新世紀エヴァンゲリオン Toy box

第二話 変人に関わる者の苦労と嘆き

presented by 麒麟様


 

 

 

 

 

 

照りつける日差し、喧々と耳を打つ蝉の鳴き声。

都心から離れた寂れた町。

乗客の少ない灰色のプラットホーム。

一人の子供が、泣いていた。

涙よ涸れろ、喉よ潰れろと言わんばかりに、泣いていた。

目元を何度も何度も手で拭い、子供は泣き続けた。

自分を捨て、何処かへと歩んでいく父の背に、泣き声を向け続けた。

それでも、父は振り返らない。

迷いを振り切るかのように、全ての柵を捨て去るかのように、父は歩み続けた。

そうして、その背中も見えなくなった。

ただただ、プラットホームには子供の泣き声が響き渡る。

無機質なコンクリートと、透き通る青空に吸い込まれるように、鳴き声は何処かヘ吸い取られていく。

それでも、子供は泣き続けた。

まるでそれが、自分にできる唯一の反抗だと言わんばかりに。











此処で終わっておけば、BAD ENDまっしぐらな最低ホームドラマなのだが、そうは問屋がおろさない。

おろしてなるものか、力づくでも。











あまりにも不憫な子供の泣き様に、疎らに居た客がおずおずと近寄ってくる。

一人の女学生が耐えかねて声をかけようとしたその時。

子供はピタリと泣きやんだ。

ビデオを止めるかのように、一時停止ボタンを押したかの様に、子供は泣くのを止めた。

目元を覆っていた腕を子供がおろすと、泣きはらした後など一切見受けられない。

涙の後もなく、眼も赤くはれ上がってなどいない。

困惑する周囲の者達など気にも留めず、子供はプリペイド式の携帯電話を取り出すと、何処かへと連絡し、二、三話すと切ってしまった。

携帯電話を至極慣れた様子でポケットにしまうと、子供は突然頭を下げた。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。此度は芸能プロダクションの演技指導のため、この場をお借りさせていただきました。」

皆はいっそう言葉に詰まる。

子供らしからぬ丁寧な言葉遣い。

芸能プロダクションに、演技指導。

何人かの者は、撮影か、と勘違いして辺りをキョロキョロ見渡しカメラを探す始末である。

「無論先ほどの方も役者ですし、私も未熟とは言えその末席のものです。全て演技でございますので、ご安心ください。」

ああ、なんだ演技なのか。

そんな安堵の声があちこちから漏れた。

あんなベタなバッドエンド、もとい悲劇など虚構の世界であってしかるべきだ、そう思うのが一般的な考えだ。

言葉を締めくくり再び頭を下げる子供に、何人かの人は「がんばれよ。」だとか、「演技とは思えないほどだったわ。」などと声をかけていた。

いわれた子供も、照れくさそうに頬を赤く染め、頭をかく。

4歳かそこらの愛らしい子供がそんな様子を見せるのがたまらなく嬉しいのか、何人かの人、特に女性が騒ぎ出す。

そんな中、一人の男が子供の手を強引に握り、身体を引き寄せた。

「シンジッ! 何をしているっ。」

初め人々はその男を怖いマネージャーか何かだと思った。

だが、その考えは子供の言葉によってあっさりと翻る。

「た、助けてくださいっ! ゆ、誘拐ですっ!!」

子供は捕まれた腕を振りほどこうと必死にもがき、真剣な表情で助けを求め出した。

「ゆ、誘拐ッ!?」

「せ、先月も攫われそうになったんですっ。警察を呼んでくださいっ!!」

驚いたのは腕を掴んだ男も同じだった。

大金の報酬のために一人の子供を預かるはずが、当の子供はなにやら他人と駄弁っている。

子供をずっと一人にしておけ、とも言われていたため強引にでも引き離そうとした矢先に、誘拐犯扱いだ。

呆然として声も出ない男の右頬を、サラリーマンの腰の入った右フックが襲った。

ジムにでも通っているのだろうか、とても様になっている。

「け、警察っ、警察って何番だっけ!?」

「えぇっ!? ば、番号案内で聞けば良いわっ!」

「…、すいませんっ! 110番の番号教えてくださいっ!!」

「だれかっ、押さえている内に駅員さん呼んで来てくれっ!」

大騒ぎだ。

勇敢な男子高校生が誘拐犯(仮)にフライングボディープレスをかまし、買い物帰りの主婦が大根で頭を殴りつける。

普段は情けない、虐められっ子気質な女子高生が子供を護ろうと自らをバリケードとして誘拐犯(仮)から子供を遠ざける。

外回りの途中と思われるサラリーマンが持っていたカバンで顔を地面に押し付ける。

所謂、リンチ、私刑である。

まぁ、白昼同道人通りの多いところで誘拐でもしようものなら、"善良な市民"が黙っては居ない。

ただでさえ、セカンドインパクト後の混乱に乗じて人身売買が横行している現代日本だ。

子供を守るのが年長の勤め、そんな意識は一般市民に確りと浸透していた。

まぁ、そんな混乱の中で子供が居なくなったのには誰も気付かなかったが。









































あまりにも意外な事実、というか真実の書かれた母の遺書に落ち込んだシンジ。

彼は一晩泣いて、全てを諦めた。

諦めたというよりは、開き直ったといった方が適切かもしれない。

未だ帰ってこない父を他所に、ナオコさん(父の浮気相手)の作ってくれた食事を食べ、母の部屋の捜索に掛かった。

無論隠された母からの資金、碇家から横領した株で稼いだと思われる資金を回収するためだ。

母の机の中、タンスの中、本棚の中をくまなく探した。

ベッドの下に自作の近親相姦の小説を見つけたときは、いっそ死んでやろうかとさえ思った。

だが、死ねない事を思い出し、30分ほど内から湧いてくる悲しみに任せて泣いてから、捜索を再開した。

枕カバーの中も探したし、無論布団カバーの中も探した。

化粧台も探したし、アクセサリーも掻き分けて探してみた。

2時間にも及ぶ捜索にも拘らず、資金は見あたらない。

体力的、精神的な疲れによる荒い息をつき、シンジはふと母の机の上に乗る物体に目を付けた。

そこには一つのピンク色の物体。

昔懐かしき、ブタさん貯金箱。

ゴクリと唾を飲み込み、貯金箱を手に取ると、勢い良く机の上に投げ落とした。

中には、大量の小銭――1円玉、5円玉がメイン――と共に、一枚のマネーカード。

名義は、碇シンジとなっている。

母の発想の奇抜さに肩を落とし、この2時間以上にわたった捜索に当てた無駄な時間を嘆いた。

母の端末で確認してみれば、マネーカードに入っていた金額は、およそ50億円。

こんなに金があるんなら、もっと食事を豪勢にして下さい。

シンジは真っ先にそう思った。

資金をゲットしたシンジは、次の作業に移る。

母の端末には、様々な情報が入っていた。

母が引き篭もった、天岩戸改め『EVNGELION』のスペック表やら製造法やら。

自身と母に注入された『バイオナノマシンの情報』や、それが肉体に及ぼす影響をまとめたレポートやら。

シンジが如何に可愛いかをまとめた1000ページにもわたるレポートは、即座に削除した。

その他『各種財テクの秘訣』や、『株式の儲け方』、『如何に権力者を騙して金を搾り取るか』などの方法は有益な情報と判断した。

『夫を蔑ろにしつつ息子を可愛がる秘訣100選』などと銘打たれたファイルや、『シンちゃんらぶり〜フォトファイル』などといったものは即座に削除した。

ついでに、『アダム』などの情報やらどこぞの爺さん達からパクッたらしき『裏死海文書の訳文』などもコピー。

『改造人間計画書』なるレポートを発見した時には冷や汗が止まらなかった。

削除しようとも思ったが、改造という辺りが自分が関係していそうだったため、コピー。

あらかたコピーし終わると、シンジ用に買い与えられたノートパソコンは容量が一杯になってしまった。

増設しようかとも考えたが、最新型のを買おうと子供らしい物欲を出したりもした。

休憩のために冷蔵庫の中にあったプリンを食べた。

父のものだったが、どうせ失踪中だ、気にする事でもない。

プリンの容器を捨てた後、シンジは家の電話を使い、とある人物に連絡を取った。

自分と同じ様に、碇ユイの被害にあった人物に……。









































駅での演技で自身を預かる予定だった男を嵌めたシンジは、迎えの車に乗り込んだ。

事前に連絡してあったため、運転手も当然のように受け答え、丁寧にも会釈して自己紹介する。

「初めまして、シンジ様。岸本、と申します。」

車内で上半身をシンジにむけ、会釈した女性は二十代半ば程で、メリハリのある肉体をスーツで覆っていた。

思わず頬を赤くし、丁寧な挨拶に、シンジも答えた。

「初めまして、シンジです。」

では出発します、そう言って岸本は車を走らせた。

車は赤のフェラーリ テスタロッサ。

前世紀の車であり、既に絶版されたモデルである。

セカンドインパクト後の化石燃料の不足により主流となったエレカーではなく、ガソリン車である。

未だに燃料の高いガソリン車を運転しているのは、彼女の拘りか、それとも別の何かなのかはシンジにはわからなかった。

「岸本さん、名前はなんて言うんですか?」

運転している岸本に気を使いつつ、シンジは尋ねた。

「大変失礼いたしました。メグミ、岸本メグミと申します。本日よりお側の世話をさせて頂く事となりました。何なりとお申し付けください。」

それはどうも、とシンジは答えたが、内心は呆れていた。

岸本メグミ嬢は、随分と時代がかった人物である。

まるで王に仕える忠臣かなにかの様に、シンジに接してくるのだ。

基本的に家では自分のことは自分でやっていたシンジにしてみれば、くすぐったい扱われ方だ。

まぁ、自分のことを自分でやっていた理由が、母に任せておけば必要以上に過保護になるからであると言うものなのは涙を誘う話である。

「メグミさん、年は幾つ?」

「18です。」

躊躇なく女性の不可侵領域へと侵攻したシンジであったが、メグミはあっさりと答えた。

シンジの予想以上に若かったのには驚いたが、逆に頼もしいぐらいだ。

年齢以上に彼女を魅せるのは、その身に纏う雰囲気だろう。

凛とした彼女の周りの空気は、何処か心地よい冷たささえ感じさせる。

「このまま京都へと向かいますが、宜しいですか?」

「あ、何処かのパーキングに止めて。トイレしたいから。」

あっさりと話の腰を折る少年、碇シンジ。

そんなシンジの言葉にも、嫌そうな素振りも見せずメグミは最短距離のパーキングへと車を止めた。

「シンジ様、何かお食べになりますか?」

「え? あっと、じゃあ適当に。ジュースはオレンジで。」

「畏まりました。」

トイレにダッシュしようとしたシンジを呼び止めたメグミが尋ね、慌ててシンジが答えた。

どうやら膀胱は破裂寸前のようだ。

トイレを済ませすっきりした様子のシンジが見たのは、両手に大量の食料を抱えたメグミだった。

「……メグミさん、どうしたの? それ。」

「『適当に』と仰られましたので、如何なる事態にも『適切』に『当たる』事のできるよう、一通り揃えました。」

適当という言葉の意味は、本来それである。

決して投げやりに物事に取り組む、というような言葉の意味ではないのだ。

「……じゃあ、行こっか。」

「はい、シンジ様。」

こうしてドライブは始まったのである。









































京都

シンジが資金ゲット後、プリン完食後に連絡を取ったのは、京都にあるユイの実家であった。

血縁的には、シンジの祖父母に当たる。

尤も、ユイが実家の財産を横領していたシンジの可愛さを独り占めしていたため、シンジはこの家に来た事はなかった。

古めかしい洋館に、メグミに案内されて入る。

応接間で、祖父母はシンジを待っていた。

机を挟んで、ソファーに座り向かい合うシンジと祖父母。

そしてシンジの斜め後ろ辺りに立つメグミ。

シンジは適当に自身の事、母であるユイのやったこと、今後の事などを祖父母に話した。

話し終わると、祖父・碇シンヤは勢い良くソファーから立ち上がった。

驚いたシンジであったが、横領の事も伝えたため、怒られるのは覚悟のうえだった。

だが、シンヤの行動はその斜め上を行く。

彼は、シンジに土下座したのだ。

涙ながらに謝罪して、娘がとんでもない事をしでかした事を、心から謝罪した。

一瞬呆けたシンジだったが、謝られてばかり入られない。

床に膝を着き、頭を下げる。

うちの母が横領しちゃってすいません。

うちの娘が改造しちゃってすいません。

そんな様子で謝りあう二人に、まぁまぁと祖母・碇ユリが待ったをかける。

お相子、という事にして頭を下げあうのは止めましょうよ。

シンジとシンヤ、ついでにメグミの三人は確信した。

『ユイの性格はこの人からの遺伝に違いない。』

まったりあっさりと、美味しい所だけ掻っ攫って行くその様に、引き篭もりの女の姿を見た。

結局、ユリの進言でその件はお流れとなったので、確かな血の繋がりがはっきりと見て取れる。

多少強引でも、望むとおりに物事を進めるのだ、ユイもユリも。

流石は母と娘である。

二人ともソファーに座りなおし、今後の事について話し合う。

初めシンジは資金として与えられたお金を、そっくり祖父母に渡そうと考えていた。

元々が横領したお金ユイが碇家を没落させたのだから、お金を返すのは当然だと思ったのだ。

だが、それをとめたのはシンヤだった。

彼は至極真剣な表情で、こう言った。

「ユイの言った事を守らないと、シンジがまたかいぞ、うわ、なにを、や、やめ……」

言葉の途中でシンヤはユリに引きずられ、いったん部屋の外へ。

戻ってきた時には、右頬を真っ赤に腫れさせていた。

「あー、なんだ、その……。わしらの事は気にせずやりなさい。」

ちょっと視線を逸らしていたのが非常に気になる所である。

「がんばって碇家を再興してね、シンちゃん♪」

そう言い放ったユリの様子は非常に若々しく、一瞬シンジは母が再臨したのかと思ったほどだ。

びっしりと背中に冷や汗をかきつつ、シンジは何とか「がんばります。」と言えただけだった。

シンジは後に語る。

『碇の男は絶対に碇の女に勝てないんだよ。間違いない。うん、世界の真理だね、これは。』

まぁ、そういうことらしい。

元々シンヤも婿養子であり、ユリには敵わないそうだ。

二人が意気投合し、祖父と孫の関係以上に心を通わせたのは言うまでもない事である。

そんなこんなで祖父母との初対面を終えたシンジは、メグミに案内されて自分の物となる部屋へと向かった。

どうもメグミはメイドと言うよりは秘書のような役回りらしい。

シンジが行う行動の全てをサポートするのが役目と、メグミ自身の口からシンジは聞いていた。

自分の部屋に少ない荷物を置いてから、シンジはメグミに早速頼んだ。

「明日から毎日、経済新聞を。後、数社の朝夕の新聞も。それと、この部屋にネット設備は?」

「ございます。」

「そう、だったらパソコン一台手配して。最新の一番性能の良い奴。後は……大型テレビとテレビゲームね。ソフトのジャンルは任せるよ。」

「畏まりました。パソコン、テレビ、ゲーム類は本日中に届くよう手配しておきます。」

「うん、ありがとう。また気がついたら何か頼むよ。」

「はい、何なりとお申し付けください。」

深々と頭を下げ、メグミは退室した。

それを見送って、シンジは天蓋つきの豪華なベッドに飛び乗る。

フカフカの羽毛で、寝心地は抜群だ。

身体の力を抜き、寝転んだまま身体の筋を伸ばすと、ベッドから起きて作業に取り掛かる。

まず最初にする事は、情報収集だ。

母の端末から得た情報を一つ一つ細かく検証し、自身の事、バイオナノマシンのこと、使徒の事、インパクトについてなど、知らなくてはいけない事は多々存在する。

シンジがまず手をつけたのは、やはり自分の身体とバイオナノマシンのことだった。

自分の事が一番気にかかるのは、誰にでもある正しい意識だ。

この資料により、遺書に書かれていなかった幾つかの事を知る事ができた。

バイオナノマシンは、状況に合わせて自己進化するということだ。

精神的・肉体的な負荷に反応し、それを跳ね除ける性能を肉体に与えるらしい。

とは言え、バイオナノマシンの自己進化には時間が掛かるし、さらにナノマシンが肉体全体へ影響を与えるのにもまた時間が掛かる。

そのため、結局は『一度食らった技は二度と食らわぬでござる』的な能力なわけである。

この情報を知ったシンジは、身体を鍛える事を心に決めた。

身体を鍛えるという事は、身体に負荷を与え筋肉を疲労させるという事だ。

鍛えれば鍛えるだけ、ナノマシンも身体も進化する。

便利な身体だなぁ、と苦笑しつつ、次の情報へ。

インパクトの原因、葛城調査隊、アダム、唯一の生存者。

「葛城ミサト、ね。」

資料の中には彼女のカルテも含まれていた。

「失語症に、腹部の傷。」

そう、腹部の傷は単なる傷ではない。

アダムの核細胞を南極から持ち出すために、葛城博士が実の娘の身体の中に"保管"したのだ。

つまり、葛城博士にとって娘はアダムを運ぶ容器であったという事だ。

今現在彼女は第二東京大学に通学中とのこと。

「うわ、何この成績……。う、裏口入学?」

シンジの言葉から成績を察してください。

決して悪くはないが、さりとて平然と日本最高峰の大学に入学出来るほどのものではない。

良くて2流国立大学、と言ったレベルだ。

碇ユイやら赤木ナオコやら、天才ばかりと接してきたシンジから見れば、随分とレベルが低く感じられたのは彼の心の中の秘密である。

「へぇ、アダムの影響が見られる、か。僕と似たようなものかな?」

シンジの身体の中のバイオナノマシンは葛城ミサトの体内から取り出されたアダム細胞を基に作られている。

ある意味、彼女が居たから今のシンジがあるわけで。

「同属嫌悪、って言って良いのかな?」

原因は実の母であることは、身に沁みてわかっている。

だがそれでも、手が届かぬ仇を恨むなら、手の届く発端を恨んでも良いじゃないか。

シンジにとって、アダムに関わる存在全てが敵である。

自身の現状、不幸の発端となった存在は、許す気はない。

尤も母は別格だ。

主犯でありつつも、許している、と言うわけでは決してない。

自身では母に敵わぬ事はわかりきっているからだ。

諦め、絶望である。

決して届かぬ壁として、シンジの中でユイは存在している。

だからこそ、八つ当たりと判っていても、他の者を恨まずにはいられないのだ。

「(恨むのも面倒なんだけどね〜。)」

もう一度言おう。

シンジは諦め、絶望している。

これ以上無いと胸を張って言える不幸を一身に受けていると感じている。

復讐とか、恨みを晴らすとか暗い事を考えるよりは、如何に楽しんで幸せになれるかを考えた方がどれほど建設的かをわかっている。

結局、シンジの中で葛城ミサトの存在は保留と相成った。

最後に裏死海文書と秘密結社seele。

おそらく、利用できる存在だとシンジはあたりをつけた。

予想される彼らの望みを、シンジは具現している。

詰まる所の、不老不死。

サードインパクトと言う希望に縋る老人達は、必ずや自分の存在に喰らいつく、シンジはそう思った。

だが、今彼らと接触するのは早すぎる。

まずは、と今後の自分の行動に考えをめぐらし、シンジは深い溜息をついた。

「やっぱり母さんの言うとおりにするしかない、か。」

先ほど見た祖父の様子を思い出す。

問答無用で祖母に連れ出され殴って黙らされた(と思われる)祖父。

なぜか、涙が流れた。

「僕も、ああなるのかなぁ……。」

それはそれで嫌だが、母の言いつけに逆らってこれ以上改造されるのも嫌だ。

今度は手が三本、とかになったら日の目も見れなくなる。

まずは、資金調達、碇家再興。

コツコツと始めていくしかない。

ベッドに寝転がり、その羽毛の暖かさが心地よく幸せを感じた。

そんな事で幸せだと思えてしまうシンジは、いっそう不幸だった。

多分、感じた不幸が大きすぎたせいで、彼の価値観が狂ってしまったに違いない。

きっと元には戻らないだろう。

メグミが夕食に呼びに来た頃には、シンジは静かに寝息を立てていた。

微笑ましいその様子に、頬を緩めたメグミだったが、その寝言に絶句する。

「や、やめてよ、母さん。……か、改造は嫌……。」

彼の母へのイメージが適切に表された寝言である。






これが、後の永世世界大統領碇シンジの活動の始まりであった。











To be continued...


(あとがき)

麒麟です。
Toy box連載化決定。
ホント、何やってんだ、俺。
しかも20KBしかないしね。短くてすいません。
後半なんかシリアスが多いなぁ……電波が足りない。
でも元々ギャグは苦手なんです。シリアスの方が書きやすいんですよ。(切実)
それでもシリアスも持続できないけどね、私は。(駄目駄目)
シンジは祖父に似ていて、ユイは母親に似ています。
ユイのクローンであるシンジは性別を反転したことで、遺伝も反転してしまったようです。
不幸の筆頭、シンジとシンヤに幸あれ。
二人はユイには勿論敵いませんし、ユリにも勿論敵いません。
ユイが居ない間はきっとユリが暴れまわってくれるでしょう。
まぁ、ユリの被害はシンヤに集中しそうですが。
孫大好きのおばあさんですから。
祖父母はともかく、オリキャラの岸本メグミ。
子供なシンジをサポートするメイドロボ秘書さんです。
なんでもそつ無くこなしますが、常識がありません。
座右の銘は『大は小を兼ねる』だったりします。
それよりヒロインはどうするかなぁ……。ユイは浮気認めてるから、三人まで……
次回のシンジの不幸に乞うご期待。
では、この辺で失礼いたします。
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