Capriccio

第三曲 〜黒狼と紫苑、そして「少女とトライデント計画」〜

presented by 麒麟様


 

 

 

 

 

 

事務所のソファーに腰掛け、戦略自衛隊からの脱走兵、霧島マナは三人の年上に囲まれていた

一人は【なんでも屋 十六夜】社長である、十六夜シン

さらにその相棒兼同居人である、やわらかと言うかぽややんと言った感じのする美女、十六夜メティス

さらにもう一人は、見た目まんま外国人の関西弁と情報のスペシャリスト、A・D(何でワイだけ略称やねん!!)

美男美女、そしてボケ役と言うスパイスの効いた面々だ(ボケ役ってなんやねん!!ワイの事か?ああ!?)

騒ぐ馬鹿はさておき、彼らは真剣な表情、それこそ触れれば斬れるといった雰囲気をかもし出している

「それで、聞かせてもらえるか?」

「・・・・・はい。」

シンに促されて、マナは俯きながらも、ポツリポツリと話し始めた

セカンドインパクト後の混乱で、孤児になった子供達を戦自が集めていたこと

その中でも、優秀な者だけが生き残り、そうでない者は殺されていた事

そして、トライデント計画

パイロットが20歳になるときの事を想定して進められた計画

かれこれ10年以上にもわたり続けられた訓練、訓練、また訓練

気の狂うような環境で、ともに育ち、助け合い支えあってきた仲間たち

その中の一人が、訓練中の事故で重傷を負った

「重傷?DVDでは死亡となっていたが。」

「シン。話してくれるやろうさかい、あんま突っ込まんといてやりぃな。」

「・・・・・・・・・すまん。」

いえ、と言って、マナは話しを続けた

毎日毎日、訓練が終わってすぐに見舞いに行った

ろくにされない治療

包帯を替える事さえ碌に行われず、仲間たちで包帯を替えていた

そんなある日、重傷を負った少女は病室から消えた

基地の中を探し回り、直属の上官にも尋ねたが、返って来る答えは曖昧で不明瞭

そして、次の日の朝、少女は病室に戻ってきていた

虚ろな目で、宙をじっと見つめ、声もなく涙を流す

時折狂ったように泣き叫び、身体に爪を立てる

碌に話すことも出来ない状態

そんな中、仲間の一人の少女が、立った一言だけ会話を成り立たせた

「気をつけて」

それだけ言い残し、少女は翌日、首を吊った姿で発見された

仲間は誰もが悲しんだ

声を上げてなき、怒りに震え、また泣いた

そんな中、少女たちに良くしてくれていた一人の軍人が、一言告げた

「彼女は・・・・・司令官に無理やり・・・・・・・君たちも気をつけろ。」

少女達は恐怖した

少女の言い残した事は、そういう事なのだと

彼女が、強姦されたのだと

悲しみ、恐怖し、また泣いた

そして少女の死から一週間経ち

真実を告げた軍人が、よく判らない罪状で、銃殺刑にされた

それは、見せしめだった

司令官を裏切れば、そうなるという

少女達は決意した

必ず、この基地を逃げ出そうと

情報技術に秀でた少年が、監視カメラの映像を使って、一つでメッセージを組み上げた

トライデント計画の詳細とともにDVDに焼き、僅かな希望を象った

脱走計画は、練りに練って、実行する2週間前から下準備に取り掛かった

実行者の、孤立化だ

とても全員は脱走しきれず、一部だけ逃げると残ったものが殺される

だからこそ、脱走したのは"孤立化した一部のものである"と大人たちに印象付ける

実行者はマナを含めて三名

たった一つの希望たるDVDを握り締め、警備を抜け、逃げ出した

気づかれる脱走

マナを庇って、二人が撃たれた

「親友、でした。孤児院から一緒で・・・・・ムサシと、ケイタ。」

尤も優秀な成績を誇る三人での脱走

だが、三人の力はやはり子供の力

大人の力と数にはかなわなかった

マナにDVDを託し、二人は大人たちに向かっていった

銃声と、悲鳴

恐怖で、後ろを振り返ることもできず

ただただ、涙を流して走った

山を突っ切り、河を渡り、路地道をさまよい、シンに出会った

「これが・・・私の知る全てです。」

痛い沈黙が、事務所を覆う

ハラハラと涙を流すマナを、隣に座るメティスが優しく抱きしめる

いたわる様に、いつくしむ様に

「BULL SHIT!!なんちゅうこっちゃ・・・・・・」

A・Dが膝を叩き、怒りにまかせ、奥歯をギリギリと鳴らす

「依頼内容は、仲間たちの救出と、トライデント計画の露見、取り潰しでいいんだな?」

静かに、静かにその臓腑に怒りの炎を灯すシンが尋ねた

「・・・・・・・・・はい。」

「A・D。このDVDを大量にコピーしろ。TV局各局に売っぱらっちまえ。」

「救出の後に、でっしゃろ?」

「当然だ。それで、基地の場所は?」

三人の視線が、再びマナに集まる

「・・・・・富士山北面に広がる、青木ヶ原樹海の中です。」









































一基地とは言え、相手は日本が誇る戦略自衛隊

その武装も兵の練度も計り知れない

相手にするには綿密な計画が必要だ

A・Dとメティスは武器と機材の調達に出かけた

マナは戦自に見つからぬよう、十六夜宅で待機

シンはその護衛だ

必要なものは多く、容易には集まらない

警察は勿論、戦自は当然当てにならない

見方無し、援護無しでの【なんでも屋 十六夜】創業以来の大仕事

A・Dとメティスは、夜になっても帰らず、二人はシンの作った簡単な料理で空腹を満たす事となった

メティスの料理を食べなれたシンは勿論、昨晩と朝食でメティスの料理に味を占めたマナも、シンの料理は不満だった

シンは普通に、メティスの作った旨い料理が食べたかっただけ

だが、マナは、メティスの料理に食べた事も無い母の手料理を感じていた

昨日感じた、シンの背中の父性と同様に

あてがわれた客室で、マナは一人空を見上げる

この同じ空の下で、今も仲間が苦しんでいるかもしれない

仲間の誰かが怪我をしているかもしれない

仲間の誰かが・・・・・死んでいるかもしれない

考えれば考えるほど、ど壷に嵌まっていく

泥沼のように底の無い不安感

「深く考えるな。」

不意に、後から声を掛けられた

マナ以外で、この家にいるのはただ一人

十六夜シン

火の付いたタバコ片手に、ドアに身を寄りかけている

「悪く考えるくらいなら、さっさと寝ちまえ。その方がいい。」

「・・・・・・・・とても、寝れません。」

感情が渦巻き、とても落ち着いて寝れはしない

「無理にでも寝な。明日には戦争かも知れんぞ。」

タバコをくわえ、紫煙を吐く

身体に纏わり付く煙が、どこかシンを幻想的に魅せていた

「それでも・・・・・・寝れません。」

マナに歩み寄り、窓から手を出しかビルの壁でタバコの火をもみ消す

「仲間はどうしているだろうか?二人はどうなったか?」

「っ!!」

「どんだけ考えても、判りはしない。考えるだけ無駄だ。」

「仲間を想う事が、無駄だって言うんですか?」

マナは両手を握り締め、シンを睨み据えた

その目じりには涙が浮かぶ

「阿呆。仲間の不幸を思う事が無駄だって言ってるんだ。」

「え・・・・・・。」

「お前は仲間の不幸を想像して楽しいのか?楽しく無いだろう?」

壁に背を預け、シンは天井を見据える

「と、当然です!」

「なら考えるな。考えるなら・・・・・事が終わった後仲間と何するか考えておけ。遊ぶなり、働くなり、学校行くなり、先を考えろ 。」

シンは目線だけマナに向け、言葉を続ける

「俺とメティスには過去が無い。だから過去は見ようにも見れない。見るのは今日と明日だけだ。過去を見ても面白くもクソもねぇし な。」

ハハッ、とシンは笑い飛ばす

「死んだ奴が何を思う?思うのは仲間が先へ進むことだ。お前がウジウジしてるのなんて望んでるとでも言うのか?」

二人の親友が残した言葉が、フラッシュバックする

『行け!マナ、此処は俺たちが食い止める!!』

『マナッ!みんなに、皆に未来をあげてっ!!』

ポロポロと、マナの頬を涙が伝う

こんな大切な事さえ、忘れてしまっていたのかと、マナは涙する

頭の中がグチャグチャで、友の言葉さえ忘れていたのかと、涙する

「ったく、泣きすぎだ、お前は。」

「うっ・・・ひっ・・・・・ご、ごめん・・なさい。」

頭をかき、シンは窓から空を見る

星が綺麗に瞬いていた

「泣くな。目を閉じるな。前を見ろ。足を踏み出せ。そうすりゃ、明日は来る。」

マナの髪を優しく撫で、シンは微笑んだ

「は・・・はい・・・・。」

涙を流しても、泣いてなんかいない

涙が溢れても、目を閉じたりなんかしない

涙でぼやけても、前を見続ける

そして一歩、確かな一歩を踏み出す

仲間と共に明日を歩むために

「ったく、いつまで泣いてんだ。」

「な、泣いてなんかいません!こ、これは、そう、鼻水です。」

「・・・・・・・・・鼻水もどうかと思うぞ。」

「うっ・・・・・・・・・・」

窘められて、硬直する

そんなマナに苦笑して、微笑み、その頬に手を翳す

「泣くな。泣くなよ?お前が泣いたら仲間が悲しむからな。」

目尻に唇を当て、涙を舐めとる

「良く寝ろ。明日は戦争かもしれんからな。」

そう言って、シンは部屋を去った

マナの頬が急激に赤くなる

口を両手で多い、音になら無い声を漏らす

今、何をされた?

涙を舐めとられた

どうやって?

目、瞼にキスされて

「(べ、別に意味で寝れなくなっちゃった・・・・・・・・・・・・)」

彼女が寝付いたのは日が変わってからだった









































シン達が出発したのは、マナが依頼をしてから二日後の事だった

四人は二台の車に二人ずつ乗り込み、一路青木ヶ原樹海へと向かう

二台とも見た目は普通のワゴン車なのだが、中身は市販の物とはわけが違う

シンが運転し、A・Dが乗り込んでいる車は、車内に数台のPCと通信機器、様々な電子装備を積み込んだものだ

これはA・Dの能力を最大限に発揮させるために必要な"最低限"の装備である

どう見ても、テラバイト級なのだが、A・Dに言わせれば、これでもまだ少ないとの事だ

もう一台はメティスが運転し、マナが乗り込んでいる車

ウィンドウを防弾ガラスに変え、車体の内側にも複合装甲の防弾処置がしてる

勿論、タイヤ、車底部も防弾防爆処置が施されている、走る要塞だ

ただし、荷物が大量に載せられており、人が座れるスペースは運転席と助手席にしかない

後部座席にはというと、所狭しと並べられた銃、ナイフ、弾丸、爆弾、対戦車ミサイルetcetc・・・・・

タバコの火でも投げ込めば爆発してもおかしく無いほどの、武器の山だった

それはもう、車の振動にも気を配らなければならないのではないか、と心配してしまうほどの量だ

そんなことを気にも留めず、メティスは涼しげな顔で見事なハンドル捌きを魅せる

だが、助手席に座るマナは冷や汗ものだ

自分の座る椅子のすぐ後には、爆薬が置かれていたりするからだ

下手な拷問より厳しい

「あ、あのメティスさん。」

気を紛らわせるためにも、マナはメティスに声をかけた

「はい、なんですか?」

運転中のため、流石に視線を向ける事はなかったが、メティスはしっかりと応える

「あ、あの・・・・・・・メティスさんとシンさんって、恋人なんですか?。」

話しかけたは良いが、その内容を何も考えておらず、思いついたことを口に出してしまった

「私と、シンですか?」

「は、はい。えっと・・・・・苗字も一緒だし、結婚してるんですか?」

夫婦別姓がポピュラーになって久しいが、今でも5割以上の夫婦が、同姓を名乗っている

「いいえ、私とシンは夫婦ではありません。それに、恋人かどうかと言うのも怪しいものですよ?」

そういったメティスの声は、どこか気落ちしているようだった

「私にとって、シンは唯一です。」

「唯一?」

はい、とメティスが頷く

「友人か?と聞かれれば、否。親友か?これも、否。恋人か?・・・・・おそらくこれも、否。」

そういって、メティスは苦笑した

「うまく言えないのですが、私たちの関係は、言葉では言い表しにくいのです。」

「好きじゃ、無いんですか?」

周りから見れば、二人の関係は恋人以上に見える

だが、メティスはそうではないと言った

「いいえ。私は、シンを愛しています。私にとって、シンはなくてはならない存在なのです。」

「なくてはならない、存在?」

はい、とメティスは再び頷いた

「そうですね、私は、彼がいなければ生きることは出来ないでしょう。彼の存在は・・・人が酸素なしでは生きられないのと同様の存 在だと思っています。酸素がなければ人は死ぬ。それと同じように、私はシンがいなければ、死ぬでしょう。いえ、自ら命を絶つでしょう ね。」

「そんな・・・・・」

あまりにも、深く、重く、切ない想い

触れば崩れてしまう砂糖菓子のように甘く、氷の彫像のように美しい

それゆえに、脆く、弱い

「彼は私の唯一。私も、彼のそうであるよう努めているのですが・・・・・」

そこまで言って、メティスは言いよどんだ

数秒思慮し、続きを口にした

「先ほど、恋人ではないと言ったのには理由があります。」

「理由、ですか?」

鸚鵡返しのように、マナが尋ねる

「私は、シンに抱かれた事がありません。」

「え・・・・・・・えぇ!?な、何を言い出すんですかっ!!」

突然の事に、マナは顔全体を赤く染めて混乱する

「私は彼に愛されたいと思っています。その手段として、私の全てを彼に捧げる事も辞しません。」

はっきりとした口調で、メティスは言い切った

「ですが、シンは・・・・・・その、性行為と言ったものに嫌悪感を抱いているようなのです。」

「嫌悪感、ですか。」

マナはまだ赤い頬を押さえ、意外そうに呟いた

先日、涙を舐めとられた件でのシンは、妙に手馴れていた

そのシンが、性行為に嫌悪感を持っている?

マナにはそれが信じられなかった

「原因は、シン自身わかっていないようです。おそらく、記憶を失う前に・・・トラウマになるような事があったのだと思いますが・ ・・」

はぁ、とメティスは溜息をつく

その仕草が妙に色っぽくて、マナは同性でありながらドキリとしてしまった

「私を抱く事を、シンは私を穢す事だと思っているようなのです。ですから、私はシンに抱かれた事がありません。」

「そ、そうなんですか・・・・・」

マナは既に羞恥心でいっぱいだ

やはりまだマナは14歳の少女、こういった話し、それも深い物は早いのかもしれない

「ただ、シンが私を想ってくれているのは判りますから、今はそれで十分です。」

そう言って、メティスは優しく微笑み、左手でさらりとマナの頬を撫でた









































二台の車はパーキングエリアで休憩し、助手席の人物を入れ替えて、出発した

そのため、マナの隣にはシンが居る

マナはメティスから聞いた話を思い出しつつ、シンをジーッと見ていた

「・・・・・・・・・・なんだ?」

「あ、うん・・・・・・・・なんでもない、です。」

「?変な奴だな。」

それだけ言って、興味を失ったかの様にシンは運転の専念する

専念しているのだが、どこかダルそうで、やる気のなさが体から染み出している

「運転、嫌いなんですか?」

気がつけば、マナはそんなことを聞いていた

「嫌いだ。」

帰ってきたのは、いかにもシンらしい簡潔な答え

「メティスは運転が好きらしいが、正直なんで好きなのかわからん。カーブが来るたびに右へ左へハンドル切るだけじゃねぇか。」

「速さとかには興味ないんですか?」

「ないな。車はあれば便利だから使う、程度だな。」

荷物を運ぶのにも便利かもな、そう言ってシンはタバコを銜えた

だが、銜えただけで火は付けず、口先でピコピコと動かして弄ぶ

「火、つけないんですか?」

「後に精密機械があるんでね。それにA・Dは嫌煙家だ。パソコンに煙の臭いでも映ったら延々と文句を言われるぞ。」

文句を言うA・Dの姿が目に浮かぶようで、マナはクスリと笑った

「それにお前がいるしな。タバコは吸ってる奴より周りに被害が大きい。」

「副流煙ってやつですね。」

ああ、と言って、またタバコをピコピコ動かす

ぶっきらぼうのようだが、周りを気遣っている辺りがシンらしいと言えばらしいのだろう

「・・・・・・・・・・・・シンさんにとって、メティスさんってどんな人ですか?」

「あぁ?メティス?」

「はい。」

一度マナのほうへ視線を向けたが、運転中なのですぐに前に向き直るシン

「・・・・・・・・俺の唯一だな。」

「唯一・・・。」

二人とも同じ事を言っている、とマナは思い、二人の絆の深さを知った

「あいつがいなけりゃ俺はやっていけないだろうな。そうだな、比翼の鳥って知ってるか?」

「?いえ・・・」

聞きなれない言葉に、マナは首をかしげた

「中国の空想上の鳥でな、雌雄で各一目一翼ずつしかない鳥なんだ。だから、相手がいなけりゃ飛ぶ事もできない。俺とあいつの関係 はそんな感じだよ。」

「比翼の、鳥・・・・・」

それはメティスの例に挙げた人と酸素の関係にも似ている

「ああ。ま、他にも連理の枝とかにも例えられるけどな。要するに、俺はあいつが必要だってことだ。」

いてもらわなきゃ困る、とでも言いたげに、シンは苦笑した

「お前にとっての仲間が、そういう感じなんじゃないのか?」

「え?」

思わぬシンの言葉に、マナは呆然とシンを見つめた

黒曜の瞳が、鋭く前だけを見据えている

「いて当然。いないと嫌だ。そんな奴らなんだろ?お前の仲間は。」

「・・・・・はい。」

「だったら、助けてやれ。おまえの手でな。」

「私の手で、ですか?」

自身の手を見つめ、マナは不安そうに目を閉じた

親友を、ムサシとケイタに守られたこの手で、仲間たちを助けられるのか

手を伸ばして、届くのか?

掴んでくる人は、いるのか?

「阿呆。俺は昨日なんて言った?」

シンに言われて、ハッと顔を上げる

『泣くな。目を閉じるな。前を見ろ。足を踏み出せ。そうすりゃ、明日は来る。』

ぶっきらぼうな、励ましの声

背中を押す、厳しい、優しい言葉

「一歩踏み出すのも、手を差し伸べるのも同じ事だ。やるか、やらないか。お前はどうする?」

試すような、シンの言葉

答えなど、決まっている

ゴシゴシと漏れかけた涙を拭い、前を見た

「やります。」

「それでいい。」

シンの左手が、優しくマナの髪を撫で、頭を抑えて身体を引き寄せられる

「ご褒美だ。」

マナの頬に、軽くキス

「な、ななななななななななななななぁ!?」

慌てて、シンの手から逃れるマナ

見事に耳まで赤くなり、口をパクパクと開閉する

「ハハッ、初心だな。」

これぐらいで取り乱すな、とシンが意地悪く笑う

「し、シンさんにはメティスさんがいるでしょう!!」

「ああ、俺、メティスを抱いた事無いから。」

かるーく暴露する

「メティスさんから聞きましたっ!!」

「なんだ、聞いてたのか。つまらねぇな。」

あーあ、と溜息をつき、横目でチラリとマナを見る

「な、なんですか・・・・・?」

「阿呆。俺はガキに欲情しねえっての。」

「が、ガキって・・・・・」

むぅ、とマナは自分の身体を見下ろす

胸は薄く、肉付きもよくない

まだ少女としての体型がそのままで、やっと身体に丸みが出始めてきたところだ

確かに、子供と言えば子供なのだが

そう言われれば反抗したくなるのが乙女心というものだ

「メティスさんに言いつけます。」

これは効くだろうと、勝ち誇った視線をシンに向けるマナ

「別にいいぞ。」

対するシンは、あっさりと許可する

「良いって、ほんとに言っちゃいますよ?」

「聞いたんだろ?俺があいつを抱いてないの。俺はあいつを抱けない。下手したら、これからずっと先も。あいつは俺が他の女抱いて るのも知ってるよ。」

「ほ、他って・・・・・そんな、メティスさんが大切なんでしょう!?」

「ああ。」

シンは当然だとばかりに、肯定する

その目はひどく暗く、鋭い

「大切だから、抱けないって事もある。お前が考えているより、世間ってのは複雑なんだよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・おかしいですよ。」

「ああ、わかってる。俺もイライラするよ、覚えの無いような事のせいで、メティスに触れるのさえ戸惑っちまう。」

至極冷静に、シンは言う

「最近やっと、あいつにキスしてやれるようになったばかりだ。わけわかんねぇな。自分の事が一番判らない。」

「・・・・・・・・・・・ごめんなさい。」

「気にするな。俺も・・・・・フッ、ガキにする話しじゃなかったな。」

ククク、と笑い、シンは冗談交じりで言った

「そのガキって言うの止めてください!私には霧島マナって言うちゃんとした名前があるんですから。」

「もう少し成長したら名前で呼んでやるよ。取り敢えず、俺にとって15以下は全部ガキだ。」

愉快そうに、シンが笑う

つられてマナも微笑んだ

「はぁ・・・・・もう、好きに呼んでください。」

「物分りがいいな。ご褒美だ。」

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁ!!!」









































「さて、準備はいいか?」

シンが三人を見渡す

視線が合うたびに、頷く仲間達

「じゃ、作戦の確認だ。まずA・D。」

「ハッキングして監視装置全部お釈迦。後は他の基地に連絡いかへん様に適当にやっとるわ。あ、通信の経由もまかせぇや。」

A・Dの答えに、シンは頷く

「メティス。」

「前回脱走に使用された北口方面で陽動ですね。」

「ああ、脱走の件で北口の警備は堅くなってるだろうから、気をつけろ。」

そして、とシンはマナを見る

「俺たちは西口から侵入。ガキ共助け出して、脱出っと。」

「あの、どうして南口じゃないんですか?」

トライデント計画の行われている基地は北西南の三箇所に出入り口がある

北口は荷物の搬出用、西は正面ゲートで、南は見回りの兵が外に出るための出入り口だ

正面ゲートより、南からの方が侵入しやすいとマナは思った

「奴らも馬鹿じゃない。北のメティスが用だって事はすぐ気づくだろう。じゃあ、本命は何処から?陽動の反対側、そう考えるのがセ オリーだ。その方が劣りに引きつけられた奴らが戻るのに時間が掛かるからな。」

だからこそ、西にする

「北の次に敵が集まるのが南。そして最後に西だ。その頃には俺たちはとっくに基地の中ってわけだ。何か異論は?」

「いえ、ありません。」

よし、とシンは頷いて、マナの頭を撫でる

「15分後に作戦開始だ。存分に暴れろよ?」

「当然や。こんな下らん計画ぶっ潰したらぁ。」

「勿論です。」

A・Dとメティスが、それぞれ答える

「よし、帰ったらガキ共連れて肉でも食うか。」

少し笑って、シンが言った

その言葉にA・Dがきゅぴーんと目を光らせ反応する

「勿論、あんさんの奢りやろおぅなぁ?」

「ちっ、仕方ないな。」

「いぇしっ!今日はジャンジャン飲むでぇ〜!!」

なにやらお手軽で気合の入ったA・D 

彼ほど欲望に忠実な奴はそうはいないだろう

「じゃあ、行くぞ。」

「シン・・・・・お気をつけて。」

胸に手を当て、深々と頭を下げ、メティスは暗い森の中に姿を消した

「俺たちも行くぞ。」

「はい。」

そして二人も森に消えた

「さ、残ったのはワイだけか。早速お仕事お仕事。酒がワイをまっとるでぇ〜。」

うきうきしながら、ワゴン車の中に消えた









































その日男は深夜の見張り番に経っていた

戦自の秘密基地という事もあり、情報の漏洩が起こらないよう細心の注意が張られている

そんなこの基地に見張りなんかいらないのではないか、そう思うほど、深夜の見張り番は退屈だった

「あ〜あ、たりぃよなぁ。」

「だな。暇でしょうがねぇよ。」

正面ゲート守勢控え室の椅子に座り、天井を見上げる

「なんかこぅ・・・・・ドカンと派手な事おこらねぇかなぁ・・・」

「アッハッハッ、起こったら面倒だっつぅの!」

「ギャハハハハ、そりゃそうだ!!」

そんな彼らをあざ笑うかの様に

深夜の宵闇を切り裂き

ドカンッ!!

爆音と共に、火柱が上がる

「お、おい、あれ北口だろ?」

「まさかまた脱走!?」

慌てて管制室に連絡を取ろうとするが

「くそっ!繋がらねぇ!!あの爆発で通信機をやられたのか!?」

「お前は此処を見張れ!俺は北口の状況を見てくる!!」

「ああ!頼んだぞ!!」

同僚を見送り、拳銃片手に、ウロウロと正面ゲートの前を行ったり来たり

冗談で言っていた事が本当に怒ってしまい、男は混乱していた

そこへ

「た、助けてください!!」

「なっ!?」

服装が乱れた少女が男に駆け寄る

「お前、トライデントのパイロット候補生か!?何でこんな所に!?」

「無理やり連れ出されて、私・・・・私・・・・・・」

少女の言葉を聴いて、男は青ざめた

男は噂で聞いたことがあったのだ

基地司令がパイロット候補生を強姦した事で、その少女が自殺したと言う噂を

さらに言えば、彼が聞いたものは事実とかけ離れたものもあり

司令がサディスティックに少女を甚振ったせいで、発見されたときは重症だった

と順序が逆な噂を耳にしていたのだ

そしてもう一つの噂

それを目撃した兵士が処刑されたと言う噂だ

彼は、夜勤勤務だった己を呪った

このままでは自分は目撃者になってしまう

噂の男のように処刑されてしまうかもしれないのだ

「お、俺は何も見ていない。さっさと部屋に戻れ!!」

そう言って、基地内を指差す

その言葉にしたがい、少女は中に入っていくのが見えた

安堵し、溜息をついた男は少女が北方向を見る

もしかしたらその方向から司令が来るかもしれないからだ

彼は頭の中で何度も何度も何も見ていないと言う言い訳を考えていた

だが

バチッ!!

「ギャッ!!」

突如、痛みが走り、彼は地面に倒れた

体の動きが鈍かったが、どうにか首を動かして、背後を見た

そこには、先ほどの服装の乱れた少女

その手にはスタンガン

何かを言おうとする前に、少女のスタンガンの追撃で、男は完全に意識を失った









































「なかなかの演技だな。女優にでもなったらどうだ?」

シンが、マナが気絶させた男を守衛室に押し込みながら言った

ふざけ半分なのか、その顔には笑みがこぼれている

「女優か・・・・・・・考えておきます。」

と、マナはなかなか前向きな答えを返すが、いかんせん相手はシンである

「おいおい、お世辞だぞ。本気にすんなよ。」

アハハ、と一笑に附する

マナは無償にシンを殴りたい衝動に駆られたが、何とかその激情を押さえ込んだ

「まずいな。この男の軍服、俺に合わないぞ?」

見張りの男は、どちらかと言えば小柄な方で、シンは対照的に長身だ

ズボンをはけば脛が出てしまうかもしれないし、上着を着れば袖が短すぎるだろう

「よし、最初に遭遇した奴から奪う事にしよう。」

「そうしてください。」

「じゃあ、行くぞ。」

「はい。」

二人で守衛室を飛び出す











「いや、いるもんだな、一人で行動してる馬鹿って。」

「秘密基地だから攻めて来る人なんていないし、夜襲ですから。」

例の如くスタンガンで気絶させた男を、二人で一室に連れ込む

どうやら医務室のようだが、軍医はいない

「医者はいないのか?」

「さぁ?北口の方に行っているのかもしれませんね。」

淡々とシンの疑問に答えるマナ

どうやらシンへの対応の仕方を身につけたらしい

マナが気絶させた男の上着とズボンを脱がしている間にシンは着ていた野戦服を脱ぐ

男に猿轡をして、手錠をかけ、ベットの下に転がす

シンがズボンを穿いている途中、不意に医務室のドアが開いた

「「「あ?」」」

三人の声が重なる

一人はシン

片足にズボンを通し、もう片足を入れようとした姿勢で固まっている

一人はマナ

男をベット下に転がし、立ち上がろうとベットに手を突いた姿勢で固まっている

一人は軍医

部屋に一歩踏み込んだ姿勢で固まっている

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

沈黙

潜入早々大ピンチだった










To be continued...


(あとがき)

はじめまして、はたまたお久しぶりです、あるいはおはようございます、こんちには、こんばんはかもしれませんが、麒麟です
Capriccio、第三曲をお送りしました。
三話目ですね。
執筆スピードは少し落ちたけど、やっぱまだ早いのかなぁ・・・・・・?
ようやく戦自編も佳境に入り、シンとマナのピンチで第三局が終わってしまいました。どうなるんでしょうねぇ・・・
さて、マナに対してなにやらキス魔と化しているシンですが、はっきり言ってうちのシンはエロいです。
そりゃぁもう、不特定多数と肉体関係持ってます(一度っきりと言う設定だけどね。)
勿論、マナを背負っていたときに登場した女性ともですし、出てきていない無名の女性たちともあるのです。
そして、唯一といって憚らないメティスには手を出せないヘタレっぷり。
いやぁ、愉快です。愉快すぎて笑いが止まりません
大切だからこそ汚したくない、穢したくない。そんな気持ちは、誰にでもあると思います。ただシンはそれが人一倍強いだけ。トラウマの影響で、人の2倍強いぐらいですね。赤くて角があれば三倍ですが、生憎シンは黒色で角はありません。
マナとシンのコンビは書いてて楽しいです。普段はブラックなシンが、悪戯小僧になってしまうのが難点ですが
カップリング希望があればメールください。多いキャラになるやも知れません
感想もらえると凄く嬉しいです。(ちなみに掲示板よりメールの方が執筆スピードがアップします。戯言ですが。)



(ながちゃん@管理人のコメント)

麒麟様より「Capriccio」の第三曲を頂きました。執筆スピードが人外です。もう何も言えません(笑)。
シン君、エロエロですな(笑)。
いくらトラウマだからって、大事な女性には手を出さず(出せず)に、代わりにそれ以外の女性には手当たり次第に出しまくっているとは・・・それって、ケダモノじゃないですか♪(笑)
さて、ついに戦自の秘密基地に潜入しましたね。
無事目的(殲滅♪)を果たすことを祈っております。
そういえばマナ(+少年兵二名)って、サード・インパクト前に戦自を裏切ったことがあったハズですけど、この世界ではその罪って不問になったのでしょうか?(都合よく皆の記憶が消えたのかな?)
最後の医務室でのシーンですが、軍医から見たら、まさに青年と少女の房事の場面として映ったんでしょうね(笑)。
さて、二人はどう言い訳をするんでしょうか?コリャ見物ですな(笑)。
さあ、次話を心待ちにしましょう♪
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