黄昏の果て

第六話

presented by KEI様


ネルフ総司令執務室。

そこは常に人を威圧する雰囲気を醸し出していた。
薄暗い照明、天井に描かれたセフィロトの樹、そして広い部屋でありながら驚くほどに少ない調度品。
それらはそこに来る者を威圧するために、揺らがすために計算されたものである。
心の安定を欠かせられた者は、いかに弁舌が立とうとも、いかに交渉に優れようとも、普段の己の能を発揮するには至らない。
そこは話し合いという名の闘争を、確実に勝つためにあつらえられた戦場であった。
今、ネルフ総司令六文儀ゲンドウ、同副司令冬月コウゾウはこれから行われる闘争を、確実に勝つためにここで敵を待ち構えていた。

ふと、ゲンドウは己を省みた。
それは普段の彼であれば、凡そあり得ない事であった。
長年準備してきた計画がいきなり狂ったからこそ、権力という名の毒で、そして彼自身があずかり知らぬ何者かによる操作で歪みきってしまったはずの彼は、一瞬かつての己の思考を成す事が出来たのだろう。
彼は思った、いったい何時から自分はこのようなこけおどしに頼るようになったのだろうと。
かつての己は、必要な能力を身につけ正面から向かい、かつその裏側に於いて卑劣で外道な所業を同時進行することによって勝利を得ていたが、このような大仰な舞台装置など使っていなかったというのに。
このような舞台装置は、むしろ彼が降してきた者たちが得意としていたものではないか。
こんなものに頼るしかない者、また只受け継いできただけに過ぎない権威を誇利それに伴う権力を妄信する者、それらを冷笑してきた自分が何故それを為しているのだろうか。
信じるべきは己だけでしかない、たとえ舞台を整えても、演ずる自身こそが重要であり、舞台装置など二次的三次的な要因でしかなかったはずだあり、その気になれば必要でもない。
なのに今、自身ではなくそれ以外の、結局の所信用などできないはずのモノに頼ろうとしている。
異常だ、今の自分のやり方は本来の自分とは違う、そうこれは異常だ……
そこまで考えが至った時、彼の意識の深奥で何かが動く。

(思考制御ニエラー発生、修正開始)

ゲンドウの思考に何かが割り込みを掛ける。
それは訴える、いや強制する。

(異常ではない、これで良い、これで良いのだ、信じるべきは●●だけだ、それは己よりもなお優先されること。
だから問題ない、問題ない、問題ない、問題ない、問題ない、問題ない、問題ない、問題ない、問題ない、問題ない、問題ない、問題ない……
そう、スベテハシナリオドオリダ)


「……んぎ、六文儀、おい六文儀」
「む、……何だ。冬月」
「何だ、ではないだろう。何度も呼んでいるのに返事もしないで、いったいどうした」
「何でもない。それより戦自の指揮官はまだなのか」
「ああ、もう来るようだ。返事がないから寝ているのかと思ったぞ」
「少し考え事をしていただけだ。問題ない」

ゲンドウのその答えに、冬月は少し不審なものを感じた。
もとよりこの男は考え事をする男ではある、だが周りのことを忘れるような考え事の仕方はしない。
生来、臆病なのである、だから自分以外の誰かが居るときは常に、その誰かに意識を向けて監視しているのである。
臆病であることが悪いとは、冬月は思わない。
そうであるからこそ、この人類全体を敵に回す計画を遂行するに足ると考える。
失敗は許されないのだ、むしろ臆病であってくれたほうが安心できる。
その臆病な男が、いかに長年の相棒であるとはいえ、所詮は他人である冬月に対する注意を怠った。
どうにも、しっくりとこなかった。
だが、今はそれどころではない、細かなことは後に回し、これからやってくる敵に備えることこそが重要。
予備、と銘うっていたとはいえ、サードチルドレンであるシンジの確保に失敗した、その上レイまでも失うわけにはいかない。
いざとなれば、次に移行すれば良いだけの話ではあるが、手元になければ情報操作等が難しくなるのが現実、最悪、最後の刻まで秘匿していなくてはならなくなる。
戦力があるのに使えない、これほど馬鹿げた話もあるまい。
だから、なんとしてもレイを戦自から取り戻さねばならない、幸いまだネルフの勢力圏内、いざとなれば……、さておき今は今回の戦自の行動における現場指揮官との話し合いである。

司令執務室へ入ってきた男は、まさしく軍人という言葉を如実に表した、そういった気配を持つ男であった。
年齢は、三十台半ばほどだろうか、身に纏う野戦服の上からでも鍛え抜かれた体躯を想像できる。
事前に得た情報によれば、名は御船キクチヨ、階級は准将。
年齢に比して、やけに階級が高く感じるが、およそ十年ほど前から始まった戦略自衛隊内に於ける組織内の腐敗の一斉除去、それによって上層部が悉く、一部の例外を除き、一掃されて士官の平均年齢が下がっているためさほど不審なことではない。
それに彼は、御船セッシュウ一将の長男であることもわかった。
御船家はいわゆる軍人の家系である。
歴史は古く、戦前どころか明治維新をも軽く遡れる、一説によると大和朝廷時代に起源があるとも言われる。
その長い歴史の中でロクデナシも出てきたが、基本的に我を捨て公に尽くすことを家訓とする心構えを持つ者たちが名を連ねてきた。
質実剛健を旨とし、他者に厳しいが自身にこそより過酷なその心構えに隙はなく、ついでに言えばそんな彼らの一族を慕う将兵が多く、旧帝国陸軍並びに海軍から引き続き自衛隊、戦略自衛隊とほぼ世襲を以って所属している。
学者上がりで、特例を以って将官にあるゲンドウらと違い、まさしく骨の髄、魂の起源から軍人たる男こそがいまゲンドウらの目の前にいるのである。
ちなみに現在の戦略自衛隊のトップ3は、前述の御船セッシュウ一将、富士ススム二将、平松イワオ二将の三人で、安西シンは当時一佐であった富士ススム二将の陣営に属していた。
御船一将の上に位置する人物も居るし、同格の者も居るが彼らはどちらかといえば可もなく不可もなく、毒にはならないが薬とも言い切れない、いざというときに責任取るだけの気概はとりあえず持ち合わせていると云った者たちである。

さて、そんな人物を迎えたゲンドウと冬月であるが、彼らとてネルフ、いやゲヒルン設立より今まで海千山千の猛者たちを相手にしてきた。
その気配に飲み込まれるなどということはない、ましてゲンドウは不利であればこそなおその能に磨きがかかる男である。

「はじめまして戦略自衛隊の御船キクチヨ准将です」
「……」
「私がネルフ副司令の冬月だ。そして此方がネルフ司令六文儀ゲンドウだ。…さて挨拶はいいだろう。我々が聞きたいのは唯一つ、いったいどういった理由で君たち戦略自衛隊は、我がネルフの重要人物である綾波レイを拉致したのかね?事と次第によっては此方も相応の対応をとらせていただくが」
「特務機関メルカバーから国連に提出された昨日の使徒迎撃戦の報告書、並びにこれまでの綾波レイに対するネルフの対応から、人道的見地に基づいて保護するために我々が動くこととなりました。これは日本国政府との間に結ばれ、ネルフの特務権限を保障する条約を著しく違反するための処置です」
「我々の行動は人類全体の未来を賭けたものだ。その際、多少の無茶は仕方のないものだと思ってもらいたい。まして彼女は現在ネルフにおいて対使徒専用の兵器を扱える貴重な人材だ。我々から彼女を引き離すことは、そのまま人類の滅亡に繋がりかねない事だと言うことを理解した上での行動なのかね?そしてこの後の人類の危機に対して君たちは責任をもてるのかね」
「あなた方ネルフの存在を認めるにあたり、日本国政府は幾つかの条件を付けました。その中に、日本国国民の人権を著しく侵害することは認めない条文があります。今回の我々の行動は、これに基づくものです。そして、あなた方は彼女を重要人物とおっしゃいましたが、我々の見た限りではとてもそのようにはみられませんが」
「どういうことだね」
「彼女の生活環境、これは果たしてあなた方が言うような重要人物に対する扱いといえるのでしょうか?」

綾波レイの生活環境、これは確かに重要人物とはいいがたいものである。
食事というものを、あくまで燃料の補給と同列に捉えている有様一つとってもまともな扱い方を受けているとは取れない。
住居も取り壊し寸前の廃墟のようなものであるし、着る物は制服とプラグスーツぐらい、さすがに下着の代えはあるが。
ここまで劣悪な環境をしいて、あまつさえそれを不自然とは思わせない処置をとって、それで重要な人物とは全く以って笑わせてくれる、とでも言えばいいのだろうか。
冬月としても、相手がそれなりの調査をしていると判断し、言葉に詰まる。
そこで始めてゲンドウが口を開く。

「彼女のことに関しては機密に属する。その扱いに関しても、必要であるからとしか言いようがない。分かったならば、早急に綾波レイを返還したまえ」

機密……ネルフという組織のあり方、目的ゆえに今まではこれで押し通してきた。
必要だから、人類の未来のためと。
だが、何時までもそれが通じるわけでもない。

「いまだ予断を許さない状態で、脅迫の道具として使用するようであってもですか」
「何だと?」
「メルカバーからの国連への報告書を我々が目を通していることは言いましたね。その中で、碇シンジ特務准尉に対する脅迫の材料として利用したとの事ですが」
「見解の相違だ。彼の協力を得なければならないことを、分かりやすく説明しただけに過ぎない。まして彼女の身の安全に関しては万全の体制で臨んでいた」
「彼がその兵器とやらに搭乗しなければ、彼女を乗せるといっていたそうですが」
「彼女の同意は得ている、確かに彼女の生命を護ることは我々にとって重要だった、しかし自ら命をかける意志を示すのならばそれを無下には扱えん。自らの命の使い道は、他者ではなく自身が決めるものだ」
「同意します、己が死ぬにしても生きるにしてもそれの決定権は本人にあるものです。ですがそれは、正しく判断できる場合に限ります。果たして彼女に己の命を正しく判断できる下地はあったのですか」
「彼女ももう十四だ。その程度の判断は当然つけられる」
「それはまともな育ち方をした場合です。彼女が中学に通う以前はどのように育っていたのですか、それに中学において彼女のコミュニケーション能力に酷く歪なものがあるようですが」
「人のあり方に定まった形などない。一般的なあり方と違うからといって、彼女を異常というのか。それは、いやそれこそ彼女に対する侮辱であり人権の侵害に至るのではないか」

両者の言い分は、結局の所大した意味はない。
御船准将はなんと言われようと綾波レイの保護を覆すことはないし、ゲンドウはそれを認めない。
ではこの話し合いは何なのか?
取るに足らぬ世間話という訳でもないが、後々どうなるか覚悟はできているのか、といった脅しをかけているのだ。
ゲンドウは国連直属の特務機関として、御船准将は国家・国民を護る軍隊として。

「このぐらいで止めておきましょう。我々は綾波レイを保護させていただきます。これは国家としての尊厳の問題です」
「下らぬプライドで人類全体を敵に回すのかね」
「使途の事を言っているのですか。同様の特務機関が、もう一つ存在していたようですが」
「我々は十年、いやそれ以上の年月を使徒迎撃にかけてきた。彼らが我々以上の組織とは思えん」
「十年かけて、いまだろくな準備もできていないようですが。専用の操縦者を必要とするような欠陥兵器しかない上に、その扱いも真っ当とはいえない」

兵器といったものは、誰が使っても同じ効果を得られなくてはならないし、整備や量産性も無視できない。
どれだけ性能が良くても使い手を選び、整備に手間がかかり、数を揃えられないようでは意味がない。
性能差は結局物量で押し切られるし、使い手が限られているのなら暗殺など別の方法で対応できる。
単機で一軍に匹敵する、理想ではあるがそれの実現にどれだけの無茶があろうか。

「使途に常識は通じない。だからこその我々だ」
「ですが、常識を無視していい理由にはなりませんね」

常識、常道などといったものを重視することは決して間違ってなどいない。
変わらぬのは、変えられぬのはそれが最も理にかなっているからだ。
奇策などというものは、言ってみればどうにもならないから打つ手であり、成功すれば目立つものの失敗すればただの愚行と称される。
それが異世界の、常識外の怪物を相手にするような場合であっても、対抗する武力を動かすものが人であるならば常道というものを踏まえなければ、ただ悪戯に損害を受けるだけである。
無論、常識だけでは駄目ではある、だが今ネルフに対して行なわれている批判の主となる所は、そもそもの戦力に対するぞんざいという言葉すら生ぬるい扱いに対してである。

「無駄な話はここまでにしておきましょう。こちらも決定を覆す気はありません。安心していただいていいですよ、まともな手順を踏んでいただければ、ある程度制限はいたしますが見舞いなどに来ていただいて結構です」

それに対し、冬月が質問をする。

「それは、レイを隔離するわけではないと言うことかね」
「当然でしょう、我々は彼女を保護しに来たのだと先ほどから言っています。物の様に扱うつもりはありません。医師の判断で面会謝絶、ともなれば別ですが」
「彼女から何かを引き出すつもりはないと」
「引き出されて困ることでも」
「……」
「……では、失礼させていただきます。これでも忙しい身ですので」

返事を聞くこともなく、そのまま御船准将は司令執務室から出て行く。
またゲンドウ達もそれを特に止めようとはしない。
もとより無意味。
戦略自衛隊は基本的にネルフと事を構えない立場を通してきた。
それが此処まで強行に出てきたのだ、止められはしないと判断した。

「……どうするつもりだ、六文儀」
「……現在のレイを破棄、次に移行する」
「彼女はすでに戦自の保護下だぞ」
「好都合だ。保護したモノを損失する、今後連中を黙らせるのに使える」
「表向きの理由とはいえ、使徒殲滅の際の戦力はどうする」
「セカンドが来る、それとコード707からフォース以降の選出を急がせろ。とりあえずはアメリカ支部に向かわせて、記述の時に間に合わせる」
「形の上でも件の組織、メルカバーと協力体制を築く方が確実に思えるがな。昨日の後始末もまだだというのに、赤木君には苦労をかけるな」
「あれはそのために居る。無用な気遣いだ」

すでに破綻した計画の辻褄あわせ、第三者から見れば滑稽ではある。
しかし、現実に、今動いている者達にとっては真剣。
そして、滑稽と笑う者の思惑を、時にそれは超えることすらある。
尤も、まだ彼らには余裕がありすぎるが。
その余裕もすぐに失われる、予期せぬ事態に、そしてその時こそ、誰にも読みきれぬ機会を得ることもできる。
足掻け、もがけ、のたうち回れ、それでも歩み続けるならば、希望も得られよう。
箱に封じ込められし、全ての悪徳を生み出せしモノであっても。


特戦研室長執務室

ここは、仮にも佐官である室長の執務室でもあり、相応の広さを持っている。
しかしながら、現状ではそれを実感できない。
書類だのデータディスクだのが大量にあり、部屋を狭く見せる。
その半分は、はっきり言ってしまえば雑用とか、どうでもいいような要望書などであり、その上別の部署の書類である。
特戦研とは左遷先である、それが表向きに知れ渡った情報。
それを外部に納得させるために、他の部署の雑用を引き受けている。
本来左遷させるような人材など、現在の戦自に居るはずがないのだが、かつてのような無様を晒す者が現れぬように見せしめとして特戦研はある、と関係ない者たちに思わせているのである。
実際には、明らかなオーバーテクノロジーを含めた最先端の研究を行い、明らかに現状の技術体系から外れた技術とも呼べぬ物を技術として確立し、更にはオカルト紛いのものまで扱い、その上で実践する部署である。
そこに一人の男が入ってくる。ここの主の副官を務める山本マコト三佐である。

「室長、失礼します」
「構わない、雑事はすでに済んでいる」
「昨夜に指示されたことですが、綾波レイの身柄を無事に保護し、戦自傘下の病院に送られたそうです」
「そうか、ネルフもそう無茶なことはしないだろうが、警備は厳重にするように」
「それに関しては問題ありません。それよりも、一つ気になることがありました」
「なんだ」
「今回の作戦、御船キクチヨ准将が直接指揮を執ったそうです」
「ほう」
「おそらく、あの人は此処のことを何かしら掴んでいるのではないかと」
「構わないさ」
「しかし、裏側でのつながりが大きいとはいえ、表向きの此処のありかたは」

安西は、抗議の声にかぶせるように応える。

「だから構わない、もともと彼ぐらい優秀なら、そろそろ此処に気付く頃合だ。知られてはならない連中とは違って、彼は戦自の内部にいる。これで気付けないようなら、それこそ問題だ。彼は将来戦略自衛隊を背負う人材だぞ」
「それはそうですが」
「彼が御船でなければ、副官に迎えていた。生憎と御船が左遷するわけにはいかないから、叶わなかったがな」
「私では役者不足ですか」
「いや、君も優秀だ。だが、後一つ物足りない。もう少し曲者のほうが、私好みだな、君は真面目すぎる」
「性分です」

報告すべき話は終ったのか、山本が部屋から退出する。
安西はしばらく、書類の整理などを行い時計を見る。

「時間か」

立ち上がり、部屋の中央に行く、そこで手を肩の高さまで上げ体の外側に振る。
軌跡に沿って燐光を帯びた紋様が走り、彼の周りを円を描いて囲む。

「爆ぜよ」

言葉とともに、紋様の円から外側に闇が広がり、全てを覆い隠す。
円は足元に降りて行き、収束して消える。
安西は、闇の中にある。
だが闇に覆われた次の瞬間、迷うことなく前方に向かって歩いていく。
明らかに部屋の広さを超えて歩いて行った先には、燐光を放つ六芒星が描かれており、その頂点の一つ一つに人が立っている。
その頂点の一つに、安西は立った。

「さて、全員集まったな」

ゲルマン系の容貌の男が口を開いた。

「どうやら遅れてしまったようだな、すまない」
「構いません、あなたは我々より忙しいでしょうから」

謝罪を述べる安西に対し東洋人、おそらくは中国人と思われる男が応える。

「今回は大したことを話すでも無し、問題あるまい」

中東系の男が続け、

「では、始めるか」
「そうだな」

ロシア系の男と上記の男とは別のゲルマン系の男が言う。

「さて、ようやく始まったな。新しき秩序への第一歩が」
「いや、クルトそれは違う。これは経過に過ぎない、始まったのは、私たちが集った時からだ」
「違いない。所詮、使徒戦の始まりなどさしたる意味もないでしょう。我々が集まった時、全ての筋書きは変わったのですから」
「リチャード、筋書きが知られていることに意味がある。‘知っている'からこそ、時はそれをなぞろうとする」
「歴史は正しき流れに戻ろうとする、かね」
「正しき流れなどないさ、アブドラ。歴史は人が作る、故に」
「故に、人の意志の影響を常に受け続ける、だろうシン」
「その通りだ、アレク」
「知っているからこそ変えようとする、だが知っているが故にそれをなぞってしまう、面倒な話だ」
「そのために動いてきた。もはや、ネルフもゼーレもメルカバーも、私たちの企ては止められないよ、ハインツ」
「その企てだが、大丈夫なのかいシン」
「ネルフの計画の鍵は手中に収めた、そしてそれはもう無くなるよ、完全に。使徒殲滅に関しても、半年以内に対応策は完全に整う。メルカバーの権限に関してはどうなんだアブドラ」
「ネルフの権限と同調させる。つまりは、ネルフが強大な特務権限を振るうならば、メルカバーも振るえる。しかし、ネルフを貶めればそれだけメルカバーの権限を押さえられる」
「ネルフという不透明かつ異常な権限を持つ組織の突出を防ぐ、という名目だからな。当然の措置だ」
「彼らが此方に求めたことはほとんど認めたよ。ネルフと対等、という条件下においてね」
「リチャード、黄家のほうはどうなんだ」
「ご老人方にはそろそろ隠居して頂く手筈になっています。何しろ皆様いい加減にご高齢ですから。そろそろ次世代のものに任せていただきますよ。まさかの事態、にならないとも限りませんしね」
「全て滞りなく……か」
「ならば、解散だ。次の六芒星議会でまた会おう」
「ああ、皆壮健でな」

六芒星を描く燐光が消えて行き、場は闇に包まれていく。

『我等は生きん、このおぞましくも心地よき、現実という煉獄の底を』



数日後、綾波レイの入院先にて

「どういう意味ですか。何故シンジの面会が許されないのです」
「担当の医師としての判断です」

戦略自衛隊がレイを連れ去ったことを知ったとき、信じはそれこそ駐屯地に殴り込みをかけかねないほどだった。
ハルカ等がどうにか押しとどめ、各方面に働きかけ、情報を手にいれ、今日レイに面会しに来たのである。
その矢先に、シンジのレイへの面会が許可されなかった。
余談だが、前日にやって来たゲンドウの面談もものの見事に拒否されている。
保護者でありながら、劣悪な環境を強いていた事や、精神操作紛いのことをやっていたことなどから、レイの心身の健康を守るための措置である。

「一体どういうことです。その判断とは。シンジが彼女を害するとでも言うのですか」
「さて、害をなす気があるのか無いのかは知りません。そう云ったことではなく、彼の存在そのものが彼女に悪影響を与えると判断しているのです」
「待ってください、何故僕の存在が問題になるのです」

自分の存在が、レイの害になるということは聞き流せなかった、だからシンジは詳しく聞こうとした。

「……あなた方は彼女がネルフで、どう云った扱いを受けていたか知っていますか」
「我々は、以前からネルフのことは詳しく調べています」
「ならば、知っているとは思いますが。彼女にとってネルフ総司令碇ゲン、失礼六文儀ゲンドウは特別な存在として刷り込まれています」
「ええ、まったく信じ難い、いえあの男ならば当然な行動とはいえ非道なことをします」
「彼女の精神はひどく歪です。カウンセリングなどを通して癒していくことになりますが、その間変な刺激は与えたくないのですよ」
「それはそうだと思います。でもそれと僕が彼女に会ってはいけない理由とが繋がるとでも言うのですか」
「簡単な話です。碇特務准尉、あなたは六文儀ゲンドウの実の息子です」
「あの男とはもう縁を切った!!あの男と僕を結びつけるな!!」

激昂して叫ぶシンジ。
だが医師はそれを物ともせずに続ける。

「彼女にとっての唯一たる存在と明確な形でつながりを持つ存在、そのような人物と会わせて何かあっては困るのですよ」
「綾波には僕しかいない!!綾波を救えるものなんて他には居ないんだ!!くだらない話はいい!!僕を綾波に会わせろ!!」

感情のままに、シンジは彼以外には理解し難いことを言う。
ハルカは慌てて止めようとするが、間に合わない。
だがそれでも相手は慌てない。

「それは、どのような理屈ですか」
「決まっている!!綾波と同じ僕が行けば万事解決する!!それだけだ!!」
「同じ、ですか。逆にそれが彼女を苦しめることにもなるのではないですかね。どういった意味でかは知らない事としますが」
「待ってください、何か彼女に関して解ったのですか」
「彼女が強化人間であることならば」
「「!?」」

今日の昼飯は何か?とでも言うようなあっさりした様子で、医師はシンジたちが知られたくは無いことを口にした。

「貴様……」
「何か」
「綾波を、どうするつもりだ」

返答如何によっては殺す、シンジの瞳は明白にそう言っていた。
だが、どこ吹く風で返す。

「私は医師としての義務を遂行するだけです、それ以外になにがあります」
「どうだろうね、軍の人間なんて考えることは碌なものじゃない。綾波を調べて何をする気だ。エヴァのことでも調べ上げようとしてるんじゃないのか」
「邪推はやめてもらいたい」

ハルカ、シンジの後ろから声がかかる。
後ろに居たのは歴戦の雄たる風貌の持ち主であった。
そして彼をハルカは知っていた。

「御船一将」
「久しぶりだな、九条大佐。そして君が碇特務准尉か」
「はい。それより、邪推とは」
「簡単だ。戦自はエヴァ、と君が呼ぶ兵器等欲しては居ない」
「エヴァがいらない。失礼ですが、本当にそうだと言い切れるのですか。あれしかないんですよ、使途を打ち倒せるものは」
「驕るな、軍隊もどきに出来て我々にできん道理はない。なにより、使途とやらを害することに我々は成功している」
「傷付けただけじゃないですか。倒せてはいません」
「ならば、次を見る事だな」
「そうさせて貰いましょう。ですが、綾波に害を為さないんでしょうね。邪推をするなというからには」
「何かあれば、私の首一つでは治まらん。それより、お前は口の利き方を気を付けるようにするべきだな。大佐、少し彼を特別扱いしすぎではないか」
「失礼致しました。彼には後で言い含めておきますので」

そして御船一将はその場を離れる。
シンジはとりあえずは引き下がり、だがハルカに何かを持たせた上で面会に行ってもらい様子を見てもらった。
結論として、現状においては彼の心配は杞憂に終った。



To be continued...


(あとがき)

お久しぶりです。なんか締め切りが近くなってようやく筆が乗り始めるという駄目作家振りを発揮してしまったKEIです。
第参使徒戦の後始末もようやくひと段落、といった所でしょうか。
見えないところで、ゲンドウの予定が狂ったりと色々あります。
次回、アスカにおいで願います。シンジは記憶からの変わりように驚くことでしょう。
稚拙な文ではありますが、これからもよろしくお願いします


(呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン)

ども、お願いされちゃったので管理人のコメントいきます。
当話、読ませて頂きました……サッパリでした(爆)。いえ、どんなお話だったか忘れちゃって……かなりブランクあったし(滝汗)。
えーと、とりあえず最初から全部読ませて頂きました、ハイ。
おお〜思い出しました!安西先生(違う!)の話でした!
しかし相変わらず謎が多いです。やっぱ一番の謎は安西先生ですかね。ここが紐解けると、すんなりと読めるんでしょうが……きっとネタバレでしょうし、難しいところでしょうかね。
シンジは今のところピエロですし、うーむ。
鬚も非情だけど主人公の一人なんですよね?……この後どう収拾をつけるか見ものです。
ではでは。

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