Capriccio

第七曲 〜黒狼と紫苑、そして「解き放たれる獣」〜

presented by 麒麟様


 

 

 

 

 

 

白々とした無機質な電灯の光が満たす部屋

小奇麗でありながら、生活観の無いその部屋に、シンは座っていた

第三新東京市内に借りたマンションの一室である

4LDKの家族用のマンションだが、今この部屋にいるのはシンだけであった

その手には黒光りする鋼鉄の猛獣が一匹

一度引き金を引けば業火の咆哮を上げ、鋼鉄の飛爪を繰り出す拳銃

カチャカチャと手馴れた様子で銃を分解整備するシンはどこかぼんやりとしていた

その整備にしても、真剣にやっていると言うよりは、することが無いからやっている、と言った方がしっくり来るほどだ

銃を組み終え、弾装を込め、スライドをひく。

フッと自然な動作であげられた手

挙げると同時に構えて、狙いをつける

そして引き金を・・・・・引かない

引くはずが無い

此処は仕事のために借りたアジトの一つである

第三進東京市内だけで、他に三件のマンションやアパートで部屋を借りている

そんな部屋の一つで、昼間から発砲騒ぎを起すわけには行かない

シンは苦笑いを浮かべ、弾装を抜くと、装填された初弾も抜く

抜いた初弾はきっちり弾装に込め、再び弾装を銃に込める

今度はスライドを引かず、安全装置をかけてコトリと床に置いた

「ただいま帰りました。」

ガチャリとドアを開けて部屋に入ってきたのは、メティスだった

手には何も持ってはいないが、どこかに買い物に行ってきたような風体だ

「それでは、昼食を作りますので、もう暫らくお待ちください。・・・・・シン?」

音も立てずにフローリングの床を歩いていたメティスは、じっと自分を見ていたシンに呼びかけた

「いや、なんでもない。」

シンはどこか自嘲的な微笑を浮かべると、ゴロリと冷たい床に横になった

「床で寝ると、身体を痛めますよ。」

「ん。硬い方が落ち着くんだ。」

腕を枕にして、背を丸めるその姿は、どこか室内犬が寝ている姿のようにも見えた

「今日はいい天気ですね。昼食が出来るまで暫らくお休みください。」

「ん、そうする。」

そういいながらカーテンをメティスがあけると、カラッとした日差しが室内を照らす

先ほどまでの無機質な印象は消え去り、どこか温かみが室内を満たす

シンも、先程より随分居心地よさそうに、ゴロリと寝返りをうち、反対側、窓の外に視線を向けた

今日も、天気がいい









































マナは腹のそこから競りあがってくるような嘔吐感に苛まれていた

そこは第三進東京市内のマンションの一室

清潔感に溢れていた4LDKの部屋は、もう見る影も無い

怪しげな機器と、棚に並べられた不気味な色の薬品郡

この部屋をはじめて訪れた人は、こういうだろう

『魔女の家だ』

そう、此処は【極東の魔女】が使用している部屋だった

何故マナがこの部屋にいるのか?

答えは簡単だ

魔女に攫われたのだ

「どう?マナちゃん。次の薬行っとく?」

「い、いえ・・・・・も、もうちょっと。」

マナは吐気に苦しめられながらも、口に手を当て、何とか声をかけて女、ユイを見た

そして、ただでさえ青かった顔が、さらに青く染まる

ユイが顔の高さにまで上げていた"次の薬"を見てしまったからだ

三角フラスコに入った、まさに怪しげな液体

その色は、なんと蛍光ピンク

あからさまに毒々しい

あの薬を飲まなくてはいけないのだと思うと、マナはダッシュで部屋を逃げ出して、シンとメティスと元へ行き、おいしいご飯を食べたいと切実に願った

そこで思い直す

いや、今必要なのは一杯の水と胃薬だ。食べ物を食せばたちどころに胃の中身が逆流してしまうではないか

そんな行為は放送コード的にあってはならない

などと、微妙に考えが混乱している

シンがその思いを聞いていたら、「放送コード的にってなんだよ?」と呆れたように言って来るだろう

ハッ、と呆れたように鼻で笑うシンの姿を想像し、マナは激昂した

別にシンがそんなことをしてはいないのだが、この苦しみを何かに、ありてい言えば怒りに変換しなければやっていられないのだ

「はい、もう大丈夫でしょ。次ぎ行ってみよう。」

「あぁうぅあぅあうあうあうあう・・・・・あ、あ、あ、あ、あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

半ば強引に飲まされた蛍光ピンクの液体が、口内を侵食し、喉元を過ぎ、胃に至る

「に、苦っ!?す、酸っぱい!?苦酸っぱい!!」

絶妙な匙加減の苦味と酸味のコラボレーション

見た目液体のわりに、口に入れた途端に発生する粘着性

ベタベタと、歯や舌に粘りつき、延々と苦味と酸味が奏でる負のハーモニー

焼けるように喉が痛かった

燃え上がるように、胃が熱かった

喉とお腹に手を当てて、マナは床を転げまわる

彼女は確信した

これは拷問だと

ユイは自分を『【覚醒者】にしてあげる(はーと)』とか言っていたが、とんでもない大嘘だったのだ

ユイは自分を毒殺する気なのだ

マナはそう確信した

「(ああ、シンさん。あの時手渡された胃薬はこういう意味だったんですね・・・。)」

震える右手が、ポケットに入った胃薬を掴む

「(気を確かになって、こういう意味だったんですね。)」

マナは胃薬を渡しながら哀れみの目線を送ってくるシンを思い出す

「(だったら、止めてくれたって良かったじゃないですか!!)」

それは無理だ

ユイの自由奔放さというか、天衣無縫というか、突拍子が無いというか、破天荒というか、ともかく彼女の行動を止められるものなどいないのだ

それはマナも理解している

だが、文句ぐらい言わなければやっていられない

「あら?だめよ、胃薬なんて飲んじゃ。胃の中で今飲んだ薬と反応して、凄いことになっちゃうでしょ。」

「すすすす、すご、すごいことって・・・・・?」

ヒョイと軽くマナから胃薬を取り上げたユイは、さりげなく怖いことを言う

「そりゃぁもう・・・・・とにかく凄いのよ。ボーンって。」

「ぼ、ぼぼぼぼ、ボーン?」

握った両手を合わせて、擬音と共に勢いよく開くユイ

「そうそう。それで、ビチャァーってなって、グチャァーッてなるのよ。それでね」

「あああぁぁぁ!!もういいです!もういいですってばぁぁぁぁ!!」

ユイの使う生々しい擬音に恐れおののき、マナは焼けるように痛む喉も胃も忘れて、耳を塞いだ

賢明な判断といえるだろう











黙々と昼食を食べるシン

その姿を嬉しそうに見つめながら、自身も昼食を食べるメティス

はた、とシンの食べる手が止まった

「シン?味付けに問題がありましたか?」

「ん、いや、うまいよ。ただ・・・」

もしかしたらとんでもない味付けの失敗をしてしまったのでは、と青褪めるメティスを落ち着かせ、シンは遠い目を窓の外に向けた

「ただ?」

「マナは、無事だろうか?」

それはもう、凄く遠い目だった

忘れたい過去を強制的に椅子に縛り付けて延々見せ付けられ、憔悴しきったような目であった

メティスは、マナの名を聞くな否や、ズーンと肩を落として俯いた

何か悲しい事を思い出したのか、それともつらい事を思い出したのか、定かではないか、目じりに涙が浮かんでいる

「よく生きてたな、俺たち。」

「申し訳ありません、シン。食事中にその話は・・・・・」

うっと口に手を当てて気分悪そうに身体を丸めるメティス

「す、すまん。ま、まぁ、あの薬が【覚醒】を促すのは本当だし、飲んだ奴はちゃんと生きてるし、も、問題ないだろ?」

言葉尻が、自信なさ気だ

ユイなら薬が失敗したからという理由で飲んだものが死んでしまっても、完全犯罪の如く隠匿してしまいそうだからだ

「マナさん、生きて帰ってきてください。」

グッと胸元で拳を作り、窓の外の遠い空を見上げる

人を思って空を見上げるのは、死んだ人に対してではなかっただろうか?

「力の及ばぬ俺たちを許してくれ・・・・・。」

シンはいつものマナへのからかいなどどこへやら、本当に申し訳なさそうだ

「帰ってきたら、私、マナさんの好きなものを沢山作ります!」

「そうだな、俺は給料を少し、いやかなり挙げてやるか。」

二人にこう思わさせるほど強烈なユイの薬っていったい・・・・・











「はい、最後にこれを飲んでお終いよ。」

ニッコリと笑って、やはり三角フラスコに入った液体を掲げて見せるユイ

その色は、青みがかった紫色

飲んだら人生が終わってしまいそうだ

「大丈夫よ、そんなに怖がらなくても。これは痛み止めだから。」

「い、痛み止め、ですか?」

未だに痛む胃を抑えながら、マナは尋ねる

「そうよ。これを飲めばたちどころに痛みが飛んでいっちゃうのよ!」

マナが想像したのは傷みの中心である胃が文字通り"飛んでいく"光景だった

腹を突き破って空を飛ぶ胃

「え、えっと・・・・・遠慮していいですか?」

そんなマナの問いには答えもせず、ユイは問答無用でマナの口に薬を流し込んだ

「あ、甘い!?甘くて・・・辛い!!甘辛い!?!?!?!?」

悲鳴を上げながら床を転げ周るマナ

シンとメティスが哀れむはずである

「良薬は口に苦しっていうでしょ?」

未だに転がり続けるマナに向かってユイはそんな事を言う

「(口にだけじゃなくて、目にも精神的にも苦いですよ・・・・・。)」

見た目は悪いし、飲んで大丈夫なのか、と精神的にも苦しめられる

飲んだ後の反応は劇薬並み

薄れ行く意識のなか、マナはにこやかに微笑むユイの顔を見た

「(ああ・・・・・・この人、ホントに魔女なんだ。)」

鬼、悪魔、と心の中でユイを罵って、マナは意識を手放した









































マナが目を覚まして最初に視界に入ったのは、心配そうに顔を覗き込むシンとメティスの顔だった

「ふぅ、よかった。目を覚ましたか。」

「このままおきなかったら、どうすればいいか心配でした。」

二人揃って、安堵の溜息をつく

何故だろう、とマナは思った

メティスはともかく、いつも自分をからかっているシンがこんなに不安げな表情を見せるとは

「よく無事だったな、マナ。来月の給料は奮発してやるぞ。」

「今日の夕飯は楽しみにしていてください。マナさんの好きなものを沢山作ります。」

「は、はぁ・・・・・」

状況が理解できないのか、曖昧な返事をするマナだったが、時間が経つにつれ、理解し始める

そうだ、ユイの薬を飲んで気を失ったのだ。と

「マナ?大丈夫か?」

ワナワナと恐怖に震えるマナを見て、再びシンが心配そうな声をかけてくる

「苦くて酸っぱかったんです!それで、甘辛かったんですよっ!!」

マナは自分の身体を掻き抱き、絶叫した

聞き様によっては意味不明な発言だが、二人にはそれだけで理解できたようだ

「ああ、よく判る。俺たちも飲んだからな、蛍光ピンク。」

「ええ、そうです。あの青紫を・・・・・。」

ハッと顔を上げたマナは、二人の顔を交互に見た

三人はいろんな意味で理解しあえたようだ

頷きあい、今生きていることを感謝した











「取り敢えず、薬が効くのは本当だからな。」

真面目に、シンが言った

「あんな思いをして、効かなかったら、私はユイさんを射殺します。」

よっぽどひどい薬だったようだ

マナはずいぶんとやさぐれていた

「俺も同じ事を思った。それで、まだ射殺して無いって事は、そういうことだ。」

シンとマナ、仕事上では師弟と言ってもいい二人

考える事は似たようなことのようだ

「それで、身体の調子はどうですか?」

「は、はい・・・・・なんとか・・・。」

健気に答えるマナだったが、再び"あの"薬を思い出してしまったのか、その顔は青く染まっている

ずいぶんと精神的ダメージを受けているようだ

尤も、自他共に図太いと認めているシンでさえ被害を受けるユイの薬だ

例え元軍属であり、訓練を受けていたとしても14歳の少女であるマナには耐えがたい苦痛である

というよりも、普通あんな色の液体は飲みたくない

「あ〜・・・・・それとな。」

シンは指で頬を掻き、どこか言いにくそうに視線をそらす

「なんですか?」

「・・・・・訓練するから明日の午後から来いってよ、魔女が。」

先ほどから青ざめていたマナの顔が、更に青褪める

「・・・・・・・・・。」

口をパクパクと開閉し、あまりの驚愕に言葉も出ないようだ

というか、不憫だ

今にも泣きそうなほど目を潤ませ、助けを求めるように二人の顔を交互に見る

が、二人は哀れんだ視線を向けてくるだけだ

わかっていた、最初からわかっていたのだ

あの魔女の暴走を止められる者なんていない

あの魔女は『やる』といったら絶対にやるのだ

それこそ邪魔をする者を強制排除してでも

そしてマナは

精神的にも肉体的(主に味覚的衝撃で)にも痛めつけられた体を酷使し

震える両足を強引に動かし、倒れるように前へ駆け出す

「逃げてやる!逃げてやるんだから〜〜!!!」

出しうる最速の走りで、部屋から逃げ出した

「ちょっ!おい、待てって!!」

が、部屋を出たところでシンに捕まり、羽交い絞めにされてしまった

この時点でマナにとってシンは『魔女の手下一号』となった

イメージ的には使い魔だ

「落ち着けっ!もう薬は飲まなくて良いんだよ!!」

ジタバタと暴れるマナに何度か殴られ、何度か頭突きを食らいながらも、シンはマナを離さなかった

決して、逃がしたら魔女に何をされるかわからない、などと思ったからではない

・・・・・少しはそう考えていたかもしれない、いや、少しだけね

「嘘だっ!どうせ行ったら薬を飲まされるのよ!青緑のドロっとしたやつとかっ!!」

妙にたとえが具体的というか、実際ありそうなところが怖い

これでもか、というくらい混乱しているマナにメティスが優しく諭す

まぁ、なんだかんだと言い争いがこの後30分ほど続くのだが、あまりにも哀れというかなんと言うか、暴れるマナをシンが押さえつけて被害にあったりと、描写するのは心苦しいので割愛する

結論から言うなら、マナは何とか納得した

その引き換えとして、シンに多数の青痣ができひどく不機嫌になった

マナの給料UPは見送りになってしまったという

右頬がひどくはれ、鼻にはティッシュを詰めているが・・・・・どれほど暴れたのはそこから押してはかるべし、だ









































翌日、シンはカヲルとサキと共に国連にきていた

未だに右頬が少しはれていて、それを隠すように湿布が張ってあるのが哀愁を誘う

カヲルとサキが度々「なにがあったんだ」とたずねるが、シンは決して口を割らなかった

混乱した助手に殴られたとは、さすがのシンも言いづらいのだろう

妙に外聞を気にする男である

ともかく、国連に着た三人のなわけだが、目的はもちろんNERVについてである

いくら悪名高いとは言え、いくら実質的に国連を支配しているとは言え、NERVは国連内の組織の一つなのだ

仕事だからとは言え、勝手につぶしてしまっては国連から指名手配されかねない

先日の戦略自衛隊のような一国の軍組織とは違い、NERVは国際的な組織であり、世界中各地に支部がある

それもMAGIという第7世代コンピューターを持ち、各支部とリンクしている

情報の専門職は味方にいるが、流石にMAGIとMAGIコピー全て相手に対等に渡り合えるかと言うと、不安が残る

情報戦では、向こうに利があるのは明らかなのだ

事後の安全を確保するためにも、国連に話しを通しておく必要があるのである

専ら交渉するのはカヲルだ

世界的犯罪者、キール・ローレンツを輩出したとは言え、ローレンツの名前は未だに政界、経済界において大きな意味合いを持つ

財団を経営する莫大な財産もその理由の一つだが、最も大きな理由はカヲルのカリスマ性だ

瞬く間に混乱期にあったローレンツ家とその財団を纏め上げ、僅かな損失で犯罪者を出すと言う汚点を切り抜けた才媛

その手腕、その美貌、その神秘性

サードインパクト後、ローレンツ家、いやカヲル・ローレンツに付き従うようになったものは多い

よって、前記した事を正確に言うならば、"カヲル・ローレンツ"の名前は政界、経済界において大きな意味合いを持つのである

だが、カヲルの話しに国連側は難色を示した

理由としてはいくつか挙げられる

カヲルがそうでないとは言え、"ローレンツ"はNERVと敵対した経歴を持っているのである

その経歴から、国連側は今回の事を"ローレンツの復讐劇"ととってしまったのである

NERVの悪行や、覚醒者たちへの対応は"正論を取り繕っただけ"のように聞こえたのである

もっと判りやすい理由を挙げるならば、国連側の幹部達も現状ではNERV傘下であるという事だ

彼らも何も好き好んでしたがっているわけではない

組織と言うものは、上に行けば行くほど社会の闇と言うものと関わってくる

そしてNERVは広い情報網を持っている

簡単に言えば、弱みを握られているのだ

それが裏金であったり、愛人であったり様々だが、公にしたくない事を理由にNERVから圧力をかけられているのだ

だが、カヲルは彼らを説き伏せた

現状を維持する事が如何に危険であるかを

このままNERVの横暴を許せば、必ずやNERVは国連を退けその権限を奪っていくだろうと

現状を維持する事は、bestでもbeterでもない事を説き伏せた

そして最後に、こうも言った

「NERV打倒後に出る利潤はローレンツ家は一切望まない。」

現在のNERVの支配地域といっていい国・地域が開放された際は、NERVに独占されている税金や科学技術がそっくり利潤として転がり込んでくる。

その莫大な利潤を、ローレンツ家は要らないといったのだ

それどころか、その利潤の多くを国連に還元できるよう尽力するとも言った

財団当主であり、企業家であるカヲルがそこまでいう事の意味合いは大きい

彼の下には多くの企業と、その企業で働く多くの人の生活があるのだ

国連側の希望もあり、シン達三人を除いた者達で会議を行いたいとの事だったが、4時間以上にも及んだ会議の結果は容認

シン達の行動を全面的に支援するとの回答を出したのである

こうして、シン達は後方の憂いを立ち、大きなバックボーンを手に入れる事に成功した

さらには、国連がNERVに送り込んでいる諜報員の協力も得られるとの事だ

対NERV作戦は順調に進んでいく









































シン達には告げられなかったが、国連側の会議において親NERV派の国は反対した

その中には、秘密裏にNERVに連絡を取ろうとしたものもいた

だが、そこは国連のすばやい判断により、瞬く間に拘束された

取り敢えずは軟禁と言う処置が取られたが、結局のところは換金に等しい

その連絡しようと国の中には、日本もあったことを告げておこう

日本の政治はほぼ全てをMAGIに頼っている

NERV本部がある地が日本であることからも、一番恩恵を受けている国ともいえるだろう

だが、全ての政治家がNERVを好しとしているわけではない

それは日本の内閣総理大臣がそうであった

かれは日本の現状に嘆いていたし、NERVの横暴に心を痛めていた

国連からの要望が持ちかけられたとき、彼は二つ返事で受け入れた

NERVへのA−801の発令だ

NERVに対する"特例法的保護の解除"及び"日本政府指揮下への編入命令"である

かつてサードインパクト直前でも発令され、NERVが拒否したために戦略自衛隊の侵攻作戦にまで発展した

多くの死亡者を出したが、その後のサードインパクトにおいてチャラになった

もしなっていなかったならば世論が許していないだろう

当時の首相はA−801を発令した、といってもSEELEに脅されての事だが、理由はともあれ、発令した事によってNERVから恨みを買い、諜報部に暗殺されている

A−801を発令する事は、自らの命を賭けに使うことに等しいのだ

それでも、彼はそれを承諾した

自らよりも、その後に続くもののために









































NERV本部を訪れたのはシンとサキ、そしてマナの三人だ

その手には幾つかの書類が入った封筒

今回の訪問の目的は依頼人の娘であり本来の目的である"山岸マユミの開放要求"と、それが拒否された場合の"A−801の発令"だ

全員が全員、後者の"A−801の発令"になるだろうと予測している

NERVが今まで束縛した覚醒者を解放したという話を全く聞かないからだ

もし開放するとすれば、"使徒"という人類の敵の烙印を押し、全世界指名手配をかける

それを見越しての"A−801"だ

既にNERV総司令である六分儀ゲンドウが本部にいる事は確認している

このような重大な事を伝えるには、司令がいない事には話が進まないからだ

司令への伝達途中での書類の紛失、などといって黙殺されては困るし、再度訪れたときに暗殺されないとも限らない

基本的に、シン達全員がNERVに対して懐疑的だ

用心に用心を重ね、細心の注意を払っている

ゲンドウが出張中であったことで、NERVを訪れるのを三日延期した程である

だが、NERV本部内は基本的に職員のみが入れる場だ

カードリーダーを通らなければ中に入ることは出来ない

そこで向かうのが外来受付口だ

これはNERVが非公開組織から公開組織に転じたときに出来たものである

「総司令六分儀ゲンドウ氏と会談したい。」

受付嬢に目的を告げる

要件を告げると共にニコリと微笑みかけ印象を浴するのを忘れないシン

機嫌を損ねて取次ぎを断られては困るからだ

「アポイントメントは御座いますか?」

シンの微笑みに頬を少しだけ赤く染め、それでもプロらしく平然と受付嬢は尋ね返した

「いや。だが、重要な用件だ。聞かなければ手痛いことになるな。」

「申し訳ありませんが、アポイントメントの無い方を御通しするわけには行きません。」

礼儀正しく頭を下げつつ、受付嬢はきっぱりと言った

「いやいや、会わなければいけないんだよ。一応伝えてくれないか?」

どこか悪戯小僧のような無邪気な笑みを浮かべ、シンは囁くように受付嬢に頼む

「・・・・・申し訳ありませんが。」

「一言でいい、チルドレン、覚醒者について話があると。」

そのシンの言葉に、受付嬢は敏感に反応した

NERVにいるものなら誰でも知っている

いや、NERVでなくとも、誰もで知っている事だ

チルドレン、そして覚醒者をNERVが集めている事は

受付嬢はいチラリとマナを見やり、再びシンの顔を見た

彼女は深くNERVに関わるものではないが、チルドレンが子供であるという事は知っていた

そして、シン達は子供であるマナを連れている

彼女はシンがチルドレンの紹介に来たと思った

それゆえに、ゲンドウへと伺いを立てたのだ

暫らくロビーで待つよう言われた三人は、高価なのか安物なのかいまいちわからない長いすに一列になって座り寛いだ

「あの人、私をチルドレンにしに来たって勘違いしたんじゃないんですか?」

マナが隣でぼんやり天井を見ているシンに問いかける

「当たり前だろ?そうなるよう誘導したんだから。」

「そうそう。普通そんなに簡単に一番偉い人に会えるわけ無いでしょ、マナちゃん。」

シンの言葉を継ぐようにサキが補足する

確かに、一般人に直々会う司令というのもいないだろう

だが、マナはそれはそれで自分の存在を利用されたような気がして、あまり納得は出来なかった

拗ねた様に俯いたマナを察してか、シンが声をかける

「マナ、俺はお前が助手だから利用する。身内だから利用したって事だ。」

「身内、ですか?」

ああ、と頷くシンの向こうから、サキが口を挟む

「私たちは裏家業だけどね、だからこそ守らなければいけない掟やルールがあるの。身内ってのは一番信用に足る人物なのよ。」

「信用できるから、利用するって言うんですか?」

どこか違う気がする、とマナは納得できない様子だ

「信用ってのは相互でするものだ。身内でも利用するほどの理由がある、そう思ってくれると信じているから、利用するのかもな。」

そうまで言われたら、マナも納得するしかない

シンはマナを信じたからこそ、利用したのだ

それに文句をつけていては、自分がシンを信じていない事になる

次は自分がシンを利用してみようかな、と思ったりもしたが

「お客様、司令がお会いになるとのことです。」

受付嬢の言葉に、シンは唇の端を吊り上げ、獰猛に微笑んだ

狩りの時間の始まりだ









































案内されて付いたのは、NERV本部の最上階

何も無い薄暗い部屋にポツンとある机

床と天井にはセフィロトの樹

マナが隣を歩くシンに呟きかけた

「悪趣味な部屋ですね。暗いし・・・」

「部屋の主の趣味だろ?」

「だとしたらよっぽどの変人ね。」

ヒソヒソと全くそんな素振りを見せずに会話する二人にサキが割り込んだ

先ほどからよく会話に割り込むが、除け者扱いされているとでも思っているのだろうか?

尤も、一人だけ【破壊屋】であり、二人が【なんでも屋】で同僚なのだから、特にマナは親しいシンのほうが話しかけやすいだろう

部屋の中央辺りで、その場にいる全員が把握できる位置

そこでもやはり、三人は小声で話す

「う、うわぁ・・・・・」

「ほ、本当に変人だった・・・・・」

「・・・まさに悪人面って奴だな。」

それぞれゲンドウの顔を見ての反応だった

髭面に色眼鏡、肘を机について手で口元を隠す

怪しさの極みと言うかなんと言うか、どう見ても変人だった

もしくは悪の組織の首領

NERVの司令にははまり役なのだ

ちなみに、ゲンドウの横に副司令である冬月コウゾウ

シン達から向かって右側に赤木リツコと葛城ミサト、加持リョウジ。向かって左側に黒服達

「ん?」

一通りNERVの人員を見渡して、シンは加持の所で視線を止めた

「おい、サキ、見ろよ。」

「ん?」

怖いもの見たさ、とでもいった風にゲンドウをしげしげと眺めていたサキだったが、シンに(しつこいが小声で)呼びかけられその視線の先を見る

「あれ?コウモリ君じゃない。」

「やっぱりか。ふぅん、NERVにいたのか。」

ニヤニヤと加持を見て笑うサキと、嘲笑うかの様に見下すシン

明らかに年上に対しての礼儀がなっていないが、生憎二人とも実力主義の裏社会の住人だ

そんな礼儀は常識と共に捨ててしまっている

「知り合いですか?」

今度はマナが除け者にされたと思ったのか、少し声を大きくして尋ねた

「いやいや、知り合いって言うか、なぁ?」

「そうねぇ、ちょっと遊んであげた相手かな?」

二人とも、含み笑い

サキはニヤニヤと加持を見るのをやめないし、シンは既に興味が失せたのか視線をゲンドウに戻していた

「なによ、加持。知り合いなの?」

三人の態度に当然の如く気づいたミサトが隣の加持に訪ねかける

「・・・・・」

だが、答えは返ってこない

無視されたようで、ミサトは腹を立てた

何とも我慢の限界が低い女である

「ちょっと!?聞いてるの!?」

「ミサト、静かにしなさい。」

そんなミサトをリツコがたしなめる

はたから見れば、集会で騒ぐ学生と注意する女教師、と言ったところだろうか

白衣を着ているのだから、化学担当、もしくは保険医だろうか

「教えてくださいよ、サキさん。」

興味を失っているシンに聞くのは諦めて、マナはサキに訪ね始めた

「うふふ〜、聞きたい?」

ニヤッとチェシャ猫の様に笑うサキ

元々美人であるが故に、そんな厭らしいような笑みも魅力的に感じられる

「聞きたいから聞いてるんですけど。」

対するマナは少し拗ね気味に、頬を小さく膨らませて不満を露わにする

そんな少し子供っぽい仕草が、少女から女へと変わりつつある時期にあるマナにはひどく似合っており、愛らしい

「前にね、仕事であったことがあるのよ。と言っても、敵同士、だったけど?」

「敵じゃなくてただの障害だろ?」

シンの突っ込みに、サキはそうそうと頷く

「自分では強いと思ってるらしいんだけど、ウザイからちょっと虐めてあげたのよ。シンにその話をしたら、シンもあったことがあるって言ってたの。」

「そうなんですか?」

虐めたんですか、とでも聞きた気にマナはシンに問う

「ハッ、軽く撫でてやっただけだ。随分身の程知らずだったから、少し力が入りすぎたかもしれんがな。」

シンはそういって再び視線を加持に向ける

その視線に込められた感情は、明らかに『勘違いした弱者への嘲り』が含まれている

「ホントなの、加持?」

三人の話に耳を傾けていたミサトが、信じられないとでも言いたげに加持に尋ねた

加持はNERVの保安部長を務めるほどの男だ

その実力は、かつてドイツ支部にいたころ格闘訓練において熟知しているし、彼自身実績もある

それに、加持リョウジは【覚醒者】なのだ

そう簡単に一般人(とミサトは思っている)に負けるはずが無い

ミサトの問いに加持は黙して答えず、ただただシンと先を見ていた

その視線には、確かに恐怖が刻まれ、明らかに二人の事を規格外の【化け物】と思っていると言う意味合いが込められていた









































ようやく加持を嘲るのに気が済んだのか、サキが視線を外した

そこに、まるで期を測っていたかの様に冬月が口を開く

「それで、君達は何者で、何用で此処に来たのかね?」

温和そうに見える老人だが、その内では三人の腹を探っている

抜け目なく、油断なく

「NERV総司令、六分儀ゲンドウ氏。それに副司令冬月コウゾウ氏ですね?」

シンは言葉遣いこそ丁寧だが、その視線は決して相容れぬとでも言いたげに、冷たい

「私はこういうものですよ。」

そういってシンは懐、そして名刺入れから取り出した名刺を机の上に放り投げる

その態度に、冬月はピクリと眉を動かしたが、口は開かなかった

ゲンドウは机に乗った名刺を手に取るわけでもなく、視線を向ける事もせず、睨み据えるかのように、威圧するかのようにシンを見ていた

そんなゲンドウの様子に、溜息一つつき、冬月は名刺を手に取った

「【なんでも屋 十六夜】?・・・十六夜シン、か。君はどうやら加持君と知り合いらしいね。」

「三重スパイの挙句、二つを裏切ったコウモリ野郎なんざ知り合いにはいませんがね。」

シンの嘲りに、加持はピクリと反応したものの、懸命にもそれ以上の反応は見せなかった

チッと残念そうにサキが舌打ちしていたが

「それで、そのなんでも屋の君がなんのようだね?」

「決まっている、仕事だ。」

探るような視線の冬月に、シンは挑発的な言葉を返す

「ほぅ、受付の者の話しだと、そこの少女が【覚醒者】やもしれぬ、とのことだが?」

冬月は試すように話題を振る

彼は知っている

この部屋に入る前、保安部のもの立ちがボディーチェックを行ったことを

いざと言うときのために保安部もいる

自分が優位であると、確信していた

だからこそ、多少強引にも話しを進めた

「さてな。それはその娘の推測だろう?知りたきゃ自分で確かめな。」

「っ!あんたねぇっ!!」

シンの態度にミサトが苛立ち咆える

「ミサトッ!」

先ほど同様、窘めるリツコ

冬月が探りを入れるために挑発したと言うのに、軽く挑発し返されただけで反応してどうするのかと、リツコは内心ミサトを罵った

「なによ、生意気なこいつが悪いんじゃない。」

自分は悪くない、こいつの態度が悪いのだ、と主張するミサト

普段の公的な場ならそうなのかもしれないが、今は腹の探りあい

挑発に反応した方が負けなのだ

それを理解せぬミサトに、思わず冬月は溜息をついた

「加持君。君は彼らのことを知っているのだろう?彼らは【覚醒者】なのかね?」

冬月は先ほどの三人の会話を確り聞いていた

【覚醒者】である加持を負かすのなら、相手も【覚醒者】である可能性が高い

問われた加持は、苦々しそうに口を開く

彼の本音を言えば、シン達には関わりたくないのだ

それほどに、彼はシン達に痛い目に合わされていた

「その子は知りませんが、その二人は間違いなく【覚醒者】です。」

やはり、と思う冬月

【覚醒者】と判れば、強権生かして取り込むまで

冬月のそんな考えを体現するかのように、ミサトの瞳が狂気を帯びて光る

【覚醒者】が増えればチルドレンの増強になる

そうなれば、それを指揮する自分の力も証明される

部下の力を、自分自身の力だと錯覚しているゆえの狂喜

「ハッ、俺たちが【覚醒者】だろうが違おうが今はどうでもいい。俺は仕事をしに来たんだからな。」

「ほぅ、だが【覚醒者】となればNERVとしては放っては置けんな。」

自分の目的を貫こうとするシンと、話しを歪め取り込もうとする冬月

だが、そこに加持が待ったの声をかけた

「副司令。・・・その二人は・・・・・一人であっても手に負えません。」

彼らしからぬ言葉だった

常に飄々とし、まるで全てを受け流すような態度が、彼の常だ

その加持が、明らかに二人を恐れている

「と言うと?」

「男の方は、ATフィールドの発露を確認しましたが、明らかに手を抜いていました。女の方は、確実にLevelUです。」

LevelU

その言葉への反応は様々だ

例えばリツコ

彼女にとって世界の理を捻じ曲げ、力を顕現させるLevelUは格好の獲物だった

多くのデータが欲しい

多くの献体が欲しい

そう思った

例えばミサト

彼女はさらに狂喜した

LevelUともなれば、チルドレン級だ

アスカやレイには及ばずとも、十分一線を張れる実力を秘めているかもしれない

それが自分の下に加わるのを彼女は狂喜した

例えば冬月

彼は危機感を持った

加持リョウジはLevelUだ

その彼を明らかに手を抜いて勝利したシン、そしておなじくLevelUであり勝利したサキ

今この場にいるもので対抗できるのか、彼は危機感を持った

例えばゲンドウ

黙して語らず、ただ見据える

なにを考えているのかは未だわからず

「よく喋るコウモリだ。どうにも"お仕置き"が欲しいようだな?」

ビクリと肩を震わす加持を見て、シンは喉を鳴らして笑った

「用件は単純明快。貴様らが束縛している【覚醒者】の少女。山岸マユミの解放だ。」

始まりの鐘はなった

狩猟の解禁だ










To be continued...


(あとがき)

ご無沙汰してます、麒麟です
Capriccio、第七曲をお送りしました。
七話目ですね。
やっとNERVの上層部出たぁ・・・・・あぁっ!マユミ出てない!?
名前は出たから前話よりは進歩したけど・・・・・・出せなかったぁ・・・・・。
国連とか書いてたら予定より進みませんでした。
下準備とか色々ありましたが、冒頭のクスリのところが書いてて一番楽しかったです。
いやぁ、ユイはっちゃけすぎですね。
マナ、かなり哀れ。でも、シンやメティスだって(設定上)飲んでるんだ。大丈夫、不幸なのは君だけじゃないって。
不幸と言えば、何気に加持も不幸っぽい。
LevelUなのに軽くシンに痛めつけられちゃう程度。
これが主人公と脇役の差か!?
あと、リツコ。
凄いね、彼女。書き出す前はまともなキャラ的位置付けだったのに、自然にマッド的なキャラになっちゃったよ。
悪いのはプロットを守らない私です。
そしてゲンドウ。喋りもせず、動きもせず。
ミサトと一緒にアンチ作品になることは決定済み。さて、次から抗争(?)勃発ですね。
感想もらえると凄く嬉しいです。(ちなみに掲示板よりメールの方が執筆スピードがアップします。戯言ですが。)
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