黄昏の果て

第三話

presented by KEI様


第三新東京市・・・・現在そこは使徒、第三使徒サキエルによって蹂躙されていた。
国連軍の迎撃時には、光のパイルしか持たなかったサキエルは両腕に可動式のブレードを備え、胸部には装甲のようなものが出来あがっていた。
そして、そのブレードを持って兵装ビルを切り裂いている。
切り裂かれた兵装ビルの一つ、その中に地下への道が開かれていた。
もちろんそこはシャッターで厳重に閉じられていたが、サキエルのパイルやブレードの前には紙切れのようなものである。
それを見たサキエルはブレードを振り上げ、停まった。
何かを感じたのか、サキエルがそのまま後ろを振り向くと、ほんの100メートルほど先に動きがある。
偽装された道路のシャッターが開き、エヴァンゲリオン初号機が現れた、そして二体の巨人は対峙した。


「エヴァンゲリオン初号機、射出されました」
「MAGIへのアクセスから、パイロットは碇シンジである事を確認しました」
「第三新東京市に向けて、100メートルを超える飛行物体接近中。到達予想時刻は五分後です」
「MAGIへのハッキングを確認。ネルフの探査網にダミーデータが流し込まれています」
「初号機パイロット、ネルフに回線を繋げ何かを言っているようです。如何しますか」
「両方の音声を傍受、ここのスピーカーにそのまま流せ」
「了解しました」

第三新東京市の状況をモニターに映し出しているそこは、ネルフの発令所に比べれば幾分狭いが、そこに詰める職員の数は同じぐらいである。
そこの人員は、戦自の士官服か軍服、または白衣を着ている事から、ここが戦自に関係した施設である事が推測できる。
上層の全体を見渡せる位置にいる士官服の男は、数時間前ネルフの発令所に居た男である。
先ほど指示を出していた事から、ここでの役職は上位に位置するのだろう。
しかし、先ほどからのやり取りを見るに、ここはMAGIを制圧してしまっているようである。
いつかどこかの未来で、ゼーレの情報操作にいいように操られていた戦自に、これほどの能力があっただろうか。

『・・・よってネルフには現在使徒と戦う能力はないものと判断させていただきます。これより、我々特務機関メルカバーが使徒迎撃の任に付きます、なおエヴァンゲリオン初号機は我々が徴発いたします』
『ちょっと待ちなさいよ!!アンタ何血迷った事言ってんのよ!!アンタは私の言うとおりにしてりゃ良いのよ!!大体エヴァを徴発?それはあたしのものよ、勝手な事言わないで!!』
『残念ながら、この時点でネルフに使徒迎撃の能力がない場合、メルカバーによるエヴァの徴発が許可されています。これは国連からの正式な物です』
『使徒迎撃ならアンタが言う事聞けば問題ないでしょ!!駄々こねないで、おとなしく従いなさい!!』
『僕にはネルフに従う義務はありません。自己紹介が遅れました、僕はメルカバー所属、碇シンジ特務准尉です。僕はネルフの者としてエヴァに搭乗するとは言ってませんし、搭乗後あなた方に従うとも確約しておりません』
『ガキがグダグダ屁理屈ぬかすな!!!黙って言う事聞けっつってんのよ!!!!』
『作戦行動の邪魔になるので、これ以後通信回線は切らせていただきます』
『あっ!こらっ!まだ話が!!このクソガキが!!大人を嘗めてただで済むと思ってるの!!日向君、プラグを射出して!!』

シンジがネルフと、正確にはミサトとしている会話の一部始終が流れてくる。
内容としては、いろいろツッコミどころがある。
随分と強引に初号機を持ってくなとか、メルカバーってなんじゃいとか、いつエヴァはアンタの物になった牛!!とか、冷静に話して情報とか引き出す気はないのか牛!!とか、この状況でプラグを射出して後どうすんだ牛!!とか、その他のネルフの連中はどうしたんだとか。

「・・・・何と言うか、あれだけ仕込んでも葛城は変わりませんね」
「本格的な処置を施す前に逃げられたからな、仕方があるまい。私が目の前にいれば、多少はまともな思考回路を維持できるだろうがな」

擁護しているのか、いないのかは分からないが、ここで指示を出しているこの男はミサトが戦自にいた時に教官だった男、安西シンである。
そして、現在使徒戦をMAGIをハックして観戦している部署、戦略自衛隊特殊戦技戦術戦略研究室、通称特戦研室長でもある。
階級は一佐だが、状況によっては一個師団を独断で動かす事も出来る人物である、と云うより特戦研の規模が、巧みに隠されているものの、一個師団を軽く凌駕しているのだが。
表向きにはある事件以来、佐官以上にはなれず、一研究室に押し込まれたとなっているが、事実上現在の戦自をあらゆる手で押さえ切ってしまっている。

モニターには、ネルフからの通信を切った初号機がサキエルに向かっていく様子が映し出されている。
サキエルが撃ち出したパイルをかわして、初号機はその懐に入ろうとするものの、可動式のブレードが阻む。
だが、サキエルの攻撃も初号機に通じてはいない。
強力なATフィールドがブレードを受けきっている。

「へぇ、一番最初の使徒のわりに頑張ってるじゃない。よくあのシンジに瞬殺されないわね」

シンとその副官らしき男の後ろから、映像に関しての感想を誰かが言った。
その人物は、腰まで届く赤毛の長髪、青い瞳で年齢は20代中頃と思われる女性だった。
なかなか整った容姿で、10人中9.5人は美人だと評価するだろう。
そして、ネルフの幾人かは彼女を見たら驚くだろう、彼女は今は亡きある人物によく似ていた。
彼女に対し、シンが話しかけた。

「アヤカか。お前の仕事はどうした?使徒戦を観戦しようと言うのなら、許可はだせんぞ。いくら因縁が有るとはいえ、公私の分別はつけてもらう」
「こちらの作業は終りました、これが報告書です。それから公私の分別は、まずあなたからつけるべきじゃありませんか、安西一佐。いくら娘だからと云って、仕事場で呼び捨てですか?」
「・・・・安西准尉、これで良いか」
「まだ父親の感覚が出ていますけど、良いでしょう。・・・やけに苦戦しているわね、<二度目>にしては」

娘といえど女は怖い、特に親しい間柄の場合口調が変ったり、やけに良い笑顔になったら危険信号。
尤もこの二人のこれは、コミュニケーションの一種のような物である
さておき、確かに初号機は苦戦しているようである、と云うよりも戸惑っているとでも表現すべきか。

「仕方があるまい、彼は<二度目>だが、今は<三度目>、我々の介入でサキエルも変化してしまった。自分の記憶との違いに戸惑っているのだろう」
「だとしても情けないわ、眼からビームが剣に変わった程度で」
「小細工なり何なりを弄しようとしたのだろう、今後のネルフとのやり取りを考えて。まあ、ごちゃごちゃ考えず力押しで行けば問題ない」

さて、初号機が射出されてからどのような動きを採ったかだが。
まず射出され最終安全装置解除と同時に後方に移動し、ビルの裏側に隠れた、その際勝手に動くなとか何とか雑音があったとか。
そして、初号機徴発の宣言。
次に回避行動をしながら接近し、コアを一突きしようとしたら、今回のサキエルの武装であるブレードに阻まれた。

このブレードを持つに至った経緯は、サキエルを串刺しにしていた槍が位置の関係上パイルでは届かなかった為に、槍を排除する能力を必要として腕から生えてきた。
そして、二つの武装が腕にあると当然動きに支障をきたす、その為にブレードはある程度自由に動けるようになっている。

そして打ち合っている内に、サキエルは初号機が攻撃時、手にATフィールドを纏わせているのを学習し、ブレードにATフィールドを纏わせてしまった。
初号機のATフィールドは強力なので、さすがに切り裂かれないが、攻撃に合わせられればさすがに無傷とはいかない。
結果として、現在膠着状態に陥ってしまっている・・・・何処かで、やっぱりあたしじゃないとダメなのよ、ガキはガキらしく大人に従ってりゃ良いのよ、と鼻歌交じりで喜んでいる馬鹿が周りから白い目で見られているとかいないとか。
初号機、シンジは決して弱いわけではない、ただサキエルの変化に戸惑っているだけである。
また純粋に力押しで行けばサキエルなど敵ではないのだが、まだ手の内を晒したくないと云う算段が、本気を出しきれない理由でもある。

状況に変化が訪れた、上空から槍のような物、戟であろうか、が投下され初号機に目の前に突き刺さった。
初号機はそれを手に取ると、一気にサキエルに向かい振るう。
ブレードは腕ごと叩き切られ、その隙を突いて得物をコアに付き入れた。
これにより、第三使徒サキエルは殲滅されたと云う事になった。

使徒殲滅後、初号機の真上に現れた飛行物体、飛空艇からからワイヤーが放たれ初号機を巻き上げると飛び去っていった。
ネルフの側は、突然現れた飛空艇に驚愕した。
使徒迎撃要塞たるこの場に近づいていたはずの大型の機体、それを光学で確認するまで探知できなかったのだから。
そして、零号機が凍結されている今、唯一の戦力である初号機が持ち去られてしまったのだから。
それは、今後のネルフの活動がシナリオから逸脱して行く事を告げる出来事であった。


「さて、とりあえずは使徒は殲滅されたわけだが、なにか特異な事が観測出来たか?」

シンは一通りの状況が終了すると、オペレーター達に聞いた。
使徒戦にもエヴァにも軍の常識は通用しない。
むろん、ここ特戦研も常識の通じない部署ではあるが、常識外を扱おうがそれを扱うのは常識の中で育った人間たち。
異常に対し常に敏感でいられるように、言いかえると常識で異常を無意識的に無視しないように、戦闘が終った後だからこそ、あえて今回の戦闘に関して意見なり何なりを言わせようとした。
尤もそれはシンの杞憂なのだが、この部署の人間は常に異常その物である安西シンと接している。
結果として常識的判断などと言うモノで、視野狭窄に陥る者はいない。

「よろしいでしょうか。初号機が使徒のコアを打ち抜く瞬間、妙な事が起こりました。使徒のコアから放たれていたある種の波長が消失、同時に初号機にエントリープラグ内にその波長が出現しました」
「ほう、つまり何が起こったと考えられる」
「詳しい事は判りません。ただ、初号機が使徒を殲滅した時コアからのエネルギー反応、生体反応共に消えていた事は確かです」
「判った、報告ご苦労。引き続き今回の使徒戦の解析を続けてくれ」
「了解しました」

オペレーターからの報告を聞き、シンは何かに気付いたかのような顔をしていた。
そして、アヤカに何かを確認する為に質問をした。

「安西准尉、確か以前君に聞いた話では、メルカバーは使徒戦を終えるたびに特異な能力を持つエージェントが増えていったそうだな」
「増えていったのか情報が隠蔽されていたのかは判りませんが、最終的には10人前後の特殊なエージェントが居たものと記憶しております」
「そして皆女性だったと」
「はい、その通りです」

シンはアヤカの<二度目>に関する話を確認して、自身の推測を確信の域にやった。
そして、次に起こすべき行動の指示を放った。

「内閣に連絡。おそらく今夜中にも国連に提出されるであろうメルカバーのネルフに関する報告書、それを複写で構わないから直に手に入れるように伝えろ。事は日本国の主権、国防に関わるとでもなんとでも理由をでっち上げればいい」
「付随して早ければ明朝にも一個中隊、いや二個中隊動かす事になる。一応、こことは関係のない筈の部隊、それを動かせるよう手配をしてくれ。装備は拠点攻略を考慮してもらうが、基本的に市街での活動と云う事を念頭においてくれ」
「例の施設に一人新たに入ることを通達。加えて警備のレベルを中規模の戦闘を考慮した物に編成し直すこと」

次々と指示を出していく。
しかも使徒戦が終了したばかりだと云うのに、まるで何処かとの戦闘を考慮した指示である、一体何をしようと云うのか。
指示をし終えると副官とアヤカの方に向き直った。

「さて、それでは私は少しばかり出てくる。遅くとも○一○○時までには戻って来れるだろう。アヤカいや安西准尉、報告書は受け取った、今日はもう仕事はないはずだ。帰って休みたまえ」
「安西一佐、関係各所への書類など、幾つか私がやらねばならない仕事が、今入りました。それから、父さんは何をしに行くのですか」
「ああ・・・それは済まない。それでだ、ネルフとメルカバーの双方への嫌がらせをしにいく」
「室長、あまり軽軽しくそのような行動を執られては困ります」

アヤカの質問に対する答えに、副官は渋面をつくる。

「そう言うな。命を弄ぶ者がネルフだけではなくメルカバー、いや碇シンジもそうであったのだよ。産まれ出る事叶わなかった生命、それにせめてここに形を持った意味を、とでも考えたのだろうさ。神気取りの小僧の出鼻を挫くのが主目的だな」
「産まれ出る事叶わなかった生命・・・・ドグマに有ると云う例の」
「そう、意志持つ事叶わなかった肉人形。ネルフも碇シンジも、それを己の為に使うようだ。ならばせめて、意志無くともそれ自身のままで終らせてやりたい。私はそう思うのだよ、自己満足に過ぎないがね。ああ、将来的にはメルカバーの戦力を削る事にも繋がるはずだ」

言い終わると、シンは指を鳴らす、それと同時に足元に五芒星が刻まれ光を放つ。
光が収まると、そこにシンの姿は無かった。

「相変わらず、室長は見事なものですね」
「俄仕込みの私達と父さんは違うわ。道具の補助を必要としないほど高められたあの人と、私達が同格になるには積み重ねた時間が違いすぎるもの」
「そうですね・・・さて、さっそく仕事に取り掛りましょうか」
「そうね、夜更かしは美容の敵だし。さっさと片付けてしまうわ」
「ご苦労様です」


後日、ネルフ首脳にとって大幅にシナリオの見直しをしなくてはならない事件が、これから起きる。
ネルフ首脳がそれに気付くのは、戦自を見くびっていた事を自覚した直後の事であった。
またネルフに先だって、ある少年がやはり驚愕する。
地下深くに在る罪深き実験場、そこに有る筈の産まれ出る事叶わなかった生命にして、彼にとって彼がこれから救うべき者たち、それが一体残らず消えてしまう。

<一度目>のシナリオは崩れ、<二度目>の変革は意味無きものとなり、不確定の<三度目>が動き出す。



To be continued...


(あとがき)

第三話、おとどけします。
今回は、戦自の謎の部所を舞台にサキエル戦を演出しました。
戦自、ネルフ、そして碇シンジのメルカバーすらを手玉に取る安西シンとは何者なのか?
<二度目><三度目>とはどういうことなのか?
のんびりと謎が明かされていきますので、よろしくお願いします



(ながちゃん@管理人のコメント)

KEI様より「黄昏の果て」の第三話を頂きました。
ネルフ、メルカバー、そして戦自。・・・なんか前者二つは道化のような雰囲気ですねぇ〜(笑)。
今回のお話を読む限り、安西シンなる人物がこのSSのキーマンにして、主人公のような気がします。
やはりここのシンジ君は、このSSではただの敵役、ピエロなのでしょうか?
アヤカという女性も謎ですね。その容貌から、あの女性と何かの関連があるのでしょうか?
続きが気になりますねぇ。
さあ、次話を心待ちにしましょう♪
作者(KEI様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで