Capriccio

第十曲 〜黒狼と紫苑、そして「出撃する戦士達」〜

presented by 麒麟様


 

 

 

 

 

 

無駄に広い司令室

出入り口であるドアから総司令六分儀ゲンドウの座る執務机までは一直線

床と天井に描かれたセフィロトの樹

王国マルクトより始まりて、ゲンドウの座す王冠ケテルへと至る

それは、自らが人の王国より出立し、基盤イェソド栄光ホド勝利ネツァフティフェレト神の力ゲブラー慈悲ケセド理解ビナー知恵コクマを経て王冠を手にし、神と結びついたかとでも言うかの様でもあった

もし万が一でもそうならば、よほどの自信家、よほどの夢想家、よほどの自己崇拝者である

自らが王冠の位置、つまりは神が座す王国に座すならば、チルドレンはそれぞれのセフィロト、十の基礎を守護する天使だとでも言うのだろうか

なんと言う笑い話だ

NERVは使徒と戦った組織だ

神の使徒、天使を相手取り、その全てを塵殺、滅殺してきた神の業敵ではないか

そのNERVが神と共にあり、天使を抱えているとは、何たる笑い話か

唇の端を持ち上げて、シンは声無く笑う

全てのセフィロトには守護天使がいるが、ゲンドウの座すケテルにはどんな天使がいると言うのか

自らが天使と呼べるほどの力を持っているというのか

それとも、天使を抱えていることが力だとでも言い張るのか

白い歯を見せ、獰猛に笑う

楽しみだ、実に楽しみだ

その力を見てみたい、存分に甚振ってみたい

「(ああ、でもな、そうか、そうだったな。)」

王冠を守護する天使の名はメタトロン

今シンのいる王国を守護する天使の名はサンダルフォン、あるいは"メタトロン"

メタトロンが二つのセフィロトを守護しているのか

「(ああ、つまり…)」

メタトロンは王国を守護する故に王冠を守れない王国を守護する故に王冠を守れない(・・・・・・・・・・・・・・・・、そういう事か

空っぽの玉座で、身を守るすべもない男

それがこの六分儀ゲンドウという男なのか、そう思い、ついつい納得する

だが、無防備でか弱い男を甚振るのはつまらない

普段のシンならきっとそう思っただろう

だが、今のシンは平常ではない

染み出す、溢れ出す狂気に爆発寸前なのだ

無防備? か弱い? 応よ、望むところだ

純粋なる狂気ゆえに、一切合財の仲間外れはしないのだ

例外なく、必殺

シンは国連から六分儀ゲンドウを捉える様にも言われている

だが、それを正確に言うのなら"可能ならば、捕縛"である

可能? そんなわけがない、不可能だ

この果て無き殺戮の欲求は、六分儀ゲンドウを殺したくてウズウズしているのだ

如何して、如何して我慢できようか

早く早く早くNOと言え

早く早く早く要求を拒否するが良い

早く早く早くこの義務という枷を外させてくれ

今やシンの狂気を抑えるのは、仕事の義務感だけだ

ただでさえ、雑魚とは言え大勢の黒服が左右に立ち並んでいるのだ

噛み応えのない、切り裂き害の無い獲物だが、肉は肉、獲物は獲物だ

鼻先に血をふんだんに詰め込んだ皮袋をつるされて、もはや我慢も限界だ

早く早く早く

自然とシンの歩みも速くなる

早く早く早く

ゲンドウの目前で立ち止まり、獣の瞳でねめつける

早く早く早く

答えを、声を聞きたくて、口早に急かしてみる

「それで、どうなんだ。山岸マユミを解放するのかしないのか。A−801を発令するのかしないのか。答えを出せ。答えを、答えを出せよ、早く出せ。速く早く速く早く速く答えを出せっ!」

その端から見ても異常なシンの様子に、黒服の中には一歩後ずさるものまでいた

「断る。」

表情を変えることなく、怯えた様子を――少なくとも表面的には――感じさせず、ゲンドウは言ってのけた

「(嗚呼、待っていた。待っていたぞ、その声その言葉。"要求は、拒否された"。)」

押さえの効きそうにない思考の片隅で、ひっそりと思い浮かべる

これで報告の義務は果された・・・・・・・・・・

眼に見えぬラインで繋がった【魔法使い】ならば、これで十分だ

携帯も、無線機も必要ない

たったこれだけで、【魔法使い】ユイは政府にA−801の発令を求める連絡を入れることが出来るのだ









































潜伏場所セーフハウスでチョコレートをロゥルと共に食べていたユイは、丁度ゲンドウが拒否した頃と時を同じくして眉をひそめた

「ロゥルちゃん、潜入ダイブして。二人は各班に連絡。私は政府に連絡するわ。」

笑顔でチョコレートを食べていたユイとは一変して、真剣な表情

一瞬呆気に取られたラルであったが、すぐさま爆睡中のA・Dを蹴り起し、ゼルへと連絡を入れる

ロゥルは専用の端末へと向かい、椅子に座る

携帯を取り出し、政府へと連絡を入れるユイ

何故彼女が、要求が拒否されたことを知りえたのか

答えは簡単、彼女の能力である

魂の絆の糸soul line

それがユイのLevelUの能力だ

自身と他者の間に、眼に見えぬラインを引き、一方的に相手の情報を得る、それが【soul line】の能力だ

この力で相手の身体状況を把握し、闇医者の真似事もしている

だが、彼女を【魔法使い】、【奇術師】、【極東の魔女】と言わしめているのはそのLevelVにこそあるのだが、此処では割愛させていただこう

特異能力自体あまり研究されていない事から、その眼に見えぬラインがどのような物なのかは定かではない

だが、もしユイが正直に能力の正体を明かすなら、きっとこう言うだろう

『超極細のATFによるバイパス』

相手に気づかれすらせず、その魂と自分の魂を結ぶのだ

しかも情報を得られるのは一方的で、ユイだけだ

さらには、その得られる情報は"本人が知らぬ事"まで含まれる

ラインを繋ぐのは脳にではない

魂、心、精神にラインを繋ぐことによって、その対象の全てを知ることが出来るのだ

だから、だからこそユイは知っていた

脳が記憶を失おうが、魂は記憶を失わない

十六夜シンが記憶を失った碇シンジであることを

十六夜シンが血を分けた息子である事を知っていた

【魔法使い】、いや碇ユイは知ったのだ

愛する息子が己の研究のせいで如何なる影響を受けたのかを

どんなに寂しい幼年期を送ったのかを、どんなに苦しい少年期を送ったのかを

初めて十六夜シンと名乗る青年とであった時

ラインを繋ぎ、その記憶を読み取った後

彼女は逃げるように家に飛びかえり、自室で大声で泣いたのだ

恥も外聞も、近所の迷惑も知ったことではない

なんという事を、なんて酷い仕打ちをしてしまったのだ

泣いて、泣き疲れて寝て、起きてまた泣いて

落ち着いて、シンに会いたくなった

力の限り抱きしめて、母親だと名乗り出たかった

今まで出来なかったこと、食事を作り、わがままを聞いて、愛情を注いであげたかった

自室のドアノブに手をかけて、ゾクリとした

何を、何を言っているのだ

そんなことをする資格が、母親を名乗り出る資格が自分にあるとでも言うのか

息子が生まれたばかりの頃、赤ん坊だった頃、自分は何をした、何をしてしまった

子供より、仕事を、研究を優先させたではないか

愛らしい幼年期に、自分は何をした、何をしてしまった

自らの消える様を目の前で見せ付けて、EVAの中に消えてしまったではないか

人殺しの息子だといじめられた頃、自分は何をした、何をしてしまった

何もせず、EVAの中で呑気に寝ていたではないか

苦しみつつ命をかけて戦っていた頃、自分は何をした、何をしてしまった

起きるのは時々だけ、結局はサードインパクトで、息子は記憶を失ってしまったではないか

今更何が母親だ、そんなことを言って良いと思っているのか

そんなことが、そのようなことが許されるとでも思っているのか

床に崩れ落ち、また泣いた

ドアノブを握っていた手が、力なく冷たい床に落ちる

そんな幸せなど、もうあってはならないのだ

幸いにも、息子には共に生きる者がいる

彼女と幸せなら、それで良い

自身の幸せなど、もう要らない

だから、息子、彼に幸せを

せめて彼が幸せになれるよう、幸せに生きられるよう手助けを

良き仲間を、生き延びる為の力を

それがユイの唯一の願い

願いであり、誓いである









































連絡を受け、【殲滅屋】ゼル・ハワードは後部座席の少女達に一声かけ、車から降りた

路肩に止めたあった車、目の前にはNERV保安部の地上詰め所

鋼鉄製のナックルガードをガチンと打ち鳴らし、詰め所を睨み据える

後ろでは、後部座席から降りた少女達が、アサルトライフルを手にゼルの合図を待っている

「突入。」

合図は短く簡潔に

道路の両方を警戒する者、ゼルに続く者

事前の打ち合わせどおり、事を進める

急に出てきた物騒な連中に、一般人は慌てふためいているが、そのような事は気に留める必要もない

目当ての詰め所は、雑居ビルのような建物だった

四階建てで、一階から四階まで全部がNERVのものだ

ゼルは扉には向かわず、少しずれた壁に走りより、その勢いのまま拳を突き出した

ドンっ!!

体重と慣性を載せた拳が、減り込む様にコンクリートの壁を打ち壊す

円形状に皹が入り、それが大きくなる前に、二撃目

ドゴンッ!!

一撃目の拳の跡に正確に打ち込まれた二撃目

瞬く間に、拡がる皹

音と衝撃に、何事かと窓から顔を出した保安部員は、不幸にも少女達の銃撃に遭い沈黙した

銃弾は非殺傷性のゴム弾だが、数人で連射されれば一溜まりもない

倒れた一人に、事態の異常性を悟り、ドアから次々と銃を手に保安部員が駆け出してくる

だが、狭い出入り口から出てくるようでは、いい的でしかない

少女達の集中砲火を喰らい、出てきた順に倒れ附した

それを他所に、三撃目、四撃目と連撃を続けているゼル

そしてついに、その時は来た

支えのバランスが崩れたビルは、その自重で一階を押し潰し、その勢いで二階を押し潰し、ようやく止まった

なんと四階建ての雑居ビルが二階建てになってしまったではないか

少女達に周りの警戒を任せ、ゼルは一人颯爽とビル内に踊りこむ

銃を向けてくる転んでいた保安部が引き金を引く前に、一撃

お手本のような右ストレートが保安部員の鼻っ面を抉り、次の瞬間、頭部が風船のように爆ぜた

肉塊となった保安部員の胴体が倒れる前に蹴りつける

別に意味は無い、邪魔だっただけだ

吹き飛ばされた死体は壁に叩きつけられ、破裂するように潰れて落ちた

次いでドアを開けて出てきた数人も、それぞれ一発ずつで骸と化す

ゼルの能力は、白兵戦においてはシンをも上回る

連なる力の鎖Vector Order

ゼルのLevelUの能力は、あらゆる力、その方向を操作する

力のベクトルを自由自在に操作し、殲滅屋の名に相応しい戦闘を見せ付けるのだ

人の身体の動きはとても複雑であり、殴ると言う動作を行うにも、複雑な力のベクトルの向きが絡み合っている

殴った時の接点以外へと向けられた余分な力を絡めとり、一点集中にして弾き出す事が、ゼルには可能なのだ

さらに言えば、向けられた攻撃の力のベクトルをも操作する事も可能である

実際、先程からゼルは数発の弾丸をその身に受けている

その衝撃のベクトルを操作して、身体へのダメージを無効化し、攻撃時のダメージへと変化させているのである

先程のビルを殴っていたのも同じである

平面を殴れば、否応にも衝撃は拡散する

地面に接しているのならばなおさらではあるが、彼はそれを許さない

一点集中、極限破壊

それが彼の能力なのである

ただし、ダメージを受けた際の衝撃のベクトルは、すぐに外部へ吐き出さねばいけない所が難点と言える

尤も、彼の場合はそれを足の裏から放出することで解決しているのだが

足の裏から放出する事で、驚異的な瞬発力を生み出し、対峙している相手から見れば、さながら瞬間移動のようにも見えるのである

さらに言うならば、その弱点すら彼は己のLevelVで克服しているのだ

それでも、このような雑魚共相手には使う気にはならないようだ

圧倒的な破壊力を持って、保安部員達をビルごと殲滅し、彼は少女達に告げた

「制圧、完了。次に行くぞ。」

周りの野次馬など知らん顔で通り過ぎ、車の運転席へと乗り込んだ

割り当てられた保安部事務所は一番多く、この後三つのビルを回らなければいけないのだ

休んでいる暇も無いのだが、休む必要も無い易々さが、逆にストレスとなっていく

もっと、もっと歯応えのある敵はいないのか

奥歯を噛み鳴らし、ゼルは乱暴にハンドルをきった









































ゼルがビルに踏み込んだ同じ頃

メティスもまたNERVの施設に乗り込んでいた

そこは、第三新東京市内にあるNERVの通信施設であった

NERVの情報は、この施設を通して第三新東京市から外部へと発信される

つまり、この施設さえ破壊すれば、NERVの情報を物理的に遮断することになるのである

この作業は、無論戦術的なものではあるのだが、同時に国連や日本政府からの依頼でもある

要するに、握られている不正や弱味を世界中にばら撒かれたくないからだ

メンバーの中には、そんなくだらない仕事は請けたくないと言う者もいた

自らの行動が招いた結果であり、今まで得をしてきたのだから、自業自得だろうと言う意見だ

だが、そこは【なんでも屋】の名の通り、仕事はなんでもこなすのだ

仕事の内容など選り好みはしないし、自分の好き嫌いも仕事には関係ない

そういうわけで、この施設破壊の担当者はメティスと相成ったわけである

入り口の守衛を問答無用で射殺し、施設内へと踏み込んだ

無論、子供達の持つ銃器の弾丸はゴム弾ではあるが、メティスは実弾装備だ

【BOX】内から取り出した【IMIウージー】から銃弾をばら撒いて、警備員達を射殺する

イスラエルを代表する短機関銃が、軽快な音を立て、薬莢をばら撒いていく

口径は9mm、総弾数は32発

シンとは違い、武器を使い捨てにするメティスは、性能よりは弾数を選ぶ

【BOX】は、中に入れる物の大きさや重さではなく、数によって疲労が変わるからだ

例えば、ビー玉一個とバレーボール一個を【BOX】に入れたとしよう

大きさも重さも全く違う二つではあるが、能力による精神力、肉体疲労の度合いは全くの一緒なのである

中に何個入れたかが、疲労の原因となるのであるから、弾数の少ないデリンジャーやリボルバーを入れるより、弾数の多いものを入れたほうが得策なのである

ちなみに、弾装と銃器本体を別々に入れれば二個とカウントされるが、装填して入れれば一個としてカウントされるのだ

と言うわけで、撃ち終わったIMIウージーは新しい弾装を装填されることも無く、床に打ち捨てられた

後ろから着いてくる少年達に踏みつけられ、連射で熱くなった銃身が歪んでいく

哀れIMIウージー、たった一度の使用で役目を終え、燃えないゴミへ早代わり

ドアを開けて出てくる黒服を、まるでゲームセンターの射撃ゲームのように撃ち殺す

次の使用武器は【USSR AK47】

三大突撃銃の一つであり、製作者の名前を取って【カラシニコフ】と呼ばれることもある

4kgを超す突撃銃を、片手で扱って見せたメティスは、入り口へ近づくや否や中に手榴弾を投げ込んだ

扉を閉めて数秒後、爆発音

扉を蹴り開け、カラシニコフを乱射した

爆発を物陰でしのいでいた黒服も、乱射を受けて溜まらず絶命した

メティスは殺しを楽しいと思ったことは無い

シンと同じ狂気を感じられないのは、どこか物寂しいものだが、それはそれ、性分なのだから仕方ないと諦めた

仕方ないという言葉は嫌いだが、諦めるよりほかに方法は無い

メティスにとって殺しはあくまでも仕事の一巻であり、作業でしかない

銃を撃てば撃つほど、気分は冷めていく

表情は無く、無駄口も無い

ゲームをしている様な錯覚を覚えつつ、反動を腕、肩、骨で受け止め銃を撃つ

30発全てを撃ち終えて、メティスはカラシニコフを捨てて次の銃を取る

血の臭いと硝煙の臭いが混じる部屋の中

撃ち捨てられたカラシニコフが床にぶつかり、乾いた音を奏でた

なんて、くだらない仕事なんだろう

あまりにも簡単な仕事に、メティスは内心吐き捨てた









































御鎚楓と椿の双子姉妹は、布に包まれた武器を手に、保安部詰め所へと乗り込んだ

時はゼルとメティス達よりほんの僅かに遅れてだ

連絡者が二人で、連絡を受けるの班が三つなのだから、一つの班が僅かに遅れるのは仕方が無い事だ

ともあれ、静かなビルに似合わぬ袴姿の美少女二人

各々武器から布を取り、悠然と構え、突撃開始

楓は日本刀、椿は薙刀だ

その物騒な持ち物に、驚いた黒服が銃を向けようとするが、遅い

一足飛びで接近した楓が、一閃

見事なまでの居合い抜きで、黒服の喉下を切り裂いた

例えに本当と言えども、何度も何度も骨を切り裂けば折れてしまう

そして、楓の手にする日本刀、備前景光、鎌倉刀の一品である

本来なら国宝級の業物なのであるが、数代前の御鎚家当主が手に入れていたらしい

この刀を受け継ぐものは当主の座に着くのだから、詰まる所は楓は次期当主

尤も、師匠の祖母には小娘扱いされ、その技でも全く敵わず、頭が上がらないのではあるが

ちなみに双子である二人のどちらかが当主となるかを決めたのは、単純に楓が長女、姉であり椿が次女、妹であるからだ

刀はすぐに刃毀れし、三、四人斬ったら駄目になると思われている節がある

目釘が折れやすい、と言う理由もあるのだが、それは間違いだ

安物の刀を力任せに振るうから、折れやすいのだ

達人ともなれば、同じ刀で何人斬っても刃毀れ一つしないし、血膏すらつかないらしい

楓は達人とまでは行かないが、人体の斬り方を熟知していた

人体の何処が斬りやすく、死に至りやすいかを知っていた

骨を切らずに喉、気管と動脈を切り裂いた

肋骨の隙間から肺を突き刺し、腹を裂いて腹圧で内臓が飛び出した

太腿の肉を切り裂いて、痛みによる足止めをし、股間を切り裂き動きを止める

現代に多い武術と言うにはおこがましい様な踊りではない

殺すために存在し、殺す覚悟を持つ者だけが身につける、殺しの業

それが、それこそが飛び散る血飛沫と合間って、冷たい美しさを醸し出す死の舞いなのだ

刀の変わりに扇子を持っても大丈夫なような座敷芸とはワケが違う

殺し殺される戦場にのみ垣間見える、死線の上を歩む舞いなのだ

その点を言えば、椿の舞は別種の美しさを醸し出す

突き、払い、石突で打ち倒す

薙刀をふるって骨ごと断つ

姉の持つ家宝程ではないが、祖母の調達してくれた業物は是非もなし

薙ぎ払いで腹を裂き、石突による突きで胸骨を叩き割り心臓へ直接打撃

銃口を向ける手首を切り落とし、返す石突で額を割る

姉の楓の様に敵の懐に飛び込みはしない

自らの身が危ぶまれるような危険は冒さない

必ず自分の有利な間合いに立ち、相手を必殺

拳銃を相手取っての一方的な殺戮は、楓の舞とは別種のもの

一方的に相手を殺す、覇者の舞

第三新東京市に、鬼女姉妹が舞い踊る









































ロゥル・マッギフォーンは外見年齢10歳の愛らしいお子様だ

チョコレートがあれば、これ以上の極楽は地上に無いとも言わんばかりの至福の笑みを見せる愛らしいお子様だ

ちなみに、チョコレートケーキの味には世界一煩いと自称していたりする

そんな彼女の能力は、【電脳潜行Electrical Diving】だ

自分の意識を瞬時にプログラム化させ、直接電脳の世界へと飛び込んでいく

鬱陶しいウィルスや、探知プログラムなんかは平手打ちで撃退!

機密っぽい情報をチョコレート(型の謎のプログラム)を片手に背中のリュックに強奪!

NERVの出入り口ゲートを一睨み(風の攻勢ウィルス)で封鎖!

監視カメラを破壊しようとして、シンの要請を思い出し、中止!

なにか三人集まって駄弁っている同じ顔の三人のオバサンMAGIに、愛犬(型の攻勢ウィルス)をけしかけて挑発!

どうも怒らせてしまったようなのでチョコレートを口に放り込んで遁走!

壁(風味の電子回路)の陰に隠れておばさんの攻撃をやり過ごし、再び攻撃!

【魔法使い】のアドバイスによって編み出した魔法少女ステッキ(っぽい謎のプログラム)を振って呪文を唱えるプログラムを構成

隕石(型の攻勢ウィルス)で若作りのオバサンCasper沈黙!

次いで雷(型の攻勢ウィルス)で白衣を着たオバサンMelchiorを攻撃!

だが雷(型の攻勢ウィルス)はマタニティドレス姿のオバサンBalthasarの張ったバリア(型の防壁プログラム)で阻止された

お返しとばかりに白衣を着たオバサンがロボット猫(型の対侵入者カウンターウィルス)を嗾ける

だが、そこは魔法少女(?)ロゥルちゃん

リュックの中から取り出した巨大な板チョコ(型の防壁プログラム)でロボット猫を通さない

二人と一人が睨み合い、微妙にホンワカした気分を醸し出す

と言うより、愛らしい少女を睨みつける二人のオバサンの目付きは本気であった

一人倒れ附す若作りのオバサンは哀れではあるが、化粧が崩れている

そこに謎の魔法使い(黒色ローブ着用)がコメント攻撃

「あら、ナオコさん。子供相手にホント大人気ないですよね。」

満面の笑顔での毒舌っぷりは、いっそ清々しいものである

ユイはそれが言いたかっただけなのか、すぐに顔の映ったウィンドウを消し、その場から去った

残されたのは怒り狂う二人のオバサンと、援護射撃(?)に勢いづく魔法少女(?)

ユイに代わって開いたウィンドウには、ロゥルがやっているのか、デフォルメされたA・Dの顔

「手伝うさかい、きばりぃや。」

はっきり言って、ロゥルとA・Dでは圧倒的にロゥルの方が上手である

哀れ大人のA・Dは援護のみ

電脳バトルは開始したばかりである









































抜き放った銃がゲンドウの額に向けられ、僅かに遅れて保安部員達がシンに銃口を向けた

引き金を引いていれば、既にゲンドウは死に、シンは次の行動に移っていただろう

それほど、保安部員達とシンとではスピードに差があった

「A−801発令と同時に、NERV本部を武力制圧する。」

言葉遣いは丁寧ではあるが、シンの表情からは狂気が溢れ出ている

先の言葉も要約すれば「さっさとくたばれ、クソ野郎。」になる

「………親に銃を向けると言うのか、シンジ。」

今更になって親面をするゲンドウに、シンは笑いを堪えきれず、けたたましく哄笑した

それでも腕は動かさず、銃口もゲンドウの額をポイントしたままと言うのは流石である

「クッ、フフフ、アハハハハハ。だ、だから、記憶喪失だっての、クフフ。アハハハハハハハハ。テメェの顔なんざ、知らねぇよ、老いぼれが。ククク、プハハハハハハハ。」

笑いながらも、ゲンドウたちが調べたであろう情報を言って見る

シンの後ろを見れば、サキもまた腹を抱えて笑い転げていた

「貴様……。」

歯軋りしシンを睨みつけるゲンドウの瞳には、憎しみの色が見て取れる

尤も、その似合いすぎるサングラスのおかげで、誰にもその色は見えなかったが

「ハハハハハハハ、可笑しい、可笑し過ぎる! 無様、無様すぎる。防弾ガラス越しでないとマトモに会話できないのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・? 臆病者は?」

銃を持つ右手はそのままに、左手で己とゲンドウの間に存在する見えない壁を叩いてみせる

NERV謹製のEVAの拳さえ遮る特殊硬質ガラスである

可笑しそうに、愉快そうに、楽しそうに何度も何度もガラスを叩く

保安部員の中には、その様が、その狂ったような姿がたまらなく恐ろしいと思い青褪めた者もいた

また、その姿が恐怖で狂ったのだと思い、幻想の優越感に浸る者もいた

「お前はサードチルドレンだ。NERVに従え。」

そんなゲンドウの台詞に、またもシンは大笑い

まるでお笑い番組でも見ているかのように笑い、笑いすぎて呼吸が苦しくなっているようだ

「俺は十六夜シン。なんでも屋経営。勝手に俺の生き方決めるなよ、クソ親父。」

皮肉を込めて、嫌味を込めて父と呼んで見た

知らないとは言え、意外と心がすっきりする

実は記憶を失う前は父親を恨んだり憎んだりしていたんではないだろうか、などとシンは考え、ガラスを爪で引っ掻く

溢れた狂気によって影響され、鋭く伸びた爪が耳障りな音を立て、ガラスに傷痕を残した

「ば、馬鹿な……。EVAの一撃にさえ耐える硬質ガラスだぞ……。」

冬月は呆然とし、信じていたものが崩れ落ちるような衝撃を受け、寂れた声を漏らした

銃弾でも傷付かず、爆薬やミサイルすら耐え得る特殊硬質ガラス

それが、たかが爪で傷つけられたのだ

だが、ATFを纏わぬEVAの拳に耐える硬質ガラスも、ATFを纏った爪の一撃は防げない

着いた傷痕は、爪による物ではなくATFによる断層だ

おおよそ這ったりではあるが、シンは恐怖を撒き散らすために、驚かせて甚振るためにやって見せたのだ

「あんたの前に、そこの雑魚を片付けよう。メインディッシュは前菜の後と相場は決まっている。」

次の瞬間、ゲンドウと冬月の目の前から、シンは消え去った

忽然と、煙のように消え去ったシンは、二人から向かって右側の保安部員の喉笛を、噛み千切っていた

口元に赤い血を滴らせ、楽しそうに腕を振るうと、喉笛を噛み千切られた男の頭部が首から千切れ飛び、隣の男の胸に当たった

あまりに高速で飛来した頭部は、避ける事も敵わず男の胸を陥没させた

そこからは、単純作業

一列に並んでいる男達を順々に、その右手の銃で撃ち殺す

直線に慣れんでいる男を手前から順に撃てば、次々と標的が出現することになる

シンの持つ愛銃は【IMIデザートイーグル.50AE】

1991年に発表された大口径マグナムピストルだ

ハンドキャノンとも呼ばれ、そのあまりの威力は撃った者が女子供ならば肩の骨が外れるほどだ

元々は熊などの狩猟用を目的として作られている事からも、その威力の程を窺い知れるだろう

デザートイーグルには他にも.357Magと.44Magと言う種類があるが、いずれも口径の事を指し、その威力は尋常ではない

一種、拳銃愛好者または男の憧れとも化しているこの銃は、はっきり言って使い手を選ぶ

それも.50AEともなれば、男であろうとマトモに撃てるものではない

だが、シンはそのハンドキャノンを軽々と片手で撃ってのけるのだ

例えシンが細身であろうと、獣の強靭且つ柔軟な筋肉が、その不可能を可能とする

轟音を喚き散らす一匹の獣を吼えさせて、その担い手たる獣もまた、哄笑により吼えていた

楽しい、本当に、愉しかった

【餓狼】に目覚めていらい、殆どの満月新月は性欲を満たす事で解消してきた

久方ぶりの狂気の露出に、シンの心は沸き立った

一人殺すごとに、精神が高ぶる

血が蒸発するように熱を帯び、肉が感動に打ち震える

シンは心と身体で、悦びを感じていた

ちなみに、シンがこの場に拳銃を持ち込んでいるのは、何も提出を求められなかったからではない

セカンドインパクト以降は、一般人であろうとも護身用に銃を持つのは常識となっていた

持っていないのは許可の降りない子供くらいであろう

商店街に堂々と販売店が存在している事すらある

当然、受付で銃器の提出を求められもした

シンは愛銃の一丁を提出したのだが、その後はボディーチェックも金属探知機もなかったのである

逆に拍子抜けであったほどだ

杜撰な管理体制が、NERV自身に牙を向いたわけだ

ちなみに、提出したシンのもう一丁の拳銃は【H&K MK23】愛称は【ソーコムピストル】だ

US SOCOM米国軍特殊部隊司令部の出した無茶苦茶な要求に、ドイツH&K社が答えて見せた一品である

口径は.45ACP、総弾数は12発+1であり、特殊部隊向けの大型自動拳銃である

尤も、マガジン脱着の煩雑さもあり、現場の使用者からは「ソーコムよりガバメントの方が良い」などという意見も出、評判は芳しくない

シンはマガジン脱着は気にならないようで、楽しげに使っている

尤も、提出したことからも判るように、さりとて優先して使うほどでもない、という事である

元々シンが気に入っているのは、そのフォルムであり"大型自動拳銃"という事である

シンは何よりも威力を優先する

小さい口径の物を使って、相手を殺しきれなければ、それだけ反撃を受ける機会が増えるからだ

シンが仕事用といっては大口径拳銃を買ってきてコレクションしているのは、此処だけの秘密だ

一度コレクションの一部をメティスに使い捨てにされ、大いに拗ねてしまった事がある事も、此処だけの秘密だ



閑話休題

シンが一列に並んでいた黒服たちを殺し終えた頃には、反対側の男達はサキに撃ち殺されていた

中にはゴム弾の装填されたマナの銃で撃たれ、悶絶している者もいたが、最終的にはサキに撃たれている

黒服が自分達に与えられている権限を歪んで解釈し、日頃何を行っているかを知っているからこそ、サキは撃ち殺した

伊達や酔狂で、破壊屋を名乗っているわけではない









































発令所でミサトが監視カメラに映るシン達の狂暴、または凶暴、強暴っぷりに喚き、地上の詰め所から次々と来る報告にてんてこ舞いになっている頃

リツコは自身の部屋で嬌声にも似た、歓喜の声を上げていた

シンの高い能力に悦びを露わにし、嬉々として情報データ収集に勤しんでいた

その凶状に、後ろに立つマヤは怯え立ちすくむのであった

尊敬と、恐怖とは別物だ

一種の境地へと至ったリツコを尊敬する以上に、その様子に怯えているのだ

オホホホホと言った笑い声の聞こえるリツコの部屋に、一人の来客が現れた

「お邪魔するッス。」

独特の体育会系の言葉遣い、青葉シゲルだ

ある時は副司令直属の部下、またある時は発令所メインオペレーターの一人

如かしてその実体は、国連の送り込んだ一流諜報員である

「あ、青葉君?」

マヤが助けを求める子羊のような視線を青葉に向けた

何度もはっきり言うが、リツコが怖いからだ

青葉の来客を気にも留めず、笑いながらキーを打ち続ける姿は、確かに怖い

「あ、一応俺は護衛ってことで。」

リツコの狂態を気にも留めず、マヤに片手を上げて答える

その気軽さは、まるで「宿題集めるよ〜」と呼びかけるクラス委員長の如し

「え? 護衛って……」

マヤは突如表れた言葉に疑問を隠せない

リツコは聞いているのかいないのか、未だ視線すら向けない

「いやね、実は俺って国連の方からのスパイなんだよ。」

「えっ、ス、スパイ!?」

とてもびっくりしました、と言いたげに、マヤは胸元に両手を寄せて目を見開く

「そう、スパイ。NERVに入る前から国連所属なんだよ。で、さっきなんでも屋の人から二人を護衛しろって言われてきたのさ。いやー、下っ端は辛いねぇ。」

「シンジ君から?」

気軽にぶっちゃける、青葉を他所に、マヤはマヤで別のポイントに驚いている

シンからの指示だと驚く前に、もっとスパイである事を驚くべきであるはずだ

何処かワンテンポずれた様なマヤの驚き方は、非常に彼女らしいといえるのだが、普通の感性からずれた物であるのは間違いない

ちなみに、青葉への指示は紙に書いた指示をさりげなく渡す事で伝えられていた

「え? シンジ君って?」

青葉からしてみれば、それはそれで初耳な事である

何しろシンのことは、事前連絡では作戦に参加する主力のなんでも屋、としか聞かされていない

マヤがかいつまんでシン=シンジである事を説明している間も、リツコは情報収集に励んでいた

科学者の鏡という姿でもあろう

「へー、世間って狭いもんだなぁ。」

青葉の感想はそれぐらいだった

自分自身スパイというある意味特殊な職業についている事もあるが、死んだはずの人間が実は生きていた、という事がありうる世界に身を置いているため、免疫があるのだ

大人しいと言うより臆病な少年が、狂暴ななんでも屋に変わっていようが、指して驚く事でもなかった

だが、流石の青葉も驚くべき事が、この部屋で起こった

椅子に座っているリツコの影が歪み、伸びたのだ

いち早くそれに気付いた青葉は、拳銃を抜き、光源を確かめる

光源は部屋の天井中央、壁に向けて設置されているモニターに向かっているため、リツコの影は壁に向かって伸びるはずだ

それにも拘らず、リツコの影は部屋の中央に向けて伸びている

行き成り銃を抜いた青葉に驚いているマヤを放っておいて、青葉は油断なく部屋の中、同時に部屋の外を警戒する

だが、状況は青葉の予想の斜め上を言う

影の中から・・・・・美女が姿を現したのだ

「キャッ!」

悲鳴を上げるマヤを他所に、青葉は即座に銃口を向けるが、その美女の顔がわかるや否や、銃口を天井に向けた

事前連絡であった協力者の顔だったからだ

「なに、何事?」

流石のリツコも、マヤの悲鳴に反応したのか振り向いて、沈黙した

ニコニコと微笑む美女の顔を見て、沈黙した

「あらリッちゃん、立派になったわねぇ。」

嬉しそうに笑って、リツコに手を振る美女、間違いなく、碇ユイであった

「い、碇…ユイ、博士?」

サードインパクト後発見され、一時NERVに保護されてはいたが、数日後にゲンドウに絶縁状を突きつけ――というか投げ付けて――NERVを去った女がそこにはいた

「驚かせないでくださいッス。」

「あら、ごめんなさいね。」

冷や汗を拭っている青葉に、軽く言葉を返すユイ

「ど、どうやって此処に?」

驚いているリツコの声は震えていた

当然だ、部屋の出口は青葉が立って塞いでいるし、ドアの開く音も聞こえなかった

リツコはユイの出現方を見ていないだけに、余計に疑問を持っていた

見ていても、それはそれで疑問だっただろうが

「【影渡り】って言う能力で来たのよ。あ、ちなみに【レェル・スフィア】って人のLevelUの能力よ。」

頬に片手を当て、ユイは説明した

これが、ユイのLevelVの能力、【魂の絆の力Soul Power】である

LevelUと同じ様に他者とのラインを繋ぐ能力であるが、得られるのは情報だけではない

相手の能力、格闘技能や射撃技能、家事技能や工作技能などを自分にインストールする能力なのだ

尤も、一度にインストールできるのは一つの能力だけであるが、それでも十分すぎる

なぜなら、異能もまた能力の一種であるからだ

シンの【餓狼】も、メティスの【BOX】も、ゼルの【連なる力の鎖Vector Order】も、ロゥルの【電脳潜行Electrical Diving】も写し取る事ができるのだ

その捉えきれぬ能力、時には炎、時には氷、時には獣化、時にはサポート系、多種多様な能力をその状況に応じて用いる姿ゆえに

彼女は【魔法使い】、【奇術師】、【極東の魔女】と呼ばれるのだ

ただ、彼女の能力ではLevelUまでしかインストールする事ができない

メティスやゼルのLevelVまでは、写し取る事ができないのである

さらに言えば、ラインは常時繋いで置けるが、繋いだ相手、そしてその能力の事を覚えておかなければいけないのも難点といえよう

どんな能力を持つ相手とラインを繋いだか忘れてしまっても、せっかくの能力も宝の持ち腐れだ

尤も、東方の三賢者と称えられたユイにしてみれば、能力を覚える事位は朝飯前なのであろう

何処か楽しそうにリツコにあっさりと自分の能力をバラして見せたユイは、満足気ですらあった

そんなに説明するのが楽しかったのだろうか

対するリツコも、とても興味深そうに話を聞いていた

研究対象と捉えたのか、それとも同類として捉えたのかは定かではないが、非常に興奮気味だ

だが、そんなリツコに気付いているのかいないのか、ユイは部屋を出て行こうとする

「じゃあ、私はキョウコに会って来なきゃいけないから。」

またね、と残してユイは部屋を去った

「キョウコって………まさか、惣流・キョウコ・ツェペリン!?」

リツコに思い当たる名前は、弐号機のコアに眠るセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーの母親ぐらいだった









































司令室で黒服たちを殺し尽くしたシン達の目の前で、硬質ガラスに囲まれた司令机が下降して行く

下降して行くゲンドウと冬月に対し、裂けた瞳でシンは壮絶な笑顔を見せた

口元を赤く染め、手には未だ硝煙の立ち上るデザートイーグル

隣には冷めた目で二人を見送るマナとサキ

ゲンドウの表情は、屈辱に歪んでいた

威圧すれば簡単に命令に従った息子が、ゲンドウの全てに反抗する

それはゲンドウの今まで生きてきた道のり、そして身につけた生き方を否定するものだった

断じて許される事ではない、ゲンドウは声に出さずともそう言っている様だった

ゆっくり下降するエレベーター

既にシン達の姿は、ゲンドウには見えない

「六分儀、あの三人は危険すぎるぞ。」

隣に立つ冬月が、警戒の声を上げた

遅すぎる警戒ではあるが、警戒する事自体は悪い事ではない

元々生物には自衛の本能というものがあるのだから、自らの命が危険にさらされているのなら、働いて当然の本能だ

「問題ない……。」

言葉少なげに、ゲンドウは言い放つ

此方にはチルドレンがいる

そう思い、同時にチルドレン救出を目的としているシンジ達がチルドレンを傷つける事は出来ないとも思った

何たる間違いか、狂気に浮かされたシンは既に見境はない

チルドレンだろうが、平気で惨殺して見せるだろう

そんな時、上方からガラスの割れる音

疑問に思った冬月が顔を上げた瞬間、その頬をガラスの破片が抉る様に切り裂いた

「ぐおっ!」

悲鳴を上げて、頬を押さえる

パラパラと落ちてくるガラス片

頭を護り、端による冬月だが、ゲンドウは微動だにしなかった

まるで自分に当たるはずがないと確信しているかのような行動だ

その時、人気は大きなガラス片が、ゲンドウに向かって降り注いだ

音を立てて、執務机にぶつかり割れ広がった

ゲンドウは、避けなかった

下手に避けていたら、他の破片に当たっていただろう

大きい破片は、ゲンドウの顔をすぐ横を通り過ぎ、机に当たったのだ

果たしてそれは、恐怖により動けなかったのか、それとも肝が据わっているのか

ゲンドウ以外にはわからない

「問題ない。」

お決まりの台詞を呟いて、ゲンドウは壁を睨む

NERV総司令六分儀ゲンドウ、その憎しみに染まる瞳は何をうつしているのだろうか











To be continued...


(あとがき)

ご無沙汰してます、麒麟です
Capriccio、第十曲をお送りしました。
十話目ですね。
今回は前より速く書けました。
マユミ、またもや出番なし。
メティス、戦闘シーン少しだけあり。
シンとリツコ、描写少ないのに壊れすぎ。
てか、なんですか? 何でこんなに細かく銃器の説明?
言って置きますが、私はそっち系のコレクションはしたりはしてませんよ?
ちゃんと資料を集め、調べたんですよ?
決してモデルガンは持って………一丁だけ有ったっけ? 確か祭りの出店のくじ引きで当たった奴が。
えぇ〜っと、なになに? COLT MKWとか言う奴らしいです。
すいません、少しわかりません。
作中に出したのは、有名所からそろえましたので、調べるのも簡単です。(映画や小説、アニメやドラマでも使われているような奴です。)
銃器愛用派のシンと、使い捨て派のメティス。
別に相手の好みにケチはつけません。ちゃんと相互理解の一環です。
あ、ちなみに作中にユイの台詞で登場した【レェル・スフィア】、戸籍年齢24歳、独身女性は、原作で言う【レリエル】に当たります。
【影渡り】の能力は、名の通り、影と影を繋ぐゲートのような能力です。移動に特化した能力ですね。
知っている建物や、知っている人物・動物の影にしか移動できないのが難点です。
現在、アメリカ辺りで運送会社に就職済み、今後の登場予定無しという不憫なキャラです。
運送会社では、とても優秀な社員で遅刻欠席なし、時間指定の荷物も送れたこと無しの優等生(?)です。
勿論、【影渡り】の能力を使って、配達していますので、他の社員の数倍というか数十倍早く配達し終えます。
皆から羨ましがられていますが、その分扱き使われていますので、同時に同情もされています。
運送会社社長の【ロバート・コンラッド】氏は常々「息子と結婚しないか?」と口説いています。
ソバカスの似合う朗らかな美人さんで、客からの受けも良いです。
はい、本編とは全く関係有りません。
追伸、本編で出たロゥルの愛犬(型の攻勢ウィルス)はウェルシュ・コーギーです。
幼くして一人暮らしのロゥルの心の支え。愛らしいワンちゃんですが、作中で出たのは凶悪な攻勢ウィルスです。
あ、ちなみに本物のウェルシュ・コーギーはウィルスとはなんら関わりがありません。(当たり前。)
あ〜っと、ご報告。Toy box、連載化決定です。
感想もらえると凄く嬉しいです。(ちなみに掲示板よりメールの方が執筆スピードがアップします。)
どうでも良いけど、今回の後書き、無駄に長いな……。
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