵馬にアスカが近付いてきた。
「ジャ〜ン!!どう、シンジ。沖縄でスクーバできないから、ここで潜るの……」
アスカは臨海学校のために買ってきた赤と白のストライプの水着で、蔵馬の前に現れた。彼女のスタイルはまさに見事の一言に尽きる。理想的な体型はグラビアアイドル……いや、スーパーモデルと言っても差し支えない。
貧乳好きや、幼児でないと駄目という犯罪者予備軍でなければ、人間の男は皆、彼女の美しさに目を奪われるだろう。
蔵馬も表面には出さないが、アスカの美しさに見とれていた。
「ふむ、着る人間を選ぶ水着だが……スタイルの良いアスカには似合っているな。」
「……そう、……ありがとう……。」
まさか、蔵馬からそんな答えが返ってくるとは思わなかったので、赤面しながら礼を言うアスカ。そんな、アスカを嫉妬の篭った目でレイは見つめていた。
「で、アンタは何やってんのよ。」
「……見てのとおり、読書をしているのだが……。」
「だから、何でプールに来てまで読書しているのよ。」
「あと10ページだ。これを読み終えれば泳ぐさ。」
「早く来なさいよ。」
そういうとアスカはプール際に立ち……
「見て見て、シンジ。バックロール・エントリー!!」
アスカは得意気に自分の飛込みを蔵馬に見せた。
「……フッ……あれだけ見ると年相応の少女だな……。」
蔵馬はそんなアスカを微笑ましく眺めていた。
☆ ☆
浅間山の地震観測所。
浅間山の火口内に正体不明の物体が観測され、使徒の可能性があるためミサトと日向が赴いていた。
《限界震度オーバー》
「…続けて。」
「もう限界です。」
「いえ、あと500お願いします。」
《震度1200、耐圧隔壁に亀裂発生》
「葛城さん!!」
研究員が非難の声を上げる。
「壊れたらうちで弁償します。あと200。」
「モニターに反応。」
「解析開始。」
《観測機圧壊》
いくら弁償するとはいえ、これほどの機材を直ぐに用意できるわけがない。しばらく、観測が出来なくなるのを覚悟し、研究員は憮然とした。
「解析結果は。」
「ギリギリで間に合いましたね、パターン青、使徒です。」
結果を聞き、ミサトは周りを見渡し通告した。
「これより当研究所は、完全閉鎖。NERVの管轄化に入ります。今後別命があるまで、研究所における一切の入退室を禁止。現在より、過去6時間での全ての情報を部外秘とします。」
通告後、ミサトは携帯でNERVに連絡した。
「碇司令あてにA−17を要請。大至急。」
《気をつけてください。これは通常回線です》
「わかっているわよ、さっさと守秘回線に切り替えて!」
青葉が注意を促したが、ミサトは悪びれた様子もなく逆に彼を叱責した。
☆ ☆ ☆
蔵馬たちは、競泳を行っていた。
順位は、一位、蔵馬。二位、レイ。三位、アスカ。
その結果に、アスカは不満顔だった。
「ちょっと、シンジ、ファースト。もう一回勝負よ。」
負けず嫌いのアスカは再戦を要求する。
「仕方がないな。じゃあ、30分後に……ん?」
その時、ベンチに置いてあった蔵馬の携帯が鳴っているのに気付いた。
「はい、もしもし。」
《お久しぶりです、シンジさん。》
「ああ、シンジ君か、久しぶりだね。」
電話の相手は、畑中シンジであった。
しばらく話しているうちに、蔵馬の表情が厳しくなっていた。
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リツコは、蔵馬達に……蔵馬とレイの二人と目を合わさない様に……作戦の概要を説明していた。
「……赤木博士!!説明する時は人の目を見て話すように……。」
そんなリツコに、蔵馬が不機嫌そうに注意した。
「……御免なさい……。」
「……で……これが使徒ですか。」
「そうよ……まだ完成体になっていない…蛹のような状態ね。今回の作戦は、使徒の捕獲を最優先とします。出来うる限り減刑を留め、生きたまま回収すること。」
「出来なかったときは?」
「即時殲滅。いいわね。」
「……了解。」
蔵馬は正直、捕獲は絶対無理と判断していた。必ず使徒は孵化し殲滅になる……と。
しかし、NERVの連中は元々、研究者の集団である。だから、言っても無駄とも判断していた。
そう、たとえ捕獲に成功しても……マグマの熱、圧力から解放されれば、必ず孵化するということを……。
「作戦担当者は……。」
「はいは〜い、あたしが乗る。」
アスカが名乗りを上げた。アスカは多くのことを経験したいのだ……自分…惣流・アスカ・ラングレーを碇シンジに認めさせるために……。
「もともと、アスカが担当と決まっていたわ。」
リツコは事も無げにそう言った。
「マグマを潜るためのD型装備は制式採用機の弐号機にしか、装備できないの。」
「は〜い。こんなの楽勝じゃん。」
楽天的なアスカの台詞に蔵馬が注意を促した。
「その油断が、先の使徒戦の失敗に繋がった事を忘れるな。」
「……わかったわ。」
以前ならここで反発するところだが、既に蔵馬を認めているアスカは素直に反省した。
「……赤木博士、私は……?」
能面のように表情のないレイがリツコに問うた。以前は、本当に無表情でリツコの命令を聞いていたレイだったが、先の件以降は敵意の篭った視線を向けている。
それに、少し動揺しているリツコだが、表面上は取り乱さず返答した。
「さっきも言ったけど、弐号機しかD型装備は使えないの、何とか初号機も使用可能だけど……ね。だから、レイは本部で待機……と言いたいけど、一応、何かの役に立つかもしれないから、現場に同行して……。」
レイを1人残すのに、蔵馬が反対すると思ったリツコは、これ以上蔵馬の怒りを買わないため、そう便宜を図っていた。
自分に怯えているのを蔵馬は感じ取り、考えていることをリツコに強力させようと思っていた。
それは、ラストで……わかります。
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「耐熱仕様のプラグスーツて言っても、いつもと変わらないじゃない?」
「アスカ、右のスイッチを押してみて……。」
「了解。」
言われたとおり右のスイッチを押した。
「いやぁぁぁぁ。なにこれ、かっこわる〜!!」
自分の着ているプラグスーツが膨らんだ事に、絶叫した。
「弐号機の準備もできているわ。」
弐号機は、潜水服のようなものを着ていた。これが耐熱耐圧耐核防護服、局地用D型装備……である。
「て、なによこれ〜〜〜〜〜!!!!!!」
「………プラグスーツといい、D型装備といい、手抜きだな。」
「……あたしの弐号機が……いや、あたし降りる。こんなダサいの耐えられない。」
「……じゃあ、私が変わりに弐号機に乗る……。」
それを聞いた瞬間、アスカはレイに詰め寄った。
「……アンタに弐号機を乗らす位なら、あたしが乗るわ。」
「……嫌なんでしょう。」
「……アンタに、弐号機を触って欲しくないの。」
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私は、蔵馬君の役に立ちたい。
でも、私には経験が少ない。だから、嫌がっている弐号機のパイロットの変わりに任務について、その経験を積みたいのに……何故、邪魔をするの。
結局乗るのなら、最初からごねなければいいのに……。
やっぱり、私は弐号機のパイロットは嫌い。碇司令と赤木博士の次に嫌い!!
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こいつなんかに、あたしの弐号機に触れさせてたまるものか……。
いつも、シンジにくっついて、まるで人形みたい。
そんな、ファーストを見てると何かムカつくの……。
こいつは、シンジを『蔵馬』と呼んでいる。
あたしは、まだそう呼ぶことを認められていないのに……何でこんな、人形女は認められているの…。
絶対、こいつには負けられない。シンジの横に立つのは…あたしだ。
加持さんは、素敵な大人だ。そんな加持さんなら、あたしにふさわしいと思って……。
でも、加持さんはあたしを子供扱いして、持ち上げているだけ……。冷静になれば、直ぐにわかる。
今でも加持さんは憧れだけど……。
シンジは……違う。
シンジは、あたしを持ち上げない。間違っていれば、間違っているとはっきり言う。あたしが反発しても、自分の意見を曲げない。
そして、恐らくシンジは精神的に加持さんよりも大人だ……。
何故か、そんな気がする。
あたしは、そんなシンジの横に立ちたい。
シンジに認められたい。
だから、惣流・アスカ・ラングレーは綾波レイには負けない。
☆ ☆
ミサトと合流して、蔵馬はいきなりミサトに拳骨を落とした。
「ッ〜〜〜〜〜〜〜〜!!シンちゃんいきなり何すんのよ〜〜〜〜〜〜〜。」
「……ミサトさん。貴女は通常回線でA−17を示唆しましたね。」
蔵馬の声には明らかな怒りが含まれていた。
「そのお蔭で俺の大切な人の旦那さんの会社が倒産の危機に陥っているんですが……。」
そう、先程の畑中シンジの電話はA−17が通常回線に流れ、株価が下落し、中小企業にとっては資金繰りが苦しくなって、シオリの夫が苦しんでいる為、相談をしたくて掛けてきたのだ。
とりあえず、蔵馬は切り札の1つを使い、畑中家を救う気でいるが……とにかく、ミサトの所為でそうなったので制裁を加えたのだ。
「……御免なさい。」
「その台詞は聴き開きました。今度はそれなりの罰を与えますのでそのつもりで……。まったく、しばらくマシだったのに……。」
蔵馬の無情な通告に、ミサトは崩れ落ちた。
「……無様ね。」
そんな親友を冷ややかに見るリツコだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
火山火口。
上空で、重爆撃機が数機、飛んでいた。
「……あいつらは…。」
「作戦が終わるまで、待機しているのよ。」
「…後始末……か。」
蔵馬の呟きにアスカが問う。
「後始末って…?」
「アスカが失敗したら、奴らはここをNN爆雷で俺達ごと使徒を殲滅する気だ…と、いうことさ。」
「ひっどい!!誰よそんなことを命令した奴は……。」
「真に面目しだいもないが……父さ…俺の遺伝子提供者……無能の陰険髭司令だ。」
その台詞に周りは硬直した。
全員、これがゲンドウの命令であることは知っていたが……蔵馬があからさまに『無能』といった為である。いつも、蔵馬はそう言っているが…やはり、職員は何処かゲンドウを恐れていたのだ。……彼に対する評価は最低だが……。
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碇司令………。
やはり、あの髭男は私を道具扱いしている。
私が死んでも代わりがいるから……。
実の息子の蔵馬君さえ……。
そんな男に絆など結べるはずかない。あの男にあるのは自分の願望のみ……。
今の私は……蔵馬君に危害を加えようとするあの男を絶対に許さない。
これが、この感情が憎しみ…。
たとえ、私が3人目になっても……あの男への怒りと憎しみは、受け継がせてみせる。
何人目になっても、綾波レイは碇ゲンドウの望みを叶えない……!!
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安全震度を越え、なおも沈降を続ける弐号機。目標予測地点に使徒が発見されなかったからだ。
ミサトは、使徒発見まで沈降を止めようとはしなかった。
《目標とまだ接触してないわ、続けて。アスカ、どう?》
「まだ、持ちそう。でも熱いわ……早く帰ってシャワーを浴びたい。」
《近くにいい温泉があるわ。終わったら行きましょう。》
「目標発見!これから、捕獲するわ。」
ようやく捕らえた目標を捕獲し、ケーブルの巻上げが始まり、弐号機が浮上する。
その時…!!
「使徒に変化!!}
「孵化が始まった。予測より早いわ。」
「アスカ、捕獲中止、そのまま殲滅して!!」
ミサトが作戦変更を伝えると、蔵馬がミサトに忠告した。
「どうやって、弐号機は武器をロストしましたが……。」
そう、沈降途中に、プログレッシブナイフをロストしていたのだ。
「……えっと…」
ミサトは考え込んだ。
「…まったく、アスカ。いまから、ナイフを落とす。それを受け取ったら冷却液パイプを切断し、奴の口に突っこめろ。」
「…えっ、何で……」
「高温高圧の環境内で自在に動けるんだ。物理的攻撃はおそらく効果がない。だから、熱膨張を利用するんだ。」
「!!了解。」
アスカはやはり、聡明である。熱膨張という単語で蔵馬の言いたいことを理解した。
ナイフが来るまで、なんとか凌いでいたアスカだったが、ナイフ到達後、蔵馬の指示どおりに行動し、使徒の殲滅に成功した。
しかし、あと僅かのところでケーブルが切れてしまった。
使徒の攻撃でケーブルが弱まっていたのだ。どんどん沈降する弐号機。
「……やだな、せっかく頑張ったのにこれでお終いなんて…。」
しかし、弐号機の沈降はそこまでだった。装備無しの初号機の手が弐号機を掴んでいたのだ。
「……シンジ……無理しちゃって……でも、ありがとう…。」
昔なら、絶対に言わない感謝の言葉。アスカは全く自然に呟いていた。
☆ ☆ ☆
夕方。
蔵馬、レイ、アスカ、ミサトの四人は現地の温泉宿に来ていた。
アスカとミサトは二人で温泉に入っていた。
「……ミサト…それ…。」
アスカはミサトの腹部の傷に気付いた。
「あ、これね…セカンドインパクトのときにちょっちね……。」
「……知っているんでしょ、あたしのことを……。」
「まあ、仕事だからね……。」
ミサトはアスカの過去を知っていた。実の母への想いと、父と養母との蟠りを……。
「お互い、もう昔のことだもの。気にすることないわ……。」
そのまま、二人は沈黙していた。
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一方その頃、蔵馬は電話でリツコと話していた。
「赤木博士、この事に協力してくれれは前回のレイに対して行った仕打ちについては不問にします。」
リツコにとって、蔵馬の怒りを受け続けるのは想像以上にきつかったので、蔵馬の提案を受け入れた。
「では、よろしくお願いします。リツコさん。でも、俺はともかくレイが貴女を許さないのは許容してください。」
《わかったわ。》
通話が終わったとき、レイが蔵馬に訊ねた。
「赤木博士を許すの……。」
「本人は後悔しているようだからな……。完全に許しはしないが……これ以上は、この件で彼女責めるのを止めるだけさ。だが、さっきも言ったようにレイは無理をしなくていいぞ。」
「ううん。蔵馬君が、赤木博士を責めないなら私も責めない。……でも、赤木博士が碇司令の次にきらいなのは止めない。」
レイの答えを聞いて、蔵馬は苦笑した。
(まだ、俺に依存しすぎているが……自分の意見も言うようになったな。)
蔵馬は何も、自分に依存させないとは思っていない。
しかし、依存させすぎるつもりもなかった。
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翌日、
畑中家に、蔵馬の養父母から大金が送られてきた。
着服していた蔵馬の養育費である。
実は、蔵馬は着服の証拠を全て掴んでいた。
リツコに頼み、それを提示し、表ざたにしたくなければその金を全て、畑中家に送れと脅したのだ。
まさか、知られているとは露にも思っていなかった彼らは、それを注げたのがNERV関係者としり、NERVが保護してくれないと絶望し、銀行に預けず自宅の金庫に貯めておいた蔵馬の養育費、総額6000万円を畑中家の口座に振り込んだのだ。
畑中は遠慮したのだが、蔵馬から…。
「別に差し上げるとは言っていません。あくまで貸すだけです。……いつでもいいですけど……。」
従業員の生活を守らなくてはならない立場である為、畑中は蔵馬に泣きながら感謝したのだった。
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本部に出勤したミサトはいきなり営倉に放り込まれた。
「ちょっと、なにするのよ。リツコ!!」
「シンジ君からのお仕置きよ。今まで溜めに溜めた仕事を全て終わらすまで、ここから出さないわ。日向君に頼るのも無し、貴女1人で全部やりなさい。」
ミサトがよく見れば営倉の天井近くにまで積み上げられた書類が置いてあった。
「あと、わかっているでしょうけど、営倉内じゃビールは飲めないからね。」
「……そんな〜〜〜。」
結局、ミサトが娑婆の空気を吸えたのは、一週間後であった。一週間の禁酒は、ミサトにとって地獄以外の何物でもなく、改めて、蔵馬を怒らせてはならないことを思い知った。
〈第十一話 了〉
To be continued...
(2009.06.13 初版)
(あとがき)
ジョルジュ「また、コエンマ様は書類仕事を溜めてしまい、いま、その書類と格闘しています。」
小兎「なので、再びこの小兎が代行です。」
ジョルジュ「二階堂ミツルというオリキャラが出て来ましたが……。」
小兎「まだ、詳細は決まっていないそうです。今回だけの一発キャラか、多少はストーリーを彩るキャラにするか。それは、読者の方々の意見を参考にしたいと思っているようです。」
ジョルジュ「では、これからもかのものの駄文にお付き合いください。」
小兎「はにゃ〜〜。私の今回の出番これだけですか〜〜。」
作者(かのもの様)へのご意見、ご感想は、または
まで