Capriccio

第八曲 〜黒狼と紫苑、そして「準備される戦場」〜

presented by 麒麟様


 

 

 

 

 

 

一瞬の沈黙が司令室を覆った

シンの言葉に衝撃を受ける者

あるいは、その言葉の意味を理解しきれぬ者

はては、当初から沈黙を保つ者

いずれにしろ、口から飛び出す音は無く、ただただ静寂が空間を満たす

沈黙を破るのはいつも騒音だ

激昂する女、葛城ミサト

日本語かどうかも危ういような、理解しきれぬ怒声をシンに浴びせ続ける

顔を赤く、怒りに染め、怒髪天を突く勢いで憤怒の視線を投げつける

その表情、その雰囲気を見れば危害の弱い者なら腰を抜かしてしまいそうなのだが、いかんせん呂律が回っていないというか、発音が不適格だ

せいぜい喜劇で怒り狂う三流役者にしか見えない

もっとも、彼女の人間としての器からしてみれば、三流でも上等すぎる物なのだろうが

ミサトの罵声というか奇声に真っ先に顔を顰めたのはリツコだ

何しろ彼女はミサトのすぐ隣に立っていたのだ

大音量の喚き声が鼓膜を直撃し、一時的なショック状態へと誘った

リツコの反対隣、同じようにミサトの隣に佇んでいた加持は、経験というか、長年の付き合いというか、元彼の知恵というか、とにかくすばやくその耳を両手でふさいでいた

生憎リツコへ忠告する時間的余裕など無く、さらに言えばリツコも長年の付き合いであることから反応すると加持は思っていたのだが、どうやらミサトはリツコの想像の上を行ったようだ

悪い意味で型破りの女、葛城ミサト

少し離れてたっていた冬月は直接的な被害こそ少なかったものの、精神的なダメージが大きい

ちょっと突かれた位で、まるで化学反応を起こすように反発するミサトに、失望を感じたのだ

もっとも、冬月にしてみれば、ミサトに失望することなど使徒との戦いの最中からの日常茶飯事であり、滅多に書類仕事をしない上司や、個人的に研究に走る部下、個人的趣味の異性交遊に走る部下など、ストレスがたまりやすい環境にいるため、内心それらをののしるのは実に慣れた作業だった

ちなみに、NERVの医務室――NERVの病院とは別にある――にはダース単位で胃薬の便が彼の為だけに補充され続けてある

NERV一胃痛に苦しむ男、冬月コウゾウ

それとは対極的に、何の反応も見せず、表情を読ませない男

机にひじを突き、重ねた手で口元を隠し、視線を眼鏡で隠す

表情も、考えも読ませず、ただ存在するだけで、実に不気味な雰囲気をかもし出す

髭面に色眼鏡というだけで、通りで真面目な警察官に声をかけられてもおかしくないのだが、そのポーズ、その雰囲気がさらに怪しさを倍増させる

たぶん、街に行って車から降りた時点で周りの人は逃げ出すか遠巻きにおびえた視線を向ける、もしくは好奇心にかまけて写真を取り出すだろう

NERV一不気味な男兼NERV一部下に嫌われている男兼NERV一仕事をしない男、ワースト三冠王をめでたく受賞した男、六分儀ゲンドウ

言うまでも無いかもしれないが、NERV一仕事をしない女は葛城ミサトである

対するシン達の反応はといえば

シンは喚くミサトに視線すら向けず、大して気にした様子も無く視線をゲンドウと冬月に向け続けている

彼にとって気にすべきはミサトの発言、行動ではなく、この二人のそれなのだ

それは事前の情報で得たNERVの内情を如実にあらわしている

葛城ミサトに決定権など無い

情報を制限され、わずかばかりの権限を与えられた道化

彼女の配下にいる【覚醒者】こそ留意しなければいけないが、彼女自身を気にすべき必要はさしてない

少なくとも、目の前の二人のほうがよっぽど注意を向ける対象なのだ

サキはその視線をミサトに向けていた

だが、彼女の実力からして、ミサトの罵声程度にひるむはずも無い

それどころかニヤニヤとからかいの視線を向け、ミサトをヒートアップさせる始末だ

掻き回して、掻き乱して、NERVの望むことなどさせてはやらない

そのためにも、彼女は道化を道化らしく躍らせた

踊れ、踊れ、もっと踊れ

悲劇ともいえず、歌劇ともいえぬ喜劇の舞台で

愉快な愉快な道化よ踊れ

もっと私を楽しませておくれ

クスクスと声を潜めて微笑ばかにして、さらにミサトを煽るサキ

無様に踊って、役目が終われば舞台からおろしてやろうころしてやる

サキはミサトが嫌いだ

望まぬものを戦わせるミサトが嫌いなのだ

ゆえに、サキはミサトを煽る

ただひたすら時を待ち、ただひたすら刃を研ぐ

大嫌いな女の首を掻き切る為に

クスクスと、また笑った

マナはミサトに嫌悪の表情を向けた

睨み返されたが、大して威圧にもなっていない

戦略自衛隊にいたころは、もっと怖い教官は山ほどいた

それこそ、罵声と共に殴りつけ、倒れたところを蹴り上げるような教官だっていた

それと比べれば、なんと矮小で脆弱な威圧だろう

だが、その罵声は彼女に過去を思い出させる

【罵声】がトリガーとなり、かつての教官たちへの怒りを彷彿とさせるのだ

過去の邂逅は、戦自からトライデント、そして自殺した友と、自らをかばった親友、ムサシとケイタの死へと至る

帰らぬ彼らを思い、何度泣いたことか

彼らとの生活を夢に見て、何度枕を濡らした事か

理解しようが乗り越えようが、心の奥底に住み着くのが人の死だ

抗えぬ力に抑え込まれた経験があるからこそ、マナは怒りに身を焦がす

戦自と同じく力で抑え込むNERVを、その代表ともいえるミサトを嫌う

愛らしい眉を顰めて、マナはミサトを睨みすえた









































一時的なショック状態から立ち直ったリツコがようやくミサトを黙らせた事により、この部屋の誰もが望むこと、話が進むことが再開した

ちなみに、リツコがミサトを沈黙させるために用いた手段は彼女の名誉のために黙しておこう

まぁ、強硬手段だったとだけでも言って置こうか

「フン、煩い獣を飼っているんだな、此処は。」

シンが先程のミサトの罵詈雑言、もしくは騒音を扱き下ろすが、当のミサトは床でスヤスヤと・・・なにやら魘されてはいるが、眠りについているので反応は無かった

反応がないことにチッと舌打ちしたのはサキだ

「それで、返答を聞こうか?なに、余計な事は利く気はない。痴呆の老人だろうが、偏屈だろうがこれぐらいは言えるだろう?Yes or No?」

「まぁ、まちたまえ。急に」

冬月が話を急かそうとするシンを押しとどめようとしたその時

優雅ともいえる滑らかな動作で振り上げられたシンの右腕が、ゲンドウの執務机をしたたかに叩きすえた

「その耳は飾りか?それとも寄る年波には勝てないのか?答えは単純にして簡潔!Yes or Noだ!小学生でも知っている様な英単語がわからんとは言わないだろうな!?これほど簡単な二択にも答えられんか!?長々と話してなにが変わる?俺たちの要求は変わりはしない!Yes or No!?山岸マユミを解放するか否か!ただそれだけだ!!」

無駄な言葉をつむぎ出した冬月を睨み末、その鋭い歯を剥き出しにして、シンは獰猛に笑った

獲物を追い詰める高揚感に満たされてでもいるかのように

獲物を睨みつける眼は既に獣、狼のそれに近く

その威圧感は冬月に喋らせるどころか、その呼吸さえ阻害する

だれかが、唾を飲む音がやけに大きく響いた

「・・・・・Noだ。」

不気味なほどに沈黙を保ち、その怪しげと言うか怪奇と言ってもいいような眼鏡と手で表情を隠し続けていた男が、重い口を開いた

驚くほど単純で、驚くほど簡潔な一言

あるいは、この男らしい物言いだったのかもしれない

「No?そうか、Noか。残念だな。」

シンは平然とNoと言えるこの男を評価しなおしていた

冬月に向けていたとは言え、常人では耐え切れぬほどの威圧感、ありてい言えば殺気を放っていた

その余波を受けて、黒服たちは棒立ちになっているし、リツコはその端整な顔を青褪めさせている

加持はなにやら過去の古傷でも抉られたのかシンから目線を外しているし、ミサトは・・・・・寝ているので大した反応はない

幾ら三流四流とはいえ、荒事を仕事としている黒服たちも怯えあがるような殺気に満たされた空間で、平然と言ってのける

流石は世界に蔓延るNERVの総司令だけはあるという事か、とシンは半ば感心していた

実際、ゲンドウは怒気や殺気に対しての耐性は高い

何しろ使徒大戦当時、NERVがSELLEの下にあった時から、裏世界の経済を支配するような者達の怒りや嫌味を受けても眉一つ動かさなかったのだ

若い頃、彼がまだ結婚する前には路地裏で乱闘を行っていた経験すらあるのだ

尤も、喧嘩自体は弱く、ボコボコにされることも少なくなかったのだが

一流のなんでも屋の殺気と荒事は専門外とは言え12人程の怒気

12人と言う相乗効果を見込んでようやく等しいと言ったところだろうか

よくよく耐えられたものである

まぁ、シンが本気で殺気を放っていれば話も変わってくるのだろうが、殺気を放つと言う言葉では簡単な事でも、実際に行うのはかなりの労力を必要とする

要するに、疲れるのであって、今の場合はシンが「これぐらいなら全員を黙らせれられるだろう」と見積もった分ではゲンドウを黙らせるには至らなかったのである

ずっと黙っているものだから見積もりの外にいた可能性は捨てきれないが

「ふむ、Noか。まぁ、予想通りだな。」

「予想通り?」

シン達はこの要求が通らない事など依頼を受けた時点でわかっている

だからこその国連との交渉、だからこそのA−801の準備なのだ

シンは脇に抱えていた封筒から書類の束を取り出し、ゲンドウの前に置く

が、ゲンドウは書類には触れないどころか視線も向けない

視線は一見シンを睨み据えているようだが、その眼鏡のせいで実際何処を向いているかは定かではなかった

溜息一つつき、冬月は書類の束を手に取り、読み進めていく

「っ!・・・・・A−801だとっ!?」

「「「なっ!?」」」

これに反応したのはミサトとゲンドウ以外のNERVに属するもの全てだった

彼らはA−801がどのようなものかは勿論知っているし、それが自分達にとって都合が悪い事をとてもよく知っていた

「俺たちの要求が否決された場合、A−801が発令される事になっている。というわけで、サキ。」

「アイアイ。」

サキはゆったりとした動作で懐から携帯電話を取り出し、短縮ダイヤルを押す

「あ、楓ちゃん?あー、うん、そ〜。A−801だってさ。」

「ま、待ちたまえ!!」

サキが電話相手、楓にA−801の発令を伝えるのを、冬月の大声が邪魔をした

「電話中は静かに。それぐらい常識でしょ。」

「ま、まぁ、待ちたまえ。何もすぐにA−801を発令するなどとは・・・」

「発令する。日本政府に話をつけてある。国連にもな。」

ククク、と喉を鳴らして笑うシンがいかにも楽しそうに告げた

「っ!?(日本政府が裏切った?いや、一部・・・・・総理か?)」

味方とは言えず、そしてA−801を発令できるだけの権力を有しているものをピックアップした結果、該当した人物は内閣総理大臣

実際にそうなのだから、冬月は察しがいいとも言えるだろう

「(それも国連も認めているとなると、まずいな・・・・・)」

NERVは本来上位組織であるはずの国連を黙らせるだけの弱みを握っていた

NERVの誇るMAGIを用いてかき集めた情報こそ、NERVの強みの一つだった

だが、国連は、日本政府、内閣総理大臣はそれでもNERVに抗った

弱みを握られたまま、抗ったのだ

それ故に、今NERVの持つ情報は役に立たず

脅す事も無意味、公表したとしても彼らは止まらず、逆に躍起になってNERVを潰しに掛かるだけだ

今まで脅しつけるだけで友好的な関係など関係など築こうともしなかった故に、NERVは孤立する

この本部の外の見方など、せいぜい各国の支部程度だ

国連が動くのならば、今まで押さえつけていた各国政府もそれに追従するだろうことは考えるまでもない

事実日本政府が国連の意図にしたがい、A−801発令の準備をしていたからだ

「(この男の方針が招いた危機・・・・・いや、改めようともしなかったNERVの失策か。)」

冬月は誰にも気づかれぬよう舌打ちした









































シン達がNERV本部でゲンドウ達を追い詰めたり時折馬鹿にしたりしているころ

メティスはワゴン車を運転していた

後部座席には数人の人影

その人影はさほど大柄でもない少年達のものだった

その中の一人、いつもヘッドフォンをつけよう額を聞いている夕凪ヒロムは、珍しくヘッドフォンをつけていなかった

頑強で黒光りしているフルフェイスメットを付け、その内部の暑苦しさに辟易している

「・・・・・・あっつぅ〜・・・・・」

「ウルセェな、よけい暑く感じるだろ。」

「あ〜、でもホント暑いよね、これ。」

ヒロムがぼそりと愚痴ると、周りから似たり寄ったりな言葉が漏れ始める

身長、体つきの差はあるものの、彼らは全員同じ服装であり、全員同じフルフェイスメットをつけていた

ゴムのようなあ、あるいは革製品用に黒く喰らい光沢を放つ繋ぎ目のないスーツ

その上に防弾服と軍用ブーツ、弾装用のポーチを身につけている

「(・・・・・あぁ〜、暑い。)」

先程の騒ぎにも似たざわめきを嫌ってか、二度目の愚痴は口中に消えた

溜息でもつきたいな、と思ったその時メットに内蔵された通信機が通信を受信した

『こちらA1。そっちの様子はどう?N1。』

自分宛ではなかったが、暇だった事もありヒロムは聞き続けることにした

隣に目を向けると、N1、相崎ユウヤが通信を受けていた

『暑くてイカレそうだ。冷水のシャワーを浴びるかプールに飛び込むかしたいね。』

冗談めいた事をむっつりとした口調で話すユウヤにヒロムは思わず失笑してしまった

『同感。後冷たいもの飲みたいわ。』

通信相手のA1、柏トモコが苦笑しながら同意した

A、そしてNは割り振られたコードナンバーだ

ヒロム達は男子女子に分かれて別行動をしており、ヒロムはN3となっている

Aはエンジェル、Nはノバの頭文字から取ったものあり、A2、佐々木エリコが考えたものである

『そっちの方が大変そうだけど、大丈夫?』

『メティスさんもいるから何とかなるだろ。人手が足りないのは確かだし、まさか国連軍や戦自から引っ張ってくるわけにもいかないしな。』

ヒロム達が行うことは実行直前までNERVに察知されるわけには行かない

国連軍や戦自はその存在からしてNERVに留意されているため隠密で第三新東京市に入り込むことすら出来ない

尤も、入り込むのに感づくのはMAGIであり、NERVの保安諜報部が有能と言うわけではない

『怪我人だけは出さないようにね。』

『っつっても、このスーツ馬鹿みたいに高性能だしな。流石は魔女特性ってことだな。』

そう、ヒロム達が着ているスーツ、冗談みたいにボディーラインが強調されるこのスーツは妙に性能が高いのだ

拳銃で言えば至近距離のマグナム弾でも貫くことは出来ず、耐火処理済であり、防刃効果もある

趣味で作ったらしいが、こんなものを趣味で作る人はいないと、声高らかに言いたいところである

「(そんなこと言ったらマナ見たいに拉致られるかも知れないしなぁ・・・・・)」

極東の魔女がマナを拉致って怪しげな薬を飲ませたのはヒロム達の間では有名な話しだ

拉致された本人であるマナがA3、中辻エミに電話で愚痴ったからだ

愚痴のためだけにシンが用意した秘匿回線を使っているあたり、余程のストレスを受けたのだろう

『この"お仕事"が成功したら借金もチャラだしね。』

『いや、桁が違うだろ。あからさまに報酬の方が多いし。』

そう、そうなのだとヒロムは心のうちに呟き、実質保護者の顔を思い浮かべる

口では色々と厳しい事を言って、いつも苦々しげな感じの対応しかとらないが、基本的にあの保護者は子供に甘いのだ

まず、住居や生活費、果ては学校への転入届まで済ませてしまう辺りからして、窺い知れる

何だかんだ言いつつ子供好きであり、"いいお兄さん"なのである

ふとそこまで考えて、ヒロムは改めて別の考えに思い至った

あの保護者は本当に子供好きなのか?

あるいは"弱者"に対してこそ寛容なのではないのか、そう思ったのだ

保護者と自分達を比べてみれば、幾ら元少年兵であり、つい最近まで厳しい訓練を受けてきたとは言え、実力差は桁違いだ

つまり、保護者からしてみれば自分達は弱者であり、それ故に保護してくれているのではないのか、そう思った

ヒロムの考えは、ほぼ正解である

ヒロム達の保護者、シンは弱者に寛容である

尤も、それは本当の意味の弱者であり、暴力に抗う力を持たぬもの、虐げられるものを指す

決して半端な力を持っている二流三流の者達を指しているわけではない

それを言ってみればヒロム達もまた二流三流の中に入るのだが、シンの基準からすれば彼らは弱者の部類に入るのだ

子供達は元々孤児であり、少年兵になる事を半ば"強制された"者達なのだ

生きるためには半端とは言え力を持たねばいけなかったものたちであり、望んでその力を手にしたわけではない

言い換えてみれば、生きる為に半端な力を得た弱者であり、それは大人という暴力の強制に"抗えなかった"者達なのだ

故に彼らはシンにとって弱者であり、加護の対象である

トラウマの反動、本人の経験

幾つも理由はあり、それはシン自身のためでもある

だが、護りたいという意思はシンのものであり、シンにとっての真実である

故にシンは彼らを護るし、自由へのチャンスも与えるのだ

例え周りが過保護と言おうとも、シンは無意識に与えられない辛さを知っている

無いよりは、有った方が良いという事を知っている

だからこそ、シンは彼らに与え続ける

ちなみに、先程「ほぼ正解」と記述したのは、シンが弱者だけを寛容だからではない

実際彼は子供好きであり、子供を護ろうという意思も併せ持っているからだ

詰まる所、シンは子供と弱者に寛容である、そうなるわけで

ヒロム達はその条件にピッタリ合っているわけなのである









































与えられたコードナンバー、A4、原田ユカリはワゴン車の後部座席に座りながらボーっと天井を眺めていた

黒色のフルフェイスメットを通して見る天井は、別段変わり無く、さしたる興味を引くこともない

「(・・・・・・お腹すいたなぁ〜)」

仲間内で一番食事量の多い彼女は、空腹に苦しんでいた

食べるには食べたのだが、その量が少なかったのだ

勿論、それはこれから行う"ある程度"の"危険"を伴う行動、ありてい言えば戦闘行為なのだが、それを目前とした状況で満腹状態になってはいけないことぐらい、彼女は知っている

体が重くなるし、腹部に被弾しもし胃に穴が開きでもしたら大変な事になるのは目に見えているからだ

大体、スポーツでも激しい運動の前は食事は厳禁、食べても腹三分目程なのに、それ以上の運動量の行為で満腹でいいはずがない

というわけで、食べたのはさして美味しくもないカロリーバーと、栄養ドリンクであり、必要な栄養というかカロリーは摂取している

が、カロリーよりも量を優先するユカリにしてみればその程度ではオヤツ以下であり、不満の原因となってしまっていた

「(帰ったら沢山食べよ。確かウメ屋のみかさがあったし、カナコと一緒にお茶でも飲もう。)」

仲間内で一番子供らしいというか子供っぽいというか、幼いという形容が良く似合う少女、A5、磯村カナコ

カナコはユカリのお茶仲間(紅茶ではなく日本茶)であり、お菓子仲間でもあった

ついでに言うが、"みかさ"とは俗に言う"どらやき"であり、奈良の三笠山の形に似ていることからそう呼ばれることもあるのだ

ハフゥ、と不満げな溜息をつきつつ、今にも空腹を訴えそうなお腹をさすり、ユカリは自らの身体、腹部を見た

やはりノバ、男子達と同じようにゴムあるいは革製品の様な原材料不明の繋ぎ目のないピッチリと身体のラインに沿うスーツを着ている

ちなみに、男子がつけていた防弾服は暑いという理由で今は脱いでいる

それ故に、身体のラインをはっきりと出すスーツのせいもあり、自らの年相応に育ったボディーラインが明らかになっているのだ

「(・・・・・・・・・・・・もうちょっと欲しいな。)」

まぁ、深くは言及しないが、彼女の視線が彼女自身の胸元に向けられていたとだけ言っておこう

というか、これだけ言えば十分だ

ユカリは彼女とその仲間達の保護者の一人、勝手に(料理の)師匠と思っている女性の姿を思い出した

豊満な胸元、引き締まった腰、滑らかな腰から臀部へのライン

少し泣きたくなった

モデルでも十分稼げ、さらにはトップまで上り詰められそうな美貌を持つ女性と比べれば、自分のいかにも中学生らしい未発達な身体つきは見劣りしてしまう

14歳なんだから比べる方が間違いなんだ、とユカリは自分に言い聞かせ、まだ将来性はあると自分を鼓舞した

だが、その美貌の保護者が17歳であるという事を思い出し、ちょっとへこんだ

急に雰囲気の重くなったユカリに、隣に座っていた佐々木エリコが声をかける

「どしたの?」

「え?あぁ・・・・・これ、随分と身体のラインが出るなって。」

途端周りが騒がしくなった

「そうそう、ある意味セクハラだよね。てか、まんまセクハラでしょ。」

「男子の視線、すっごいいやらしい感じがしたわ。」

「これ、誰の趣味なの?」

「魔法使いさんでしょ?」

「あぁ、そっか。もうちょっと気を使って欲しかったなぁ・・・」

「でも、あの人実用性一辺倒でそういうの、あんまり気にしなさそうじゃない?」

「あ、それ私も思った。」

などなど、ずいぶんと話が弾んでいる

ちなみに言うと、思春期真っ盛りの青少年達の視線が彼女達の姿に集まったのは仕方ない言えるだろう

むしろ、思春期青少年としてみれば正常な反応だ

さらに言うなれば、魔法使い、ユイがその辺も理解したうえで、この身体のラインが露わになるスーツを作ったという説を否定できるものが誰もいないというのも、悲しいが事実である

「少し静かにしろ。」

「す、すいません。ほら、皆、静かにして。」

運転していたゼルに注意され、恐縮した様子でA1の柏トモコが全員を促す

「はーい」という元気のいい声と共に、車内はまた静かになったが、それでもユカリは思わずにはいられなかった

「(やっぱり・・・・・・・・・・お腹減ったな。)」









































舞台は再びNERV司令室に舞い戻る

すぐさま発動に漕ぎ着けられるかと思ったA−801

だが、シンがなんでも屋としてのプロフェッショナルであると同じように、冬月もまたプロフェッショナルであった

京都大学の教授をも務めた優秀な頭脳に加え、使徒大戦以前からのNERV副司令としての政治的交渉や遣り取り

それ故に彼は交渉術においては世界有数ともいえるほどの実力を持っていた

尤も、それは表社会の事であり、探せば出てくるような人物をピックアップした中でのトップクラスだが

冬月はA−801と山岸マユミの解放について、幹部による会議を行いたいとシンに申し出、暫らく時間が欲しいと要求したのだ

時間延ばしは交渉の常套手段でもあり、シンもまた予想していた事でもあったので、二・三サキたちと相談した風に見せ、それを許容した

その代わり、シンが要求したのは会議中における山岸マユミ、もしくはチルドレンとの面会だった

その要求はシンが望む十分な役割を果たしたと言えるだろう

詰まる所、冬月を悩ませたのだ

このままシン達をチルドレンと会わせようものなら、マユミと同じように強引な手段で集めたチルドレン達の解放とまでなりかねない

さりとてマユミだけを会わせようにも、そのマユミからNERVへ入った経緯やその手段、それ以降の経緯、契約の不備などを聞かされ、解放の手段となってしまうかもしれない

一番まずいのは、契約の不備をマユミからシンに伝えられる事だろう

本当のことを言えば、NERVはチルドレンと契約など"していない"のだ

労働時間、休暇の日数、支払われる報酬など一切話し合っていない

それは使徒大戦当時からのことであり、組織としては外部に知られてはいけない事だ

契約をしていないチルドレン達は、実質、軍人でもなく、さりとて雇われた企業人、サラリーマンでもなく、ただ理由をつらつらと述べられ、強引に"所属させられている"状態なのである

それを知られれば、"強制徴兵"とみなされ、解放、そしてチルドレンの喪失、NERVの瓦解へと繋がりかねない

どれ一つでも起こってはいけない事態である

だが、ここで面会を拒否すれば、間違いなくA−801だ

数多の方法を模索したが、冬月が至ったのはやはり面会を許可する事だった

だが、ただ面会させるだけでは情報は駄々漏れである

付添い人として、見張りのものを立たせるという条件を出した

冬月は突っぱねられると予想していたのだが、シンは意外にもそれを承知した

冬月はシン達がマユミ、もしくはチルドレンから情報を引き出すのだと思い込んでいたのだが、実のところシンはそういった考えは持ってはいない

得られる情報は、確かにNERV崩壊に繋がるだろう

だが、シン達にとってNERVを瓦解させる事が、既に目的の一つとなっている

今更情報が一つ増えようが増えまいが、結果は変わらないのだ

シン達がマユミとの面会を求めた理由は、マユミの父が彼女のみの安否を心配していると伝え、彼女を安心させるためだ

チルドレンとの面会、という条件を示唆したのはチルドレンというNERVのいわば施設軍隊の中で、彼女がどのような状況にあるか知るためであった

不遇の扱いを受けているのであれば、依頼のきっかけであり、最優先保護対象ともいえるマユミに害を与えるものを排除する必要がある

尤も、この事はチルドレン全体を見ずとも、マユミの証言を得ればいいのであるから、チルドレン全員との面会の必要性は、実質低い

先発隊ともいえるシン達三人の目的は、マユミの安全が最優先であり、次いで敵対しないチルドレンの保護となっているのである

結局のところ、マユミに会えればいいわけであって、付添い人がいてもなんら問題ないわけである

これが、シンが見張りを是認した理由である





















冬月は見張りにつける者として、直属の部下でもある青葉シゲルに指示を出した

青葉は周りからはオペレーター勤務の優男として見られているが、実際は違う

彼にとってオペレート能力など余技に過ぎず、彼の所属は保安諜報部である

その保安諜報部の中でも選りすぐられ、副司令である冬月の直属として選ばれるほど、彼の能力は飛び抜けているといっていい

元々が国連軍から引き抜かれてきた士官候補生であった青葉はその抜け目のない勤務態度や、ミスのない行動から冬月に見初められ、オペレーターとしての勤務となっている

中央発令所にいること自体、冬月、ゲンドウら司令部の護衛をかねている節があるのだ

有事の際はその盾となり矛となり、侵入者を迎撃する事が彼の業務である

その様は、戦自がサードインパクト直前に発令所に突入した時にも垣間見れた

絶対的に実戦経験が無く、覚悟もないオペレーター達を鼓舞し、サードインパクトのその時まで、戦闘のプロである戦自の攻撃に耐え抜いたのである

高さという利点があったが、武装と実力で勝る戦自の猛攻を耐え抜いたのは、ひとえに彼の功績と言ってもいいほどだ

実際、サードインパクト後、彼はその功績を認められ、一尉に昇格している

尤も、普段の彼はギター片手にロックの素晴らしさを語り継ぐ一種の伝道師と化し、NERV内のロック信者を増やし続けているのだが・・・

閑話休題

マユミを連れた青葉はNERVの大食堂に歩を進めた

丁度昼時という事もあり、シン達の機嫌を損ね、即時のA−801発令に踏み切られては困るという冬月が言い出した面会場所だ

個室と違って一般職員達も食事をしているのだが、面会するには申し分ない場所である

監視カメラも盗聴器も確りとセットされているのだから

青葉は自分と同じように見張り役を仰せつかった保安諜報部の黒服をチラリと見つつ溜息を一つついた

「(俺のランチタイムは無し・・・・・か。)」

丁度切りの良い所まで仕事を終えたので、日向マコトと伊吹マヤのいつもの三人で昼食を取ろうとしたところで与えられたのがこの任務だ

どうせなら自分ではなく、目の前の黒服同様、他の保安諜報部員を引っ張ってきて欲しかったところである

公務員は辛いなぁ、と内心愚痴りつつ、隣のテーブルでさも旨そうに昼食を取っている日向とマヤを見やる

「(いかん、本格的に腹が減ってきた・・・)」

今にも鳴りそうな腹を左手で押さえ、再び溜息をつく

「君が、山岸マユミさんだね?」

横合いからかけられた男の声で、空腹で緩み始めていた気を意志の力で引き締め、青葉は声の主を見やった

「初めまして。俺は十六夜シン、なんでも屋だ。こっちが助手の霧島マナ。もう一人は水狩サキ。君のお父さんの依頼で、今此処にいる。」

「は、はじめまして・・・や、山岸・・・マユミです。」

弱弱しい隣に座る少女の声に、青葉は居た堪れない罪悪感を感じた

マユミにとってNERVで会う大人の全てが安心できない相手であるのは、少し考えればわかることである

そのような状況で、何もできない自分が歯痒い

だが、自分には自分のできる限界があり、自分のすべき事もわきまえている青葉は、マユミに対しては何もしてあげられないというのが現実だ

だからこそ、歯痒い

判っているからこそ、悔しい

NERVにおいて一般職員は勿論、ある域の仕官に至るまで、チルドレンへの接触は現金とされているのだ

それはチルドレンに孤独を感じさせるためであり、その孤独が拒絶へと転じて、ATフィールドを増強させるためである

非人道的である事は明らかであり、子供の精神に対して酷であることは間違いない

似たような処置をとられてきた使徒大戦当時のチルドレンの様子から、その過酷さはうかがい知れる

人との触れ合いを知らぬ、ファーストチルドレン

孤独から来る依存により、支えを失ったことに寄る精神崩壊へまで至ったセカンドチルドレン

孤独、絶望、拒絶、あらゆる負によりサードインパクトの引き金となったサードチルドレン

サードインパクト後の混乱に伴い、未だ行方不明であるサードを思い出し、青葉は顔を顰める

その心中を誰にも知らせず、彼は思い悩んでいる

「あ、あの・・・・お父さんの依頼って、どういう事・・・ですか?」

「ああ。君が不当な手段でNERVに拘束され、束縛されているという事で、俺たちに君の『解放』という依頼が来たのさ。国連と日本政府にも話しは通してあって、既に承認されている。今、NERVの上層部が話し合って入るが、ほぼ間違いなく君は解放される。」

その言葉を聴いたマユミの表情が驚きに染まり、次いで歓喜に打ち震えた

NERVにおいては、誰も見たことがないマユミの表情であった

「じゃ、じゃぁ・・・家に帰れるんですか!?」

「ああ、帰れる。安心するといい。俺たちが君を家まで送り届けるから。」

そういって、シンは優しく微笑む

「あ、ありがとう・・・・ございます・・・。」

嬉しさのあまりか、マユミの端整な目尻から涙がこぼれ始める

「俺たちは行動しただけだ。礼なら君のお父さんに言うといい。」

依頼が合ったこそ、動いたのだとシンは言い、それでもどこか照れくさそうに頬をかいた

「ところで・・・」

シンの視線が青葉に向けられた

何事かと、青葉は身構えてしまったが、続いた言葉の内容は何気ない一言だった

「食堂は禁煙?」

「は?」

「いや、タバコを吸おうと思うんだが、禁煙・・・・だよな、やっぱり。」

常識的に考えて、食事どころは禁煙である

ファミレスなどは禁煙席と喫煙席で別れてはいるが、確りと喫煙席からの煙が喫煙席へと行かないように空調が整えられているものである

NERVの大食堂は、喫煙席など無く禁煙である

「禁煙ですが、喫煙所へ?」

「ああ、案内してもらえると助かるね。マナ、同い年なんだからお前のほうが話しは会うだろう?」

マユミの相手をしていてくれ、とマナに言うシン

「はい。シンさんよりは話しは合うと思いますよ。」

「じゃ、頼むぞ。・・・・・・・サキの面倒もな。」

「え?」

シンの言葉で隣のサキを見やるマナ

いつの間に注文したのか、サキの座る席にはNERV大食堂一番の人気メニュー、日替わりランチセット(ご飯おかわり自由)が置かれていた

サキの突然の奇行に頬を引きつらせつつ、マナは喫煙所へ青葉に案内されていくシンの後姿を見送った









































喫煙所、といっても、それは何処にでもあるような自動販売機と長椅子の置いてあるスペースだった

トイレもすぐ近くにあることから、職員が仕事の合間の息抜きに使うためのものだという事がわかる

タバコをくわえ、馴れた手つきで火をつけたシンは、ゆっくりと紫煙を吐き出す

隣に立つ青葉は、自販機で購入した缶コーヒーを飲んでいる

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

二人ともリラックスしているのか、言葉を交わすことはない

だが、他に休憩する職員がいなくなったその時

「・・・・・・・・『ヴォイス』。」

「・・・・・・・・『サウンド』。」

青葉の発した言葉に、シンがタバコを咥えたまま答える

タバコの灰を灰皿に落とし、シンは言葉をつむぐ

「盗聴器は?」

「ない。監視カメラも死角になっている」

この休憩スペースは使徒大戦当時、加持が何かと聞かれては困る話をミサトとしていた場である

彼がこの場を使っていたことからも、その話を聞き、その様子を見る『耳』と『目』がないことがわかる

青葉は無言で情報ディスクをシンへと渡す

「これは?」

「NERVが今まで行ってきた非合法な行動を入れてある。法廷で役に立つ。」

「この接触はお互いの確認だけではなかったのか?」

「ついで、だ。俺もNERVは嫌いでね。」

「そうか。」

受け取ったディスクを懐にしまい、シンは再びタバコを吸い、紫煙を吐き出す

「解放されるチルドレンは彼女だけか?」

「いや、A−801が発令される。どうせ全員解放だ。その後のみの振り方は知らんがね。」

「そうか、それはよかった。」

「スパイにしてはお優しいな、青葉シゲル。」

「元々子供好きなんでね。」

そう、青葉シゲル、彼こそNERVに潜入していた国連の送り込んだ諜報員なのである

それはNERVが設立された頃にまで遡る

NERVが国連軍から金にものを効かせて引抜を行った際、当然その行為が気に食わないものは大勢いた

何しろ、特務権限を盾に情報を公開しない連中だ

そこで、数名の諜報員を送り込んだわけだが、本物の青葉シゲルと入れ替わり、顔を変え名を変えてNERVで一尉にまで上り詰めたのが、彼なのである

彼の本名は青葉シゲルではなく、元々のその名の主は地域紛争の鎮圧に際に戦死している

家族がおらず、身寄りもいなかったことから、諜報員の偽情報の戸籍主として選ばれたのが本物の青葉シゲルなのである

態々人一人の戸籍をでっち上げるより、実際に存在する、または存在"した"人物の情報を使った方が、露見しにくいのである

その点で言えば、"青葉シゲル"の任務は大成功だったといえるだろう

何しろ、NERV内で出世までして、MAGIへのアクセス権を持つオペレーターなのだから

NERVの要の一つともいえる情報の塊、第七世代型スーパーコンピューターMAGI

NERVの中枢まで潜り込めるのだ

三足の草鞋を履いていた加持とは違い、国連のみに本籍を置く超一流とも言うべき諜報員

それが、彼の本当の姿だ

ギター片手にロックを語る伝道師も、彼の本当の姿かどうかは定かではないが・・・・・やっぱり本当の姿かもしれない

「さて、そろそろ戻るか。」

タバコの火を消し、吸殻を捨てシンは立ち上がる

黒服の監視を受け、サキのお守りをした上でマユミの話し相手をするのは、マナには酷だろうと思ったのだ









































「国連との連絡は?」

「着きません。日本政府も同様です。」

「潜ませている諜報員ともかね?」

「はい。おそらくは既に排除されているかと。」

「彼らは本気のようだな。」

「あのなんでも屋の情報は?」

「民間のそれも裏社会のものですが、いくつか手に入りました。」

「どのようなものだね?」

会議室にいる者の視線を一身に集め、リツコは手元のパネルを操作した

「『なんでも屋 十六夜』が名を知られるようになったのは半年以上前、なんでも屋設立後一突きした頃です。」

画面には数名の顔写真

政府との会合や会議に出席している冬月やゲンドウにはそれが誰物かはすぐにわかった

そして、少しでもニュースを見ていようものなら誰にでもわかる人物

「・・・・・・・・・・・・誰?」

場違いというか、常識外れのような声を出したのは、やはり葛城ミサト

何とも期待を裏切らない人物である

「警視庁総監よ。彼の娘が誘拐された事でその顔は全国に知れ渡っているわ。ニュース、見てないの?」

「た、たはは・・・・・。」

僅か半年前に起こった大事件であり、年末には『今年の大事件』として取り上げられることからも、その事件自体が知れ渡っているのは明らかである

「総監となんでも屋の間にどのようなコネがあったのかはいまだに不明ですが、人質と身代金の受け渡しの際、なんでも屋が現金の運搬を行っています。」

実際のところは、以前に浮気調査の依頼が合って知り合ったのだが、そこまではNERVは知らなかったし、そんな事は総監だって回りに知られたくない

ちなみに、浮気の事実は無かった

「なんでも屋は現金を人質であった娘に渡しています。そして、公表されてはいませんが、娘の依頼を受けて、犯人グループを皆殺しにしているようです。」

「どういうことかね?」

何故態々身代金を娘に渡し、その後娘の依頼で皆殺しにしているのか

「どうやら犯人グループは人質に性的暴行を加えたようです。」

「復讐、という事か・・・・・。」

「はい。犯人グループは、逮捕後余罪とあわせて死刑、という事になっています。」

「そうか・・・・・。他に情報は。」

冬月に問われて、リツコは再び手元のパネルを操作する

「4ヶ月前、新沖縄の米軍基地占拠事件です。」

セカンドインパクト後の海水面の上昇で、沖縄は一度海の底に沈んでいる

その後、その上に建設された人工島、そっれが新沖縄本島である

他にも、日本政府は多くの島を人工島として再建しているが、表向きその理由は島民の希望により、である

だが、本当のところは周知の事実であるが、経済水域の確保のためである

沖ノ鳥島や尖閣諸島などは経済水域確保には非常に重要な意味を成しているのである

水没しては、その経済水域を失ってしまう

「確か、人民解放軍を名乗るテロ集団が占拠した事件だね。」

インパクト前から何かと日本政府と経済水域や島の所有問題で争っている中国

その一部の過激派が、新沖縄の存在を認めないとして、米軍基地を占拠したのだ

米軍基地にいたはずの米兵達は、サードインパクト後の混乱により発生した地域紛争鎮圧のためで向いており、不在の隙を突かれたのである

「あれは米軍の特殊部隊と戦自の合同作戦で解決したのではなかったのかね?」

「確かに両軍は作戦に参加しています。ですが、幾つかの民間企業、傭兵派遣会社などが参加しているのも事実であり、その中で尤も活躍したのが『なんでも屋 十六夜』のようです。」

モニターに映像が映し出される

「基地内の監視カメラがその戦闘の様子を捕らえています。」

モニターの中に、一人の青年と、それにつき従うように一歩下がって経つ女性の姿が映し出された

青年は勿論シンであり、彼らの知るところだったが、彼らの知らぬ女性は勿論メティスであった





















『ハッ!ハハハハハハハッーーー!!!』

けたたましい哄笑と共に、シンは無機質な通路を駆け、次々と敵をその手に持つ二丁の拳銃で撃ち殺していく

その後をぴったりと追従するメティスは、正確無比の射撃で一人一人確実に敵を減らしていく

『シン。心音、脈拍共に平常ではありません。』

『クッ!フフッ!ハハハハ!!俺にもわからんさ!!妙にハイテンションでなぁ!!』

弾丸を撃ちつくした銃を投げ捨て、敵に掴みかかるや否や、その首をへし折る

『アドレナリン及び、エンドルフィン等の脳内麻薬が精製されているものと推測します。』

『脳内麻薬ねぇ!副作用は!?』

敵の顔を掴んだその手を壁に叩きつける

グチャリと柘榴の様に頭部を潰す

『痛みの麻痺による、負傷の程度把握の不正確さです。出血多量による失血死も予測されます。』

タタタン、と三点射したメティスは、敵の両目と眉間を打ち抜く

『このハイな原因は!?』

『・・・・・今宵は満月です。』

『満月ゥ?』

『月の魔力は人を狂わせるといいます。満月ならなおさら、です。』

『ハッ!アハハハハハハハハハハ!!そりゃぁいい!サイコーだ!!』

床を蹴り、壁を蹴り、敵に飛び掛る

天地逆さの状態で飛び掛かり、首にその手を巻きつけ、勢いをそのまま首へと流す

ゴキュリという鈍い音と共に、敵は冷たい床に沈む

その両隣にいた男達が慌てて銃を向けるが、遅い

ヒュン、という風の切る音と共に、二人の男の喉元がぱっくりと裂け、血が吹き出る

赤く濡れた爪をペロリと舐め、シンは嗤う

戦闘に酔い、殺しに酔い、満月に酔う

シンの異能、『餓狼』へと至る狂気がそこにはあった

「な、なんなのよ・・・・・これは・・・・・」

ミサトが喘ぐ様に言葉を漏らす

圧倒的だ、圧倒的過ぎた

シンが相手にしているのはそこいらのチンピラではない

人数が少なかったとは言え、鍛え抜かれた米兵を殺し、軍基地を占拠して見せたプロの集団なのだ

それすらも、虫けらを踏み潰すが如く、雑魚を噛み砕くが如く粉砕してのける男

十六夜シン

それが、今NERV本部の中にいる

それだけで、恐ろしさに冷や汗が背中を伝う

「それ以後、彼につけられた二つ名は数知れずです。。【フェンリル】、【黒狼】、【黒爪】、【切り裂き魔】、【THE BEAST】、【瞬殺者】、【Lightning Wolf】。この事件後に米軍では彼のことを【ダブルファング】と呼んでいるそうです。」

「・・・・・・・・・・・空恐ろしいものだ。肌が粟立つよ。」

狂気の獣、魔狼フェンリル

獣が、いつ暴れ出すかはわからない











To be continued...


(あとがき)

ご無沙汰してます、麒麟です
Capriccio、第八曲をお送りしました。
八話目ですね。
遅すぎですね、すいません。
ついにマユミが登場しました。怯えて泣いて喜んだだけですけど・・・。
以前から活躍させたいといっていたのは青葉です。本名青葉じゃないけど。
彼に日の目を当てるのが楽しみでした。
まぁた、メティスは出番無く・・・・・。
ちょっと元少年兵達には出番を与えてみましたが、いかがでしたでしょうか。
あぁ、なんにしろ遅すぎですね。
前回の投稿から約2ヶ月?遅っ。
正直、年末は例ので投稿は控えようと思っていたのですが、年始は年始で忙しすぎでした。
郵便局でバイトとかしてましたし。
大学が始まったら始まったで、そりゃぁもう、忙しい忙しい。
レポートと講義に終われる日々。
あぁ、ダラダラとなに書いてるんでしょう。
取り敢えず、まだ戦闘にはいけませんでした。残念!
感想もらえると凄く嬉しいです。(ちなみに掲示板よりメールの方が執筆スピードがアップします。戯言ですが。)
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